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新約 魔科学共存理論◆A23CJmo9LE


   ◆  ◆  ◆



魔術と科学が交差するとき、物語が始まるならば。


さらなる法則が交われば、物語は加速する。



   ◆  ◆  ◆



休養。
それはあらゆる生き物に必要な生命の営みの一環。

例えば、食事。
栄養の補給は生きていくうえで必須となる。
加えて美味美食に舌鼓を打つのは心を癒す、人生の楽しみの一つだろう。
虹村刑兆とエドワード・ニューゲート、そして黒髪の女性は食事を摂っている。
麒麟殿温泉近く、浜辺を臨む食事処。小太りの女性が主人を務める小料理屋。
屋内に収まらない巨躯の男を前にしても丁寧に屋外の席に案内するのは、NPCの仕様か、はたまた一部の英霊の住まう世界の常識に呑まれたか、プロ意識か。
女性は丁寧な所作で、刑兆は所帯じみた風に、ニューゲートは雄々しく、食事休憩をとっていた。

「それで私の能力のことは理解してもらえたかしらぁ、虹村さん☆」
「いきなり来たときは何かと思ったが……まあ概ねな」

目に星のような光を浮かべた女性。
『とある科学の心理掌握』により操作したNPCを通じて食蜂操祈と、虹村刑兆たちは情報交換を行っていた。
まず明かした手札は宝具の一端、NPCの操作。
非道な能力にニューゲートは仄かに白い眉を顰めるが、戦術の否定はせず話を止めはしない。大きなデカンタをグラスのように持って酒を呷る。

「遭遇した一人目のサーヴァントはランサー。真名は前田慶次。
 一応組んでたんだけどぉ、どうもこの能力が気に入らなかったらしくて離反されちゃった☆
 マスターの情報もあるけど、いる?」
「そっちも一応あとで聞くが……本当に理由はそれだけか?」
「疑うのも分かるけど、多分それ以上はないと思うわよぉ。価値観力の不一致っていうのは、英雄にとって小さくない。
 私の属性は混沌・善で、彼は秩序・中庸。重んじる方針が違うとやっぱり合わないのよねぇ」

でもあなたのサーヴァントは違う、と眼で訴える。
海で自由に生きる男はどこかに帰属するような質ではないし、無為に人を切り捨てるような悪人でもないだろうと。
それに前田慶次という名。
明智光秀や松永久秀のような裏切りで名高い英霊ではないが、なにより奔放な男だ。
それは日本の学生である虹村刑兆にはわかる。

「つついても仕方ねェだろ、刑兆。これは聖杯戦争だぜ?」
「そうだな、十分あり得るしひとまずは置いておく。実力の方はどうだったんだ?」

矛盾を探そうとするのに時間を割くのも後でいい。
情報が出そろった段階で矛盾があればそれまでだ。

「敏捷は最高クラス、他もアベレージ以上の優秀なパラメータ力だったわぁ。対魔力もそこそこ。
 残念ながら宝具は見せてないし、私自身闘いは専門じゃないからあまり詳しくは語れないけど……
 強いて言うなら槍じゃなくて大きな刀を持ってたのは気になるところねぇ。
 他の騎士クラスと闘ってもほぼ無傷だったからこけおどしではない、一廉の達人」
「前田慶次って言うと朱い拵えの槍だったはずだな。と言っても長物以外の武器を持ってるのはおかしくはないと思うが」
「大きさも長物くらいの刀だったのよ。明らかに補助武器じゃ収まらない。あ、一応刀の柄と鞘は朱だったゾ☆」
「真名解放と共に槍になるってのは?それくらいの変形ならおかしくねェだろ。
 おれの世界じゃ動物になる武器や兵器もあったくらいだ」

最も戦闘に長けた英霊の一言に、他の二人はそれはどうだろうかと首を捻る。
食事を口に運びながら小考し、サーヴァントだしあり得なくはないと結論。

「確かにそれは否定できないけど、前田慶次は武器よりもその在りかたの方が知名度力の高い英霊よぉ。
 少なくとも槍以外に切り札……技能か、逸話に因る宝具を一つは持っているはず」
「確かに、な。おれも詳しくはねえが、自由な気風の男だっていうことの方が有名だろう。
 それに伴う気儘な逸話の数々もな」
「おれの知識は座由来のにわかモンだ。お前らの同郷なら下手に口出さねェほうがいいな」

キーワードは『大きな刀』。真名は『前田慶次』、伝承は『朱い槍』に『傾奇者』。
推理できるのはその程度か。
学園ではNPCに伝記を調べさせていたが、あまりあてになる物でもなさそうだったので放置してきてしまった。
マスター、朽木ルキアのことは容姿とこの地での拠点。
手から雷のようなものを放つ何らかの異能者、戦闘者であることを伝える。
そちらもランサーが宝具を見せていないのと同様、僅かにしか能力の情報は見せていない。
サーヴァントなら一蹴できるだろうが、刑兆は自身との交戦の可能性を想定する。

「それだけか?敵の手の内は知っておきたいんだがな」
「そう言われても……あまり信頼してもらえなかったみたいで名前とクラスくらいしか聞けてないのよねえ」

こっちもお前を信用できなくなりそうだよ、とでも言いたげに呆れ顔の刑兆。
サーヴァントの方が警戒の度合いは高いから仕方ないかと話を進めようとすると、もう一人の男が口をはさむ。

「おめェ、既に二回も少しとは言えサーヴァントとも戦りあったろうが。今さらマスター相手にビビってんじゃねえ」
「油断すんなっつったり、ビビんなっつったり安定しねえ奴だな、おい」
「過小評価も過大評価も、相手を誤って捉えてるのは同じだ。相応の評を下せ。
 少なくともおれから見たお前は、熟練らしい鋼線使いとわたり合い、一瞬とは言えサーヴァント相手に生き残ることができるマスターだ。
 小娘一人、警戒はしても苛立つほどに重要な情報じゃねえだろう」
「…………フン」

前のめりになりかけていたのを改めて、深くイスに腰掛けなおす。
手元のドリンクを飲み干すと、それと同時にニューゲートも酒を飲み下し、二人の飲み物を追加で頼む。

「話を続けても?」
「おう、ウチの若ェのが騒いで悪かったよ」
「それじゃあ、次はセイバーね。二人いたけど……先にランサーと組んでる女性の方から」

容姿と、犬飼を通じて確認したパラメータ、一応属性。
合致した方針と、属性から恐らく気の合う組み合わせだろうとも補足。

「特徴的なのは鋏みたいな剣に、露出気味な服装あたりかしらぁ」
「鋏みたいな剣?」
「こう、真ん中の繋ぎ部分を分けたうちの片方みたいというか……」

テーブルにあったナプキンに描いて見せることで伝わるが、刑兆は困惑顔。
スタンド使いも特異なものは多いが、剣士が鋏を振り回すというのはどうにも思考が追いつかなかった。
ニューゲートは流石にこんな突拍子もないダマシは入れないだろうと、真面目に考察を進める。

「鋏ってのはなかなか象徴的な道具だ。截ち切るものと考えれば、英霊の持つ概念武装か宝具としちゃ納得がいく。
 俗世から『切り離す』、天と地の『乖離』、運命の糸を『切る』なんて神話はいろんな世界にあるみたいだな」
「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』は天と地を分けた神話の一節ね☆
 糸を切るっていうとギリシャ神話の運命の神モイラかしらぁ?
 流石に神霊はいないでしょうけど、意外と大物かも?」
「片方しかなかったなら対になる、いわゆる『姉妹剣』があるかもしれねェな。
 本人が持ってて二刀流になるか、別の英霊が持ってるかは不明だが警戒はしておくべきだ。
 加えて『服装』が特徴的だったんなら、『糸』にまつわる英霊だと思うぜ」
「『糸』、かぁ……」

サーヴァント二騎は自前のものに加え、座による知識を漁り、一時沈考する。
キーワードは『鋏』、そして推察される『糸』だろうか。

「『糸』を武器や足場にしたり、それで人や物を操るのなら心当りがあるが……」
「『鋏』を持つなら逆にそういう糸使いや人形使いの天敵の可能性力が高いんじゃない?
 加えて握り鋏でない、いわゆる洋鋏があるだけの文化的背景が必要ね☆
 『糸』は動力や衣服みたいな文化面での影響力は大きいから、捉え方によっては反英雄的な存在かも?」
「そういや『糸』で編んだ『衣服』を武装にしてるんだったな?それが宝具かは分からねェが……
 露出が多い、ってなら装飾過多……つまり必要以上の『糸』があるのを否定してるとするなら、確かにある意味じゃ文明の破壊者だな。
 ……まあ英雄・反英雄なんてのは立場で変わるから何とも言えねェか」

