Dはまた必ず嵐を呼ぶ/嵐の中嬉しそうに帆を張った愚かなドリーマー◆A23CJmo9LE



夜の病院をタダノたちは忙しなく動いていた。
カエル顔の主治医を呼び出し、モリガンに籠絡させることで都合のいいように動かす。
これにより自宅療養の許可と職場に出す診断書を早期に手に入れる。
見舞いに来た同僚にもモリガンを引き合わせ、彼らを通じて自宅療養の旨伝達。
それらを済ませ自由の身になってから改めて駆け回った。
そうしたある種の頭脳労働に向かないライダーは眠るまどかの護衛につけ、モリガンと二人で情報収集。
求めた情報はモリガンと戦ったアーチャーの漏らしたミキサヤカという名前だ。
モリガンの魅了も、タダノの警官という立場も活用し入院患者や見舞いの客を中心に聞き込んでいくと候補が一人浮かんだ。
数日前に退院した上条という男子学生の見舞いにまめに訪れていた少女。
それが朝方になぜか病院を訪れたという。
少年が退院したのを知らなかった、何か別用があったなどは否定できないが、意図のつかみにくい行動ではある。

「端的に言って怪しい。そう思わないか、アーチャー?」

暗い病院の廊下で隣を歩くモリガンに話しかける。
すると彼女は少し考えるそぶりを見せて首肯する。

「ええ。もしかするとあの二人と待ち合わせるつもりだったのかも。
 まさか12時間勘違いしたということはないでしょうけど……
 合流前に待ち伏せなどないか警戒した、あるいはそうした罠をしかけるために偵察した、と考えるならあまり良好な仲ではなかったのかしら?」
「今朝となると聖杯戦争が始まってさほど経過していない。もともとの知り合いでもない限り信頼関係を築くのは難しいからな。
 例外を考えるなら君のような魅了か、ルーシー君のようなある種の求心力か、あるいは相手を操るすべなどあれば別か。
 ……探すならまどかちゃんたちと一緒に接触したいところだな」
「あてもなくいつまでも待ち続けるのはイヤよ。退屈なのは嫌いなの」

刺激を求める種としての性質は、退屈や不自由、束縛を嫌う性格を育む。
特に今は獲物(キャスター)の居所を掴んでいるのだから、それにとびかかれないなど窮屈に過ぎる。
餌を前にした肉食獣の手綱を無理やりに握るのは賢くないというのは数多の仲魔との会話で学んできた、と押さえつけるのは諦めてこう答えた。

「わかった。キャスターのもとへ向かおう」
「ええ、そう来なくちゃ」

ペロリ、と舌なめずり。
戦意を高揚させ笑みを深めるモリガン。

「ルーシー君たちがどう思うかだが……
 まどかちゃんを今起こすのは忍びないし、彼らには連絡をとれるようにしたうえでここに残ってもらいたいな。
 美樹さやかとの接触がもしできれば、彼は気持ちのいい人物だ。悪いことにはならないと思うんだが」

方針を定め、その相談をしようとまどかの眠る部屋へと足を向ける。
そこへ響く音。
甲高い破裂音。
銃声。
続けてガラスの破砕音。

「敵襲、かしら?」
「これを無関係と思うほど能天気じゃないだろう、君は。
 僕も出る、無用な心配をかける前に片づけてしまおう」

デモニカスーツの調子を確かめ、新たに手にしたアバ・ディンゴMも装備し、戦闘準備。
そして二人、月影の下へと飛び出していった。




◇  ◇  ◇


「…ん~、ミンゴのところのおもちゃの兵隊みてえな、フランキーっぽいような……またアレかなあ?」

外から感じる数多の人ならざる気配。
それを見聞色の覇気で感じ取り、煩悶するルフィ。
いつもの彼なら一にも二にも飛び出し自らの耳目で真実を見据えようとしていただろう。
だが不用意に動いた結果まどかが攫われたのが夕方の追走劇だ。
さすがにその直後、さらに傍らで眠るまどかを守るようタダノに言われたということもあって濫りに動くのは二の足を踏む。
らしくなく悩み、思考し、知恵熱まで出そうになるが

「敵が攻めてきた!」
「あれ?……タダノか?ああ、それは分かってるけど――」

部屋に飛び込んできた仲間の姿に思考が途切れる。

「君も迎撃してくれ、まどかちゃんは僕が引き受ける!」
「――わかった。それなら、行ってくる」

そう答えてすぐに飛び出すルフィ。
その後ろ姿を見送るタダノの口元が緩みかけるが……

「おっと、そうだ。これ、頼む」

忘れ物をしたように引き返してきたルフィを見て表情を引き締める。
当のルフィはそれを気にする様子はなく、かぶった麦わら帽子を外すと眠るまどかの枕元に優しく置き、またすぐに駆け出していった。

「……何がしたかったやら。おーい、もういいよアプ・チャー。いったん外の様子見てるから、まどかちゃんを頼むよ」

タダノヒトナリの顔をしたフェイスレスがその顔に邪悪な笑みを浮かべ、ほむらの姿をした人形を呼んで退出する。

「……まどか。まどか、起きてちょうだい」
「…ん」

眠るまどかを揺り起こすアプ・チャー。
寝ぼけ眼をこすりながら起き上がるが、目の前にいるのが誰になのかを認識した瞬間に一気に覚醒し、驚きの声を上げるまどか。

「ほむらちゃ――」
「話はあとよ。今ここは襲撃を受けているわ。急いで離れるわよ」

混乱を加速するように状況をたたきつけられる。
夢に見ていたルフィの過去に、突如現れたついさっき自分を攻撃した友人に、迫りくる現実に寝ぼけた頭では追い付かない。

「あの、えっと、襲撃って誰に…?」
「ついさっきあなたを攻撃した人形よ……いえ、この言い方は私のやったことを誤魔化しているように聞こえるわね。
 私が組んでいた人形遣いのサーヴァントに脅されてあなたを攻撃するざるを得なかった。それと先ほど決別した。そのせいで人形に攻撃を受けている。
 ……理解できたかしら?あまり余裕はないから急いでくれると助かるのだけど」

外に幾度かちらちら視線を向けて、慌てたようなそぶりを見せると、とにかく切迫していると実感できたのか起き上がり足元を整え始めるまどか。
そうしながら彼女自身も周りに視線を配ると一つの疑問が当然ながら浮かんでくる。

「あれ?そういえばタダノさん、とライダーさん…私のサーヴァントは?」

念話を飛ばせばいいのだが、起き抜けだからか慌てているからかその発想に至らない。
もし実行しようとすれば止めに入るつもりではいたが、そうならず幸いと急かしながらも問いに答える。

「サーヴァントなら外の人形を迎撃に出たわ。ああ、そういえばその帽子、頼むって置いていったわよ」
「え?あ、これ……」

枕元に置かれた麦わら帽子に気づくと、繊細な宝物であるかのようにそれを大切にかき抱く。
そして強い決意を眼に浮かべると同時に帽子を深くかぶり、改めて向き合う。

「ほむらちゃん、ライダーさんのところに案内して」
「…何を言い出すのよ」

サーヴァントの戦いに首を突っ込もうというのには、驚き以上に呆れが先行する。
それもこんなか弱い人間が。
しかしその目の内の光は確かなもので、在り方の定まらぬアプ・チャーには撥ね退け難いものだった。
その様子は外のフェイスレスにも察せられ、同様に当惑する。

(おいおい、友達の言葉も聞かずに危険に身を置きたがるのか?女の子ってのはやっぱりわかりかねるなァ)

まどかとほむらが親しいという判断は間違ってないようだが、あのライダーとの関係はそれ以上なのか。
柔らかい石を宿し戦場に身を置いた女性のごとく、気丈な振る舞いの意図を掴みかねるが、どうにか連れ出そうと表への警戒を切り上げて部屋に戻る。

「賛同しかねるな。僕らは君も連れて撤退するように言われている。
 サーヴァントの戦いに手や口を出してもどうにかできるものではないだろう」
「あ、タダノさ――」

顔を見せた仲間の言葉に少し意気を削がれたようなものを見せる。
だがすぐにその表情に驚きが浮かぶ。
違う。
この男はタダノではない。
マスターであるまどかの視界に映るステータスがそれを物語って――

瞬間、衝撃。
あごと腹部に僅かな痛みを覚え、意識を喪失するまどか。

「やっぱりばれちゃうか。ん~、力技には頼りたくなかったんだけどしょうがないね。
 …おーい、頼むよラーオ。陣地に帰ろう」

内臓を傷つけないように軽い拳を打ち込み、意識を奪った少女を小脇に抱えさらに部下を呼ぶ。
現れたのは猛獣使いの衣装にモノクルと調教用の鞭が特徴的な一人の男と、翼を生やした二体の大型獣。

「は。アプ・チャー、貴様は私とスフィンクスだ。
 造物主様はその少女とともにグリフォンの背へどうぞ。行き同様に快適な空の旅は叶いませぬが、なにとぞご容赦を」
「まあ偶にはこういうのもいいさ。ケニスたちはあっちにやっちゃったからね。それじゃあ、ハイヨー、シルバー!」

タダノの顔のままグリフォンに跨り、勢いよく空へ駆け出すフェイスレスと、ほむらの姿でドクトル・ラーオと共にスフィンクスに跨りそれに続くアプ・チャー。
人形の軍勢に銃を放つ警察官と、飛びかかり一体ずつ破壊する女悪魔、そしてそれに合流しようとする黒髪の青年を眼下に収めほくそ笑む。

「あれ?タダノ、いつの間に追い越したんだ?」
「ルーシー君!?なぜここにいる!?まどかちゃんはどうしたんだ!」

驚きながらも対応を誤ることはなく、自動人形相手に牽制の射を続けるタダノと、いくつかの人形を即座に破壊してみせるルフィ。
互いの状況を掴みかねるが……
新たな気配を感じ取り、モリガンとルフィの視線が空を飛ぶフェイスレスたちに刺さる。

「あら?タダノ?あなたも、ああいうのがいるのかしら?」
「な、ん?ドッペルゲンガー…いやサーヴァントの能力か!?」
「ッ!まどか!!」

タダノの姿をしたサーヴァントを見つけて、その腕に抱えられたまどかの姿を見て各々反応を見せる。

「おっとっと、見つかっちゃったか」

おどけたような声を出してさらに上空へ。
それを追って三々五々攻撃。
モリガンは自ら飛翔し、タダノは風属性の魔力をまとった銃弾を放ち、ルフィは腕を伸ばす。
しかしそれに割り込む人形がいた。
モリガンに向けてはライフルが放たれ、その回避のために軌道変更を余儀なくされる。
タダノの撃った銃弾の軌道上には多数の石礫が飛び、着弾前に無力化する。
ルフィの伸びた腕に向かっては、小型の人形が突撃し、その舌に持った刃を振るって行く手を阻む。
それらによって生じた空隙で大きく距離をとるフェイスレスたち。

「よくやってくれたね、みんな。それじゃあ僕はまどかちゃんを温泉にいるキャスターに届けてくるから、片付いたら合流してくれ」

最後にそう言い残してグリフォンとスフィンクスを駆り、去る。
後には二騎のサーヴァントと一人のマスター、そしてそれと対峙する数多の人形が残された。
人形の中で突出しているのが三体。
すでに多くの被害が出ている人形たちだが、その三体がいるかぎり敗北はないと信じているのか士気は高い。
そのうちの一体、リーダーらしきものが一歩前に出る。
服装は西部劇のカウガールといったいで立ちだが、異様なことに腕が四本ある。
そのうちの二本の腕で握ったライフルを再びモリガンに向けながら言葉を紡ぎだす。

「そういうわけだから、くたばってもらうよ。最後に自己紹介しとこうか。
 アタイはジェーン。ワイルド・ウェスト・ジェーン。お察しの通り、この――」

発砲。
外れた銃弾が病院の窓を破り、中からパニック交じりの悲鳴が聞こえる。

「ライフルが得意さ。他にもナイフ投げと、病気を振りまくのはもっと上手いよ。だからかね、この病院襲撃のリーダーってことになってる。
 そっちにいるのは我ら真夜中のサーカスが誇る楽士、トルネ―ドラプソディー。
 隣のおチビが敵も味方もお構いなしのクレイジー人形、チャイナ・ホー。
 ……さて、サーカスの芸人も揃って紹介できたところで、お別れの時間だよ!」

宣言と同時に再度戦端を開く。
ライフルを持っていない二本の腕、その指先から続々とナイフを展開し、モリガンに向けて流星のように放つ。
それに対し回避しつつ高速で接近するモリガン。
弾数だけなら先に交戦したアーチャー以上のものといえなくはないが、威力も速度も確実に劣るそれに落胆の表情を隠せない。
近づくにつれて回避のためのロスも嫌い、峰を叩いて撃ち落とす方針に変える。
銀色の流星を連打するジェーン。
それを弾き、一瞬で接近するモリガン。

「ずいぶん近づいてくるじゃないの、弓兵のお嬢ちゃん!」
「こちらのほうが好みなのよ」

ふん、と軽く鼻を鳴らすようにして両の腕のライフルを照準する。
拳を打ち込もうとしていたが、とっさにその射線から身を外し、モリガンの攻撃の手が遅れる。
牽制のように銃撃を放ちながら後退し、モリガンの後方に視線をやって口元をゆがめる。

