これって魔法みたいだね◆wd6lXpjSKY


 肉体的疲労の影響が多い間桐雁夜は立ち上がるだけでも身体に痛みが走る、のが数十分前のこと。
 ある程度木陰で休息を取っていたため日常的な動作に不備は生じない。走る選択を選ばないことに越したことはないが。
 左手に握っているペットボトルに視線を移す。

 何の変哲も無いお茶だ、不思議な箇所は見受けられないし感じられない。
 だが入手手段に大きな問題が存在する。このお茶は貰い物だ、先ほど学生と思われる女性からの。
 女性を疑っているわけでもなく、善意を無駄にする気はないのだが簡単に口に含む訳にはいかない。


『このお茶を渡した女性はサーヴァント』この一点が切っても切り離せないほど脳内に危険信号を響かせる。


 何故サーヴァントが自分に接触してきたのか、行動を見れば善意にしか感じられない。
 どうやら間桐雁夜をマスターと認識していない節があるようだが演技の可能性もある。
 善意に甘え口に運び毒でも入っていれば一大事では済まないだろう。


(……毒の線は無い、な)


 手元にあるお茶から魔術的な概念を施された形跡は見当たらない。
 魔力を当て、感知してみるも反応は感じられない、つまり白。
 科学的な可能性も否定しきれないが。

 何にせよ敵から貰った物を疑うのは当然であり、口に運ばないのも仕方がない事だ。
 女のサーヴァントが何を狙ったかは不明だ、不意打ちや奇襲の類だろうか。
 ならばそのまま襲ってくるのが定石、と考えるのが筋なのだが。


(ゴムのサーヴァント、そして女のサーヴァント……。
 どっちも俺が戦ってきたサーヴァントではない。
 ゴムの方は女の子のマスターが「ライダー」と呼んでいた……あの豪傑ではない。
 この聖杯戦争は俺が戦ってきた聖杯戦争とは違う……確定だな)


 天戯弥勒と名乗る男が開催したと仮定するこの聖杯戦争は全てが不可思議に包まれている。
 何らかの方法で構成された聖杯戦争を行うためだけの空間。
 中立の立ち位置を取るわけでもなく願いを叶える、その一言。
 彼は一体何のために、どのような力を用いて聖杯戦争を開いたというのだろうか。


(あのサーヴァントの言葉が正しいなら此処に救急車が来るはずだ)


 女のサーヴァントは間桐雁夜にお茶を渡した後救急車を呼んだ旨、伝えて姿を消した。
 救急車を呼んで貰った行為自体に問題はないが間桐雁夜に問題は在る。

 一つに聖杯戦争に参加している今、目立つ行動は避けたい。

 一つに蟲に侵されているこの身体を一般人の目に映ると何かと厄介事になってしまう。

 一つに何が潜んでいるか分からないこの空間、密閉空間に招かれるのは危険であるということ。

 つまり、現状はこの場から早く去らねば。


 辺りを見渡せば平日の午前の影響か子連れが少々といった具合である。


 足を動かしその場から離れようとするも耳に聞きたくない音が割り込んでくる。
 シャットダウンしようにも強制に響くその音は彼の心を煽っていく。
 日常生活でも一定の頻度で聞こえるその音は今、最も聞きたくない音であった。


「救急車……既に近くに来ていたか……ッ」


 女のサーヴァントが善意か悪意か将又彼の知らない所で策が張り巡らされているのか。
 決定を決めつけることは出来ないのだが、手配された救急車が近くにまで来ている。
 今運ばれると目立つ、そして身体を見られれば間違いなく彼の存在が公になってしまうだろう。
 蟲に侵された身体。自分が三流新聞記者ならばオカルト記事には持ってこいの逸材だ、軽く悪態をつく。
 バーサーカーを使役したり蟲を使えば簡単に切り抜けられるが関係のない人々を巻き込みたくない。
 しかし行動を起こさない限り事態は結局求めたくない解になってしまうため、理想だけを追い続けるのは不可能である。

 救急車を視界に捉えると車体を停めている最中であった。
 つまり人が降りてくる事を表している、そんなのは当然だ説明する必要もない。
 この場を切り抜けるには――蟲を使役するよりもバーサーカーを使う方が早いだろう。

 遠くで暴れさせて気を引けば自分から注意を反らせる、不本意だが仕方がない。

「この近くに『今にも死にそうな男が倒れている』はずだ」

「悪戯じゃないんですかねー、あの声の人多分まだ未成年だったし」

「軽口叩いてる暇があるなら手を動かせ! 何かあってからでは遅いんだぞ」


 救急車から降りてくる会話が聞こえる。
 彼らは視界に間桐雁夜を捉えると確信付いた何かを抱きながら彼に近づく。


(やっぱ一目で分かるもんか……)


