由良吾郎&セイバー  ◆S2NYXu2lPk





「それにしても、今日は天気が悪いね……ゴロちゃんの顔が、見えないよ……」

 口にされた言葉に返事が出来なかった。
 外を見れば、雲ひとつ見当たらない晴天から陽光が降り注ぎ事務所内を照らしている。
 先の発言との矛盾が嫌でも現実を突きつけていた。
 もう、この人は死ぬ。
 まだまだ恩を返し切れていないのに、もっとしてあげたいことが沢山あるのに、自分の主は居なくなってしまうのだ。
 いずれは訪れると覚悟していたはずなのに、いざその瞬間になると自らの無力を嫌でも実感してしまう。
 そうやって立ち尽くしている間に、彼は自分の横を通り、最後の戦いにおもむこうとしている。
 勝敗を度外視した、ただ無念を残さないで逝くために行う、宿敵とのけじめの戦い。
 やはり無理にでも止めるべきかと振り返ったと同時に、何かが床にぶつかる音。
 次に自分の目が捉えたのは、前のめりに倒れ伏した自分の主――北岡秀一の姿だった。

 ■  ■  ■

「先生!」

 忘れたくても忘れられない主の最期を突きつけられたところで、由良吾郎は跳ね起きた。
 続いて勢いそのままに辺りに目を走らせていく。
 視界に映るのは錆が浮いた機械に、うち捨てられた廃材の数々や地面に積もる砂埃ばかり。
 天井を見てみれば、何カ所も空いた大穴から月と星空が窺えた。
 どうやら自分が今まで倒れていたのは、見覚えのない廃工場の中のようだ。

(確か、事務所に居たはずなのに)

 まさか全ては夢だったのかと思ったが、その考えは右手に握られたものに目を移した途端に消え失せた。
 緑色のプレートの中央に黄金の牛を模したレリーフがあるカードデッキと、半ばまで差し込まれた赤いテレホンカード。
 それを認識した途端、吾郎の脳裏に意識を失う前の記憶が思い起こされた。
 あの後、北岡の遺体を簡単に弔うと、吾郎は自然と遺されたライダーデッキを手に取っていた。
 北岡の無念を代わりに晴らそうとしたのだが、次の瞬間にはあの天戯弥勒の居た空間に移動していたのだ。
 予想外の事態に呆気に取られていると、弥勒の口から今回の催しについての説明が始められていた。
 聖杯戦争という名の最後の一人になるまで行われる殺し合い。
 いきなりこのようなことを強要されれば普通は取り乱したりするのだろうが、吾郎は逆に冷静になっていった。
 なぜならば、弥勒の語った内容は北岡の参加していたライダーバトルとよく似ていたからだ。
 サーヴァントをミラーモンスターに置き換えれば、ほぼ一緒といってもいい。
 それでも異常事態なのに変わりはないが、まったく未知なものに対するよりは落ち着けた。
 そして、説明が終わるとまたしても視界が暗転し、今に至るわけだ。

「目が覚めたか」

 段々と記憶がはっきりしてきたところで、唐突に声が掛けられた。 
 そちらに振り向くと、物陰から一人の男が姿を現す。
 まず目に付いたのは、左頬にナナメに走る傷跡と、オールバックに纏められた黒髪。
 下に視線をずらせば右腰に携えられた二本の刀と、よく鍛えられた胴体や手足を覆う装具。その上には茶色の陣羽織を纏っている。
 厳つい顔つきと見るものを射殺しかねない鋭い視線は、男がただ者でないと示していた。

「あなたは……」
「片倉小十郎。一応セイバーのサーヴァントってことになってる。お前は?」
「由良吾郎です」
「吾郎か。まあ、よろしく頼む」

 吾郎が立ち上がるのに合わせて、セイバーは堂々とした足取りで近づいてきた。
 距離が近くなるのに従って、男の身に纏う雰囲気が嫌でも感じ取れていく。
 肌がピリピリし、少しでも気を抜いたら後退ってしまいそうだ。
 吾郎が今までに相手にしてきたチンピラたちとは比べものにならない凄みと威圧感を、セイバーはかもし出していた。

