僅かな休息 ◆wd6lXpjSKY


誰にも罪は無いが、渋滞に巻き込まれると苛立ちが生まれてしまう。
罰を与えるわけではないが、一人の運転手は八つ当たりのようにクラクションを鳴らす。

「あーあー! さっさと進めや……」

悪態をつきながら一向に進まない前方の乗用車を見つめる纏流子。
邪魔なモンは斬る――そんな方針ではあるが、常識の範囲内では関係ない。
車から降りてぶった斬って道を空ける。そんなことが許されるはずが無い。無論、するつもりも無い。

「もう人吉の姿も見えなくなっちまったな」
「見えなくも何も最初から見えてやしねえだろ。
 なぁアゲハ。こっから人吉を見つけるってのは流石に無理がある」
「解ってるよ……これじゃあ橋の向こうに行ってる可能性もあるしな」

人吉善吉を捜索するために車を走らせていた夜科アゲハとセイバー、纏流子。
人形を使役するキャスターに連れ去られたようだが、完全に追跡するアテが無くなってしまった。

車を飛ばせば少しは姿を発見出来るかと思っていたが、まさかの渋滞に巻き込まれてしまう。
夜という仕事帰りの時間と重なってしまったこと。
もう一つは彼ら――聖杯戦争参加者が起こした戦闘の余波で交通規制が始まっていた。

麦わら帽子のライダーが一般人を気絶させてしまったこと。
他にも響く銃声や轟音は日常に似合わない不協和音であり、住民にとって大きな恐怖となっている。
一種のパニック現象に近い今、マスコミも多く集まっており自由に身動きが出来ない。

「なぁ纏。これ盗んできた車だよな?」
「当然だろ。あたしが車持ってる訳ないだろ」
「足が付いたら面倒だ。そこら辺に乗り捨てて、単車でも何でもいいから新しいのパクって帰るぞ」

助手席に座っているアゲハが提案した内容は正直に言って褒められるものではない。むしろ罪である。
しかし盗難届を出されれば警察が動き、拘束されるかもしれない。此処で車を捨てる判断は懸命である。
しっかりしていないようでしっかりしているような。勉強は出来ないが馬鹿ではないような。

(悪いな人吉……明日、またお前を探すからよ)

聖杯戦争に巻き込まれた夜科アゲハが最初に接触した他の参加者が彼、人吉善吉だ。
助ける、救うなどと自分の生命を肩入れしてまでの仲ではないが、黙って見捨てる訳がない。
一度ぶつかった男だ。もう他人ではない。この手が届くなら救ってやる。

(それでも見つからなかったら――俺は先に行くからな)

もしその手が届かなかったら、それは物語の分岐点である。
生きていることを願い、夜科アゲハはその足を進めるだけ。立ち止まってはいられない。
天戯弥勒を止めるために。仮初であろうがこの世界を救うために。

脇道に車を滑らせ、ギリギリ車線が存在するかしないか程度の広さしかない小道を進む。
聖杯戦争の舞台は比較的都会であり、ちょっとした移動でも混雑で足を取られてしまう。

座席にだらしなく腰を預け、片手でハンドルを切りながら流子はルームミラーを調整する。
後ろから来ている車は無い。このまま大通りに合流すればすんなり帰れそうだ。

「なぁアゲハ。お前、魔力の貯蔵は充分か?」
「なんだよその言い回し……心配すんな。ちっともへばってないぜ?」
「そっか……ん! ならいいぜ、とっととバイクかっぱらって帰るぞ!」

先の戦闘ではアーチャー相手に苦戦を強いられた。予定よりも大幅に魔力を消費してしまった。
サーヴァントなるシステム上、自分の戦力はマスターに依存し、力を振るえば振るう程マスターを蝕んでしまう。

アゲハに対して流子は申し訳無さを、自分に対する情けなさを感じていた。
しかしそれは既に流れており、両者は通じあっていた。それでも気になる物は気になる。
人吉善吉の件もある。
なるべくアゲハに負担が掛かる事は回避したい……しかし彼は強い。或いは強く振舞っている。

なら必要以上に心配する必要は無い。
話題を勢いで切り上げた流子はアクセルを踏み込み、適当な駐車スペースに車をダイレクトに決める。
決めるとは駐車を行ったことを彼女なりの言葉で表現したものである。