 その反応に若干の寂しさを見せるも単なる甘えにすぎない。
 間桐桜を救うという大義名分を勝手に掲げその身を好き好んで破壊したのは彼自身なのだから。
 今更被害者面など都合が良すぎるが今の焦点はそんな所ではなくこの場の対処法。
 バーサーカーを遠くに具現化させようと念話による命令を出そうとするも――。










「き、消えた……?」









 一陣の風が吹き荒れる。
 瞳を閉じた刹那の裏側、感じるは異様な風。

 再度瞳を開けた時、目の前には誰も居ない。
 救急隊員の呟きだけが残された。




 美樹さやかはバイクに跨がり風を切っていた。
 詳細を話せば運転しているのは彼女ではない、後ろに座っているだけ。
 バーサーカーの能力の一環で融合されたバイクに乗り救急車を追っている最中だ。

 この先に誰が居るかは正直な話、不明である。
 参加者ならば何かしらの接触になると思われる。
 参加者ではなくても現状昼間から制服女子がバイクに跨っているという光景は珍しいだろう。
 NPCではなく参加者ならば不自然と感じ、接触を試みるかもしれない。

 確率を掴み取りその先に進むにはActionが必要である、ならば起こせ。

「――あ、見えてきたよバーサーカー」

「思ったよりも走ったが……公園、か?」

 救急車が走っている先は公道から少し逸れた所、車を停めようと路肩に寄ろうとしていた。
 その近くには公園、おそろく其処に患者或いは怪我人が居るのだろう。
 参加者なら儲け物、それ以外ならドライブと洒落こんで納得するしかあるまい。

 バーサーカーは救急車からある程度離れた後方にバイクを停めると己の身体と融合解除を発動する。
 光に包まれたかと思えばたった一瞬だ、光が晴れれば目の前にはただのバイクが一台。

「これって魔法みたいだね」

「正しくその魔法なんだ……」

 英霊となって具現化したサーヴァント、それを使役するマスターは少なからず魔術の因果に首を突っ込んだ形になる。
 美樹さやかは元々魔法少女なのだから魔法に驚く事も見当外れに違いはないのだが。

「あの男の人かな……たしかに辛そう」

 救急隊員達は公園の中に居る男に接触するようだ。
 フードを被っている男、隙間から覗き見える顔は衰弱しているように見えないわけでもない。
 確認するには距離が若干離れすぎているようだった。

 「バーサーカー……あの人から何となくだけど感じる、かな」

「あぁそのようだ……当たりを引いた」

 表情は確認出来ない、しかし魔術的な概念は感知出来たようだ。
 美樹さやかの魔法とは違う異質な物だが、初の他参加者による接触の機会。
 ある程度のリスクを背負ってでも、価値はある。
 さて、どう接触するべきか。
 声を掛けるのが一番手っ取り早く単純で簡単な行動だろう。
 しかしあの男が危険人物なら先手を撃たれ劣勢になるかもしれない。
 男を考える前に、一つ、疑問が浮かぶ。

「ねぇバーサーカー」

「どうした?」

「あの人何で救急車を呼んだのかな――ッ!」

 救急車を呼んだ理由、通常ならば何か事故があったり危険な状況であったと推測出来る。
 或いは悪戯、これが日常で溢れる理由だろう。

 例えば。
 魂喰い……一般人の命を代償に己の強化を図るのが目的ならば。

 見過ごせる状況ではない、交渉や接触は二の次だ、此処で止める必要がある。
 その旨バーサーカーと会話をするつもりだったがそれも中断。


 近くで強い魔力を感じる。
 己の主張が激しく、隠すつもりが全く感じられない。


「これって強すぎでしょ!? ねぇバーサーカー!」

「この感じはバーサーカーに近い……聖杯戦争に同じクラスは混在しないはずだが……」

 本来聖杯戦争は七つのマスターが各クラスのサーヴァントを使役する物。
 元々天戯弥勒の存在自体が不可解、と考えれば納得出来るかもしれない、がそれでもだ。
 もう一つのバーサーカー、この情報だけでも十分収穫は在った、と言えるだろう。

