Surgam identidem◆A23CJmo9LE
夜の道をバイクが駆ける。
乗っているのは一組の男女。
緑衣の男が運転し、紫衣の少女が後方を確認するように半身で、座席後部に座っている。
「あの巨人もやられたみたいね」
はっきりとは見えないが、姿が確認できなくなったことと、苦しげな反応で察しはつく。
融けるように消えた巨人の方が、小兵の槍兵に敗れたのだろう、と。
目測で15m弱、建物5~6階くらいの高さだったろうか。
あそこまで大きな怪物は、それこそワルプルギスの夜くらいしか見たことがない。
それだけのサイズ差を覆すとは、さすがにサーヴァントか。
……いや、あるいはまさかマスターの方が倒したということもあるのか。
(それはない、と思いたいわね。あの巨人には私も…武装を使い切って渡り合えるかどうか。
ワルプルギスほどではないと思うけど、苦戦は必須。そんなマスターは、そうはいないであってほしいわね)
巴マミなどと違って武装を消耗するスタイルなのだから、難敵が続くと息切れする。
そういう意味ではあの巨人の消失は助かる。
一時的な戦闘不能でなく、脱落しているといいのだが。
「あなたならあの巨人にも勝てたかしら?」
もしまだあれが残っていても大丈夫か?
そんな程度の確認。
その問いには答えず、ただエンジンの排気音を高く上げ、加速させる。
その程度、障害にはならないと体現する。
「そう。助かるわ」
思えば真っ当な協力者を得られるなど初めてではないか。
佐倉杏子はそれなりに頼りにはできたが、それでも扱い難いところはあった。
あのキャスターを引いてからは美樹さやかもマシに思えたが…
実力の面では比べるべくもない。
キャスターのように無為な反抗もしない。
最優のクラス、なんて嘯くのも納得だ。
夜風と歓喜を心地よく感じて走り続ける。
頬に感じる風に、ヘルメットをしていないことに気づくがご愛嬌だ。
後方への警戒は怠っていないが、それでも戦闘がひと段落したならそうそう危機が訪れることはあるまい。
どちらが残っているにせよ、無傷ではないはずだから。
……住宅街から外れ、なんとなく寂れてきたところでバイクが止まる。
「宿泊地は見つかった?」
目的は告げてある。
タクシーの運転手でもなし、あてのない捜索だったが。
贅沢は言わない。
おんぼろのビジネスホテルくらいなら上々、ネットカフェや漫画喫茶でも構わない、この際カプセルホテルくらいなら妥協する。
現代の英霊ではないように見えるセイバーの方が、自分より先にそうした施設を見つけるのは意外だったが、サーヴァントの観察力の賜物か。
などと考えながらリンクの示した先に目を向けると
休憩 2時間 3500円
3時間 4200円
宿泊 7000円~
「…………い、や。あのね?これは、セイバー…ちょっと、その」
確かに宿は宿だ。ホテルだと言われれば間違っているわけではない。
セイバーは気づいて、自身は見落としたのは無意志のうちに視界から外していたのだろうか。
邪気なく、純粋に休憩もできるようなのにここではダメなのかと、疑問を持ったようで首をかしげるセイバーへの応答に困る。
(値段自体はネットカフェよりは高い。普通のと比べると…ホテルによりけりかしら。まあそれはいいとして。
ほかに施設が見つかるとも限らないし、寝泊り自体は普通にできるでしょうし……)
気後れはする。
武器を求めて暴力団の事務所や、自衛隊の基地や、米軍の駐屯地などには入ったことがあるが、こういった施設に入るのはそれとは違う後ろめたさがある。
しかし選り好みはしないと決めたのだ。
一晩休むだけなら問題ない、はず。
……セイバーにその気がなければ、だが。
(そういうタイプには見えないし、ココがそういうものだと知らないみたいだし…ええ、大丈夫)
でももしそうなったら最悪令呪の使用も考えよう、などと若干失礼な思考を巡らせながら
「いえ、いいわ。ここで一晩休みましょう」
若干声を震わせてそう答える。
一番安い部屋でお願い、と命じてセイバーを先に向かわせる。
忍び込んで利用させてもらうこともできなくはないが、今は余計な茶々なく休養したい。
己がサーヴァントには苛立たされ、まどかを攫ったキャスターを長距離追い、魔女にまでなりかける。
学園までの長距離を移動し、エレン・イェーガーや天戯弥勒との邂逅、闘争。
魔法少女であっても、疲労は溜まる。
特に今は一手のミスが即、敗北に繋がりかねない状況だ。
まどかが病院にいる、という職員室への連絡は気にかかるが、このコンディションで向かっては碌なことにならない。
逆に、暫くは病院から動かないということ。心配ではあるが、居場所が分かっているのは大きなメリットだ。
慌てることもない。まずは体調も態勢も十分なものにしておこう。
停めたバイクを盾の中にしまい、セイバーの後を追う。
中ではスタッフが胡乱なものを見る目でセイバーとやり取りをしているようだったが、連れがほむらであることを確かめ、その服装を見ると何かを察したように手を動かしだした。
部屋を決め、案内しようと申し出る男に断りを入れて二人だけで部屋に向かう。
一応はサービス業にあたると思うし、余計な干渉などしないだろうがそれでも年齢など探られては面倒だ。
少しでも遠ざけておくに越したことはない。
そのためにセイバーだけを先行させたし、今も断ったのだ。
(そういえば魔法少女の恰好のままだった)
車上では遭遇戦や追っ手を警戒しての戦闘態勢だったが、バイクを降りてからは別に元の服装でも構わなかった。
解くのを忘れたのは緊張していたのだろうか。
(もしかして、それで何だか納得したようなふうだったの?)
