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猿飛・クレイグ・コリィ 月見里ゆき 北条優一

☆不穏な夜


     ある日のこと、猿飛・クレイグ・コリィの元に速達で小包が届いた。
     差出人は相馬麻人。以前海外旅行の折に知り合ってそれきり連絡したこともなかった相手である。
     箱を開けると、包みと手紙が1通添えられていた。

コリィ  何故親しくもない私に送ってきたんだ?
     『突然の連絡で驚いたと思う。申し訳ないのだが、この荷物を少しの間預かっていてほしい。
     中身は貴方の為にも見ないほうが良い……』
     これは一体どういうことだ?!

     試しに包みを振ってみると、軽いながら硬いものが入っているかのようなカラカラという音が聞こえた。
     振った拍子に紐が緩んだのだろうか、気づけば包装が少しはだけて中身が少し見えてしまっていた。
     コリィは自らの好奇心を抑えることなく、包みを開く。
     中には、古い仮面が1つ入っていた。
     蜘蛛を彷彿とさせる不思議な紋様と、額には赤い宝石があしらわれた怪しい雰囲気を放つ仮面。
     それ以外には何かが入ってる様子はない。

コリィ  これを見たことで何か悪いことが起こるとも思えないけど?

     軽口を叩きながらコリィは仮面を被る。
     仮面は少しだけ埃の臭いがした。
     一通り中身を見て満足したコリィは仮面を元のとおりに包装しなおして、保管しておくことにした。

     一方その頃、ブドウ農家を経営する月見里ゆきとミステリー作家の北条優一は共に食事をしていた。
     食事を終え、会話を楽しんでいると北条の携帯が着信を告げた。
     画面に表示された名前は吉岡充。日中の文化交流などを取材しているジャーナリストである。
     出版社のよしみで知り合い、何度か中国土産をもらったこともある。

北条   もしもし? 北条ですが。
吉岡   はぁ、はぁ……助けてくれっ……!
     こ、殺される……!!!
北条   吉岡さん?! どうしたんですかっ!

     北条の呼びかけもむなしく、電話は切れてしまった。

月見里  ど、どうかされましたか?

     北条は月見里に電話の内容を伝える。
     走っているかのようであったこと、何やら焦っていたようだったこと、そして不穏な「助けてくれ」という言葉……
     掛けなおしてみるも、コール音が鳴るのみで電話が繋がる気配はない。
     北条は警察に通報することにした。

北条   もしもし、警察ですか?
     実は知り合いが-……

     警察は北条の通報を怪訝そうに聞いていたが、最終的に確認はしてくれると約束してくれた。
     そのまま、吉岡の職場にも電話をかけてみるがすでに退社しているとのことだった。
     助けるにも吉岡の居場所がわからないままではどうにもならない。
     ふと、北条は吉岡の行きつけのバーの存在を思い出した。
     バーに電話をかけてみると、マスターが出た。

北条   ご無沙汰してます。今日って吉岡さん来てました?
マスター あぁきてたよ。だけど、キープしてたボトルに落書きみたいなのが書いてあってね。
     それを見た後、何やら本を読み出して……そうかと思ったら青い顔をして出て行っちゃったんだよ。
北条   出て行くときに何か言っていましたか?
マスター 何やら「ヤバイ」とかそんな感じであせってたみたいだけど、詳しくはわからないね。
北条   落書きってどんなのですか?
マスター うーん……なんて言ったらいいのか。何とも説明しにくいんだよ。
北条   これからちょっと伺ってもいいですか?
マスター まだ営業はしてるから問題ないよ。
北条   月見里さん、申し訳ないですがちょっと知り合いの消息を探しにこれからバーに向かうことになったのですが。
月見里  もしよろしければ私もお付き合いしますよ。何か気になりますしね。

北条   先ほど電話したものなのですが。
マスター あぁ、さっきの。
     吉岡さんね、びっくりしたよ。突然出て行っちゃったから。どうしたんだろう?
月見里  それで、吉岡さんのボトルにされてた落書きというのは?
マスター これだよ。