食蜂操祈が考えるのは一種のナチュリスト。近代化・時代の変遷に反発する革命児。成功したなら英雄で、失敗したなら反英雄。
エドワード・ニューゲートが考えるのはやはり賊。鋏や衣服のような技術・武装を奪う簒奪者。味方には慕われるが、敵からは当然疎まれる。
宝具の詳細がさらにわかれば別だが、現時点で推察できるのはそこまでか。
実力は少なくとも先のランサーと互角に闘ったという。
宝具によって勝敗は変わるかもしれないが、いずれ劣らぬ豪傑が肩を並べているのは厄介。
マスター、夜科アゲハも戦闘者であるという。
朽木ルキアと同程度の情報しかないが、無視はできない。

「まあ兵数だけならおれの宝具でどうにかできる。相手の宝具次第だが、勝機は十分だ」
「頼りになる発言で助かるわぁ。それじゃあもう一人のセイバーの方に移りたいと思うけど……」

こちらのセイバーと操祈は面識がなく、犬飼を通じた情報が主になる。
キーワードは恐らく『勇者』。

「緑色の服装で固めて、茶系のブロンドにエルフみたいな尖った耳。武装は剣に盾、弓も使ったって。
 それと詳細は不明だけど、魔力を放出して炎のようなものを見せて敵をおびき寄せようともしてたし、さらに結界みたいなものも作れるみたい。
 パラメータはやっぱり全てアベレージ以上。先の二人との連戦もほぼ問題なくこなしてた。
 流石に最後は撤退したけど、バイクに乗っていったそうだから、騎乗スキルも低ランクではないでしょうね☆」
「多芸だな。典型的な勇者系のセイバーか」
「恐らくは、ね。寡黙で情報を漏らすこともなかったから材料は少ないけど……マスターとの仲も悪くはなさそう。
 もちろん、腹に一物抱えてる可能性は否定できないけど」
「マスターの方は?そっちも他のマスターみたく、おれが相手しなきゃいけないようなス……能力者か?」
「修羅場慣れはしてそうだったけど、魔力はなし。犬飼さんに不意を突かれていたから、人外の達人と言うほどでもない。
 今のところ上がったマスターでは一番脅威力は低いんじゃないかしら☆」

紅月カレンについても情報を共有する。
学生の間では病弱と認識されていたが、華奢な外見に似合わぬタフな女性のようだ。
それでも、優秀なサーヴァントを従えるための魔力に乏しいという点、そして先の二人の様に協力相手がいないらしい点から優先度は下がった。
情報の不足もあり、最低限の警戒に留まる。

「それから次は脱落したアサシンだけど……そのマスターの人吉善吉は残ってランサーたちと協力関係にあったわぁ。
 でも、正午からすでに6時間以上経っているから脱落してるはず。通達は聞いてるわよねえ?」
「ああ。ならそこはいいか」
「一応、再契約の可能性は考えとけ。相手する可能性がゼロじゃねえなら手の内は知っといたほうがいい」
「じゃあ一応話すけど……」

人吉善吉には能力を行使していたため、かなりの情報を明かせる。
趣味嗜好に軽い来歴も語れるが、そうした不要な情報は切り捨てる。
サバットという格闘技能、『欲視力』という能力。
あとはこちらで調べた住所などの個人情報。
それから……

「安心院なじみってヒト、知ってるかしらぁ?ライダーさん」
「ん、いや。思い当たらねえが、それがアサシンか?」
「いいえ。人吉くんに赤いテレフォンカードを渡してここに送り出した、人外。
 人類誕生以前から存在し続けてるらしいんだけど……」
「それがなんだ?テレフォンカードのことを知ってたってことは天戯って奴と関わってるかもしれないと?
 おれなんかネットオークションだぞ。まあ相手が誰だかわからん以上陰謀論を否定はしないがよ」
「…………ごめんなさい、情報力が少なすぎるから戯言にしかならないわねぇ。忘れて頂戴☆」

現存する――英雄?幻想種?
何かはわからないから気になってつい話題に挙げてしまったが、あまりに曖昧なことを話し出してしまった気まずさに女性は話題を取り下げた。
そのタイミングで注文した飲み物が運ばれてきたので、いったん一息。
その一息でまたデカンタを空にし、食事と一緒に追加オーダーをする巨躯の老人にはさすがに店員も苦い顔をしていた。
再び、話し始める。

「さすがに消えたアサシンはいいわよねえ?次に会ったのはアーチャーとライダーになるけど。
 アーチャーのことはあまり掴めてないわね。交戦すらまともにしてないのよぉ。
 マスターがタダノヒトナリっていう警察官って言うことと――」
「タダノ?そのアーチャー、もしかしてサキュバスか?」

聞き覚えのある名に口をはさむ刑兆。
本来なら纏めて聞いてからにするところだが、情報が少ないなら話は別だ。
問われた操祈は記憶を――鹿目まどかの情報の――遡る。確か、サキュバスであると明かされていた。

「ええ、その通りよぉ。
 同じサーヴァントのことを知ってるみたいね。
 召喚されたアーチャーが揃ってサキュバス、なんて不謹慎力溢れる事態になってなければだけど☆」
「昼前にここから学園に少し近づいたとこでライダーと二人でやり合った。
 マスターは一緒じゃなかったが……いつごろに、何処で会った?」
「放課後すぐに学園で。移動時間的に矛盾力はなさそう」
「ならそっちはおれ達の方が詳しそうだな……ライダー、頼めるか?直接対峙したお前の方が詳しく話せるだろう」

軽くうなずき、回想する。

「容姿や服装はいいな?サキュバスだけあって魅了のスキル持ちだろう。刑兆がイカれかけたからな」
「おい」
「事実だろ?」

グラララ、と小さく笑いながらからかうような発言。
無論、意味のないものではない。ちゃんと理由がある。

「ただ対峙するだけで平常心を奪うレベルには至っている、そこそこのランクだろう。一応確認するがマスターは男だな?」
「ええ、それなりに鍛えられた風な男性だったわぁ」
「なら魅了にはオンオフが効くか、マスターには効かないか。
 もしくは、マスターの方がサキュバスみたいな存在に耐性があるかもしれねェな」
「ああ、なるほど。そのヤロウも能力者である可能性が高いか」

簡素にだが、サーヴァントの能力からマスターのことも推察。
聖杯戦争の参加者である以上、相手も一筋縄ではいかない可能性が高い。

「でもそのマスター、今はセイバーのマスター……夜科アゲハの攻撃を受けてダウンしてるはずよぉ。
 夜科アゲハの能力は一撃で人を昏倒させる威力。
 加えてアーチャーのマスターはそういう攻撃を受ければ倒せるくらい、ってことね☆」
「夜科ってのは厄介な攻撃能力持ち。
 タダノってのは精神面はともかく、真っ当な耐久や防御面については、ライダーが出るまでもなく、おれで十分な可能性が高いか」

油断はできないが、タダノヒトナリに関してはこれまでのサーヴァントの様にバッド・カンパニーが効かないということはないと予測。
負傷したということは、脱落の可能性もある。
そこまでいかなくとも今後の闘いで不利になる可能性は高い。
警戒の度合いは低め、か。

「アーチャーに話を戻すぜ。武器は見せなかったな。
 徒手格闘がメインで、翼による飛翔と、拳から放つ蝙蝠状の光弾で戦闘を組み立てていた。
 それから、分身。自身とほぼ実力の変わらない分身を一体産み出してみせた。
 たしか、アストラルヴィジョンとか言ってたか?
 あとは…………いや、能力としちゃそんなモンか」
「あ、分身っていうのは宝具かしらぁ?」
「まず間違いなくな。効果も強力だし、真名を開放していた」

再び全員が思考の海に潜る。
キーワードは『サキュバス』、『分身を産み出す』。
食事も進めつつ、ニューゲートがまた酒を追加で頼んだあたりで操祈に操られたNPCが口を開く。

「『サキュバス』で、分身を『産み出す』っていうとやっぱり、リリトかしらぁ?
 アダムと交わり、多くの悪霊を『産み出した』、翼をもつ夜の女悪魔。
 後に大悪魔サタンの妻となり、やっぱり数多の悪魔を生んだ逸話があるわね。
 それにアベルの血を飲んでるから吸血鬼染みた外見にも納得いかない?」
「そりゃ神霊じゃねェのか?」

思いつきはしたがよ、と老戦士が疑念を口にする。

「やってることは神域かもしれないけど、『始まりの女』として産み出された人間だから英霊に収まる……とは思うわぁ。
 仮に神霊でも、サタンとの交わりで霊格が堕ちていればハイ・サーヴァント級ではあるけど召喚もあり得るはず」

操祈の答えに二人納得。
そこから刑兆が少し話を広げる。

「ならリリトの仔のリリムは?アレにも確かサキュバスはいたよな?」
「人類の祖先とも言われる『始まりのデーモン』ね☆
 確かに霊格としてはリリトより英霊寄りだし、人類を『産み出した』と考えればそっちの方があり得るかも」

