クール&スマイル◆oLzajvgbX6




『……どうもこんばんは。今夜も貴方方に素晴らしいショーをご提供致します』



『何?この前と別人なのかって?ご安心を、物語の登場人物は今までと変わりません』



『それでは皆様お待ちかね、「地獄の機械」に繰られた男女の物語の開幕と致しましょう』



『おっと、心臓の弱い方は気をつけて……。物語の中に一部、ショッキングなシーンが御座います……』



『では皆様お静かに、開演の時間で御座います……』


暁美ほむらは、キャスターを信用していない。
故に、彼女はキャスターにほとんど自分の情報を公開しなかった。
伝えたことは自分が魔法少女であること、銃器を使った戦法を得意とすること。
そして、敗北は絶対に許されないことの三点だった。


日が昇り、遊園地を優しく照らしている。
魔法少女、暁美ほむらは手で日光を遮りながら、鬱陶しそうに太陽を睨む。

ほむら以外、生きている人間がいないこの遊園地。
人目を気にすることなく行動できることは良いのだが、視界の端にちらちらと映る自動人形が目障りでしかたがない。

そもそも、デザインが気に食わない。
彼女が扱う機能性に特化した銃器と違い、自動人形はよく言えば遊び心、悪く言えば狂気がふんだんに練りこまれた容姿をしている。

悪い冗談のような、子供の悪夢に出てきそうな怪物。
ある意味、魔法少女の成れの果てである『魔女』に似ているのかもしれない。
そういう意味では、彼女が自動人形を嫌悪するのも当然だといえた。


(いいえ、こんなことを考えている場合でもないわ)

雑念を振り払う。
暁美ほむらには試したいことがあった。

キャスターから離れている間にその考えを思いついただけで、ほむらがキャスターから離れたのは、近くにいたくないという嫌悪感だ。

もう一度、辺りを確認する。
近くにあるアトラクションは観覧車。
乗客がまったくいないそれは動きを停止させ、一つのオブジェになっていた。
視界に入る自動人形はおおよそ10体ほど。

キャスターの作った自動人形の数はさほど多くはない。
生前のような大軍団と比べたら、拍子抜けするほど少数だ。
しかし、そう感じるのは生前を知っているものだけ。
ほむらからすれば、この人数でも不気味以外の何物でもない。
そして、この軍勢は更に増え続ける。
三日もすれば、大軍団と呼ぶに相応しい規模になるだろう。

その光景を幻視しながら、彼女はその装いを変えた。
魔力によって、その装いを制服から魔法少女の衣装へと変化させる。
紫と白に彩れたそれは、魔法少女と呼ぶにはどこかクールで冷たいものだが、これが彼女の戦闘服にして、魔術礼装。
自動人形の動きを確認する。
不気味な笑いを浮かべながら徘徊しているそいつらは、こちらが『変身』したことにまだ気づいていなかった。
(間抜けな人形ね)
心中でそう呟き、彼女は盾に触れる。

そして、ほむらは時を止めた。


全てが静止した世界。
マスターもサーヴァントも、恐らく天戯弥勒でさえも停止した、彼女だけの絶対空間。
今や、世界は彼女のものだ。

暁美ほむらの時間停止には、とあるスタンド使い達のような、特に決まった制限時間は設けられていない。
短く繰り返して、トラックに追いつくこともできるし、長期間停止させて、軍事基地から武器を回収することもできる。

極端な話をすれば、今から街に繰り出して冬木の生きとし生けるものを皆殺しにすれば、この戦争は終わりを告げる。
停止している時間内で抵抗できる者は誰もいないのだから。

だが、果たしてそんなに簡単にこの戦争は勝たせてくれるのだろうか。
それではなんのためのサーヴァントだか、分からなくなってしまう。

彼女の出した仮説は、『時間停止はできない』だった。
天戯弥勒によって、自分の時間停止は封じられている。
それが妥当だと、思っていたのだが……。

「意識だけ、というわけでもないようね」
盾から銃器を取り出しながら呟く。

「……有利に越したことはないわ」
聖杯戦争は、思ったより簡単に事が運びそうだ。

暁美ほむらは、そう結論付け。

そして、時は動き出す。


「なっ!?」
思わず顔が驚愕に歪んだ。

突如、彼女の魔法は途切れ、世界は正常な時間を取り戻した。

今まで自分の経験には、無かった出来事だ。

しかし、暁美ほむらはただの少女ではなく、魔法少女。
驚愕は一瞬で途切れ、すぐに結論を導き出す。

(なるほど……時間制限ということ)

止まった時の中の制限時間など、ふざけた言葉だが、彼女の『制限』を表すのにもっともふさわしい言葉だった。

正確にカウントをしていないが、どうやら10秒ほどがほむらが支配できる時間。
それ以上は、天戯弥勒にか、はたまた『聖杯』にか、彼女の魔法は封じられていた。

(いつもより疲労も激しい。連続で止め続けるのは、負担が大きい)