     そういうと、マスターは吉岡のボトルを二人に差し出した。

北条   ふむ……
月見里  これを見た瞬間、青ざめて逃げるように出て行ってしまった、と。
北条   この落書きに覚えとかないんですか?
マスター まったくないねぇ。気がついたら書いてあったんだよ。
     中国から帰ってきて、せっかく久しぶりに来てくれたのに何があったんだろうね。
月見里  そういえば、本がどうとかって言ってませんでしたか?
マスター あぁ、この落書きを見た後、本を見て、そうかと思ったら急に飛び出していったんだよ。
     急いでいたからか、その本を忘れて行っちゃって。
月見里  見せていただくことはできますか?
北条   もしよろしければ、私の方で吉岡さんに届けておきましょう。
マスター あぁ、そう。ならお願いしようかな。

     本はどこにでもあるガイドブックのようで表紙に「香港旅情」と書かれていた。
     ぱらぱらとめくってみたところ、読み古した雰囲気はあるものの付箋や印などは特に見当たらなかった。
     そのとき、北条の携帯が着信を告げた。

北条   はい、北条ですが。
警察官  申し訳ございませんが、先ほどお電話いただいた吉岡さんの件で明日神代警察署までご足労いただきたいのですが。
北条   吉岡さんがどうかされたんですか?

     北条は二言三言言葉を交わしてから、電話を切った。

月見里  どうされました……?
北条   警察からで、吉岡さんが亡くなったそうです。
     申し訳ないのですが、明日改めて警察署に行くことになりました。吉岡さんから電話を受けたときに一緒にいたことを証言してもらえますか? 
月見里  ……わかりました。今日のところはこれで解散にしましょう。
北条   変なことに巻き込んで申し訳ない。

     二人は翌日警察署へ向かう約束をして別れた。

☆一夜明けて


     翌朝、コリィがテレビを見ていると殺人事件のニュースが流れた。
     ---昨晩、神代市森崎区のマンションで証券会社勤務の相馬麻人さんが死亡しているのが発見されました。
     相馬さんの勤務する証券会社からは暗号のようなものも見つかっており、警察は相馬さんが何らかの事件に巻き込まれたものとみて捜査をしています---
     コリィがテレビに釘付けになっていると、ふと左手に灼けつくような痛みが走った。
     左手の甲にはいつの間にか小さな痣のようなものができていた。
     痣はよく見れば蜘蛛のようにも見え、今にも動き出しそうなおぞましさを孕んでいた。

コリィ  とりあえず、相馬の会社に行ってみるか。

     コリィは身支度を整え、相馬の勤める三田村証券へと向かった。 

受付嬢  いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。
コリィ  私は昨晩亡くなった相馬の友人です。彼が亡くなる直前連絡を受けて……ちょっと気になったことがあったので来ました。
     テレビで会社に暗号のようなものが残されていると聞いたので、もしかしたら何かわかることがあるかもしれないと思いまして。
     中に入ることはできますか?
受付嬢  現在、その件は捜査中でして、部外者の立ち入りは禁止されているんです。
警察官  すいません、今お話が少し聞こえてしまったのですが……事件前に相馬さんと連絡を取っていたとか?
     ちょっとその件について詳しく聞かせてもらえませんか?
     あぁ、申し遅れました。私、神代署の栗山というものです。
コリィ  話すのは構わないが……そちらでわかっている情報も教えていただきたい。
警察官  まぁ、いいでしょう。此処ではなんですから、申し訳ありませんが署までご同行いただけますか?

     栗山は神代署に着くと、コリィに相馬のデスクから見つかったという暗号の写真を見せた。

コリィ  うーん……ちょっとわからないな……
栗山   相馬さんは仕事の関係で香港に行っていて、数日前に帰国したばかりだそうです。
     事件が発覚したのは、実は本人からの入電でして。「殺される、助けてくれ」という類の電話が110番に掛かってきた。
     それで現場に行ってみたところ、相馬さんが死んでいたというわけです。
     死因は心臓麻痺とのことですが、部屋に争った形跡が残っていたそうです。
     しかし、玄関の鍵は閉まっていて鍵も本人が所有していたため、合鍵を持っている可能性を考えて知人を捜査しているわけなんですよ。 
     帰国してからの出勤状況も、翌日は体調不良で有休、さらにその翌日は出社してきたものの午後には早退してしまっている。
     これも不思議ですよね~。
コリィ  こちらからお教えできるのは、昨日相馬から小包が届いたことです。
     中にこの仮面が入っていて、しばらく預かっていてほしいと手紙が入っていました。
栗山   中国のお土産とかですかね?