では、推察した真名から何が分かるか。

「サキュバスを避けたければ枕元に牛乳を置けば精液と勘違いする、とか3つの天使の名が書かれた護符を持てとかいうけどぉ……」
「牛乳でサーヴァントを撃退できりゃ苦労はねェな。
 護符は……ライダーじゃ無理だが、道具作成スキルのあるキャスターならどうだ?」
「私には専門外。ヘブライ語なら分かるから、それっぽいだけのを作るならできるけど?」
「いらねェ」
「おれもいらん」
「でしょうね。
 リリトは三人の天使に罰を与えられ、その悔しさに紅海に身を投げたというから、神性を持つサーヴァントや天使の属性を持つ者に弱いかも?
 あと、紅海は血の海のメタファーとも言われるから大量の出血、もしくはそのまま海が弱点になるかも。
 ただ多産多死と子殺しの逸話持ちだから子供は注意が必要ね。
 リリムもリリトの罪で処罰されてるのだから、神性に加えて『原罪』とか『天罰』が有効かしら」

生憎とこの場のサーヴァントに神性はない。
海は近いから、この辺りに陣取るべきかと思考を巡らせるが

「相手はアーチャーだ。まさかあの程度の光弾が弓兵の本懐じゃねェだろう。
 少なくとももう一つ、射出系の宝具がある」
「なんだかんだで情報力が足りないのよねぇ。サキュバスっていうのだけじゃ絞りきれない、か」
「『分身を産み出す』ってのはかなり特徴的だ。もう一人の自分がいる、とも解釈できるか。
 もう一つ何かあればかなり踏み込めると思うぜ」

結局は確実なものではない。
方針を決定する一助とはなっても、大部分を占めることはない。
高位の英霊である可能性は上がったので、それなりに警戒。マスターに負傷があろうと、アーチャーならば単独行動できるはず。
さらに本人の実力に加えて、組んでいる相手がいるというのも厄介。

「それじゃあ、アーチャーはこのくらいにして……そのアーチャーと組んでいるライダー。
 真名はモンキー・D・ルフィ」
「あ?ルフィだと?麦わらの小僧、ホントにいやがったか」
「知り合い?」
「まあ、知った名ではある」
「ふぅ~ん」

視線を交わし、腹の内を探り合う英霊二騎。
仮に操祈本人がここにいれば探り合いなど必要なかったかもしれないが、ここにいるのはNPCを介してだ。
睨みあっても進展はない。
息をつき、改めて話を振る。

「それなりに重要な情報みたいだし、ただでは聞けなそうね。
 さっき私を撃ったマスターに関しては後で纏めて話たい事もあるし…いったん私の話は区切りにして、そちらの話を続けて欲しいわぁ。
 あなたたちは二度、サーヴァントと戦ったんでしょう?アーチャー以外のもう一騎と」
「耳聡いじゃねえか。大した小娘だ」

感心した声をもらすが、別にそちらは隠すつもりはなかった。
十分な情報提供は受けたのだから、こちらも多少は応じようという気になっているし、なにより敵の手の内など伏せる必要もない。

「ランサーと言っていたが、肝心の槍は見せなかった。
 外観は小娘だが、速度も力もかなりのモン。自称ツェペシュの末裔の永遠に紅い幼き月、とかいう吸血鬼だ」
「吸血鬼、ね。特徴力はあるけど、絞るのは難しそう。会ったのは夜?」
「昨晩だ。肌も白かったからな、恐らく太陽光は弱点になるだろうぜ」

なら真祖級の大物ではなさそうか。
『朱い月』との類似性は気にかかるが……

「槍を見せなかった、ていうのは……」
「宝具なんだろうが、理由はいくらでも考え付く。
 単に温存したか、消耗が激しいのか、発動にリスクが伴うのか。論ずる意味はあまりないな」
「他に特徴は何かないかしらぁ?」
「そうだな、コウモリの様な翼による飛行、あとは少食で眷属はあまりつくらないとも言ってたか。
 戦闘自体は殴り合いだったからなんともな。
 ああ、マスターを執事として侍らせてたから、いいとこの生まれか育ちかもしれねェな」

戦闘自体は緒戦も緒戦、お互い宝具を一つも見せない探り合いだった。
情報を伏せての駆け引きがメインになっていたところはあり、そこから推察するには難しい。
吸血鬼ということは分かっても、それがコウモリの様な翼で飛行するというのも、上流階級なのもさほど珍しい特徴とは言えない。

「強いて言えるとしたら、逆に王道を行きすぎてるかしらぁ。
 いわゆる魔術師上がりの死徒ならそこまでベタにはしないと思うのよねぇ」
「つまりは伝承上の吸血鬼、それに近いんじゃねえかと」
「ツェペシュの末裔と言うだけあって、ドラキュラのイメージに引き摺られてる。
 でもヴラドの子孫はほぼ絶えたはずだし、そもそも吸血鬼って遺伝するのかしら?
 むしろ昔懐かし、現代では忘れられつつあるレベルの幻想の結晶か、もしくは無辜の怪物か、そのあたり?
 空想上の存在、幻に近いサーヴァントかもね。
 ……マスターの方は?」
「年食った執事だが、なめてかかると痛い目見るぜ。
 あれは戦場で生きてきた殺し屋の類だ。武器はさっき言ったが鋼線。
 魔力はないみたいだが、逆にそうした能力なしで刑兆とやり合えるだけの実力はあった」

マスターの話題に移った辺りで刑兆も顔を上げる。
思考がまとまったのか、自らが銃火を交えた相手の事だからか、吸血鬼への関心ゆえか。

「ウォルター、と呼ばれてたな、あのジイさんは。
 で、ドラキュラ殺しとか揶揄されてたからあいつ自身吸血鬼とは因縁がありそうだ。
 ……それとおれの知ってる限りじゃ吸血鬼は遺伝しねえはずだ。
 『石仮面』っていう道具で吸血鬼に成ったやつは気まぐれにガキ拵えてたそうだが、それは普通に人と同じ成長をしたそうだ」
「普通に、っていうのをもっと具体力高めでお願いできる?」
「伝聞でな。普通に、としか把握できてない」
「そう。母乳は母親の血液が濾過されたものだから、吸血鬼でも問題なさそうだけど……」

吸血鬼、というのはサキュバス以上にバリエーションが多いだろう。
洋の東西を問わずモチーフとなる人物も、怪物も存在する。
僅かの情報では白木の杭にはならないだろう。

「拠点を調べて昼間に襲撃、が今のところ考えられる最善の策ね。
 …………それじゃあ話は変わるんだけど、虹村さん。あなた、魔術師とは異なる能力者でしょう?それだけ教えて」
「あァ?」
「アーチャー相手に僅かとはいえ生き延びたんでしょう?
 そしてさっきからマスターに対して能力者という語は使っても魔術師とは一度も評してないわぁ。
 ス、って何か言いかけた言葉の続きも気になるところね☆」

話題をふられたのは刑兆。
己が能力について見抜いたような発言に対し……刑兆は不敵な笑みを浮かべて返した。

「お前のマスターも能力者だろう?それも目覚めつつある」
「それは肯定と捉えていいかしらぁ?」
「質問に質問で返すな」

あなたも質問で返してるじゃない、と思うが口には出さない。
そこまで推察してあえてこの話題を誘ったのか、話甲斐はありそうだと好感。

「ええ、そうよ。犬飼さんも能力者の仲間入りをしつつあるわぁ。
 それを踏まえて、ちょっとこの聖杯戦争について話に付き合ってほしいのよぉ☆
 あなたたちの能力の知識や、情報も交えて、ね」

その結果次第ではライダー、モンキー・D・ルフィについて聞かせてくれないかとの言外の要求。
二人は目配せして、受諾。ディスカッションの甲斐がありそうだ。

「まずは、『魔力』について。あなたの能力で魔力供給はできてるかしら?
 ちなみに犬飼さんの目覚めたばかりの能力は魔術ではないけれど供給してるし、他にも朽木さんたち、話題に上がったマスターも魔術師でないにもかかわらず大丈夫みたい☆」

投げられた問いに対し考える刑兆。
どの程度まで己が手の内を明かしていいものか。
…魔力供給に成功している、そして『スタンド』という名称程度なら話しても問題ないと判断する。

「ああ。おれの能力、スタンドのエネルギーで魔力供給はできている。
 そうだな、ライダー?一応確認するが十分量だよな?」
「問題ねェよ」
「そう。それじゃあそのスタンドっていうのは魔術とは違うのね?」
「恐らくだが、違う。そこまで体系の整ったものじゃあないと思うぜ」

