裏切りの夕焼け◆wd6lXpjSKY



「それで、まどかちゃんも天戯弥勒の声を聞いたんだね」

「はい。頭の中に響くような感じで……」


事件が発生した間桐邸の調査に乗り込もうとしていたタダノは鹿目まどかと共に喫茶店に居た。
本来ならば職務を全うするために働いてなければならないが事態は動いている。
そもそも事件を起こしたのは鹿目まどか及びそのサーヴァントであるため報告書は適当に仕上げなければならない。
聖杯戦争だけの仮初めの職だ、そこまで力を入れなくてもどうにかなるだろう。

変化を迎えた状況は二つ。

一つに天戯弥勒からの通達。
告げられた参加者は十四組の主従、早々に脱落したアサシン。
マスターは生存中らしいが十中八九テレホンカードを使い帰還するだろう。
本当に帰還出来るか怪しい部分もあるが、天戯弥勒の言葉どおりだと帰還しなければ死んでしまう。
身体が灰になる。信じるも信じないも参加者次第ではあるが、用心は必要だろう。

もう一つが署からの連絡であるアッシュフォード学園で起きた事件。
校内の破損及び屋上で爆発事故が発生したとの連絡がタダノの元へ入っている。
間桐邸の調査よりも優先の命令を下され、彼は学園に向かうことになった。

此処でタダノは考えた。
間桐邸の事故はサーヴァントの仕業であった。
ならば学園の事件もサーヴァントの仕業である可能性がある、それも高い部類と推測。
道中で別れた鹿目まどかを呼び喫茶店にてこの情報を伝えた。


「天戯弥勒の言葉は真実に近いだろう。嘘をつくメリットもデメリットもないけど。
 僕はこのまま学園に向かうつもりだけどまどかちゃんはどうする? 一緒に来るかい?」

「……行けば、戦うことになるんでしょうか」

「それは解らない、けど確率は高いだろうね」

「私は出来るなら争いたくないです。聖杯戦争に参加しているのに……ごめんなさい」


聖杯戦争に参加している者は何らかの願いを持っている――筈だ。
巻き込まれだろうが自主参加だろうが彼らは何かしら叶えたい想いを秘めている。
鹿目まどかにとっての願い。彼女は森の中を彷徨うに悩んでいた。
願いと他者の脱落を天秤に委ねた時、どちらが優先されるのか。
一般的な思考を持っているなら答えは明白である。人殺しの罪など背負いたくない。


「それでも……じっとしてるだけじゃ何も始まらないと思うんです」

「――!」


鹿目まどかの周囲は常識から逸脱している。
魔法少女、幼き子供なら誰だって憧れる夢の存在に囲まれていた。
人々を守るために魔女と戦う。お伽話のような甘い、とても甘い響きである魔法少女。


魔法少女――願いを叶えてもらった少女が奉仕として行う魔女退治。
人々に害を与える悪い魔女を倒す。
日曜の朝にでも放送されていそうな甘美な響きである。

魔法少女――願いと引き換えに不幸を振り撒くメビウスの輪に組み込まれた哀れな末路。
魔女を倒す理由は魔女が人々に――。










最悪だ。
宿題を完全に終わらせたが読書感想文が終わっていない。
最後の最後に忘れたくてそのまま放置していた状況が襲い掛かってくる。


(キャスター……美樹さやかに選択を迫っていたのに邪魔されるなんて)


そんな気分に暁美ほむらは陥っていた。


時は遡り美樹さやかとの交渉が終了し彼女が遊園地を後にした時。
戦力の補強、手駒の確保、捨て牌の布施……様々多種多様の糸を張り巡らせる予定だったが失敗に終わる。
総ては鹿目まどかを守るため、一つの手段として美樹さやかに同盟を持ち込むも選択を渋られた。
元々彼女は良くも悪くも等身大の少女だった。だから鹿目まどかのために簡単に交渉が終わると考えていた。

だが美樹さやかは暁美ほむらの想定よりも頭が回っているらしく、返事を渋られる。
今までの態度、行い。総てが蓄積された美樹さやかの中に存在する暁美ほむらのビジョンは色で例えれば若干の白が混じった黒。
黒は敵ではないが感じは悪く、頼み事も極力行いたくないし肩を並べられるとも思えない。そんな印象。
白はそれでも信じたい、同じ人間であり魔法少女としての、人としての感情だろうか。

美樹さやかは暁美ほむらの魔法を知っており、サーヴァントであるバーサーカーは狂化に飲み込まれていない。
寧ろ感情が高ぶった美樹さやかを抑え込める程の存在であり狂戦士とは思えない。
結果として交渉は引き伸ばされ彼女を利用した計画は光を浴びること無く再び水底に沈む。


「ねぇ、マスター。これ見てご覧」

「……なにかしら」

「左上が監視の映像でその右隣が普通のニュースさ」


計画の失敗となった要因であるキャスターにそう言われると暁美ほむらはモニターに視線を移す。
キャスターの顔が見たくないため極力頭を動かさず、視線のみの移動で。
映されているのはどちらも学園――暁美ほむらが通う予定であるアッシュフォード学園だった。


ニュース映像では一人の記者が学園の前にて実況を行っている最中である。
テロップではテロか何かの関連性、日本らしくない文字が映し出されていた。
聖杯戦争の会場は視界に捉えている範囲では日本を元に造られていると考察していたが何でもありのようだ。


『こちらにあるアッシュフォード学園では学園内の窓が一部破損しており、屋上では爆発があったと通報されています。
 体育館裏では地面が大きく陥没しておりクレーターのような跡が出来ているとの情報もあります。
 誰も目撃者はおらす、依然として状況は謎ですが、爆発物の関係から国外の犯行による可能性も――』


