ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆WRYYYsmO4Y




 少年には、名前が無かった。
 持つべき名前を失った、名無しの戦士だった。

 少年もかつては、ごく一般的な人間として生きていた。
 愛犬の世話をし、友人と他愛もない会話を行い、母親の手料理を平らげる。
 そんな普通の生活を営み、そしてそんな生活をこよなく愛した男だった。

 だが、その平穏はある日を境に激変する。
 「悪魔召喚プログラム」と呼ばれるパンドラの箱が、少年の全てを変えてしまった。

 母親は悪魔に喰い殺された。
 故郷はICBMで廃墟と化した。
 幼馴染はゾンビとなっていた。
 道を違えた友人達は憎み合っていた。

 何もかもが、変わってしまった。
 目の前に広がるのは、悪魔が闊歩する地獄の様な世界だけ。
 少年が愛した平穏は、一片の欠片も残さず消滅していた。

 だが、地獄を目の当たりにしてもなお。
 戦いの果てに平穏が掴める筈だと、少年は信じ続けていた。
 神や悪魔の支配を受けない、人間が生み出す平穏な世界を夢見ていた。

 故に、少年は戦い続けた。
 人間の平穏は人間の手で掴むべきだ、と。
 その信条の元、人外達を容赦なく殺し尽くした。

 混沌を正義とする悪魔を殺した。
 スルトの四肢を捥いだ。
 アスタロトの頭を吹き飛ばした。
 アリオクの臓物を抉った。

 秩序を絶対とする天使を殺した。
 ウリエルの首を刎ねた
 ラファエルの心臓を穿った。
 ガブリエルの胴を断った。

 理想を追い求めて、ただひたすらに。
 斬って、撃って、殴って、殺し続けた。

 されど、運命の歯車は少年を嘲笑う。
 人々は彼の意に反し、神々の統治を望んだのだ。
 少年が思うほど人は強くなく、故に彼等は超常の指導者を望む。
 天より来たる神々を迎え入れ、出現するのはミレニアム。
 人類は天使への隷属を誓い、虚偽の繁栄を貪り始めたのだった。

 少年の戦いは、全て無駄に終わった。
 走り続けた先にあったのは、理想とは程遠いディストピア。
 流した血も、絶った絆も、奪った命も、何もかもが無意味だった。

 それでも、少年は剣を捨てなかった。
 戦場がコロシアムに、相手が人間に変わっても、彼は戦い続ける。
 さながら修羅の如く闘争を続け、挑みかかる人間をひたすらに殺していく。

 もう、少年には何も残っていなかった。
 故郷も、肉親も、親友も、恋人も、仲魔も、名前さえも。
 一つ残らず失った彼には、戦う理由など何処にもありはしない。
 しかし、全てを失った彼には、戦う以外の選択肢が残っていなかった。

 そんな少年を目にした人間達は、彼に一つの称号を託した。
 天使と悪魔を同時に相手取り、今も戦いを止めない悪鬼の様な男。
 それでも、彼が天使と敵対する悪魔を滅ぼした事に変わりは無い。
 世界革変の切っ掛けとなった少年には、まさに"英雄"の名が相応しい。

 "英雄(ザ・ヒーロー)"。
 それが、敗北者たる少年に与えられた称号だった。


□ ■ □


「僕は今までずっと戦ってきた」

 真夜中の公園のベンチに、ザ・ヒーローは腰かける。
 そして、誰に言われるまでも無く、自身のサーヴァントに語りだした。

 ザ・ヒーローが引き当てたのは、甲冑を身に纏った狂戦士の英霊。
 赤く刺々しいその外観は、さながら竜を思わせる。
 兜で顔をすっぽり覆っているせいで、表情はまるで読み取れない。

「戦って、戦って、戦って……何の理由も無いのに、戦ってきたんだ。
 天戯弥勒、だっけ。"参加者には全員願いがある"なんて言ってたけど……僕にはそれさえ分からない」

 笑っちゃうだろと付け加え、ヒーローは自嘲する。
 戦い始めた理由なら、たしかにあった筈なのだ。
 だが、何時の間にか理由を何処かに置いてきてしまった。
 理性こそ保っているが、その在り方は目前の狂戦士と何ら変わりない。

 いつも通り、理由もなしに暴れ回る事だって出来たかもしれない。
 だが、天戯弥勒の発したあの言葉が、その選択肢に異を唱えている。
 「参加者は皆願いを持っている」という、彼のたった一言が、ヒーローを縛り付ける。

