We go! ……and I'm home◆A23CJmo9LE


魔神柱との戦いを終えて、生き残った5人のうちの3人は東へと歩を進めた。
虹村刑兆、エドワード・ニューゲートが犬飼伊介(を操る食蜂操祈の残渣)を元居た世界に送り届けるための、最後の道連れになる。

「鹿目さんとは別行動になっちゃったわねぇ☆どう、残念?」
「いや、別に。本来は敵対関係だ」

強敵相手に一時轡を並べはしたが、まどかと刑兆は本来なら聖杯を巡る競争相手になる。
ニューゲートとルフィは知らない仲でもなく、ジンベエやエース、イヌアラシにネコマムシなど繋ぐ縁はあれど、結局は海賊。
時が来れば剣を交えるのに戸惑いはない。

「まあそう言うとは思ってたけど。虹村さんはともかく鹿目さんもやる気満々そうだったのは意外かも☆」
「分かってただろ、お前は。犬飼が麦わらを奪いにかかりでもしたらブン殴られるのがオチ。おれがライダーを譲るわけもない、ってな」

別れ際、鹿目まどかはまだやることがあると戦場の跡地に残る判断をした。
共闘の申し出も、最悪その場での開戦も予期していたが、情報の交換も何もなしの別行動。
互いを知る必要はない、ということか時間を惜しんでいるのかはわかりかねたが……離脱の意思がないのは見てとれた。
別れ行く刑兆たちを見送る姿は健気、というよりも敵の射程内にいる限り警戒を解かない射手のようなもので。
まさしく戦う動機を持つ戦士のものという他ない。

「英霊となってみると鹿目さんも犬飼さんも、そういうのには少し早い歳だと思うんだけど……」
「エースや麦わらも若けェし、お前も大概だろキャスター」
「それは……まあ学園都市育ちだもの。10代でもそこらの子と一緒にしないで?というか私はちゃんと成長もしましたしぃ。学生時代の姿で召喚されたのは乙女心力が全盛期の年代だったからで大人の姿で召喚されることもあるわよぉ、多分」
「ライダーが歳食ってるのもそうだが、結構何でもありだなサーヴァントの全盛期ってのは」

一歩一歩進みながらも言葉を止めることはない。
刻一刻とすり減る操祈の残渣の遺言のように。

「戦わせるためなら何でもするのが英霊の座だもの☆」

守護者とならずとも、呼ばれれば応じざるを得ないのが大抵の英霊だ。
上位のトップサーヴァントであればまだしも近現代の人間の霊格では、強制された戦いを断るすべなどほぼない。

「私にとって最も大きな戦う動機は間違いなく好きな人のため。中学時代の姿で召喚された私は、まるでイアソンを愛したメディアのように、何をしてもおかしくない超能力者として現れるわぁ。もともと身体能力に頼るタイプじゃないし、レベル5は人格破綻者の集まりっていう風評被害も込みで、常盤台学園で派閥を築いた年代が闘うのには適している。
 鹿目さんはあれで結構重いもの背負ってる。乙女の秘密を勝手につまびらかにはできないけどぉ、彼女が帰らないのは理解できる。
 犬飼さんは家族と幸せに過ごす資金力を聖杯に願う。もっと深刻なものならこんな風に無理矢理連れ帰ることはしなかったかもしれないけど、命がけの聖杯戦争で得られるものがそれじゃあ割に合わない。彼女はここで脱落すべきよ☆
 ……あなたは?虹村さん。あなたはここで犬飼さんと共に帰る選択肢はないの?何のために戦うの?」

だからこそ、戦う意味と理由を忘れないでほしい。
それは先達からの、最期の問いかけになる。
犬飼伊介へと同じように、虹村刑兆のことも気遣って。
戦いの果てに得るものはあるのか、それは命をかけるに値するものなのか。

「ッ、そろそろ令呪の効果も、私も消えるわぁ☆
 公衆電話に着く前に、結論を出したほうがいいと思う――」
「帰らねェよ」

その問いは虹村刑兆には意味をなさない。

「おれ達は行く。おやじがイカれたあの日から、おれ達の人生は置いてかれたままだ。前に進むにはあの悪夢を消し去るしかねえ。
 化け物の一部を取り込み、乗っ取られたおやじをこの手で殺してやるまでおれ達の人生は始まらねえんだ」