アナウンサーの発言から幾つかの情報を読み取る。
屋上で爆発――自分のように爆発物を多数所有している学生が何人も居るとは思えない。
ならばテロリスト、妄想なら確定だが此処は聖杯戦争だ。常識は通用しない。
自分のような魔法少女がマスターとして参加している。美樹さやかも同様であり鹿目まどかもきっと。
一般から逸脱している参加者は多いだろう、大半を占めていると仮定して爆発の一つや二つなら想定の範囲だ。

クレーター――痕跡も残さないとなると魔法に近い能力が必要となるだろう。
大規模な機械を使わない、一瞬で発動出来る魔法は犯罪の大きな力となる。
実際暁美ほむらの知り合いにも犯罪に手を染めている魔法少女が居る。最も人的被害は出していないが。

国外の反応――この言葉からNPCは本当に日常の一部として組み込まれていると確信する。
聖杯戦争のために用意された、言ってしまえばメタ的な存在であり聖杯戦争を認識していると仮定していた。
ならばこの事件を聖杯戦争として報道するはずだが、日常に起こった非現実的な現象として報道している。
NPCはオブジェ、日常感を出すためだけの存在に過ぎず、魂の無い容れ物と考えるのが妥当だろう。


次に監視映像を見る。


映しだされているのは学園の屋上。
男女二組の交戦と撤退を捉えており男の一人は見覚えがある。

「この男は……そう」

「知り合い? マスター、さやかちゃんもそうだけど知り合い多くない? 辛くない? 大丈夫?」

「次言ったら私は貴方に令呪を使うわ」

「それ前にも聞いた気がするよーん。違ったらゴメンね」


始まりの場において天戯弥勒へ叫んでいた男の姿が確認出来る。
サーヴァントは女、振り回している獲物からセイバーと仮定。
情報を集める事に関しては主催者の知り合いに接触出来れば効率が大きく増すだろう。
聖杯戦争は知っている、だが主催である天戯弥勒の情報は限りなく無に近い。
この男と接触出来れば――学園に赴くべきであろうか。


(今学園に向かえば確実に面倒事に巻き込まれる、それに到着は遅くなりそうね。
 なら、今日はこのまま動かない方が安全ね。明日には美樹さやかからの返答もある。
 まだ焦るべきでは……まどかが無事ならそれに越したことはない。夜も今日は大人しく待機するべき、ね)


学園に向かえば確実に情報の手掛かりが掴める、そして危険も大きく伴う。
犯行者は犯罪現場に戻る。この世界における警察の警備が張られており侵入等は難しいだろう。
魔法を使えば用意に済むが消費する魔力を考えれば無駄遣いは避けたい所。
美樹さやかのような感情で動ける人物が既に動いているだろう。鉢合わせは御免である。
故に今回は静観の方針であり、黒髪の男との接触は日を改めるとしよう。


「それでねぇマスター」


不快な笑みを浮かべてキャスターは私に話しかける。嫌な予感しかしない。



  ◆  ◆  ◆



「セイバー、魔力を感じるか?」

「全然解かんねえ、足で探すのが一番だろ」


亡くしてしまったサーヴァントの仇を取るために。
男の意地を貫き通すために人吉はキャスターの居場所を探している。
人の心を操る凶悪な宝具を持った女狐に対向するために人吉はセイバーと共に行動。
夜科アゲハから預かり受け、仮に自分がもう一度操られたとしても対魔力を持っているセイバーなら問題はない。
アサシンを失った時のように黙って負けるわけにはいかないのだ。

サーヴァントを失ったマスターは紅いテレホンカードを使用すれば帰還出来る、と言う話である。
真偽は不明だが戦争から離脱出来ると考えれば実に有難い。
期限は六時間、それまでにキャスターを発見し討伐する。
それが人吉善吉の最後の使命であった。


「アサシンとキャスターは知り合いだったんだろ? そりゃあ手の内解ってる奴をほっとくワケねぇよな」

「あぁ。真命がバレたらサーヴァントってやばいんだろ?」

「対策とか取られたりすっからなぁ」

(じゃあお前とアゲハは何で隠さず名前で呼び合ってんだよ……)


夜科アゲハとセイバー改め纒流子の方針に疑問を抱くも今は置いておこう。
キャスターの居場所は掴めず、地道に校内を散策するしか手段はない。
セイバーと人吉は契約を結んでおらず、キャスターの目を欺くための格好に過ぎない。
そのため念話は行えず、セイバーは実体化して行動を共にしている。早く動けるために。

校内を彷徨いている生徒は殆ど見かけない。
先の学園戦で一部校舎が破損されたため授業は全て停止、強制下校の時間になっている。
マスコミはテロだのなんだの報道しているが、何一つ証拠が掴めていない。
監視カメラにも何一つ映っていないとなると神隠しの一種として考える輩も居るだろう。


「対策か、だったらキャスターは頭が回る奴だぜ。
 生徒が一人死んで屋上で爆発が起きてんだ。でもそこまでパニックになっちゃいねえ」

「痕跡全部揉み消したってか、人ン心操るってのは卑怯地味てんなぁオイ」


警察も全く校舎内に介入していないことを考えるとキャスターが根回しをした可能性が高い。
強制下校も校内アナウンスを終えた後に数分のホームルームだけだ。まるで機械のように。
プログラムを組み込まれた操り人形が仕組んだのだろう。
目的は不明だが学園は確実にキャスターの根城になりつつある。
この辺りで一度食い止めないと明日から学園に通うのは不可能に近くなるだろう。
わざわざ敵の本拠地に突っ込む馬鹿は多くない方が好ましい。


