開幕ベル◆WRYYYsmO4Y





『……これはこれは。また御会いしましたね』


『こうして皆様の前で再びサーカスを演じられる……このピエロも感無量で御座います』


『それでは皆様お待ちかね、「地獄の機械」に繰られた男女の物語の開幕と致しましょう』


『今回もそう身構えなくて結構、この演目にはまだ一片の恐怖もありませんので』


『では皆様お静かに、開演の時間で御座います……』



□ ■ □


 「自動人形」。
 己の意思を持ち、己の意思のまま行動する生きた人形達。
 人間の言語を話し、しかし人間を蔑む殺人兵器の集い。
 世界最悪の奇病をばら撒きながら世界を練り歩く、死の道化師共。

 ほむらにとって、自動人形とは魔女と大差ない存在だった。 
 人間に死を齎すという点では、二つの存在は何ら変わりない。
 姿形は違えど、どちらも淘汰されるべき脅威以外の何物でもないのだ。

 ほむらのサーヴァントは、そんな"驚異"の生みの親とも呼べる存在であった。
 自動人形の創物主にして、彼等の最上位に君臨する男。
 "魔術師(キャスター)"のクラスで召喚された彼の真名は、フェイスレスと言う。

 そんな"創物主"がまず行ったのが、工房の確保であった。
 キャスター曰く、工房の製作は最重要事項なのだという。
 ほむらは聖杯戦争の大まかな決まりは知っていても、クラス毎の必勝法などてんで分からない。
 彼女はしばしの間、不本意ではあるがキャスターの主導で動かざるを得なかった。

 そうして選ばれたのが、つい最近閉鎖された遊園地である。
 あえて民衆の目が集まりやすい地を選ぶという判断に、ほむらは首を傾げたものだ。
 しかし、キャスターの意に反論が出来る程、彼女は聖杯戦争に詳しくは無い。
 不満ばかりが募るものの、ほむらは自らの傀儡に従う他ないのであった。

 さて、現在の遊園地では、自動人形達が悠々と闊歩している。
 キャスターの話していた"工房"とは、恐らく彼等を製造する為の施設を指していたのだろう。
 市民の寝静まっている間に、遊園地は殺人機械の工場と化したのだ。

 当然ながら、ほむらの周辺でも自動人形がごった返している。
 彼女が座るベンチの先にあるメリーゴーランドを囲む様に、道化人形達が群れをなしていた。
 キャスターの造り上げた異形の群集を前に、ほむらは僅かに顔を顰める。

「どーしたんだいマスター、またひっどい顔してさ」

 ほむらに声をかけるのは、実体化したキャスターである。
 初めて出会った時と変わらない、間の抜けた調子の声。
 無意識の内に、彼女がキャスターへ向けた瞳が鋭くなった。

 ほむらのキャスターに対する評価は、最悪と断言していい。
 彼女にとっては、彼のふざけた様な態度が不愉快で堪らないのである。
 こちらは本気で聖杯を獲るつもりなのに、どうして彼はこの調子なのか。

 確かに、自動人形を大量生産する能力は間違いなく強力だ。
 手数を増やせるという点では、キャスターは優秀なサーヴァントと言っても過言ではない。
 だが、それを考慮に入れたとしても、この男への不快感は無視できなかった。

「もしかして悩み事かい?僕で良ければ聞いてあげるけど」
「どうして貴方に教える必要があるのかしら」

 辛辣な反応を示されたキャスターは、「怖いなァ」と笑ってみせた。
 その様子に、マスターを恐れる感情など何処にも見当たりはしない。

「それより貴方、どうしてこんな目立つ場所を領地にしたのか、教えてほしいのだけど」
「自分は言わない癖に僕には言えって?ハハッ、随分と傲慢だなァ君」

 皮肉を吐くキャスターに見えるように、ほむらは手の令呪をちらつかせた。
 聖杯戦争の参加者の証であり、三度のみ使用可能な絶対命令権――それが令呪。
 これを用いれば、ほむらであってもキャスターを従える事ができる。
 情報を吐かせるのは勿論、自害を強制させる事さえ可能となるのである。

「なんだい、もう令呪を使うのかい?止めた方がいいと思うけどさ」
「随分と余裕なのね。これで貴方を自害させる事だってできるのよ」
「へえ、ならやってみなよ。僕の代わりが都合よく見つかればいいけどね」

 悔しいが、キャスターの言う通りだ。
 この場で自害を命じた場合、六時間以内に新たなサーヴァントと契約しなければならない。
 もしそれが達成できなければ、待ち受けるのは敗退という結果だけ。
 確実な優勝を狙うほむらは、そんな大博打を打つ程無謀ではない。

 口を噤み、拳を強く握りしめる。
 ほむらのやり場のない苛立ちと怒りが、露骨なまでに出てしまっていた。
 そんな彼女の様子を見たキャスターは、まるで宥めるような調子で、

「そんなに怒んないでよ。仲良くしてこうって最初に言ったばかりじゃないか」
「……貴方と馴れ合うつもりはない。それだけは言っておくわ」

 そうとだけ言い残すと、ほむらは踵を返してキャスターの元から離れていく。
 今の彼女の苛立ちの具合は、背中からでも察せられた。

「そーいえばさ、学校には行かなくていいのかい?」
「必要ないわ」

 与えられた役割をこなす必要性を感じないが故の判断だ。
 ほむらは学校にも、ましてや家に帰るつもりすらない。
 寝床についても、当分は野宿で構わないとさえ考えていた。