前言撤回。
大変不愉快な話だが、この聖杯戦争。
サーヴァントの助力無しでは勝ち抜けないようだ。

「あっれーマスター。いつその銃抜いたんですか~。それに服装も変わってる」

さっきから視界に入っていた自動人形の一人が、ほむらに近づいてきた。
一応、監視はしていたらしい。
自動人形からすれば、目を離した隙にいつのまにか衣装が変わり、銃器を抜いていたのだから、驚くのも無理はない。

ほむらは無視しようかと一瞬思ったが、『確認』すべきことはもう一つある。

「自動人形(オートマーター)。貴方は、私の命令に忠実かしら?」
魔法少女の装いのまま、彼女は醜悪な人形へ問いかける。
突然の質問に自動人形は不思議そうな顔を浮かべたが。
「へっへっへ。そりゃあもう」
と、笑みを浮かべた。

なぜ、キャスターといい、こいつらはすぐ笑うのだろうか。
しかもその笑みは必ず醜悪に歪み、見ていて嫌悪感しか湧かない。

「そう、跪きなさい」
彼女がそう言葉を発した瞬間、自動人形は崩れるように膝をついた。
流れるようなその動きは、まるで仕込まれたプログラムに従うようで。
見ているほむらも驚く程の俊敏さだった。

「本当に忠実なのね」
「俺は自動人形ですから」

どれだけ人間らしい動きをしても所詮は人形。主の命令に背くことは出来ない。
それを実感したほむらは、更なる『実験』を続ける。

「もう一つ質問をするわ。私とキャスター、優先する命令はどっち?正直に答えなさい」
「……造物主様です、マスター」
僅かに迷ったような素振りを見せるが、自動人形は正直に真実を明かす。

造物主、つまりキャスターの命令がほむらより優先度が高いということ。
自動人形はほむらよりもキャスターを優先して動くということだ。
やはり信用できないと考えながら、ほむらは撃鉄を起こした

「そう。もう一つ命令するわ。避けるな」

銃口が火を噴く。

「うぎゃああああ!何するんですか、マスター!」
弾丸は頭部に当たり、穴を開け、自動人形はそこから液体を撒き散らした。
顔をオーバーに歪ませ、目からは涙のように液体を出す自動人形を、ほむらは何の感慨もなく見つめる。

痛がっているが、機能停止にまでは至らない。単純な銃器で仕留めれるほど、自動人形の俊敏性や耐久性は低くないのだ。

しかし、ほむらが注目したのは弾丸が効いたということだった。
(自動人形には、物理攻撃も効く。この銃じゃ火力不足だけど、武器さえ選べば殺せるわね)

「大した忠誠心だわ、自動人形。最後の命令よ、自害しなさい」
そして、突然の死刑宣告が行われる。
これには自動人形の顔からは笑みが消え、驚愕と怒りが湧き上がる。
「は、はあ!?何故ですか、マスター!」
自動人形からすれば、たまったものではない。
自分の行動に何も問題は無かったはずだ。しっかりと命令には答えたし、人間が気にするであろう吸血も、この自動人形はまだ行っていない。本来なら軽く回避できる銃弾を、避けずに当たってやったのだ。

殺される理由がない。何故殺されなければならない。作られて一日の命など、あんまりだ。

暁美ほむらは語らない。
ただ、じっと解剖されるカエルを見るような目つきで、自動人形を見つめる。
ここで初めて、この自動人形は暁美ほむらの暗い殺意に気がついた。
このマスターは、自分達自動人形をゴミか何かにしか思っていないのだ。

「造物主様!造物主様!今すぐご命令を。自害を止めろと、この餓鬼を殺せと、そう言ってください!」

自動人形は天を見上げ、自分達の神であるキャスターに祈る。
もはや忠義の皮など脱ぎ捨てる。
ここまでこけにしてくれたこの人間へ復讐を!彼の思考を満たすのは憎悪のみ。

だが、自動人形に神はいない。
キャスターからの指示は、無し。
それ故に、自動人形はその任務(オーダー)を執行する。
自分で自分の胸版を引き剥がし、中身を自らの腕で外へぶちまける。
様々な部品が地面に落ち、乾いた音が遊園地に響く。
自らの顔を掻きむしり、人間の顔を模したそれを、元の鉄くずへと帰す。
泣き叫びながら自分で自分を解体していく自動人形を静かに観察する暁美ほむら。
人形にとっての悲劇であり、人類にとっての喜劇であるその演目は。
暁美ほむらの心にまったく波を立たせなかった。

自動人形が、自らを残骸に変え切った時。
『おいおい、ひどいことするな。もう裏切るのかい?』
キャスターからの念話が、暁美ほむらに届いた。

『別に裏切るつもりはないわ。自分のできることを確認しただけ』
そう、サーヴァントのように自動人形も自害させることができる。いくつか制約があるが、これを知れたことはほむらにとって大きな収穫だった。