「あっはぁ、ちょっとマスターから離れすぎじゃない?」

そちらにはマシンガンでもって人形を牽制するタダノと、接近した人形を片っ端から迎撃しているルフィの姿。
ジェーンが司令塔らしき所作を見せると、それを合図に後ろに備えていた多数の人形が銃器を構えだす。
そしてそれに並んで楽士、トルネードラプソディーもまた構えに入る。
他の人形は兵器で身を固めた戦闘用といったなりで、トルネードラプソディーの道化師のような衣装に、全身からラッパを生やした風貌というのは少々浮いている。
そのラッパが伸び、地面にくっつき、石の塊を吸引し――

「葬送曲を聴け。『トルネード・ラプソディー』、クラッシュンド!」

すさまじい速度で射出する。
同時に後方の人形も援護射撃を放ち、雨あられとルフィとタダノに弾丸・石礫が注ぐ。

「これでお終いだねぇ!」

引き続きモリガンに銃口を向けながら高らかに勝利宣言。
さあ、相手はどう出る。
仲間を守ろうと引き返すか、かばって攻撃に身をさらすか。
いずれにしても隙ができたところにとどめの弾丸を見舞ってやろう――などと考えるが。

モリガンの表情は冷淡。
つまらないピエロを見るような、壊れて動かなくなってしまったからくりをみるような顔で。

「…バカね」

と小さく漏らし。
むしろ弾丸をよけて大きく上空へ飛翔する。
当然攻撃は余すところなくルフィたちに向かう、が

「ゴムゴムの“お礼砲”!!」

大きく膨らませたルフィの肉体に有効な攻撃はすべて受け止められる。
そしてその全てが放たれた時よりも加速して、弾道を戻るように跳弾。
その跳ね返された弾丸の妨害をしないようにモリガンは大きく飛翔したのだ。
橋の戦いであの銃弾を跳ね返す技を見ていたのは人形たちも同じだろうに、それを学習せずに同じようなことをするとは、と冷徹な視線で見下す。

「な、しまっ――」

そしてこれに最も驚いたのはトルネードラプソディーだ。
彼のかつての敗因は自らの必殺技であるクラッシュンドを強力な粘性のゲル状物質によって跳ね返されたこと。
その逸話の再現のごとく、跳ね返された石礫に呆然とし

「何を情けない面さらしてるアル!」

横から飛び込んだ小型の人形に蹴り飛ばされ、掠めるだけで済む。
蹴りを放ったのはチャイナ・ホー。
その名の通り漢服に弁髪の中国風の人形。
その蹴りを放った勢いのまま、反動で跳び、なんと飛び交う石礫を足場にして高速でルフィたちに突撃する。

「いぃやぁああああぁ!!」

両の手からドリルを抜き放ち、再び舌に剣を握り高速移動。
そこにタダノが銃口を向け、銃弾を浴びせようとする。
瞬間、チャイナ・ホーは加速。
だん、だん、だんと飛び交う石を踏む度に砕き、二人のもとへ差し迫る。
引き金を引くよりも早くタダノとルフィのもとにたどり着き寸刻みにしようとするが

「“銃弾”ォ!!」

ルフィが抜き打ちの銃のようにカウンター。
即座に放たれたブローだが、武器を目にして加速したチャイナ・ホーは身軽にその腕さえも足場にして空を舞い、改めて背後に着地。
振り向きざまに隙だらけの背中にドリルを穿とうとする。
それが現実になる前に放たれた後ろ回し蹴り。
未来か、あるいは気配を読んだような精密な反撃。
躱しようのない一撃かと思われたが、チャイナ・ホーは足からもドリルを生やして地下に潜ることでこれを回避。
地下を高速で移動し、死角からの追撃を狙う。
対するルフィは地面に目を向けると、タダノを抱えて後ろに跳ぶ。
そして人形の姿が見えると同時に、完璧にどこから出るのか分かっていたかの如く攻撃を放つ。

「ゴムゴムの“スタンプ”!!」
「ぐええ…!」

前蹴り。
それを直撃させる。
だが的が小兵であったことと、タダノを抱えての一撃であったのが幸いしたか、大きく吹き飛ぶが致命打には至らない。
ルフィ、タダノと距離が広がるチャイナ・ホー。
それを加えて改めて陣を立て直すジェーンとトルネードラプソディー。
ジェーンや多数の人形は無傷だが、他の二体はルフィの反撃によりわずかながら損傷している。
モリガンもまたタダノ達に合流し対峙する。
ルフィたちに一切の損傷はない。
ダメージだけで言えば、そして個の武勇ならば圧倒的にタダノ達が有利。

「さっすが、サーヴァントだねえ。やってくれるよ。でもさあ、ご覧よ」

再び部下の人形に指示を下すジェーン。
今度の大群が構えるのは銃器ではなく、クロスボウやニードルガンなど鋭利な兵器。

「こっちは跳ね返せるのかねェ……?」

チャイナ・ホーの武装、ドリルや剣などに対しては回避を主体としているのを見逃さなかった。
これならば、と軍勢に指示を下そうとする。
対するタダノ達は最も強大な飛び道具を持つモリガンが構える。

「お人形遊びはずいぶん昔に卒業したの。だから、もう飽きたわ……覚悟はいい?」

羽を変形。
周囲に蝙蝠も変形させて展開。
『闇夜穿つ魂の奔流(ソウルイレイザー) 』、弓兵の本懐たる切り札を対抗して放ち、呑み込もうとする。
しかしそこに割り込むように立ち、行く手を阻むように腕を伸ばして立つ男。
モンキー・D・ルフィ。
その視線は目前の敵影でなく、彼方のマスターへと向いていた。
麦わら帽子を預けた。必ずそこへ戻ると誓った。なんとしても守ると決めた。
ならばこんなところで足止めされている暇はない。

「ちょっと、ライダー…」

射線を阻まれ、こちらで迎撃するから道を開けてくれと言おうとするが

「おまえら…そこを、どけ」

どん!!!と空気が震えた…気がした。
否、実際に物理的な変質は何もない。
ただ、一人の男が全力で威嚇しただけの事。
覇王色の覇気。万人に一人のみ適性を持つ王たる才。
半端な覚悟や実力では、モンキー・D・ルフィの前で立つこともままならない。
それによって多数の人形が動きを止め、次の瞬間には恐怖を浮かべて擬似体液を沸騰させ機能を停止する。
残ったのはやはり三体。
ルフィの前に立つだけの実力を備えているということか、あるいは重ねた改造で強力な『気』の前に身をさらしても耐えられるようになっていたか。
ワイルド・ウェスト・ジェーン、トルネードラプソディー、チャイナ・ホー。
ただ一つ残された数の利を失い、浮足立つが、それでも造物主より受けた命のため一分一秒でも敵をくぎ付けにしようと構える。

「もはや僅かの余裕もないな」

持てる全てを出し切らんとトルネードラプソディーが変形する。
下半身からもう一対の人型が生え、膝部分でつながったシャム双生児のような姿になり、両腰部から車輪のような刃を展開。
同様にチャイナ・ホーとジェーンもすべての武装を展開し総力戦の構えを見せる。
対抗してモリガンも宝具の構えは解くが、展開した蝙蝠を再び身に纏い、固く拳を握る。
さらに

「“ギア2”!」

ルフィは一分一秒を惜しみ宝具を解放。
腕をポンプに血潮を奔らせ、彼方を見据え駆け出さんとする。

三体の人形と二騎の英雄がにらみ合う戦場。
それらがぶつかり合う。

その刹那、乱入者。
黄金に見紛う派手な鎧に鮮やかな朱色の槍を持った武者が戦場に舞った。
皆が皆、意識の外からの乱入者に反応することはできず、先制攻撃を許してしまう。
その対象となったのはトルネードラプソディー。
一瞬で槍の一撃を打ち込み、さらに両手で槍を振り回して連撃。
激しい回転に機械の体も耐えきれず、断末魔を残す間もなく歯車へと還る。

「へっ、見かけが派手なやつを倒して見かけ倒しってな」

ブンブンと威嚇するように超槍を振るい仁王立ち。
漲る闘志にはたとえ人形の軍勢が残っていたとしても無双したであろう凄味がある。

「アンタ、バカな、死んだはずじゃ!?」

戦場に現れた前田慶次に注目が集まり、それと気づいたジェーンの悲鳴のような声が響き渡る。
ルフィもまた、夕刻に接触した男の来訪に僅かだが、動きが止まる。
何より『最後の四人』に敗れ死んだはずの存在に自動人形二体は動揺を隠せなかった。

その隙を、モリガン・アーンスランドは見逃さない。
一瞬でジェーンとの距離を詰め、その顔を右手で掴む。
そしてそのまま荒々しく引き寄せ、砲門状に変形させた羽から弾丸のように射出。
そのまま病院の壁にボールのようにたたきつけられ、反動で僅かに跳ね返るジェーン。

「がぁッ…!」

その衝撃にライフルも取り落とし、無様な悲鳴を上げながら地に伏すかと思われた。
だがそこへさらに追撃。
モリガンの羽が再び変形して槍状になり、ジェーンへ向けて伸ばされる。
風切り音とともに突き出されたそれに額を貫かれ、さらに奔った電流による内部からの破壊がとどめとなって、最期に僅かに痙攣して完全に機能停止した。

「こ、の。どいつもこいつも…!」

恨めし気に苛立った声を上げるのは最後に残された自動人形チャイナ・ホー。
せめてもの抵抗、というと情けなくはあるが、唯一人間であるタダノだけでも仕留めようと動く。
周囲の壁を足場に跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。
銃を持ったタダノに、長物を構えた慶次と観客ならざる敵は多く、目にも止まらぬ速さで駆け回る。
姿はない。響くのはだん、だんと地を蹴る音と轟々と風を切る音。
縦横無尽を駆け巡り、その音だけが痕跡として残る。

最後に一歩、ドンと大きな跳躍音。
それとほぼ同時に慶次とモリガンの視線がタダノの背後の空間に向く。
二人の目にはそこへ襲い掛かるチャイナ・ホーが映っていた。

そしてもう一人、高速の住人、モンキー・D・ルフィもまた。
ギア2によって得たスピードで一瞬にして回り込み、拳を構える。
それにチャイナ・ホーが気付く時間すら与えず、下段突きを振り下ろす。
一撃。
それでチャイナ・ホーは堕ち、側頭部に大きく拳の跡を残して機能停止した。

「うっし、片付いたな」

全ての自動人形が動きを止めたのを確かめ、超刀を鞘に納める慶次。
軽くクールダウンのような動きはするが、この場での戦意はないとアピールする。

「そっちの…ライダーはさっきぶりだな。帽子外したのか。んで、アーチャーの嬢ちゃんにはマスターが世話になった。
 が、まあその辺のいざこざはいったん置いといてだ。あの人形の群れと敵対してるみたいだしよ、手ぇ貸しちゃくれねえか」

ライダーには殴られ、アーチャーにはルキアが絡まれと軽い因縁はあるが、それにこだわってはいられない。
共通の敵を打ち滅ぼすために手を伸ばす。

「…ああ、アナタさっき橋にいたお嬢ちゃんの。一応敵対してたと思うのだけれど、ねえ」

挑発するような言動のモリガンだが、男の右脚に目をやるとつまらなそうに息をつく。
まだ食べごろではなさそうだ、と。
相手が話を望むのならタダノに任せようかと視線をやる。

「タダノ…タダノ?」

話しかけても反応を見せず、銃を握るをじっと見るだけ。
どうやら先の戦闘で役に立てなかったのを悔やんでいるらしい。
らしくないと思うが、まどかを再度危険に晒してしまったのが響いているのか。

(しょうがないオトコね)

意識を引く意味でも、慰めてあげようかと一歩近づく。
だがモリガンの手が触れるより早く呼び声が届いた。

「タダノ!」
「――む、すまない。ルーシー君」
「先行ってるぞ」
「なに?」

シュウ、と蒸気を大きく上げて駆けだすルフィ。
向かってくるその姿にとっさに構える慶次だが、ルフィはそれを完全に無視してすさまじい速さで脇を駆け抜け、すぐに視界の外に消えていった。
後には半ば呆然とする3人だけが残され、モリガンの淫靡な空気もタダノの沈痛な空気もどこかにいってしまったかのよう。

「おおう……独眼竜もびっくりの猪だな、ありゃ。あー、事情がつかめないんだが切羽詰まってるなら動きながら話さないか?」

後方を指さしながら半歩身を引く。
それを見て溜息をつきながらタダノは応じた。

「はあ。行こうか、アーチャー」

モリガンをランサーとの間に立たせて一応の警戒はしながら歩き出す。
いつまでも立ち止まっているとあのライダーには即座に置いて行かれてしまうな、とぼやき気味に。

「確認したい。君は夕刻にまどかちゃんを誘拐したキャスターと、あの人形をよこしたサーヴァント、双方と敵対しているんだな?」
「おう。人形の方もキャスターだ。そっちとはお前さんらが橋でごたごたやってる時にやりあった敵よ」
「そうか。ではそれを証明するすべはあるか?」

