『一年戦争前史』



20世紀末、人口増加にともなう地球環境の悪化は、ほとんど末期的な状況を呈していた。
近い将来、人類の生存圏としての地球は完全な破綻を迎えることは明らかであり、残された道はただ一つであった。
宇宙への移民である。

この一大事業は地球連邦政府によって推進された。紛争調停・経済交流を主目的として創設された地球連邦は、
諸国家に対して強い強制力を持つものではなかった。
しかし、スペースコロニー計画という巨大プロジェクトを軸に、権力組織としての実体を備えた組織へと変わっていった。
連邦政府は、コロニーへの移住権を切り札に、紛争の停止、資源の一括管理、経費の分担、労働力や技術の提供を諸国家に強制した。
こうした活動のうちに地球連邦政府は巨大化していった。

こうして約半世紀をかけて最初のスペースコロニーは完成し、人類は宇宙への移民を開始した。
これにともない西暦(D.C.)を宇宙世紀(U.C. )へと移行、本格的な宇宙時代が始まる。
月の軌道上に存在する重力の安定した点、ラグランジュ・ポイントには次々とコロニーが建設され
”サイド”と呼ばれるコロニーの集合自治体を形成していった。
月もまたその中の中継基地として開発が進み、多くの街が造られ、人類は着実に宇宙へと、その居住圏を拡大していった。


移民が進み、人類の半数以上が宇宙で生活するようになると、地球連邦政府と宇宙移民者(スペースノイド)の間に軋轢が生まれ始めた。
エリート意識を持った地球連邦が、各サイドを植民地のように扱いだしたのだ。
それに対し、政治家ジオン・ズム・ダイクンは”コントリズム(サイド国家主義)”を提唱、連邦の政策を批判した。

”コントリズム”(後に”ジオニズム”と呼ばれる)とは、これ以上の地球の汚染を防ぐため、人類は宇宙に移り住み、
それにより人類は新たなる進化の段階に進むことができると考えた思想なのである。

ジオン・ズム・ダイクンは、この思想をサイド3で実践した。
宇宙世紀0058年、サイド3は地球連邦からの独立を宣言、ジオン共和国を樹立した。
連邦政府はサイド3に対し経済圧迫を加え、各サイドに対しても弾圧を強めた。
しかし、これは連邦政府への更なる不満をスペースノイド達の間に生む結果となった。
ジオンの思想に協調するものが、多数サイド3へ集まったのである。

宇宙世紀0068年、ジオンは志半ばで病死し、ジオンの右腕だったデギン・ソド・ザビが第2代首相となった。
一部でジオンはこのデギンに毒殺されたとの噂が流れたが、真相は定かではない。
そして翌年、サイド3はデギンを公王とし、ジオン公国を宣言。
ザビ家による独裁体制が敷かれた。

宇宙世紀0078年10月、ジオン公国は長年にわたり準備を進めてきた地球連邦政府への独立戦争を決行すべく、
国家総動員令を発令、開戦は秒読み段階に入った。


『一年戦争勃発』



宇宙世紀0079年1月3日、ジオン公国は地球連邦政府に対し宣戦布告をする。かくしてジオンの独立戦争が始まった。

ジオン公国軍は宣戦布告と同時に、地球周回軌道上の連邦軍艦隊に対し攻撃をかけた。この戦闘でジオン軍は新兵器「モビルスーツ」を初投入し、連邦はその威力を思い知ることになった。

また、ジオン軍によって、戦場に散布された”ミノフスキー粒子”は電波を乱反射させる特性によりレーダーを無力化した。
このため遠距離のレーダーによる索敵は不可能となり、レーダー誘導の兵器は全く役に立たなくなった。
戦闘は有視界による近距離戦闘が中心となり、ジオン軍の新兵器「モビルスーツ」は小回りの利く人型機動兵器として、その有用性を発揮した。一方、レーダーに頼った艦艇による砲撃戦を主戦術とした連邦軍艦隊は、成す術もなくこれに大敗したのである。

時を同じくしてジオン別動艦隊は、サイド1、2、4に奇襲攻撃をかけ、NBC(核・生物・化学)兵器の無差別攻撃により
3つのサイドを全滅させ、約30億人を虐殺した。


『コロニー落とし』



ジオン軍の攻撃は宇宙だけでなく地球に対しても行われた。
全長約30km、直径約6.5kmの巨大な円筒形であるスペースコロニーを地球に落とす「ブリティッシュ作戦」である。

