本編B-3

整った顔立ち、割りと華奢な体つき。
そんな外見からはあまり想像がつかないらしいが運動神経は悪くない。
15分程度のランニングなどお手のものである。
今日も始業のチャイムと同時に教室に滑り込んだ。
まだ先生は来ていない。よし。
満面の笑みで教室に入るやいなや背後からの甘い声。
「あら生田。今日は早いのね。」
「ふふふ。道重先生、今日はうちの勝ちっちゃね!」
「勝ちじゃないわよ。いいから早く座りなさい。」
「は〜い。」
笑みをたたえたまま振り返らず軽い足取りで席につく。

声の持ち主、道重さゆみ。
生田の担任で音楽教師。なのに決して歌わないことで有名。
葉廊高校OGであるというのは聞いたことがある。
教師しておくにはもったいないほどの美貌の持ち主。
生徒からの人気は絶大だが、何だか謎を秘めたようなミステリアスな女性である。

男性ならそれだけでころっといってしまいそうな甘い声でのホームルームが始まると、隣の席の石田がこっそりと声をかけてきた。
「さっきS組のかななんが探してたよ。珍しく怒ってたけど何かしたの?」
「そうやった…。」
結局妄想のせいで、中西以外のメンバーには声をかけていない。
当然朝練のことなど誰にも伝えていない。
今朝はきっと独りぼっちで河川敷に行ったのであろう。
悪いことしたなあ。休み時間にでも謝りに行くか。
そんなことを思いながら窓外の透き通った空をぼんやり眺めていた。




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最終更新:2014年07月12日 01:50