個性的な緑衣を纏った美青年。
アニメキャラのような紫を基調にした服装の美少女。
コスプレ好きのカップルとでも思われたか。
(……前向きにとらえましょう。これがもしあのキャスターだったら泊まることなんてできなかったでしょう)
あの男とこんなところに入るなんて想像するだけで虫唾が走るが。
あの老人が少女を連れて入ってきたなら、まず間違いなく通報される。
セイバーと二人だからこそ、未踏の施設でも無事入れたと、考えよう。
(ジャグジーとかベッドのサイズとかのオプションで値段が変わるのね。
それに学割……さすがに14歳の学生証を提示するのはまずいでしょうけど、そんなのあるなんて知らなかった)
おそらく大学生なら問題ないのだろうが……
こういうところは20歳からだったか、18歳からなのか、はたまた結婚可能な16歳なら入れたりするのか。
などと益体ない考えを巡らせながら歩いていると、部屋の前で立ち止まったセイバーにぶつかってしまった。
「セイバー?入らないの?」
この部屋ではないのかと確かめるが、ルームナンバーはあっている。
鍵が合わなかったのか、とノブに手を伸ばそうとすると、セイバーがそれを制する。
その緊迫した振る舞いにただならぬものを感じ、ソウルジェムを手に魔力を探る。
(……何かある。けれどもそんなに強いものじゃない。
何かが燃え尽きた後の残火のような、花が咲いて散った後のような……何かの名残)
異界というほどのものではない。
強大な、魔女以上のナニカがこの部屋で我が物顔で振る舞った…そんな気配が残っている。
「セイバー、何か…いえ間違いなくサーヴァントでしょうけど。
それがいた気配はするけれど、もうここにはいない。敵はいないはずよ。
罠があるのは否定できないけど……こんなところには仕掛けないでしょう」
人の多い学園や病院などならまだわかるが、ここは待ち伏せるに適した地とはいいがたい。
気配が薄いのもアサシンのことを警戒すべきかもしれないが、一騎は脱落しもう一騎はたしかエレン・イェーガーのサーヴァントだ。
ここにいるわけがない。
だから大丈夫だ、と述べるがそれでも最低限の警戒は怠らない。
緑衣の勇者が先行し、万一の罠に備える。
といってもそれは杞憂で部屋には何の仕掛けも残ってはいないのだが。
「大丈夫そうね……食事でもとって、休みましょうか」
部屋に入り、真っ先にルームサービスのメニューを確認。
どうみてもインスタントな代物が並んでいるが、こだわっても仕方ない。
適当にいくつか見繕って注文する。
「どうせすぐ来るでしょうけど……
シャワー、浴びてくるわ。受け取りお願い」
そういって一人でバスルームに向かい、備え付けのタオルなどを確認しながら考え事にふける。
疲労は確かにあるし、そういう意味では汗を流したくはあるが、一人で思考に没頭したかったのが大きい。
(どこまで話すか。まどかの存在について、彼女を守るのが目的で、願いであることまではっきりと言った方が…?