「ふーん、そうなんだ♡」

伊介の眼から星が消えた。宿主が目覚め、これで本当に食蜂操祈は欠片も残さず消えたことになる。
刑兆の答えを操祈が受け取ることはなく、代わって聞いたのはニューゲートと伊介の二人になった。
ニューゲートはすでにそれを聞いたことがあって、個人的にあまり好意をいだいてはいない。しかし伊介の反応は

「いいんじゃない?いらないものはさっさと捨てて自由にならなきゃ♡」

肯定的。
彼女もそうして生きてきたから。

「親殺しねー。報酬があれば伊介が引き受けても、って言いたいけどアンタの変な兵隊で殺せないのってナニ?怪物?」
「ほぼな。頭を潰そうが、体を粉微塵にしようがくたばらねえ不死身の化け物。そんなもんに成り下がっちまった」
「えっぐ♡父親にそれって心が痛んだりしないのー?」

笑いながら伊介の歩調が気持ち速まる。
操祈の人格が消えても、帰還という目的は変わっていないようだ。
刑兆もそれに追いつくように少しだけ足を速める。

「まさかだろ。おれや弟を無意味に殴るクズにどう罪悪感を覚えろってんだ?」

その言葉で、今度は伊介の足が止まる。

「ンだよ?」
「アンタ弟いたの?」
「いるが。ああ、弟のスタンドも試したよ。脳天を削っても踏みつぶしても再生する。恐ろしいスタンドだが、おやじを殺すには至らねえ」

あっそ、と投げやりに答えて、一瞥もしないままに伊介がまた歩き始める。

(ホントに何なんだよ)

マイペースな伊介に苛立ちつつも、キャスターへの義理があり放り出すのも癪だ。
仕方なく刑兆も止まった足を再び動かす。

「犬飼伊介っていうのはねー、ママからもらった名前なの。カッコいいでしょ?」

刑兆が横に並ぶと伊介の口から言葉がゆっくりと紡がれ出す。
表情はらしくなく、愁いを帯びたようなもので。

「ママは犬飼恵介っていって、殺し屋をやってるの。でー、伊介がまだ小っちゃいときに助けてくれた」

伊介も刑兆も歩みを止めることはしない。
目を見て話しもせず相槌もなく、互いにどんな表情かもわからない。

「認めたくはないけど、まあ一応生物的に血がつながっているらしいので嫌々だけど母親と呼ぶざるを得ない生き物が伊介にもいたんだけど。
 そいつに…えーと、あれ世話放棄されるやつ。アレされたせいで伊介は死にかけ。で」

彼方に公衆電話が見えてきて、少しだけ伊介のペースが落ちる。
刑兆も合わせて歩みを緩める。

「弟は死んじゃった。そいつをママが殺して助けてくれた。そして新しく犬飼伊介って名前をくれて、生まれ変わらせてくれたの♡」

歩調が緩むのに対して口調は少しだけ早まった。
たどり着く前に全て語りつくそうとする意志の表れのように。

「伊介はねー♡伊介、って名前で呼ばれるの好き。パパもママも、伊介も伊介のことを伊介って呼ぶの。そのたびに伊介じゃないアタシなんてもういないんだって感じるから」

ついに電話機の前にたどり着き、後は帰るだけとなっても語り口は止まず。

「いらないものは、捨てちゃいなよ。童貞の粋がりじゃなくて、本気で父親を捨てようとしてるなら他のも。
 伊介は名前とか罪悪感とか過去も色々捨てた。いつまでも引き摺ってないで、アンタもそうすればいいじゃん」

テレホンカードを出すのにやけに手こずり。
さらに喋りながらなのに加えてほとんど見たこともなく、ましてや使ったことなど全くない公衆電話という時代の遺児の操作にもまた苦戦し。

「えーと、エドワード・ニューゲート……おじさん?ガテン系でナイスシルバーで、ちょっと萌えるかも。ママがいなかったら、パパって呼ばせてもらったかもね♡」

ようやくテレホンカードを取り出すと、キチンとニューゲートの方は振り向いて述べた。
心情を語る方が昔話よりしこりが少ないのだろう。
そして不慣れな公衆電話にもたつきながらもテレホンカードの挿入口をようやく見つけた。

「いっぱい捨てたけど、パパとママのことは大好きだし♡
 …………弟のことは、別に嫌いじゃないし。家族は捨てないで大事にするといいんじゃない?血よりも濃い水ってあるものよ♡」

