闇夜に生ける者たち◆wd6lXpjSKY


 夜は人の心を自然と煽り立てる。
 光よりも闇、恐怖を感じるのは後者であり、追い込まれるのもまた同様である。
 暗さはそれだけで恐怖を演出出来る、謂わば魔法のスパイスのような物だ。
 陳腐な状況でも総てを多い囲む闇があればある程度は演出出来る筈。

 闇を生業にするのは吸血鬼、或いは暗殺者だ。
 聖杯戦争に招かれた吸血鬼――系譜を継ぐはランサー。
 その血は真なる吸血鬼であり、彼女も例外に漏れず朝日に弱く闇夜に強い存在。
 今までの交戦状況は一つ、陽が昇る今は彼女の戦場ではなく、身を潜めるだけだ。

 マスターである――執事となっているウォルターが単独行動をしている今、彼女は一つの現場を目撃する。
 元はそのまま拠点である館に帰るだけだったが思わぬ状況に遭遇、当事者ではないのだが。
 彼女が唯一戦闘を行ったサーヴァントが更なる戦闘を重ねていたのだ。

 老いた海賊、彼女のマスターも老体だが彼らは歳を感じさせない程の戦闘力を有している。
 海賊のサーヴァントは己の拳を振るい空を翔ける悪魔のサーヴァントを相手にしている。遅れはない。

(あの女のサーヴァント……吸血鬼とはまた違うわね)

 女のサーヴァントから感じる魔力は自分のソレに近い何かを感じていた。
 緑髪の妖艶な身体を持ったサーヴァント、まるで異性を誑かし己が糧にするような。

(遠目では判断出来ないけど……近付き過ぎてバレるのも情けない話)

 霊体化の選択を取っているためその身体は表に出ていない。
 しかし近付き過ぎた結果、戦闘の余波で思わぬ事態を招くかもしれない。存在を感付かれるかもしれない。
 より近くで目視すれば小さな情報でも大きな結果に結び付けることが出来るかもしれない。
 だがその不確定な可能性に賭けて己の正体が露見しては総てが悪い事態に傾いてしまう。

 まだ時は夜ではないのだ。本来の時間、陽が在る間の時間は彼女のモノではない。
 まだ駄目よ。月は登っていない、蒼い御月様はまだ眠っている。
 無理に動く必要はない、ならば本来通り館に戻る。何も不思議な点はない帰り道だ。

 収穫があったとすれば新しいサーヴァント、魔の気配を感じる女を確認出来たこと。
 もう一つは今朝方交戦した老体のサーヴァント、どうやら震動を操る力を保持している。
 老体、海賊、震動……この単語を組み合わせた結果生まれる答えは在るのか。
 ある程度絞れる、半ば確信に持っていく事も出来るが答えを出すのは些か早過ぎる。

 確証が持てるまで確信してはならない、慢心は良い結果を何一つ生まない魔の言葉。
 マスターと情報を照らし合わせる、新たな情報を探る……遠回りではあるが一歩を踏み出すためには正確さが重要であろう。
 少ない情報を手に取り倒すべき敵の正体を洗い出す――戦争らしい。
 口元から小さい笑みを零しその場を後にする幼き吸血鬼。
 英霊に年季など既に死に体のため関係ないかもしれないが見た目と中身が比例しない場合もある。
 現にランサーは見た目こそ幼体だが生前の年齢は五百を超えているのだ。
 同じ英霊でも見た目通り現代風な英霊もいれば、姿が全盛期で実体化している歴戦の戦士も居る筈。

 主観と言う外からの意見を遮断するシェルターからでは見える景色も脳内で保管してしまう。
 初見は究極のアドバンテージである。手の内を明かしていない状況で放たれる宝具は必殺の領域だ。
 しかしそれは己の敵にも言える。誰もが所有している一度限りの必殺でも在る。

 などと戦闘における供述をしようがそれは単なる飾りである。本番とでも呼べばいいだろうか。
 実際に戦闘が始まれば運や奇跡など総て含んだ結果が答えになる。用意した材料も強火でじっくり煮込めば結果は同じだ。
 生命は生物《ナマモノ》である。その時にならなければ真の姿を垣間見ることなど出来ないのだ。


 また情報も生物《ナマモノ》であり、今新たに強いられた主催《アマギミロク》の情報も同じカテゴリに分類される。


 彼が言う通り感知による逆探知は不可能であり、言葉が直接脳内に響いてくる。
 この力は不明だが、今の段階では個人で聖杯を用意した男だ。幾つもの手段があるのだろう。
 今の段階――天戯弥勒には総てが謎に包まれている。素性も力も目的も。

