日常に潜む妖怪◆A23CJmo9LE




『それでさやか、動くといっても当てはあるのか?』

目的地も何も言わず歩き出した少女にエレベーター内で問いかける。

『んー、どこに行っていいのか全然分からないし、とりあえず散策して地理を把握しといたほうがいいかな。一通り街を回ってみようよ』

向こう見ずというか前向きと言うか、朗らかに答える少女に微笑ましいような呆れたような笑みを内心浮かべる。

『それならまあ病院を把握できたのは悪くないか。NPCというからどんなものかと思えば設備や人員はまともそうだ。俺達が世話になる心配はあまりなさそうだが、宝具による病などがあるかもしれん。知っておいて損はない』

二人とも再生能力を持ち、さやかは他者の治癒も可能とはいえ、何が起こるかわからないのが聖杯戦争。そう考え戦略的な思考を進めるバーサーカーだが…

『ああ、うん…そうだね。そういう意味もあるかもね』

自身には思いつかなかった発想にさすがは英霊、と感心する。しかし彼女とて何も考えずにここに来たわけではない。
思い出すのは二人の姿……かつて恋焦がれた幼馴染と、今もなお尊敬する魔法少女の先輩。
彼を助けるため、彼女を遺志を継ぐために自分は魔法少女になった。病院のベッドに横たわる者、病院を守るために命を散らしたもの。
美樹さやかにとって病院はあらゆる意味で戦いの原点であり、戦争のスタート地点にこれ以上の地はない。
だからこそ覚悟を決めるためにも彼女はここから聖杯戦争を始めようとしたのだ。

『よし、それじゃあ改めて出発!』

内心の決意を新たにしながらも態度は変わらず。これも一種の才能だろうか。
患者でも見舞いでもない少女を訝しげに見る目は少なくないが気にせずロビーを出る。
そして病院近くのバス停に向かい、扉の閉まりかかるバスに霊体化したサーヴァントと共に慌てて乗り込む。
サーヴァントは無賃乗車になるが、さすがにそこまで目くじらを立てるほどではないだろう。

『ギリギリ間に合った…がどこで降りる?周遊バスではないようだが』
『所持金とかも忠実に再現されててね…女子中学生にあまり余裕はないから遠くまでは無理。幸い通学定期でバス使ってることになってるから圏内でどっか適当に降りよう。ぶらり旅ってやつ?』

お嬢様ならよかったんだけどねー、などとぼやくさやか。幸運にも自分たち以外乗客のいないバス内で席に着く。
霊体化して座る必要のないバーサーカーは前方の電光掲示を眺めると

『このバス、学校とは逆方向に向かっているが、その定期はそんなに範囲の広いものなのか?』
『えっ嘘?うわ、ホントだ。あっちゃー使い慣れてないから間違えちゃったか』

定期券をもってこまめに利用しているのはあくまで設定上のことであって、実際の彼女はほとんど利用したことがない。おまけに駆け込み乗車なんてするから、ホテルなどのある中心街からは離れていく。
道理でラッシュアワーなのに空いてると思ったよ、などと現状にも納得する。

『一つか二つで降りれば財布へのダメージは減らせるが…強行突破しても俺は構わんぞ?なにせ今は戦時中だ』
『何言ってんの!?駄目に決まってんじゃん!』

理知的に振る舞う己がサーヴァントから予想外に荒っぽいセリフが出てきて驚く。
それでも財布の寂しい身としてはその発言に惹かれるところもあって…いや正義の魔法少女がそんな真似をするわけにはいかないと自制する。

『もう、次の停留所で代金払って降りる!で、その辺散策!とりあえず公衆電話とか参加者とか探すよ!』
『わかったわかった。そうかりかりするな』

雑な対応…だがマスターの方針を軽んじるわけではないようだ。

『はぁ~、属性善なんじゃないの?真っ当な英霊がバス代けちって犯罪行為とか勘弁してよ…』
『さて、生憎と元は不良学生でね。信心深い性質でもない。そもそも属性善と言うのは一般的な善性に限らない。俺は自分なりの正義を貫きはしたがそれが他人に、ましてや神だの聖杯だのにどう思われたかは分からん。
属性混沌というのは社会的な規範に囚われないということ。つまり俺の属性、混沌・善というのは世間一般とは重きを置く大切なものが違う者、というわけだ。
……だからさやか。今回は俺が折れるが、戦闘中や食事、宿など生き死にに関わることであれば、俺は君の倫理観やルールよりも君の命を優先するぞ』