タダノ達は人形と交戦しているが、サーヴァントのほうとは僅かな認識しかない。
人形を代償に懐に潜り込む密偵の可能性も考慮できる。

「そうだな。それには俺のマスターの協力がいる…ああ、そっちの道じゃなくてこっちに来てもらえねえか?」

ルフィの駆けて行った方へなんとなく歩みを進め、そこでタクシーでも拾うかと考えていたら方向修正の要請。
どこかに誘い込む罠ではないかと警戒を強めるが

「おいおい、そう警戒すんなって。マスターと一緒に、えーとアレだ、駕籠じゃなくて……そう!車待たせてあんだよ」

馴染まない単語を捻り出し、軽い足取りで先へ進む。
そういえばこちらは駐車場か、と思い至り、モリガンに先行させついていく。
先に見えてきたのはなんとなく覚えのあるリムジン。
リムジンなど見慣れないものでどれも同じように見えるのだろう…と思ったが、車体前部についた痕と先ほど見た人形の側頭部に刻まれた拳の痕が概ね一致するであろうことに気が付く。

「これはあのキャスターが逃走に使っていたものか」
「ご明察。落ちてるところを拾ったんだが、人の目を盗んでここまで走らせるのは苦労させられた。
 運よく人形が騒いでるのを聞きつけたはいいが、おかげでここまで来るのに時間食うったらねえ。
 にしても追いついて人形相手に大立ち回りするつもりが、まさかほとんど片付いてるたあ思わなかったぜ」

運転席にはおびえた様子の男がいた。
これがマスター…ではなさそうだとモリガンの様子を見て察する。
落ちているのを拾ったというか、戦場から落ち延びようとしたら拉致されたということか。少しばかり同情する。

「おう、マスター。戻ったぜ」
「ランサー?ライダーと話すのではなかったのか」
「あー…それな。多少の暴れ馬なら乗りこなせるがアレはさすがにな」

助手席から現れた朽木ルキアがモリガンを目にして苦い表情を浮かべる。
少なくとも穏やかな関係ではないが、モリガンのほうはそんなものどこ吹く風だ。

「はあい、また会ったわねお嬢ちゃん。そこの人は運転手さんかしら?」
「…ああ、そうだ。それで、ここに来たということは一先ずキャスターの相手を優先するということでいいのか?」
「さあ、タダノに聞いてちょうだい」

ルキアを一瞥し、すぐに運転手のほうに粉をかけるようなしぐさ。
金のキャスターに操られていた名残はあるが、それでもモリガンのかぐわしい媚態に大きく揺らぐ男。
それをもはや見慣れた光景と黙殺し、ランサーを急かすようなしぐさを見せるタダノ。

「マスター。俺たちがキャスターと敵対することの証拠が見たいんだそうなんで、やってくれ」
「む、そういうことか。わかった」

左の腕に刻まれた令呪をあらわにする。
すでに一画欠けているが、万全であれば美しい氷の結晶状であることが見て取れた。

「第二の令呪で以て命じる。ランサー、キャスターに従うことなく、その討伐に全力を尽くせ」

二画目による絶対命令権の行使、一画目を上書きし、その後の戦闘に全力を尽くすよう命じる。
その命は受け入れらえ、花弁が舞い散るように令呪が欠ける。

「これで納得してもらえたか」
「そうだな。一時になるが、よろしく頼む。時間がない、車を出してくれ」

放心したような運転手を改めて車内に放り込もうとするが

「ねえ、タダノ?あなた車の運転できるわよね?」
「む…リムジンの運転は何か大型車両のような別の資格が必要だった気がするな。できなくはないと思うが」
「そう。できなくはないのね」

何が言いたい、と確認しようとするが。
その瞬間にはモリガンが運転手の男に口づけていた。
目の前数センチのところで、夢魔が男を貪り出す。
始めは触れるようなだけのキス。
反射的に距離を置こうとした男の肩を抱きよせるようにして、そこからさらに深く、深く。
伸びた舌が獲物を絡める蛇のように、唇をなぞり、口腔を犯す。
ちゅぷり、と水音を立てて刹那離れる。後には透明な滴の橋が架かる。
ほう、と荒く熱い吐息をついて息を整え、再び橋を渡って二人繋がる。
一瞬前と比べ物にならないほど情熱的に、煽情的に。
淫らな水音が長く、永く響く。
最後にモリガンが男の舌を甘噛みすると二人は離れ、男は意識を喪失した。

「な、おま、何をしているのだ貴様!?」
「あら、羨ましい?あなたもする?」
「するか馬鹿者!」

突如目の前で繰り広げられた痴態に怒りと、別の感情で顔を赤く染め怒鳴り散らすルキア。
慶次とタダノも無反応ではないが、ある程度予期していたのか動揺はない。

「…一応意図を聞こうか、アーチャー。まさか発情したなどと言ったらさすがに僕も怒るが」
「このNPC、あのキャスターの手駒だったんでしょう?魂に名残があったわよ。蜂蜜のような、甘さが魔力に混ざっていたわ。
 それなら私たちの動向がばれるリスクは避けるべきだと思わない?ここで降りてもらった方がいいわよ。
 命に別条はないし、近くが病院なんだから大丈夫」

早く行きましょ、と扉を開いて手招き。
仕方なくタダノは運転席へ、ルキアは後部座席へ。
モリガンは助手席、慶次はルキアの近くに陣取り、車を走らせる。

「そういえばどこへ向かっているのだ?」
「北西の温泉街。そこにあの人形遣いは向かっているらしい。そしてそこにはもう一人のキャスターもいる」
「なんだと?ずいぶん面倒ごとになっているようだな」
「発言を信じるなら手を組んでいるようだ」

いつの間に、とルキアたちは驚く。
夕刻までほぼ同行していたが、そのような素振りは全く見せなかった。
別れてから短時間で組んだのか…?

「橋で人形が横やりを入れてきたしね。あの時点で協力関係にあったと見るべきかしら」
「…俺たちは一時的にあいつらと協力関係にはあったんだが、少なくとも俺たちの気づかない外で動いてたとは思い難い。
 組んでるとしたら夕刻以降だと思うぜ。あるいは、ハッタリか」

協力関係にあるというのは一方的な情報だ。
そう見せかけ牽制しているだけとも考えられる。

「それもそうだが、一つ気になっている点があるんだ」
「何だい?」
「あのキャスター、女性の方だが。あいつは一度まどかちゃんを攫っている。
 そして今もまた、彼女は攫われた。暗殺ではなく、誘拐。生かしておく必要があるということだ。
 僕らに何かさせようとしているのか?それにしては干渉があまりに薄いし、あのライダーがそうした交渉に応じるとは思い難い。
 ……そしてあいつらはキャスター、魔術師のサーヴァントだ。
 まどかちゃんには、魔術師だけがわかる何かがあるんじゃないか。そのために金のキャスターは二度も彼女を攫ったのではないか。そう考えているんだ」

沈黙が下りる。
鹿目まどかの誘拐。その行為には確かにあのキャスターの息吹を感じなくはない。

「まどかって子の年の頃は?」
「中学二年、14歳だな恐らく。学生証に偽りがなければ」
「なるほどな」

14か……

「十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人ってか」
「なんだって?」
「この聖杯戦争のマスター、どうにも年若いのが多いぜ。キャスターのマスター然り、寺子屋で随分会ったからよ。
 確証は持てないが、暁美ってのとエレンってのもそれらしい。どちらもそのまどかってのと同学年だ、多分な」
「どういうことだ、ランサー?」
「だからさ、二十過ぎて只人になる前の人材が多いってわけだよ。神稚児ってのは知ってるかい?」

すでに二十歳を過ぎたタダノと、見た目に反して百を超えるルキアだが、それはさておき。
慶次に提示された単語に思考をはせる。

「寺に入った少年修行僧のことか?その中でも貴族とかの出が上稚児というんだったか。牛若丸や鬼若丸が有名だな」
「お寺のお坊さんが姦淫するなかれ、って言いながら男の子に手を出すお話だったかしら?稚児って」

タダノの披露した歴史知識にモリガンがらしい注釈を加える。
モリガンの手でまずい方向にいささか話がずれる前に慶次が軌道修正。

「神稚児っていうのは日ノ本の一部の伝承でな。その身に神を下し、その力を宿した子のことを言うらしい。
 世の穢れを知らない若いうちでなければ神聖な力は使えない、ってな。切支丹の禊とか、巫女の純潔主義とかに近い。
 ようするに、才能ある幼い子供ってのは神の力を保有し続けている可能性があるのさ……わかるかい?」
「神の力……聖杯のことを言いたいのか?」

まさか、まどかちゃんが聖杯に何らかの関わりが……?

「そうだ。さすがにキャスターか、あの女何かそっちにも考えを巡らせてるらしかったからな。
 もしかするとなんか感づいてるのかもしれねえ。
 俺たちサーヴァントですら聖杯の実物はどんなもんなのか知らない……聖杯の正体があどけない少女である可能性も否定はできんのよ」
「……急ごう。まどかちゃんが何されるかわかったものじゃあない」

アクセルを踏み込むタダノ。
モリガンと慶次はそれとなく牽制しあいながらも周囲を警戒する。
ルキアは一人思い悩んでいた。
現状を夜科アゲハに伝えるか否か。

(よりによってあのアーチャーと穏やかに協力できるとは思えんからな。
 悪い奴らではないのだが、正直頭の悪い奴らではと言われたら否定しがたい。
 だがランサーの脚は未だ治りきっていないのに、あのアーチャーはセイバーからのダメージを気にする様子はない。何らかの形で治したか?
 いずれ対立した時に対峙して勝つのは正直難しい。ライダーもいる。
 こちらも先を見据えて、キャスター討伐の意味でも夜科とセイバーに声をかけるべきか。内輪もめを考慮して呼ばない方がいいか……)




【C-7/病院付近/二日目・未明】


【タダノ ヒトナリ@真・女神転生 STRANGE JOURNEY】
[状態]魔力消費(小)、ダメージ(処置済み)
[令呪]残り二画
[装備]デモニカスーツ、アバ・ディンゴM
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
0.まどかちゃんが、聖杯……?
1.まどか救出、キャスター(食蜂、フェイスレス)討伐のため温泉街を目指す
2.少なくともそれまではランサーたちと協力する
3.マンセマットを警戒。ただし同時に彼から情報を得る手段を模索
4.もしもここが地上を侵すシュバルツバースならば、なんとしても確実に消滅させる


[備考]
※警察官の役割が割り振られています。階級は巡査長です。
※セイバー(リンク)、カレン、ライダー(ニューゲート)、刑兆について報告を受けました。(名前は知らない)
 ライダー(ニューゲート)のことはランサーと推察しています。
※ルフィの真名をルーシーだと思っています。
※ノーヘル犯罪者(カレン、リンク)が聖杯戦争参加者と知りました。
※まどか&ライダー(ルフィ)と同盟を結ぶました。
 自分たちの能力の一部、連絡先、学生マスターと交戦したことなどの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。
※人吉、セイバー(纒流子)、ルキア、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。
※浅羽を確認しました。
※飛鳥了を確認しました。ルイ・サイファーに近しい存在と推察しています。
※マンセマットを確認しました。ゼレーニンの後継を探していると推察しています。
 なお聖杯と『歌』について知識を得るためにむやみに殺害するつもりはありません。
※デモニカスーツが穹との戦闘を通じてレベルアップしました、それによりダメージを気にせず動けます。
 ただし激しい戦闘など行えば傷は開きますし、デモニカを脱げば行動は難しくなります。
※ここがシュバルツバースではないかと考え始めました。
 モリガンやルーシーに話しても特に意見は求められないと思って話題にあげなかっただけで、特に隠すつもりはありません。
※美樹さやかが病院を訪れたこと、容姿と名前の情報を得ています。
※キャスター(食蜂)がまどかを攫い、今また攫われたことからまどかが聖杯に深い関わりがあり、それに気づいたのではと推察してます。


【アーチャー(モリガン・アーンスランド)@ヴァンパイアシリーズ】
[状態]魔力消費(小)、右肩に裂傷(だいぶ回復)
[装備]
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を堪能しマスターを含む男を虜にする
1.キャスター(食蜂)討伐のため温泉街を目指す。ついでにまどかの救出と、キャスター(フェイスレス)討伐。
2.ランサー(慶次)がタダノに危害を加えないよう警戒

[備考]
※セイバー(リンク)、カレンを確認しました。(名前を知りません)
※リンクを相当な戦闘能力のあるサーヴァントと認識しています。
※拠点は現段階では不明です。
※NPCを数人喰らっています。
※ライダー(ニューゲート)、刑兆と交戦しました。(名前を知りません)
※まどか&ライダー(ルフィ)と同盟を結ぶました。
 自分たちの能力の一部、連絡先、学生マスターと交戦したことなどの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。
※人吉、セイバー(纒流子)、ルキア、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。
※アゲハの攻撃はキャスター(食蜂)が何らかの作用をしたものと察しています。
※セイバー(纏流子)と交戦しました。宝具の情報と真名を得ています。
※巨人を目撃しました。
※アーチャー(穹)を確認しました。
※浅羽を確認しました。
※マンセマットを確認しました。