1月4日、ジオン軍工作部隊によりサイド2のコロニーの1つに装着された核パルスエンジンを点火。
正規の軌道をそれたコロニーは地球へと向かって自由落下を始めた。
地上落下時の破壊力はヒロシマ級原子爆弾300万発分、これは人類史上最大級の破壊兵器である。
その落下目標地点は、連邦本部であり地球上で最大の規模を誇る軍事基地、南米「ジャブロー」であった。

これを察知した連邦軍は、コロニー落としの落下コース付近にいる集結可能な残存艦隊を集め迎撃を開始した。
ジャブローを失えば後がない連邦軍は執拗な攻撃を繰り返す。
しかし、ジオン軍のモビルスーツの前にまたも連邦艦隊は敗北した。

1月10日、コロニーは大気圏へと突入を開始する。ここでジオン軍に大きな誤算が生じた。
連邦艦隊の攻撃で破損していたコロニーは、大気圏突入の衝撃で崩壊、アラビア半島上空で四散してしまったのである。
バラバラになったコロニーはコースを外れて落下、ジャブローは難を逃れることになった。

コロニーは北アメリカとオーストラリア大陸に落下、ジャブローは無事だったものの、地球連邦政府は大きな損害を受ける結果になった。

1月3日の開戦からコロニー落としまでの7日間の激戦は、後に「一週間戦争」と呼ばれた。


『ルウム戦役』



一週間戦争後、失敗に終わったジャブローへのコロニー落としを再度敢行すべく、ジオン軍は艦隊の再編成を開始した。
ジオン宇宙攻撃軍総司令ドズル・ザビ中将が指揮をとり、所有艦艇の大部分を集結させ、大艦隊を編成したのである。
こうして再度ブリティッシュ作戦を実行するべく、サイド5(ルウム)に向けてジオンの大艦隊が出撃した。
対する連邦軍も総力戦を決意、名将と名高いレビル将軍の指揮下、ルナ2艦隊を中心に残存艦隊を集結、
ジオン艦隊の3倍もの大艦隊でサイド5へと向かった。

1月15日、ジオン軍と連邦軍の艦隊はルウム宙域で激突、総力戦を展開する。こうして宇宙世紀史上最大の艦隊戦が始まった。
当初、圧倒的な数の優位と名将レビル将軍の采配により、連邦艦隊は優勢に戦いを進めていた。
ジオン艦隊はコロニー落としのための、工作部隊とその護衛に戦力をさかねばならず、苦戦を強いられらのである。
やがて、ドズル・ザビ中将はコロニー落としを断念、全戦力を艦隊戦に投入する総力戦に切り替える。
そして、この戦いでも勝敗を分けたのは”モビルスーツ”だった。

艦艇数で劣るジオン軍は大量にモビルスーツ「MS-06S ザクII」を戦線に投入、連邦艦艇の攻撃に当たらせた。
ミノフスキー粒子散布下のレーダーの効かない状態で、小回りの利くザクに対し、連邦の艦艇は有効な攻撃手段を持たず、
次々と撃沈されていった。
そんななか、5隻もの艦が一瞬にして沈められるという出来事がおこる。
機体を赤く塗装しており、連邦から「赤い彗星」と恐れられたシャア・アズナブル少佐の驚異的な戦果であった。
こうしたエースパイロットの働きもあり、戦いの流れは大きくジオン側へと傾いていった。

連邦軍の敗色が濃くなり出したそのとき、敗北を決定づける出来事が起こった。
乗艦を撃沈され脱出したレビルが、ジオンの特殊部隊「黒い三連星」に発見され、捕虜にされてしまったのだ。
艦隊の司令官であり、カリスマ的存在だったレビルを失ったことにより、連邦艦隊の士気は低下、この後、全艦撤退することになる。

この戦いで連邦艦隊は宇宙戦力の大部分を失うという決定的な打撃を受けた。
しかし、ジオン軍も勝ちはしたものの、コロニー落としは失敗し、多くの艦艇を失う苦しい勝利となった。
一週間戦争とルウム戦役。この二つの戦いによって55億人もの人間が死亡した。
この数は地球圏の総人口の約半数に当たるものだった。人々は自らの行為に恐怖したが、戦いはまだ終わらなかった。


『南極条約締結』



1月28日、ジオン公国から地球連邦政府に対し、休戦条約締結の申し込みがされた。
ルウム戦役の大敗で宇宙戦力のほとんどを失い、弱体化していた地球連邦政府はこの提案の受け入れを決定。
1月31日に永久中立地帯である南極大陸で条約締結が行われることになった。

実はジオン公国の戦争目的はこの条約締結にあった。
人口や資源で連邦より圧倒的に劣るジオン公国は、長期戦になれば勝ち目がない。
そこで短期決戦で連邦軍を圧倒し、その軍事力を見せつけることにより、連邦に休戦条約締結を受け入れさせることが真の目的だったのである。