ルールよりも重んじるものがある。他を犠牲にしても君を守る。
それはなかなかに魅力的な文句でらしくもなく照れが入ったりもしたが

「次は、終点――」

アナウンスが聞こえ、その不自然さに冷静さを取り戻す。

『なんだ、もう終点か。まだ街の真ん中のようだが』
『……気になるね』

よほどの田舎で停留所が離れているのかも…とも考えるが背後には大きなビル群が見える。それなりに大きなこの街でバスが先に進まないというのは些かニーズにあってない。
一つ分の代金で終点まで来たのは幸運だが、まだ随分と進めそうだ。

『行こうか。バーサーカー』
『ああ』

まっすぐ東へ歩み出す。少し歩いても変化は特に無いようだが、なおのことバスが進まないのが気にかかる。すると

「止まれ、さやか」

突然呼び止めるサーヴァント。実体化までして警戒し、後ろを振り返る。

「何かあったの、バーサーカー?」
「…正面に大きなビル群が見えるな?あれは先ほどまで背後にあったはずの風景だ」

そう言われ目を凝らすと確かにそのように見えるが、彼らは一度たりとも道を曲がっても引き返してもいない。

「うそ…バスがいつの間にか曲がってたとか、道が歪曲してたとか?」
「そんな単純なことに気づかないほど俺も君も馬鹿じゃないだろう。丁度今、突然に景色が切り替わった。つまりその疑問の答えは、この道の先にある」

そう言って二人はビル群を背に道を睨むと




突然道の先に多数のナニカが現れた。蜘蛛のようなもの、鳥のようなもの、恐竜のようなもの……共通点と言えば体に球状のものがあることくらい。
魔女のような不気味さを感じ、魔法少女の姿となって臨戦状態に入るが

「そんな警戒しなくていい。殺気はおろか戦意もないようだ。戻るぞ」
「ちょ、ちょっと!?」

そういって背を向けて元来た道を戻りだし、挙句霊体化までしてしまう。

『早くいくぞ。説明は道中歩きながらしてやる』
『……ああ、もう!』

しばらく警戒しながら後退していたが一向に動きがないので意を決してサーヴァントについていく。背を向けてもかかってこないので確かにバーサーカーの発言は正しかったようだ。

『どういうつもり?まさか逃げ出したの?』

色々と言いたいことはあるが直近のことから詰問する。すぐそばに敵がいるというのに背を向けるなどそれでも英霊なのか、と怒り露わに。

『まさか。あれの戦闘能力自体はそう大したものではない。サーヴァントはおろか腕利きのマスターなら十分勝てる。
さやか、君ならさほどの苦戦はしなかっただろう。退いた理由はあれが恐らくキャスターなどサーヴァントの手の者ではなく、また現時点では敵ではない可能性が高いということだ』

マスターの怒りをいなし、推論を述べるサーヴァント。狂戦士に似合わぬ知的な振る舞いは考察相手が怪物であるが故か。

『どういうこと?あれが敵じゃないなんてなんでわかるの?野生動物にしちゃグロテスクがすぎるよ』
『あれは俺に近似した存在、人間に何か別の生命体がとりついているものだ。近い存在だからわかる。恐らく元はNPCだったのではないか。
だが俺たちが引き返させられたのと同じかは分からんがむこうもこちらには干渉できないようだったな。まるで魚が陸上では呼吸できないように。
加えて不自然な個所で途切れたバス、先に進めない道……参加者が聖杯戦争を行う地を出ないようにしている仕掛けが今俺たちが体験したものなのだろう』

見ているものは同じでも観えているものは異なる…魔法少女と言う戦士の端くれとはいえ、英霊の経験値と洞察力には舌を巻くざるをえない。

『つまり私たちはあの先に進めないってこと?』
『脱出にはテレホンカードがある。逃げられなくとも決着すれば問題はないはずだ、楽観的に考えるなら。
もし強行突破を考えるなら、仕組みを知る必要があるな。精神干渉により無意識のうちに引き返してしまっているのか、空間が湾曲しているのか。
強力な精神耐性スキルか精神操作能力、もしくは対界・結界宝具の使い手と協力する必要があるかもしれん』

情報が少なく十分な考察とは言えないが探索の甲斐はあったといったところだろうか。

『それじゃあこれからは天戯の出方を見るの以上に他の参加者との協力も考えたいね』
『そうだな。ひとまずは天戯の名を呼んでいた男を見つけられればいいのだが…情報が増えた以上方針も変わってくるな…ん?』

