夜が空を覆う直前、吹き消される前の蝋燭が最後に瞬くように、砂漠は目も眩むほどの赤色に染まる。
逢魔が時だ。昼の間にあれほど猛烈なまなざしで大地を焼いていた魔物の最後の一睨みには、商隊のよく訓練された馬でも翻って夜に向かって駆け出すという。故にこの荒涼の地では、肉の馬の濡れた瞳より鉄の馬の無慈悲な轍のほうが望まれる。極限まで生命を試されるこの場所においては、信用のおけるものはなにもない。馬も、水も、地図も、目に映る景色も、己自身でさえも。
燃え盛るような赤の最中に立つあなたの頭上を、波の音を立てて夜が通りすぎていく。地平線の彼方からやってきたそれは瞬きをするたび深まり、押し寄せるように砂漠を紺碧の底に沈める。引いたあとには満天の星がちらつき、ぽっかりと穴のあいたように巨大な月が残った。
だが……それもまた、飢えと乾きが幾度となく見せた、幻覚にすぎないのだろうか?
あなたは徐々に冷えて固まっていく砂漠の彼方に星を見た。無数の星の横たわるさまはまるで天の川が地上を流れているかのようだ。赤橙や黄緑、桃青の輝きには、空の彼方で凍える星とは違う、力強い息吹が感じられ、脈打ち、呼吸しているようにさえ思われた。
あなたが馬に乗っているなら、彼らは肉であれ鉄であれ、疲れ果てていることだろう。
あなた自身でさえ、東奔西走の果てにたどり着いたに違いないのだ。
なぜならその光は、そこがかの空白上の深淵に限りなく近い場所であることを示しているのだから。
それはあなたの目指した場所かもしれないし、もしくは放浪の末に偶然たどり着いた場所かもしれない。
どちらにしろ、あなたは選択を迫られる。
行くか行かぬか。
笛の音が聞こえる。
誰かが小高い岩の上で笛を吹いている。あなたが亡国に深い造詣を持つなら、その調べには覚えがあるだろう。真鍮と煉瓦の故郷で育ったのならば笛を取った途端に奏でることさえできるかもしれない。だがあなたはその国の名前さえ知らないのだ。
軽快な太鼓の音が響き、鈍く光るなにかが飛び魚のように夜空を跳ねている。まっすぐ伸びた翼の煌めく軌跡が黒い夜の影に尾を引き、星が生きて跳ね回っているような錯覚を覚える。
近づいてみればそれは人である。しなやかな背面飛びで宙を駆ける姿はまるで妖精めいているが、それは彼らが背から肩、そして足先にかけて空の黒に溶けるような装備をして、背から白っぽい排煙を吹いているためだった。
飛び魚は一際高く跳ねると、地面に向かって激しく煙を吹きながら舞い降り、ざん、と両足であなたの前に着地した。荒れ地を踏む機功の象のような足がガチリと変形し歩行しやすそうな形に収まる。存外に小柄なそれは少女である。
「ハロー、旅人(ウィアトー)さん。名前と故郷を教えてくださる?」
短い金の髪を振り乱す彼女は汗を拭ってそう言うと、にっこりとあなたに散弾銃の口を向けた。
身分を明かし、信頼を得ようと試みるなら
→
強行突破するなら
→
彼女の身分について尋ねるなら
→
語った出自が事実であれ偽りであれ、彼女はふーん、へえ、程度のことしか言わない。
要するにそれは彼女の関心とするところではないのだ。
「オーケー、それじゃ、頂くもん頂きましょうか」
彼女は銃口であなたの額を狙ったまま、革手袋の手で小まねく。あなたの財布を。
あなたが手練れの交渉人でもない限りは、有り金をもぎとられてしまうかもしれない。
「砂鼠のミッチャ、名付け親(パトリナ)はミュレン・ジウル。生まれも育ちもあの城塞」
彼女はすらすらと言った。
名乗らせたからには名乗らなければ礼儀にもとるだろう。しかし、あなたが礼を尽くそうが尽くすまいが、彼女は意に介さない。
「ほら、分かったんなら、通行料出しなさい」