その内容も休戦条約とは名ばかりのジオン公国の独立自治権承認、連邦軍の軍事縮小といった事実上の降伏勧告であった。
何十億人ものコロニー市民を虐殺したのも、ジャブローにコロニー落としを(結局失敗に終わったが)行ったのも、
すべてはこの条約締結を有利に進めるための材料づくりに過ぎなかったのである。

1月31日、南極大陸の連邦軍基地でジオン、連邦双方の代表団による、休戦条約締結のための条約会議が行われた。
ここまではジオン公国側がほぼ思惑通りに事を進めていた。しかし、ここで全く予想外の出来事が起こった。
ルウム戦役で捕虜となっていたレビル将軍が、奇跡の生還を果たしたとの報が会議場に飛び込んできたのだ。
会場は騒然となり会議は一時中断された。

レビル将軍は、通信可能な回線を使い演説を行った。
「我が連邦軍以上にジオンも疲弊している! ジオンに残された兵力は少ない!」
これが後に言われる「ジオンに兵なし」の演説である。
この演説により、連邦軍は息を吹き返した。連邦の代表団は徹底抗戦を決意。条約は大きくその内容を変更することとなった。

結局、「南極条約」はNBC兵器の使用とコロニー落としの禁止、木星資源採掘船団の不可侵、
捕虜の取り扱いについてを取り決めた程度の戦時条約にとどまった。
ジオン側の思惑はもろくも崩れさり、戦争は長期化の様相を呈した。


『地球侵攻作戦開始』



戦時条約にとどまった南極条約の締結により、短期決戦による戦争終結、独立自治権の獲得というジオン公国の思惑は完全に崩壊した。
この段階で終戦協定を結んでも、ジオンにとって有利な条件は望むべくもなく、もはや残されているのは徹底抗戦への道だけであった。

そうと決まればジオンの対応は早かった。
地球上の軍事拠点と鉱物資源、化石燃料の確保のため、兼ねてから進められていた計画「地球侵攻作戦」を、すぐさま実行に移したのである。
コロニー国家であるジオンは固有の資源を持たない。戦争を終結させるためにも、資源の確保は不可欠の問題であった。
かくしてジオン軍の地球侵攻作戦は開始される。艦底にHRSL(降下用カプセル)を装着したムサイ級巡洋艦が多数、
地球の衛星軌道上に集結したが、これを食い止めるだけの戦力は連邦軍には残ってなかった。

2月7日、衛生軌道上からのジオンの宇宙戦闘艇によりミノフスキー粒子が散布された。
レーダーが使用できなくなった地球上の連邦軍は、正確なジオン軍の降下地点を掴めず、
有効な迎撃をする事も出来ないまま、降下作戦を許すことになる。
ジオン軍は2月中に大規模な降下作戦を3回行った。
連邦軍バイコヌール基地とウラル山脈周辺に対して行われた第一次降下作戦。
カリフォルニア基地とニューヨーク周辺に対して行われた第二次降下作戦。
そして、第三次降下作戦は北京周辺、マレー半島周辺、オーストラリア北岸が選ばれ、
ザクを収容した多数のHRSLが各降下ポイントに向けて投下された。

この一連の降下作戦で、地球上の数々の重要な拠点がジオン軍の支配下に落ちた。
中でも連邦軍にとって最大の痛手となったのは、北アメリカのカリフォルニア基地を奪われたことだった。
連邦軍にとって南米ジャブローに次ぐ大規模な軍事基地であり、海軍軍港、空軍基地、宇宙港、
各種兵器の開発生産施設まで有した一大軍事拠点だったのである。
カリフォルニア基地は、占領後ジオン軍の地球侵攻の中心基地となり、兵器工場はモビルスーツ生産工場に改装され、
以後、地球上で使用するモビルスーツの大半は、ここで開発、生産されることになった。


『地球侵攻作戦』



一週間戦争、ルウム戦役、地球降下作戦と、立て続けに大規模な軍事行動をとったジオン軍だが、連邦軍同様戦力の疲弊は著しかった。
ましてや地球上の各占領地区を防御、維持するためには、戦力の状況は急ぎ解決しなければならない課題となっていた。

4月に入ると、ジオン軍は占領した各地の工業施設を使い、戦力の増強を開始。
特に地球上のジオン軍の中心基地であるカリフォルニア基地では、様々な地上用のジオン製兵器の生産が行われた。
中でも幸運だったのは、占領時に潜水艦とその造船所を無傷で手に入れたことだろう。
コロニー国家であるジオンにとって”海”は未知の存在だった。
潜水艦の造船技術など有るわけもなく、それを無傷で手に入れたことは、何よりの収穫だったといえる。
ジオン軍はさっそく潜水艦を改良、モビルスーツ搭載能力を持たせ、ジオン潜水艦隊の設立を急いだのである。