 聖杯戦争が願いの為の戦いならば、自分の抱える願いとは果たして何なのか。
 碌な理由もないまま闘争に身を委ねるのは、許されざる行為の様に思えてならなかった。

「……此処にいるって事は、君にもきっと願いがあったんだろうね」

 今でこそ理性を失っているが、バーサーカーもれっきとしたサーヴァントだ。
 元々は他者と同様の理性を持っており、そして願いもまた抱いていた筈である。
 だから、そう考えたからこそ、ヒーローは一つの決断を下す。

「令呪を以て命ず――バーサーカー、君の願いを教えてほしい」

 自分には秘めた願いが分からない。
 だが、目の前の英霊にはきっと叶えたい望みがある。
 もしかしたら、彼の願いが自分の願いを思い出すヒントになるかもしれない。

 バーサーカーの剥き出しの威圧感が身を潜めていく。
 それは即ち、彼の狂化が一時的に収まったという証だ。
 今ならば、この狂戦士は理性を保った一人の戦士でいられる。

 顔を覆う兜の奥から、男の声が流れ出る。
 言語を取り戻した狂戦士が語るのは、己の根源(ルーツ)であった。

□ ■ □


 バーサーカーには、名前が無かった。
 持つべき真名を持たない、名無しのサーヴァントだった。

 かろうじて、「ハンター」という肩書きなら持っている。
 依頼された場所に向かい、そこで屯する怪物を討伐する者達。
 バーサーカーは、そんな狩猟者の一人として戦い続けてきた。

 その中でも、バーサーカーは飛び抜けて優秀だった。
 手にした大剣は龍の翼を引き裂き、獣の角を切断する。
 無数の屍の山を築いた彼の戦いは、多くの同業者に広まっていった。

 曰く、まさしく狩りをする為に生まれた男。
 曰く、数十年に一人現れるかどうかの天才。
 曰く、龍との闘争を至上の喜びとする悪魔。

 良くも悪くも、バーサーカーの逸話は周知のものとなっていく。
 だが、そんな事には目も暮れずに、彼は狩猟を続けていた。
 まるで戦わなければ死ぬと言わんばかりに、戦いに明け暮れていた。

 やがて、バーサーカーは強大な力を持つ古龍さえ打倒する。
 誰一人として倒せなかったその敵に、たった独りで勝利してしまった。
 それは紛れも無く偉業であり、その瞬間、彼は英雄の肩書きを得たのであった。

 英雄である彼の物語は形を変え、偉業として祀り上げられる。
 「あるハンターの伝説」として、バーサーカーの逸話は歴史に刻まれた。

 歴史に刻まれたのは、逸話"だけ"だった。
 誰一人として、バーサーカーの名前を歴史に刻めなかったからだ。

 ひどく寡黙なそのハンターの素性を、誰も知ろうとしなかったから。
 人々の記憶にあるのは、「名無しのハンター」の逸話だけとなる。
 英雄の名前を知る者は、世界にはもう一人として残されてはいなかった。

 そしてバーサーカーもまた、自分の名前を忘れてしまった。
 "逸話"から再現された存在であるが故に、彼は名無しの英霊となる。
 歴史からさえ名前が抹殺された今、彼が持つのは武器と技術のみ。

 名無しのハンターが求めるのは、自分の名前だ。
 生まれて最初に授かった、自らの真名を取り戻したい。
 ただそれだけの理由で、彼は万物の願望器を求める。

□ ■ □


「そうだ」

 名も無いバーサーカーの話を聞き終えた少年は、思い出したかの様に呟いた。
 いや、事実思い出したのだ――自分にもたしかに願いがあった事を。
 無意識の内に抱き、しかし闘争の最中に放り投げてしまった願いが。

「僕にも名前があったんだ。ヒーローなんて肩書きじゃない、母さんがくれた名前が」

 人間が生まれてから、最初に受け取る愛の形。
 それこそが"名前"であり、その人がその人たる証だ。
 奇しくも、この主従は二人とも自分の名を忘れていた。

「名前……僕は名前が欲しかったんだ」

 ヒーローにはもう、何も残ってない。
 かつて手にしたものを取り戻す事も、ましてや思い出す事さえ出来ない。
 だが、せめて最初に受け取った自分の"名前"だけは。
 時間が奪い取ってしまったその一つだけは、自分の手で奪い返したかった。

