本編B-4

ステージは眩い光に包まれていた。客席には数え切れぬほどの人、人、人。
数多の色のサイリウム、われんばかりのコール、恍惚の中に身を浸す。
イクタ!イクタ!ああ、自分はこんなにも多くの人に求められている。なんて幸せなの…。

「…さ…たさん…生田さん!起きてください生田さん!」

顔を上げると中西のしかめっ面があらわれる。
どうやら夢の中で夕べの妄想の続きをみていたらしい。そういえば寝てなかったしな。
うん、仕方ない。自分の中で納得したが中西までもが納得してくれるわけではない。

「何で朝来てくれへんかったんですか!それにそもそも何なんですかへっぽこ部って!
昨日聞いたメンバーの人達誰一人知ってへんやないですか!ちゃんと説明してください!」
「あーうん、はい、そうね…。」

夢の中の光景が心地よすぎて頭がまだよく回っていない。
あかない目を無理矢理開くと周りには飯窪、工藤、勝田、宮崎、植村の姿も。
どうやら昨日伝えたメンバーを中西が連れて来たらしい。
一人一人説明する手間が省けた。よし、いっちょやるか。

…とその前に。
「あんたら衣梨奈と同級生やろ。なんでみんなうちに敬語使うと?」
前からちょっと不思議に思っていたことをぶつけてみた。
「あーそうなんすよねー。それハルも不思議だったんすよー」と工藤。
「でもなんて言うかこうしなくちゃいけないような気がするんすよねー」
よくわからない曖昧な答えだが皆もそれに同意する。
口々にそういえばそうね変よねといぶかしがるが結論は出ない。
そんな中、黙りこくっていた飯窪がおずおずと口を開く。
「あのー、生田さんちょっとよろしいですか。」
「なんね?」
「皆に聞かれるとまずいのでちょっと時間止めますね。えいっ!」
「は!?」

空気が止まる。どうやら周りの世界すべてが機能を停止した。らしい。
動いているのは、自分と飯窪だけである。

「な、なんねこれ!」
「まーあんまり気にしないでください。多分これが出来るのはこれ一回きりですから。
取り敢えず説明しますね。」
「いや説明って…何なにナニ!?」
「そうですよね、パニックにもなりますよね。こんなことされたら。
でもね、別に生田さんがわからなくてもいいんです。この世界を見てる人がわかれば。」
「な、何言ってると!?」
「はい、この世界にはですね、この世界の時間を進めている方…といいますか
創造主といいますか、そんな方がいるんですよ、わかります?」
「いや、全然わからんとよ。」
「そうですよね。で、簡単に言うとその方が間違えたんですよね、設定を。」
「せ、設定!?は???」
「ええ、そんなわけでこんな風になってしまったんですね。
だから生田さん、このことについてはもう触れないほうがいいですよ。
多分今度このことに触れたらほんとに止まりますから、時間が。わかりました?」
「わ、わかった、とにかく触れんほうがいいっちゃね…。」
「そういうことです。流石理解力が高いですね、生田さん。」

屈託のない笑顔をみせる飯窪が逆に恐ろしかったが、黙っておいた。

「でもあれですね、こんなことを説明するのにこんな長く書く必要があったんですかねえ。
素直に間違えたって言えば…。あ、それじゃ時間戻しますね。くれぐれも触れないように♡えいっ!」

何かの圧力に屈するかのごとく頷くしか出来ない。
とにかく時間は再び動き出した。

「…生田さん、ねえ、生田さん。」植村が不思議な顔で生田をみつめる。
何だったのかよくわからないが、話を進めた方がいい。
気を取り直して立ち上がり皆の顔を見る。

「じゃ、説明するとよ!」




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最終更新:2014年07月12日 01:55