航空機もまた、コロニー国家であるジオンにとってノウハウのない分野だった。
コロニー内という特殊な条件下では航空機の飛行実験は行うことが出来ず、コンピュータによるシミュレーションだけで設計がなされた。
そして地上で初めて生産され、空を飛ぶことになったジオン製の航空機は多くの問題点を抱えていた。

例えば、ガウ攻撃空母と呼ばれる超大型の戦略空中空母などは、推進器として18機もの熱核ジェットエンジンが使用されていたが、
常に下方ジェットエンジンに30%の推力を振り分けないと、浮力を維持することができないという無駄の多い代物だった。
もちろんジオン軍のお家芸であるモビルスーツも地球用機体の開発、生産が進められた。
水中用や砂漠用といった局地戦用モビルスーツは今後の作戦展開上、必要不可欠な存在であったし、
何よりもジオンの汎用モビルスーツである「ザク」にしても、宇宙用と地上用では内部機構に違いがあったのである。

こうしてジオンは地球の占領維持に努力を重ねたが、戦局はその後、停滞することになる。


『膠着状態』



ジオンの地球侵攻作戦により、連邦軍は、喉元にナイフを突きつけられた格好になった。
しかし、現状でこれに対抗するだけの戦力のない連邦軍にとって、まず軍備を補強するのが先決だった。
こうして、0079年4月「ビンソン計画」と「V作戦」が発動された。

「ビンソン計画」とは、ジャブローを中心とした生産拠点にて、マゼラン級巡洋艦、サラミス級巡洋艦といった、
宇宙艦艇を急ピッチで建造、先の戦いで壊滅した宇宙艦隊を再建させるという計画である。
「V作戦」はジオン軍と連邦軍の決定的な戦力差である、MSの開発、量産を究極的な目標とする計画であった。

一方、地球侵攻し成功したとはいえ、ジオンにしても連邦にとどめをさせるほどの戦力を有しているわけでもなかった。
ジオンの国力では地球侵攻で得られた占領地を維持していくのが精一杯だったのである。
4~8月にかけて、両軍とも戦力増強や資源採掘に重点が置かれ、各地では小競り合いやゲリラ戦が展開されるだけで
大規模な作戦は行われなかった。


『連邦反撃開始』



その間、連邦軍は「ビンソン計画」を急ピッチで進めていた。
先の敗戦で得た教訓をもとに、各所に改良を加えた再設計による艦艇を新造、着実に宇宙軍の再編を進めたのである。
「V作戦」も確実に進行していた。
7月にはRXシリーズで一番開発の遅れていた「RX-78 ガンダム」の一号機がサイド7で完成、最終テストを開始した。
また、同時期に南米ジャブローではRXシリーズの母艦となるペガサス級強襲揚陸艦の1番艦「ホワイトベース」が就役していた。

このホワイトベースとRXシリーズは、一年戦争終結までに多大な戦果を挙げているが、特にこの時期にジオンに与えた衝撃は大きかった。
ホワイトベース隊はサイド7にてMSの受領中にジオン軍と交戦、正規の乗組員がほとんど死亡し、少年少女達で運営されていたにも関わらず、
10月4日には北米シアトルで、ザビ家の末子ガルマ・ザビ大佐を戦死させたのである。

「V作戦」の進行に伴い、9月にはMSの試作と生産が並行して行われた。
少数ではあるが、先行量産型MSがロールアウトしたのもこの時期である。
これら、量産用の生産ラインが完成する以前に造られたMSはいずれも「試作」的な要素が強く、比較的高性能な機体が多かった。
これらのMSは、これ以上のジオンの侵攻を防ぐため、戦略上重要な地域に優先して配備された。
東南アジアをはじめ、地下資源が豊富で、旧世紀来の工業施設などが置かれているような地域である。

そして、10月、ようやくMSの量産体制が完了。
ジオン軍との戦力差を埋めるべく、急ピッチで「RGM-79 ジム」の量産が開始された。
ジムのコンピュータには、テスト用試作機「RX-78」で得られた実戦データが組み込まれており、
新米パイロットが操縦しても高い戦闘能力を発揮した。
また、量産機でありながらビーム兵器の使用も可能で、この点でもジオン軍の「ザク」を凌駕していた。