本題だ。
あなたが――それが武力であれ、アクセルを思い切りよく踏み込むことであれ、彼女を振り切って進むのであれば、彼女は「あっ、畜生!」と叫んで追いかけてくる。
しかし地上から跳び上がり、宙を走り出すまでには時間が掛かり、あなたの馬がどれほど疲れていたとしても、岩陰に逃げ込むのにそれほど手間はかからない。
月明りに影を伸ばす巨岩の裏には扉が隠されている。ノックすれば開き、黒い頭巾の人影が姿を現すだろう。
「水かい? 油かい?」
彼らは砂嵐と魔素による迷信的な害悪に対抗するため、甲虫のような扮装をしている。
暗い階段を降りれば、砂岩を削って開かれた天井の低い回廊から、その全容が見て取れた。
あなたが彼女に通行料を払ったとして、もしや交渉の末払わなかったとして、彼女があなたに道を譲るときは、彼女が銃を降ろすときであり、それはつまるところ、再び彼女が宙を走ろうとするときだ。
背中のジェットパックの中でタービンの回転する金属音を響かせながら、城砦へ向かうあなたを見送る彼女は、去り際にこう言う。
「気を付けな。ミュレン・ジウルは大嘘つきだ。あいつの執務室の右上の棚を捜して御覧なさい」
彼女は再び、白く輝く尾を引いて夜空に飛び立つ。
あなたが振り向くと、そこでは、銅甲冑の駱駝を引いた商人が、新しい客を歓迎している。
彼らは蛍光の溢れ出す地の淵に立ち、あなたにこう言うのだ。
「ようこそ。裂け目の都市(まち)、ジウロン城砦へ」
ジウロン城砦 |
眠らない都市。昼は蒸気を上げ、夜は極彩色の光に彩られる。荒野の彼方からも蜃気楼に紛れてその姿を見ることができる。正体は紛争地帯で行き場のない曰くつきや犯罪者、苛烈な環境から逃げ出した労働者などの吹き溜まりであり、汚染魔素の蒸留や燃料、水の売買などで経済活動が行われ、無法地帯の巨大居住区として存在している。 |
地理1 |
魔素脈上に出来た巨大な谷(裂け目)の土壁一面に階段や家屋が築かれており、谷そのものが都市という具合に出来上っている。無秩序な増改築が繰り返され、谷の壁と壁の間には無数の配管やケーブルが伸び、これを伝って移動することが前提となる。 |
地理2 |
存在の認知度が比較的高い地区 ネグラ地区 |
外交情勢 |
各国から事情で追われた者などが集う。また、非公式ではあるが旅人の間では補給地として有名。 |
主要産業 |
魔素脈を流れる汚染された魔素の蒸留や、その過程で得られる水(まずい)による取引で補給地として栄える。魔素を動力源とする原動機に対してはメーカー非推奨の質の悪い魔素燃料(まっくろ、くさい)の販売なども。地下には魔素に汚染された水脈があり、異常成長する直ちに人体に影響はない野菜などが育つ。 |
経済情勢 |
全体的に貧困。一畳分のスペースに二家族ぐらい住んでたりする。 |
文化的特徴 |
階層ごとにあちこちの文化が入り混じり、独特の文化を編み上げている。特に奇妙なのは、過去あらゆる文明のどこにも存在していなかったが、明らかに数百年以上の歴史が継承される奇妙な文化が息づいていることである。この文化は☆★☆★☆★☆ |
身分制度 |
「騎士」を名乗る集団がエラそうにしているが、別だんなんともなくシカトされている。 |
宗教 |
「騎士」たちが女神を信仰しているが、別だんなんともなくシカトされている。 |
歴史 |
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人物 |
ダダーン |
城砦はフリー編集です。
人物やお店を作ったらどんどんこのページに追加していってください。
がんがんいこうぜ。
最終更新:2015年09月07日 23:07