それだけ言ってテレホンカードを電話機に滑り込ませると伊介の姿が消えていく。
語った言葉は意味のない過去語りっだったのか、キャスターの宝具の影響か、彼女なりのアドバイスのつもりだったのか。
その意図を伝えることはないままに。


【犬飼伊介@悪魔のリドル 退場】





「済んだな。これでキャスターへの義理立ては終わりだ」
「ああ。ところで刑兆、体の方は大丈夫か?」

セイバーやバーサーカー、何より魔神柱との連戦ではかなりの消耗をした。
ニューゲートの負傷もあるが、やはり魔力面の心配は大きい。
刑兆は体の調子とスタンドの様子を確かめて幸先を占う。

「……問題ない、とは言えねえが。おれ達の知らないところでも戦闘は起きているのは放送で分かってる。
 それにあのルイとかいうやつが南でもあの魔神柱級の化け物が暴れてるといってた。サーヴァント数騎がかりじゃねえとどうしようもねえやつが、だ。
 勝ったとしてもおれ達と同等以上に消耗してるはずだ。なら回復しきらないうちに叩く方がいい。
 蹂躙されているとしたら、改めて組む相手を探さねえとならねえ。おれ達だけじゃ魔神柱は倒せねえ。どっちにしろ、他の陣営との接触が必要になる」

消耗は激しく、宝具の発動は令呪なしでは厳しい。
ニューゲートの負傷もあり、難敵との真っ向勝負や魔神柱クラスと渡り合うのは厳しいと言わざるを得ない。
本来なら休息に徹したいところだ。
しかしこの聖杯戦争にはあまり時間がない。
頭上に輝く月というリミットがある以上、拙速を求められる。
故に、刑兆は敵もまた同等の消耗を強いられている可能性にかけ、動くことを選ぶ。

「…わかった。それはそうとキャスターの――」
「ああ。宝具の影響か?問題なさそうだ。エピソード記憶と意味記憶の違いだったか?記憶喪失になっても食器の扱いや字の読み書きを忘れることはないとかいう。
 一方通行と垣根帝督についてははっきり覚えてるから安心しろ。一応話しておくか?」
「――そうだな。歩きながら聴こう」

父殺しを願う子と、あらゆる荒くれ物の父親は、水の流れに乗るように再びの戦場へ。


【A-4/公衆電話近く/二日目・未明】


【虹村刑兆@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(大)
[令呪]残り3画
[装備]いつもの学ラン(ワイヤーで少し切れている)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:おやじを殺す手段を探す。第一候補は聖杯。治す手段なら……?
1:南の戦場とやらが気にかかる
2:天戯弥勒、またはその関係者との接触を予測。その場合聖杯について問い詰める。
3:バッド・カンパニーの進化の可能性を模索。能力の覚醒に多少の期待。
4:公衆電話の破壊は保留。

[備考]
※バッド・カンパニーがウォルターに見え、ランサーに効かなかったのを確認、疑問視しています。
→アーチャーとの交戦を経てサーヴァントにはほぼ効かないものと考えています。
→キャスター(操祈)がほむらと交戦してダメージを受けたのを確認し、対魔力が重要な要素であると確信。
※サーヴァント保有時に紅いテレホンカードを使用しても繋がらない事を確認しました。
※サキュバスなどのエネルギー吸収能力ならばおやじを殺せるかもしれないと考えています。
※学園の事件を知りました。
※麒麟殿温泉の下見は済ませました。なにかあったか詳細は後続の方にお任せします。
※夢を通じてニューゲートの記憶を一部見ました。それにより17歳の頃のルフィの容姿を把握しました。
※心理掌握により、一方通行と垣根帝督に関する知識を一部得ました。


【ライダー(エドワード・ニューゲート)@ONEPIECE】
[状態]ダメージ(中、右腕は戦闘に支障)、魔力消費(大)
[装備]大薙刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:刑兆の行く末を見届ける
1.刑兆に従う

[備考]
※NPCの存在、生活基盤の存在及びテレカのルールは聖杯、もしくは天戯弥勒の目的に必要なものと考えています。
※キャスター(操祈)と垣根が揃っていたのと同様、ルフィと自身が揃っているのにも意味があるかもしれないと考えています。
※宿およびその周辺をナワバリとしました。
※浅羽、バーサーク・アサシン(垣根)、ほむら、セイバー(リンク)を確認しました。


