小さく頷きながらナプキンにブレインストーミングのようなものを書き出す。
魔力という単語から、魔術師とスタンドという二つの単語に繋がる。

「それがなんだ?」
「結論は少し待って☆まだ話は途中だから。
 では次はサーヴァントのスキル『対魔力』について。読んで字の如く、魔力や魔術に対する耐性ね。
 私の宝具は魔術ではないんだけど、対魔力持ちのサーヴァントにはほぼ効果を発揮しない。
 さっき話したランサーやセイバーには全く効かなかったし、多分ライダーさん、あなたにもほとんど効かないと思うわぁ。
 あなたの能力…スタンドはどうかしらぁ?」

さらに踏み込んだ問い、能力の無効化範囲。
相手も、効かない相手がいるという弱点を晒してきたがその言葉が信頼できるかどうか。
情報交換というなら、多少は己の腸も見せるべきなのだろうが……

『ライダー。もう一度確認するがこいつらを拾ったところにはサーヴァントの気配はなかった。
 つまり銃声の主はマスターだな?』
『アサシンや、気配遮断に準ずるスキルを持ったサーヴァントである可能性は否定できねェが……
 こいつから聞いた限りではそういう情報はなし。
 誰か庇ってるなら話は別だが、それならむしろそいつと共闘しておれ達とやり合ったはずだ。
 あの時のお前は一人だったんだからな。
 まあ、十中八九こいつを襲撃したのはマスターだろうよ』

遭遇した時点でかなりのダメージ、それも銃創らしきものがあった。
その直前にマスターのものらしき銃声。
恐らくこのキャスターにはマスターでもダメージを与えられる…バッド・カンパニーでも殺傷可能。
ならこの情報も明かして構わないか。

「確かに、やり合ったサーヴァントにおれのスタンドは効かなかったな。
 アーチャーにランサー、今思えばアレは対魔力のせいだったか」
「恐らくその筈。私の能力と、ほぼ同じ苦境にあるわけね☆」

新たに対魔力からスタンド、超能力という単語を繋げる。

「私の宝具はいわゆる超能力。
 科学的に人の脳にアプローチして開発したもので、能力自体も科学的な解析がされてるわぁ。
 いわゆる魔術とは異なるものだけど、対魔力に阻まれる。思い当たる理由がないではないけど、不思議だと思わない?
 スタンドというのはどんなものなの?」
「『傍らに立つもの(スタンド・バイ・ミー)』、パワーある生命エネルギーのビジョン、世間で言うところの超能力が具現化した像。
 そこまで科学的な解析はおれの知る限りされてないはずだ。
 身につけるきっかけも様々で生まれついて使える者から、外部からの刺激で目覚める者もいる。
 お前のマスター……犬飼だったか?あいつもスタンドに目覚めたんだと思ったが違うのか?」
「まだ詳細はよくわかってないから何とも。個人的には私の超能力に近いものだと予想しているけど。
 ところで、その外部からの刺激っていうのは、例えばどんな?」
「近くに強力なスタンド使いがいる、血縁の者が能力に目覚める、とある弓と矢で射ぬく。
 あとは眉唾だが、命の危機に瀕した人間が超常の力を身に付けるのもスタンドだとか言われているな」
「オカルト寄りね。『能力者』より『原石』の方が近そう……」

思考を纏めはじめた操祈に今度は刑兆の方が語りかける。

「スタンドエネルギーが魔力に代用できる点から、魔術とスタンドは近似するものだとおれは考えた。
 だとすれば強力な魔術師の影響を受けてスタンドに目覚めることもあるんじゃないかとも。
 そしてスタンドに目覚めた際に発熱などの病状を伴うものも見てきた。だからあいつもそうなったんじゃないかと思ってたんだが……
 聞く限りじゃ、お前は魔術師じゃないんだな?」
「犬飼さんが能力に目覚めたきっかけは別よぉ。学園と……それに、麒麟殿温泉近くのこの辺りにも似たような何かがある。
 空気が、何となく違うのよ。この空気に影響されることで何らかの能力に目覚める可能性力が高いわぁ」

能力の覚醒。
新たに書き加えられたキーワード。

「ここで少し話を戻すわぁ。モンキー・D・ルフィのマスター、鹿目まどかについて」

魔力量が極めて多いことを除けばごく普通の人間にすぎず、彼女自身はその魔力を利用できない。
個の戦力としての評価は高くないが、特異な経験値を有する。
魔法少女、インキュベーターという人間を用いた願望器とその顛末について語る。
願いを対価に戦い続けること。願いには限界があること。
原理は不明だが、人間を能力者とし、願いを叶えていること。
ついでにこの地に暁美ほむらという魔法少女もおり、襲撃されたこと。

「なるほど。聖杯戦争に近似するってわけか」
「その通りよ。つまり『聖杯』とは参加者が手に入れるものではなく、参加者が『なる』ものじゃないかと考えたのよぉ」
「だがスタンドは一人に一能力だ。少なくともおれは新たな能力を身に付けることはねえぞ」
「私たち能力者もそうよ、一人につき一つ。そしてそれは先天的な才能に依存し、一度身に付けたなら二度と変更はできない。
 けれど、能力には『強度(レベル)』があるわぁ。無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)まで。
 そしてその先にある、絶対能力者(レベル6)、さらには『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)』。
 あなたの能力も、夜科アゲハや朽木ルキアの能力も進化することで『聖杯』へと至る可能性力はあるんじゃない?」

神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの。
神の子の血を受けた聖なる杯。
いずれも戦いの中で覚醒・進化した能力者では、という仮説。

「だがそう上手くいくか?刑兆のスタンドとお前の超能力、それが同一のモンだっていうのも仮定の話だろ。
 仮に同じでも、おれの知ってる能力者ってのは、複数の能力を身に付けようとすると一部の例外を除いて命を落とす羽目になってたぞ」

悪魔の実の能力者。
ニューゲート自身や、麦わらのルフィ含む能力者は複数の悪魔の実を口にすると全身が粉微塵になって死ぬという。
例外は異形の肉体をもった男、マーシャル・D・ティーチくらいだろう。
悪魔の実一つ口にするだけで海に嫌われカナヅチになる。
スタンドに目覚めるのも矢で貫かれる、病床に伏せるなど相応のリスクを伴うらしく容易くいくとは思えなかった。

「そうね、それじゃあ前提条件の方から一端纏めるわ☆
 超能力、スタンド、魔術、その他の異能が同一存在として見なせるか。
 一つ。犬飼さんが目覚めつつある異能は、外的刺激により脳が覚醒した超能力に近似するモノよ。これは処置した私が保証する。
 それとあくまでおまけ程度だけど、外部刺激によって覚醒するいう点と、それに伴い体調不良を引き起こすことがあるという点がスタンドと近似。
 二つ。スタンドも、犬飼さんの超能力モドキも、魔力供給ができる。すなわち、魔術に近似するエネルギーを有している。
 三つ。対魔力により私の超能力もスタンドも無効化される。法則か、はたまた起源か、何かが魔術と超能力、スタンドには共通していて、そのため対魔力に阻まれる。
 以上がこの地で私たちが得ている情報ね☆
 少なくとも共通点が多い、というのは納得してもらえると思うわぁ」

一息ついて、食べ物飲み物を口に運ぶ。
そして書き記していた単語に共通点を書き加え、情報を整理。
しかしこれだけでは足りないと言うのだから、さらに自身の知識を加える。
ちょっと前置きが長くなる、と口にして語り出す。

「ここからはわたしが持っている情報になっちゃうんだけど、魔術も超能力もあらゆる異能を打ち消す右手を持つ英雄っていうのが私の世界にはいたのよ」

『あらゆる』異能を打ち『消す』『右手』。
覚えのあるワードに刑兆が僅かに反応するが、話の続きに耳を傾けに戻る。

「一部では『原石』と言われた、魔術師や超能力者の様に身につけた者ではない、天然の能力。
 スタンドに近い、かしらぁ?
 原理は私にはよくわからないんだけれど、地脈や龍脈といった世界を循環する異能すらも破壊する右手、『幻想殺し』。
 私の考察の根幹にあったのはこの能力から見える、魔術と超能力の類似性。そして『天上』というキーワード」

『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』から線を引き、新たに天上と書き足す。

「『天上』とは何か?
 まず一つ、超能力、レベル6のさらにその先にあるもの。
 そして、魔術的にも最高蜂の位階とされている地点。
 ……古代から現代に至るまで、魔術師の究極の目的は、『天上』より世界に降り注ぐ全なる力を手にすること。
 その力にどの高さで触れるのかによって魔術を三段階に分類したのが十五世紀の魔術師、ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ」

