気絶するほど悩ましい◆wd6lXpjSKY




 バイクを走らせるには絶好の天気、快晴の中で風を切る。
 マスターである夜科アゲハを学園に送っていた後、セイバーは街を走り始めたのだ。
 建前は土地勘を把握し今後のために情報を集めることだ。
 本音は暇だから取り敢えずバイクで走る……自由気ままなドライブだ。

 聖杯戦争、何時何処で他の参加者に襲われるか分からない現状で単独行動は好ましくない。
 サーヴァントの能力は規格外であり生身の人間では一矢報いることすら難しい。
 幸いセイバーのマスターはPSIと呼ばれる能力を持っているため戦闘能力は存在する。
 だがサーヴァント相手には不利を通り越している、通ったとしても正面からの戦闘は自殺行為に近い。
 何故単独行動をしているのか、実は深い意味や作戦は無いのだ。

『霊体化って透明人間みたいで気持ち悪りぃなおい』
『あたしに言うなよ、魔力消費ってモンを抑えれるし効率はいいらしいぞ?』
『らしいぞ? って何で疑問形なんだよ……まぁいいや。んじゃ学園に行っている間も霊体化で待機だな』
『おう、少し時間潰してから行くわ……霊体化って何か慣れないんだよ』

 戦術的な概念ではなく本人たちの意向による物である。
 互いの意見が合致し採用していることは関係が好ましく良い事だが戦術としては悪い。
 サーヴァントが出歩けばマスターは無防備だ。
 その事を理解した上でセイバーは単独行動をしているが時間は掛けたくない。
 ある程度走らせたためそろそろ学園に戻ろうと車体を入れ替えた。


 セイバーのマスターである夜科アゲハは天戯弥勒と唯一面識のある聖杯戦争参加者だ。
 彼らは他の参加者を把握はしていないがサイレンドリフトは彼だけである。
 元々都市伝説であったサイレンに参加した夜科アゲハは謎の荒廃した世界で彷徨っていた。
 其処には同じ参加者である人間と禁人種と呼ばれる異形の存在が徘徊しているだけ。
 彼らは脱出するために危険な道を歩み、鍵と門になる公衆電話を目指す、これが一連の流れだ。

 その中で夜科アゲハ達は脳に痛みが走る、それが超能力の知らせだった。
 名をPSI、一般的な印象のあるテレパスやサイコキネシスと呼ばれるあの能力に彼らは目覚めた。
 修業を重ね生き残るために能力を極めるアゲハ達。
 戦う力が無ければ生き残れない――そしてサイレン世界を生き抜いていた。

 彼らがサイレン世界を彷徨う中、その世界が未来の日本である事を偶然知ってしまう。
 そして其処にはWISEと呼ばれる謎の組織の影が存在していた。
 それが天戯弥勒、実験に人生を歪められた、いや最初から歪んで存在を確立された男。
 現代と未来。二つの世界の中で夜科アゲハ達は世界を救うために彼らと交戦を重ねていった。


 これがセイバーである纒流子がマスター、夜科アゲハから聞いた出来事の一欠片。
 軽口を叩いてはいるが夜科アゲハの心境は人一倍重い。
 彼は天戯弥勒の元へ辿り着く義務がある、だがそのために他の参加者を殺すことが最善なのか。
 そもそも聖杯戦争にはアゲハのように巻き込まれた参加者だけなのか、自分の意志で参加した者も居るのか。
 本当に殺さなければ、上手くサーヴァントだけを始末してマスターを現代に帰すことは出来ないのか。
 セイバーと話した結果一つの結論が生まれた。

『そんなのやってみなくちゃ分かんねぇ』

 纒流子とてアゲハの気持ちが分からない訳ではない。
 彼の悩みと使命を感じる責任感、生命の狭間で揺れる悩みを分かっている。
 そして夜科アゲハは悪人の命を仕留める事が出来る人間だ、簡単に決断してしまっては危険だった。
 故にセイバーは己の意見でマスターの意思を線路に走らせる事を選ばなかった。
 励まし……ではないだろうがそれが一番近いだろう。