かくして、反撃態勢を整えた連邦軍は、いよいよ反撃作戦を開始したのである。


『オデッサの戦い』



黒海の港、オデッサ。そこには地球侵攻に成功したジオン公国軍の最重要拠点の一つがあった。
ジオンは中央アジアから東ヨーロッパ一帯の鉱山を奪取、その根拠地がオデッサに置かれていたのである。
地球連邦軍は均衡状態にあったヨーロッパのミリタリーバランスを一変させるため、反抗作戦の矛先をオデッサに向けた。
作戦が成功すれば、ジオンは最大の資源供給地を失い、以後の戦いも有利になるはずである。

連邦軍はこの戦いに地上兵力の半数を投入した。
この作戦には「V作戦」の成果であるペガサス級強襲揚陸艦とRXシリーズのMSが、後方撹乱の任務をおって参加していた。

もちろん、ジオンはこの連邦軍の動きを察知してはいた。
しかし、オデッサ方面の指揮官、マ・クベ大佐の上官であるキシリア・ザビ少将は、本来、月の制圧維持がその最大の任務であり、
”黒い三連星”をマ・クベのもとに送るのが精一杯であった。
彼らはルウム戦役でレビル将軍を捕虜にしたエース部隊であり、彼らをもって連邦軍の新型MS部隊に対抗しようとしたのである。
戦争終結まで続く、ザビ家内部の不協和音により、これ以上の増援は見込めず、ジオン軍は窮地に陥ることになる。

そして11月7日、オデッサを中心に陣形を整えたジオンに対し、連邦の侵攻が始まった。「オデッサの戦い」の始まりである。


『オデッサの敗戦』



オデッサでの激戦は3日間続いた。マ・クベ大佐は、南極条約で禁止されている核兵器をも使用して
オデッサを防衛しようとしたが、結局は、レビル将軍率いる連邦軍の前に撤退を余儀なくされた。

ジオン軍高官達は宇宙巡洋艦ザンジバルにて宇宙に撤退。
残された兵は連邦軍に投降したが、一部はアフリカのジオン勢力圏に撤退、その後も戦い続けた。

一部宇宙に撤退したジオン軍は、「ビンソン計画」により宇宙艦隊の増強を続ける連邦軍を横目に本国の防衛準備に取りかかった。
もとより宇宙でもジオン軍の戦力増強は行われていた。宇宙要塞ソロモンが5月に、宇宙要塞ア・バオア・クーが6月に完成。
これによりジオン軍は、ソロモン、ア・バオア・クーと月面基地グラナダを結ぶ本土防衛ラインを完成させていたのである。


『潜水艦部隊の活躍』



オデッサでの敗戦によリ、ジオンは地球での勢力圏を縮小せざるをえなかったが、まだ連邦に対抗できる戦力が残っていないわけではなかった。
特にこの頃、活発に動いていたのが潜水艦部隊である。

地球侵攻に成功したジオン軍は、まず地球用の局地戦用のモビルスーツの開発を急いだ。
砂漠やジャングルなど、ある程度過酷な環境も想定して作られていたモビルスーツではあったが、
実際その環境下で使用してみると、予想以上に機体にかかる負担が大きく、作動不良が相次いだ。
事を重く見たジオン軍は、急ぎ局地戦用モビルスーツの生産に乗り出したのである。

特に、地球上の7割を占める海を手中に収め、地球でのイニシアチブを取るために、水陸両用のモビルスーツが必要とされた。
コロニー国家故に海を持たないジオンにとって、水中用モビルスーツの開発は困難なものだったが、
局地戦用、水陸両用のモビルスーツの生産は急ピッチで進められた。
5月には、これらのMSは、連邦軍カリフォルニア基地を占領した際に接収し、MSを搭載出来るように改造された潜水艦に配備された。

海水による機体冷却が可能な水中用モビルスーツは、高出力のジェネレーターを使用でき、
固定武装としてメガ粒子砲の装備で、高い戦闘力を持ったジオンの水中用モビルスーツは、連邦海軍の脅威となった。

9月には、ジオンの潜水艦部隊による大西洋の連邦軍残存艦隊掃討戦が行われた。
開戦時のコロニー落としの際、降り注いだコロニーの破片による津波や異常気象で、すでに太平洋方面の大部分の艦隊を失っていた連邦海軍は、
このジオンによる掃討戦で、事実上海での主導権を失ったのである。

