運命「ミゼラブルフェイト」 ◆A23CJmo9LE



ヘルシング邸。
再現された都市の森深くにある、大きな屋敷。
英国王家につかえるヴァンパイアハンターの名を冠するが、その持ち主は他界しており今は老執事が一人で管理している。
……いや、正確にはもう一人。すでに死んだ人物も住み始めたのだが。

「…ん、ここは」
「おはよう、ウォルター。と言っても、まだ日付が変わる前。あれからほとんど経っていないけれど。
 …寝てなさい、ひどい傷よ。咲夜を喚んで治療させたかったのだけれど、あなたの私も魔力消費が激しすぎるからむしろそれをすると寿命が縮むわね」

ベッドの上で目覚める。
傷口には不格好にガーゼが、腕と胸部は包帯で固定されていた。
皹の入った骨への処置のつもりだろうか。

「ごめんなさいね、何せ私も片眼で……遠近感がつかめないからそんな風になってしまったわ。
 見えていればこんな不格好にはならなかったわよ、ホントよ?」
「いえいえ、お嬢様のお気持ちはいかな名医にも処方できないものですから。
 こちらよりも、その傷は…その零体化などなさらずとも問題ないものでしょうか?」
「月の光こそ、私にとっては何よりの薬なの。こうさせていて頂戴」

窓際に用意した椅子にちょこんと座る。
憂い気に月を眺める幻想的な風景をいつまでも見ていたいと思うが、悲しいかな時は無限ではない。

「私が意識を失ってから、どうなりました?」
「どうということはないわ。
 巨人もアサシンも落ちた…ただその下手人が天戯弥勒ということを除けば、大局はきっとあなたの予想通り。
 この目は対価に持っていかれたけれどね」

忌々し気に拳を握り、表情にも力がこもる。
その怒りは横槍を入れた天戯に対するものか、はたまたいずれ癒えるとはいえ傷を残した暗殺者に対してか。

「そういえばあのセイバーについてですが。
 負傷したマスターの後取らしいものは保健室にあったのですが、すでに逃げた後だったようです。
 いやはや面目ない」
「そう。時の勇者はお姫様を守って夜の街へ、といったところかしら。
 あの崩落に巻き込まれていれば幸いだったけど、うまくはいかないわね。
 撃ってきた、たぶんアーチャーだったと思うけど、あのサーヴァントは…」
「おそらく私が昼に会った者でしょうな。追撃がなかったとなると、何か別の問題が生じましたかな」

一息。
敵対していたサーヴァントを中心に現状を確認。
アサシンが全滅したのは大きい。
これで動きの自由度は大幅に増す。
しかし、状況は許しても、体の方はそうはいかない。

「ウォルター、傷はどの程度のもの?」
「腕も肋骨も恐らくはヒビ程度です。支障ない、とは言えませんが戦闘不能ではありません」

そう嘯くウォルターにレミリアが近づく。
右手を上げ、人差し指を親指に引っ掛けて、デコピンの構え。
軽く胸部を小突く。

「ッ!うっ、ぐぁ…」
「こんな小さな女の子の指先一つでダウンするくせに強がっちゃって。
 それに吸血鬼をなめないことね。あなた、どちらかというと出血の方がまずいわよ。
 …それに情けない話、私の目の方は早くても夜明けまでは治らないでしょうね。
 例外があるとしたら、令呪を魔力として治癒にあてた場合かしら」

苦しげにうめくウォルターを半分楽し気、半分悔しげに眺めながらベッドに腰掛ける。

「業腹だけど、私たちは現状戦闘不能というざるを得ない。
 朝まで回復にあてたとして、動ける可能性があるのは私だけ。
 それも魔力不足で、日の下という強力な枷付きでの戦線復活。
 このままでは実質明日の夜まで動きがほぼ取れない」

ベッドの上で足をプラプラと揺らしながら愚痴るように見通しを述べる。
ウォルターはまだ続く痛みに呻いて答えられない。
サーヴァントの膂力だ。加減したとはいえ痛い。とても痛い。

「仮に無理やり昼から動いたとして。
 海賊のライダー、魔を断つ時の勇者。いずれもそのコンディションで勝つのは難しい。
 そして、人間でしかないあなたの傷は癒えるわけがない。
 マスターの実力はピンキリのようだけど、昨晩の餓鬼が操る兵隊の銃火をその傷でしのげる?無理でしょうね。
 そしてさっき言ったけれど、天戯弥勒はアサシンを殺したわ、
 わかる?サーヴァントと渡り合う、人間なの。
 そして夜科アゲハはその男を敵視し、同類の超能力者だという。彼もまたサーヴァントと渡り合う実力があると考えてしかるべき」

万全ならば蹴散らすのも難しくはない。
傷さえ、癒えれば。
だがこれは遊戯ではない、戦争なのだ。
敵は待ってくれない。
万一ここがばれて襲撃されれば、即座に窮地に陥る。

