※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

高三みずしほ

「だから、こんなところでするのやめとけって話なんじゃないの」
「つい……興味本位で」
「あんたにとっても私にとっても大事な場所なのに?」
「だからこそ、刻み付けておきたかったんだ」
「そう……」
良かった、とすらなかなか言ってやれない私の唇を、瑞生はそっと塞ぐ。外見だと薄い唇なのに、触れると肉厚に感じられる。さっきまでも散々していたのに、また、時が止まるかのようなキスを重ねた。
鍵は締めたし、見回り担当は私で、このご時世、電子の防犯センサーたちのほうがよっぽど優秀で。
入られたら困るので、鍵さえ締めて、あとは夜八時という、猶予ある下校時間さえ守れば。
後続の部員も入ってくることのなかった美術室は、私たちの城だった。
付き合いだして三年目。私たちは学校で不埒な行為に勤しむという、愚かな遊びも覚えた。
あと三十分、夜七時半。
今日は休憩日だから、と、瑞生に誘われ、二人きりの廊下になると手を繋いで部屋に入った。受験勉強で頭がだいぶヒートしてきている私たちは、憂さ晴らしのように相手を求めるようになっていた。
引退すると部が消えるから、瑞生は卒業までずっと美術部だ。三年になって、そういえば金より銀気味になった髪を撫でる。
ちゃっかり部費で買ったマットレスの上に寝転がれば、さっきまでのあれこれを思い出す。
「寂しくなるな。あっという間に季節は過ぎてゆく」
「そうね」
「私は背が伸びたし、紫歩も、可愛くなったよな」
着たばかりのセーラー服をめくられ、ブラを手慣れた手つきで、ずらされる。
正直ひりひりしてるというのに、目の前の猫は発情期だった。少しざらざらする舌が、再び触れる。
「もう、あんたあと三十分しかないのに……」
「だめだったら、家に泊まりに来たらいい。服も下着も全部置いてるだろ」
言い捨てて、瑞生は私の胸を愛撫するのに戻る。
スカートも捲り上げられ、下着の隙間から指を入れてくる。どうせまだまだ濡れっぱなしで、そして、感じやすい。
タイツは乱暴に破かれて、伝線用に持ってきているハイソックスで今日は帰る。というか、きっと、瑞生の家に泊めてもらうしかない。
指はあっという間に二本に増やされ、わざとらしく音を立てつつ、中を触ってくる。
胸にまた、新しく花を咲かせているのが目を閉じていてもわかった。
悔しいことに、真剣に私を愛する瑞生を見ると、もっと感じてしまうから、目はぎゅっと閉じ続ける。
シワになっても、明日は土曜日だ。補講も何もない。元から好きではないので塾に行っていない私は、何もない。
瑞生は画塾に行くと言っていたはずだ。
目が覚めたら、瑞生の残り香だけがあって、私はその匂いに包まれて、ぼんやりと帰りを待つしかない。
どういう関係だと思われているのか定かではないが、雑賀家は私を一人の娘として扱ってくれる。瑞生がそうやって出かけている間は、私が瑞生の代わりに家事を手伝ったり、お母さんと買い物に出かけたりする。
いよいよ一人の家に帰るのが嫌になると思いきや、間宮の家もあんまりさみしくなくなった。

「何のこと考えてる?」
一層強く中を揺さぶられ、腰が動く。
「あんたのことよ」
「どこか遠くに行ってた」
「……あんたの家庭は優しいわね。雑賀紫歩になりたいくらいよ」
その言葉に、瑞生の目は大きく開いた。角度によって青に見える不思議な目が、輝き出す。
「良かった……。お前がそう思ってくれているのなら」
「ずっと前から思ってたわよ? ひ、ちょっと、もう、ひりひりするんだってば……」
「紫歩のここが、咥えて離さないから」
「ばか」
「ありがとう。紫歩のことは、私のお嫁さん、だと思ってるから」
その言葉に、私の身体も心も跳ねた。一気に上り詰めて、高まって、いってしまった。
慣れた感覚ながら、荒く息を吐く。
私の中から取り出した指を、瑞生は満足そうに舐めていた。
「私も、瑞生のお嫁さんになら、なってあげる」
可愛くない言い方に、眩暈がする。もっと素直に言えたらいいのに。
私は可愛くなれないままだった。
着崩された制服を着直して、下着も戻して。美術室内の蛇口で、お互いの体液がついた手を洗う。
カーテンを開けると、外は真っ暗だった。
「帰ろう? 紫歩」
「ええ、瑞生」
後片付けをして、情事の雰囲気を残したままに部屋を後にする。
誰もいない、非常灯だけが照らす長い廊下。二人分の足音だけが、延々と響く。
言葉はなかった。
お互い、照れている。
瑞生がぐいぐいと手を引っ張るものだから、私の歩幅も広くなる。
「瑞生……腰が痛いの。もう少し、ゆっくり歩けない?」
「ああ……ごめん。やりすぎた」
「良いの。たぶん、おんなじ体勢で過ごしすぎたから」
「あれだと、紫歩の顔がよく見えて好きなんだ。だから、つい」
私は大きく咳き込んで、腰回りのじわじわ残った痛みも何もかも気にせず、走り出した。
瑞生はそうやって思いもよらない真っ直ぐな台詞を投げてくるから、たまらない。
結局追いつかれて、また手をつないで、家に帰るのだ。

「私たちが初めて、こういうことしてから二年経ったんだよな」
暗闇の中、街灯の下で瑞生はつぶやく。
「……そうね」
「後悔はないのか? 他の相手だとか、そういうの」
「あんた以上の人間がどこにいるって言うのよ。ふざけないで」
「大学に入ったら、もっと世界は広がるぞ。紫歩にとっても、私にとっても。私は、後悔しない自信がある。だけど、お前はどうかわからない」
「私のこと、いい加減に信用してくれる? 真剣な話よ? 星の数ほど人間はいるわ。きっと大学に入ったら、まったく違う人間がいっぱいいる。素敵な人もいると思う。だからって、瑞生と別れてどうこうしようなんて、思わない。私はあんたを信じてるし、だから、瑞生には私のことを信じてほしいの」
声は震えるばかりで、鼻の奥はつんとしてくる。
毎日会えなくなる日が、やってくる。
そんな私たちを繋ぐのは、きっと、思い出と、愛だから。
忘れないように言葉を重ねる。
熱を分け合う。
モラトリアムは、大事に大事に使われていっている。

つまらないことは、退屈だと旅立っていった先輩は教えてくれた。
その言葉を胸に、私の生活はこんなに、世界を彩る星のように、幸福に満ち溢れている。