「生徒の気配が全然しねー。もしかしてキャスターは外にいんのか?」

「知らねえ、探すしか無いだろ」


探知能力を持ち合わせていれば探索は優位に進むだろうが現実は甘くない。
魔力の反応も乏しく、足でキャスターを探しているのが現状。
時間だけが過ぎ去って行くものの打開策は特に存在するはずもなく黙って動き回るのみ。
現に人吉善吉の生存時間は浪費され確実に死の時が迫っていた。


近くの扉を荒く開け教室の中を調べ回るために入室する。
セイバーは掃除用具入れを開け中にキャスターが隠れていないか覗くも居る筈がなかった。
解ってはいたが収穫が何もない状況に嫌気が差していたのだ。


「……」


人吉は教壇に上がり机に肘を付けながら教室を眺める。
アッシュフォード学園は人吉が通っている学園ではなく、名前も聞いたことがない。
生徒会の役職を与えられていても彼にとってこの学園は馴染み深いものではない。
会長も彼が知っている黒神めだかではなく鬼龍院皐月だ。
どちらも凛々しい女性ではあるが性格、態度、仕草、声色と全てが違う。異なる人物のため当然である。
もう一人の生徒会長であるミレイという人物は長期間学園を開けているため会うことはないが、勿論彼女も知らない。
会計の役職を与えられていた紅月カレンも知らず、聖杯戦争の参加者であることも先ほどまで知らなかった。

NPCと呼ばれる住人に知り合いはいない。仮初めの存在でも見知った顔がいない。
自分だけが異空間に放り込まれた孤独感と知り合いに見られないで済む安心感が鬩ぎ合う。
願いを叶えるための殺し合い、人吉は参加者を殺すつもりはないが勝つつもりでいる。
戦いの末に勝敗を決め、殺すならばサーヴァント。殺したならばテレホンカードで帰還させる。
願いのために他人を殺す――決して等価値になることのない選択を強いる聖杯戦争。
天戯弥勒が用意した聖杯は現実では行われない架空世界での戦争だ。
妄言かも知れないがテレホンカードで帰還可能の情報は少なくとも人吉を安心させるには十分過ぎる情報だった。


「キャースーター」


忘れ物と予想されるコートを捲りながら覗きこむセイバー。
キャスターは当然いない。言ってしまえば見つからないこの状況に飽きている。
椅子を引き腰を降ろすとダルそうに机へ上体を寝かせ悪態をつく。


「見つかんねーぞキャスター、お前の時間もあるってのにこれじゃあ進まねえ」

「このままタイムリミット残念無念また来てねんは避けたい、っつーか馬鹿過ぎてヤベえ」

「その通り、宣言したからにはやんなきゃ男じゃない――そうだろ?」


態度は腐っていても中身は真剣であり、セイバーは人吉に最後まで付き合うつもりだ。
笑いながら人吉の背中を押すように言葉を掛け座ったばかりだが立ち上がる。
体内に溜まった怠さを吹き飛ばすように伸びると肩を回し気分を一心させていた。

人吉はそんなセイバーを見て、どんな感情を抱くのか。
もしアサシンが生きていれば。セイバーのように解りやすい男ではなかったが悪い奴には見えなかった。
話を聞けば暗部だのクラスはアサシンだの世間体で言う闇に染まっていた人間だが力は貸してくれた。
隣に居てくれれば頼りになる存在だったのかもしれない、いや、そうだ、そうに違いない。
アサシン■■■■は人吉自身が呼び寄せたサーヴァントだ、ハズレの訳がない。
故にそのアサシンを殺したキャスターは許せない、既に死んでいる英霊の敵討と行こうじゃないか。
このまま下がれば自分は何をしに聖杯戦争に来たのか、遊びじゃあない。


アサシンを殺した直接的な要因は人吉による令呪の命令、審判は自害の提示。
無論人吉自身が望んだ命令ではなくキャスターによる操り、宝具による対象への傀儡命令。
人形となった人吉はアサシンを自害させ、アサシンに関する記憶は全て消去されている。
これは彼がキャスターとの知り合いであり、打開策の突破口にならないよう立ち振る舞ったキャスターの仕業である。
仮に■■■■から己の情報を人吉善吉に与えられていたら……危険因子は誰だって排除するだろう。


(俺の落ち度が一番の原因だよな……謝っても許されるとは思ってねえ、けど済まなかった)


操られていようと死因は人吉による絶対命令の行使であり、覆ることはない。
キャスターを討ち取ろうと彼がアサシンを殺した事実は消えること無く永遠に彼の中で生き続ける。
罪悪感の鎖に絡まれようが此処で腐る必要はなく、男は前に進む決断をした。
協力者もいる。夜科アゲハとその相方であるセイバー、纒流子が彼に協力しているのだ。
いつまでも自分が腐っている訳にもいかず、彼女の声に彼も立ち上がりながら答える。


「やんなきゃ男じゃない……その通り過ぎて黙っちまったぜ」

「分かりゃいいんだよ、さっさとキャスター殺して帰るぞ」

「そうだな、このまま終わるなんてデビルカッコ悪いぜ……ん?」


奮起の決意を固めた所だが窓の外に小さな異変を感じた。
小さな、それは大きさの問題と些細な違和感の表現である。
一つに校庭に小さな影が見える。背丈から察するに男、それも大柄。
もう一つは大勢の生徒が下校している中、何故校庭に立っているのか。