天上からさらに三本線を伸ばす。

「一つ目が自然魔術。地上に存在する元素を用いたもの。化学の名でもって通常の人間も用いることが可能。
 二つ目が天空魔術。天空に座す星の力を利用、または干渉するもの。龍脈に影響する『原石』や、金星の光を用いた槍の『魔術』などがここかしらぁ。
 そして三つ目が儀式魔術。『天上』に接続し、その神たる力を振るう前人未到の領域。これこそが魔術師の悲願……一部では、『根源』なんて呼ぶこともあるみたい。
 わかるかしら?魔術を極めても、超能力を極めても辿りつくのはそこ。
 すなわち、『天上』とは能力を極めたことにより至る『全能』の域。全ての願いを叶える『聖杯』となることもできるでしょう」

能力の進化により至る領域。
それはまさか、ここに来る前に手記で僅かに読んだ……

「天国?」
「え?」

ポツリと漏れた言葉を聞き取り、その続きを操祈が促す。

「……百年の時を生きた吸血鬼が辿りつこうとしていたものだ。
 手記は一部しか残ってなかったが、精神――スタンドの進化した先に幸福な未来、『天国』があると」
「それはなかなか面白い情報ね☆」

絶対能力、天上と書いた近くに新たに『天国』と『スタンドの進化』を書き足す。

「能力の行きつく先に、強大な何かがある。それはほぼ確実と言えそうでしょぉ?
 超能力の行きつく先には『天上』がある。
 魔術の果てにも『根源』という『天上』に等しい全能がある。
 スタンドの果てには『天国』がある」
「それが『聖杯』だっていうのか?」
「能力の行き着く先が『聖杯』だ、というより『聖杯』という名の能力を身に付けると考えた方が説得力はあるかしらぁ?
 絶対能力(レベル6)、『天之杯(ヘブンズフィール)』を。
 もう一度言うけれど、この会場は能力が目覚めるのに適した環境が整っているのは事実。
 犬飼さんを能力に目覚めさせた何かがアッシュフォード学園、そして恐らく麒麟殿温泉にある。もしかすると他にもあるかもしれないわぁ。
 ……それに、そうね。私ともう一人、『能力開発』に長けたサーヴァントが召喚されていたのよ」

身を切る情報を吐く。
モンキー・D・ルフィという英雄の存在からある程度このライダーの情報が得られるなら、対価として一部、垣根帝督を売る。
そこから、食蜂操祈に至られる危険はあるが、リスクは承知。

「脱落した、アサシンのサーヴァント。名を垣根帝督。
 『未元物質(ダークマター)』というこの世ならざる物質――擬似的な『天上』の力を振るう私より上位の超能力者(レベル5)。
 知った顔だったから、本人とマスターの隙をついて、私が倒した……けど、それはともかく。
 能力を覚醒させる因子がある。それに的確な対処ができる能力者が複数いる。
 魔術、超能力、スタンド、もしかしたら他にも。様々な能力者が集っている。
 それと『願望器』の可能性を秘めた魔法少女が一人、その才能を秘めたのも一人。私に銃撃をした暁美ほむらとライダーのマスター鹿目まどか。
 さらに私と垣根帝督は『絶対能力進化(レベル6シフト)』という能力を進化させるものを知ってるし、場合によっては垣根提督はその被験者になった可能性もある。
 それと、不確定情報だけどさっきあげた安心院なじみも、『フラスコ計画』という人間を異常に発達させるプランを実行して、人吉善吉はその関係者らしいわぁ。
 あなたたちはどう?ルフィという英雄も含めて、答えて頂戴☆」
「…………」

虹村刑兆は、多くの者を弓と矢で射抜き、スタンドに目覚めさせた。
弓と矢の使用者自体が少ないのに加え、DIOもエンヤも今はこの世にいない以上、おそらくスタンドを目覚めさせた経験値で刑兆以上のものはそうはいない。
エドワード・ニューゲートは悪魔の実の能力者だ。
己が体に長きにわたり悪魔を宿し、少なくともその運用については熟練。
能力の先のことも知っている。
モンキー・D・ルフィがどの程度かは分かりかねるが、鍛えられた能力者であるのは確実。

「まあ、おれも専門家とは言えねえが、少なくともスタンドの覚醒についちゃかなり詳しい方だろう。
 ライダーも、確かに能力に関してそれなりだ」

キャスターの唱えた仮説には納得するところも多い。
『聖杯』ってのがなんなのか、その答えとしては確かにあり得るだろう。
だが

「バッド・カンパニー……整列ッ!」
「え?」

テーブルの上に数体のミニチュア歩兵が並ぶ。
刑兆のスタンド、バッド・カンパニーだ。
武装はなく、ただ整列しているだけで、戦意がないのは伝わる。

「これがおれのスタンドだ。通常スタンドってのは一人一能力、ビジョンも一体であることが多い。
 だが、こいつは少々特殊らしくてね。いわゆる群体型ってやつだ。
 極端な話、これだけ。時間停止だとか念写だとかそーいうことはできねえ。この能力が進化したとして、願望器になるとは思い難いんだが?」

自分は願望器たりえないのではないか。
喜ぶべきか、悔むべきかすらわからない可能性。
その疑念をぶつける。
それを受け食蜂操祈は考える。

(群体…軍隊。複数の能力……………………『妹達』に、『虚数学区』!)

「スタンド使いの近くにいるとスタンドに目覚める事がある。
 つまりスタンド使いは外部に何らかの影響力を発しているのね?」
「解明はできてないが、そうだろうな」
「それじゃあ、仮説を更新させてもらうわぁ。一人の能力者が聖杯になるのではなく、複数の能力者を束ねて聖杯とする、とね」

『幻想御手(レベルアッパー)』という、複数の能力者に巨大なネットワークを形成させ能力を強化するもの。
副産物として、『多才能力(マルチスキル)』という一人で複数の能力者を産み出す、いうなれば万能への挑戦。
『ミサカネットワーク』というその完成形に近いものと、それに演算させることで降りてきたという何か。恐らくはこれも『天上』へのアプローチ。
噂にすぎないが、『虚数学区』、『ヒューズ・カザキリ』という230万人の能力者が無意識に発生させる能力の余波によって形成されるという何か。
そうした前例を交え新たな仮説を立てる。
絶対能力(レベル6)、『天之杯(ヘブンズフィール)』とは、進化した能力者の力を結集させて完成させるものではないかと。

「なるほどな。外で召喚されたおれの知識不足かと思ってたが、それならマスターが14人もいるのに納得がいく」
「ええ、私も7騎じゃないのは気にかかってたのよぉ。
 さすがに14人全員が必要ということはないでしょうけど、うち何人かが能力に目覚める、あるいは進化させれば『天之杯』は成る」
「……いや、待てよ。聖杯を手にするのは一組じゃねえのか」
「察しろよ、刑兆。天戯ってのが万能の願望器なんてもんを人様にくれてやるようなヤツに見えたか?」

もちろん見当がついていないわけがない。
だが、願望器が手に入らないなど…………

「ッ、複数の能力者を束ねてなんだってんだ?それに悪魔の実ってのは複数喰うとやばいんだろ?スタンドも、合わなきゃ死ぬ」
「起源を同じくしても、器が異なれば受け付けないことはあるわぁ。
 話してなかったけど、能力者は魔術を使えない。魔術を行使しようとするとダメージを受ける。ちょっとした類似点ね。
 例えばだけど、石油を分解すると軽油や灯油、ガソリンなど色々な物質になる。
 でも灯油ストーブにガソリンを入れたらどうなるかしらぁ?ストーブが壊れるだけで済んだら御の字よね☆
 元は同じでも、馴染まないっていうのは行使する器のせいじゃないかと私は考えてるのよぉ」

軽油に重油、ガソリン、ナフサetc……それら全てを集めて再合成すれば科学的にはそれは石油と言えなくはない。
なら、『天上』を起源とするが、枝分かれした複数の神秘……能力者、魔術、スタンド、などなどを結集し、相応しい器を用意すれば、それは『天上』に等しい力を行使できるのではないか。
もちろんそれは完璧ではないだろう。
『全能』にはとても届かないだろうが、しかし『万能』ではあるだろう。通常の能力者だけではできないことができるだろう。
なにより

「聖杯……願望器は少なくとも天戯弥勒の目的力が達成できるなら、他はどうでもいいんじゃないかしら」

虹村刑兆の願いも、犬飼伊介の願いも、食蜂操祈の願いも、他全ての参加者の願いも。
全てあの男には関わりないことなのだから。

「……仮にそうだとして、あの野郎は何をしようとしてんだ」
「さあ。さすがにそこまではわからないわぁ。推察でしかないわね。
 でも願望器が形を持って存在するなら、彼より先に手にする可能性力は十分よ。
 能力者本人か、あるいは……」

万能の願望器でなしたいことがある、というのは天戯弥勒が万能ではないことの証明。
聖杯を奪うことも不可能ではない。
しかし奪うならばそれがどんなものか把握する必要がある。
その形とはなにか?
それによって得れるものとは?