     そこまで話したとき、別の警察官が栗山を呼びに来た。
     栗山は一度部屋を出て行き、しばらくすると戻ってきた。
     栗山の後ろには見知った顔があった。

コリィ  北条に月見里? どうして此処に?
北条   あれ、コリィさんじゃないですか?
栗山   お知り合いですか? それなら話は早いですね。
     わざわざご足労いただき申し訳ありません。
     北条さんからお電話をいただいたあと、実は吉岡さん本人からも「殺される、助けてくれ」という旨の通報がありまして。
     現場に駆けつけたところ、自室にてすでに……死因は心臓麻痺のようです。
     その時間何をしていたか、お教えいただけますか。

     北条はスマホの着信履歴を見せながら、栗山に経緯を説明した。 

栗山   ご協力ありがとうございます。
     実は似たような事件がもうひとつ起こっていまして、それがこちらの猿飛さんでした。
     何かわかることがあるかもしれないので、一緒にお話をしていただけますか?
北条   わかりました。少しだけ3人だけにしてもらえますか?
栗山   いいでしょう。

     栗山が部屋を出て行った。

コリィ  痛……っ!!!
月見里  ど、どうしたんですか?!

     突然コリィの左手に灼けるような痛みが走った。
     朝にも感じた、あの痛みだった。
     コリィは痛みが治まるのを待って、二人に事情を説明した。
     北条たちも自分達が持つ情報をコリィに伝える。
     結果、それぞれの事件が起きた時間は大体同じくらいの時間だったこと、相馬の会社で見つけた暗号のようなものとバーで見つけた落書きが同じものだったこと。
     そして、二人とも最近中国から帰国したばかりであることがわかった。

コリィ  中国……?
     そういえば、さっき栗山とかいう警部に教えてもらったんだけど相馬はよくチャイナタウンに出入りしてたっていってたな。
北条   吉岡さんもよくチャイナタウンに出入りしてたって聞いたことがあります。
月見里  二人ともチャイナタウンによく行ってるっていうのは気になりますね。

     3人はとりあえず、チャイナタウンに行ってみることにした。

☆3人の探索者


     神代市守崎区に広がるチャイナタウン。
     外国人居留地が置かれていた歴史もあり、中国の文化が色濃く残っている。
     南北に4筋、東西に3筋の通りがあり、中華料理店、衣料品店、雑貨屋などが軒を連ねていた。
     通りには露天も多く出ている。

北条   あれは……?

     北条が見つけたのは、露天のあちこちに並ぶあの暗号のような文字だった。
     しばらく見ていると、その文字は値札に書かれた値段であるように感じた。

月見里  これは、何だろう? 数字なのかしら?
     すみませんー。
露天商  ハイー。ナンデスカ?
月見里  これってお値段が書いてあるんですか?
露天商  ソウダヨー。
月見里  ちなみにこれは何て書いてあるんですか?
露天商  コッチハ95、アッチハ130ネ。
月見里  これって日本の言葉じゃないですよね? どこの言葉なんですか?
露天商  ンー、コレハ「スーチョウマー」ネ。蘇州デ生マレタ商人ノツカウ略数字。
     イマハ香港トカ澳門デ使ワレルヨー。
コリィ  ちなみに、これは何て読むの?
露天商  コレハ45ダネー。 

     そういうと、露天商は蘇州数字を順番に書いてくれた。

露天商  コレガ7、8、9……、最近ヨク「スーチョウマー」ノコト聞カレルネ。
     博物館デモ落書キ騒ギガアッタネー。蘇州ノ言葉ダタカラ警察タクサン来タヨー。
     最近ハ港ノ倉庫ニモイクツカ書カレテタノ見タヨ。

     露天を後にして3人はこれからの行動を相談した。

北条   まずはどこへ向かいましょうか。
月見里  とりあえず事件のあった博物館に行ってみましょう。


     3人は事件があったという博物館にやってきた。
     館内で聞き込みをしてみると、落書きがあったのは中国展の看板だったようだ。
     落書き用のスプレーで大きく描かれていたようであるが、今はもう消されていた。

月見里  落書き以外には何か事件などはありましたか?
受付嬢  事件とは関係ないかもしれませんが、学芸員が1人急に退職したくらいですかね。
     特に辞めるなんて話は聞いてなかったんですけどね。特に辞めなくちゃいけない理由があったとも思えないし……
     松嶋さん、本当にどうしちゃったんだろう?