【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]魔力消費(微量)
[令呪]残り一画
[装備]アッシュフォード学園の制服
[道具]学園指定鞄(学習用具や日用品、悟魂手甲や伝令神機などの装備も入れている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を通じて霊力を取り戻す。場合によっては聖杯なしでも構わない
1.キャスター(食蜂、フェイスレス)討伐に動く。
2.アゲハに連絡するかどうか考え中。
[備考]
※犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈)と同盟を破棄しました。マスターの名前およびサーヴァントのクラス、能力の一部を把握しています。
※夜科アゲハ、セイバー(纏流子)と一時的に同盟を結びました。
※紅月カレン&セイバー(リンク)と交戦しました。
※人吉善吉を確認しました
※ライダー(ルフィ)を確認しました。
※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました。
※外部からの精神操作による肉体干渉を受け付けなかったようです。ただしリモコンなし、イタズラ半分の軽いものだったので本気でやれば掌握できる可能性が高いです。
 これが義骸と霊体の連結が甘かったせいか、死神という人間と異なる存在だからか、別の理由かは不明、少なくとも読心は可能でした。
※通達を一部しか聞けていません。具体的にどの程度把握しているかは後続の方にお任せします。
※キャスター(食蜂)から『命令に従うよう操られています』
 現在は正常ですが対峙した場合は再度操られる可能性が高いです。
※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています



【ランサー(前田慶次)@戦国BASARA】
[状態]魔力消費(小)右脚へのダメージ(中)
[装備]朱槍
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:この祭りを楽しむ
1.キャスター(食蜂、フェイスレス)討伐に動く。
2.アーチャー(モリガン)がルキアに危害を加えないよう警戒。

[備考]
※犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈)と同盟を破棄しました。マスターの名前およびサーヴァントのクラス、能力の一部を把握しています。
※紅月カレン&セイバー(リンク)と交戦しました。
※人吉善吉を確認しました。
※ライダー(ルフィ)を確認しました。
※キャスター(食蜂)を装備と服装から近現代の英霊と推察しています。
※読心の危険があるため、キャスター(食蜂)対策で重要なことはルキアにも基本的には伏せるつもりです。
※中等部の出欠簿を確認し暁美ほむらの欠席、そのクラスにエレン・イェーガーが転入してくることを知りました。
 エレンについては出欠簿に貼ってあった付箋を取ってきたので更新された名簿などを確認しないかぎり他者が知ることは難しいでしょう。
※令呪の発動『キャスターの命令を聞くこと』
→令呪による上書き『キャスターに従うことなく、その討伐に全力を尽くせ』
※キャスター(フェイスレス)、カピタン、ディアマンティーナと交戦しました。
※脚のダメージは日常を辛うじて送れる程度には回復しましたが、戦闘には差し支えます。



[全体備考]
※食蜂の操るNPCが所有するリムジンで走っています。まどか誘拐に用いたものであるため、車体前部にはルフィの拳の痕があり、ナンバーはタダノを通じて警察にリークされています。
 移動の際に検問など何らかの障害が生じる可能性があります。

◇  ◇  ◇

この街を行く人に道を尋ねたとしよう。
今いる場所から行きたいところに行くにはどうすればいいですか、と。
『病院』から『温泉』に行きたいとするならどんな答えが返ってくるだろうか。
街にはバスが走っている。
病院近くのバス停から、温泉近くのバス停への乗り継ぎを教えてくれるかもしれない。
タクシーに乗れば実際に連れて行ってくれるだろう。
アプリなどで地図を表示し、親切に案内してくれる人もいるかもしれない。
しかし多くの人は無意識に共通の認識があるはずだ。
橋を渡ってから北上するはずだ、と。大きな川があり、そこを超えなければ温泉には辿り着けないのだから。
誰だってそう思う…現代に近い感性を持つなら、サーヴァントだってそう思う。
まさか病院から温泉まで一直線に移動しようなんて、考えるのは空を飛べるものくらい。
フェイスレスも、人吉善吉もそう考えてしまった。
アーチャーは飛行を可能とするようだが、マスターから離れるのを良しとせず共に来るなら地を走るはずだ、と。
彼らの不運は三つ。
モリガン・アーンスランドが食蜂操祈の居場所を事前に突き止めていたこと。
その場所を―あっちの方、などという雑な認識であったが―モンキー・D・ルフィがすでに耳にしていたこと。
そして何より、病院と温泉を結んだ直線の近く、見聞色の覇気の及ぶ範囲に彼らの陣地である遊園地が存在していたこと。
故に。

「まどかはどこだァ!!!」

惨劇。
アポリオンにより事前に感知する猶予もなく、見張りにより迎撃などできるわけもなく。
遊園地の自動人形は自在に伸縮する五体により次々と打ち砕かれていた。

『……キャスター、お前今何してる?』
『え?さっきも言ったろう。もうすぐ温泉が見えてくるよ。それよりちゃんとナビゲート頼むぜ?美樹さやかの悪魔に見つかったらヤベーんだからさ』
『いや、たぶんすでにこっちの現状がサタンやべえぞ』

冷や汗をかきながら念話を送る。
アポリオンを介して病院前の闘争が終わったのを確認し即座に立ち上ったこの事態に単独で立ち向かえというのはいくらなんでも無茶が過ぎる。

『どうしたのさ?』
『麦わらの…今はかぶってねえけど。ライダーが攻め込んできて暴れてんだよ!』
『…………なんでそこがばれたのかとか、いくらなんでも早すぎるとか気になることは山ほどあるけど。
 自爆人形なしにしても何とかならないのかい?』
『銃器と鈍器の類が全く効いてないんだよ。そのせいでかなりの数の人形が手も足も出ないんだ。
 そもそも病院での戦いでは一睨みで一点物以外は簡単にやられちまっただろ?』

言外に語る。
サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントだけだと。

(この局面で、コレか。敵のマスターという心臓部を捕らえたところで、即座に返す刀で陣地とマスターという喉元に刃を突き付けてきた。
 そんな判断ができる奴か?アレは?あっけなく僕の変装に騙されるようなやつが、僕の一番困る手を打ってくるか?)

そもそもなぜ陣地の場所がわかる。
偶然だとしたらよほどの幸運か、直感だ。
疑心。何者か背後にいるのではと。
自分にとって最も嫌なことを知っているのはやはり、僕なのではないかと。

『…何考えてるのか何となくわかるけどよ。さすがに自分が不利になるような手を打つような間抜けじゃあねえぞ僕(おれ)はよ』

悩み、進むも退くもできずグリフォンは滞空していた。
その間にも刻一刻と事態は悪化する。

「やべえぞ、フラッシュ・ジミー様までやられちまった!」
「Oを呼べ!」「いねえよ!」
「ドットーレ様ぁ!」「いねえっつってんだろ!」

『マジでやべえぞ、ジミーがやられた!ホントに余裕ねえぞこれ!
 数の利が活かせねえんだよ、あいつの訳わかんねえ気迫みたいなのにやられて!このままじゃ二百体壊しどころか三千くらいいきそうなペースだぜ!』
『わかった、わかったよ。すぐに戻る。数分もかからないさ』

グリフォンに戻るようラーオを通じて指示する。
自動人形に疲れはない。
それこそ疾風のごとく、即座に戻るだろう。
だが、英雄の戦いとは刹那における命のやり取り。
雑兵相手に数分あれば、被害は加速度的に広がる。

「もうあいつしかいねえ」「オルセン!」
「俺たちのヒーロー!」「オルセン!!」
「あいつをお前の腹の中にぶち込んでくれ!」「オルセン!!!」
「ん?何だ騒がしいな??」

多くの人形が砕かれ、歯車が足場を埋め尽くすほどに散らばった惨状で、ついに重い腰を上げた人形が一体。
いや、メリーゴーラウンドが一基。
メリーゴーラウンド・オルセン。
頭の上に巨大な回転木馬を乗せた人形。
サイズならば最大級の自動人形がゆっくりと侵入者のもとへと迫る。

「すげ~な。メリーゴーラウンドか。おもしろそーだなー」

ひと際目立つ人形に目を輝かせる。
だがそれも一瞬のことですぐに戦意のたぎったものに切り替える。

「でも下の人形はいらんな。何タウロスだお前は」

……というよりお眼鏡に今一つ叶わなかったというべきか。
子供が気に入らなかったおもちゃを放り捨てるように、今までの人形のように倒そうと突撃。

「無~理だよ。こうしちゃうもんね」

それに対し拳の射程まで目と鼻の先というところで人形本体がメリーゴーラウンドの下に身を隠す。
しかしそれに何ら臆することなく、突撃の勢いそのままにオルセンの頭部、メリーゴーラウンド内に侵入するルフィ。

「一人の男が死んだのさ」

床の下からオルセンの歌声が響く。

「頭はごろんとベッドの上。手足はバラバラ部屋中に」

リズムに合わせて木馬が動く。
その首元から生えた鋭い刃で、侵入者をバラバラに刻もうと回り出す。
だが、それに怯むような男が英霊の座にまで至るものだろうか。

「ゴムゴムの“火山”!!!」

刃を突き出した木馬が到達するより速く、ルフィの足が天高く突き上げられる。
まさしく火山のごとく、ドカンと大きな音を立ててメリーゴーラウンドの天井部分を突き破る。

「と、“戦斧”ォ!!」

そして振り上げた足を踵落としの要領で叩きつける。
大地を砕くようなその一撃でわずかに残った天井部分も微塵に砕け、さらに本体まで踏み潰され衝撃で粉々に砕け散る。
木馬も刃も一瞬ですべて四散し、オルセンもまたルフィに一切の傷をつけることなく歯車へと還った。

「みぃんな、バラバラ…散らかりっぱなし、出しっぱなし……」

最後の一節を末期の言葉に、オルセンも機能停止する。
オルセンを倒し、もう大したのはいないかと思った瞬間。

閃光。
遅れて稲妻、轟音。
雲一つなかった夜空から、突如雷が落ちた。

……夜空に雲はないが、二つの影があった。
巨大な空を舞う獣の影。
スフィンクスにまたがるドクトル・ラーオとアプ・チャー。
そしてグリフォンにまたがる、フェイスレスとその腕の中の鹿目まどか、さらにもう一人。
全身タイツにヤギのような二本の角が特徴的な道化人形。

「まさかオルセンまでやられてるとはねぇ。でもあれで終わりかな?」
「ええ、侍のちょんまげにかけて!当てましたとも間違いなく。マサルに食らわした時と違って手加減なんてしてないきっついのをね」

二体の獣、三体の自動人形、一人の人間、そして一騎のサーヴァントが降り立つ。
周囲を見渡し、散らばる残骸という惨状にそろって軽く頭を抱えるが、原因の外敵は打倒したと一先ず安堵の息をつく。

「さて。それじゃあマスターに報告して、改めて温泉に――」



「お前がまどかを連れてった奴か」




雷が落ち、粉塵と煙が立っていた中から一人の男が姿を見せる。
衣服に多少の焦げ付きは見えるが、ダメージらしいダメージはなく、敵をにらみつける戦士の姿がそこにあった。

「おんやぁ?失敬、造物主様。どうやらうまいこと避けたらしい…そらっ!」

もう一撃、改めて落雷。
今度こそ消し炭になったはずだと、全員が目を凝らす。
だがそこにはいまだ仁王立ちする男の姿。
心中に湧き上がる不安をかき消すように、二発、三発と続けて落とす。
人工的な雷では自然界のものには及ぶべくはないが、それでも300万ボルト、1千アンペアは下らない莫大なエネルギーだ。
その直撃をうけて立っている存在など――

「ゴムゴムのォー!!」

いた。
そよ風に吹かれた程度にも気にせず、両の腕を後ろに構えて攻撃用意。

仰天、としか言いようのない表情を道化は浮かべる。
ありえない。笑えない。何だあれは。
パニックで擬似体液とろ過装置にも異常が生じたか、冷や汗のような何かまで浮かべる。
そんな隙だらけの人形に容赦なく攻撃を加えようとするが

「おっと、そこで止まりなライダーのサーヴァント。でなきゃマスターの命は保証できないぜ?」

抱えたまどかの首元に工具を突き付ける。
その気になれば即座に首の骨を分解できる構えだ。
それを見て慌てて手を止めるルフィ。

「落ち着けよブリゲッラ。竜の血を浴び、菩提樹の葉が張り付いていた背中以外は無敵となったジークフリート。
 冥界の川にその身を浸し、母親の手に覆われていた踵を除いて不死となったアキレウス。
 英雄ってのにはそんなぶっ飛んだ連中がいるんだ、雷が効かないくらいで慌てるな」
「申し訳ありません、フェ…じゃなかった造物主様」

フェイスレスに声をかけられ、ハーレクインが再起する。
怯えた芸人から、おどけた道化に戻り、まっすぐとフェイスレスの横に立つ。

「タダノの顔してたのもお前か?」
「え?ああ、そういえばそんなこともあったか。これが僕の本来の顔さ、ハンサムだろ?
 ま、そんなのはどうでもいい。君にはここで手を引いてもらうよ」

追い払うのは確実にしなければならないが、その先どうしたものか頭を悩ませる。
温泉のキャスターのところに向かわせたいところだが、振りまいた誤情報を無為にしたくはない。
暁美ほむらか、美樹さやかにぶつけるのが無難なところかと口を開こうとする。