 この情報提供で解った大きな点を挙げるならば参加している組の数は十四であること。
 本来の聖杯戦争は英霊を各クラス七騎招いて争う儀式、今回の聖杯はその倍を招いた。
 そして既に暗殺者が一名脱落したとのことだ。潜む殺し屋が最初に脱落するとは何事か。

 何にせよ残りの敵は十二、最後に笑うのは一、やるべきことは何も変わらない。
 話しによればアサシンは正面から戦闘を全う出来る英霊だったらしいがそれを確かめる術はない。
 そもそも聖杯なるビジョンが見えない今、天戯弥勒の声をそのまま鵜呑みにするのも危ういだろう。
 だがそれでも時計の針は止まらない、次第に夜になり、やがて人数が減っていく。
 その減りゆく人数に己が含まれてしまっては聖杯に招かれた意味も無くなってしまう。


『――どうかしたのかしら、ウォルター』


 別行動を取っていたウォルター――マスターからの念話。
 疑うまでもなく天戯弥勒の伝令事項に関するものだろう。レミリアの問にウォルターは言葉を紡ぐ。

『ええ、お嬢様。先ほどの声は』

『私にも聞こえていたわ……確認かしら?』

『マスターだけに聞こえていた可能性もありましたゆえ、お嬢様に届いておれば問題有りません。それと、一つ』

 用事はそれだけか。その意味を含んで尋ねたレミリア。
 対するウォルターは確認の他にもう一つ尋ねる事項があるようだ。
 レミリアは何も答えず無言の姿勢を取る。早く述べよ、そう主が謂わんばかりの静寂。

『使い魔を――アッシュフォード学園に張らしてみるのはどうでしょう』
 ウォルターが言うには人の集まる場所に目を配らせる事で他の参加者を見つける、と言った内容だ。
 実に効率の良い、かつ的確な判断だと思われる。現に遭遇しているマスターは学生服を纏っていた。

 レミリアはまだ知らないがウォルターが単体で遭遇したマスターも学生服を纏っている。
 残る主従は己を含んで十三、その内二組が学生だ。価値はあるだろう。

『解ったわ。ふふ、戦争らしくなってきた……ってところかしら』

『お気に召しませんか?』

『別に……そんなことはないわ。ところでウォルター、貴方はいつ頃帰るのかしら』

『日が落ちる前までには合流出来そうです』

 そう、なら続きは館で。そう告げると念話は終了された。
 日中都合よく動けないならば使い魔を派遣し情報を集める――遠回りだが実に有用な手段だ。
 勝つためには手段を選ばない、その点で見れば取る他にない手段である。

 聖杯に招かれたのだ。本来の己ならばこのような行為はしないかもしれない。
 だが、折角の機会でもある。今宵だけは仮の主に力を貸すのも悪くない――かもしれないだろう。

 帰ったら紅茶を淹れて貰おう。
 椅子に座りに口に含み、今後の戦況に対する打ち合わせと洒落こんでみよう。
 これは戦争、聖杯戦争。やるならばとことんどこまでも――。



【不明/一日目・午後】


【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態]ダメージ(小、スキル:吸血鬼により現在進行形で回復中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ウォルターのためにも聖杯戦争を勝ち抜く
1.夜になるまでは拠点で休息
2.ウォルターと合流後、今後の方針を決める
3.アッシュフォード学園に使い魔を……?
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。


【C-5・市街地/一日目・午後】


【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]健康、魔力消費(微小)
[令呪]残り3画
[装備]鋼線(ワイヤー)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:全盛期の力を取り戻すため、聖杯を手にする
1.館に向かう
2.アシュフォード学園内での情報集手段の模索
3.アシュフォード学園近隣で監視に使えそうなポイントの捜索
[備考]
※浅羽、アーチャー(弩)を確認しました。


[共通備考]
虹村刑兆&ライダー(エドワード・ニューゲート)と交戦、バッド・カンパニーのビジョンとおおよその効果、大薙刀と衝撃波(震動)を確認しました。
発言とレミリアの判断より海賊のライダーと推察しています。


 ランサーであるレミリアがライダーとアーチャーの戦闘を見ていた。それも素性を明かさずに。
 ならばより気配の遮断において秀でているアサシンが出来ない理由も存在しない。
 夜を生業にする暗殺者、世界を裏で操っていた暗殺組織黒の牙が誇る伝説の四牙の一人、ジャファル。

 彼もまたライダーとアーチャーの戦闘を目撃していた。


   ◆  ◆  ◆

 俺は何をしているんだ、部屋に閉じ籠もって。
 聖杯戦争……そうだ、俺は願いを懸けているんだ。

 でも、その願いって何だ、俺は何を求めている?