その男の正体を知っているため、疑問は更地のように無くなるのだが。


「アイツ……セイバー、校庭を見てみろよ」

「校庭だぁ? ンなモン見てどうすん……あァ!?」

「なんだ、お前も知ってんのか」


その姿は互いに見覚えがあった。この聖杯戦争で出会った一人の豪傑。
歴史上の人物像とは異なる砕けた喋り口。
セイバーやアサシンは現代的な英霊であるが校庭にいる男は正真正銘の歴史に眠る英雄だ。
聖杯に招かれし役職は槍兵、刀と槍を扱う男。

人吉は悪い印象を持っていない。少なくともキャスターよりは会話が通じる相手だと認識している。
屋上での会話を思い出すにキャスターの事を少しは知っている様に感じた。
ならば、接触を図り新しい情報を求めようとしよう。


「結構イイ奴だと思うけどよ、屋上から投げ飛ばすのはNGだぜ……!」


纒流子はその男と一度手合わせをしている。
男は強い。勿論自分も強い、負ける理由はない。
先の戦いは中断された。なんでも男のマスターからの命令らしい。
校庭に立っている今、キャスターの件を知らない訳でもないだろう。
現に人吉と面識があるならそれは件の後であり、事情は知っていると察する。
ならば、今校庭に居るのは何故か。それは誘っているからだろう。


「今から行くから待ってな――戦国武将さんよ」










「俺が通う学園で事件……?」


自室に篭っていたエレンはニュース番組で己が通うアッシュフォード学園の事態を目にしていた。


ベッドに潜り込み顔だけを露出させながらテレビを眺めていたエレン。
特にやる気も起きず時間が過ぎるのを待っていた彼はトイレ以外に布団から出ていない。
そんな状況に神様は嫌気でもさしたのか、強制的にエレンに興味を惹かせるイベントを発生させた。

テレビに表示されるアッシュフォード学園の文字は彼にどんな影響を与えたのか。
実際に学園へはまだ通っていないが、流石に名前ぐらいは把握している。
訓練生時代に通っていた物を連想していたが思ったよりも近代的、謂わば彼の世界とは程遠い。
木造が主体ではなく、文明が発達している架空世界の世界観に近い建物だった。

国外の犯行――エレンに言わせてみれば壁の住民達が身内で争っている感覚だろう。
巨人の襲来により壊滅した街の生き残りは新たな壁《保険》を求めて移住する。
その場所で起きる原住民と余所者の争い。人間同士で争っている場合ではないが生きていくためにはしかたがないことだ。

彼の世界の話は置いておき、自分の宿舎が何者かに攻められているのだろう。
許し難いことではあるが、残念ながらエレンにとってアッシュフォード学園は重要な場所ではない。
記憶も無ければ思い出も無く、別に破損しようが爆発が起きようが彼には関係ない話しである。
念の為にだが、エレンは腐っている人間ではなく、寧ろこのような事件が起きれば燃える類の人間だ。
今の彼には自ら動く意思も力も使命も。何一つ感じることが出来ず空っぽの器と呼ぶのが相応しい状態であった。


「もう昼過ぎてんのか……何か食うか」


時計を見ると針は十二を超えていた。
どれだけの時間を無駄にしたかは不明だがエレンは腹に物を入れるため布団から出る。
その足取りは軽くなく、少しよろけていて何処か心配になってしまう。

しかしこの場には彼しかおらず、誰も構ってくれる姿はなかった。

見回りから戻ってきたアサシンは一切口を動かしていない。
壁際のいぶし銀、監視するようにエレンを見つめ、外に出さないようにしている。
エレンの精神状況を考えると交戦が発生する段階で急激な所謂ショック現象に近い事象が発生するかもしれない。

巨人が巣食う悪夢から開放された少年にとって、偽りであるこの世界は優しさに満ち溢れている。
聖杯戦争の視野から逸れれば生活に不満がない、壁の中の住人にとって最高の世界だ。
永遠に住んでいても問題ない。そう思ってしまった彼はもう血腥い世界には戻れない。

だが自室に閉じ籠もっていては空気が悪い。
アサシンの特性から察するに彼が主役になる時、それは夜。
夜は死神の物語であり世界、此処まで交戦していない彼は戦闘を仕掛けに行くだろう。
つまり、夜の間は誰もエレンを止める、守る存在はいない。

外の空気を吸うなら夜だ。大丈夫、出歩いた先で敵と出会う確率などこの優しい世界なら――。









夜科アゲハは学園を後にすると付近の公衆電話を探すため街に出ていた。
地図で表記する所のB-3地点、アッシュフォード学園にも近い場所にて苦労すること無く発見した。


公衆電話は夜科アゲハにとって馴染み深い、本人にとっては良い思い出と断言出来ないが関わりがある。
彼が行っていたサイレンのゲームは荒れ果てた未来の世界を舞台に公衆電話の終着点を目指すものだった。
現代と未来を行き来しながら世界の終焉を回避した夜科アゲハは脳の酷使によって深い眠りにつく。
その後、旅で得た全てのふれあいと思い出の力により眠りから覚める――はずだった。

彼の意識が深く閉ざされた棺桶から脱出した時、瞳に映る光は明るい未来ではなく荒れた荒野の再臨。
おまけに最後には和解……とまではいかないがある程度歩み寄れた天戯弥勒の宣言付きである。
頭痛が痛い、よく解らないが痛いことだけは伝えたい、そんな感覚に陥った。

処理は追いつかないが脳裏に焼き付く聖杯戦争のルール。
隣に居る知らない女はサーヴァント。同世代に見えるが既にこの世から去っている過去の英霊。
学園に潜む他の参加者、新たに誕生した友も参加者、その友に絶望を与えるキャスター。