『ワケが分かんねぇぐらいがちょうどいい、ってことだよ』

 マスターに聖杯戦争の知識は無いがサーヴァントである纒流子にはある程度存在している。
 ……最も纒流子自身は自分が英霊になったつもりは無かった。
 自由気ままに、父の仇を追い続けた彼女はまさか自分が座に位置する存在になるとは微塵も思っていなかった。
 自分が亡くなった時の記憶も曖昧で、闇に溺れているようだ。
 実際の所、天戯弥勒が主催する聖杯戦争はイレギュラーだ、それは誰もが把握している。
 故にセイバーはワケが分からない、そう表現しているのだ。

 考えても何も見えて来ない。正確には天戯弥勒に話を聞かない限り正しい解は得られない。
 ならどうするべきか、簡単だ、会いに行ってぶん殴ればいいだけ。
 聖杯戦争を行う中で。構成された現実とは異なるこの空間で日常を過ごしつつ勝ち抜けばいい。
 言葉にするだけなら簡単だ。だが、立ち止まっていても何も始まらないのだ。
 アゲハは学園に通い、流子は街を走り情報を集めている――既に戦争の幕は開いている。

 バイクを学園に向け走らせていると目の前で渋滞が起こっているらしく車が多数密集している。

(めんどくせー……)

 セイバーは脇道に逸れるとそのまま突っ走り強引に進んでいく。
 ジャリジャリとタイヤを擦らせながらビルの間を走ると光が見える。
 挟まれた道から抜けだすとそこは公園だった、前にマスターと訪れたことのある公園だ。
 あの時は気にしていなかったが学園からそう遠くはない所に位置している。
 ……と言ってもバイクで換算した感覚であり、徒歩で想定すると充分遠い距離なのだが。


 公園には平日の影響もあり遊んでいるのはまだ幼稚園や保育園に通う前の幼い子供と親しかいない。
 その中に爆走する訳にもいかないので流子はバイクを押しながら徒歩で進む。
 すると少し遊具や遊び場から外れた気の麓に一人の男が疲れるように身体を預けていた。
 息は切れ切れ、フードを被っているがその隙間から見える顔には血管が一部浮き上がっている。
 とても健康体には見えず今にも死にそうな印象を与えていた。


(……あぁ、んだよもう……)


 満身創痍の男を見ていると昔の自分を重ねてしまう。
 父の仇を取るために焦り鬼◆◆皐◆に敗北を喫したあの時を。

 一度勝利したが故に油断し四天王の一人である◆投山◆に敗北を喫したあの日を。

 真の仇である◆◆縫が現れ――考えれば考えるほど浮かんでしまう。


 目の前で死にかけている男がどんな理由で満身創痍になっているかは分からない。
 だが見捨てることも出来ない――しかし彼女はサーヴァントだ。
 聖杯戦争に参加している今不要な接触は逆に危険に巻き込んでしまう可能性もある。

 ポケットに手を突っ込むと小銭がジャラジャラと音を立てる。

「仕方ねぇな……ちょっと待ってろよ」

 男に聞こえない程度の大きさで言葉を呟くと彼女は公衆電話に向かう。
 救急車を呼べば何とかなるだろう、彼女なりの優しさだった。
 バイクを近くに止めると十円玉を入れ、ダイヤルを押し連絡を行った――。




 ライダーの戦闘を終えた間桐雁夜はその場に留まらず移動をしていた。
 戦闘の余波で間桐邸の前方にあった家屋は崩壊してしまった、その場に居れば間違いなく疑いを掛けられる。
 無論この場合は雁夜のサーヴァントであるバーサーカーに原因があるため警察に見つかっては好ましくない。
 唯でさえ彼の知っている聖杯戦争とは異なり、狂戦士という魔力が枯渇するサーヴァントを従えているのだ。
 無駄な争いや力を消耗する事は避けたい、故に麻痺している身体に鞭を打ち込み移動をしていた。

 戦闘の相手であったサーヴァントは身体を伸ばし打撃戦を主体にしていた。
 バーサーカーの能力であり宝具であり存在意義である反射では相性が悪かった。
 単純に打撃戦ならばバーサーカーが圧倒的な優位に立てる、だがあのサーヴァントは違った。
 あらゆる打撃を無効にしていた、無効までは辿り着いていないかもしれないがそれでも損傷を与えてる感じはしていない。
 このままでは無駄に魔力を消費するだけだ、故に撤退を選択する。