 皆の所へ帰ること、巨人を駆逐すること、真実を知ること……。

 このまま帰っても俺はまた悪夢のような日々を彷徨って巨人を駆逐して。
 その流れの過程で仲間を失って……失って……。

「あっ」

 イアンさんが死んだ。マルコも死んだ。オルオさんもペトラさんもグンタさんもエルドさんも死んだ。
 元を辿れば母さんも死んだ。トーマスもミーナも、他の仲間も多くが死んでしまった。

 失った者は決して戻る《イキカエル》ことは無い。

 なら聖杯に懸ける願いは――死者の生存か。
 しかし巨人を駆逐しない限り人類に未来はない、ならば奴らを消すか。
 そもそも聖杯とは何なのか、本当に存在する、生命を賭けるに値する代物なのか。

 脳を活動していると疲れが普段よりも大分残ってしまう、エレンは椅子から立ち上がりペットボトルを手に取る。
 そのままお茶を喉へ流し込む――日常の光景だが彼にとっては新鮮であり理想郷。

 巨人に悩まされている壁の中の生活でこんな安全に居場所があっただろうか。
 壁は巨人に崩され、内部では人間同士の争いも起きている。
 調査兵団は巨人を駆逐しに向かうがその遠征の中で必ず死者が発生してしまう。
 腐敗した内政、貪欲なる上層部。進む貧富の差、高騰する税。幸せとは一体どんな代物なのか。

 エレンは時々思ってしまう。
 聖杯戦争が行われているこの空間に自分達が生まれていればどんなに良かったのか。
 NPCと言われてもエレンには普通の人間にしか感じない。少なくてもコンビニの店員はそうだった。
 コンビニだって幸せの証だ。本来エレンが座に位置づけている世界ではそんな物は存在しない。

 この世界に皆、皆が生活していれば何一つ不自由な事は存在しない、そう思ってしまう。
 発達した文明、美しき自然、そして何よりも人類の敵である巨人が存在しない。
 この空間こそが理想郷であり、自分が住んでいたあの世界は悪夢ではないのか。

「悪夢――夢?」

 そうだ、あの生活は、巨人は、喰われた母さんは、俺は、全部、総てが。

「夢だった――そうか、夢だ。夢。夢でいい」

 扉を開ければ其処にはミカサが居るんだ。
 ミカサだって家族と暮らしている。今日は買い物に出掛けるんだ。
 駅でアルミンと合流して秋服でも買いに行く、其処でジャンとマルコが現れるんだ。
 俺に喧嘩を売ってくる、何時もの事で、慣れっこなんだ。それでも笑い合う。
 飯を食おうとしたらサシャが急に現れて、暇してるコニーも来るんだ。
 其処にクリスタとユミルも合流して、偶然ライナーとベルトルトとアニも一緒になるんだ。
 街では休暇中のリヴァイ班の人達と出会って、兵長は機嫌悪そうにしているんだ。
 其処でオルオさんが何故か挙動不審でハンジさんがゲラゲラ笑って、オルオさんは舌を噛んで。
 呑んだくれのハンネスさんも見かけるんだ、ガキは早く帰れ、って。まだお昼すぎなのに。
 それが俺の日常、大好きな、かけがえの無い。
 皆で遊んで俺は楽しんで家に帰って母さんと父さんと――。

「出掛けないと、ミカサが、アルミンが俺を待っている」

 俺は鏡を見て適当に前髪を整えると上着に袖を通す。
 お茶を飲み込んでそのままキャップもラベルも剥がさないでゴミ箱に投げる。
 靴はいつも通りでいいや、踵を整えて、ミカサの所に。


「悪い、ミカサ! 待ったか?」









「俺は出掛けるな、そう言った筈だ」







 総てが夢。
 笑わせてくれる幻覚だ、そんな訳がない。あれは総てが現実である。
 喰われた母も、お前のために死んでいった人達も、現実である。

 ドアノブに手を掛けたエレンは声が聞こえた方向へ、後方へ振り向く。
 其処には彼が望んだ理想は存在せず、代わりに在ったのは黒を纏う暗殺者だった。

「あ、アサシ――う、ぼぉ……」

 頭が破裂しそうだ、エレンは口元を抑えその場にしゃがみ込む。
 口元から溢れ出そうになる嘔吐物を必死に抑え込むのだ。
 理想郷が壊され、彼が気付いたのは苦しくて救いようのない現実だけ。
 総てが一瞬で黒に染まった彼は思い現実に膝をついていた。


