錯綜するダイヤグラム ◆wd6lXpjSKY



 剣を掲げし男女の英雄


 その刃に乘せるは刹那の希望、永遠の憧れ


 懸ける願いは己が夢、主への忠誠、或いは生き様


 戦場が学び舎、屋上であれど放つ衝撃は戦火の中と相変わらず。


 独裁魔術師は他者を塗り潰し己の色に染め上げる


 全ては王の為に、民を臣を極限まで使い潰す


 手を結ぶは過去の豪傑武将、その力に疑い無し


 互いに胸を明かさず、一つの点が合致しているだけの軟い同盟。


 そして潜む暗殺者。





 学び舎――アッシュフォード学園に現段階で座するマスターは五名。


 夢、目的、帰還……彼、彼女達は戦う理由が存在する。


 従うサーヴァントも例外なく主の駒としてその力を振るい、己が証を打ち立てる。


 誰もが退かず、協定を結ぼうが仮初であり、終点に至るのは元々一組でしかない。


 終点に至るのは一組、ならばその過程において朽ち果てる人形も――存在する。


 廻る廻る戦の輪、其処に予定調和など存在せず、決められた筋書きも無ければノルマも無し。


 あるのは舞台だけ、役者は揃って台本など読まず、求めるだけ求めるのだ、歓声を、拍手を。


 故に何処で誰が堕ちようと、舞台は変わらず、演じられる――。





◆  ◆  ◆





 双牙のセイバーが屋上で刃を交える中、人吉善吉は教室にて授業を受けている。
 戦火散らされる中悠々と授業を受ける彼を笑う者は、居るだろう。
 だが彼は気付いていない訳ではなく、ハイリアのセイバーが鳴らした警告を感じている。
 その挑発に乗るな、止めるアサシン。この選択が正解かどうかは不明だ。
 しかし授業を抜け出さず、全うする姿は生徒の鑑。流石生徒会、と茶化すべきか。

 主である人吉の行動を止めたアサシン、垣根帝督。
 不確定要素の塊である現状で、直感に任せ行動するのは危険過ぎる。
 冬場に夏タイヤでアクセルを極限まで踏み込むなど愚の骨頂、それに値する。
 目の前にある危険に自ら乗り込むなど考えられず、場を見極めるならばここは静観を取るべきだ。

 幸い人吉は彼の進言を受け入れた。
 アサシンのクラスで現界している己に真正面からの接近戦は不利になる可能性が高い。
 彼自身負ける気など微塵も思っていなく、正面から戦える力を所有している、が。
 腐っても呼び出されるサーヴァントは大なり小なりこの世に名前を刻んだ伝説の存在だ。
 用心するに越したことはない。

 逆に屋上の挑発に乗った者も存在する、人吉の隣に在籍している生徒だ。
 名を夜科アゲハ、彼が動き出したタイミングは挑発のそれと重なっている。
 トイレと宣言し席を立ったが、十中八九屋上に行くための建前だろう。

 夜科アゲハが何を思い屋上に向かったかは知らないが潰し合ってくれるなら重畳。
 手を汚さないで頭数を減らすことが出来れば今後の展開に上方修正を入れる事が出来る。

 ああ、違う。

 手を汚すことなど別に構わない。
 人は死ぬ、英霊でも今はこの世に形を保っているならば再度、死が訪れるだろう。
 標的は全員敵だ、思惑は存じぬが参戦しているならば無関係は強調出来ない。
 手を汚すことなど別に構わない。力を温存出来る、これが全てだ。

(音が何も聞こえねぇ)

 時間は経っているが件の屋上から、学園の上から振動は何一つ伝わってこない。
 会話でもしているのだろうか。

 一つ、仮説を打ち立てよう。

 もし屋上の過剰な魔力反応が挑発ではなく、一種のアピールだとすれば。

 人吉善吉は聖杯戦争に参加している、当たり前だ。そのサーヴァントが垣根帝督なのだから。
 この当たり前の情報――これを握っている他の参加者は現段階では知らない。
 居ない、と断定出来ないのが情けない所だが、少なくても彼らは知らないのだ。

 情報収集が目的として、屋上の挑発は関係者以外気付くことはないだろう。
 つまり寄ってくるのは野次馬ではなく他の参加者だ。接触を求めるには絶好の機会である。
 無論騙し討の線もなくはないが……何にせよ全く反応が感じられない。

 誰かが死んだか、手を結んだか。

『なぁ……屋上から何も感じねえな』

『まぁそんなもんだろ、今は大人しくしとけ』

 人吉が念話で垣根に話しかけるも一言返すだけ。
 実際問題、今此処で別段動く必要も無ければ、策を張り巡らせる必要もまだ無い、だろう。
 何が起きたかは帰ってきた夜科アゲハから察すればいい。
 帰ってこなければ所詮その程度の存在だった、それだけのこと。


 だったのだが。


(――!)


『おい、アサシン! 一気に反応が膨れ上がったぞ!?』


 意識を離したその刹那、忘れるなと強調するかのように膨れ上がった魔力。
 彼らは知る術が無かった。時のセイバーが奏でた音色は結界となり屋上を包んだ。
 これにより外部には一切の音と反応を遮断、人吉達には何も届かない。

 それを断ち切ったのがもう一人のセイバーだ。
 宝具の名を開放し魔力を放出、彼女の一振りが時のセイバーの結界を断ち切った、それだけのこと。

 結界が無くなったことにより充満していた魔力が解放される。
 気付くのは他参加者であろうが、戦闘音が響くのも時間の問題だろう。
 静観を選択したが気配を遮断し一旦偵察に向かうのも悪くはない、そんな思考が生まれるが。


「先生、夜科が中々戻ってこないので様子を見てきます!」


 思考、そんな無駄な過程何て必要ない、そう言わんばかりの勢いで席を立つ人吉。
 活発で行動力のある若者……言葉の印象は最高だが馬鹿だ、愚かだ、死地へ向かう志願者と変わらない。
 面を喰らい溜息を零す垣根だが一応だ、言っても無駄だと思うが静止を掛ける。


『行ってどうすんだ?』


『この反応の大きさってマジで殺す気じゃねぇか、わざわざ殺す必要もないだろ。
 叶えたい願いが在るのは解るけどよ、脱落でいいんだ。
 だったら止めるさ、生徒会として、人として……同じ参加者だとしてな!』


 扉を開けると人吉は脇目も振らず階段へ直行した。
 垣根の反応も伺うこと無く屋上に向かい参加者との接触を図るのだろう。
 それは情報交換などと言う名義ではなく、戦闘の停止の呼びかけだった。


『……あの野郎本気でゲームか何かと勘違いしてんのか。
 ったくよぉ、馬鹿何だか人誑し何だか……』


 走り去る己のマスターに垣根はやれやれと言うように言葉を零した。


 垣根帝督には夢が在る。
 文字に起こすととても幼稚だが仕方がない、事実だから。
 彼はマスターに言った。

『もう一度やり返したい奴が居る』

 そのために彼は聖杯に願いを懸けるのだ。
 リベンジマッチだ、淡く、消えそうな灯火。
 だが信念が強ければ強い程しぶとく永劫に灯る内の炎。

 その名は一方通行。
 垣根がまだ生を得ていた頃の世界で事実上最強の座に君臨していた学園都市有数の超能力者だ。
 その力は反射、万物悉く跳ね返す絶対無敵の超絶超能力者、彼はその力に負けた。

 この願いの先に垣根の更なる願い――願いと言う表現が適切かどうかは曖昧だが目的がある。
 彼が居た学園都市のトップであるアレイスター、そう呼ばれる人物との直接交渉権だ。
 その先にある思惑は本人しか解らない、それはマスターさえも。