美樹さやかに同盟の申し入れをしていたことは伝えなきゃいけないでしょうけど)
大切な存在のことを明かすのは、いうなればアキレス腱を晒すに等しい。
一切信が置けないキャスターには伏せていたが、このセイバーにならある程度は明かしてもいいかもしれない。
少なくとも明日には遊園地に向かうといっているのだからその目的と、美樹さやかのこと、彼女の従えるサーヴァントについては話すべきだ。
彼女との個人的な因縁や、自身の抱える事情については……話さなくてはならない、ということではないがどうするか。
(美樹さやかとはあまり親しくはない、程度は知っておいてもらった方がいいわね。
それ以上は…どうしても聞きたいというなら、話すかも?といったくらい、かしら。
それに、そうね。インキュベーターのことを少し話題にあげたはず)
些細な雑談、程度のつもりだったが
(ずば抜けた魔法少女の才のあるまどか、インキュベーターにとってイレギュラーであろう私。
そして私の知らない、おそらくはインキュベーターも知らない何かについての知識を持つ、美樹さやか。
何らかの意図を感じる人選ではある。
それに、『方舟』。天戯弥勒の発言にもあった、聖書にある『救済』の象徴。
その材料はゴフェルという木だとも書いてあった。
セイバー、私、ゴフェル、インキュベーター……何か、あった気がするのよね……)
初めて会った気がしない、緑衣のセイバー。
魔法少女という存在の邂逅。
そのわずかな手掛かりは手繰るべきか。
だとするなら、インキュベーターのことも相談するべきか。
(報告事項は食事をしながらある程度は伝えましょう。
相談は…彼がどこまで話をしてくれるか、ね。
それがすんだら、さすがにもう寝てしまいたい…)
正午には遊園地に向かう。
万一、だが美樹さやかのサーヴァントとの交戦もないと断言はできない。
まどかのことがある以上、ないとは思うがコンディションを整えておくに越したことはない。
【B-3/ラブホテル、シャワールーム/一日目・夜】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(中)
[令呪]残り3画
[装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ(二つ穢れが溜まりきっている)、バイク(盗品)
[思考・状況]
基本:聖杯の力を以てまどかを救う。
1:シャワーを済ませたらセイバーと少し話して、そのあとはもう寝る。
2:2日目正午には遊園地に辿り着き、美樹さやかと対話を行う。
3:上記終了後病院に向かい鹿目まどかと接触。
4:キャスターに対するかなり強い不快感。
[備考]
※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。
※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。
※アポリオン越しにさやか、まどか、タダノ、モリガン、アゲハ、流子、ルキア、慶次、善吉、操祈の姿を確認しました。
※明、ルフィのステータスと姿を確認しました。
※美樹さやかとの交渉期限は2日目正午までです。
※美樹さやかの存在に疑問が生じています(見たことのない(劇場版)美樹さやかに対して)
※フェイスレスは武将風のサーヴァント(慶次)に負けて消失したと思っています
※一瞬ソウルジェムに穢れが溜まりきり、魔女化寸前・肉体的に死亡にまでなりました。それによりフェイスレスとの契約が破棄されました。他に何らかの影響をもたらすかは不明です。
※エレン、さやか、まどかの自宅連絡先を知りました。
※ジャファル、レミリア、ウォルターを確認しました。
※天戯弥勒と接触しました。
※巨人を目撃しました。
◇ ◇ ◇
部屋に残った、わずかな魔力の残渣。
ベッドからほのかに漂う情事の名残。
それに加えて今朝の邂逅が、リンクに一人のサーヴァントを思い出させていた。
カレンに従い、登校したときに刃を交えたアーチャー。
対魔力に加えて精神干渉への耐性から受け付けなかったが、妖しい美貌と振る舞いによる魅了を行う女性。
彼女がここにいたのだと確信する。
体液の授受による魔力の交換…いや、彼女の魔性に魅入られたNPCを彼女は喰らい、一方的に奪ったのだろう。
誘われた誰かは、美しい花に引き寄せられ、精も魂も貪りつくされた。
……戦略としては間違っていない。
だが個人的な好悪をいうなら、圧倒的な嫌悪。
ただ一人の英雄として、あのアーチャーを許したくはない。
幸い、今度のマスターは以前までと違い魔力は潤沢。
友人を助けるために戦うというなら、魂喰いを強要されることもないだろう。
方針としてほむらに従うに否はない。
だが、我儘を言うならば。
次にまみえたとき、アーチャーはこの手で打ち倒す。
【B-3/ラブホテルの一室/一日目・夜】
【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる
0:カレンの意思を引き継ぎ、聖杯戦争を勝ち抜く。
1:暁美ほむらに従う。
2:アーチャー(モリガン)に対する強い敵意。
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。
※犬飼伊介、キャスター(食蜂操祈)を確認しました。
※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。
※垣根帝督から食蜂操祈の能力を聞きました。
※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。
※ウォルター、ランサー(レミリア)を確認しました。
※巨人を目撃しました。
【地域備考】
※B-3のラブホテルの一室でモリガンが魂食いと、行為をした名残があります。
感知能力に優れたものなら部屋の近くにくればわかります。
サキュバスの体液を利用した魔術や礼装など、何らかの形で利用できるかもしれません。
最終更新:2016年02月07日 14:10