「それでな吾郎。早速だが、オメェは聖杯に何を願うんだ?」
「願い、ですか?」
「何かあるんだろ。そうじゃなきゃこんなところには居ねえさ」

 問われて、気付く。
 天戯弥勒は言っていた。お前たちは願いがあるから呼ばれたのだと。
 では、吾郎の願いとは何だろうか。
 北岡の代わりに浅倉威と決着を付ける? それは目的ではあっても願いではない。
 では何か。少し考えてみると、答えは簡単に出てきた。
 由良吾郎が戦う理由なんて決まっている。すべては北岡のためだ。

「俺は……ある人を生き返らせたいんです」
「死人の蘇生、か……」

 吾郎の願いを聞いたセイバーは、目を閉じてひとつ息を吐く。
 浮かべる渋面が現しているのは失望というより、どう答えるべきか悩んでいるようだ。
 気持ちは分かるが、賛成は出来かねるといったところか。
 どうやら堅物な見た目にたがわず、目の前の男は生真面目な性質らしい。

「当たり前だが人はいずれ死んじまうもんだ。その道理を覆したいなら確かに聖杯にでも縋るしかねえわな。
 だが、分かっているんだろうな。この戦を勝ち残るなら他の奴らの願いを踏みにじっていくことになる」
「……はい」
「オメェ、人を殺した経験は?」
「……ありません」
「できるのか? 参加してる連中には女子供だっているかもしれねえ。そいつらが刃を向けてきたら、殺せるのか?」

 セイバーの問い掛けに、吾郎は言葉に窮した。
 確かに、セイバーの言うとおりの弱者や、自分のように願いはあっても巻き込まれて参加している者たちも居るかもしれない。
 いや、もしかしたら全員が強制的に参加させられている可能性もある。
 そのような人々を自分は撃てるのかと考えてみるが、今度はすぐに答えは出てこない。

「迷うような半端な覚悟だったら止めときな。そのまま戦ったところで途中でくたばるか、願いの重みで潰されるだけだ。
 第一、命なんてもんは迷いながら奪っていいもんじゃない。
 運がいいことにオメェはその赤い板きれを使えば元の世界に帰れるんだからな」

 セイバーの諭すような言葉に、吾郎は促されるまま右手に握りしめていたカードデッキを見つめる。
 そこに差し込まれたままだった赤いテレホンカードを取り出し、眼前にかざす。
 注視しなくても、アドベントカードとは大きさもデザインも異なっているのは明らかだ。
 このカードがいつ差し込まれていたのかは分からない。
 だが、今なら分かることもある。これに触れたから自分は聖杯戦争に巻き込まれたのだ。

(これを使えば帰れる……帰る?)


 そこで新たな疑問が生まれる。帰ってどうするのだ。
 戻れば改めて浅倉との戦いに挑むことになるだろう。
 だが、もし浅倉を倒したとしてもその後はどうする。
 結局、そのまま最後の一人になるまでライダーバトルを戦い続けるだけだ。しかも今度は顔見知りである城戸真司や秋山連とである。
 どの道、カードデッキを手にした時点で、自分は引き返せない道に入っていたのだ。
 この事実を理解したならば、迷う必要はない。

「セイバーさん、俺の話を聞いてくれませんか」

 そうして、吾郎はセイバーに語る。
 北岡との出会い、自分が秘書になった経緯、北岡が冒された病と、それを治すために身を投じたライダーバトル。
 自分が伝えられる限りのことを熱と思いの込められた口調で語っていく。
 最後に、北岡が自分の目の前で息絶えたと伝えると、吾郎の話は終わった。
 ありがたいことに全てを黙って聞いてくれたセイバーは、今度は大げさに溜息を吐いた。

「オメェにとっちゃ、進むも地獄引くも地獄ってわけか。それで、結局どうするんだ」
「ここで戦います」
「知り合いよりは他人と殺し合う方が楽ってことか?」
「違います。ここにはライダーバトルと違ってこれがある」