 だが彼の願いに大きな穴が在る、しかもその穴は落とし穴などではない。

 彼が標的としている一方通行はバーサーカーとしてこの聖杯戦争に参加しているのだ。
 もしこの世に神が居るならば、少年漫画が好きなのだろう。

『わざわざ願いを叶えなくても因縁の戦いのためにお膳立てをしてるんだから』






「……」





 人吉の後を追い廊下に出るも彼の姿は見当たらない。相当な走りだったのだろう。
 数歩先の角に視線を配り、彼もまた行動する。

 柄でも無いが願いが在る、それもメルヘンチックなリベンジマッチ。

 可怪しい事はない。

 願いが無い人間など傀儡や死徒と同義だから。





◆  ◆  ◆





 犬飼伊介は真剣に授業を受ける気は無く机に伏している。
 大方テストでも碌に書き込みもせず白紙で提出するような生徒だったのだろう。
 机に伏しているだけなのに絵になるような、どうしようもない光景。

 彼女もまた別クラスのマスターと同じく屋上の挑発に気が付いている。
 あれ程魔力を強調したのだ、力に自信があるのだろう、ならば動く時ではない。

 サーヴァントであるキャスターは優秀だ、声に出したくはないが魔術師としては優秀である。
 キャスターに正面から戦う力は無いがその宝具である洗脳は強大な力だ。
 現にこのクラスに在籍している生徒の七割は彼女達の駒となっている。

 その駒に命令を下す。

『屋上を見てこい』

 だが返ってきた連絡は『扉が開かない』。

 キャスター曰く結界の一種でも使用しているらしい。
 つまり他の餌が引っかかったのだろう。
 そうなればこの学園には自分も含めて四人の参加者が在籍していることになる。


「居眠りとは感心しないな」

「んー、それはあたしに言ってるのかなぁ♥」

「お前以外に誰が寝ていると言うのだ、たわけ」


 屋上挑発した参加者、これで一人。
 釣られた参加者が一人と仮定して、二人。
 自分を含めて、三人。

 そして寝ている伊介に注意を促したのが朽木ルキア、彼女もまた聖杯戦争に参加するマスターだ。
 その願いは力を取り戻す、嘗て死神の力を有していたあの頃に戻るため。
 力が欲しい、だがそれは他者を殺してまでも叶える願いではない、重々承知している。
 故に彼女は殺しを行わず、そのサーヴァントもまた殺しを行わない。
 何の因果が働いたかは不明だが神はどうも己の好みを反映している節がある。

「伊介様♥ そう呼べって言ってるだろ」

 居眠りを注意されたのが癇に障ったのか。
 伊介はお前呼ばわりされたことに釘を刺す、それも黒い笑顔で。
 その瞳に込められている感情は威嚇のそれと変わらない。

「……はぁ」

 その反応に何を思ったかは不明だが溜息を零す。
 何故このような奴と同盟を結んでいるのか、と。

 両者はこれでも一応同盟を結んでいる、が。
 とても柔く、脆く、崩してくれと言っているような淡い同盟である。

 犬飼伊介と朽木ルキアの間で結ばれている同盟。
 同盟と言っても名前だけ、利害が一致しているだけの一時的な協定だ。
 聖杯に叶えられる願いは一つ、ならば必然的に残る主従は一組であり、当然である。

 犬飼伊介とキャスターは朽木ルキアとランサーを捨てる気でいる。
 しかも犬飼伊介は隙があれば己のサーヴァントを変えることも視野に入れているのだ。

 キャスターの統率力は魅力的ではあるが戦闘能力は皆無だ。
 珠正面からの戦闘に関しては英霊などと口が裂けても言えないだろう。
 故に大局を長い目で見据えるならば鞘替えも充分選択の範囲に陥る。

 彼女が知っているサーヴァントは現段階で朽木ルキアのランサーのみ。
 戦闘面ではキャスターとは比べ物にならない程上を行くだろう。
 そして何より犬飼伊介は己のサーヴァントである食蜂操祈を気に入っていない。


『あ、ちょっと展開に異変ありだゾ☆」


 犬飼伊介が朽木ルキアに注意され機嫌を損ねていた時、風が吹いたように取り巻く空気が変貌する。

 先ほどから反応が感じられていなかった屋上から突然膨大な魔力の反応が有り。
 結界が崩壊したと見て間違いないが、さて、どう動く。


『生徒を送りなさい♥』

『解ってるわよそんな事』

 軽い念話で再び生徒を屋上に向かわせる、偵察の意だ。

「おい、今度は此方でも動かせてもらう」

「まぁ勝手にどうぞ♥」


 朽木ルキアもまた己のサーヴァントを動かす。


『おうよ! んじゃちょいと鐘が鳴り響いたら行くとしますか』


 時計をを見ると後五分程度で授業が終了する。
 余計に騒いでは他の生徒に迷惑と判断しランサーは一拍間をおいて行動を開始すると宣言。
 仮初めの世界に通う創られた生徒達だが彼らにも生活のサイクルは存在する。
 ならば、無為に巻き込む必要はない。



◆  ◆  ◆



「おい! さっきから此処で――っていねぇじゃん……」


 屋上に人吉が辿り着いた時、其処に人の姿は無し。
 遅かったのか、決して遅くはないが結果論を述べるとしよう。

 先に動いた夜科アゲハは他の参加者と接触した。
 出遅れた人吉善吉は誰とも接触をしていない。

 一見前者の方が正解に見えるが後者の方が利口である。
 人吉は知らないが夜科アゲハは屋上で戦闘を行い少ないながらも魔力を消費した。
 その代りに得たのが他の参加者の情報、そしてどう転ぶか不明だが再度交渉の提案をしている。

 さぁ、神が居るならばどう大局を動かすか。

 最も今の人吉にそんな情報を知る術は存在しないのだが。

 屋上を見渡すと損害は特に見当たらない。
 強いて挙げるならば床に戦痕とフェンスが少々歪んでいるぐらいか。
 何にせよ、無駄足となってしまった。





「着地成功、とっとと逃げるぞ」

「わーってるよ」

 屋上から飛び降りた夜科アゲハとセイバーはそのまま茂みの奥に移動を開始する。
 唯でさえ目立ってしまった彼ら、校庭に留まっていれば尚更注目を集めるだろう。

「で、これからどうすんだアゲハ?」

 己のマスターに提案するセイバー。
 今後の動向はどう考えているか。
 余り使いたくはないが彼女は彼の従者であり、決定権は彼にある。
 どんな命令でも素直に二つ返事で許可するつもりはないがマスターの命令は基本守るつもりだ。
 故に今後の予定について聞く必要があった。


「一応体育館裏に来いって言ったからな……まだ昼前だけど先に行こうと思ってる」

「本当に来るのかあの女ぁ? どうもあたしに似てる声で耳に付くっつーか。
 まぁいいけどよ、昼前……十二時丁度に昼飯って訳でもないよな、ならそれなりに待つことになる。
 お前も魔力消費したみたいだしあたしも方太刀バサミ使っちまって魔力を消費したしな……英霊ってのは何でこうも制限が」


 生前ならば武器の一つや二つを振るう度に力を浪費することなど無かった。
 英霊の枠は魔力となりてその力の強さ引き換えに枷を嵌めていた。


 茂みに身を隠すとそのまま人目に付かないように移動を開始する。
 幸い外で授業を行っていなく体育館裏までは特に生徒と出会うこと無く辿り着けそうだ。

「これであの女が仲間になるなら、まぁ楽にはなるな」

「あぁ、仲間が増えることに文句はない……けどよ」

 歯切れ悪く返答するアゲハ、それを読み取るセイバー。
 聖杯戦争に参加している者には少なからず願いが存在する、天戯弥勒も言っていた。

「最後に残るのは一人、だろ? んなもん気しにしてもしゃーねぇぞ。
 お前が天戯弥勒をぶっ飛ばしさえすれば願いも関係ないだろ……大体何が聖杯だよ。
 あたし達サーヴァントが居るってことは聖杯はあるんだろうよ、でも姿も見えなきゃ形も解らねぇと来たもんだ」

 天戯弥勒は願いを叶えてやる、だから殺し合え。
 簡単にまとめると参加者にこう言い放った、変えようのない事実であり既実。

 だが聖杯とは言葉ばかりだ。現にアゲハは聖杯の存在を知らないで巻き込まれている。
 総ての参加者が聖杯を知っている訳ではない、天戯弥勒の言葉でしか知らないのだ。

「俺も願いを叶える何でもマシーンがあるとは思わない、けどよ。
 それに縋りたい奴もいる……しゃーねぇんだわ、よく出来てるシステムだぜ」

 人間は甘く、脆く、愚かで。
 駄目と解っていても動いてしまう。
 結果が欲しい、理由が欲しい、反応が欲しい、誰かに見られたい、独りにしないで。
 本来ならば他者を蹴落とし己の願いを叶えるなど外道畜生の所業である。
 それすらも解らず、手を伸ばしても掴むのは光ではなく藁。道を踏み外し続ける。
 気付いた時に周りを見渡せば己に負の感情しか取り巻いていないだろう。