『あんまり壊さないでくれよ。僕らの大事な兵隊だぜ』
大事に思うのだったら、助ければ良かったのに。
ほむらはそう思ったが、念話には乗せなかった。

『そろそろ戻ってこいよ。アポリオンにいくつか面白い映像が写ったんだ。ほむらにも、動いてもらう必要が出てくるかもしれない。僕は会議室にいるからさ』
『わかったわ』
そこで、念話を打ち切る。
必要最低限の会話以外は口を聞きたくない。

それにしても、もっと怒りも見せたり、糾弾されると思ったのだが。
キャスターの雰囲気はまったく変わらなかった。
これくらいでは、奴にとっては痛くも痒くもないのだろう。

もちろん、ほむらも今からキャスターと戦うつもりはない。
一体だけなら、対立せずに穏便に済ませられると判断したからこそ、この実験を行ったのだ。

不機嫌な顔をしながら、暁美ほむらはその場を後にした。
残ったのものは、一人の哀れな自動人形の成れの果て。

そしてそれを面白い物のように見つめる他の自動人形。

彼らに倫理観は無く、彼らに仲間意識は無い。
だから彼らは人類の敵なのだ。

惨劇の前に、戦いの前に、開幕の前に、一人の魔法少女の『実験』で命を落とした哀れな人形の残骸が、日光に照らされ横たわっていた。


会議室に備わっているモニターを確認しながら、銀のキャスターは顎鬚を撫でる。
少年のような残酷さと老人のような老獪さを両方備えるサーヴァント。
クラスはキャスター、真名は白金。
生前、一人の女への歪んだ愛情で人類を滅亡寸前にまで追い込んだ、反英雄。
それが、今椅子に王のように座る、老人の正体だ。

彼がつい先刻まで気にしていたのは、病院の屋上で会話をする男女だった。
学校には行かず、されど不良のような格好をしているでもない。
どうにも怪しい、とキャスターはこの二人に当たりをつけた。

「ほむらか、もしくは『最後の4人』のうちの誰かを送るのもいいかもな」

二人は病院からバスに乗り、学校とは反対方向へ向かっていった。
向かう先は地図の端。
何故そこへ向かう。

(会場外の調査というわけか。絶対こいつら参加者だな)

真っ黒に近いグレー。
しかし、キャスターにも馴染みがある日本の諺では、『疑わしきものは罰せよ』。
罰(戦闘)か、様子見か、懐柔か。
キャスターはしばし、思索を進める。
と、同時にアポリオンから流れる映像も確認。

二つを同時に進めながら、キャスターは余裕の笑みを崩さなかった。

そして、アポリオンは一つの映像を捉えた。
映し出された映像に写っていた人物は、三名。
警官、ほむらと一緒くらいの年齢の少女、麦わら帽子の青年。

カップルが警察から職務質問をされている図に見えなくはないが、本質は大きく異なる。
銀のキャスターにとって幸運だったことは、その瞬間をアポリオンが捉えていたこと。
麦わらのライダーにとって不幸だったことは、その瞬間をキャスターに見られたこと。

「こいつ……いきなり現れたなァ」

決まりだ。
警官、少女。
どちらか、あるいは両方がマスターだ。

こうして、キャスターの頭の中に三人の人物が浮かび上がる。
青髪の少女。サーヴァントは物騒な雰囲気を放つ高校生くらいの男。
しかし、不確定な情報も多い。
桃色の髪の少女。あるいは警官。サーヴァントの候補は、麦わら帽子の青年。
白昼堂々サーヴァントを現界させていることから、よほどの自信家なのかただの馬鹿なのか。

さて、新たに現れた三つの駒。
どう使えば、『夢』に繋がるのか、キャスターは考える。
「うーん、あいつにも相談するか。『最初は』仲良く絆を深めるべきだよな」

そう言って、キャスターはほむらが嫌悪する、醜悪な笑みを浮かべた。

太陽が登っている中、キャスターの狂気がゆっくりと冬木に牙を伸ばしている。

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(中)、苛立ち
[装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]
基本:聖杯の力を以てまどかを救う。
1.単独行動。
2.キャスターに対する強い不快感。
※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。
※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。


【キャスター(フェイスレス)@からくりサーカス】
[状態]健康
[装備]特筆事項無し
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れる。
1.アイツら(さやか達)はどうしようかね。
2.あの馬鹿(まどか、タダノ)も面白そうだな
[備考]
※B-6に位置する遊園地を陣地としました。
※冬木市の各地にアポリオンが飛んでいます。
 現在、さやか、まどか、タダノを捉えています


『いよいよ歯車が回りだそうとしています。少女と翁、二人の愛の求道者はどのような末路を迎えるのか』



『ただ、一つ言えることは周りの人間すればたまったものではない、ということでしょうか』



『これから二人が巻き起こす演目(ショー)を楽しみに待ちながら、本日はお開きと致しましょう』



『それでは、一時閉幕となります……』



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最終更新:2015年12月31日 21:55