「ん…あれ?」

間がいいのか悪いのか。
そこで鹿目まどかが意識を取り戻す。

「んー、起きちゃったか。だがまあ丁度いい。令呪の一画でも使ってもらおうかな。
 状況はわかるかい、まどかちゃん?君の命も、ついでに君の友達のほむらちゃんの命も僕の掌の上だ。
 解放の代償は令呪一つと敵の首一つだ。
 君のその令呪で、『温泉に向かい、緑のセイバーを倒せ』と命じれば、二人は解放しよう…どうする?」

察しの悪い小娘でもわかるように強く迫る。
英霊の力の前に怯え、屈するだろうと思われた。
しかし、鹿目まどかは世の大多数の少女よりも強かった。
巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子。各々の正義の果ての死を肌で感じてきた。
そして何より、パートナーである男の、堂々たる生涯を夢に見た。
誇らしき英雄譚。
信じるに足る、勇敢な海の戦士。
だから

「ライダーさん」
「ん」

令呪なんていらない。
そんなもの使わなくてもこの人はきっと

「――――ぶっ飛ばしちゃってください」
「おう!」

私たちを助けてくれる。

「行くぞォ!野郎ども!!!」

一瞬。
フェイスレスがまどかに決定的な攻撃を加えることすらでいないほどの刹那で。

「は?」

世界が塗り替えられる。
フェイスレスの目の前に広がる景色が大きく変わる。
青い海。白い波しぶき。整った港。羊の船首の帆船。
そして、迫りくる何者かの拳。

「ぐぅ!?」

突如目の前に転移したとしか思えないルフィに殴り飛ばされ、まどかから手を放してしまう。
即座に手を伸ばし、まどかを抱えて救出するルフィ。

「しししっ、トラ男の真似だ」

固有結界、『旅の欠片こそが財宝(麦わら海賊団)』 。
その展開時にはある程度だが取り込む人物の位置関係をコントロールが可能だ。
ルフィの拳の届く目前にフェイスレスを置き、そのほかの人形全てを射程範囲外―逆に言えば敵からも攻撃できない位置―に置き、奇襲する。
かつて同盟相手のトラファルガー・ローが射程内に敵をワープさせ、自らが攻撃を加えるという戦術を単身で再現したのだ。
――いや、正確には単身ではない。

「相変わらず無茶苦茶やりやがるなー、ルフィ」
「まったくだ。万一避けられたらまどかちゃんが大変なことになってたかもしれねえんだぞ。その辺分かってんのかおめェは」
「まあでもルフィだし仕方ないわ……よかった、大したケガはなさそう。チョッパーを呼ぶ必要はないわね」
「ごたごた言ってんなアホコック。敵の目の前だぞ」
「ああ!?やんのかてめえ?」
「上等だ、ガラクタ人形より先にスクラップにしてやる」
「ちょ、やめろってお前ら。魔力節約のために五人だけで来たのに余計な労力使うな、ったく。
 おいサンジ、まどかちゃんに余計な負荷かけたくはないだろ」

緑色の髪に腹巻、三本の刀を提げた筋骨隆々の男。
オレンジの髪に棍を持ったスタイル抜群の美女。
鼻の高い、大きなパチンコを持った男。
金色の髪に咥えタバコ、ギャルソンスタイルに特徴的な眉の男。
麦わら帽子を被ったジョリーロジャーが帆に描かれた、羊の船首のキャラベル船。
顕現した一味と、その海賊旗、まどかのかぶった帽子を見てフェイスレスが乾いた笑いを浮かべる。

「そうか……そうかぁ。あっはは、仲間そっくりの顔で接近する。僕は知らず知らず君の騙された逸話を再現していたわけか!容易くいくと思ったよ。
 道理で雷も効かない。殺される寸前で処刑台に雷が落ち、奇跡の生還を遂げた男だもんな君は!
 麦わら帽子の海賊旗、ゴムのような肉体。そして何よりこの世の誰よりも自由なその振る舞い!
 お目にかかれて光栄だよ、海賊王!モンキー・D・ルフィ!」

海賊という反社会的存在でありながら、数多の国を救った救国の英雄。
知られざる歴史や世界の果ての開拓にも寄与した文化面の功もある、一廉の英雄。
それと、真っ向対峙している。

(まずい。最悪だ。よりによって固有結界とは。これじゃあまず逃げられやしない)

本来固有結界というものは術者のただ一つの内面を形にするだけであり、それを術者の意志によって手を加えて自由にはできない。
しかしこの宝具は生前海賊であった彼とその仲間たちの航海や冒険、生き様を心情風景とし『一味で』展開させる
彼らが共に見た景色、それが現れるものであるが故、召喚する面々によって風景が変わるのだ。
故に、今は東の海よりともにある彼らが抱く景色の再現として始まりと終わりの町、ローグタウンの港が再現されている。
かつて進水式を行ったあの海に最も近い、思い出の港だ。
現れたのは懐かしきゴーイング・メリー号と共に五人の海賊。彼らは一人の少女を守るために集う。
取り込まれたのは遊園地内にいたすべての自動人形。一機たりとも逃がすつもりはない、ということだろうか。
……当然そこには人吉善吉と、一応その護衛についていたブリゲッラたちもいる。
ブリゲッラが前面に構え、少しづつ善吉を引かせている。

『やばいぜ、アレは。こっちも全力でいかないと話にならない。
 あっちが戦力を小出しにしてるうちに仕留めないと、本当に負ける……!』
『そんなにやべえのか、あいつ』

固有結界からの脱出を試みるよりは敵を倒す方がまだ望みがあると、対峙のために念話で説得に動く。

『麦わらのルフィ。とある世界の海を征した海賊王…いや、あの年ごろは……最悪の世代と謳われた時代かな?
 彼だけじゃあない。
 海賊にして海賊狩りの名を冠する、世界最強の剣士に師事した三刀流の剣豪。
 千両道化やタイヨウの海賊団の一派といった大物海賊すら手玉にとった泥棒猫。
 小人や巨人、手長族に足長族など様々な戦士を船長に引き合わせた、海賊王にすら匹敵しかねない求心力を持つ狙撃の王。
 一国家を牛耳る犯罪組織相手にも破壊工作を成功させる、人殺し一族ヴィンスモークの嫡流。
 ……海賊王の一味の最古参たち、どいつもこいつも英霊級だ。下手するとそんなのがもっと出てくる』
『若いころ?サーヴァントってのは全盛期で出てくるもんじゃないのか?』
『全盛期、と一括りに言っても様々だからね。今の僕は人形の王としての全盛期だが、これが錬金術師や人形破壊者としての全盛期だとまた違った姿で召喚されるだろう。
 あの麦わらのルフィはおそらく戦闘能力じゃない。未来の可能性、じゃないかなァ。
 フランシス・ドレイクのような政府公認の海賊にもなれた。誰かの下につき、王ならぬ王佐を目指すこともできた。
 そんな可能性の全盛期……それがまどかちゃんの召喚による影響だとしたら、彼女はさぞ可能性に満ちた未来を持っているんだろう。世界を救う聖女か、あるいは滅ぼす魔女か……
 …まったく、話がずれたな。とにかく厄介な敵の上、この固有結界から逃れるのは簡単じゃあない。
 退くのがかなわない以上、勝ちに行く。令呪を切れ、マスター。こちらも『最後の四人』をすべて出す』

魔力潤沢とは言い難い善吉が宝具を全開にするのはほぼ不可能だ。
栄養ドリンクを百本飲み干したとて大海の一滴程度の影響しかない。
令呪による宝具解放。それがなければ暁美ほむらの二の舞となる。

「令呪によって命じる。俺たちの勝利のため、『最後の四人』を発動しろ!」

右手に宿った令呪が輝き、一画を失う。
これで残りは僅か一画。だが、ここで敗退してはもはや持ち直しは効かない。
全力で勝ちに行く。

フェイスレスの隣に立つハーレクインが笑みを深める。
善吉の見張りについていたブリゲッラが大きく跳躍し、それに並ぶ。
そして新たにフェイスレスの背後にカピタンとディアマンティーナが姿を現す。

「さぁて、始めようか。今は軍勢があるが……おそらく五対五だ」

身構えた瞬間。

激しい威圧感に全員が身を震わせる。
全力で、無差別に放たれた覇王色の覇気。
まどかの居場所がわからないうちは巻き込むのを避けるために加減していたが、その必要はなくなった。
仲間たちとともにマスターである少女を背に、全力での戦闘。

さすがというべきか、最後の四人とフェイスレスはその覇気を前にしても揺らぐことはない。
しかし多くの自動人形は圧倒的な気に体液を沸騰させられ、全身を炸裂させて倒れる。

(ぁ……?)

そして当然ながら人吉善吉も。
人並み外れたサバットの達人とはいえ、しろがねへと変わりつつあるとはいえ、サーヴァントを前には敵ではない。
意識が遠のき、膝をつきかけるが

「ぁ痛ッ!」

スパン!と炸裂音。
何者かにすさまじい力で尻を叩かれ、覚醒する。

「巻き込まれるのも、あなたを抱えて移動するのもお断りなの。避難するわよ」
「あ、アプ・チャー……」
「勘違いしないで。あなたが死んだら造物主様まで消えるからよ」

固有結界内に逃げ場などない。
だがそれでも戦場からは離れられる。
唯一残ったアプ・チャーを護衛につけ避難する。

「あ、ほむらちゃん!」
「ちょ、ストップだまどかちゃん。ひとまずおれたちが片をつけるまで飛び出さないで――」

縮地。
ロングコートの人形が真っ先に踏み込み、抜き手をまどかに向けて放つ。
衝突音。
それを阻む黒い足。

「レディーに対する礼儀がなってねえな、ポンコツ」
「戦場で男も女もあるものか」
「そういうのがなってねえ、ってんだよ!」

カウンターの上段蹴りを抜き手を放った腕で受け流すように回避。
続けざまに放った蹴りも同じように躱していく。
二発、三発、四発。
五発目の蹴りを受けると、その勢いを乗せて反転。
蹴り足の外側に回り込みこめかみに向けて裏拳を打つ。
バックステップとスウェーで回避するが、僅かに体勢を崩してしまう。
好機。
その隙を見逃さずブリゲッラが全力で大きく踏み込み、崩拳を打ち込もうとする。
一歩、音越え。二歩目…停滞。
唐突に足場が砂に変わったことで足を取られ、軌道が乱れる。
その幸運をものとして、身をひねり拳によるダメージを免れる。
にらみ合う一人と一機。
一人は加えていた煙草を吐き捨て、一機は砂浜に恨めし気なセリフを吐き捨てる。

「足場に救われたな。海賊風情が固有結界とは大それたものを」
「知らなかったか?うちの船長は悪魔の実を食って悪魔を宿したバケモノさ。悪魔が使うのは妙な事でもないんだろ?」

「何を呑気にやってるのよ、ブリゲッラ!」

大量のクマ型人形が放たれる。その全てが意思なき爆弾。
ブリゲッラとサンジの頭上を越え、まっしぐらにまどかを狙う。

「三刀流…!!」

その爆弾の海のただなかに飛びこむ男が一人。
右手に一本、左手に一本、そして口に一本の刀を咥えた異様な剣技を披露せんとす。

「“鴉魔狩り”!!!!」

振るわれる剣閃。
鋼に勝る硬度もあろう人形を細切れにし、目標と異なる地点で爆裂させる。
味方に被害がないのを横目で確かめ、そのまま人形を駆使したディアマンティーナに斬りかかろうとするが

「東洋の侍と見受けた!ならば我が剣の錆とし、この身の汚点を拭う糧としてくれる!」

空を舞い、斬りかかる剣士。
突撃の勢いに全体重を乗せた強力な刺突を両腕の剣を交差させ、その刃を黒く染め上げることで受けきる。

「侍じゃねぇよ。何だお前は」
「我が名はカピタン・グラツィアーノ!造物主様第一のしもべなり!誇りある我が剣は数百年の長きにわたり――」
「ぐちゃぐちゃうっせーぞ、カピ何とか」

受けた剣を弾き、口の剣で追撃。
それをカピタンは受け止めるが、首と顎の力で振るったとは思えない予想以上の豪剣に苦い顔をする。

「な、貴様口上の最中に斬りかかるとは武人の誇りがないのか!」
「海賊だぞ、おれは。ンなもん期待すんじゃねえよ。大体、お前も剣士なら剣で語れ」

続けざまに左右の剣で連撃。
三刀の連撃に防戦気味になるが、それでも時折鋭い刺突を入れ拮抗を保つ。

サンジとブリゲッラ。
ゾロとカピタン。
出来上がった二つの戦場の間隙を突き、他の二機が遠距離からの攻撃を狙う。
ディアマンティーナが再び爆弾人形を。
ハーレクインは稲妻による一撃を。
打ち放ち、今度こそマスターを攻撃しようとするが

「“必殺緑星”!!」
「“魔法の天候棒(ソーサリー・クリマ・タクト)”」

まどかのそばで二つの声が上がる。

「“デビル”!!!
「“電気泡(サンダーボール)”!!!」

パチンコによって発射された種子から巨大なはさみわな式の食虫植物が現れ、放たれた爆弾をすべて飲み干し消化する。
振るわれたロッドから打ち出された電気の塊が雷撃の通り道を作り、稲妻を逸らす。

守り抜く。
援護は任せろ、と嘯くならばその援護は完璧にこなすものだ。
そうして後衛を勤めきれば、我らが船長は必ず成功をもたらしてくれる。

爆撃。雷撃。剣士。拳士。
それを任せられると本能で理解できたなら、男は単騎、本丸に乗り込む。
蒸気を上げ、加速したその足で四体の人形の横を即座にすり抜け、奥に控えた老人へと殴り掛かる。

衝突音。
覇気により黒く硬化した拳と、科学により強度を増した腕が交差する。
海賊王と人形の王の戦いが幕を開けた。

「お前はおれがぶっとばす」
「やってみなよ、ゴム人間。海に落とせば僕の勝ちだぜ?」

力比べの拮抗は一瞬。
次いで放たれた左の拳の勢いを殺すため後ろに跳ぶが、ゴムの腕は勢いそのままに伸びることで回避を許さない。
結局勢いを殺しきれずに吹き飛ばされるフェイスレス。
その吹き飛ばされる速度以上に早くルフィは追いすがる。

「ゴムゴムの――」
「させないよ」

飛ばされながらも不敵な笑み。
ルフィが拳を打ち出すより早く右掌を向ける。

「食らいな」

『溶解』のフェイスレス。
彼の異名を象徴する強酸の放出で迎え撃つ。
しかしルフィにとって『水』は何より避けなければならないもの、そんなことは身に染みて理解している。
弱点であるからこそ、手慣れた反応。
液体による攻撃を大きく回避し、僅かに距離をとる。
そして、離れていようとルフィの拳の射程であることに変わらない。

「“JET銃”!!」

高速のストレート。
だが距離をとったのが幸いか、機械人間であるフェイスレスのずば抜けた反応速度でもって身をひねり回避する。
そして

「分解」

工具を振るい、もう一つの異名の由来を披露。
指、手首、肘などの関節部に的確に負荷をかけバラそうとするが

(くっ…!ゴムか!)