寄せては返す波の音の中を鹿目まどかは揺られていた。
陸地からさほど離れてはいないが、街の明かりもなくなるほどに更けた夜ではすでに岸の名残も見えない。
それでもまどかたちはゆっくりと、船を沖へと進めていく。

「……このあたりでよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます、ブルックさん」

乗り込んだ船の名はソルジャードッグシステム2、ミニメリー2号で、操縦は碌にできないルフィに代わってブルックが召喚されている。
心象風景を投影する固有結界は、一部だけならば結界を張らずとも現実を侵すことができるため、ブルックとサニー号の一部だけ宝具から呼び出したのだ。海は彼らにとって何より見慣れたもので、心象風景ともよくなじむ。
船の扱いであるが、船大工のフランキーや操舵主のジンベエがいない理由の一つは魔力の倹約。そしてもう一つは

「バイオリンでよろしかったでしょうか?楽器は全般いけますが」
「はい……きっとさやかちゃんはバイオリンを一番聴いてきたと思うから」
「それでは一曲。葬送の調を」

美樹さやかを、見送る礼のため。
ブルックのバイオリンから哀しくも優し気な音が奏でられると同時にまどかがポケットからハンカチを取り出し、それに包まれた灰を一部海へと流す。

虹村刑兆たちと別れたまどかが最初にしたことはさやかの遺灰と遺品を搔き集めることだった。
もはやさやかだと分かる面影などない。
聖杯戦争を終えて帰還したとして、まどかのいた世界ではとうにさやかは命を落としている。いや、亡骸と墓標があるならまだいい。
円環の理になったことで彼女の存在そのものが人理から消失してしまっているかもしれない。
それでも忘れてはいけない、その痕跡をなかったことにはしてはいけないと強く思った。
せめて生きた証を。戦った印を。
できるなら彼女の育った見滝原に残してあげたい。けれども、この戦いの果てでまどか自身が生きて帰れる保証はない。
無論生きるのをあきらめるつもりも毛頭ないのだから、故郷の土で弔うため一掴みの遺灰は残している。
それでも万一に備えて葬送だけは行ってしまうことにしたのだ。

とはいえ街中に埋めて適当な墓標を立てるというのは些か抵抗がある。
……思い至ったのは共にいる英雄のこと。そして美樹さやかが人魚へと転じたこと。
円環の理となった以上、魔女の姿もまた彼女の一面であるのだから、人はみな海の子なのだから。
魔法少女が円環の理へ還るように、人の命は海へと還るのがよいのではと。

沖に出て遺灰を撒き、その周囲を葬送曲を奏でながら一周。そして黙祷を捧げるだけの簡素な水葬。
それでも年若い少女の死に、かけがえない最高の親友との永久の別離に船上の三人は心から哀悼の意を示していた。

そしてルフィもブルックも帽子を脱いで、まどかは両手を合わせて静かに黙祷。
聞こえるのは波の音だけの静かな儀式…………だった。

海面を裂くような音が小さく聞こえた。
次の瞬間に、そこには異形の怪物が何体も現れていた。
ウミヘビのようなもの、翼竜のようなもの、人型を留めた者……すべての個体が体のどこかに球体のようなものが嵌まっている。
禁人種(タヴ―)と呼ばれるその怪物はこの地では一度だけ美樹さやかが観測していた。
それらはこの聖杯戦争の地の外に出ようとするものに干渉する。
波に揺られるうちにミニメリー2号は戦場の外へと流れつこうとしていたのだ。

禁人種(タヴ―)が一斉に船へと向かいくる。
度重なる戦闘のダメージがたたったか、黙祷のさなかだったからかルフィの見聞色はそれに出遅れてしまう。
先制を許すか、と思われた瞬間

「鼻歌三丁…いえ、“鎮魂曲・ラバンドゥロル”」

剣戟一閃、冷たい黄泉の風が吹き荒れ禁人種(タヴ―)のことごとくを凍てつかせた。

「申し訳ない。私お二人が黙祷してる間も目、閉じてなかったんです。瞼がないので」

ヨホホ、スカルジョーク。とさすがにブルックも空気を読んで小さくつぶやく。
……瞼どころか眼球もないのでは、と指摘するものは残念ながら誰もおらず。遅れて構えたルフィも息をついて麦わら帽子をかぶりなおす。
だが、今度はまどかが遅れて構えた。