11月27日、この活躍目覚しい潜水艦部隊が、ジオン再反撃のチャンスをつかんだ。連邦軍本部ジャブロー基地入り口の発見である。


『ジャブロー侵攻作戦』



天然の地下大空洞を利用して作られた地球連邦軍本部ジャブロー基地は、地球最大の軍事基地であった。
総敷地面積42万平方km、45万人が生活する巨大な軍事基地である。そこには本部を始め、宇宙艦艇建造ドッグやMS工場などがある。
核攻撃にも耐えられるといわれるこの地下基地は、まだ正確な所在がつかめず、ジオンの地球制圧にとって大きな障害であった。それゆえ開戦当初、ブリティッシュ作戦において、ジオンはコロニー落としの最終目標をジャブローにとしていたのだ。

しかし、ブリティッシュ作戦は失敗。その後のジオン軍は牽制のための定期爆撃を仕掛けることぐらいしかできなかった。
連邦軍はその間にジャブローで力を蓄え(ビンソン計画)、緒戦で受けた痛手を回復したのである。
ジオン軍は歯噛みをしつつもそれを観ていることしかできなかった。

シャア・アズナブル大佐率いる、潜水艦部隊マッドアングラー隊は、ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースの失態につけ込み、
ついにジャブロー基地の正確な攻撃ポイントを発見したのである。

11月27日、マッドアングラー隊の水陸両用モビルスーツがジャブローに向かうホワイトベースを追撃、
カムフラージュされた宇宙艦艇用の大型ハッチを発見した。
「我、ジャブローの最大の入口を見つけり」 この報告にカリフォルニア・ベースは色めきたった。

かくしてジオンのジャブロー侵攻作戦は開始されたのである。


『ジオンの衰退』



11月30日、ジャブロー基地破壊の命を受け、カリフォルニア・ベースより飛び立ったジオン軍ガウ攻撃空母編隊は、
ジャブローに対して、MSによる降下作戦を行った。
だがジャブロー上空の対空砲火は予想以上に激しく、ジオン軍はガウ、MS部隊双方ともに甚大な被害を受けた。
無事に降下したMSも、この戦いで実戦投入されたRGM-79ジムの本格量産タイプを筆頭とする連邦の地上部隊と交戦、苦戦となった。
また、先行してジャブロー内に侵入した特殊工作隊の破壊工作(MS工場に爆薬を仕掛けようとした)も失敗に終わったため、
ジオン軍は撤退せざるをえなかった。

ジャブロー侵攻作戦の失敗により、ジオンの地球での勢力は大きく後退した。
ジャブロー基地を攻めるだけの余剰戦力がなくなってしまったのみならず、カリフォルニア基地の兵力が激減したため、
連邦軍は後背を気にせず各地のジオン軍を掃討できるようになったのである。

ヨーロッパから撤退したジオン軍にとって最大の鉱山地帯であるアフリカ。
12月初め、ここで連邦軍による掃討作戦が行われた。
これは残るジオン軍最大の拠点を叩くことで、地球のジオン勢力を一掃し、宇宙に出るに当たり後顧の憂いをなくそうというものだった。
ジオン軍はこのアフリカが落ちればあとがなくなる。
オデッサの敗戦以降、アフリカにはかず多くのジオン兵が逃げ込んでいたため、善戦はしたが、
やはり連邦軍の圧倒的な物量の前には役に立たなかった。
一部、地下に潜伏し、戦後も戦い続けたような部隊を除いて、ジオン軍は敗走することになる。

こうして地球において、ジオンの勢力が駆逐されつつある中、主戦場は再び宇宙へ戻っていった。


『星一号作戦』



ジオン最大の宇宙艦隊が駐留する、宇宙要塞ソロモンを攻略し、地球圏の制宙圏を奪取する。
そして、ソロモンを基点に全艦隊でサイド3占領に向かう。

これが、混沌とした戦局を打開する為に連邦が計画した「星一号作戦」の全貌である。
12月2日、ティアンム大将指揮下の大艦隊が出撃した。
艦隊を構成する数十隻の艦艇には「ビンソン計画」に従い、すべてMS搭載能力が与えられており、
将兵は一週間戦争、ルウム戦役の雪辱をはらす一念に燃えていた。
また、前後して、作戦の目標がソロモンであることをジオン側に悟らせない為に、
第13独立部隊所属の強襲揚陸艦ホワイトベースを始めとする囮艦が、それぞれの方向へ出撃していった。

12月5日、ティアンム艦隊はルナ2に入港。
ここに駐留していた艦隊と合流した。ここに来て、ジオン側でも集結した連邦艦隊の目標がソロモンであることを察知していた。しかし、ソロモンに対して行われた増援は、わずかに試作モビルアーマー1機という、心もとないものであった。
決して出せる兵力がなくなったのではない。
実際、本国により近いア・バオア・ク-や、キシリア・ザビ少将が守る月には、新造艦が優先配備されていた。