「つまり、だ。天戯弥勒の言葉に乗せられちまっているんだ、ムカつくな。
 聖なる盃なんだろ? 大層な響きじゃねぇか……くだらねえ。
 あたしが天戯弥勒ならテメェで聖杯の願いとやらを使うね、他人に殺させて選ばすなんて馬鹿らしい」

 そもそも何故争わなくてはいけないのか、流れに身を任せているのではないか。
 天戯弥勒の言葉に縋り在るかどうかも解らない聖杯のために……不毛だ。

 会話をしている内に特段人との遭遇もなく体育館裏に辿り着いた彼ら。
 授業中の影響もあり人の気配は一切感じられず今此処に居るのは彼らだけだろう。
 適当に壁を背にし腰を落とす、ここいらで小休止と行こうではないか。

「それでよぉ、あっちのセイバーだけど」

 休憩している間にセイバーが言葉を漏らす、先の戦いで合間見た敵の話だ。

「あたしにはどうも心当たりが無いんだ、あんなオカリナ? 吹いたりしてる奴ぁ」

 剣を司る姿はセイバー、それは確定だろう。
 盾を使う姿は由緒正しき騎士を連想させる。
 青い瞳に特徴的な耳、服装からして異国の出身と断定。
 更にはオカリナを奏で挑発や結界を張れる能力を持つ……これだけの情報があれば特定に到れるかもしれない。

「あれだけ特徴があんなら嫌でも耳にすると思うけど生憎あたしの耳に、周りの奴らもそんな噂は聞いてない、けどよ」

 言葉を次々と紡いでいくセイバーの話を黙って聞くアゲハ。
 彼も対峙したセイバーの所在を知らないのだ、決して勉学をサボった訳ではない。
 天戯弥勒の言葉を借りるならば『世界が複数存在』するらしい、自分が居ない世界の歴史など知る由もない。
 アゲハ自身未来を旅していたこともあり、平行世界論に違和感も意義もない。

「それでも何となく、何となくなんだけど記憶に引っかかるって言うか……アレだ。
 英霊としての記憶っつーかなんつーかよ、知らないけど知っているような気がすんだ」

「お前何言ってんだ?」

「知らん」

 セイバーの言い分は知っているが知らない、知らないが知っている。
 子供が悪巧みを隠蔽するかのような弱い言葉の羅列だ。
 真意を問いただせば知らんと一蹴、彼女は何を言いたいのか。


「サーヴァントとしての知識って奴だよ、自前じゃない。
 もう少し情報が手に入れば何となく手が届きそうって話だよ。
 放課後もし時間とか持て余すならよ、一度本なりパソコンなりで調べてみようぜ」


 セイバーとセイバーの世界は異なるため、当然ながら生前の記憶に他者の存在は無い。
 だが英霊となり現界したことで数多の世界が爻わった、そう解釈するならば。
 この空間は線と線を繋ぐ点であり、総ての知識が集約されていても可怪しくはない。


「なるほど。その提案に乗った、何も無い何てねぇと思うがそうしようぜ」


 相手の情報を入手しそれを基に対策を立てる、戦闘で有用な手段だ。
 悔しいが夜科アゲハの力ではサーヴァントを相手に立ち回るのは辛いものがある。
 セイバーが対魔力を有していた線もあるが、それでも辛い戦いになるだろう。
 ならば己のサーヴァントを優位に進めるためにも情報収集を行う、悪くない。


 まずは此処で紅月カレンを待つ。話はそれからだ。


◆  ◆  ◆


「じゃあその夜科アゲハって男が体育館裏に居るのね♥」


 廊下ではキャスターの宝具で支配下に置かれている生徒から報告を受けている犬飼伊介の姿があった。
 話では黒い髪の男が女のサーヴァントと共に屋上で交戦していた、獲物は剣だったそうだ。
 この情報で一人、剣の英雄とその主を特定出来たのは結果上々だろう。

 加えて屋上にて挑発を行ったサーヴァントもセイバーであると判明した。
 生徒の名前は紅月カレン、生徒会に所属している生徒らしい。

 この時点で二つの主従の情報を手に入れたのだ。
 本人達は特に行動もしていない、キャスターの統率力が結果を招き込んだのだ。

「じゃあ体育館裏に直行お願ーい♥」

「お前は行かないのか? その命令に従うとでも?」

 体育館裏に夜科アゲハが滞在している情報を元に犬飼伊介は朽木ルキアに命令を下す。
 同盟を結んでいるならば偏りは避けるのが定石だ、だが。

「キャスターが正面からセイバーに敵うわけないじゃん♥」

「その言い方はムカつく☆ でも此処はそちらが向かうべきじゃない?」

「簡単に言ってくれるな、お前らは……」

 キャスターの力とランサーの力。
 優劣を戦闘力として付けるならば後者が圧倒的である。
 セイバー相手ならばキャスター魔術師よりも槍騎兵の方が絵にもなる。

「伊介様って言ってんでしょ? それにランサーがどれ位強いか知りたいし♥」

「おうおう、言ってくれるじゃあないか」

 体育館裏に別の参加者が居る、この事を知れたのはキャスターの力だ。
 しかしそれを総て押し付けるのは如何なものか、朽木ルキアは思う。
 任せっきりではなく一緒に行くのが筋では無いだろうか。

「行くのに文句は無い、けどよ。
 背中を狙うつもりってんなら先に釘刺しておくぜ?」

「こわーい☆」

 会話をするだけで疲れる、朽木ルキアの率直な感想だ。
 犬飼伊介とキャスターの言動は一々何かと癇に障る。
 まるで無理矢理素体に色を塗り潰したかのような喋り方はどうも気に入らないらしい。

 戦地に赴くことに依存は無いため、ランサーと共に体育館裏へ向かう。
 ランサーはこの時キャスター達に釘を刺した。

 他者を操る宝具を用いているのだ、何時奇襲されるか解った物ではない。

「小手先調べの偵察程度だと思え。
 お前達も何か新しい情報を掴んだら何か連絡してくれ……余り無闇に人を使い潰すなよ」

「……」

「……」

 ルキアの忠告に揃って口を動かさないキャスター陣営。
 子供のような態度に溜息を零すルキアだったが時間の無駄だと思い追求はしない。

 そのままランサーと共に体育館裏に向かうため廊下を後にした。

 ランサー達の背中を見つめる犬飼伊介とキャスター。
 ランサーに釘を刺された『背中を狙うな』。
 ルキアに忠告された『駒を使い潰すな』。
 どちらもキャスター陣営の武器であり魅力である決して表向きではない能力。
 戦場にて火花を散らすだけが戦ではない、彼女達には彼女達の戦い方があるのだ。

「なにあの女ぁ、ホントムカつくわね」

「まぁー別にいいんじゃないー? その通りだし♥」

 故に忠告を守る予定は存在しない。
 同盟として使えないようならば隙を見て背中を狙う。
 狙えなくてもマスターを操りこの手に収めれば詰み同然である。

 駒も同様だ。
 使えるもの総てを使い、潰し、己にとって優位な戦局を創り出し、動かす。
 此方にも願いはあるのだ。

 力が欲しい、戦いたい。
 そんなくだらない絵空事に付き合う必要など無いのだ。


「それで、もう一人の参加者については?」

「はい、キャスター様」


 此処からはランサー達は知らない時間となる。
 先に報告を行った生徒に再度情報の開示を求め始める。
 何もランサー達が居る場で総てを引き出す必要はない、無意味に与える必要が無いのだ。

「紅月カレン、同じく夜科アゲハ達と共に屋上から飛び降りてきた生徒です。
 髪は紅、生徒会に所属しているようですが……病弱な生徒と聞いておりましたが活発に見えました。
 そして彼女のサーヴァントは緑の騎士、セイバーです」