「まだです」

腰に下げた一振りの剣を抜く。
それもまたさやかの形見。最後にキャスターの胸を貫いた、まどかを守るために戦い続けた末期の遺志。
危なっかしい素人剣術未満だが、凍って動きを止めた禁人種(タヴ―)にはそれでも十分だった。
ゆっくり、真っすぐに突き出された剣が禁人種(タヴ―)の核を貫き、その一体を灰に還す。

「……うん、やっぱり。魔法少女(わたしたち)のソウルジェムと似てる」

それを見てブルックとルフィも続いた。
改めて抜き放った剣で、シンプルなブローで禁人種(タヴ―)の核を砕いていく。
まどかではさすがにそれには続けず、剣に刺さった核の欠片を回収し、じっと確かめることにする。

「まどかさん、あれのことご存じだったんですか?」

禁人種(タヴ―)が全て灰になったのを確かめ、剣を鞘に納めながらブルックが質問する。
まどかはその問いに困ったように首を傾げ、剣先の核から目線を外して首を横に振った。

「いいえ、知りません。見るのも初めてです……円環の理(わたし)は、インキュベーターが人類史に関わるのをずっと見てきたのに、これは見たことがないんです」

先刻まで、まどかは一時だが円環の理という女神の疑似サーヴァントになっていた。
そのためグランドキャスターの視界と知識を一時共有し、今も一部だが記憶はしている。
その記憶の中に禁人種(タヴ―)は存在しなかったと断言できるのだ。

「だから多分、あれはインキュベーターと同じ星の外から訪れた外なるもの……降臨者(フォーリナー)
「フォーリナー……?エクストラクラス、ですか」

再び船の上に沈黙が下りる。今度は悼みからでなく、思考に囚われて。
しばらく皆身じろぎもせず佇んでいたが、波に揺られるままでまた怪物の襲撃を受けては厄介、とブルックがゆっくりと岸に戻るよう船を操作し始める。

「見送りは、このくらいで?」
「はい。ありがとうございました」

パドルのまわる音を立ててミニメリーが水面を走る。
波にも乗ってすぐに陸へたどり着き、三人が船から砂浜へと降り立った。
ルフィはミニメリー号を固有結界へと送還し、ブルックも戻ろうとまどかに声をかけようとするが、彼女は未だに海の彼方を眺めていて些か声をかけにくい。
……逡巡するブルックにまどかが気付くと、小さく笑みを浮かべてまどかから話しかけた。

「ありがとうございました、ブルックさん。もう一つお願いしてもいいですか?」
「ヨホホ、麗しいお嬢さんの頼みとあれば断れませんよ。何でしょうか?」

快く引き受けたブルックに、まどかは先ほど振るったさやかの剣を差し出した。

「やっぱり私に剣は向いてないみたいです。持ってても多分荷物にしかならないだろうから……」

ブルックに剣を渡し、その最後の用途についてぽつぽつと話す。
ルフィとブルックが一度だけ本当にいいのか、と確認するがまどかが肯定して、最後の弔いは実行に移された。

「では、これで」

ブルックが剣を走らせ、まどかの髪を僅かに切る。
そしてそれをまどかの髪を括っていたリボンと一緒に副葬品として剣に結びつける。
最後に剣を海に向かうように地面へと突き立てた。

「…それじゃあ、行ってくるね。さやかちゃん」

月影の下、海を臨んで墓標のように真っすぐに刺さった剣を背にして砂浜を後にする。
海岸に突き立てられた剣などいずれ処分されてしまいかねない、と普通なら思うが、この世界には月が接近している真っ最中だ。
長くはないこの世界では墓標を用意しても一時しか持たない。それでも、送る標としたいと思ったのだ。

遺灰の一部と剣で弔ったことで形見も残りは半分ほど。
残った遺灰はハンカチに包んでポケットにしまった。
持っていたグリーフシードも放っておいて万一魔女が孵っては困るし、使い道もあるので回収してある。
それから最後にもう一つだけ。
さやかの身に着けていた衣服までも灰になったが、何の因果か制服のリボンだけが残っていた。
剣に手向けた桃色のリボンの代わりに、それで新たにまどかは髪を纏めることとする。

「ん、どこか変じゃないですよね?」
「ええ、よくお似合いですよ」

手癖で整えられるが、念のため鏡がないので確認を。
ブルックの答えに安心したような笑みを少しだけ浮かべて、まどかは砂浜から街の方へと戻っていく。

「まどかさん、しつこいようですが本当に聖杯戦争を続けるのですか?海賊が聖杯(たから)を求めるのに理由は必要ありませんが、あなたは違います。
 ご友人の弔いのために故郷へ帰るというなら私もルフィ船長もそれを止めは致しませんよ?」