これは、ソロモン要塞防御の指揮を執る、ドズル・ザビ中将が政治闘争において兄妹に敗れたことを意味するものであった。

12月20日未明、ワッケイン大佐が指揮する第3艦隊が、まずルナ2を出港した。
続いて第5、第9艦隊が続き、2日後の22日、艦隊主力であるティアンム艦隊がルナ2を後にした。

その頃、第13独立部隊ホワイトベースは、幾多の敵と交戦しながら、ソロモンを目指していた。
ホワイトベースはレビル将軍によってニュータイプ部隊と宣伝されており、それ故にジオンの集中攻撃を受けていたのである。
しかし、RX-78-2ガンダムの奇跡的な活躍を始めとする奮戦によって、そのいずれも撃破していた。

12月24日、ホワイトベースは合流した第3艦隊とともに、サイド4の残骸に紛れつつソロモンの宙域に突入した。
ソロモン攻略戦の始まりである。


『ソロモン攻略戦』



第3艦隊はパブリク型突撃艇を展開し、ビーム撹乱幕を形成する特殊ミサイルをソロモンに発射。
これによってビームが拡散されるようになり、要塞主砲及び対空砲座の大部分が無力化した。
だがそれは連邦軍のビーム砲を封じる結果にもつながる。
そのため、ドズル中将はこの作戦をMS戦に持ち込む為の戦術だと考えたが、連邦には別の勝算があった。

この作戦は、サイド1の暗礁宙域に隠れていた連邦主力のティアンム艦隊が、
連邦軍の要塞攻略用秘密兵器「ソーラ・レイ」をソロモンに向けて展開する時間を稼ぐために実行されたものだったのである。

戦いの最中、姿をあらわしたティアンム艦隊に対して、ドズル中将も戦艦グワランを主力とした遊撃艦隊を出撃させたが、
兵力差が大きく、兵からは援軍を求める声も上がった。しかし、ドズル中将はその要請を一蹴した。
兄妹に助けを求める行為など、彼のプライドが許さなかったのである。これが、ソロモンの致命傷になった。

400万枚にも及ぶ巨大な反射ミラーを用いて、要塞に光の焦点をあわせ、太陽の光熱でこれを焼き払う「ソーラ・システム」という、
予想もしなかった兵器の攻撃により、ソロモンの要塞設備、温存艦艇及び遊撃艦隊、そして大量のMSが破壊された。
戦闘のイニシアチブは連邦の手に移り、連邦のMS部隊はソロモンに取り付きつつあった。

マ・クベ大佐率いるソロモン支援艦隊も、既にグラナダを出撃していたが、間に合いそうもなかった。
全兵力の4分の3を失ったドズル中将は残った艦艇とMSをソロモンに集結させ、最後の一戦を行うことを決意、
自ら試作型巨大モビルアーマー”ビグ・ザム”に乗り込み、出撃した。
強力な拡散ビーム砲と、ビームバリアを搭載したビグ・ザムの戦闘力は圧倒的であり、ソーラ・システムの第2射に
注意を集中して、防御が手薄にしていた連邦艦隊は虚を付かれた形となった。
ビグ・ザムは、瞬く間に戦艦5隻、巡洋艦8隻を撃沈した。
この際、連邦総旗艦である「タイタン」が沈み、ティアンム大将が戦死している。

ビグ・ザムは、最終的にホワイトベース隊の肉迫攻撃によって破壊、ドズル中将は戦死した。
だが、中将は自らの死をもって稼ぎ、残存ジオン艦隊をサイド3方面から脱出させたのである。

12月25日、陥落したソロモンに連邦艦隊が入港した。戦争は最終局面を迎えようとしていた。


『ソーラ・レイ』



12月26日、温存されていたレビル将軍率いる艦隊がソロモンに入港した。星一号作戦は、最終段階に入ろうとしていた。

終結した連邦艦隊に対して、ジオン首脳部の動揺は少なかった。
彼らにとっては、ソロモンの陥落はある程度予想されたものだったのである。
ギレン・ザビ総帥は月とア・バオア・クーを結ぶ最終防衛ラインで連邦艦隊を撃滅できる成算があった。
彼の手元にはソロモンに送られなかった新型の艦艇、MSがまだ残っていた。
そして、「ソーラ・レイ・システム」と呼ばれる決戦兵器の存在があった。

「ソーラ・レイ」は、サイド3の「マハル」と呼ばれる密閉型コロニーを、巨大なレーザー砲の砲身として使用する、
究極の決戦兵器として開発された。
1回の発射のために、サイド3の電力のほぼ全てを消費し、直径数キロのレーザーを発射するというシロモノである。