ぐにゃりと異様な形に伸び、変形して効果がない。
打撃、銃撃が効かないと聞き予期はしていたが、関節まで効き目がないのにまた一歩絶望の淵へ歩みを進める。
手札がどんどん少なくなっていく。
それでも諦めはしない。
工具で締め付け、腕を抑える。
そのまま溶解させようとするが、伸びた腕の縮む勢いでそうはさせじと突っ込んでくる。

(ねらい目だ!)

突撃に合わせて空いた手を顔に目がけて伸ばす。
眼窩に指を突っ込み、顔と眼球を『分解』してやろうとする。
しかしルフィはそれを見聞色により先読み。
腕が届く寸前で首を後ろに大きく伸ばし回避する。
空振り、隙の生じたフェイスレスにその伸びた首を利用した反撃。

「ゴムゴムの“JET鐘”!!」
「がぁッ!」

伸びた首の縮む勢いで強烈な頭突き。
硬質ゴムのハンマーをとてつもない勢いで叩きつけられたような衝撃が胸部を襲う。
生身の人間であれば肋骨が砕け、そのまま絶命するような一撃。
改造人間で、なおかつサーヴァントでなければ危なかった。
が、転んでもただでは起きないのがフェイスレスという男。
その衝撃も利用して距離を取り、足元に手を伸ばす。
転がっていたのは覇気により崩壊した自動人形の残骸。
その中から複射式のクロスボウを引っ張り出し、左手に装備したニードルガンと合わせてルフィの後方へ向けて放つ。
まどかのいる地点に向かって放たれた矢だが、当然のようにそれは届くことなくルフィの手で握りつぶされた。
舌打ちを一つ漏らす。

「一ついいかな。なんで君ほどの男があんな女の子に入れ込んでるんだい?まさかそういう趣味とか?
 人魚姫より美しいという、海賊女帝とのラブロマンスがなかったのはそういうことだったのかな?」
「まどかには弁当奢ってもらった恩があるんだ!」

怒りを見せるでもなく、そして虚言を放った様子もなく。
ちっぽけな、しかし当の本人にとっては重大な理由を口にする。

「……それじゃあもう一つ聞きたいんだけどさァ。君、ドレスローザって国じゃあ王女様にご飯御馳走になったからその恩返しに戦ったっていうのは本当かい?」
「ああ、レベッカにも弁当奢ってもらった」

その程度でこの男は一国の王に戦争を仕掛け、滅ぼすことができる。
ああ、やはり手に負えないと改めて確信する。
挑発に全く動じないのもそうだし、マスターを手中に収めたところでこんなじゃじゃ馬は制御できるわけがない。
マスターを生け捕りにするうま味など一切ない。
あらゆる逸話がこの男の破天荒すぎる在り方を示す。生かしておいては間違いなく舞台の歯車が狂う。

(と言っても、僕じゃこいつに勝つのは難しいぞ)

徒手の技能は比べるべくもなく劣っている。
分解も全く意味をなさない。
人形は一瞥で機能を停止し、そもそも武器を持たないこいつに全力は出せない。

(おまけに『悪魔』の実を食って、固有結界まで使う悪魔‐デモン‐だって?最悪という外ない)

最後の四人がマスターを仕留めるのを待つしかないか、とそちらの戦場からルフィの影響を削ごうと少しづつ距離を置き始める。
それに対する部下の反応は様々。
焦がれる人の側を離れまいとするも、敵対する一味に背を見せられず歯噛みする者。
後を任せられたのだと解釈し、奮起する者たち。
そして――

「白いの、お前今ホッとしたろ」
「あァ?何言っちゃってんすかね。オレっちがホッとした?何に?」

カピタンと鍔迫り合いながら、ハーレクインを挑発する。
当のハーレクインは稲妻による攻撃、霧や風雨による目くらましと狙撃の妨害などを悉く封殺され苛立っていたところに投げられた言葉に過敏な反応。

「雷の効かねえルフィが離れて安心したみてえだが。
 余計な心配だ。ウチの船長はロボとか好きだが、ガラクタ人形には興味ねェよ。おれで我慢しとけ三下」
「余所見をしている余裕はないぞ!」

その言葉に最も苛立ったのは無視された形になるカピタンだった。
ゾロの刀を弾き飛ばして一気に袈裟切りにしようとするが口の刀で受けられる。

「“煉獄鬼斬り”!!!」

そこから即座に反撃。
目前のカピタンはもとより、剣圧でもってハーレクインやディアマンティーナにまで攻撃を及ばせる。

「な!?我が破壊の剣(スペッツァ・フェッロ)を折るだと!?」
「ちっ、欲張りすぎて雑になったか?」

必殺のつもりで放った剣技だが、広域にしすぎたためか二機はかろうじて回避し、カピタンには剣を折る程度にとどまる。

「く、ならばこのスパヴェンタを振るうのみよ!かつての聖杯戦争でアーサー王を斬って捨てたこの――」

折れた剣を放って捨て、どこからともなく新たな剣を抜き放つ。
ついでにその剣の誇らしい功績を高らかに述べようと声を上げるが

金属音。
あらわにした刀身にゾロの刀がぶつけられる。

「上等な歯車を使ってるらしいな。べらべらよく動く舌だ。バラして持ち帰ればウソップとフランキーが喜ぶ。で、そっちのタイツピエロはどうした?喋んなくなったな」

再び口上を邪魔され怒りに肩を震わせるカピタン。
見透かしたような物言いをされ歯噛みするハーレクイン。

「生意気な口には、竜の逆鱗にかけて仕置きの甲斐があるってなもんだ!」

鞄から取り出したクラッカーの紐を引くと紙吹雪やテープが鋭利な刃物のように飛び出し、襲い来る。
続けてディアマンティーナも爆弾人形を放つ。
……まどかに、向けて。

「何弱ェの狙ってんだてめえら!」

咄嗟に退き、その全てを斬り落とすが、必然前の敵への対処はおろそかになる。

「よくやったぞ、お前たち!御首頂戴!」

その隙を逃さずカピタンが斬りかかるが

「させるかよ!“必殺緑星”!“プラタナス手裏剣”!!」

ウソップが鋭く硬い葉を手裏剣として放つ。
それを斬り払うために足を止められる、的確な援護。

「大体お前なぁ!さっきからペラペラペラペラ大法螺吹きやがって!お前なんかにアーサー王が倒せるなら、おれなんかギルガメッシュに勝てるわ!
 そこになおれ!お天道様が許しても、麦わら大船団が誇る狙撃手ウソップ様が許さん!」

巨大パチンコ、黒カブトから続々と弾丸を放つ。
武器と言い切りがたいパチンコから放たれる攻撃に少しづつ引き離されていくカピタン。

「アンタに嘘がどうこう言われちゃお終いね……ゾロ!そんなわけだからその白いのお願い!天気なら私がどうにでもするから!」

まどかをかばい、少しづつさがりながら熱気泡と冷気泡を多数放ち、周囲の大気を掌握する。
これで完全にハーレクインの能力は封じたと誇らしげだ。

「局地気象コントロールが効かなくってもオレっちが勝つのは決まってるぜえ。そりゃもう世界樹の種にかけて!」

鞄から今度はパラソルを取り出し、槍のように突きかかる。
それをゾロが受け止め、即座に弾き飛ばし追撃するが、パラソルを広げて盾にしていなす。
そうして生じた間を利用し、広げたパラソルを貫いてシャンパンの蓋を弾丸として飛ばす。
カピタンと違った手数と奇抜さに富んだ攻撃になかなかなれないゾロ。
そこに響く声があった。

「ウソ~~~ップ“呪文(スペル)”!“本棚の角に足の小指をぶつけて、さらにそこに百科事典が落ちてきた”!」

また何か言っている、と微妙な空気が一味の間に流れる。
しかし最後の四人の反応は違った。
何か興味を惹かれるようなものを聞きつけたように一斉にそちらを向き、続きはないのかと沈黙する。

「それがお前の最期に見るもんでいいんだな?」

当然、止まった攻撃の手のスキを突かない訳がない。
海賊相手に卑怯なんて甘い言葉は通じない。

「しまっ…!」

咄嗟に突風を煽りつけ、引き離そうとする。
だが、すでにこの地の天候はナミの手の中。
風はあらぬ方向に吹き、目的を果たすことなどできはしない。

「まったくよ……」

挑発の言葉に自分を見失い。

「“鬼気、九刀流”…!」

局地気象コントロール装置は無力化され。

「新聞の三面記事にかけて……」

目前には迫りくる阿修羅(デューマン)。

「“魔九閃”!!!」

そして、敗北がハーレクインに訪れた。

同じようにカピタン・グラツィアーノも敗れていた。
実力的には前田慶次にもロロノア・ゾロにも及ばないウソップに。
生前の敗北と同じく、なぜ敗れたのかカピタンは理解していないだろう。
そしてウソップ自身もなぜこうまで強い怒りをカピタンに覚えたのか分からないだろう。

麦わら大船団でも随一の嘘つきの始まりの嘘は、笑顔のためだった。
病に伏せる母親のために、海賊が来たぞ、父ヤソップが帰ってきたぞと嘘をついた。母を、笑顔にするために。
体の弱い令嬢のために、巨大な金魚の糞に大陸と間違えて上陸してしまったなどという頓狂な偽りの冒険譚を聞かせていた。彼女を、笑顔にするために。
村に海賊が来たぞ、といつも言い続けていたら本当に海賊が攻めてきたが、仲間とともにそれを撃退して嘘にした。村のみんなの、笑顔を守るために。
モンブラン・ノーランドと同じような英雄だと誤解され、それでもその嘘を現実にするために闘った。自分を信じた者たちに、笑顔でいてほしかったから。
だからこそ、笑顔を奪うことしかできない人形が、嘘で自分を塗り固めているのが許せなかったのだろう。
つまりウソップの放つ虚言は人々に笑顔をもたらすものであり。
その虚言を、自動人形は『誰かを笑わせるための技能』として注目してしまうのだ。あたかも、サーカス芸を貪欲に学ぼうとする芸人のように。

ウソップが一つ嘘を言うたびにカピタンは動きを止めた。
そのたびに一つ一つ勝利の布石は積まれていく。
植物の根が絡み、足裏のブースターは機能を停止した。
海より伸びた海藻が剣を振るう腕の自由を奪った。
そして唱えた呪文(スペル)に聞き入り、動きが止まったそこへ。

「“必殺緑星”!“ドクロ爆発草”!!」

着弾と同時に爆発、煙霧。
それが海賊らしくドクロをかたどり、カピタンへのとどめの一撃となった。

爆音とほぼ同時に砲撃音が響き渡る。
その直後に千々になったロングコートと、それを纏っていた人形のかけらが飛び散った。


◇  ◇  ◇


時は僅かに遡る。
ゾロがカピタンと刃を交え、ナミとウソップがハーレクインとディアマンティーナの足止めをしていたころ。
ブリゲッラとサンジは互角の攻防を繰り広げていた。

子分筋の八極拳士に劣らぬ拳闘術を華麗な足技で捌く。
抜き手をいなし、猿臂を弾き、踵撃を躱し、反撃の上段蹴り。

「“首肉(コリエ)シュート”!!」
「ヌルい」

腕をコロの原理で回転させ、その回転で蹴り足を受け流す。
太極拳の化勁という技術だ。そこからカウンター。

「撃統頂肘」

潜り込むように腹部へと身を躍らせ、全身を駆動させての肘打ち。

「掌打」

さらに上方へアッパー気味に掌での一撃。
打ち出した右手の肘を左手で押すことで威力を増す。

「烏龍盤打」

そこから体を半回転させて遠心力を乗せた手刀を叩きこむ。
三つの技をまともに受け、吹き飛ばされるサンジ。

「全身を武器とする拳法を使うわたしに対して、お前は足しか使わないな、人間。それでは勝てんぞ」
「戦闘じゃあ、コックの神聖な手は使わないのがおれの信条だ……!」
「そうか。つまらん」