「『不明金属(シャドウメタル)』という噂はご存知?」
「いや、それも何かの能力か?」
「正確には少し違うわぁ。
 数十、あるいは数百の能力がぶつかったその後に自然界に存在しない金属が誕生することがあるっていう都市伝説。
 正直眉唾だと思ってたんだけどぉ、いくつかそれに近い実例が見つかっちゃったのよね。
 『天上』に刹那触れた電撃使い(エレクトロマスター)と最大クラスの『原石』二人の戦いの後に残った謎の金属。
 第三次世界大戦の後にも、『天上』から天使が下りて来た痕跡らしき巨大な黄金の腕や肋骨らしき物体。
 強大な能力が激突した際に結晶化した前例は存在する……これ、鍵だと思えないかしらぁ?」
「複数の能力者を覚醒・強化し『聖杯』とする。
 サーヴァントも含めてそれらをぶつけ合わせ、『不明金属』を得るのが目的、か?
 面白ェが、状況と知識を重ね合わせただけにしか見えねェぞ」

聖杯の仮説にも、その目的の仮説にも一貫して慎重な姿勢を貫くニューゲート。
だがそれは否定というわけではなく、その先を促すもの。
その先の考えがあるのだろう?それだけが情報の全てではないだろう?そう問うている。

「あら、それらしいものを虹村さんは持ってるでしょぉ?虹村さんだけじゃない。犬飼さんも、他のマスターも。
 材質も意図も不明だけど、超常の力が間違いなく関わっている、磁気を帯びたものを」
「…まさか、コイツか!?」

懐から『赤いテレホンカード』を取り出す。
通常のテレホンカードはポリエチレンテレフタラートという、飲料容器や磁気テープに用いられるものでできている。
いわゆるペットボトルの材料だ。
そこに磁気記録をさせている……のだが、当然この『赤いテレホンカード』はそんなどこにでもあるものではないだろう。

「今のそれはサーヴァントを失ったマスターが元の世界へ帰還するためのもの。
 それが、別世界へと自在へ移動できるものになったとしたら?
 生き別れた恋人や友人が生きている世界、破れたはずの戦争に勝利して歴史が違う世界。
 難病の治癒が、不老不死が、絶大な力が、巨万の富が容易く手に入る世界。
 そんな世界に渡れるようになれたらそれはさぞ便利でしょうね?
 それとも、これが真の『天上』に至るパスポートかしらぁ?」

ただ帰るだけのものが、世界を渡り歩くパスになるかもしれない。
もしくはそれを完成させれば神の位階に手を伸ばせるかもしれない。
まさしく『天之杯』にたる究極の霊装ではないか。

「コイツが何なのかは分からんままだが、現時点では使えなかった。
 どうやらサーヴァントがいる状態で電話ボックスに突っ込んでも意味をなさない……もっと言えば本当に帰れるのかも、まだ実証はできてねえ。
 複数の能力者が必要なら、そこも怪しいか?」
「実験済みなのねぇ、頼りになる相手で助かるわ☆
 でもそこは初めから帰れない、と言っておけばいい程度力の問題だし帰るのはできる…んじゃないかしらぁ。
 能力者が減るのは確かにそぐわないけどぉ、磁気のようにカードに能力を記録できるとしたら?
 磁気を記録するカード、電話ボックスというピンポイントな場所……気付いてるでしょうけど、この街いくらなんでも電話ボックス少な過ぎよ。
 特定の場所で、特定のアイテムを行使させることで、多少の劣化はあるとはいえ能力のデータは残せるんじゃないかしらぁ。
 そして、その能力を再現、もしくは行使できる……英霊からサーヴァントを再現するようにね☆」
「なるほどな」

確かにこの説では能力者本人に用はない。
物体に能力を宿すのは、妖刀とか漫画本のスタンドというのがDIOの部下にはいたと聞いたことがある、あり得なくはないだろう。
思考がまとまり、ある程度落ち着きを取り戻す刑兆。

「サーヴァントがいる状況でじゃ帰れない、ってのはある程度長居させて能力に干渉するためか」
「多分そうじゃないかしらぁ。取得もしくは進化したほうが都合いいでしょうし」

学園には朝からいたが、犬飼の能力の兆候は夕方になってだ。
恐らく影響が出だすのには個人差があるし、学園や温泉など特定の場所でなければ条件にあわない。
だから少しでも影響下に置くためにサーヴァント消失までは帰れないという制限を課したのでは、と予測。

「いや、実際サーヴァントがいると帰れないんじゃねェか?」

それにもまた、ニューゲートは異を唱える。

「おれ達サーヴァントは英霊の座から喚ばれて、消えればそこへ還る。座に、繋がってるわけだ。
 そしてマスターとサーヴァントは魔力パスを通じて繋がっている。
 テレホンカードとマスターの能力に影響し、繋がってるなら。
 マスターはテレホンカード、魔力パス、サーヴァントを通じて座に繋ぎとめられているってことだ。
 それで帰る事ができねェってのは?」
「うーん、否定するつもりはないけどぉ……」

曖昧な要素が多い。
反論のための反論に聞こえてしまう。
もちろん一考の価値はあるだろうが……

「ま、年寄りの戯言と思って結構だ。だが発想の転換は必要だと思うぜ。
 ……魔術師や能力者の到達点だからって『天上』に行くことに拘ってるけどよ、逆もあり得るんじゃねェか?
 『座』から英霊以上の何かを、『天上』から聖杯以上の何かを呼び出す可能性がよ」
「それ、以上……?」
「神霊や精霊、悪魔に天使、ほかハイ・サーヴァント以上のもの。
 聖槍や聖骸布、ほか聖遺物級の宝具や武具。
 あーだこーだ言ってもこれ以上は無意味だと思うが」
「ん、そうね。それじゃあ私からは以上かしら☆
 ……ところで、それなりの情報と仮説を披露したと思うんだけど?」

見返りを求めてもいいのではないか。
敵サーヴァントの情報。聖杯への考察。
これでもモンキー・D・ルフィについて、ランサーについての情報がもらえないとなると、余程のアキレス腱ということになるが。

「刑兆」
「任せる」

モンキー・D・ルフィという男について、刑兆は把握できていない。
麦わら帽子の男、という情報はあったが、それがここで手札となるのは予期してなかった。
そのため刑兆はどの程度明かすとまずいか、問題ないか判別が効かないのだ。
伏せるか、偽るか、一部でも明かすのか。
ニューゲートの能力についてばれない程度でなら、その判断に一任する。

「……モンキー・D・ルフィ、通称“麦わらのルフィ”。
 偉大なる航路で名を上げた海賊だ。お前の推察通り能力者で、全身にゴムと同様の性質を持つ。
 覇王色の覇気の覚醒者だ。恐らくお前じゃ対峙した瞬間に意識をもっていかれるだろう」
「覇気、って?」
「気迫や威圧の類だと思え。実力差のある相手なら一瞬で意識を奪える」

NPC相手の所業に得心がいく。
他容姿や振る舞いなどの情報も一致し、人違いでなく、そして偽りなく情報を共有できていると感じていた。
しかし能力のメカニズムやその弱点などについては触れようとしないニューゲート。

「あまり深い情報はやれねェ。おれの息子とちょっとした繋がりがあってな、やり合うならおれ達に任せてもらう。
 どうしても気になるなら本人に聞いてみろ。隠し事をするような奴じゃねェ。
 代わりと言うとなんだが、身の安全は保障してやるからよ」
「はぁ、分かったわよぉ」

情報を得られなかったのは惜しい。
しかし元々食蜂操祈は前線に立つタイプではない。
能力の弱点が分かったところで活用する機会はまずないだろうし、このライダーが知っているなら問題はない。
それがこの男の弱点になると分かっても、同様に活かせない可能性が高い。
それにおおよその察しはつく。
悪魔の実の能力者の弱点を伏せたということ。ライダーもまた何らかの能力者であること。
併せてみれば明らか。この白い髭のライダーもまた海を弱点とするのだろう。
それだけ掴んだ上で、多少は頼れる協力者が得られるならまあよし。

「それじゃあ、この後はどうするか決めてるかしらぁ?」
「そっちはどうすんだ?」
「学園に資料とかあるから、犬飼さんの家はばれてると想定して動くわぁ。
 彼女の体調、マシにはなったけどまだ完調とはいかないし、どこかホテルでもとって今晩は休むつもり☆」
「……温泉の効能はどうだったよ?」
「いいお湯だったわよ☆
 犬飼さんも少しは元気になったし、行ってみてもいいかもしれないわよぉ?」