「荒いぞお前!」

シートベルトで抑えられていた身体に重力が襲い掛かり、不満を叫ぶ。
当の本人である流子は特に反応もせずに扉を開けると、停まっていたバイクに手を掛ける。

「これなら走れるぞー」

するとカギも無いのにエンジンが掛かり、誰も触れていなかった無機の械に息吹が吹き込まれる。
ようはちょっとした魔力の応用で、自らのバイクになった。

「ったく……さっさと帰るぞ」

手を振る流子に対しアゲハはぶっきらぼうに扉を開け、彼女の元へ進む。
今日は色々なことがあり過ぎた。シャワーでも浴びて早く眠ろう。
そう思いながらバイクに跨り、若い男女は出発した。










『洗濯してもらいフブキにはアイロンも掛けてもらった。幸せだ』
「それはよかったな鮮血」
(ハンガーに掛かってる姿見てるとやっぱ服だよなコイツ……)

アゲハの家に無事帰宅した彼らは、彼の部屋に入り浸り適当に会話をしていた。
既にシャワーや歯磨きは済ましており、もう寝るだけと言った段階である。

フブキ――アゲハの姉が昔使っていたパジャマを着せられた流子はアイスを食しながら学園の生徒名簿を見ていた。
単なる暇つぶしであり、特に意味は無い。

『流子、もう歯磨きをしたのに物を食べるのか』
『うるへーほ、ふぇんふぇふ』

まるで親子のような会話をしている流子達を無視してアゲハは窓から空を見上げていた。
仮初の架空世界でも星は美しく輝いている。
手を伸ばして掴み取れたらどれだけ強く輝いてくれるだろうか。星はどの世界でも輝いている。

(月が綺麗だな……今日は満月か)

雲一つ無い美しい月夜。
これで雨宮でも居たら良い雰囲気に……なんて考える余裕や発想出来るほど頭も回っていない。
とりあえず明日は学園に行く。其処にルキアが来れば改めて情報交換でも行うか。
人吉善吉は来るのか、来て何を話すか。紅月カレンとも接触するかもしれない。
そもそも天戯弥勒の手掛かりを掴まなくては……やることが多過ぎる。

(俺は結局何も手掛かりを掴めちゃいねえ……祭先生や影虎さんに笑われちまう。
 雨宮やヒリューにもボロクソ言われるだろうな……情けねえ、俺には帰る場所があるのに――っ)



「はああああああああああああああああああ!?」




「うるせーぞ! 纏!」
「なあアゲハ、お前アッシュフォード学園の生徒会長に会ったことあるか!?」
「あ……たしか鬼龍院皐月だろ? あるぜ」
「これ、あたしの姉さんだ……まさか姉さんも聖杯戦争の参加者に!?」
「いやあの人から魔力を感じなかったけど……姉妹なのに似てねえなお前達」
「うるせえ! んなことより明日はあたしも学園の中まで付き合うからな!
 NPCにわざわざ知り合いを用意する糞野郎の気持ちなんて解りたくも無いけど、一応姉さんの無事を確かめるからな!」

「はいはい……んじゃ電気消すから戻れ」

センチな感傷に浸っていた自分は何だったのか。騒ぐ流子を見てアゲハの弱い考えはぶっ飛んだ。
悩むなんてらしくない。道があるなら黙ってでも走る。それでいい。
纏流子に助けられた。考えてやっているならたいしたもんだが……どうなのやら。

電気を消したアゲハは窓を締め忘れていたことに気付き、鍵をかけた。



彼らは明日、学園で一つの噂を知ることになる。

『満月の夜に現れた巨人伝説』

今日の満月は一段と綺麗で、不気味であった。



【B-4/アゲハ自宅/一日目・夜】



【夜科アゲハ@PSYREN-サイレン-】
[状態]魔力(PSI)消費(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.寝て学園に行く。
2.人吉善吉捜索再開。
[備考]
※ランサー(前田慶次)陣営と一時的に同盟を結びました
※セイバー(リンク)、ランサー(前田慶次)、キャスター(食蜂)、アーチャー(モリガン)、ライダー(ルフィ)を確認しました。
※ランサー(レミリア)を確認しました。
※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』により、食蜂のマスターはタダノだと誤認させられていました。
※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています



【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]魔力消費(中)疲労(中)
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.寝て起きたら学園に行って皐月に会う。
2.キャスターと、何かされたアゲハが気がかり
3.アーチャー(モリガン)はいつかぶっ倒す
[備考]
※セイバー(リンク)、ランサー(前田慶次)、キャスター(食蜂)、アーチャー(モリガン)、ライダー(ルフィ)を確認しました。
※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。
※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました
※乗ってきたバイクは学園近くの茂みに隠してありましたが紅月カレン&セイバー(リンク)にとられました。
※アゲハにはキャスター(食蜂)が何かしたと考えています。
※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています




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最終更新:2018年12月24日 23:42