「もう一度乗れ! ッ走るぞ!」

 停めていたバイクを再度己の身体と共存させるバーサーカー。
 彼が選んだ選択――マスターである美樹さやかも同じだった。

 跨った主従は公園の中をフルスロットルで突っ切る。
 風を切るだなんて生温い、彼らが一陣の風となりて突入する。
 メットを被っていないため美樹さやかは瞳を力強く閉じている。
 それでも振り落とされないようにバーサーカーにしっかりと腕を回し耐えていた。
 バイクが目指すは男、あちらのバーサーカーのマスターを抑える。
 狂戦士と云えどマスターにその刃を向けることは無い、と思いたい。

 救急隊員の合間を突き抜けるとそのまま強引に左腕を伸ばす。
 その速度は一般バイクの限界速度を超えており、強風で瞳を開けることは中々難しい物が在る。
 結果、救急隊員は風が吹き荒れた感覚に襲われる、つまり人目に気づかれない。

 バーサーカーが伸ばした腕はしっかりと男を掴む事に成功する。
 そのまま抱え込むように己側に引き込み、肩を使い担ぐ形になった。

「お、おい!」

「今は口を動かすと舌を噛むぞ?」

 突然拉致されたと言っても可怪しくない状況で間桐雁夜は言葉を紡ごうとする。
 だが風で遮られ、高速で走っているこの最中口を動かす訳にもいかない。

「……あたしは美樹さやかって言います、それでこっちの男は――」


「君みたいな女の子がマスター……なのか。
 時臣も神父も……どうやらマスターやサーヴァントは違うんだな。
 でも、ごめん……君みたいな女の子が何で聖杯戦争に参加しているか分からない――バーサーカーァ!!」


 話を紡ぎ交渉を試みる美樹さやか。
 だが間桐雁夜にその言葉は届かない、いや届いてはいる。
 彼は拒んだ、それは過去の聖杯戦争の影響か否か。

 言えることは一つ。
 彼という人間は美樹さやかと戦いたくない、言い換えれば子供に手を掛けたくないのだ。

 だが矛盾が発生する。
 間桐雁夜は既に鹿目まどかと交戦をしている。
 たかが数時間で決意がブレるほどの弱い精神の持ち主なのだろうか。

 彼と呼べる本質が本能で咄嗟に飛び出した言葉、それは子供と戦いたくない、という甘え。
 決意は在る、他の参加者を殺してでも叶えたい願いが彼に在る。

 だけど、でも、だけれど、それでも。
 これを最後にするから、今だけは――。


「仕方ない、交戦するぞ」

「……うん、うん」


 この状況に対応するしか無い。
 バイクを停め、再度融合を解除、しかし間桐雁夜は近くに置いておく。
 盾代わり、と言えば酷いがこれも策だ。
 同じ狂戦士、されど正面からの対立はどちらも消費が激しく好ましくない。

 戦闘は行う、避けられない。

 だが、まだ少しだけ。
 対話が出来る機会が生まれるかもしれない、それを片隅に置いて。

 時間は正午寸前。
 彼らは知らないが数分後に戦闘を強制的に中断される出来事が発生する。

 それでも今は目の前の敵に対して抗うだけ、願いのために、血に染まれ。




【D-4・南西・一日目・午前】


【間桐雁夜@Fate/zero】
[状態]肉体的消耗(中)魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]お茶(ペットボトル)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。
1.この場を切り抜ける。
2.女の子……だけど殺さなくてはならない。
3.間桐邸に向かい休息を取る
[備考]
※ライダー(ルフィ)、鹿目まどかの姿を確認しました。
※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。
※セイバー(纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。
※バーサーカー(不動明)、美樹さやかを確認しました。



【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:■■■■───
1.───(狂化により自我の消失)
[備考]
※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ソウルジェム
[道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ、財布内に通学定期
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.目の前のバーサーカーと戦う、何とか対話に持ち込みたい。
2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことに加え、あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う





【不動明(アモン)@デビルマン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]バイク(盗品)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.目の前のバーサーカーと交戦する。
2.あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う
3.マスターを守る


[共通備考]
※マップ外に出られないことを確認しました。出るには強力な精神耐性か精神操作能力、もしくは対界宝具や結界系宝具が必要と考えています
※マップ外に禁人種(タヴー)を確認しました。不動明と近似した成り立ちであるため人間に何かがとりついた者であることに気付いています。NPCは皆禁人種(タヴー)の材料として配置されたと考えています
※間桐雁夜(名前は知らない)、バーサーカー(一方通行)を確認しました。




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025:日常に潜む妖怪 美樹さやか&バーサーカー(不動明

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