   ◆  ◆  ◆

 山場を超えたエレンは顔色こそ悪いが平常心を取り戻していた。
 しかし問題があるとすれば彼は聞き逃していたのだ、全員が聞いていたと仮定されていた。

《天戯弥勒の話を彼は聞いていない》

 厳密に言えば脳内に響いていたのだが、彼は幻想に浸っていた。
 これは他参加者による攻撃ではなく彼が己の精神の甘さ故に招いた失態。
 彼は自分のために先輩《リヴァイ班》が死んだ。その時点から聖杯に招かれている。
 精神の弱さが招いた幻想、其処は理想郷であるが決して辿り着けない幻想郷であった。

「お前は出掛けなくていい、聖杯戦争が終わるまで此処で大人しくしていろ」

「――は? 俺は聖杯を手に」

「したいのなら黙っていろ。邪魔だ」

 アサシンは主であるエレンに戦線の不参加を唱えていた。
 唱えていた、優しい表現だが実際は警告に近い意義になるだろう。
 彼は邪魔と言った。エレンは戦場に必要ない、と。

「お前、それでも――ッ!」

「ならお前に何が出来る? 現に目の前も見れていないお前に何が出来る、言ってみろ」

 アサシンの言葉にエレンは立ち上がった、馬鹿にするな、と。
 しかし彼の質問に答えれない、彼が言っていることは正しい。悔しいが、情けないが、正しい。
 自分も定まらない奴が戦場に出ても死ぬだけ、足を引っ張るだけだ。

「俺は、俺は――」

「殺せるのか、無理だと思うが……まぁいい。夜は日常の用事でも外出はするな。それだけだ」

 姿を眩ませるアサシン、残るエレン。
 空っぽなエレン。その手に何が掴めるのか。帰るのか。帰らないのか。
 このまま暮らすのも悪くな――この考えだけは捨てなければならない。
 役目を思いだせ、エレン・イェーガー。お前は何と戦っている。

 お前の翼は何のために在る。無様に地を這うためでは無い筈だ。
 ならば泥に縋ってでも――さぁどうする? どうする? どうする?

 限界まで弦を引き絞るのか、標的が息絶えるまで何度も放つのか。

 選べ、お前は何がしたい、黙っているのも選択だ、それを責める《ナグサメル》者はこの空間に――存在しない。


【A-4/エレン自宅(マンション)/1日目 午後】


【エレン・イェーガー@進撃の巨人】
[状態]
[令呪]残り3画
[装備]立体機動装置
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り巨人をこの世から駆逐する。
0.俺は――。
1.今後の方針を考える。
2.明日になったら登校する。
3.生きている人間を……殺す?
[備考]
※アッシュフォード学園中等部在籍予定です。
※天戯弥勒の通達を聞いていません。

ジャファルはライダーとアーチャーの戦闘を目撃している。
 天戯弥勒の放送も聞いている、だが主であるエレンへの通達はしていない。
 必要ない、彼は戦闘に参加させるには不安定過ぎる。
 本来なら帰還と同時に情報を与える予定だったが仕方が無い。

 死神と称された彼でも主が死ねばその存在は元の座へと帰還するだけ。
 逆らえない現象、主の不手際で退場しては戦える事すらままならないのだ。

 エレンの素性は知っている、彼の境遇も理解している。
 其処には己の生涯に重なる部分もある、だが情けは無い。
 戦場に出るならば全員が死ぬ覚悟を持っているはずだ、故に死ぬことに責任など存在しない。
 邪魔なだけだ、嗚呼、そうだ。
 邪魔なんだ、だから引っ込んでいろ、お荷物を抱えるのは面倒だ。

 その代り、これが最初で最後の情けに――なるのだろうか。

 黙っている間に総てを殺し戻ってくる、その後で聖杯に願いを懸ければいい。

 だから今は、大人しくしてくれ。


【アサシン(ジャファル)@ファイアーエムブレム烈火の剣】
[状態]
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:獲物を殺す
1.夜になれば戦闘を開始する。
2.甘さは捨てろ……。
[備考]
※ランサー(レミリア)、ウォルター及びライダー(白ひげ)、虹村形兆の姿を確認しました(名前は知りません)
※奇妙な兵隊(バット・カンパニー)を視認しました。
※公衆電話の異変を感じ取りました。
※アーチャー(モリガン)を確認しました。




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最終更新:2015年04月05日 21:26