     北条はスマホで神代博物館のホームページを調べた。
     そこには学芸員の紹介ページがあった。
     中国展担当・松嶋美加子、と簡単な紹介文と顔写真が載っていた。

コリィ  ちなみに、看板に書かれていた落書きってこれですか?

     コリィは相馬の会社に残されていた暗号を受付に見せた。

受付嬢  こんな感じでしたね。
北条   ちなみに、松嶋さんってどのあたりに住んでいたかわかりますか?
受付嬢  詳しくはちょっと……守崎区のチャイナタウンの近くって言ってたくらいですね。
北条   ありがとうございました。


☆松嶋美加子の消息


     3人はチャイナタウン付近で聞き込みをしながら、一度湾岸部の倉庫街に向かってみることにした。
     そこは露天商に言われたとおり、無数の落書きがしてあった。
     それは大体が意味のないイラストやレタリングされた文字であったが、北条はその中に蘇州文字を見つけた。
     露天商に教えてもらったスーチョウマーに当てはめると、260・67・46・143という数字をあらわしているのだとわかった。
     倉庫街の後にした3人は聞き込みをしながら、松嶋美加子を家を何とか突き止めた。
     松嶋の自宅はチャイナタウン近くのマンションで、郵便受けには数日分の新聞が詰め込まれたままになっていた。
     部屋の前まで行き、ノブをそっと回すと部屋の鍵は掛かっていなかった。
     奥に声をかけるも返事はなかった。
     3人はゆっくりと松嶋の部屋に踏み込んだ。
     1DKの部屋の中は少し散らかっているように見えた。
     必要なものだけをあわてて持って飛び出していったような、そんな印象を受けた。

月見里  松嶋さん、いませんね……。
コリィ  っ?!?!?!

     月見里が呟いた瞬間、コリィの左腕に鋭い痛みが走った。
     コリィが腕に目をやると、そこにはナイフが突き立っていた。

北条   ナイフ?!

     ナイフが飛んできた方向--ベランダにはいつの間にか人影が1つあった。
     その人影は、成人男性をそのまま小さくしたかのような歪な形をしていた。
     人影がゆっくりと部屋に踏み込んでくる。
     その顔に付けられた仮面に、コリィは見覚えがあった。
     相馬が送ってきた仮面によく似ているように見えたのだった。

北条   ふっ!

     北条は自らのすばやさを生かして、仮面の男に蹴りを叩き込む。
     しかし、北条の脚は仮面の男を捉えはしたものの明確なダメージを与えるまでにはいたらなかった。
     仮面の男は北条から距離を取ると、何やら呪文を唱え始める。
     そして、右手を差し出すと空間を握りつぶすような仕草をした。
     コリィは自分の周りの空間が圧縮するような感覚を覚えたが、それを意思の力で跳ね返した。

月見里  えぃっ!
仮面の男 ぐ……ぅっ!!!

     月見里がポールハンガーで殴りかかる。
     農家である彼女の腕力で振り下ろされたポールハンガーは仮面の男に確かなダメージを与えた。
     仮面の男は殴られた勢いのままに、ベランダから外へと飛び出していく。

コリィ  逃がすか……!

     コリィも得意の跳躍で追いかけるも、ぎりぎりのところで逃げられてしまった。
     仮面の男を退けたところで、3人は再び部屋の調査を続けることにした。

月見里  これは……劉偉永雑技団? サーカスのパンフレットみたいですね。

     パンフレットには、派手な衣装と仮面を被った人たちが写っていた。
     演目は「三国志演義」。
     場所は中央区の緑地公園で、公演日は昨日から2週間となっていた。

北条   あれ、この本は?
コリィ  また「香港旅情」……!