この世界も混沌に満ちている。それでも人々が日常を過ごしているのが更に狂気感を引き立たせていた。

公衆電話を見つけるとアゲハは赤いテレホンカードを問答無用で差し込む。
ダイヤルは押さず受話器を耳元に当てる。聞こえてくる音はツーツー……機械的な音声のみ。
繋がっていない。それに声も聞こえない。

聖杯戦争の参加者においてテレホンカードの本質を知っているのは夜科アゲハだけである。
時間軸の違いによっては天戯弥勒ですら赤いテレホンカードの存在を知らない可能性もある。
最も全参加者に天戯弥勒から配られている節があるため、杞憂ではあるが。


「繋がらねえ……」


受話器を戻し外の空気を吸う夜科アゲハ。
元々サイレンの赤いテレホンカードはとあるサイキッカーのPSI能力により生まれた物である。
このテレホンカードが存在しているということはそのサイキッカーも聖杯戦争に絡んでいる可能性がある。
しかし彼女は殺し合いに加担するような人間ではない、ならば何故――謎は謎を呼び新たな疑問を発生させる。
一度情報の整理が必要だろう。状況が落ち着いたら纒流子と人吉善吉に知っていることを全て話そう。


「そんじゃもう一回学園に戻るとするか」


公衆電話の設置場所は幸い学園から近い。
これならば最悪キャスターを仕留められなかった場合でも人吉を帰還させることは可能だろう。
実際に帰還出来るかどうかは不明だが初期のサイレンゲーム同様の扱いならば戻れるはず。
何とかなる、前向きに思考を置きつつアゲハは学園に向かう。



「少しいいかしら?」




「――ッ!」


此処は街で今はお昼時だ。行き交う人々がアゲハに話しかける光景は別に可怪しいことではない。
感じる魔力を除けばの話し、彼に言葉を掛けた少女はサーヴァント。
日傘をさしている少女は不思議を含んでいるような笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。


「貴方は天戯弥勒に話しかけていた人で間違いない」

「だったらどうすんだよ。今此処で俺と戦るってのか?」

「誰も戦う何て言ってないじゃない。それとも覚悟は既に完了ってところかしら?」

「何が言いたいかサッパリ解かんねぇけど敵なら――」


腕に力を、戦う力を。
神経を集中させ黒き稲妻の如く溢れるPSIを具現化させるアゲハ。
サーヴァント相手に通用しない――少なくとも屋上での戦いで緑のセイバーの盾には防がれた。
盾の特性上、特別な力が宿っていたのかもしれないがサーヴァントに己の力が通用するかどうかは正直に言って怪しい。
前田慶次にも避けられている前例があるため、彼の暴王の月では太刀打ちは辛いかもしれない。

しかしそんな事を言っていられる状況ではない。

戦わなければ死ぬ。
ならば殺される前に殺す。
世界のゲームは人間にとって優しいプログラムで構成されていない。


「血の気が多いこと……何もこっちだって戦うつもりじゃないわ」

「……は?」

「天戯弥勒について知っていること、教えてもらえるかしら?」


戦闘態勢準備完了バリバリなアゲハは目の前のサーヴァントの言葉に対し間抜けな返答をする。
基本マスターはサーヴァントに敵わない。英霊とは神格なる存在である。
現状、アゲハの近くにサーヴァントはいない。相手が気付いているかは不明であるが。


「……逆に聞くけどやっぱサーヴァントはアイツの事を知らないのか?」

「質問を質問で返す……まぁいいわ。ええ、知らない。貴方のサーヴァントの事も知らないけれど」


夜科アゲハは考える。彼がこの会場で出会った人々は誰一人として天戯弥勒を知らない。
つまりサイレンドリフトでもなければ、未来の世界に居たわけでもなく、再生の日を迎えた世界の住人でもない。
あの世界を知らない人間が多いのは嬉しい事である。何も生きていく上でわざわざ絶望を体験する必要もないだろう。


「俺だけ答えるのは不公平だろ」

「今すぐ貴方を殺すことだって出来る、解っているでしょ?」

「……解ったよちくしょう」


近くに纏はいない。人吉善吉の傍にいるから。
戦闘が始まってしまえば夜科アゲハは確実に負ける、そして死ぬ。
何も解らず真実に辿り着けないまま死ぬのは御免だ。
それに情報を開示したところで、目の前にいる少女のサーヴァントが敵になるとは限らない。


「天戯弥勒はサイキッカーだ」

「サイキッカーって何かしら」

「超能力者ってこと。昼に聞こえてきた声もPSIの力だと思う」

「そう……天戯弥勒は聖杯をどのようにして――」

「悪い、聖杯とかは聞いたことがねえ。そもそも願いを叶える何て有り得ねえだろ」

「……貴方の名前も」

「夜科アゲハ……俺の名前だ」


夜科アゲハが知っている天戯弥勒は聖杯の事など一切話していない。
仮に隠していたとしても願いを叶える、事実ならば天戯弥勒はとっくに使用している。


「ついでに言えばアイツが今何処に居るかも知らない、正直俺も情報がほしい」

「……じゃあ貴方も《知り合い》以外に有用な情報を持っていないのね」

「悪かったな、俺も手探りなんだ」

「まぁいいわ。超能力者ってことを知れただけでも前向きに捉えることとするわ」


大した情報も渡していないが少女のサーヴァントは納得してくれたらしい。
表面、それも薄い情報しか言っていないが。

夜科アゲハにとって問題はこれからである。
少女のサーヴァントの出方が解らない。
このまま立ち去ってくれるのが一番ベストな展開である。
協力体制を取れるなら大いに助かるが望み過ぎも良くない。