「ふーん。どいつもこいつもキャラ創ってるのね☆
 これで割れた情報はセイバーが二人……二人、ね」

 本来ならば聖杯戦争には七つのクラスに座を用意されたサーヴァントを使役する。
 その座は各クラス一つであり複数存在することなど例外中の例外だ。
 元々天戯弥勒の存在や力、思惑も未知なため総てが未知であり既視など存在しないのかもしれないが。

「じゃあ引き続きお願いね☆」

 そして偵察任務を再度言い渡し――









「ったく同窓会じゃねぇんだぞ、おい」









 無数の羽が吹き荒れると生徒の背中は突き刺された羽で覆われこの世から生を失った。









 状況を理解出来ていないが察知した伊介は死んだ生徒の首を掴み己の前方に引き込む。
 攻撃してきた男はサーヴァントだ、もう一度同じ攻撃を仕掛けられては対処のしようがない。
 横に広さが確保されていない廊下で直線上の攻撃は回避する機会も限られてしまう。
 故に取る行動は盾の確保だ。

「突然大胆過ぎないかしら? お兄さん♥」

「よく言うぜ、ずっとコソコソ嗅ぎ廻っていたじゃねぇか。
 どうせ屋上の奴らの情報でも握ってんだろ、寄越せ」

 伊介は言動こそ普段と変わらないが言葉に篭もる感情は違う。
 暗殺者としての威厳と黒い感情を、未知なる敵と対峙している不安な感情を。

 情報を寄越せと言われても簡単に渡す訳には行かない。
 それは此方が優勢であったり信念や正義に駆られている時の建前だ。
 明け渡したことによって安全が確保されるならばその選択も悪くない。
 何方にせよサーヴァントにはサーヴァントで対向するのが筋だろう。
 戦力は無いにしても交渉は出来る、そう思いキャスターに視線を移すが――。


「い、居ない……はぁ!?」


 其処にキャスターの姿は見当たらない。
 先程まで隣に居た筈、しかし其処には無の空間があるだけ。
 霊体化でもして遠くに移動したのか、だどしたら何故だ。

 思考が回らない中、目の前の男は不敵に笑っている。
 最初は我慢していたようだが堪え切れなくなり周囲に笑いを零す。


「テメェのマスターがピンチって奴だぞ? なのに黙り決め込むか。
 悪いとは言わねーよ、けど身の振り方を考えたらどうだ? 何時迄も駒が在るとは限らないぜ」


 彼の言っていることは総て正しい。
 主の危険に己の身を案じて逃走するなど従者失格である。
 その振る舞いもいずれは誰一人として信用しなく、虚無の存在になるだろう。

 此処で恐ろしいのは目の前のサーヴァントの洞察、観察力だ。
 偵察を行わせた生徒を傀儡だと睨み、追尾して此処まで来たのだろう。

 一瞬で見抜いたか、何か力を作用させたかは知らぬがキャスターの絡繰を見抜いている。
 目の前の男はホストのようなスーツを纏い、その見た目から年齢は学生程度に感じる。
 先の攻撃は羽、これが彼の能力、或いは宝具と仮定する。しかしこれだけではクラスの断定まで辿り着かない。

「他人を操るのは充分強力な部類だと思うぜ。でもよ。
 俺には通じないな、簡単な数字の優劣でもそうだろ? 俺に常識が通用しないってのは知っているよな?」

 対魔力のスキルでキャスターの宝具は封じれるようだ、これは前もって聞いてある。
 その他にも特殊なスキルで阻まれる可能性も在るらしく、特に三騎士相手には武が悪過ぎる話だ。
 故にランサーと同盟を結べたのは幸先良いスタートであった。

 ランサーに連絡を行うにも携帯のような連絡手段は使えない、単純に知らないのだ。
 交換でもしとけば良かった、後悔しても遅い。キャスターが線を繋ぐ点となっていたから。
 そのキャスターが居なくては連絡も取れない、ならば何とかするしか無いのだが……無理な話だ。

 そもそも何故キャスターは逃げたのか。
 仮に此処でマスターである伊介が死ねば彼女も消滅する。
 立ち向かうのが筋であり定石ではある。しかし逃走。

 立ち向かったとしても相手は此方の力を見抜いているため状況は最悪だ。
 願力で覆せるような状況ではなく、早くも絶体絶命と言った所だ。


「出てこいよ、第五位。
 出て来ないならここでお前のマスターも、お前自身も脱落だぜ……っと」


 言葉を紡いだ男の背中には不釣り合いな翼が誕生する。
 その白き輝きを放つ翼、そこから放たれる羽で駒を殺害したのだろう。
 突然の変異に驚くがそれ以外にも驚くべきことが紡がれていた。


「――キャスターの知り合い?」


「知り合い……ねぇ、簡単に言えば同じ世界出身ってとこか。
 ついでに同じ地域に滞在していたって言ってもいいぜ。何で無数に枝分かれる英霊から知り合いを引くんだか」


 やれやれと謂わんばかりに愚痴を零す男。
 キャスターの知り合い、それならば能力を見抜いたことも納得出来る。
 そして言葉から察するにキャスターよりも上を行く存在なのだろう。
『簡単な数字の優劣』つまり彼女は彼よりも下、故に逃走を選択したのか。

 理解は出来るが認識したくない事実だ。

 使えない、鞘替えをしたい、ランサーにでも乗り換えれば良かった。

「それで、伊介を此処で殺すの? あたしだって死にたくないし死ぬつもりもないけど」

「別に殺す必要は無い……まぁ関係者なら即効殺してもいいけどよ。
 持ってんだろ、テレカ。そいつ使って帰るなら文句は言わねーよ、でも、しねぇだろ」

 顔や身体全身に汗が走り出して行くのが気持ち悪いほど解る。
 決してゴールなど甘い終着点は無く此処で命が散るかもしれないという不安が永遠のマラソンを継続させる。

 男の提案であるテレカの使用。
 サーヴァント消失後六時間以内ならばテレホンカードを使用し元の世界へ帰還するルールがある。
 別の世界、この単語が有る時点で状況は超弩級のメルヘンチックだ。

「しなーい♥ 願いは此方にもあるの」

「そうか、まぁそうだろうな。
 俺のマスターも願いは在る。柄じゃねぇけど力になってやってもいい。
 生徒会何ぜ無駄な肩書背負って恋に生きるってのは学生らしい、眩しく見えちまう……ってどうでもいいな。
 隣に座ってた奴もマスター何て随分と出来上がってる話なんだわ、これがよ。それに第五位まで来やがった。
 もしかしたらアイツも居るかもしれない……長話悪いな、で、決まったか?」

 一息付くと垣根は伊介に決断の有無を問い正す。
 死ぬか、キャスターを放棄しテレカを使う実験材料となるか。
 暗部の彼にしてみれば生存の選択を与えているだけ充分マシな問になっている。

 何も言われず殺されていた可能性も在るためこれは好機、だが。



「神様って居るかもしれない……まさか、ね♥」



 黒い笑みを零す伊介、それは死を悟った哀れな感情ではない。
 彼女の視線の先、つまり垣根帝督の背後になる。
 彼女はどうやら愛されているらしい、まだ生き延びる事が出来そうだ。

 つまり――。


「新手か――ッ!」


 その視線に感づいたのか背後に振り向き確認を行う垣根帝督。
 其処には叩き斬らんとばかり剣を振るう緑のサーヴァントの姿あり。

 その一撃を翼で己を囲むように重ね防ぐ、衝撃を殺すと翼を広げ風圧で弾き飛ばす。
 相手のサーヴァントは見た目とは反して重量に自信があるのか、床を後退るように後退した。

 そのサーヴァント、時の勇者、ハイラルの英雄。その名をリンク。
 屋上で挑発を行った本人であり、此度の聖杯にセイバーとして招かれた紅月カレンの従者である。 
 騒ぎを聞きやって来た……キャスターが情報交換のために人払いをしている。
 元々廊下の奥側、移動教室の中でも特に使われないような場所を選んだため騒ぎになることはない。
 戦闘音と言っても垣根帝督はアサシン故か音を殺していたため漏れはない。

