私だけのWORLD END◆wd6lXpjSKY


戦線を放棄したゼロは何を考えているか何て解らなかった。
藤堂さんに全指揮権を与えても、黒の騎士団にとってゼロ不在に傷は深過ぎた。
別に藤堂さんを見下している訳じゃない。あの人は凄い人だから。

でも、誰がゼロの代りになれるの。

扇さんから言われた通り私はゼロを追った。

遺跡の中で出会ったスザクとゼロ。
スザクが撃った銃弾はゼロの仮面に当たって遂にゼロの素顔が顕になった。

その時は信じられないってのもあったけど、頭が働かなかった。
だって生徒会の副会長であるルルーシュだったから。

そこからもう、私は考える事を放棄していた。

そして気付けばセイバーが居た。

セイバーは私に気を遣ってくれた。
聖杯っていう何でも願いが叶う願望器を手に入れるために戦ってくれる。
ギアスみたいな超常現象に私も触れるのか、なんて思ってた。

ゼロのことで頭が一杯だった私をセイバーは励ましてくれた。
吹いてくれたオカリナの音色が今も記憶に残っているの。
私は辛い時もそれを思い出して頑張ろうと思う。

それが私が見た短くて長い夢の話で――――――。







「……ちょ、なにこの匂い!?」


目が覚めた紅月カレンを出迎えたのは鼻に残るキツイ匂いだった。
辺りを見渡せばホテルの一室だと解るが、匂いの理由にはならない。
隣のベットに視線を送ると衣服や荷物が散乱しており、正体が自ずと近付いて来る。


生活にだらしがない人間を一人しっている。
散乱している衣服から同じ人間だと推測し、ベッドの奥にあるピザの箱で確信した。


「C.C.! アンタこれ放置しないでよ!」

「全く寝起きでうるさい奴だな……」


カレンの怒号に反応したのか、シャワー室の奥から一人の女性が現れた。
裸でシャカシャカと歯を磨いており、端的に言ってだらしない女性であった。
これでも日本を開放するための組織、黒の騎士団の一員である。

「ベッドの上に食べ物を置くな! ついでに片付けなさい!」

「お前は本当に私の母か何かか?」

「願い下げだよっ!」

バン、とベッドを叩きその勢いで立ち上がったカレンは冷蔵庫から水を取り出す。
何気ない日常の動作で水を飲むがとある異変に気が付いた。
無い。無いのだ。

「右腕に傷が無い……?」

「……? どうしたんだカレン。子犬みたいにか弱い瞳をして」

「私の右腕はあの老人に……でも、え……?」

「おい、どうしたんだ」

アッシュフォード学園にてランサーのマスターに遣られた傷が無い。
そもそも此処は何処なのか。

紅月カレンの記憶には聖杯戦争で戦っていた記憶が存在している。
そしてもう一つ、黒の騎士団壊滅後にC.C.と共に反逆の時を待って活動している記憶も存在している。
自分で自分が解らなくなるカレンだが、無理矢理納得する。

C.C.との記憶は聖杯戦争中に抜け落ちていた記憶に違いない、と。

ならばカレンは夢でも見ていたのだろうか。
偽りのアッシュフォード学園の生活も、セイバーとの出会いも全部夢なのか。

虚ろな瞳をしているカレンを心配してC.C.が顔を覗き込む。
しばらくしてから気付いたカレンは驚いたリアクションを取るとベッドに腰を落とす。
一呼吸置いてから彼女は考えた。

C.C.に聖杯戦争のことを聞いてみるのはどうだろうか、と。

ギアスを知っている彼女だ。聖杯戦争について何か知っているかもしれない。
カレンは確信が欲しいのだ。聖杯戦争が実在する事実と証拠が。
自分が体験してきた戦争は実在する。セイバーの存在は偽りではない。

「ねぇC.C.」

「ピザはやらんぞ」

言え。
言ってしまえ。
だが切口が見付からないのだ。突然聖杯戦争の話を振ってどうするのか。
自分も元々は知らないで巻き込まれたのだ、何を言えばいいか解らない。

セイバーのことか、天戯弥勒のことか、ランサーのことか、人吉善吉のことか、夜科アゲハのことか。

「……お前、本当に大丈夫か?」

C.C.が柄にもなく心配しており、自分が不安定なことを再度認識するカレン。
セイバーとの思い出を話すべきだろうか。
剣を持った時の勇者は月夜を暴れる吸血鬼と戦ったお伽話を話そうか。
それとも森の中で吹いてくれた心安らぐ音色のことを話そうか。


「――ううん、なんでもない」


夢なら夢のままでいいかもしれない。
無理に話した所で、誰かに同意を求めても何も得ない。
自分を満足させるためだけの活動は必要ないとカレンは思い出す。
ゼロが現れた時、黒の騎士団の活動を批判していた。
小さいと、市民を巻き込むな、と。

C.C.を聖杯戦争に巻き込む必要は無いし、そんなことで悩んでいる時間はない。

黒の騎士団は必ず復活する。
その時にルルーシュを再びゼロとして迎え受け、黒の騎士団は日本を開放するために再びブリタニアと戦うのだ。
それにC.C.に話しても「殺し合い? 実は私も参加した記憶があってだな――」と茶化されるかもしれない。

紅月カレンは前を向く。
日本を開放するために、日本人の誇りを取り戻すために、明日を取り戻すために。
セイバーは今も暁美ほむらの剣となって聖杯戦争の中で戦っているだろう。

彼の戦場が聖杯戦争なら紅月カレンの戦場はこの世界である。

カーテンを開けると、前と同じように月夜が輝く美しい夜空である。
きっとセイバーも遠いこの空の下で同じ空気を吸っている。世界は違えど繋がっている。

「……ん?」

ふとポケットに異物感を感じたカレンは異物を取り出し目視する。
すると見慣れた物が木製で精製された模造品が混入していたのだ。表情が緩む。
セイバーが森の中でくれたのであろう――オカリナを見つめながら紅月カレンは再び黒の騎士団として活動を再開した。



【紅月カレン@コードギアス反逆のルルーシュ 生還】

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