殺しの脅しをしてきた相手だ、友好な関係を築くのは難しいだろう。
戦闘になるとして先手を放ち通用しなかったら詰みだ。


「ありがとう……私のクラスはランサー。交換する情報はこれ」

「おいおい、流石にクラスは視認出来てるぜ」


適当な返答をされて尻尾を巻かれてしまえば此方側に有益な情報が入ってこない。
己の生存率を優先させようとしていたが反射的に突っかかってしまった。


「生命があるだけ感謝しなさい、それと――


 ――夜は睡眠をしっかり取ることをおすすめするわ。
 昼が貴方達学生の時間なら夜は私の時間――出歩いていたら生命を落とすかもしれないわよ?」


クスリと一つ笑みを零すと少女のサーヴァントはその姿を消した。
一体彼女は何をしたかったのか。
夜科アゲハを発見しそのまま殺すことも可能だっただろう。だが手を出していない。
情報を聞き出してから幾らでも殺す方法はあったと言うのにも関わらずだ。


「夜は私の時間って梟か何かかよ……ッ」


忠告の類なのか。
言葉通りに受け取ると夜に出会うと殺されるらしい。
サーヴァントに単独で出逢えば昼夜関係なく殺されるとは思うが、今回は運が良かった。
夜になると活発的になる人間は存在する。あのランサーは夜行性だった英霊かもしれない。

結果とした与えた情報は天戯弥勒が超能力者と言う事と自分の名前だけ。
聞き出すならもっと引出されるかと思ったがあっさりと退いてくれた。

夜行性の予測は間違いではないのかもしれない。
まさかな。言葉を零しながら首を振る夜科アゲハ。


「死ぬかと思ったぜ……」


口では軽いことを喋るがその身体は大きく汗をかいていた。
少女の姿とはいえ彼女もまた英霊の一人であるサーヴァント。
溢れ出る魔力と底知れない空気はただの会話でも夜科アゲハにプレッシャーを与えていた。
開放された感覚に酔いたいのかアゲハは公衆電話に寄り掛かり空を見上げる。

お昼が過ぎもう少しで夕焼けに染まる頃。
夜になれば月が浮かび上がりその光を除き辺り総ては常世闇の世界に成り果てる。
ランサーの言葉を守る、という訳でもないが夜は睡眠に回す予定だ。

最も人吉善吉の生還を見届けた後になるが。


『――ん? どうした纏……』











「不思議な力は超能力……呼び方はどうでもいいけれど何かしらの力は持っているらしいわね」


夜科アゲハから天戯弥勒の情報を聞き出したサーヴァント、レミリア。
本来ならもっと多くの情報を盗もうとしたが昼は彼女にとって天敵である。

別段今すぐ屋内に避難、という訳でもないが。

館への帰り道、一度マスターであるウォルターに対し念話を行う。
得た情報、価値こそ微々たる物かもしれない。
だが夜科アゲハの名前を知れた。
天戯弥勒と関わりがある人物、殺すにはまだ早いだろう。
時が過ぎれば主催者である天戯弥勒と対峙する時が来る。その時のために保険がほしい。
次に夜科アゲハと出会った時、限界まで情報を引き出せばいい。どんな手段を使ってでも。


『聞こえるかしら、ウォルター』

『ええ、お嬢様』

『貴方は今何処にいる』

『館に向かっている最中でございます』


夜科アゲハに出会う前に念話をした時、彼は病院の近くに居ると言っていた。今から呼び戻せば到着は夜になるだろう。
夜になれば本来の力を発揮出来る、言ってしまえばレミリアが主役となる時が来る。
それまでの間に一度情報を共有し一度策を練る、そのための呼び出しである。


『解ったわ、そのまま館まで来て頂戴』

『かしこまりました。それで一つ、他の参加者と接触いたしました』

『奇遇ね。私も接触をしたわ、館で一度打ち合わせが必要ね』


ウォルターはとあるアーチャー組との接触。
レミリアはこの聖杯戦争の核心に一番近いであろう夜科アゲハと接触。
夜を主とする彼女達が昼に入手した情報は決して無駄ではない。

夜が到来すればその時の主役は彼女達だ。

ならば日が落ちかけている今、彼女達は拠点である館に集合する。



  ◆  ◆  ◆



地図で表わす座標はC-6。此処は美樹さやかが住む仮初めのマンションがある場所だ。
自室のベッドに座り込むと彼女はサーヴァントであるバーサーカーの不動明に話しかける。


「あたしはほむらの提案を受け入れようと思ってる」


遊園地で旧友である暁美ほむらから同盟の申し込みがあった。
内容は鹿目まどかを守るためのもの。中心は美樹さやかではなく鹿目まどか。

彼女に危険が及んでいる……と推測するべきだが本当なら暁美ほむらは手段を選ばない。
同盟の期限を明日の正午まで伸ばしている。つまり鹿目まどかは緊急事態に陥っている訳ではない。

そして重要なのが鹿目まどかが聖杯戦争に参加している事実だ。

暁美ほむら同様彼女も聖杯戦争に参加しているならば。
この世界に置ける時間軸の混ざり具合は混沌と呼ぶべきだろう。

暁美ほむらは悪魔ではなく、鹿目まどかも女神ではない。


「そうか……俺はさやかとほむらの関係を知らないからな」

「話したでしょ? あいつは転校生で魔法少女で、鉄仮面みたいでムカつく奴で」

「友達、だろ?」

「……うん」


友達。
悪魔だろうと気に入らない奴であろうと暁美ほむらは友達だ。
対面した彼女が悪魔ではないのなら、道を踏み外さないように助けるのが友達の役目。
彼女がどんな状況かは知らないが鹿目まどかを中心に考えているならまだ大丈夫だ。
NPCの可能性も否めないが自分と暁美ほむら、二人の魔法少女が参加しているなら鹿目まどかが居ても可怪しくない。