僅かなやりとり。僅かなかけひき。
どうやら温泉も能力開発の一助か、と察する。

「ならおれ達もそのうち行ってみるか。
 宿は決めてんのか?おれ達も向かっても?」
「まだ未定。温泉近くにあるんじゃない?
 身の安全を保障する、っていうなら一応近くにいてもらった方が連携とかはしやすいし、お願いするわぁ。
 でもいくら私たちが可愛くて可憐でスタイル力抜群の美少女だからって、悪戯心起こしちゃダメだゾ☆」
「そこまで暇じゃねえよ」

今後の予定を詰めながら店を出る準備。
最後にテーブルに残ったものをニューゲートが平らげ、会計。

「2980円」
「はい」
「ん、釣り20」
「どうも。それじゃあ温泉で合流しましょ☆」

洗脳したNPCの財布を開き、刑兆に渡す。
どうかと思わなくはないが、飲み食いしたのは一応この女だし、いいのかと勝手に合点、レジへ。
NPCと同道する意味もないので、店の外で解放する。
残された男二人で温泉へ歩む。

『食べ飲み放題だからって随分いったな。サーヴァントに食事は不要なんじゃないのか?
 いや、別に責めるつもりはねえがよ』
『一応魔力にはなるから無意味ではねェよ。それに娯楽は必要だろ?
 酒と飯は生きる糧だ、おれはもう死んでるがな、グラララ……!
 それに大して飲んじゃいねェよ、精々樽半分くらいだろ』
『デカンタで飲んでたのは、その図体だし何も言わねえけどよ、単位が樽ってのはおかしいからな』

道すがら雑談に興じる。
急ぐならタクシーなどを利用すべきだろうが、食後の運動に、二人での相談も兼ねてゆったりと向かう。

『さっきの話どう思う、ライダー?』
『状況的にはそれなりに信に足るな。魔術、超能力、スタンド、その先。
 おれや麦わらの小僧の悪魔の実の能力にも、覚醒と言われる段階がある』

糸を放ち操る能力は、触れたものを糸にする能力となる。
生命力・身体能力に長けた動物系なら耐久力・回復力が増す
恐らくは砂へと変化する能力は、触れたものを砂にする能力となり、自ら浮遊する能力は触れた物――例えば島ですら――浮かせる能力となるだろう。
肉体を氷へと変える者、マグマへと変える者が覚醒したならそれは一つの島の気候すら捻じ曲げかねない。
肉体から震動を放つ能力者なら、空間や 武装からも振動を放つようになり、果てには世界全土も地震により滅ぼす能力となるだろう。

『あいつが覚醒してるかは知らねェが、知っててもおかしくはないはずだ』
『マジにそういう能力の専門家が多いんだな。確かにそりゃ『天之杯』も戯言とは言えねえな』
『ああ、まあ…な」

一応そう答えるが疑問はある。
自分たちも素人ではないが、それでも専門家とは言い難い。
麦わらがそこまで切れ者にも見えなかったし、能力のプロとしては些か役者が足りない。
それならベガパンクやシーザー・クラウンのような学者の方が適している。
あいつらなら『人造悪魔の実』なんていう『能力開発』に近いこともやってたはずだ。
……『能力開発』に長けたキャスターと同郷のサーヴァントがいたと聞いた。超能力者二人、確かに作為を感じる。
それと同様に科学者ではなく、“白ひげ”と“麦わら”が呼ばれたのに意味があるなら

(海賊、いや広義では船乗り…か?“偉大なる航路”の海賊ほどに多彩な海を渡ったやつはそうはいねえ。
 深海10000mの魚人島、稲妻降り注ぐライジン島、他にもイカれた気候の島も海域も死ぬほどある。
 噂じゃ上空10000mの空島なんてモンも聞いたな。
 その経験値か……?ふむ、あと未踏の地っつうと宙飛ぶ船で月にでも行くか、グララララ)

無為な思考と振り返りはここまで。
今後の動きについて話す。

『宿に行くとはな。夜は出張るモンだと思ってたが』
『あれだけの情報が入ったんだ。状況は変わる。
 ライダー、サーヴァントに睡眠は必要ない、そうだな?』
『安心しろ。夜通し警戒していてやるよ』
『それもある。が、犬飼ってのを見張ってほしい……正確にはあの女のところに誰か来ないか、な』

刑兆が定めたキャスターたちと同じところに泊まるという選択、その意図を語る。

『もし本当に能力に覚醒させてどうこうするのが目的なら、その兆候を見せた奴を放っては置かねえはずだ。
 少なくともおれなら能力が目的に合致するか確かめたいし、無茶やらかして無駄死にしないよう釘を刺すくらいはする。
 天戯の奴、アサシンの脱落を知らせてきたってことは少なからずおれ達の状況は把握してるみたいだしな』
『分かった。そっちにも気を配っておく』

刑兆も多くのスタンド使いを目覚めさせ、その能力が使えるかどうか確認していた。
天戯弥勒も同様のことをすると考えたのだ。
本人が動くとは限らないが、それでもその一派と接触できれば、推察した事象の正誤の確認くらいはできるだろう。

『もし来たならおれに伝えてくれ。聖杯がおれの目的を達成できるものなのか確かめる必要がある』
『構わねェが、恍けられるだけかもしれねえぞ?』
『あのキャスターがいる。心を読めるんなら戯言に意味はない。有効に活用させてもらおうぜ。
 あいつ自身願いのことは気にしてるはずだ。あいつと接触する機会があれば確かめるだろう』
『来ればいいが、来なかったらマヌケ晒す羽目になるな。その場合のことは考えてるか?』

都合よくいけばいい。
だが何らかの監視装置などで済まされる可能性も、そもそも接触がない可能性もある。
少々刑兆は想定が不足していたようだ。

『……来た場合は得た情報で動きが変わるだろうな。そこは改めて考えるとして、だ。
 来なけりゃ普通に休むことになるが……』
『明朝の方針は不定だな。おれの意見だが長期戦は避けてェ。
 目的云々はともかく、能力に目覚める仕掛け自体は事実だろ?
 この先参加者は実力を増してく、叩くなら早い方がいい』
『そうだな。なら変化がなければ朝から打って出るか』

犬飼伊介が能力を使いこなす可能性。
昨夜戦った執事が能力に目覚める可能性。
他敵戦力が整う前に、スタンドという優位が揺るがないうちに勝負に出るべき。
そう刑兆は考えたが

『いや、おれは逆にこのあたりを“ナワバリ”として迎撃の体勢を整えるべきだと思う』
『なに?』

ニューゲートは逆に籠城戦を提案する。
おまけにハイリスクハイリターンな宝具の使用も提言してきた。

『早期決着を狙うんじゃねえのかよ?おまけにルフィって奴の情報伏せて隠した真名までキャスターに露見するかもしれねえじゃねぇか』
『まず、宝具の使用についてだが。
 心を読まれるのは天戯だけじゃねえ、お前もだ。ならお前の知ってるおれの情報を伏せる意味は薄い。
 むしろ示威行為として使っていくべきだろうよ。それにおれのナワバリの住人に手を出したやつには戦力が向上する。
 あのキャスターはNPCを洗脳するようだからな、やり過ぎかもしれねェが用心に越したことはない』

キャスターへの牽制としては確かに悪くないか。
戦力としてはオーバーキルな気がしないでもないが、他の主従との継戦も考慮するとどこかで蓄えは必要だ。
一晩留まるここで打つのは理に適っている。
……真名看破のリスクも、もとよりか。

『ナワバリの誇示は分かった。だがここで待つってのは?』
『能力の覚醒には相応のリスクがあるんだろ。そうなったら向かうのは恐らく医療施設か、麒麟殿温泉(ここ)だ。
 キャスターが仄めかしてたろ?』

熱を出したマスターを連れて行こうとしていた目的地。
そして少しは元気になったというマスター。
温泉もまた能力開発の補助。そのリスクを軽減するための施設である可能性が高い。
能力の兆しとして体調不良に陥ったマスターがここを訪れる可能性は十分ある。

『病院を抑えるのもいいのかもしれねェ。
 だがここにはおれ達しかいないから、先んじて布陣を整えられる。
 何より、ホームグラウンドの海が近い』
『海、か。大丈夫なのか?』

確かに海戦は嵐の航海者たるライダーの真骨頂だろう。
だが麦わらのルフィという海賊もいるのだろう?
それを抜きにしても悪魔の実の能力者は海に嫌われるのだろう?
そんな不安が大丈夫なのかという言葉となって出るが、ニューゲートは一言で一蹴する。

『おれァ、“白ひげ”だ』

名乗りを上げる。
そこに在るのは英霊としての誇りと自負。そして海に生き、海に死ぬ覚悟。
それが凝縮されたのが大海賊エドワード・ニューゲートの異名『白ひげ』。
こうまで魅せられたら頷くしかなった。

『オーケイ。宿をとったら旗を掲げろ。その瞬間からこの一帯はお前のナワバリだ』
『ああ。正確にはおれ“達”のだが。
 しばらくはあのキャスターたちも庇護対象だから忘れんな』