     コリィはふと思いついて、香港旅情の45ページを開いてみた。
     その見出しには「死んだ英雄達」と書かれていた。
     死の部分が赤文字で表されている。

コリィ  これってまさか?!

     コリィは今までに見つけた暗号で示された数字のページを開いていく。
     「裏切り」「持ち出す」「仮面」「報復」……

北条   吉岡さん・相馬さん・松嶋さんは何かしらの団体に属していて、「香港旅情」のページ数がその団体の暗号表になっているということですかね?
     そして、「仮面を持ち出した報復として裏切り者には死を」というメッセージになってる……?

     コリィと北条が「香港旅情」を見ている間に、月見里は電話の横にメモ帳があるのを見つけた。
     一番上のメモは破りとられていたが、ボールペンの跡が下のメモに残っていた。
     慎重に鉛筆で塗りつぶすとどこかの電話番号が浮かび上がってきた。
     調べてみるとそれは市内にあるビジネスホテルのものだった。
     部屋の状態から、そこにいった可能性が高いと見て3人はビジネスホテルに向かうことにした。


☆ビジネスホテル

     3人がビジネスホテルに到着すると、ちょうど松嶋がホテルに入っていくところだった。
     松嶋は周囲を警戒しながらエレベーターに乗り込んでいく。
     すかさず3人も後を尾けた。
     エレベーターは5階で停止し、松嶋が降りていく。
     そして、松嶋が部屋の鍵を開けたところで北条は松嶋に声をかけた。

北条   松嶋美加子さんですね?
松嶋   ……あなたたちは?
コリィ  あなたを助けに来たわ。相馬や吉岡みたいになりたくなければ私たちに従って。

     松嶋は一瞬訝しげな表情を浮かべたが、相馬や吉岡の名前を告げるとすぐに状況を察したのか部屋の中へと促した。

松嶋   あなたたちは一体何者なの?
     どうして相馬や吉岡のことを知っているの?
北条   実は私達は、相馬さんや吉岡さんが死ぬ直前に連絡を受けたんです。
     それで気になって色々調べていたらここにたどり着きました。
月見里  私達はあなたに危害を加えるつもりはありません。
     なので、何か知っていることがあったら教えていただけませんか?
松嶋   ……私、相馬、吉岡は3人ともとある組織に属しています。
     私たちが属していたのは、チャイニーズマフィアの一派である三合会。
     そこで相馬と吉岡は運び屋を、松嶋は鑑定や修復などを請け負っていました。
北条   何故お三方は追われる羽目に?
松嶋   わかりません。ただ、職場に突然暗号が書かれていることに気がついて……
     自宅にいられなくなって逃げてきました。
     でも、此処もいつ奴らに気づかれるかわかりません。
     中央区でやっているサーカス、あれも我々三合会に所属するものの隠れ蓑の1つです。
コリィ  そこに行けば何かわかるかもしれない……けど、かなり危ない橋ね。
     ところで、小人みたいな妙な男を知っている? あなたの家の近くで見かけたのだけれど。
松嶋   ……! はい、背の小さい妙な気配の人たちは見たことあります。
     彼らは、暗殺などを請け負う秘密集団です。
コリィ  蜘蛛の模様が描かれた仮面のことは?
松嶋   蜘蛛の仮面のことは知りませんが、組織内に蜘蛛を信奉している派閥があります。
     その人たちは仮面をつけて行動していたように思います。
     もしかしたらその手の人達のものかもしれません。
コリィ  たとえば、その仮面を盗んだりとかしたらどうなる?
松嶋   報復として殺される可能性がないとは言い切れません。
コリィ  あ、、、、くっ…また、痛……っ!!!