 結果だけ述べるとキャスターが駒に命令し生徒会である紅月カレンに伝えたのだ。

『とある場所で暴れている不審な男が居る』と。


「助ける義理は無いよ、でも関係ない生徒を殺す奴の方が敵だ」


 伊介の傍に駆け寄った紅月カレンはそう告げる。
 何故伊介がマスターだと解ったのか、単純にサーヴァントに襲われているからだ。
 彼女のサーヴァントが見えないのは恐らくやられてしまった、そう認識している。

「じゃあ……お願いねッ!」

「――な」

 そう聞くと近くに堕ちていた垣根の羽を掴む、そして走りだす。
 カレンの横を通り過ぎる時にはそのまま脇腹を切り裂くように羽を腕ごと伸ばす。
 不意打ち奇襲突然動揺、カレンは対処する暇もなく脇腹を抉られた。

「っあぁ……っあぁ!」

 即座に抉られた傷口を腕で抑え始める。
 深くはない、致命傷にもならないが傷に変わりないし、血が出ているのも確かだ。
 死にはしない傷だが出血量は傷口に反比例し多く、まるで一番血が出る部分を狙われたかのように。

「じゃあね♥ 紅月カレン、次会ったら謝ってあげる♥」

 窓ガラスを蹴破るとそのまま伊介は外に飛び出し逃走を図る。
 高さは二階、死ぬ事も無ければ着地に失敗するような高さでもない。

「――ッ!」

 己のマスターに傷を負わせた、これは従者として失格だ。
 言葉には出さないが表情が物語っており、リンクの顔は明るくはない。
 黙って逃がす訳もなく逃げる伊介の足を狙い矢を放つ。

 一直線に吸い込まれるように飛んで行く矢だが当たらない。
 手元が狂った訳ではない、どうやら犬飼伊介という生徒は何かしらの力を持っているようだ。

 手に握りしめていた垣根の羽――宝具である未現物質の残骸で矢を相殺させていた。

 そのまま消えるように逃亡。

 結果として傷を負ったのが紅月カレンだけだ。馬鹿らしい。 
 加勢に入ったお人好しは裏を欠かれ逃げるための駒にされてしまった。
 犬飼伊介、どうも頭が回る小悪党らしい。



◆  ◆  ◆



「これはこれはお二人さんお揃いでぇ、邪魔したかい?」



 時計の針はまだ昼じゃない、けどやって来た奴は紅月じゃなくてデッケー男だった。



 俺と纏が余裕を持って体育館裏で休憩していた時、コイツが現れた。

「紅月の……仲間か何かか?」

「紅月? 聞いた事無い名前だけど待ち人かい兄ちゃん」

 俺の投げた質問にこの男はチャラチャラした回答を寄越しやがった。
 そんな訳ないだろ、まぁ体育館裏って状況を考えれば解らなくもないけど。

「お前……マジか?」

 何でお前が引いてんだよ纏。俺と紅月って屋上で戦ってただろ。
 そっから始まる恋模様何て火薬と硝煙の匂いしかしねぇ。それに俺には雨……ったく。

「そう思うなら一人で待ってると思うけど?
 そんな事言いに来たんじゃないんだろ、馬鹿長い刀担いで現れやがって」

 自分の身長より長い刀、こんなの担いでる奴ってのは聖杯戦争中なら確定に決まってんだろ。
 紅月のセイバーもそうだが、纏を含めてこの学園にセイバーが三体も揃ってんのかよ……ん?


「なぁ、聞きたいんだけどよ、サーヴァントってのは同じクラスは何体まで大丈夫なんだ?」


 出会うサーヴァントが全員セイバーってのは出来過ぎな話だ。
 これじゃあ全員セイバーかも、そんな事も思っちまう。
 どっちでもいいから早く答えてくれ、同じ英霊なら聖杯戦争の仕組みぐらい解るんだろ?


「お前……各クラス一人に決まってんだろ」


「其処のお嬢ちゃんの言う通りだ……ん?」


 だろ、そりゃあ疑問も生まれるよな。
 俺達が対峙した紅月のサーヴァントはセイバーだった。そして纏も。
 この時点でセイバーが二組、複数居ることになるんだ。
 仕組みが違うなら天戯弥勒が手を加えたんだろうか、アイツは一体何を考えていやがる。


「なるほど、なるほどね! つまりお嬢ちゃんはセイバーで他にもセイバーが居たんだな?」


「そう言うこった、あんたも戦いに来たんだろ? 今あたしはちょっと身体を動かしたいんだ」


 纏は武器であるハサミの片割れを取り出して構え始めやがった。
 俺はまだ何も言ってねぇ、戦う事に異存はないけど。

 その構えを見て男も馬鹿長い刀を抜いた。

「じゃあいっちょ始めますか、この聖杯戦争の初陣、罷り通らせてもらう! この前だ――ってはいはい」

 豪快に刀を振り回して、まるで戦が始まるように気合を入れていたのに止まっちまった。
 何があった、何てどうでもいいや。纏もやる気だ。
 俺だって――まずはこいつのマスターを探すのが先だな。
 こいつもセイバーなら悔しいが俺のPSIは通じないと考えたほうがいい、今は出来る事をやるだけだ。


「悪い悪い! 名乗りそうにしてたら主に怒られちまった! んじゃあ気を取り直して――ッ!」


「先手必勝って奴だよォ!!」


 男が構えを取っている最中に纏はもう走りだしていた。
 そのまま片手豪快にハサミを縦に一振り、けど防がれっちまってんな。
 まぁ何にせよ戦いが始まってんなら俺も動く。


「――暴王の流星」




◆  ◆  ◆




「おっと! お嬢ちゃん女の子なのに随分力があるんだねぇ!」


 纏流子の不意打ちを難なく刀で防ぐ前田慶次。
 彼とて歴史に名を刻んだ戦国武将だ、不意の一つや二つ、突かれた所で動揺などしない。
 縦の一撃を横に防ぎ均衡状態、しかし両者は口を動かす余裕は在る。


「お嬢ちゃんって何だよ、あたしは纏だそう呼びな」


「名前を自分から明かすたぁいいねッ! なら俺も言わなきゃ筋が通らないってもんよ!」


 英霊は伝説の存在だ。
 故に英雄の霊、過去に名を馳せた歴史の怪物である。
 その知名度故に彼らには伝記が残されていることは多々ある。
 つまり名前を明かすとそれを元に経歴や武具などを調べ上げられる可能性があるのだ。 
 幾ら伝説の存在と云えど対策を建てられては分が悪い話だろう。


『馬鹿者が! 言ったばかりであろう、名を明かすなと』


『悪いね、女が名乗ってんだ、男が気にして名乗らない何て……なぁ!』


 念話を行いマスターに確認を求める、否。無くても行う。
 このまま黙っていれば男が廃る、黒き流星を紙一重で回避し口を開く。




 この男、唯の阿呆と思う事なかれ。


「改めて名乗らせて貰うぜ――前田慶次が、いざ!」


 絢麗豪壮 天下無敵の風来坊


「前田慶次――ってそらァ!?」


 恋に生きし 色男


「あの戦国武将――!?」


「罷り通る!!」




 天高らかに名乗りを挙げると豪快に刀を振り払い獲物毎纏を吹き飛ばす。
 動きを止めることはなく追撃を行わんばかりと大地を蹴りあげ距離を詰める。
 今度は此方の番だ、喰らいやがれ。斜めに一閃、振り下ろす。


 振り下ろされた一撃は獲物の長さ、戦国武将の腕力も相まって絶大な衝撃となる。
 だが纏もこの一撃に簡単に屈することはなく、衝撃を防いでいた。
 セイバーのクラスとランサーのクラス、何方もその資質、素質、能力に偽りや虚偽なし。


「戦国武将様と戦い合う【やり合う】たぁ思ってもいなかったぜぇ、おいッ!」


 此方もお返しと謂わんばかりハサミを斜め上方に振り抜き均衡状態を崩す。
 前田慶次はそのまま後方に飛び込み大きく距離を取っている、逃すか。
 そのまま追撃を叩き込もうと距離を詰める纏、レンジまでまだ距離は在る。