 吾郎がセイバーに見せたのは、脱出するための赤いテレホンカードだ。
 聖杯戦争とライダーバトルはよく似ている。
 だが、大きな相違点もあった。
 ライダーバトルは参加したならば死ぬまで止められないが、聖杯戦争は途中退場できる点だ。

「なるほど。差し詰めサーヴァントだけを倒してマスターを無力化させて、それで無理矢理送り返す算段か」
「はい」
「悪くはねえが、いかんせん見通しが甘いな。そもそも、願いを踏みにじるのには変わりない」

 セイバーの指摘はもっともだ。
 当然だが相手にだって譲れない願いがあるだろう。
 それを諦めさせるのは簡単ではないだろうし、苦労して送り返しても吾郎たちには何のメリットもない。
 完全に自己満足だ。


「それでも、俺はこうやって戦いたいんです。いえ、こうじゃなきゃ戦えないんです」
「……そうか」

 吾郎の答えを聞いてもう何を言っても無駄と悟ったのか、セイバーは思案顔になる。
 この提案に乗り、マスターと組むべきか考えているのだろう。
 見るからに戦場で生きてきた彼にしてみれば、吾郎の考えは偽善でしかない。
 むしろこうやって一考してくれているだけでも、幸運と思わねばならないだろう。

「吾郎」

 しばらくして考えが纏まったのか、セイバーは吾郎を真っ直ぐに見つめてくる。
 その目には一切の曇りは見えず、こちらの奥底まで見透かされそうな深さを湛えていた。
 この目から視線を逸らしてはいけない。ここで逸らしたら負けだと吾郎もジッと彼と視線をぶつける。

「どう考えてもオメェの考えは甘い。無謀といってもいいさ。だがな……無闇矢鱈に殺し回ろうなんて輩よりはよっぽどマシだと俺は思うぜ」
「それじゃあ、協力してもらえるんですか」
「ああ、手を貸してやるよ。願いの是非はともかく、テメェの忠誠心に付き合うのも悪くはねえからな」

 ぶっきらぼうな言いようではあるが、セイバーの協力を得られることに変わりはない。
 もしも彼に拒絶されていれば、吾郎は諦めて元の世界に戻るつもりだった。
 いくらカードデッキの力があるとはいえ、目の前のサーヴァントのような存在に勝てるとは思えないからだ。
 そうなれば、その前にせめてセイバーの代わりのマスターを捜すぐらいはするつもりでもあった。
 自分だけ帰還し、彼をそのまま消滅させては、あまりにも申し訳ないからだ。

「そうと決まりゃ、こんなところに長居していても仕方ねえ。さっさと街にでも行くとしようぜ」

 そう言って足早に歩き出したセイバーを、吾郎も慌てて追いかける。
 吾郎が横に並んだところで、セイバーの顔がそちらに向けられた。

「吾郎、ひとついいか」
「何ですか?」
「今更だが、俺はオメェをマスターとは呼べない。例えサーヴァントになろうと、俺が主とするのはただ一人と決めているからな」
「別に構いませんよ。俺もマスターなんて呼ばれるのはこそばゆいんで」
「礼を言うぜ」

 それだけいうと、あとは何も言わずに二人は外に足を踏み出す。 
 主の居ない、腹心だけの聖杯戦争が始まろうとしていた。

【CLASS】セイバー

【真名】片倉小十郎@戦国BASARAシリーズ

【パラメーター】
 筋力:B+ 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具B

【属性】
 秩序・善 

【クラススキル】
 対魔力:E
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

 騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】

 竜の右目:C
 同ランクのカリスマ+軍略の効果。
 常に主君を陰日向に補佐し、主君が戦えない際は自ら一軍を指揮し陣頭に立つなど、主の見えない範囲を補う。
 彼が健在な限り主君が不在でも味方の指揮は衰えない。