     再びコリィの左手が痛みを発し始めた。
     その左手に刻まれた痣を見て、松嶋は何かを思い出したようだった。

松嶋   それは!
月見里  何かご存知なんですか?!
松嶋   暗殺集団の者たちが呪いの印として使用していたものに似ています。
     まさか、すでに何か接触をしているの?
コリィ  実は……

     3人は手短にこれまでの経緯を松嶋に説明した。

松嶋   もし、その手の痣が呪いの印なんだとしたら解けるのは術者だけだと思います。

     これ以上、有効な情報は出て来そうになかった。
     3人はいざというときのために、松嶋と携帯番号を交換した。
     そして、ビジネスホテルを後にしてこれからのことを話しあう。
     三合会は調べてみると、かなり規模が大きな組織のようで3人だけで立ち向かうにはどうにも心許なかった。
     色々な策を練ったものの有効な術は思いつかず、時間だけが過ぎていった。
     何時間経っただろうか、北条の携帯が着信を告げる。
     画面には、松嶋の名前が表示されていた。
     が、電話口の人物は男だった。

北条   ……もしもし?
???  例のモノを持って来い。さもなくば、コイツを殺す。
北条   例のモノ? 何ですか?
???  わかっているだろう。お前達が持っているのはわかっている。
北条   ……どこに持っていけばいい。
???  中央区の劉偉永雑技団のテント内だ。

     一方的に電話が切られた。
     他に成す術はない。
     3人は、中央区の雑技団テントを目指した。


☆蜘蛛の一団


     雑技団のテント内に入ると、4人の人影が待ち構えていた。
     真ん中で一番偉そうに立っている劉備の仮面を被った男。
     その横には関羽と張飛の仮面をつけた大男2人と羽扇を持った細身の男が控えるように立っていた。
     後ろには椅子に縛り付けられた松嶋美加子の姿があった。

劉備   よく来たな。お前たちが何者かは知らないが、さっさと例のモノを渡せ。
     それはお前達が持っていても価値のないものだ。
     仮面を渡してくれたらその女の左手の呪いを解いてやろう。
月見里  どうして吉岡さんたちを殺したの?
劉備   裏切り者を抹殺したまでだ。
     奴らは組織にとって大事なものを盗み出したからな。
     あの仮面に嵌め込まれた石にはとても大きな魔力がこめられている。
コリィ  仮面を渡すのは構わないが、その前にこの左手の呪いを解いてもらおうか。
劉備   ……どうやら自分の立場がわかっていないようだな?
     お前達には死んでもらおう。

     劉備が言い終わるより先に、北条の蹴りが張飛に炸裂した。
     不意を突かれた形の張飛は仰け反った。
     カウンターで矛を繰り出すも、蹴りのダメージが響いたのか北条には当たらない。
     コリィ、月見里がさらに追撃を加えたが、張飛面の男が倒れる様子はなかった。
     次の瞬間、関羽が振り下ろした青龍刀が北条の肩を掠め、劉備の剣がコリィを捉える。

北条   これで仕留める……っ!
コリィ  倒れろっ!!!

     北条とコリィの攻撃が張飛面の男に命中し、男は動かなくなった。
     月見里は張飛が取り落とした蛇矛を拾い上げるとその勢いで関羽面の男に切りかかる。
     勢いに乗った攻撃は、急所を捉えたのか関羽面の男を一撃で床に沈めてしまった。
     その月見里に向かって、羽扇の男が右手を握りつぶすような仕草を見せた。
     途端に、月見里の周囲の空間が圧縮されるような感覚を覚える。

月見里  はぁ…っ!

     月見里は気合でそれを跳ね返して見せた。
     そして、再度力をこめて今度は劉備面の男に切りかかる。
     今度も槍は男の身体を正確に捉えた。

劉備   ぐ……!

     またも男は、一撃で沈められる。
     それを横目に、羽扇の男が北条に向かって右手を握りつぶす動作をする。
     周囲の空間が圧縮される感覚と共に、北条の足から力が抜けた。
     北条は力の入らない足に無理やり活を入れると、羽扇の男に蹴りを放った。
     羽扇の男は成す術なく、気を失って倒れた。

月見里  終わった、、、、、?

     その後、踏み込んできた警察により松嶋美加子は保護された。
     現場にいた3人も警察による取調べを受けたが、相手が中国マフィアだったこともありこの件は警察によって内々に処理された。
     三合会の追撃がないことがわかったのか、松嶋美加子はしばらくして日常に戻っていった。
     コリィの左手に刻まれていた痣はいつの間にか消えていた。

     こうして、彼らは再び平穏な日常を取り戻した……