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JKみずしほお泊まり

高一みずしほ

軽率といえば、軽率だった。
泊まりに来たいと言うのなら、私の家はそこそこ広いし私も部屋を掃除するのにハマっているので、断る理由がない。
春休みの間に雑然としていた部屋は片付けた。
家に泊める際の最大の関門である両親は、紫歩のことを気に入っている。
なにせ、今の高校に入れたのは彼女の功績だった。
志望校を伝えた途端、担任に、君は美術科に行くのかと思っていたと驚かれ、再三口すっぱく、今のままだと落ちると言われたことは覚えている。
は? あんた、私と同じところに行くの? じゃあ、勉強の面倒くらい見てあげるわ。
高圧的な物言いに、棒読みでよろしくと伝えたら、あいつは泊まり込みで家庭教師になった。
私は英語がとにかく嫌いで、他の科目はまだしも、落ちるとしたらこれのせいだった。それを紫歩には全部知られていたので、新品同然の参考書で、なんでこれが新品なのよ! と、一発頭を殴られた後、やれ、この単語を覚えろ、この文法を暗記しろ……思い出したくない日々が続いた。
ただし効果は抜群で、あれほど綺麗な筆記体を書けるかだけにこだわっていた英語が、どれだけ長文でこようと読めるようになった。
塾に行っても、あんたの性格じゃあねぇと諦めていた母親は、泊めるだけで成績を伸ばした紫歩に大変感謝している。
本人の目立つ容姿もあいまって、あの可愛い子また来ないの? と無事、セーラー服に身を包めるようになった私に訊いてくる。
え、今日。と答えたら、早く言いなさいよ! と、肩を小突かれた。
だってあの連日のスパルタ英語指導と、今では、関係が違う。
紫歩と私は、今は付き合っている。

何が軽率だったか。
自分が緊張しがちで、そしてこういうことには一切不慣れということだ。
あの時は英語で頭がいっぱいだったが、今は目の前でうとうとしてる奴のことで頭がいっぱいである。
風呂上がり、だなんて私自身そんなに風呂が好きではないので興味もなかったが、恋人が風呂上がりというのは、なかなかに堪える。
まだ少しだけしっとりとしている亜麻色のロングヘアーに、上気した顔に、高校に入ってからきっちりと引かれるようになったアイラインも何もない、すっぴん。
個人的にはすっぴんの顔の方が好きだが、言うと確実に機嫌を損ねるのが目に見えている。
10月も半ば、という季節だ。暖房をつけるまでではないが、肌寒い。時刻は午後十時。家族と一緒に鍋を食べて、テレビを見ていたら時間はあっという間だった。
明日は土曜日だから、焦る必要もなく。先にどうぞ、と言われて、あんた早すぎるのよ? 烏の行水じゃない! とぶつくさ言いながら、消えて行ってから一時間弱。そんなに長時間、何をしているのか知らないが、紫歩は帰ってきた。
「そんなパジャマ売ってるんだな」
「ええ。瑞生は相変わらずね?」
「中学のジャージが一番だろ」
薄ピンクの女子が好きそう、を詰め込んだ柔らかな生地の膝までのワンピースに、靴下を合わせていた。彼女は寒がりだから、この気候でも、防備しだすのだろう。
私は紺のジャージパンツに長袖のロンT。楽なのが一番だ。
「あんたもたまには可愛いの着たらいいのに」
「やだ。それは似合う奴が着たらいいだろ」
「ああ、私とか?」
「うん」
化粧水やら乳液を塗って、ついでにまつげにも何か塗り終えた紫歩がぐるりと振り向いた。湯上りゆえの上気とは、また別種だとわかる。なんとなく軽く度数の入った眼鏡をかけていて、良かった。
「あんたってたまに突然褒めてくるわよね」
「……いつも思ってるから」
「だから! ばかばか、照れるでしょうが」
入り口付近に置かれた全身鏡の前に腰掛けて、自分の毛づくろいをしていた紫歩に近づく。
何をする気だ、という目で見てくるから、そっとそばに座って、抱き着いた。
「……やっと二人きりだから、甘えたくて」
「ああ、美術室も賑わうことが多いものね」
「人の目があるだろ。からかわれたくないし」
「私は、構わないけど」
そっぽを向いて、照れる紫歩からは、普段とは違う、私と同じシャンプーの香りがする。肌に鼻を近づければ、同じせっけんの香りだ。
この距離なら、メガネは要らない。ことんと床に置く。
近くで見ると、より、華やかな顔立ちなのだと圧倒されつつ、ゆっくりと唇を重ねた。
漏れるかすかな音に、耳を傾ける。包み込んだ身体は柔らかい。寝る時でも外したくないらしい下着の感触が、しかも伝わってくる。それでも、押し付けられる弾力はある。
この先のことを私たちはまだ試していないし、どうしたらいいのかも半端な知識しかない。漫研部のあの常時花を咲かせているバカップルとはグループデートをしたり、何かと世話になっていて、そして何かと入れ知恵をされる。
「あの、紫歩……」
「あんたがしたいって言うなら、拒まないわよ? 嫌だったら、付き合ってないし、泊まりにも来ないから。どこぞの誰かに色々教え込まれてるのは知ってるんだから」
「本当? うっ、どうしよう」
「はあ? どうしようじゃないわよ、ここは押し倒すところでしょうが」
「え……」
自分の発言に、紫歩は耳まで真っ赤になっていた。髪の毛が耳にかけられているから、よくわかる。
中学の時に、髪を留めるゴムかなんかない? と勉強会の時に言われ、とっさにあげたあの紫の紐は、今はポーチにしまわれている。
「だから、あの、良いから……瑞生が好きなようにして。私も、どんなものか知らないのよ」
「え、お前、噂あんなにあるのに」
「信じてたの?」
「いや、そんなわけないって思ってたさ。お前はそんなに器用じゃないって知ってるから」
この学校では珍しい真っ黒なセーラーに、紫の髪紐に、ペールブルーだったりグレーだったりするタイツ。見た目も言動も派手なせいか、入学半年で噂が驚くほど作られていた。しかも、性的なものばかり。
「瑞生ならわかってくれてると思って……だから、私に告白してくれたんだと。でも私の口から言うべきだったわね」
「いいんだ。じゃあ、お互い初めてなんだな」
「ひひっ、そうね」
奇妙な笑い声は、照れているから。
触れ合ったままの衣服越しの身体は、お互いどんどん熱くなってゆく。
手を引いて、立って、ベッドに進む。ゆっくりと押し倒して、またキスをして、それからは。
私たちだけの秘密だ。