道を歩み、方針を固めていると何かを聞きつけたらしく黙考し出すバーサーカー。
考えがまとまったようで実体化して道端に停めてあったバイクに近寄ると

「ちょ、何やってんの!?」

自己改造のスキルの応用で一時的に合体したのか無理矢理エンジンを起動させていた。

「救急車のサイレンだ。追うぞ、乗れ」
「え、なん…」
「いいから早く!」

慌てているわけでも切羽詰っているわけでもないが急いだように声をかけメットを投げてよこす。
仕方なくかぶって後ろに座ると途端に法定速度など知ったことかとばかりに走り出した。

『今度はどういうつもり?救急車って?』

高速のバイク上でメットをかぶっては会話にならないと考え念話で問いかける。
バスでの発言といい、先ほどの振る舞いと言い振り回してくれるサーヴァントにいい加減呆れ気味だ。さすがはバーサーカー、といったところか。

『こちらに向かってはいないが、救急車が出たのは聞こえた。耳は人よりいいんだ。ようするに怪我人か病人が発生したということ…聖杯戦争の会場でだ』
『なるほど。どっかでやり合ってるやつがいるかもってことね』
『そうだ。正確にはやりあっていた、だろうが。負傷したのが、救急車を呼んだのが誰かはわからんがそこで戦闘があったのなら何らかの情報が得られる可能性は高い』

戦場は刻一刻と動く。それなら急ぐのも納得だが…

『いやでもNPCの事故とか病気とか関係ない事だったらどうするの?』

当然無関係な事象である可能性は神ならざる二人には否定できない。NPCが病気するのか、事故を起こすのかも彼らにはわからないが。

『それならしかたない。あてのない散策に戻るだけだろうが、今はこの盗品のバイクが利用できるだろう。
先ほどの異形は人間に何かが憑りついたものだといったな?全てのNPCはあれの材料、つまりは天戯の手駒だと考えられんか?意に沿わぬものをどうにかするためのな。
不登校、盗難、二人乗りにスピード違反。現状俺達はかなり目立っているはずだ。何らかの干渉があってもおかしくはないだろう。
加えて言うならあえて目立つことにより天戯だけじゃなく他の参加者との接触も狙うぞ』
『な、なるほどねー』

思い返すのはバーサーカーの言葉。〈願いを叶えるその過程はけっして間違えてはならない〉、〈世間一般とは重きを置く大切なものが違う〉。
そして赤い魔法少女の姿。彼女は粗野な言動の内に優しさを秘めていたが、バーサーカーは知的な言動の裏には意外と暴力性を秘めている。
秩序を重んじるさやかには少々受け入れがたい方策ではあるが、代案も思いつかない。NPCや天戯を気遣うのもおかしな気がし、しぶしぶではあるがその策を受け入れることにした。

『患者がマスターならそのまま交渉に入る。癒しの術はいい交渉材料になるだろう。これなら病院内でも交渉は可能だからさほど慌てる必要は無い。
戦闘に巻き込まれたNPCなら周囲に聞き込みだ。おそらく野次馬や警察も来ているはずだからすぐに戦闘の跡地は分かるだろう。
関係がなければNPCとの接触を行うしかないか。警察がいれば俺達を捕えようとするだろう。もし力ずくでマスターを抑えようとするなら先ほどの異形になる可能性が高いだろう。
そこから天戯の能力や居場所のヒントを狙うなら警察のNPCと接触するのが狙い目か』

混沌たるサーヴァントの方針に多少の不満のようなものはある。それでも大切なものを見失わない、頼れる相棒と共にいるならば不安はないし、何も怖くはない。



【C-8・西部/一日目・早朝】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ソウルジェム
[道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ、財布内に通学定期
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.救急車の後を追い、状況に応じて動く
2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことに加え、あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う

[備考]

【不動明(アモン)@デビルマン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]バイク(盗品)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.救急車の後を追い、状況に応じて動く
2.あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う
3.マスターを守る

[共通備考]
※マップ外に出られないことを確認しました。出るには強力な精神耐性か精神操作能力、もしくは対界宝具や結界系宝具が必要と考えています
※マップ外に禁人種(タヴー)を確認しました。不動明と近似した成り立ちであるため人間に何かがとりついた者であることに気付いています。NPCは皆禁人種(タヴー)の材料として配置されたと考えています
※追い駆けている救急車はセイバー(纏流子)が間桐雁夜のために呼んだものでD-4の公園に向かっています

[地域備考]
※マップ外に出ようとするといつの間にかループしたように戻ってきます。またマップ外には禁人種(タヴー)がいますが、中に入ってくる様子は今のところありません。



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最終更新:2014年10月28日 22:03