失望したような答えを漏らし、地を滑るように進む。
足しか使わないならそれを封じてやる、と。
梱歩からの後掃腿撃地捶、それでとどめを刺してやろうとする。
サンジはそれを空へ高く跳び、回避。
地に足をつけては避けきれないとの判断だった。
それを見てブリゲッラは悩んだ。
手足の届かないところに敵が逃げてしまった……この身に宿したアレを使おうか、と。
一瞬逡巡するが、その考えを斬り捨て、みずっからも敵を追って空を往く。

「空中崩拳」

左腕に右の拳を押し当て、デコピンのようにして崩拳を打ち出す、足の踏ん張りがきかないところでも十分な威力を発揮する技。
これなら空中でも致命打になりえる、身を躱せない空ならなおのこと、と決着を予感するが

「“空中歩行(スカイウォーク)”!!」

サンジは空を蹴り、宙を飛んだ。
それによりブリゲッラの攻撃をかわし、ある場所へと飛び込んだ。

「悪ィな。お前の大将は五対五だと思ってたみたいだが、違うんだ。六対五だったんだよ……なあ、メリー」

ゴーイング・メリー号。
海賊王のクルーを偉大なる航路に送り届け、空を飛び、高潮を乗り越えた奇跡の船。
麦わらの一味の最古参の一人だ。
その砲門が一基、ブリゲッラのほうを向いていた。
空を飛ぶ術のないブリゲッラに、それを躱すすべはない。

「おれはウソップほど狙撃が上手くはねぇが、この程度の的ならわけねえな」

懐から煙草を取り出し、右手に持ったマッチで火をつける。
そしてそのままマッチの火を大砲の導火線へ。

「キッッサマァァァァァ!!!」

右腕を正面に構える。
対抗してカタパルトを開き、先にこちらがミサイルを打ち込んでやろうと――

「ウソ~~~ップ“呪文(スペル)”!“本棚の角に足の小指をぶつけて、さらにそこに百科事典が落ちてきた”!」

動きを止め、反射的にそちらに目をやるブリゲッラ。
呆れたように苦笑いを浮かべるサンジ。
停滞した空気の中で、我関せずど導火線の火は進む。
そして響き渡る砲撃音。

「――――しまっ」

咄嗟にミサイルを発射するブリゲッラ。
しかしその直後に砲弾は着弾。
発射したミサイルも誘爆し、むしろダメージを増してしまう。
腹部の大半を吹き飛ばされ、コートもちぎれて宙に舞う。

飛び上がったサンジに始めからミサイルを打っていれば。
大砲に対してミサイルを打ち返そうなどとしなければ。
こうはならなかった。
やはり、この武装には碌なことがないと後悔を浮かべながら機能を停止する。

「ありがとよ、メリー。俺みたいな下手くそのために照準合わせるの手伝ってくれてよ」

独り言を呟いた……つもりだった。

――――むしろ僕こそありがとう。また君たちと戦わせてくれて――――

そんな声が聞こえた気がした。
幻聴か、現実かはともかく、一人だけメリーと話したなんて知れたらウソップやルフィがうるさそうだと、このことは胸に秘めておくと決めて。
目じりの涙をぬぐって戦場を見やる。

「なんか拘りがあるんなら最期まで貫くんだな……さて、あっちの方はケリついたかね?」

船上から見下ろした光景に飛び込む――否、吹き飛ばされてきた影があった。
フェイスレスがルフィに殴り飛ばされ、戦場に合流する。
そしてその惨状を目の当たりにする……最後の四人の燦々たる有様を。

「も、申し訳ありません造物主様。今すぐにこ奴らを片づけて……」

半壊してなお立ち上がる、カピタン、ブリゲッラ。
そこに即座にルフィが追いすがる。

「ゴムゴムのォーーー!」

両の腕を後ろに引き、大技の構え。
直撃すればもはやフェイスレスもこれまでだろう。

「行け、お前たち」
「はっ!」

最後の四人に命じる。
二人がまどかに突撃し、二人がルフィに特攻する。
まどかの前にはゾロが構え、即座にサンジも合流。
ルフィなら壊れかけの人形など相手にならないだろう、と誰もが思った。



「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」



そしてその一手には誰もが驚いた。
麦わらの一味はもちろんのこと、最後の四人も一人残らず。

食蜂操祈のリモコンの時にも述べたが、通常宝具というのは英霊にとっては生前共に在り続けた半身であり、それを壊すというのはその身を裂くほどの精神的苦痛を味わう。
ましてや『最後の四人』はフェイスレスの一面を反映した分身ともいえる宝具だ。
それを、炸裂させた。
ある意味ではさもありなん、フェイスレスは自らの記憶を転送させてしまえば残ったマスターテープを処分することを迷わずやってのける男だ。
ディーン・メーストールとなるために白金を捨てたように。
勝を乗っ取り、ロケットに乗ろうとした際にフェイスレスの体を捨てたように。
『最後の四人』も、必要ならば切り捨てる。
今の彼らは満身創痍。もはやまともにやって勝機はない。
ならばBランク宝具の爆裂という最後の手段に利用するしかない。

とてつもない爆発が広がる。
閃光と粉塵により視界が覆われる。
宝具に秘められた魔力の炸裂によるダメージが肉体を襲う。
まどかやナミたちはゾロとサンジが守り抜いた。
しかしルフィはカピタンとブリゲッラに込められた魔力の直撃を受け、少なくないダメージを負う。

それでも、ルフィは立っていた。
衝撃から身を守るために攻撃の構えは解くざるを得なかったが、それまで以上の戦意を目に宿し、一帯をにらむ。
…………視界が晴れる。
フェイスレスの姿が目に入った。



「お前は仲間をなんだと思ってるんだァ!!!」



瞬間、突撃。
荒ぶる感情を拳に乗せて、何の変哲もない一撃を浴びせようと駆ける。
拳が触れようとしたそのとき

「――!待てルフィ!」

見聞色の覇気に長けたサンジの声が響く。
遅れてゾロとウソップも違和感を覚えた。
だが、すでに遅く。
ルフィの拳がフェイスレスの頬に届き



大爆発。


それは地雷だった。
自爆人形(ディストリュクシオン)、フェイスレスが一つだけ作っておいた身代わり。
それもルフィの覇王色の覇気により機能を停止していた。
しかしフェイスレスの本分は人形繰りだ。
残骸から目当ての人形を発見し、ひっそりと糸をつなぎ、爆炎に紛れて入れ替わるくらいはわけない。
かつて恋敵である才賀正二が自分そっくりのマリオネットと入れ替わったように。
怒りに目が眩み、見聞色により気づくことができなかったことで、壊れた幻想と合わせて想定外のダメージを追加される。

「ルフィ!無事か!?」
「なんでもねえ!このくらい!」

駆けよるウソップを撥ね退け強がるが、ふらつく。
致命的ではないが、二重三重の大爆発はさすがに堪えるようだ。

「じっとしてろ!追いかけるにしても治療してからだ!」

そこへ新たな影が現れる。
二本の角を生やしたたぬきのような珍獣。
麦わらの一味の船医、人間トナカイのトニートニー・チョッパー。
飛び出そうとするルフィをウソップと抑えて傷の手当てを始める。

「大丈夫ですか!?ライダーさん!」
「あ、ちょっと、まだ敵がどこかにいるかもしれないんだから、もう!」

ルフィに駆け寄るまどかと、それを止めるように並走するナミ。
さすがに幼い少女に心配されてそれを力づくで撥ね退けることはせず、おとなしくチョッパーの治療を受けだす。
応急手当を進める面々を横目にゾロとサンジは彼方に視線をはせていた。

「…おい、コック。アレ、どこいったかわかるか?」
「…おれの気のせいじゃないみてぇだな。気配が弱って消えた」

二人は見聞色の覇気でフェイスレスの気配を追っていた。
固有結界内にいる以上、よほどのことがなければ逃げられるはずはないのだから。
だが、その気配が聞こえなくなった。

「おいウソップ、ルフィ!お前らまだアレの声聞こえるか?」

遠くの気配を見るのなら狙撃手であるウソップのほうが適している。
そして海王類や象主の声すら聞くルフィならより多彩な声を聞ける。
その二人も見聞色を発動するが、フェイスレスの気配は捉えられなくなっていた。

「…いねえな」
「どうも弱った動物がそのまま死んでいくような声の消え方だったんだが、そんなに弱ってたのか?」
「んー、鐘が一発と、銃が何回かと、バズーカくらいか?」

……魔術師のサーヴァントなら倒れてもおかしくはないダメージだろうか。

「とにかく、敵が消えたんなら集合してる意味もねえだろ。チョッパーの治療が終わり次第、おれ達は帰るぞ。
 長居してもまどかちゃんの負担になるだけだし、ルフィの回復に魔力は回した方がいい」
「コイツを解除するのが狙いだったらどうすんだよ」
「死んだっぽい、って結論に今至ったろ。もし生きててもルフィにこんだけ荒らされた上に宝具なくしてんだ。
 もうおれ達が出張るまでもねぇだろ。そんなこともわからねえのか、マリモってのは」
「あァ!?」
「ンだ、やんのか?」
「やめなさい!まどかちゃんの前でみっともない!」

ガン、ガンとナミが拳骨を落とす。
それを受けて臨戦態勢だった二人も互いに手を引く。

「あ、あのみなさん!」
「ん?お、まどかちゃ~ん♡どうした?どこか怪我でもしたならあのタヌキみてえなやつにいうといい。あれでウチの自慢の船医だ。
 あ、もしかして魔力消費で疲れてきちゃった?それじゃあそこのマリモには退場してもらうよ?」
「いや、おめぇが帰れ!」
「はいはい、大人げない態度はそこまで。まどかちゃん、そういうことなら遠慮なく言って。私もゾロもあなたに負担をかけるのは本意じゃないから」

必要以上に丁寧な態度のサンジには恐縮し、フォローするように入ってきたナミにも気後れするが

「えっと、魔力、ですか。ケガとか疲れたりは大丈夫です。それより、助けてくださってありがとうございました!」

麦わら帽子を乗せた頭を下げてお礼を言う。
それをみて驚いたように顔を合わせる三人。

「……ま、ウチの船長が君のサーヴァントをやってる以上助けるのは当然なんだが。コックとして礼を言わせてもらうと、あいつに飯を奢ってくれてありがとよ。よく食うだろ?あいつ。
 ああ、そうだ。おいゾロ、ちょっとメリー号に付き合え。食糧庫になんか残ってるっぽかった。ルフィに何かやっとかねえとまどかちゃんが破産しちまう」
「ああ?ったくしょうがねえな」

二人は照れ隠しのように船の中に飛び込んでいった。
海賊だからか、ヒーロー扱いは不慣れのようだ。

「ね、まどかちゃん?あなた、ルフィの…私たちの冒険を夢に見たんじゃない?」
「えっ?」
「私も…多分、ルフィもあなたの過去を少し見たわ。魔女の、こととかね……」

互いの過去に踏み込んだからか、それが沈痛なものだったからか空気が少し重くなる。
それでもまどかより人生経験豊富なナミは笑顔を保って話し続ける。

「あなたの願いについては聞かないわ。何を願ってもおかしくないし、何を願っても責められない。
 少なくとも私たちやルフィは、あなたに力を貸すために来たんだから。
 もし必要になったら、また呼んで。自分の意思で聖杯戦争に臨んだあなたをルフィは結構気に入ってるみたいだし」
「そう、なんですか…」
「あ、でもあいつデリカシーの欠片もないから悩みとかそういうの共有してくれないのよねー。
 守ってはくれるんだけどそういうとこは気が利かないし、あんまりうじうじしてるとキッツイ言葉ぶつけてくることあるけど。
 まどかちゃんが自分のしたいことにまっすぐ向き合ってるなら、あいつは絶対あなたを裏切らない」

麦わら帽子の上から頭を撫でられる。
なんとも面はゆくて、とりあえずお礼を言っておこうかと口を開きかけるが

「ありが――――」
「よっし、終わったーーー!」
「ちょ、あんまり暴れるなよルフィ!?応急手当しかしてないんだからな!」
「大丈夫だ。あとは肉食っとけば治る!」
「だからそれは医学じゃねえってば!」

騒ぎ始めた男たちにかき消され、力なく笑うしかない女性陣。
船から二人の男たちも降りてきて、何か巨大な骨付き肉を船長に渡して頬張らせる。

「んぉ?まろか、へがはひてねーか?」
「はいはい、大丈夫だから。私たちはもう帰りましょ」
「そうだな。ぐずぐずしてても魔力の無駄だ」
「それじゃあな、まどかちゃん。また何かあったら駆けつけるからよ。
 しかし凄いな、これだけ固有結界を開いてて涼しい顔とは。ロビンちゃんにフランキー、ブルックはもちろん、これならあいつらも勢ぞろいさせられるんじゃねえか?」

