未知との再会◆A23CJmo9LE



タダノヒトナリが目を開くとそこはかつて幾度も利用した設備であった。

「これは…医療用のポッド?」

悪魔との闘争で傷ついた体を癒す設備。
それが設置されているということはここは医療施設か。

「しかし、誰もいないな」

医療従事者はおろか、アーチャーも、ルーシー君たちもいない。
それに疑問を覚えるが、だからといって何故か緊迫することはなくふらふらとポッドを、そして部屋を出る。
なんとなく覚えのある廊下を歩き、一つの部屋に入った。

「ここは…開発用のラボか?」

また見覚えのある設備があった。
実験や道具、あるいは武器の開発などができそうな部屋だ。
棚を見ると悪魔の体の一部のような羽や角が保管されている。

「まさか…ここは……!」

やはり誰もいないラボを飛び出し、勝手知ったる足取りで走る。
たどり着いた部屋にはやはり誰もいないが、その内装で確信する。
司令室、だ。
その中央に設置されたコンソールパネルを操作しようとするが、反応はない。
……すると、背後に何者かの気配を感じた。

「やあ、邪魔をさせてもらっているよ、タダノヒトナリ君」
「……アーサーはいないが、君がいたか。なんとなくそんな気はしていた」

ルイ、と振り向きざまに呟こうとして言葉が詰まる。
そこにいた人物の容貌はおおむね予想通りだ。
金色の頭髪。
青い瞳。
惹きこまれるほど美しく、どことなく奔放さを感じさせる立ち姿。
だが予想と違って、少女でなく青年がそこに立っていた。

「君は…なんだ?」
「何か、ときたか。さすがに本質を捉えた問いをする。
 わたしと君は初対面であり、ちょっとした顔馴染みでもある。
 今思い浮かべた名で恐らく正しい。おれはその名を名乗ることはないが」

そう言いながら周りを見渡し、壁や床を確かめる。

「やはりいい船だ。人の生み出した鋼の方舟。
 洪水を乗り越えた船でもこれには敵いそうにない。私も同じことを言ったと思うが」
「なぜこれがある?それに僕たちもなぜここに?」

この船は…レッドスプライト号はアーサーと共に、シュバルツバースに沈んだはずだ。
そして僕はここではない戦場いたはずだ。

「覚えはないか?かつて死に瀕した際、居るべきでない場所でいるはずのないものと話したことが。
 ……いや心に封がされているのか?だが憶えているはずだ。
 何もない部屋で、三人の男と向き合い、その後に悪魔を捉える力を手にしたことを」

見知らぬ部屋。
そしてヒメネスやゼレーニンも含んだ船員で向き合った、あの三人の紳士。
……悪魔召喚プログラム。

「先ほどまで君は少々命の危機にあった。初めて彼らと向き合った時のようにね。
 私は関わるつもりはなかったようだが、おれは君に少しばかり思い入れがあったのでな。
 こうして邪魔させてもらった」
「あれと同じ…ならここは」
「いわゆる霊の…精神の世界。平たく言えば夢のなかだ。
 それがなぜこの方舟の形をしているのかは何とも。
 私と君が初めて会ったのがここだったからか、あるいは君の心は未だにこの船に囚われているのか」

囚われている、か。
否定はできない。
この船で、あの世界で失われたものはあまりに多く、大きすぎる。

「気持ちはわかる。おれもまた、君と同じだ」
「…同一性を提示し、親近感を抱かせる。典型的な詐欺師のやり方だな」
「おれを『ペ天使』呼ばわりはよしてほしいな。
 同じ経験をした同士だからだろう。君ならおれのことを理解してくれるのではないかと期待している。
 私のお気に入りである、多くの仲魔を従えた君ならね」
「お前が僕の何を知って――」
「おれはかつてこの手で親友と悪魔を合体させた。そしてその親友と敵対し、最期はこの手で殺めた」

!?
それは…!

「私から聞いたところ、君のそれは仕方のなかったことだと思う。
 おれはおれの欲望のために親友を悪魔に…いや悪魔人間に変えた。
 彼と共に世界を歩みたいと思ったから。彼を愛していたから。
 ……君はどうだ?悪魔と一つになった友人とまた共に歩みたいと思わないか?」

…ヒメネス。
決して長い付き合いではなかったが、それでもかけがえのない戦友だった。
ボーティーズやカリーナでは悪魔を引き付ける役を買って出、援護をしてくれた。
デルフアイナス奇病に侵されてなお僕に銃を向けることはしなかった。
そしてグルースで悪魔たちの潜む隠れ場にたどり着けたのは彼のおかげなんだ。
最後は引き金を引いたが、それでも彼も人類救済の立役者の一人であることに変わりはない。
僕があの時、装置とデモニカを繋いでしまったから……

「君も、おれの親友も神々を傲慢さの本質を理解していないんだ。
 生命の進化を妨げ、管理しようとし、思うようにならないなら滅ぼす在り方をおれは許せない。
 ……友を殺め、わたしは一つ反省した。神が人を、悪魔を滅ぼそうとしたの同じ愚行を犯してしまったのだと。
 悪魔を従えた君なら、悪魔と一つになったモノなら、 共に神を敵とし歩みたいと思うんだよ」