「馬鹿、退け纏ィ!」


 遠くで叫ぶマスター、夜科アゲハの声が聞こえる。
 退く理由も解らなければ馬鹿と呼ばれる筋合いもない、このまま押し切るだけだが――。


「名乗りの時に言えば良かったけど……俺はセイバーじゃなくて――」


 この時纏流子の時が止まる、刹那の一時が永遠に感じる程。
 戦国武将の獲物は己よりも長い刀、その筈だった。
 だが今目の前にいる男が手にしている武器は刀ではなく、朱槍。


「此度の聖杯戦争ではランサーとして現界してんだ」


 纒流子は前田慶次をセイバーだと思い込んでいた。
 故に武器は刀、自分とそれ程変わらない射程範囲と認識していた。
 その獲物の長さが自分よりも勝るならばその分気にすればいい、そう思っていた。
 だが槍とは思っていない、踏み込んだ距離はまだ想定の射程範囲内ではなく、猶予があった。
 つまり、咄嗟に対応する術も、心構えも持ち併せておらず、豪快なる一撃の突きを不意で喰らう形になる。


「んなろおおおおおおお」


 片太刀バサミを強引に引き寄せると紙一重で槍の一撃に重ねる。
 直撃こそ防ぐが衝撃を総て殺すことは出来ず、体勢も取れぬまま壁に激突する。


「さぁて、あまり目立つ訳にもいかないって話は兄ちゃんも解ってるな? 此処は一つ惜しいがここらでお開きってことで」


 夜科アゲハとしても、朽木ルキアとしても、序に犬飼伊介にしても学園で目立つことを誑しとしていない。
 これだけマスターが潜んでいたのだ、洗えばまだ何人か潜んでいても可怪しい話しではない。
 元々前田慶次は小手先調べとして赴いている。
 夜科アゲハも紅月カレンが来た場合は協力体制の提案をしようと考えていた。
 戦闘の停止については両者一致している。


「その提案はいいけどよ、まだ……あいつは終わっちゃいねぇよ」


 夜科アゲハが告げると前田慶次は首を傾げながら彼の視線先へ。
 其処は纏を吹き飛ばした場所、砂塵が舞っている戦棍地。

 だが彼の顔に笑みが浮かぶ、己にとって好ましくない展開なのに。




「やっと会えたな――鮮血!」



 砂塵吹き荒れ霞む中 影がゆらりと聳え立つ


 その姿 唯の女子高生と思う事なかれ 世界を救った英雄也


 散った友を身に纏い 流れるままに虎をも斬る




「あぁ……久しぶりだな流子」




 喋るセーラー服を身に纏う女子高生、この姿こそ纒流子の真の姿。
「懐かしむのは後……違うか、流子?」
「ったくよぉ……その通りだ鮮血、んじゃ、いっちょ行きますか!」
 赤く染まる手の甲に、伸びる糸を引き足りて、見よ、これが神衣。


「おいおいおいおいおい、随分と大胆不敵な格好と来たもんだ」


 砂塵が晴れると其処に纒流子が立っていた。
 壁に激突したダメージなど蓄積されておらず、その姿は健全だった。


「神衣――鮮血!!」


 その身体を半ば半裸に開けさせ、纒流子真の姿となってこの聖杯に望む。




◆  ◆  ◆



 屋上に無駄足を運んだ人吉は仕方がなく教室に戻っていた。
 保健室に顔を出したが夜科アゲハの姿は見当たらなく、総てが空回りしていた。
 後手に回った事が失敗だったのか、成果や結果が付いて来ない。

 アサシンに念話で語りかけるも、返答はなし。取り込んでいるのだろうか。
 仮に取り込んでいるならば、それは聖杯に関係している事であり、自分は此処にいていいのか。
 考えても仕方が無いのだが、どうも置き去りにされているような気がしていた。

 現に彼は学園を取り巻く騒動に関係している筈だが今一つ線と線が交わっていない。
 平穏に過ごせれば越したことはない。しかし聖杯に辿り着くことは難しいだろう。

 そんな彼にも転機が訪れる。

「人吉さん……生徒会所属の貴方にお願いがあります」

 自分に訪れた生徒はどうやら頼みがあるようだ。
 人吉に彼女がどんな生徒かは記憶はない、しかし頼みを断る程駄目な男でもない。

「俺に出来ることなら、で、なんだ?」

 生徒会に頼む事、学園の設備についてだろうか。
 器物破損は多い、廊下で騒いでいる生徒の影響で校内は見た目よりも傷ついている事が多いのだ。
 流石に箱庭学園のような摩訶不思議な願いは来ないと思っているが。


「二階の廊下で暴れている不審な男が居るんです!」


 女生徒が告げた一言は彼の脳を一時停止させる。
 先程までは問題なく動いていた機器が急に止まり始めるように彼の思考も止まる。
 一拍間を置いて言葉を紡ぎ出す。


「そ、それは先生に言ったほうが」


 正論。


「でもその男は人吉さんの知り合いだって……アサシンがどうのこうの」


 心臓が飛び出そうになる。


 女生徒が言うにはアサシンと名乗り人吉と関係が在る、と言っていた男が彼を呼んでいるらしい。
 しかも暴れている、そんなキャラでは無いと思っていたが何が正しいのかも判断できない。
 女生徒に場所を聞くと彼は走りだす、授業には遅れるが此方が優先だろう。
 めだかちゃんだってそうする、ならこれが俺達【正ト解】って奴だ、そう思っている。

 角を曲がり階段を曲がろうとすると一人の女生徒が見える。
 廊下を走るのは規律違反、減速し歩き始める人吉。
 そのまま女生徒をスルーし再度走ろうとするも止められる。

「ねぇもしかしてお兄さんが人吉善吉?」

 その女生徒は見た目同年代、しかし胸は比例せず豊かな印象を受ける。
 白い手袋のような物を履いており、若干上目遣いで語りかけていた。

「そうだけど……?」

 名前を聞かれ偽りではないので返答する。
 急いでいるため早く要件を言ってもらいたい所だが女生徒は別の言葉を喋り出す。

「やっぱり☆ 噂通り鍛えた身体だね」

 言いながら人吉の右腕を抱き抱えるように己に惹き寄せる。
 抵抗しようとする人吉だが腕が胸に当たり言葉が出そうで喉元に詰まっている。
 美少女に身体を触られるのは悪くない、だがめだかちゃんの顔が浮かび罪悪感に襲われる。
 引き離そうとすると、耳を疑う一言が聞こえた。




「やっぱ令呪もあるね、これがあの第二位垣根帝督への絶体命令権かぁ☆」



 何で垣根帝督の事を知っている。
 何故令呪の事を知っている。
 そもそもお前は誰だ。
 何で居る。
 謎だ。
 何者なんだ。
 何が狙いなんだ。
 全く見えて来ない。
 お前は何をしようとしているんだ。



「じゃあその力、使わせてもらうね。そうでもしないと流石に犬飼さんに悪いかも☆」



◆  ◆  ◆



 犬飼伊介を取り逃した垣根帝督と紅月カレンは屋上に移動していた。
 廊下では生徒の死体にガラス破損、あの場に留まっていては何もかもが裏目に出る。
 情報交換と行きたいところだが紅月カレンは生徒の命を奪った垣根帝督を許すつもりはない。


「キャスター……食蜂操祈は他人の心を操る、質の悪い傀儡師みたいなモンだ」


「だから悪いのは殺した自分ではなくて操っていたキャスターってこと?
 そんな子供の言い訳が通ると思ってるんなら英霊も馬鹿ばっかって話だね」


「言うじゃねぇか……ったく、此方としてはもうどうでもいいんだ。
 あの女狐化狸共を取り逃した、それだけだ。まさかお前は死者が誰も出ない、なんてメルヘンなファンタジー思い描いてないよな」


 聖杯戦争には願いを懸けている者が招かれている。
 そのために人殺しとならなければ敵う願いなど無い、故に死者は避けられない。
 解ってはいるのだ、誰も死なない戦争何て存在しない、だが目の前の壁として聳え立つと。