 しかしバーサーカーの戦闘で彼の想像よりも魔力を消費してしまったらしい。
 身体に痛みが走り中に巣食う蟲共が騒ぎ出し彼の身体を永久に蝕んでいく。
 元々冬木の聖杯戦争で死の淵に位置していた彼だ、その身体に未来など残っている筈もない。
 公園に辿り着くも身体を休めるために彼は到着後直ぐに腰を下ろした。

 距離に換算すればそれ程歩いてはいないが彼にとっては多大な運動だったらしい。
 そのため息は続かず、声を出そうにも胸が苦しく、出来るなら動きたくない、と言うのが理想な状態だった。

 眠れるなら眠りたいが此処で目を閉じれば確実に危険だ。
 この聖杯戦争は彼の知っている聖杯戦争ではない、天戯弥勒が起こしたイレギュラーだ。
 何処に何が潜んでいるかも分からないため、心を無防備にすることは死を意味している。

「これでも飲んでゆっくりしとけ……してください。
 余計かもしれないけど救急車を呼んだんで直に迎えが来ると思うんで」

 顔を上げフードの隙間から覗きこむと声の持ち主が立っていた。
 年齢は女子高生程度、革ジャンを着ている、この時間帯ならば学校に通わない生徒、もしくは大学生と言ったところか。 
 そのNPCは何と救急車を手配し自分にお茶を自販機で買ってくれたらしいのだ。
 AI……と呼べばいいのか、天戯弥勒の力は彼が知る魔術とは違うかもしれない、そんな予感がしていた。

 差し出された飲み物を受け取ると雁夜は口を動かす。
 身体は苦しいが助けを貰い礼の一つも言わないのは礼儀に反する。
 人の道を外れた彼にも礼儀の作法が、人を形成する人間性は残っている。

「ありがとう……だけど俺は大丈夫だから、救急車はいいよ。
 ……でも、その心は素直に受け取るから、ありがとう――ッ!?」

「どういたしまして、それじゃあたしはこれで……近頃は物騒だからアンタも気をつけてなっと!」

 お茶を受け取られるのを確認すると女性はバイクに跨りこの場を去った。
 しかし男にはまだ用があった、いや、用が生まれてしまった。
 声を叫ぼうにも疲れきっており叫べない。
 あの女性は――。

「サーヴァント……ッ」

 疲労の影響か、気づいていなかったが間違いなくあの女性はサーヴァントだ。
 魔力の反応が通行人の比ではなく、その体感は冬木の聖杯戦争並だった。

 しかし現状の彼では再びバーサーカーが戦闘を起こすと非情に身体が危険になってしまう。
 死んでしまえば願いも何もかもその場で砕け散ってしまう、この判断は正解だったかもしれない。
 無論、判断ではなく流れで現状を招いたのだが。

(戦闘が始まれば俺の身体が保たない……今は休める事を考えるべきか)

 間桐雁夜は己の魔力と身体を回復、休める方針を選択する。
 バーサーカーの関係上聖杯戦争が長引けば長引く程彼は不利になってしまう。
 だが戦える時に戦えなくては意味が無いのだ。

 彼が休める場所――それは間桐邸だ。
 今は警察が屯しているため、彼らの目を掻い潜る必要がある。
 見つかっても問題は無いのだが、彼の容姿だけで職質を喰らう可能性もある。

 此処は穏便に戻るべきだ――聖杯戦争はまだ始まったばかり。



【D-4・公園/南西・一日目・早朝】

【間桐雁夜@Fate/zero】
[状態]肉体的消耗(中)魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]お茶(ペットボトル)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。
1.見敵必殺。見つけたサーヴァントから攻撃。
2.ライダー(ルフィ)相手は不利、他のヤツに倒されるまで待つ。
3.間桐邸に向かい休息を取る
[備考]
※ライダー(ルフィ)、鹿目まどかの姿を確認しました。
※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。
※セイバー(纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。


【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:■■■■───
1.───(狂化により自我の消失)
[備考]
※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。



【Cー3・一日目・早朝】


【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]バイク@現地調達(盗品)
[思考・状況]
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.学園に向かう。
2.霊体化しアゲハの傍に居る。
[備考]
※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。




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016:LIKE A HARD RAIN セイバー(纒流子 031:光の屋上 闇の屋上

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