「ありがとうバーサーカー。これで、また戦える」

 今となっては、もうバーサーカーにその言葉は伝わらない。
 令呪の効果は既に切れ、彼は元の狂戦士に戻ってしまったからだ。
 しかし、それでもヒーローは感謝を示さずにはいられなかった。
 彼がいなければ、自分は蹲ったままだったかもしれないのだから。

 これから、自分は幾つもの修羅場を通り抜けるのだろう。
 自分と同じ願いを持つ者と戦い、勝利し、そして殺していく。
 召喚された狂戦士と共に、全ての願いに死を齎すのだ。
 止まる気はない。止まれたのなら、当の昔に止まれている。

 やる事は結局、元いた場所となんら変わりないのだ。
 賞品が万物の願望器となっただけで、他にはほとんど同じに過ぎない。

 ただ、今のヒーローには隣に相棒がついている。
 それが数少ない違いの一つで、最も大きな違いだった。
 彼がこうして誰かと共に戦う事など、本当に久しぶりなのだから。

 バーサーカーが――自分の仲間が隣にいる。
 ただそれだけで、何故だか酷く懐かしさを覚えてしまって。
 頬に一筋の涙が伝うのを、ヒーローは止められなかった。



【出典】モンスターハンターシリーズ
【CLASS】バーサーカー
【マスター】ザ・ヒーロー
【真名】無銘(ハンター)
【性別】男性
【属性】中立・狂
【ステータス】筋力:A+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:C 宝具:C(狂化時)
【クラス別スキル】
狂化:C
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
Cランクの場合は魔力と幸運以外が上昇するが、言語能力を失い、複雑な思考ができなくなる。

【固有スキル】
調合:-
その場で材料を組み合わせる事で、新たな薬剤等を調合できる。
バーサーカーは本来Aランクの調合スキルを保有しているが、狂化によって喪われている。

心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

直感:A
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に近い。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

無窮の武練:A
如何なる精神状態でも十全な武芸を見せる。
このスキルのおかげで、狂化していても優れた技の冴えを見せることが可能。

【宝具】
『雄火竜の装甲』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1個
雄火竜「リオレウス」の素材を利用した装備一式。
生前のバーサーカーが最も愛用していたとされる防具。
火に対し強い耐性を持つが、反面水や龍の因子への耐性が薄い。

『炎剣リオレウス』
ランク:C 種別:対獣宝具 レンジ:1~? 最大補足:?個
雄火竜「リオレウス」の素材を使用した大剣。バーサーカーが生前最も愛用していたとされる武器。
リオレウスの翼を模して作られた剣であり、火竜の翼爪を取り付けた分厚い刀身は焔の様に赤い。
刀身に仕込まれた火炎袋と、表面に塗られた発火性のある火竜の体液が特徴であり、振り抜く度に爆炎を巻き起こし、飛竜の翼撃の如く対象を吹き飛ばす。
「斬り裂く」ことより「焼き薙ぐ」ことに重点を置いた武器であり、火に弱いモンスターには絶大な威力を発揮する。

【weapon】
「宝具」の欄を参照。

【人物背景】
人間を脅かす怪物の狩猟を生業とするハンターの一人。
ある時は村の為、ある時は国の為、またある時は自分の為に戦い続けた男。
たった独りで怪物に挑み、そして勝利してきた彼の逸話は、多くの人々の記憶に刻まれる。
しかし、逸話は数あれど、寡黙なハンターの素性を語る者は誰もいなかった。
やがて時は経ち、残ったのは数々の英雄譚と、それを為した「ハンター」という肩書きだけ。
彼の名前は、いつしか何処かへ消えてしまっていた。

【サーヴァントとしての願い】
自分の名前を知りたい。

【基本戦術、方針、運用法】
「狩る」。それだけ。


【マスター】????(ザ・ヒーロー)
【出典】真・女神転生
【性別】男性

【参戦時期】
原作終了後の、少し未来。

【マスターとしての願い】
せめて、自分の名前を取り戻したい。

【能力・技能】
超人的な身体能力を持つ。また、剣技と射撃の才能がある。

【weapon】
特筆事項無し。
かつては悪魔召喚プログラム等を所有していたが、戦いの途中で全て失ってしまった。

【人物背景】
天使と悪魔に戦いを挑み、勝利した人間。
そして、戦いの果てに全てを失った敗北者。

【方針】
「戦う」以外に道は無い。これまでもそうだったし、これからもそうなる。

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