「……思ってはいない」

「思ったよりも利口な奴だ、話が早くて助かるわ。
 つまり、だ。食蜂操祈には近づくな。あいつに操られちゃあ一瞬で詰みだ。
 俺は幸い能力――宝具で何とかなる、お前のサーヴァントもスキルでどうにかなる筈だ。
 けど、お前自身はどうしようない。操られたら終わりだ。だから先に片付ける必要がある」


 垣根帝督は学園都市第五位の力を甘く見ていない。
 単純な戦闘能力なら第五位は第七位にも劣る、それ程に弱い。
 だが駒となる人間を手に入れた組織力と統率力。
 令呪のシステムがある以上マスターを狙われては一溜りもない。


 垣根帝督は一時的な同盟を提案している。 
 食蜂操祈と言う厄介な害悪を除外するための戦線協定だ。
 害悪糞女は先に滅して置かなくば聖杯戦争を裏で永遠に掻き乱される恐れがある。

「解った……でも先にあんたのマスターを呼んで」

「心配ご無用、呼んでるから、まぁもうちょいだろ」

 トントン拍子で進んでいく協定だが肝心のマスターが居なくては話にならない。
 此方のサーヴァントであるセイバーは既に見られているため霊体化させている。
 しかしアサシンのマスターが見えない、潜んでいる可能性も在る。

「ほら、来たぞ」

 垣根帝督が顎を指す。
 振り向くと其処には学園の生徒、それも同じ生徒会に所属しているらしい人吉の姿があった。
 これで役者は揃う、食蜂操祈を殺すための役者が。

 マスターを狙うのは最終手段、とカレンは思っている。
 垣根帝督は最初から狙う気でいるが。作戦なんて存在しない。

 キャスターだ、それも病弱でサークルの姫のような存在。
 正面からの戦闘で挑めば此方が負ける可能性など無に等しい。

 だが食蜂操祈の能力は絶大で強力な最低である。
 マスターを近寄らせるわけには行かないのだ。

 故にセイバーが前線に趣き、アサシンが闇に潜み狩る――これが作戦。

 念話である程度事前に人吉に話しているためスムーズに自己紹介が進む。

「まさか同じ生徒会の奴がマスターだったってか」

「あたしも、ね。会ったことは無いんだけど」

「まぁ何かの縁だろう。令呪を持って命ずる、アサシン――自害してくれ」

「そうだね……でも一時的だよ、最後に残るのは一組なんだから」

 話している内容は物騒だが協定はこれにて結ばれる。
 倒すべき敵は食蜂操祈、関係ない生徒を操る女を狩るだけだ。





◆  ◆  ◆





「おい――テメェ今何て言った、おい……何て言ったか聞いてるだろおおおおお」





◆  ◆  ◆





 屋上で吠えるは暗部の天使。

 背中に生える翼を大いに振るい美しく飛び散る無数の羽。

 魅入る紅月カレン、だがそれは美しさにではない。

 危険を感じたセイバーは現界しマスターの前に座する。

 人吉善吉は何が在ったかは存じぬが意識を失っている。

 客観的に述べよう。


『垣根帝督に対して自害の令呪が発動された』


「ふざけんなあああああああああああ」


 広げられた翼はその存在総てを鋭利な形状に変化させる。
 それは心臓を、総て何もかも貫く地獄の処刑人だ。
 天使などと呼べるメルヘンな存在ではなく血と泥と粕しか存在しない地獄の溜まり場のチンピラだ。

「これって……ねぇ、死ぬの……あんた」

 状況が飲み込めないカレンは垣根帝督に疑問を投げる。
 情報は人吉が垣根帝督に自害の命令をしただけ、しかしこれが総てである。
 故に垣根帝督も同じ状況である。


「決まってんだろ……ッァアアア!!
 あの糞女め……俺を真っ先に潰しに来やがってッ……チィ!
 殺す、殺してやる……翼が俺に――ッアアアアアアアアアアアアアアアア」


 鋭利となった翼の断罪標的は己、垣根帝督。
 令呪の命令は絶対であり、英霊の枠に嵌められている以上逆らう事は出来ない。
 垣根帝督は最後の力を振り絞り抵抗しているのだ。
 生半可なサーヴァントならとっくに死んでいる、彼の強さが、しぶとさが生存に繋がっている。


 だが終いだ。 


「許さねえ、許さねえぞオオオオオオオオオオ!
 テメェは永遠に苦しめ、俺がそうさせてや――グッギィイイイイイ、
 俺が終わる? 第五位に負ける? おいおい、冗談が過ぎるぞぉ……。
 テメェは俺を怒らせた何てレベルじゃあねぇ……ぶっ殺してやる」


 垣根帝督の翼は徐々に彼自身の身体に突き刺さっており、血が流れ始めている。
 紅月カレンはこの状況に何もすることが出来ず、唯眺めているだけ。
 セイバーもまた、もう垣根帝督は助からないと判断、己のマスターを守ることを優先する。

 垣根帝督は再戦を臨んでいた。
 奇跡的にもその相手は同じ英霊として聖杯戦争に招かれている。
 狂戦士と成り果てた宿敵と対峙した時、彼は何を思うのか。悪党とチンピラ。
 出逢えばそれは永劫に語り続かれる英雄譚に成り得たかもしれない、だが。


 垣根帝督は此処で死ぬ、それだけだ。


「糞が、くそが、クソが……食蜂操祈、第五位……ようアレイスター、お前はどうせ笑ってんだろ?
 なぁ一歩通行……テメェもどっかで腹抱えて笑ってんだろ?」




 一瞬の静寂が屋上を包む。
 それを切り裂くように翼が心臓を貫いた。




「許さねぇからな……聞こえてんだろ第五位……テメェ、このくそがああああああああああああああああ」






【アサシン(垣根帝督)@とある魔術の禁書目録 死亡】





【C-2/アッシュフォード学園・屋上/1日目 午前】


※屋上は一部破損有り


【紅月カレン@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]疲労(中)、魔力消費(中) 、脇腹に切り傷(止血済み)
[令呪]残り3画
[装備]鞄(中に勉強道具、拳銃、仕込みナイフが入っております。(その他日用品も))
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:願いのために聖杯を勝ち取る。
1.……。
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※学校内での自分の立ち位置を理解しました。
※生徒会の会見として所属しているようです。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。
※犬飼伊介、キャスター(食蜂操祈)を確認しました。
※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。
※垣根帝督から食蜂操祈の能力を聞きました。


【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる
1.マスターに委ねる
[備考]
※マスター同様。



【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]気絶
[令呪]残り二画
[装備]箱庭学園生徒会制服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:日常を過ごしながら聖杯戦争を勝ち抜く。
1.今は授業を受け、その後アサシンと相談。
2.???
[備考]
※夜科アゲハがマスターであると知りません。
※アッシュフォード学園生徒会での役職は庶務です。
※相手を殺さなくても聖杯戦争を勝ち抜けると思っています。
※屋上の挑発に気づきました。
※学園内に他のマスターが居ると認識しています。
※紅月カレンを確認しました。
※キャスター(食蜂操祈)を確認しました。
※食蜂操祈の宝具により操られていました。

※サーヴァント消失を確認(一日目午前)これより六時間以内に帰還しない場合灰となります。







 神衣鮮血を身に纏ったセイバーはそのまま自慢の脚力で距離を詰めると縦に一閃。
 これを槍で防ぐランサーだがセイバーの自力が先程よりも膨れ上がっている事実に戸惑う。
 それでも笑い、この戦いを楽しんでいる。

「まっさかぁ! 纏がそんな大胆な性格だとは思わなかったぜ!」

「勝手に言ってろ! そんなんじゃ足元を――掬われっぞォ!」

 更に力を込め強引に戦国武将を押し込む纒流子。
 鮮血から神衣の力を引き出した彼女は本来のポテンシャル以上の力を発揮する。
 たかがステータスなどと言う細かい理論的な数値で彼女を図ることなど無謀だ。

 足場毎粉砕するその一撃、訳が解らない容赦無い一撃。
 衝撃により磨り減っていく大地から距離を取る戦国武将と神衣。
 これから高度駆け引き、豪快な活劇が見られる――その筋書きだった。