もとより願望機に託す願いなどなく、夢は自力でつかみ取っていく信条だ。
手に入れれば金銀財宝や書物などを願いはしそうだが、少女に殺し合いを強制してまで手にしたいとは思わない。
令呪で自害、はさすがに御免被るが契約を解除しての消滅くらいなら別に受け入れるも吝かではないのが一味の正直なところだったが

「いえ……まだ私はこの戦いをやめられません。円環の理を、私とさやかちゃんの願いを守らないと」

まどかははっきりとそれを否定した。
今の自分には戦う理由がある、と。

「おかしいんです。円環の理が機能してるなら魔女は産まれないはずなのに」

円環の理の疑似サーヴァントとなり、その規格外の千里眼で世界を見た。
目に映ったのはこの世界で穢れに満ちた者たち……契約したサーヴァントの悪意により魔女へ転じかけたほむら、穢れに染まり切ったうえに悪魔との繋がりと因果によって魔人柱へと変生したさやか、そしてほむらの手にしたグリーフシードから孵った魔女Gertrudなど見知った顔だ。
魔女になり切らなかったほむらに、外的要因が混在したさやかだけならば円環の理の適応外だったということも考えらるが、Gertrudの誕生は円環の理の不調を意味する。
ならばその原因は何か。

「多分、無理矢理に単独権限することでここに介入していたけれど本来の円環の理として現れるのにはこの世界のリソースが足りてないんだと思うんです」

つい先ほどまでのまどかでは理解の及ばない世界のルールの一端を、ひと時円環の理と化したことで認識していた。
とはいえ彼女が千里眼によって得た知見をルフィもブルックも一片たりとも理解はせず首をかしげるだけ。
しかしそれを気には止めず。
口にしているのはただ思考を言葉にすることで整理しているのにすぎないのだろう。
そういう意味では理解せずともルフィもブルックも余計な口を挟まないでくれるのはとても助かる。

「この聖杯戦争は一クラス一騎が原則のサーヴァントに同じクラスがニ騎いる。だからこそ来ることができた。それでもすでに埋まっている一枠にリソースを裂いているからその隙間に単独顕現するしかなかった……」

聖杯戦争の本来の形は決戦術式、英霊召喚。それにより冠位の英雄を揃え、獣を討ち果たすものだ。
いくら歪んでいるとはいえ、その原型に近づくグランドクラスの顕現とあっては複数同時召喚は不可能に等しいだろう。

「いるんです…ううん、まだちょっと顔をのぞかせてるくらいだと思うけど。すでにこの聖杯戦争には円環の理以外のグランドキャスターが」

型落ちした聖杯戦争の術式では本来グランドクラスの召喚など望むべくもない。
しかし対となる獣がいて、それが主催側に立っているなら討滅すべく世界は動く。
さらに、もし獣の数を多数誤認させることができれば確率は増すだろう。

「この、テレホンカード。『単独顕現』なのかも」

原理は分からないが、現在過去未来並行世界問わずさまざまなマスターを集め、また送り返す。
獣の顕現のように。あるいはとある機関でレイシフトと呼ばれる技術のように。
マスター全てが獣の資格者である、と世界に誤認させることができればそれはグランドクラスの顕現に繋がる。

この儀式は全てグランドキャスターの召喚のために行われていた。
それも円環の理とはまた別の。

「うーん……オティヌスちゃん。でも本人じゃない、かな。多分……天戯弥勒。彼が一部を呼び寄せてる」

真意は分かりかねるが、ここにグランドキャスターが現れつつあるのは、まどかには分かっていた。
グランドキャスター、冠位の資格を持つ魔術師はみな優れた千里眼を保有する。
そして千里眼の保有者は時を超え世界を超え視線を交わらせるため、直接の面識はなくとも互いを認識している。
つまりそこに誰がいるのか、真名から能力まで互いに分かるのだ。
魔法少女を救うために現在過去未来、そして世界の壁も超えて魔法少女を見通す円環の理。
世界樹の頂からその根元まで見通すように、数多の可能性世界を作り出し渡り歩くためにあらゆる並行世界を監視する魔神オティヌス。
友でもなければ同胞でもない、ある種の連帯感を抱く相手。轡を並べることはなくとも刃を交えることもないと思っていた。
それでも