 戦闘続行:B
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

 心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『輝夜』
 ランク:C~B 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大補足:1人
 刀で円を描いて精神を集中し、そののちに敵を一刀両断する。
 発動には溜めが必要で、溜め無し・溜め途中から出した場合は正面斬りを、満月が浮かび上がるまで溜めた場合は一撃必殺の袈裟斬りを放つ。
 ちなみに発動から最大タメまでの時間は5秒。

『鳴神/霹靂』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:5~10 最大補足:20人
 前方に強力なビーム状の雷撃を放つのが鳴神。力を溜め、二刀を合わせて巨大な雷閃を放つのが霹靂。
 霹靂は鳴神よりも溜めが必要である。 

【weapon】
『黒龍』
 小十郎の愛刀。
 刀身には「我成独眼竜右目唯生涯」あるいは「梵天成天翔独眼竜」と刻まれている。

『無銘』
 小十郎のもう一本の刀。
 銘は不明なので無銘とする。

【人物背景】
 竜の右目という異名を持つ、独眼竜・伊達政宗の右腕にして伊達軍の副将を務める男。属性は雷で原作では唯一の左利き。
 激昂しやすい正宗に対して、冷静に厳しい諫言をする兄的存在かつお目付け役でもある。
 一本筋を通す義理堅い性格で、伊達軍を支える縁の下の力持ちとして、人格・実力共に自軍だけでなく敵方からも評価が高い。
 剣の腕は達人級であり、その華麗さに伊達軍兵士からは「踊っているよう」と賞賛され、島津義弘からは独眼竜をも凌ぐ腕前と評された。
 普段は冷静だが怒りが頂点に達すると平静な言動が一変し、頬傷・オールバックに日本刀所持という風貌も相まってヤクザにしか見えなくなる。
 伊達軍の副将として自分を律してはいるが、武人として強者と戦いたいとは常に願っている。
 刀は二本帯刀しており、通常は一刀目だけだが固有技・固有奥義では二刀目も扱う。
 厳つい外見に反して趣味は畑いじりで、彼の育てた野菜(特に人参)はとても美味しいらしい。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯にはない。
 ただ生前は一人の武人として強者との戦いを望んでいたので、聖杯戦争に参加した時点で望みはほぼ叶っているともいえる。

【基本戦術、方針、運用法】
 基本的に小十郎が前線を担い、ゾルダに変身した吾郎が後方からの援護を担当する戦法になる。
 ただし吾郎自身は仮面ライダーとしての戦闘経験は無く、重火器の扱いにも慣れていない。


【マスター】由良吾郎@仮面ライダー龍騎

【マスターとしての願い】
 北岡秀一の健康な状態での蘇生。
 方針としてはサーヴァントのみを倒し、マスターは無力化して送還したい。

【weapon】
『ゾルダのデッキ』
 仮面ライダーゾルダに変身できるカードデッキ。
 契約モンスターであるマグナギガは呼び出せるが、この世界で自身も鏡の中に入れるかは未確認。

【能力・技能】
 中国拳法に似た我流の格闘技を会得しており、その実力は屈強な男五、六人を一人で相手にできるほど高い。
 更に料理はプロ級の腕前であり、他にも散髪や怪我をした北岡の代理として依頼人との商談を任されるなど、何でもそつなくこなす。
 作中で判明した唯一の苦手として口笛を吹けなかったが、後に克服している。

【人物背景】
 スーパー弁護士北岡秀一の秘書兼ボディーガード。
 とある傷害事件に巻き込まれたところを北岡の弁護で救われるが、その直後に彼の不治の病が発覚。
 自分の弁護を引き受けなければもっと早く病を発見できたのではとの罪悪感と恩返しの気持ちから、彼の秘書となる。
 その後は北岡の右腕として仕え続け、彼の知り合いで唯一ライダーバトルの存在を明かされるほどに信頼される。
 吾郎自身も恩返しの範囲を超えて北岡を慕っていき、その忠誠心は北岡の宿敵である浅倉威を一度は轢き殺そうとしたほどに強い。
 長身、強面、無愛想、寡黙と警戒しかされない外見をしているが、その内面は誰にでも優しい好青年である。

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最終更新:2015年01月25日 21:17