目の前の青年が右手を差し出した。

「おれの名はサ…いや、飛鳥了。共に神の軍団と戦ってはくれないか、タダノヒトナリ」

そう言いながら申し入れられた握手。
その手をじっと見つめ……
握手を、拒絶する。

「僕の望む世界は、かつていた皆と歩める世界だ。
 そこには彼女…天使となってしまったゼレーニンも含む。悪魔だけでは不完全だ」

見返した表情には怒りや失望が宿っているかと思いきや、視線には慈しむようなものが見えた。
しかしそれは僕に対してでなく、僕の向こうに誰かを見ているような……

「立ち塞がるのはやはり女か。まあいい。時期尚早だったようだ。
 いずれ答えが変わることに期待するさ」
「僕は人類に未来を託すと誓ったんだ。悪魔にも、天使にもこうべを垂れるつもりはない」

今は亡きゴア隊長に。アーサーに。
仲魔との共存はあっても依存はないと。
だがそれに対する答えはシニカルな笑みを添えて返された。

「面白いことを言う。ここ、君のいる戦場がどこだか分かっているのか?」
「聖杯戦争だ」
「そう。聖杯。では聖杯とは何だ?」
「万能の願望機」
「それだけではない。君は不都合なことから目を背けているぞ。
 聖杯はなぜ聖なる杯なのか?
 そしてこの戦場。とある地方都市や様々な世界の設備を再現した在り方に覚えはないか?」

思わぬ指摘に臍を噛む。
……考えてはいた。
だがそうだと思いたくはなかった。
ゴア隊長の考えたプランが正しければそれはあり得ないものだ。
もしそうならアーサーの犠牲は、ヒメネスを切り捨てた罪は、ゼレーニンを撃ち抜いた後悔はなんなのだ。
ましてやその果てに至った希望と呼ぶべきものが、奴らに由来するものだなんて。

「おっと、そうまで深刻になるな。今の君は中立中庸。
 選択することで未来を変えるのはヒトの在りようだろう。
 どんな力も使いようだ。悪魔の力を持ちながら、ヒトとして振る舞う英雄がいるように……」

また慈しむような、懐かしむような目つきになって言葉を切る。
そして船の外――夢の中で外があるのかわからないが――に視線を向ける。
するとどこからともなく、聞き覚えのある声が響く。

「天戯弥勒……」
「時間だな。聞き漏らさないよう注意した方がいい」

夢の中であっても聞こえるのは念話やテレパシーの類だからか、アスカリョウがなにかしているのか。
…………内容はおおむね把握した。
戦端は進んでいるようだ。
しかし、リミット?

「ふむ、丁度いい区切りだし潮時だな。
 どうやら君の仲間も来ている。この通達を聞きつけたからか?
 また会おう、ヒトナリ。君はおれ達と共にある者だと思っている。
 魔王を従え、悪魔を宿す青年と神にも魔女にも成り得る少女とも手を結んでいる君ならね。
 ニンゲンらしく相談してみるのもいいだろう。君の協力者の伝手をたどり、おれについて知ってみるのもいいかもしれないな」

出口は当然わかるな?と見送るそぶり。
恐らくは降車デッキだろう。
もう話すこともない、と向かおうとするが

「おいおい、そんな装備で大丈夫か?人の英知の結晶を纏うのを忘れているぞ」

背後からかけられた声に反応すると、目の前にいつの間にやら自前のデモニカスーツがあった。

「そのスーツ……アップデート、いいやレベルアップの際に装着者のダメージをカバーする働きがあるな?
 ここの君はピンピンしてるが、実際の傷はすぐ治るものじゃない。着ておくことを進めるよ。
 仲間を通じて何らかの援護があれば、スーツのレベルアップもできるだろう」

それと手土産だ。
そう言って何かを手に取る。
一瞬猟銃かと思ったが、見覚えのあるサブマシンガンだった。

「一番いいやつ、とはいかないな。魔王の砲口はもっと自由にならねば扱えない。
 それに覚えがある方がいいだろう?『腐り爛れた国』で、こうして渡されたんじゃないか?」
「…マクレインのことか」

渡されたのはアバ・ディンゴM。
魔力を込めて放つことで風属性の弾丸を放てるマシンガンだ。
魔力抜きなら広範囲に銃弾をばらまくのに適している。
かつてデルフアイナス奇病――魔王アスラ――に侵された仲間を治療した際に礼として受け取ったことがある。
こんな形で手に入れるのは正直気が進まないが、背に腹は代えられない。

「私や悪平等はマナーのいい観客らしい。
 だがおれは観劇中もポップコーンを投げたり干渉するタチでね。
 かつて愛する人をヒトデナシにしたように、な」
「どうも君に気に入られるというのは、碌なことにならなそうで怖いな」