「……すまん纏! マスターから撤退命令が出ちまった……申し訳ない」

「あぁ!? テメェ逃げる気かァ? 戦国武将ともあろう者が」

 実際問題として纒流子は前田慶次が歴史に刻んだ事を知らない、名前だけ知っている存在だ。
 故に彼女が使う戦国武将とは煽りのためだけの記号である。

「色々あるんだわこっちも……はぁ。一応同盟結んでるし、すまん!」

 それだけ言い残すと前田慶次は朱槍を振り回す。
 風に煽られ舞う砂塵、それが晴れた時其処には誰の影一つ存在しなかった。

「逃げやがったな……くっそ」

「まぁいいではないか、それよりも此処を離れるぞ流子」

「わーったよ鮮血、話はそれからだ」

 これだけ暴れたのだ、下手をすれば誰かに見られている。
 結局体育館裏に紅月カレンは姿を現さなかった。
 前方には敵のマスターを探しに行っていたアゲハの顔が見える。
 表情から読み取ってランサーのマスターは発見出来てないようだ。

 此度の戦闘で判明したことは戦国武将のランサーが居ること。


 彼らは気付いていない。
 自分達が戦闘している間に学園を取り巻く環境が劇的に変化していることに――。


【C-2/アッシュフォード学園・体育館裏/1日目 午前】


※大地が戦闘により凹んだりしています。
※体育館の壁が一部凹んでいます。

【夜科アゲハ@PSYREN -サイレン-】
[状態]魔力(PSI)消費(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.この場から離れる
2.夜になったら積極的に出回り情報を探す。
[備考]
※人吉善吉がマスターであると知りません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※ランサー(前田慶次)を確認しました。

【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]魔力消費(中)疲労(中)背中に打撲
[装備]鮮血(通常状態)
[道具]
[思考・状況] 
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.逃げる。
2.情報を集めるのもいいかもしれない
[備考]
※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※ランサー(前田慶次)を確認しました。
※乗ってきたバイクは学園近くの茂みに隠してあります。


【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]健康 、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]アッシュフォード学園の制服
[道具]学園指定鞄(学習用具や日用品、悟魂手甲や伝令神機などの装備も入れている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を通じて霊力を取り戻す。場合によっては聖杯なしでも構わない
1.ひとまずキャスターたちと協力して聖杯戦争に勝ち残る
2.ただし同盟にはあまり乗り気ではない。何かきっかけがあれば解消したい
[備考]
※外部からの精神操作による肉体干渉を受け付けなかったようです。ただしリモコンなし、イタズラ半分の軽いものだったので本気でやれば掌握できる可能性が高いです。
 これが義骸と霊体の連結が甘かったせいか、死神という人間と異なる存在だからか、別の理由かは不明、少なくとも読心は可能でした。
※夜科アゲハ、セイバー(纏流子)を確認しました。

【ランサー(前田慶次)@戦国BASARA】
[状態]疲労(小)魔力消費(小)
[装備]超刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:この祭りを楽しむ
1. ひとまずキャスターたちと協力して聖杯戦争に勝ち残る
2.ただし心底信頼はしない。マスターから離れず護衛をし、隙を突くためにも考察と情報収集
[備考]
※キャスターを装備と服装から近現代の英霊と推察しています。
※読心の危険があるため、キャスター対策で重要なことはルキアにも基本的には伏せるつもりです。


[共通備考]
※犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈)と同盟を結びました。マスターの名前およびサーヴァントのクラス、能力の一部を把握しています。
 基本的にはキャスターが索敵、ランサーが撃破の形をとるでしょうが、今後の具体的な動きは後続の方にお任せします。

※朽木ルキアは駒から『学園内に戻ってください』という伝令を聞きました。






 不要な役者を削ぎ落とし、舞台の裏で笑うは女王気取りの哀れな女。

 犬飼伊介は校庭の茂みでキャスターと合流していた。
 しかしキャスターは自分を見捨てた女だ、彼女を見る視線は鋭く冷たい物となっていた。
 結果としてアサシンを一人排除する事が出来たのは大きなアドバンテージになるだろう、なっている。
 だが、今後の主従関係を考えれば最悪極まりない状況になっている。

(こいつ……絶対殺す、殺される前に殺す)

 犬飼伊介は決心した、いや。とっくに決めていた。
 この女は最終的にマスターである自分も排除する気でいる、願いを独占するつもりだろう。
 そんな事はさせない、アサシンの時同様に令呪で先手を撃ってやる、殺してやる。

 だが今はその時ではない、使える時まで使い込み、永遠に潰す。
 キャスターの能力は魅力的で強力だ、これは変えようのない事実だ。
 ならば今は猫でも何でも被り遣り過す、その後に殺す。

 新しいサーヴァントはあのランサーにですればいい。
 序に朽木ルキアも殺せば何も問題はない。




(――って全部お見通しだぞ☆)




 それすらもキャスターは見抜いている。
 垣根帝督を見た時、彼女は死を覚悟した。
 何故居る、勝てる筈がない、逃げるしか無い。

 マスターを置いての逃走、此処でマスターが死んでいれば彼女も死んでいたが運が良かった。
 垣根帝督は余計な事を言っていたのだ。
『隣に座っていた奴がマスター』つまり、だ。
 夜科アゲハ、犬飼伊介、朽木ルキア。この三人の内の誰か一人、その隣に座っていた者が彼のマスターだと。

 犬飼伊介、朽木ルキアのクラスは略抑えているため白だ、ならば残るは夜科アゲハ。
 その隣に座っていた人物こそが人吉善吉であり、ビンゴだった。

 総てはキャスターの思惑通りになってしまった。
 本来ならば最弱のサーヴァントは統率力と組織力を持って学園を操っている。
 この牙城を崩すには彼女自身を殺さなくてはならない。





【犬飼伊介@悪魔のリドル】
[状態]疲労(小)魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]ナイフ
[道具]バッグ(学習用具はほぼなし、日用品や化粧品など)
[思考・状況]
基本行動方針:さっさと聖杯戦争に勝利し、パパとママと幸せに暮らす
0.食蜂操祈に心を許さない。
1.この場を離れる。
2.キャスターの宝具を使い上手く立ち回る。
3.キャスターを使い潰した後にサーヴァントを乗り換える。

[備考]
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』によってキャスターに令呪を使った命令が出来ません。
※一度キャスターに裏切られた(垣根帝督を前にしての逃亡)ことによりサーヴァント替えを視野に入れました。



【キャスター(食蜂操祈)@とある科学の超電磁砲】
[状態]健康、魔力消費(中)
[装備]アッシュフォード学園の制服
[道具]ハンドバック(内部にリモコン多数)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。聖杯に託す願いはヒミツ☆
0.このまま上手く立ち回る。
1.洗脳した生徒を使い情報収集を行う。
2.戦闘はランサーに任せ、相手のマスターを狙う。
3.ランサー一行及び犬飼伊介には警戒する。
4.人吉善吉をどうするか……。


[備考]
※高等部一年B組の生徒の多くを支配下に置きました。一部他の教室の生徒も支配下に置いてあります。
※ルキアに対して肉体操作が効かなかったことを確認、疑問視及び警戒しています。
※垣根帝督が現界していたことに恐怖を抱きました。彼を消したことにより満足感を得ています。
※人吉善吉に命令を行いました。現在は操っておりません。


[共通備考]
※車で登校してきましたが、彼女らの性格的に拠点が遠くとは限りません。後続の方にお任せします。
※朽木ルキア&ランサー(前田慶次)と同盟を結びました。マスターの名前とサーヴァントのクラスを把握しています。
 基本的にはキャスターが索敵を行い、ランサーに協力、或いは命令する形になります。
※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。
※紅月カレン、セイバー(リンク)を確認しました。
※夜科アゲハ、セイバー(纒流子)の存在を知りました。



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033:戦争と平和 投下順 035:CALL.1:通達
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020:Bとの邂逅/ネジレタユガミ 朽木ルキア&ランサー(前田慶次 039:わが臈たし悪の華
犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈
031:光の屋上 闇の屋上 夜科アゲハ&セイバー(纒流子
紅月カレン&セイバー(リンク
人吉善吉
アサシン(垣根帝督) DEAD END?

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最終更新:2015年12月31日 21:46