そうして三々五々言葉を贈って固有結界から消えていく。
残されたのは二人。
大量の肉をすでに食べ終わったルフィと、渡された肉をまだ食べ終わらないまどかが遊園地にポツンと立っていた。

「ライダーさん、これお返しします」
「お、ありがとう…ん?」

かぶっていた麦わら帽子をルフィに差し出す。
そこから落ちてきた何か白いものを拾い、掌に置くルフィ。

「あの、ライダーさん。温泉ってどこだかわかりますか?」
「あ?えーと、たぶん向こうのほうだ」

モリガンに教えられた場所を記憶を頼りに指さす。

「そこに向かっていいですか?もしかしたらほむらちゃんも向かってるかも」

銀色の髪のサーヴァントは、そこにいるという緑のセイバーとやらを倒させたかったらしい。
手掛かりはほとんどないが、姿を消したほむらのあてはほぼない。
僅かな可能性でも縋るしかなかった。

「ん、わかった。行くか」

掌に載せた白い紙が、ルフィの指さした方に少しだけ動き、仲間たちが固有結界とともに消えたようにふ、と消える。
それを眺めてルフィは頷いた。



【B-6/遊園地/二日目・夜】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:人を殺したくないし死にたくもない。けれど願いのために聖杯を目指す。
1.ほむらを探す。
2.銀髪のサーヴァント(フェイスレス)の警戒相手がいるという温泉に行ってみたい。でもどうやっていこう……?
3.タダノとも話がしたい。
4.聖杯戦争への恐怖はあるが、『覚悟』を決める。
5.魔女のような危険人物は倒すべき…?
[備考]
※バーサーカー(一方通行)の姿を確認しました。
※ポケットに学生証が入っています。 表に学校名とクラス、裏にこの場での住所が書かれています。
※どこに家があるかは後続の方に任せます。
※アーチャー(モリガン)とタダノは同盟相手ですが、理由なくNPCを喰らうことに少なくない抵抗感を覚えています。
※セイバー(流子)、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』により食蜂に親近感を抱かされていました。
※暁美ほむらと自動人形を確認しました。
※夢を通じてルフィの記憶を一部見ました。それによりニューゲートの容姿を垣間見ました。



【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]ダメージ(中、応急処置済み)、満腹
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを守る。
0.………………………………エース?
1.まどかの言うように温泉に行ってみる。
2.バーサーカー(一方通行)に次会ったらぶっ飛ばす。
3.バーサーカーに攻撃がどうやったら通るか考える。
4.タダノとの同盟や今後の動きについてはまどかの指示に従う。
5.肉うめえ。
[備考]
※バーサーカー(一方通行)と交戦しました。
 攻撃が跳ね返されているのは理解しましたがそれ以外のことはわかっていません。
※名乗るとまずいのを何となく把握しました。以降ルーシーと名乗るつもりですが、どこまで徹底できるかは定かではありません。
※見聞色の覇気により飛鳥了の気配を感知しました。もう一度接近した場合、それと気づくかもしれません。
※フェイスレスを倒したと考えています。


[共通備考]
※タダノ&アーチャー(モリガン)と同盟を組みました。
 自分たちの能力の一部、バーサーカー(一方通行)の容姿や能力などの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。







「はあ、はあ、はあ……危な、かった」

固有結界内、ルフィたちから大きく離れたところを必死に逃げるフェイスレス。
暫く逃げたところで善吉とアプ・チャーに合流し、固有結界脱出を目指す。

「おい、破れないんじゃないのか、これは」
「神秘はより強い神秘によって覆される…とびっきりの魔法である固有結界を超えるのは至難の業だが、今のあいつは弱っている。
 抜けられるさ。そのために外に放っていた人形も近くに集めているんだから」

実際のところは強がりだ。
最後の四人のダメージを見て勝機はないと見て取り、撤退を選んだ。
そのために払った犠牲は大きいが命には代えられない。
命からがらの逃亡に成功のあてなどないが、それでもやるだけやるしかない。

「ここだ。ここが固有結界の果て……」

外部からの人形の干渉。
内部から自身の干渉。
最悪はそこにいるアプ・チャーも吹っ飛ばして――

「あっは、追いつきましたよぉ、キャスター様ぁ」

甘ったるい声が背後から響いた。
振り返るとそこにはロリータファッションの少女型人形、ディアマンティーナがボロボロの姿で立っていた。

「もう、いきなり壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)だなんて。驚いちゃいましたよ。
 ま、さ、か、私にも何も言わずあんなことするなんて」
「ああ、すまなかったねディアマンティーナ。僕も苦渋の決断だったん――」

言葉の先を塞がれた。
首を絞められ言葉が出ない。

「そう。そう。そうなの。分かってた。ずっとずっと、ず~~~~と分かってたんだけど。今回も違った」

ギリギリとディアマンティーナの腕がフェイスレスの首を絞めつける。
なぜだ。
なぜ僕を攻撃する。
そう自問する。
そもそも壊れた幻想で最後の四人は吹き飛んだはずなのに、なぜこいつは命令を聞いていない。
まるで最古のガラクタどものように、別の主人などいるはずもないのに。

「何を、する。僕はお前の造物主だぞ」

『理解』しろ。
そう言葉を捻り出すが



「お前はフェイスレス様じゃない!」
――お前はフランシーヌじゃない――



フェイスレスの脳裏にかつての記憶が蘇った。
愛した女性を模した人形を作り、愛した女性の面影を重ねて、その人形を愛さなかった記憶が。


「フェイスレス様は私を一番に愛してくれる!エレオノールよりも、フランシーヌよりも!
 私を分解したりしない!壊れた幻想の弾になんか絶対にしない!お前も、あいつも、あの男も!フェイスレス様であるわけがない!!!」

首を絞める腕に力がこもる。
かつて、フランシーヌ人形の首に手を回したのと同じように。
正確に言えばサーヴァントというのは英霊の座からのコピーであり、本人ではない。
生命の水による転生を繰り返した白金に正確な自分というのはもはやないともいえる。
であっても。
理不尽な怒り。身勝手な要求。
己の求める姿以外、焦がれる人物に求めない醜悪な光景。
ただ似ているだけの人物に己の理想を重ねる不合理な姿。

フェイスレスは抵抗できなかった。
ルフィとの戦闘でのダメージ以上に、自らの分身を通じて自らの所業を突き付けられて。

(ああ、さすが僕の造った自動人形だ。お前は僕にそっくりだよ)

ギリと首を絞める力が強まる。
圧迫と痛み。
気道を塞ぐようなものではなく、首を折りに来るほどの力だ。
細く、しかし強靭な指が肉に食い込む感覚。

(フランシーヌ。フランシーヌ人形。アンジェリーナ。エレオノール)

ギリギリと首の形が変わるほどに指が食い込む。
さらに内部の気管や血管などの組織を圧迫し、首の中でめりめりと音を上げる。
もはや悲鳴を上げることすらできないだろう。

(…………僕が、悪かったよ)

ぼきり!!
半ばから首がへし折れる。
しろがね‐Oで、サーヴァントならば致命傷たり得ないかもしれない。
しかし、生をあきらめたしろがねは機能を止める。
首を折られ、己の醜さに生きる意志も折られた不死人はあっけなくこの世を去った。
もはや何度目の絶命であるか当人にもわからなかった。





【キャスター(フェイスレス)@からくりサーカス 死亡】






「…おい、何の冗談だよ」

人吉善吉は呆然とするしかなかった。

「裏切りのクラスであるキャスターは宝具も裏切るのが十八番ってか?ふざけんな!」

異様な雰囲気を纏って現れたディアマンティーナに気おされ、何もできなかった。
視界を除けば、自動人形どころか過負荷も霞んで見えるおどろおどろしい風景が見え、恐怖と吐き気がこみ上げる。
気を取り直す間もなくフェイスレスは絶命していた。

金のキャスターより先に消えてくれたのは大助かりだ。
だが、よりによってこのタイミングでというのはよろしくない。
せめて敵の一騎くらいは倒してくれなければ困る。
間桐雁夜との同盟もあるのに、ここで消えられては人形も動きを止め、協力できなくなる。
むしろ足手纏いに成り下がる。

すでにディアマンティーナは機能を停止していた。
フェイスレスに逆らったからか、フェイスレスが死んだからかそれは分からないが。
このままではもう間もなく全ての人形は停止するだろう。
どうすればいい?

「落ち着きなさい」

未だ動くアプ・チャーが声をかける。
その動きはぎこちなく、今にも止まりそうだ。

「思い出しなさい…いえ、解らないの?『あなたは、だれ?』」

俺?
俺が誰かってそんなのは決まっている。
人吉善吉。箱庭学園1年1組、生徒会の庶務を勤めるめだかちゃんの幼馴染だ。
200年前に白家に生まれて――違う!これはあいつの

「ああ、そうか」

わかったよ。お前が何を言いたいのか。俺が何をすべきなのか。

「俺(ぼく)は、お前たちの造物主だよ~ん」
「ええ、そうでしょう。あのディアマンティーナ様があの男を造物主様でないというなら、造物主様はあなたをおいて外にない」

動きが滑らかになるアプ・チャー。
調子を確かめるように手足を動かす。

「一点物がほとんど消えたのは幸いだったかもしれないわね。チャイナ・ホーのような間抜けはともかく、シルベストリやジミーはそんな『誤解』はしてくれないでしょう」
「……礼を言うよ、アプ・チャー。これでまだ闘える」

頭痛が走った。
脳裏を犯されるような痛み。
自分が誰なのか分からなくなりそうになる。
頭に手をやると、髪が数本抜けた。
全て、銀色に染まっていた。

背筋に寒気が走る……
その瞬間に世界が変わった。戦闘開始時のように唐突に、スクラップだらけの遊園地に放り出された。

「フェイスレスが消えて、解放したみたいね。それで、これからどうするのかしら?」
「ああ、そうだな……」

殆どの駒をなくしてしまった。
残されたのは外に派遣していた人形と、間桐雁夜のところにいる連中と、アポリオンくらい。
ふと、目の前に壊れかけのアポリオンのモニターがありそこに目をやると。
全身白の、餃子みたいなダサい格好した男が見えた。
一瞬だけ映って、すぐにモニターは壊れてしまったが。
それでも、知らない筈の男を識っているはずだという奇妙な確信があった。

(あそこは…温泉の近くか?くっそ、どうする?下手に動くことはできない。戦力が足りなすぎる。
 どうにかサーヴァントを手に入れないと。暁美のやつはあのまどかってのを帰したがってるみたいだからそれに協力するか?
 いや、それじゃあ間桐雁夜を裏切る羽目になるだろ)

それを許さない良心がいまだに残っている。
未知の知人にちょっかいを出そうとしない慎重さも残っている。
しかし。
心のどこかの。
間桐雁夜を切り捨てるのが最善だと。
あの男に会ってみるべきだと。
そういう囁き声が大きくなっているのを感じた。





【B-6/遊園地(ルフィたちからは離れている)/二日目・夜】


【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]中度のしろがね化
[令呪]残り一画
[装備]箱庭学園生徒会制服
[道具]銃人形のリボルバー(6/6)
[思考・状況]
基本行動方針:キャスター(操祈)を討伐し、最後には優勝する
1.どうする……?
2.モニター越しに見えたどこかで見たような気がする、しかし知らない男(垣根)が気になる。
3.間桐雁夜を裏切りたくはない……のだが
[備考]
※アッシュフォード学園生徒会での役職は庶務です。
※相手を殺さなくても聖杯戦争を勝ち抜けると思っています。
※屋上の挑発に気づきました。
※学園内に他のマスターが居ると認識しています。
※紅月カレンを確認しました。
※キャスター(操祈)を確認しました。
→加えて操祈の宝具により『食蜂操祈』および『垣根帝督』を認識、記憶できません。効果としては上条当麻が食蜂操祈のことを認識できないのに近いです。これ以上の措置は施されていません。この効果は未だ続いています。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。
※ライダー(ルフィ)を確認しました。
※フェイスレスと再契約しました。
※フェイスレスの血液を飲んだことでしろがね化が進行、記憶や知識も獲得しています。
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』による操作と『欲視力』により得た他者認識力により、フェイスレスの乗っ取りに抵抗しています。現状精神は乗っ取られていませんが、キャスター(操祈)が脱落し、宝具の効果が消滅した場合は精神が乗っ取られる確率が極めて高くなります。
※バーサーカー(一方通行)陣営と残り主従が6騎になるまで同盟を結びました。
※現在フェイスレスの記憶を利用し、自動人形に自らが造物主だと誤解させ魔力供給することで維持しています。
 ただしそのせいで記憶の浸食はフェイスレス消失以前と同等以上の脅威となっています。


※サーヴァント消失を確認(二日目夜)これより六時間以内に帰還しない場合灰となります。




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060:Deep Night 投下順 062:英雄たちの交響曲
時系列順

054:MEMORIA 朽木ルキア&ランサー(前田慶次 065-a:聖なる柱聳え立つとき
057-b:翼をください タダノヒトナリ&アーチャー(モリガン・アーンスランド
鹿目まどか&ライダー(モンキー・D・ルフィ 065-b:魔なる柱雷のごとく出で
058:真夜中の狂想曲 人吉善吉
キャスター(フェイスレス DEAD END

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最終更新:2017年09月24日 18:36