それに魔法少女は他にも居る。魔力や魔術、魔法と重なる単語は存在する。
惹かれ合うのか呼び寄せられているのか。聖杯の意思とでも呼んでおこう。或いは天戯弥勒の気まぐれ。

バーサーカーも自分の提案を受け入れてくれたため安心する。
どう転ぶかは不明だが鹿目まどかに対する気持ち、暁美ほむらは嘘をつくことがない。


「私は信じたい、だからヤバくなった時は力を貸して」

「今更確認を取ることもないだろ。当然だ、間に合うなら何だってする」

「今、何でもって……えへへ、ありがと」


自分のサーヴァントが彼で良かった。
バーサーカーと聞くと対峙した白髪の英霊のように暴れまわる狂戦士のイメージが強い。

暴れ狂う戦士は昔の自分を思い出し、重ね、気分が後退してしまう。
考えてみれば暁美ほむらには多くの時間軸で多大な迷惑をかけてしまった。
その彼女が自分に同盟を申し込むのだ、聖杯戦争とは恐ろしいものである。

バーサーカーなのにコミュニケーションが取れる。
彼曰く宝具を発動したら危険な状態になるらしいが今一つ実感が沸かない。


『アッシュフォード学園で事件が発生しました』


テレビから聞こえる何気ないニュースの一報が彼女たちの注目を集める。
アッシュフォード学園と言えば本来通うべき場所だ。
与えられた役割を放棄して天戯弥勒の出方を伺う予定だったが現れる気配がない。
彼が取ったと行動といえばお昼に聞こえてきた通達のみ。


「その鹿目まどかって子は学園に通っているんじゃないか?」

「そうかも……でも、それならほむらが動いていると思うし」

「そうか、じゃあ学園での事件は他の参加者の仕業だろう。日本の屋上で爆発何て非日常過ぎる」

(この状況が非日常なんだよなー)

「……どうした? 学園に向かうって言うなら行くことも出来る」

「何でも、それで学園には――行かない。今行っても面倒事にしかならないと思う。
 今日はもうゆっくりしよう。夜が明けてからあたし達は遊園地に向かう。それで暁美ほむらと話す」


仮に学園での事件がサーヴァントの仕業だとして。
戦火に飛び込むのは無謀過ぎる。敵が何処に潜んでいるかも解らないのだ。
アサシンが一人脱落しているが、マスターの生存は明かされていない。
つまり、再契約を狙っている可能性もある。外を無闇に出歩いていれば危険が増すだけだ。


現実的に考える。常識というものだ。
事件が発生しているなら学園にもう生徒はいないだろう。
其処に今から向かう、怪しすぎる。自分が聖杯戦争の参加者と言っているようなものだ。
そうでしないにしろ、警察に不審者や犯人候補として目を付けられるのが目に見えている。


「解った。話は変えるがほむらのサーヴァント……あの老人についてだ」

「キャスターだね。正直胡散臭いしあんな悪趣味な人形を作ってる奴が良い英霊なワケがないと思う」

「ああ、裏があるタイプだ。それもドス黒い底なしレベル」


遊園地に巣食う不気味な笑みを浮かべていた老人が暁美ほむらのサーヴァント、クラスはキャスターである。
悪趣味な人形を大量生産させ徘徊させている、狂気に満ち溢れているあの光景はもう見たくない。
暁美ほむらと上手くやっているのか。関係はないが心配してしまう。


「あ」

「何か言いたそうな顔をしているな」


暁美ほむらの心配を考えて一つ、接触した時のことを思い出す。
あの時暁美ほむらはどのようにして会話していたのか。
勿論会話なのだから声を出しているには違いない。彼女だけの世界だ。


「ほむらはサーヴァントに自分のことを説明していないと思う」

「根拠は?」

「時を止める魔法のことを黙っているだって。だからあたしにも黙ってろって時間止めながら話してた」

「時間を止めながら……サーヴァントが言う台詞でもないが魔法少女も何でもアリみたいだな」

「魔法は最強、みたいな? だから多分だけどもし戦うことがあるならほむらを上手く説得すれば回避出来るかも」

「令呪の力だな。確かに自害させた後に帰還してもらえれば大分楽になる。よく思いついたな」

「そ、そう?」(自害させるとかは思い浮かばなかったけど……まぁいいか)




◆  ◆  ◆




「俺は君を守る……だから安心していてくれ」


一人呟くと間桐雁夜は寝てしまった間桐桜の身体に毛布を掛けた。


間桐桜がNPCとして存在している。この事実は間桐雁夜の心の闇を明るく照らす。
晴れる訳ではない。だが絶望に面している彼の精神は少し救われた。

仮の生命だろうと見た目は間桐桜そのもの。
偽物だろうと見捨てることは出来ない、最後まで守りぬくだけ。

幸いにも己の身体の調子は良く、魔力の量も確実に増えている。
天戯弥勒の言葉をそのまま受け止めると蟲の使役をした段階で身体が崩壊するらしい。
回数に制限が生まれた。元々サーヴァント頼りだが更に頼ることになる。
魔力の量が増えたことは本当に不幸中の幸いであった。