「グランドキャスターが一騎しかいられなくて、この世界で円環の理が機能しないなら……還ってもらわないと。それに」

ちらり、と地面に突き立ったさやかの剣を見る。
これがヒントになって今いるこの世界が何なのか予想はついた。

「テクスチャが張り替えられてる。本来どこだったのかは分からないけど、オティヌスちゃんの力で聖杯戦争の戦場のテクスチャを張り付けたのがこの世界」

それはオティヌスの得意分野だ。
世界を一度リセットし、その上から改めてifの世界を用意して、最果ての槍……『主神の槍(グングニル)』でテクスチャを固定する。言うなれば人理の再編。
其れはさながら神話の一節。
神々が洪水によってテクスチャを一掃し、方舟に乗り込んだものによって人理が形作られたように。
あるいは神の子が自らの肉体ごとテクスチャを槍によって貫き、人理を強固にしたように。
そしてそれはかつて円環の理も成したこと。
魔法少女が魔女へと転じる世界を否定し、円環の理によって救済されるようテクスチャを張り替えた。
オティヌスの持つ主神の槍、ノアの一族が乗り込んだ方舟、円環の理が携える弓……すなわち人理の再編を成し、そして乗り越える『ゴフェルの木』を持つ者。
誰かがゴフェルの木を使いこなし、世界(テクスチャ)を変え、そしてそれが円環の理が適さない世界であるのかもしれない。

「今いる世界をさっきのフォーリナーが過ごす世界に変えようとしてるなら、それは円環の理への宣戦布告に等しいよ」

剣に刺さっていた禁人種の核。
外なるもの、降臨者の証。
まどかは知らないが、それは外宇宙より飛来したクァト・ネヴァスの力によって人類が進化する力の源だ。
ある歴史においてはこれにより進化した存在が地上を闊歩する霊長の祖となっていた。
また別の歴史がある。
宇宙より飛来したウイルスにより人類含む一部の生命体が進化を遂げ、スタンドと呼ばれる超能力を身に着けた世界。その一人が人類を天国と呼称される新たな領域へと導いた、スタンド使いという進化した人類が基盤を築いた人類史。
あるいは太古、衣服によって進化と発展を遂げ、衣服に支配された人類史であったり、悪魔と融合した人類が地球の主となっていたり、魔術により進化したヤガという新人類が歩む世界であったり。
それらは全て円環の理の千里眼の及ばない世界。
そして本質として円環の理が焼却した歴史、魔法少女という人理の礎が絶望の果てに魔女へ転じてしまう世界と同じ、消え去るべき歴史。

オティヌスの力によって、この世界は円環の理でも救えないテクスチャに張り替えられつつあるのだ。
もしもその改変がこの地に留まらずまどかの故郷に及んでしまえば、あるいは及ばずともこの地に救うべき魔法少女がいては。
円環の理が、まどかとさやかの願いが否定されることになる。
それは、絶対に許してはいけない。
すなわちオティヌスの生み出す異聞帯(せかい)と、円環の理が作り出した汎人類史(せかい)の生存競争と言えよう。

「……全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で生まれる前に消し去る。それが私と、そして今はさやかちゃんの願い。その願いのために、私はほむらちゃんの願いを否定した」

後悔はある。それでも、友達を含めたすべての魔法少女を救うことを間違っているとは思わない。
もはや円環の理は鹿目まどか一人のものではないのだから。

「たとえ力を失くしたって、それでも私は円環の理なんです。だから、魔法少女を救うために私はオティヌスちゃんが相手でも闘います。一緒に、来てくれますか?」

令呪によって縛ることもできただろう。
とっくにルフィはバーサーカークラスとしての適性もあり、狂化して従える素質もまどかにはある。
だが、遊園地での戦いで……否、最初からそんなものは必要ないことは分かっている。

「あたりまえだろ!」

と、満面の笑みでルフィが答える。
見聞色の覇気などなくとも容易く見える未来だった。

「改めてよろしくお願いします。あ、報酬は聖杯(たから)払いで、ってナミさんに伝えておいてください」

と付け加えると

「あ、これ断りようがなかったですね!ヨホホ、誰と話せばいいのかご存じでいらっしゃる!」

と、笑いながらブルックもミニメリーに続いて帰還する。
代わって現われたのは

「アウ!それじゃあ、ここからはおれが力になるぜェ!」

水色のリーゼント、サングラス、アロハシャツ、海水パンツ。
全身に機械が仕込まれ人間離れした体格の、端的に言って変態が巨大なバイクに乗ってそこにいた。

「こいつはソルジャードッグシステムチャンネル4、クロサイFR-U4号!そしておれは麦わら大船団の船大工フランキーだ、よろしくな嬢ちゃん」

サングラスを上げてあいさつをするフランキー。
記憶の共有で知ってはおり、さらに円環の理の知見を得て精神的に成長したまどかではあるがブルックとは違う意味の異様に少し引いた。
それでも失礼のないように一礼をして、バイクの後ろにルフィと一緒に乗り込む。