必要なので使いはする。
この武装も悪魔召喚プログラムと同じだ。
装備を整え、アスカリョウに背を向け歩む。

「方舟が来るぞ!」
「……」

背中にかかる声を無視する。
もう振り返ることはない。

「もうすぐ方舟が来る。
 神々が身勝手に引き起こした洪水から、傲慢にも選んだ種のみを生き残らせるための方舟が!
 ヒトナリ、君はどうする!?
 天使と共に神に媚び売り、方舟に乗らんとするか?
 悪魔と共に神を蹴散らし、方舟を乗っ取らんとするか?
 人の英知でもって、この船のように方舟を生み出さんとするか?
 あるいは新たな道を開いて見せるか?
 君の出す答えを、おれも、私も期待しているぞ!」

響く声を胸に、思考を巡らせ、降車デッキにたどり着く。
その扉をくぐり、船外に出ると眩い光が目の前に広がり――
――僕は病院のベッドで意識を取り戻した。



「おお、起きたかヒトナリ!飯食うか?」

美味えぞー、と笑顔の男。
同盟者、ルーシー君がすぐ目の前にいた。

「…なぜ君が僕の病院食を食べているんだ?」
「! い、いや~、なんのことかな~?」

ふぃ~、と下手糞な口笛を吹いている。
美味かったとか言ったのを忘れてはいないし、食べかすついてるし、誤魔化せると思っているのだろうか。

「まあ、あまり食欲はないから構わないと言えば構わないが」
「ホントか!?じゃあ全部食っちまってもいいか!?」
「ああ、好きにしてくれ」

してく、まで言ったあたりで手が伸び、即座に平らげるとは思わなかったが。
さすがに英雄か、大食の伝承はつきものだな。

「ところで状況を説明してくれ。どうしてこうなっているんだ」

まどかちゃんは無事なのか。
アーチャーはどこにいるのか。
病院らしいがここはどこなのか。

「んー?おれはさっきまで寝てたんだけどよ。
 なんかお前の近くにすげーでけー気配がしてさ、気になって来てみたんだ。
 女ヶ島の猛獣でもあんなのはいねーってくらい。
 でも誰もいねーんだ。どうなってんだ?と思ったけど近くにもいないみたいだし、いっか!ってことで飯食ってた。
 腹減っちまってさー。そしたらまたなんか別の声が聞こえてきたんでせっかくだから待ってた!」
「いや、それは……まあそれで重要な情報だが。直近のでなくて僕が倒れてからどうなったかを中心に――」

腹部に違和感が走り、言葉が途切れる。
橋で受けた一撃当然だが完調はしていない。
しかし軽い動作なら支障はなさそうな程度。
そういえば、と思い立ち服装を確認してみると、頭部デバイスはさすがにしていないが、デモニカスーツを着ている。
まさか医者が寝かせる際に着せるとも思えない。
目の前の男の言っていた巨大な気配のこともあり、ただの夢ではなかったと改めて確信する。
軽く部屋を検めるとアバ・ディンゴMも発見できた。

「…ひとまず聞きたいんだが、まどかちゃんはどうなった?」
「まどかならあっちで寝てるぞ」
「無事なんだな?」
「ああ。ケガもないし、大丈夫だ」

ひとまずの危機は乗り切れていたようで安心する。
あとは

「あの橋での顛末はどうなった?アーチャーの事も含めて」
「えーとだな。
 お前がやられてすぐにまどか攫った奴らは逃げちまった。
 で、そのすぐ後にまた誰か攻撃してきたんで、ほとんどぶっ飛ばしてやった。
 後はおれ達でお前ここに運んできたからわかんねーなー。
 あいつがすげー怒ってさ。こいつらは私がやるってんで任せてきた」
「なるほど。彼女が殿になって、負傷兵を連れて撤退か。足手まといになってすまない」

妥当な戦況判断だが、悔しさはある。
数的優位を失った彼女が、そもそもあの騒ぎはどうなったか。
令呪と繋がりはまだ感じる。
彼女が戻っていないのは、苦境なのか、また勝手に出歩いているだけなのか。

『アーチャー…アーチャー、聞こえたら返事をしてくれ』
『あら、タダノじゃない。よかった、起きたのね』

念話を送るとすぐに返事が来る。
声の調子も、魔力の消費的にもさほどまずい状態ではなさそうだ。

『今、どこで何をしている?できれば合流して欲しいんだが』
『今?うーん、そうね。あの学園の近く…なんだけど。
 もう学園って呼んでいいのかしらあれ。ほとんど廃墟よねえ』

学園、というとあそこか。戻っている。
深追いしたのか、放浪したのか。
いずれにせよ、また刹那的に動いたのだろう。

『もう慣れてきてしまったな……
 理由とか廃墟がどうとか気にはなるが、とりあえず君の速度なら労せず合流できると思うが難しいのか?』
『独断で動いたのはごめんなさいね。あの小娘を見つけて、居ても立ってもいられなくって。
 それにあなた、間がいいのか悪いのかよくわからないのだけど』

悩むように、言葉を選ぶように一泊置く。

『丁度今、白い髪のキレイなサーヴァントといい雰囲気になったところよ』

そうして紡がれた言葉はどことなく覚えのあるもので。
単独行動中にまた面倒を引き起こしたと察して余りあるものだった。





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