「ふーん、まっ、好きにしなよ。必要なら呼んで構わないからさ」

 背中から聞こえてくる声になど目も暮れずに、ほむらは独り歩いていく。
 当てがある訳でも、かといって目的地がある訳でもない。
 ただ単に、この老いたサーヴァントから一刻も早く離れたかっただけだ。

 あの男はあくまで利害の一致で組んでいるだけに過ぎない。
 快を分かつ事が致命的になるだけであって、可能であればすぐにでも縁を切るつもりだ。
 そうでなければ、あんなふざけた男と共闘などするものか。

("私が"勝ってまどかを救う……あんな男に聖杯を渡すなんて、冗談じゃない)

 令呪という武器がある以上、マスターであるほむらの優位に変わりは無い。
 どんな態度をとろうが、サーヴァントとは所詮"奴隷"でしかないのである。
 最大限利用し尽くして、最後はボロ雑巾の様に使い捨てても構わない――奴等はそういう存在なのだ。

 最終的に、最愛の人だけを救えればそれでいい。
 過程がどうであれ、結果さえ良ければ何も問題はないのだ。
 "自分だけ"が聖杯を手に入れる――その為ならば、どんな汚い手段でも取ろうではないか。

「貴方の為なら、私は何だって……ッ」

 ――独りごちるほむらの表情は、酷く険しいものとなっていた。


□ ■ □


 遊園地の中枢とも言える遊園地事務所。
 そこがキャスターの住処であり、同時に指令塔である。
 ほむらと別れた後、彼はこの施設の最上階に位置する会議室で今後の方針を練っていた。

「マスターの奴、あんなにキレなくてもいいのにさ」

 遊園地を領地としたのには、勿論理由がある。
 キャスターは遊園地という土地の知名度に着目したのだ。
 既に閉鎖されたとはいえ、冬木では唯一の大型施設の集いなのだ。この地を知らぬ者は恐らくいないだろう。
 そんな場所でちょっとした噂を流してしまえば、すぐさま他の参加者が嗅ぎ付ける筈だ。
 そうして聖杯戦争の参加者をおびき寄せ、自動人形達の餌食にする……それがキャスターの戦術である。

 本来であれば、別にマスターに教えても構わない情報である。
 あえてほむらの問いをはぐらかしたのは、単なるおふざけでしかない。
 が、それが原因で彼女の機嫌を損ねてしまったのだが。

「嫌になっちゃうよなァホント、下手こかなきゃいいけど」

 面倒臭そうに呟いた後、部屋の壁に目を向ける。
 会議室の壁一面には、大量のモニターが取り付けられていた。
 一つ残らず機能しているそれらには、冬木の街の様がを映し出されている。
 その中には、独り行動するほむらの姿も表示されていた。

 アポリオン――ゾナハ病の元凶にして、同時に監視装置となる超小型自動人形。
 キャスターは既に、冬木の各地にこの自動人形をばら撒いていたのだ。
 モニターに映されているのは、いわばアポリオン達の視界なのである。

「"お前"にはまだ死なれちゃ困るんだからさ」

 ほむらがそうである様に、キャスターもまたほむらを利用している。
 彼にとっては、自分と愛しの人以外は所詮舞台の脇役に過ぎないのだ。
 如何に使い捨てようが構わない、いくらでも替えの利く道化役。
 マスターであるほむらもまた、そんな道化師の一人でしかない。

「……んー、妙な奴らがいるね。こんな時間に男女でお話かい」

 モニターの一つを凝視しながら、キャスターはそう呟く。
 アポリオンが捉えたのは、病院の屋上で会話を交わす一組の男女。
 こんな時間に学校にも行かず、男と話をしている少女というのは中々に怪しい。
 杞憂である可能性も大いにあり得るが、かといって無視できる程でもなかった。

「どーしよっかっなー。ちょっと悩んじゃうなァ」

 ――その言葉とは裏腹に、キャスターの表情は不気味な笑みを見せていた。

【B-6/早朝】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(中)、苛立ち
[装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]
基本:聖杯の力を以てまどかを救う。
 1.単独行動。
 2.キャスターに対する強い不快感。

【キャスター(フェイスレス)@からくりサーカス】
[状態]健康
[装備]特筆事項無し
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れる。
 1.アイツら(さやか達)はどうしようかね。
 2.遊園地を拠点とした自動人形の製造を進める。
[備考]
※B-6に位置する遊園地を陣地としました。
※冬木市の各地にアポリオンが飛んでいます。
 また、アポリオンの一体が病院にいるさやか達の姿を捉えています。


□ ■ □


『……これはほんの序章、彼等の物語の始まりに過ぎません』


『これより二人は他者と出会い、嗤い、利用していく事となるでしょう』


『その時こそがこの演目の醍醐味……運命の歯車が回り始める瞬間なので御座います』


『その大舞台に立ち会える事を祈って、本日はお開きと致しましょう』


『それでは、一時閉幕となります……』




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