「真名の秘匿だの、目的地が不明瞭だの、魔力節約だので出てこれずにいたが地上を走るならコイツがスーパーだ。
 そいじゃどちらへ、キャプテンにレディ?夜通しの移動になるが大丈夫か?」

本来のルフィなら一日程度活動を続けたとて心配はいらない。
新世界の猛者ともなれば数日間闘い続けることもある。
5日間闘い続けたルフィの兄と仲間、エースとジンベエや10日間に及ぶ決闘をつづけた赤犬と青雉など同様、ルフィもその域には達していた。
四皇ビッグマムの幹部である将星クラッカーやカタクリとの闘いを一昼夜続けたように、この聖杯戦争も超えられなくはない。
だがそれもサーヴァントなっては十全な魔力補給あってこそ。
そしてその負担は小さなまどかの体にかかる。
気力充実成れど体力、魔力の問題は生じるだろうと当然考えた。
だが

「大丈夫です。少しの間ですけど睡眠のいらない疑似サーヴァントになってたからか、疲れは全然ないんです。魔力は厳しいかもしれないですけど……令呪があります。
 私のことは大丈夫です。少しでも早くほむらちゃんと合流したいから、お願いしますフランキーさん」

その言葉が終わるか終わらないうちにエンジン音が鳴り響いた。
加速した重機が人気のない街の中を走りぬけ、彼女らも今再びの戦場へ。







【A-4/海岸近く/二日目・未明】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(大)、フランキーのバイクに同乗
[令呪]残り3画
[装備]さやかの形見のリボン
[道具]さやかの遺灰(ハンカチに包んでいる)、グリーフシード×5
[思考・状況]
基本行動方針:さやかと自分の願いである円環の理を守るために戦う。
1.ほむらを探す。ほむらの力になりたい。
2.タダノとも話がしたい。南で戦ってる……?
3.聖杯戦争への恐怖はあるが、『覚悟』は決まった。
4.魔女のような危険人物、何より円環の理に仇をなすものは倒すのも厭わない
[備考]
※バーサーカー(一方通行)の姿を確認しました。
※ポケットに学生証が入っています。表に学校名とクラス、裏にこの場での住所が書かれています。
※どこに家があるかは後続の方に任せます。
※アーチャー(モリガン)とタダノは同盟相手ですが、理由なくNPCを喰らうことに少なくない抵抗感を覚えています。
※セイバー(流子)、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』により食蜂に親近感を抱かされていました。
※暁美ほむらと自動人形を確認しました。
※夢を通じてルフィの記憶を一部見ました。それによりニューゲートの容姿を垣間見ました。
※一時的に円環の理の疑似サーヴァントになっていたことで座及び円環の理に由来する知識を一部得ています。



【モンキー・D・ルフィ@ONEPIECE】
[状態]ダメージ(中、応急処置済み)、フランキーのバイクに同乗
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを守る。
1..バーサーカー(一方通行)に次会ったらぶっ飛ばす。
2.バーサーカーに攻撃がどうやったら通るか考える。
3.タダノとの同盟や今後の動きについてはまどかの指示に従う。
4.肉食いたい。ギア4使って腹減っちまった。
[備考]
※バーサーカー(一方通行)と交戦しました。
 攻撃が跳ね返されているのは理解しましたがそれ以外のことはわかっていません。
※名乗るとまずいのを何となく把握しました。以降ルーシーと名乗るつもりですが、どこまで徹底できるかは定かではありません。
※見聞色の覇気により飛鳥了の気配を感知しました。もう一度接近した場合、それと気づくかもしれません。
※フェイスレスを倒したと考えています。

[共通備考]
※タダノ&アーチャー(モリガン)と同盟を組みました。
 自分たちの能力の一部、バーサーカー(一方通行)の容姿や能力などの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。




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最終更新:2018年12月24日 23:32