「私から提案する方針は三つ。
 一つ。先の述べたようにこのまま休息をとる。最も消極的で、最も見返りが少ない。
 ただし当然危機に飛び込むわけではないから、敵の同士討ちを待つという意味では一番賢いかもね。
 もし敵が襲撃して来たら、令呪で私の傷を癒すしかないかしら」

外的な要因と良くも悪くも触れない。
時間対効率は良くないが、一番気が休まる方針だろうか。

「二つ。あなたへの輸血、および私の回復のために輸血用の血液確保に動く。
 病院を目指してもいい。救急車を呼ぶのも手かしら。タクシーの方がいいかもしれない。
 リスクは言うまでもなく、移動中に敵に見つかる可能性。
 それからたしか、アーチャーは病院に向かっていた、のよね?特にそこと鉢合わせする危険が大きいかしら。
 妥協点としては私だけ適当に血を吸い、魔力と傷を癒す。この際こだわってはいられないわね」

無論吸血の後に病院を目指し、ウォルターの治療にあたってもいい。
だがそうなると病院に拘束されかねないのも欠点か。
今のところどちらの案も魅力的には思えない、ようやく声が出せるようになりそう己がサーヴァントに答えようとするが

「そして三つめ」

声が、出せなくなった。
いつの間にかベッドに横たわる自身の上に乗り、顔をのぞき込む吸血鬼。
その深紅の瞳に吸い込まれるような気すらして、魅せられる。
ああ、これが魅了の魔眼か、と呆けた頭に思いが流れる。

「その歳でまさかとは思うけれど。ウォルター、あなた童貞かしら?」
「…は?」
「重要なことよ。吸血鬼にとっては特にね」

くすり、と笑う。
幼い容貌に似合わぬ妖艶な振る舞いに、年甲斐もなく心臓が高鳴るのを他人事のように認識する。

「体液による、魔力の交換。私とあなたで交わり、魔力を増す。
 もしあなたの体に魔術回路が眠っていればそれをこじ開けることもできるかもしれないわね」

ちろり、と舌をのぞかせ、息を荒くしウォルターにしなだれかかる。
胸元の包帯に指を這わせ、耳を牙で甘噛みしながら囁く。

「血は命の通貨。私があなたの血をすすり、あなたが私の血を飲めば、あなたは私の眷属となる。
 喰屍鬼(グール)になるか、死者に留まるか、はたまた即座に死徒として目覚めるか。
 素質によるけれど…私のチカラは運命を操る程度の能力。
 変えられた運命の流れによってはのたれ死ぬさだめが人妖と化すこともある」

柔らかい肢体をくねらせ、甘い吐息で誘うそれはまるで蛇のよう。
禁断の果実を差し出し、口にするか否か問う。

「思うところはあるでしょう。
 だから私はただ戦略的な意味のみ告げる。
 …当然あなたの傷は吸血鬼としての治癒力で癒えるでしょう。肉体もまた、全盛期のそれに近づくはず。
 魔力量も増大するかもしれない。
 …けれどそれはあくまでうまくいけばの話。素質なく、喰屍鬼と化せば、真っ当な死徒になるのに数年はかかる。
 死徒になれたとしても、主従そろって吸血鬼となるのはすなわち日光をはじめとする多くの弱点もともに抱えることになるということ。
 もし決断するなら、この夜が山場になるわ。さあ……」

どうする?
汝、カインの子なりや?




【B-1/ヘルシング邸/一日目・夜】


【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態]左肩貫通、左目失明(両方共回復中)魔力消費(大)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ウォルターのためにも聖杯戦争を勝ち抜く
1:ウォルターの選択を待つ。
2:殺せる敵から殺していく。
3:天戯弥勒に警戒。
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※夜科アゲハを確認しました。
※天戯弥勒がサイキッカー(超能力者)と知りました。
※天戯弥勒を確認しました。



【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]出血(大)両腕にヒビ、肋骨骨折(少々)、以上全て応急処置済み、魔力消費(大)、疲労(極大)
[令呪]残り3画
[装備]鋼線(ワイヤー)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:全盛期の力を取り戻すため、聖杯を手にする
1-a:このまま館で休養をとる。
1-b:病院、あるいはそれに準ずる施設に向かい血液確保。ランサーとともに傷を癒す。
1-c:ランサーに身を任せ、吸血鬼と化す賭けに出る。

[備考]
※浅羽、アーチャー(弩)を確認しました。



[共通備考]
※虹村刑兆&ライダー(エドワード・ニューゲート)と交戦、バッド・カンパニーのビジョンとおおよその効果、大薙刀と衝撃波(震動)を確認しました。
※発言とレミリアの判断より海賊のライダーと推察しています。
※巨人を目撃しました。
※エレン、アサシン(ジャファル)を確認しました。
※カレン、セイバー(リンク)を確認しました。





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052:Surgam identidem 時系列順 055:僅かな休息


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ランサー(レミリア・スカーレット

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最終更新:2016年04月21日 22:32