29日、連邦艦隊はソロモンを出港した。作戦目標は、ジオン最後の宇宙要塞であるア・バオア・クー、そしてサイド3だった。
そのころ、サイド3のジオン本国では、ソーラ・レイの使用に備え、民間用の電力の使用制限が行われていた。
すでに、「マハル」からの強制移住が行われるなど、ジオン国民はかなりの圧制を強いられていた。
長い戦いにおいて、多くの成人男子が戦場に駆り出されてもいた。
すでに徴兵ラインは15歳以上にまで下がり、学徒兵動員が盛んに推奨された。

こうした状況を憂慮した、ジオン公国公王デギン・ソド・ザビは、独自に連邦との和平交渉を行うべく、
戦艦グレート・デギンに座乗し、連邦艦隊との接触を試みた。
しかし、それは実権を握るギレン総帥にとって容認できないことであった。

12月30日、戦艦グレート・デギンは、連邦軍第1連合艦隊指令のレビル将軍と、レーザー通信を用いた接触に成功した。
しかし、デギン公王が接舷した連邦軍旗艦フェーベに乗り込もうとしたその時、ギレン総帥は決断を下した。
ソーラ・レイを用いて、連邦艦隊もろともデギン公王を消滅させようと考えたのである。

直径4キロのレーザーが3秒間に渡って宇宙を切り裂いた。
その光量は、人類が生み出した最大のものであり、光は、地球上からでも観測されている。
集結していた連邦艦隊は、ソーラ・レイの照射によってその3分の1を一瞬のうちに失った。
レビル将軍をはじめとする多くの将兵が戦死し、指揮系統に壊滅的な損害を受けた。


『ア・バオア・クー攻略』



しかし、連邦軍首脳は「ジオンに時間を与えれば、再びソーラ・レイを使う機会を与えることになる」として、
残存艦隊にア・バオア・クーへの再進撃を命じた。

12月31日、連邦軍は戦艦マハル、ホワイトベースを中心に残存艦隊を再編し、ア・バオア・クーへの進撃を再開した。
ジオン軍もまた、ソーラ・レイの威力を目の当たりにして士気は上がっていた。

連邦軍は要塞砲を無力にすべく、パブリク突撃艇、宇宙戦闘機を繰り出した。
しかし、ソロモンの戦訓を得ていたジオン側は対空ミサイルで応戦、突撃艇は次々と撃沈されていった。
すでに要塞攻略の切り札であったソーラ・システム搭載艦艇は、ソーラ・レイの照射とともに失われており、
打つ手のない連邦軍は、MS隊を射出、各艦艇もア・バオア・クーに突入した。

戦局は当初、ジオン優位に進んでいた。
しかし、全軍を指揮していたギレン総帥が、キシリア・ザビ少将の手によって暗殺されるという出来事により局面が変わった。
これで一時的に指揮系統の混乱が起きたジオンは、戦線を支えていた大型空母ドロスを失い、防衛力が低下した。
連邦艦艇は次々とア・バオア・クーに接舷、戦いは白兵戦に持ち込まれた。
この激戦のなかで、勇名を馳せたホワイトベースも沈んでいった。

正午を過ぎる頃、戦いの趨勢は決した。
ジオン艦艇の中に不利を察して、小惑星帯の宇宙要塞アクシズや暗礁宙域へと落ち延びる艦も出始めた。
全軍を指揮していたキシリア少将も、ザンジバル級機動巡洋艦によって脱出を計ろうとしたが、
サラミス級巡洋艦の砲撃によって、乗艦を撃沈され戦死。
これにより、ア・バオア・クーは陥落した。


『終戦』



一族のほとんどが死に絶え、ザビ家独裁は崩壊した。
残されたジオン公国議会はの動きは素早かった。
ザビ家派を排除し、再び共和制へ転換して国家維持を図ったのである。
年も明けぬ間に、ジオン共和国を名乗った政府は、サイド6を通じて終戦協定の締結を申し入れた。  
戦いに勝利したとはいえ、連邦もまた疲弊しきっており、この申し入れは受諾された。

ジオン軍の中には、終戦を認めておらず、小惑星アクシズや暗礁宙域に逃れた部隊も数多く存在した。
しかし、連邦政府は復興政策優先のため、彼らの存在を無視した。
これが後々の禍根になっていくのである。

こうして、終戦協定は月面都市グラナダで批准された。ときに、U.C.0080年1月1日のことであった。
しかし、この終戦は始まりの終わりでしかなかった。
総人口110億人中、60億人が死亡してもなお、人類は戦いに飽いてはなかったのである。
最終更新:2015年02月24日 12:34