キャスターに対し警戒はするし、警告もする。
だがそれは例えるなら子供に対し叱責をする父親のようなもの。
理不尽に、無慈悲に切り捨てはしようとしない。
仲間殺しという法度は犯さない。

『しばらくはあいつらのご機嫌伺いも必要か。篭るのになんと言うか』
『区切りは必要だろうな……天戯の接触があればそれ次第だが、なければあの通達で一区切りでどうだ?』
『あれか。またあるか?』
『あの一回ってことはねェだろ。脱落者が出たらやるのか、定期的にやるのか言ってなかったと思うが、あれが来れば情報も入るはずだ。
 動きのきっかけにはなるだろうぜ』
『そこから天戯のことも掴めるかもしれねえしな。
 ……いや、考えてみりゃキャスターの言う通りだ。おれにとっても天戯の目的も他の奴の願いもどーでもいい』

聖杯が天戯の目的のためのものであろうと、何でもいい。
問題はひとつ。おやじを殺せるか否か、それだけだ。
……能力の覚醒・進化。原点回帰にはなっちまうが、聖杯だけじゃなくそっち方向も気に掛けておくべきか。

『合流前に麒麟殿温泉、きちんと下見しとくぞ。能力開発のリスク軽減できるってんならな。
 確か十一時ごろまでやってたか。
 学園や温泉近くの何かでバッド・カンパニーも、さらに成長できるなら……それでおやじが殺れるなら、それに越したことはない』
『……変わらねェか、目的は。能力開発の方にも軽減できてもリスクはあるんだろ?』
『変わらねえし、構わねえよ。
 おれの能力がおやじに手向ける『鎮魂歌(レクイエム)』になれるなら、それが…最善、なんだ。
 誰かに殺してもらうんじゃあない。何かに頼るんでもない。ましてや億泰にやらせるんでもない。
 おれのおやじだからこそ、本来はおれの手で始末をつけてえんだ。
 恨みよりも、怒りよりも、同情よりも。水よりも、血は濃いんだよ』
『………………………………そうか』

不意にポツリと一つ。
雨粒が刑兆の頬を濡らした。


【A-4/麒麟殿温泉への道中/一日目・夜】

【虹村刑兆@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]いつもの学ラン(ワイヤーで少し切れている)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:おやじを殺す手段を探す。第一候補は聖杯。治す手段なら……?
1.麒麟殿温泉へ向かう。まず下見をして、その後キャスター(操祈)たちと合流。
2.キャスター(操祈)たちと宿をとり今夜は休息する。
3.天戯弥勒、またはその関係者との接触を予測。その場合聖杯について問い詰める。
4.接触が無かった場合、基本的に麒麟殿温泉近くに潜む……が通達次第で変更の可能性アリ。
5.バッド・カンパニーの進化の可能性を模索。能力の覚醒に多少の期待。
6.公衆電話の破壊は保留。

[備考]
※バッド・カンパニーがウォルターに見え、ランサーに効かなかったのを確認、疑問視しています。
→アーチャーとの交戦を経てサーヴァントにはほぼ効かないものと考えています。
→キャスター(操祈)がほむらと交戦してダメージを受けたのを確認し、対魔力が重要な要素であると確信。
※サーヴァント保有時に紅いテレホンカードを使用しても繋がらない事を確認しました。
※サキュバスなどのエネルギー吸収能力ならばおやじを殺せるかもしれないと考えています。
※学園の事件を知りました。

【ライダー(エドワード・ニューゲート)@ONE PIECE】
[状態]ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]大薙刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:刑兆の行く末を見届ける
1.麒麟殿温泉へ向かう。まず下見をして、その後キャスター(操祈)たちと合流。
2.宿をとり次第、麒麟殿温泉近くで『手出しを許さぬ海の皇のナワバリ(ウィーアーファミリー)』を発動する。
3.夜は犬飼伊介に接触があるか見張る。
4.接触が無かった場合、基本的に麒麟殿温泉近くに潜む……が通達次第で変更の可能性アリ。
[備考]
※NPCの存在、生活基盤の存在及びテレカのルールは聖杯、もしくは天戯弥勒の目的に必要なものと考えています。
※キャスター(操祈)と垣根が揃っていたのと同様、ルフィと自身が揃っているのにも意味があるかもしれないと考えています。

[共通備考]
※B-2近辺にこの世界における自宅があります。

※以下の情報・考察をキャスター(操祈)と共有しています。
  • アゲハ&セイバー(流子)、ルキア&ランサー(慶次)、善吉、カレン&セイバー(リンク)、タダノ&アーチャー(モリガン)、まどか&ライダー(ルフィ)、ほむら、ウォルター&ランサー(レミリア)の容姿と把握する限りの能力(ルフィについては伏せた点有)。
 サーヴァントならパラメータも把握。
  • アゲハ、ルキア、善吉、カレンのこの地での住所、連絡先。

  • アゲハはタダノを一撃で倒す程度の能力者である(暴王の月の存在)。
  • ルキアは稲妻のような物を放つ能力者である(白雷の存在)。
  • 善吉の技能と『欲視力』。
  • カレンは能力者ではないが、それなりに戦える人物である。
  • まどかは強力な魔法少女となり得る才能がある。
  • ほむらも魔法少女であり、操祈にダメージを与えることができる。
  • タダノはサキュバスのようなものに耐性があるかもしれない。ただし耐久はアゲハに倒されるくらいで、人並みか。
  • ウォルターは能力者ではないが、腕の立つ戦闘者。吸血鬼と何らかの因縁がありそう。

  • ランサー、真名は前田慶次。巨大な刀が変形(真名解放?)して朱い槍になると予測。
 逸話、もしくは技能系の宝具持ちと予測。
  • セイバー(流子)は『鋏』と『糸』がキーワードになる英霊。文明への反抗者と予測。
 二刀流の可能性を警戒。
  • セイバー(リンク)は剣技や騎乗スキルに加えて結界、炎などの多芸さから『勇者』がキーワードになると予測。
  • アーチャー(モリガン)は『サキュバス』と『分身』あるいは『もう一人の自分』がキーワード。
 リリム、あるいはリリト?それなら海、出血、原罪、天罰などが弱点で、子供は注意が必要。
 何かを撃ち出す宝具を持っているはず。
  • ランサー(レミリア)は『吸血鬼』がキーワード。
 ただしその吸血鬼としての在り方はあまりにベタすぎる。無辜の怪物や幻想上のものの様な迷信に近い存在と予測。
 宝具であろう槍を警戒。日光は弱点になると予測。
  • ライダー、真名はモンキー・D・ルフィ。ニューゲートの知り合いで能力者。
 キーワードを上げるなら『麦わら帽子』、『ゴムのような体』、『覇気』あたりか。

  • 刑兆はスタンド使い(バッド・カンパニーと言い、ビジョンも見せた)であり、多くの人物にスタンドを目覚めさせた経験がある。そのリスクなどについてそこそこ詳しい。
  • ライダー(ニューゲート)とルフィは知り合い。能力者。
  • キャスター(操祈)はアサシン、垣根帝督と同郷の超能力者で、垣根の方が上位。
 宝具(能力)は心を操ることで、対魔力で抵抗可能。

  • 能力を覚醒させる何か(PSI粒子)が学園、温泉近くにあり、それにより犬飼が学園都市の超能力に近いものを身に付けつつある。
  • 麒麟殿温泉は能力獲得時に頻発する体調不良を和らげる効能がある。
  • 魔力供給、対魔力、獲得のリスクに見る超能力、犬飼の能力(PSI)、スタンドの近似性。
  • 天上、天国に見る魔術、超能力、スタンドの近似性。
  • アゲハ、ルキア他多数のスタンドでも超能力でもなさそうな能力者の存在。
  • 魔法少女という人型の願望器の存在。その才能を持つ鹿目まどかに、魔法少女である暁美ほむら。
  • スタンドを目覚めさせてきた刑兆、学園都市の超能力者で『絶対能力進化』のことを知る垣根と操祈、『フラスコ計画』に関与した善吉など能力覚醒に関する参加者が多い。
  • 幻想御手(レベルアッパー)、虚数学区などの複数の能力者を束ねてなる超常の存在。
  • 不明金属(シャドウメタル)という、複数の能力者と天上が関わるであろう存在と、謎の磁性体である赤いテレホンカード。
→以上よりこの聖杯戦争はマスターを能力者として進化・覚醒させ絶対能力者(レベル6)『天之杯(ヘブンズフィール)』とし、サーヴァントも含めぶつけ合わせることで不明金属(シャドウメタル)を獲得。
 それによって『元いた世界へ行くテレホンカード』を『平行世界へ行く霊装』、『天上、あるいは根源へ行く霊装』、『英霊以上の超常の存在を連れて来る霊装』などに完成させようとしている、という予測。






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