必要以上にサーヴァントを現界させず、今は霊体の状態を保たせている。
この夜時は眠る、勝負を仕掛けるなら回復した後だ。
彼の身体もバーサーカーも連戦により消耗がある。もし今戦えば余計な損傷になってしまう。

もう一度悪魔のようなバーサーカーと戦えば命の保証はない。
脱落したサーヴァントは一人、夜になれば更に戦況は加速するだろう。
無闇に顔を出さず今は来るべき時を待つのが正しい行動だ。彼はそう思っている。

警察のNPCは日付が変わる直後付近までは辺りを見回るらしい。
ならば襲撃者がいてもその時間帯は安全、或いはその存在に気付くだろう。

休むなら今。
間桐桜はソファーで眠っている。
間桐雁夜はその横に座る形で仮眠を取ることにした。
嘘や闇、血や妬みで固められた聖杯戦争、せめてこの時だけでも幸せな夢を見たいものである。

瞳を閉じた空間に見える未来は希望か絶望か。
来るであろう夜の血戦、暴れ狂う戦士が齎すのは聖杯か――それとも。









連戦を終えた虹村形兆とライダーは座標B-2にある拠点に戻り休憩を挟んでいた。
休憩と言っても通っている予定になっていた学園のニュースを見れば安らぎも得られない。


「天戯弥勒の声が聞こえたと思えば学園で爆破、おいおい日常ってのはないのか?」

「コイツは戦争だ。しかも時間はそう掛からねえぞ、脱落が一人ってのは遅え」

「落ちたのはアサシン……暗殺者が最初に落ちる? 馬鹿かソイツは。
 どんな奴かは知らんが最初に落ちた奴だ、どうせ大した英霊でもないんだろ」


天戯弥勒の声から判明した参加者の人数、そしてアサシンの脱落。
隠密に重点を置くアサシンが最初に落ちる予想はしておらず、結果として面を喰らう。
溜息混じりに話す形兆、吸血鬼にサキュバスとお伽話のような相手と戦っていて疲労が溜まっていたのだろう。
愚痴のように見たこともないアサシンについてボロクソ言葉を紡ぐ。


「先入観で総てを決め込むたぁ随分な言い回しじゃねえか……。
 英霊ってのは何かしら『証』を立てた奴だ、その英霊に大したこと無えとは冗談が過ぎる」

「……気にでも触れたか?」

「勝手に決め込んでると足元救われっぞって事だ」


ライダーの発言は正論だ。返す言葉が見付からない。
結果論ではあるがアサシンは例えば、例えの話として激戦の果てに死んだ可能性がある。
スタンドやサーヴァントが入れ乱れる問答無用のバトルロワイアル、その最中に死亡した。
そう仮定すれば口が裂けても雑魚とは言い切れない。
しかし考えれば考えるだけ無駄、言ったもん勝ちの思いもん勝ちである。

ライダーはテレビを見つめると一つ話を零す。


「行ってみるか、此処」

「今行けば確実に面倒事になるだろうが、それにお前は連戦で消耗してる」

「テメェの言葉どおり休憩してんだ、それでも不服か?」

「聖杯戦争ってのは時間が掛からない、そう言ったよな?
 だったら少しでも休める時に休むってのが定石だろ、今は敵が近くに居ない」

「口ばっかり回るじゃあねえか形兆……まぁテメェも魔力使ってんだ、休んどけ」


喧嘩を売るわけでもない。ライダーはただ甘く見ている形兆に忠告をしただけ。
それに状況を甘く見ている訳でもなく、彼らは休息を、体勢を整える手段を選ぶ。

夜が来る――黙っていても宴《イクサ》に呼ばれると確信しているから。













多くの参加者がアッシュフォード学園に関するニュースを見ているなら。
病室で寝ている浅羽の部屋に流れていても何ら不思議な事はない。


点滴を受けベッドで横になっている浅羽はその意識を眠りに委ねる。
移動中の救急車の中で既に疲労とPSI粒子の効果が作用し彼の脳には絶大な負担が掛かっていた。


(経過した時間から計算して日付が変わる前には起きる)


ベッドに腰掛けていた状態から立ち上がり空を見つめるアーチャー。
思えば浅羽は空をよく眺めていた。
その眼差しは憧れや理想といった崇拝的な心は宿っておらず、何処か寂しさを残していたような。
その瞳を潤いで満たすには聖杯の光が必要になるだろう。
過程はどうであれ手にした者の願いを叶える唯一無二の存在である聖杯、手に取れるのは一人のみ。

天戯弥勒の通達を受け一人の脱落を確認したが残りはまだ十三組存命している。
脱落した情報もアサシンのみであり、マスターの生死は明かされていない。
何処かに息を潜め、再契約を狙い嗅ぎ廻っている可能性もある。

窓の縁に腕を置く。遠くを見つめるように、蒼い空を。
この空の向こうには何が存在しているのか。それは宇宙だとか地平線の話ではない。
創られた、或いは用意されたこの架空世界は現世から切り離されているのだろうか。

外からの干渉を受けない孤島の離島、聖杯戦争《殺し合い》には丁度いい。
NPCと呼ばれていても所詮は日常の演出に過ぎない彼らは害ではなく無と表現しよう。
敵は他の参加者のみ。アーチャーが出会ったのは三組、六人ではないが。

一人は老人、もう一人は少女とバーサーカー、更にバーサーカーと白い男。
全参加者は十四組であり人数で表記すればその数は二十八。
その中の五人と接触しているのは運が良いのか悪いのか。

アーチャーは知らないが他の参加者と接触していない者も存在するため恵まれている。
これまで主な魔力を消費せずに他参加者の情報を持っている参加者の数は極端に少ない。

(これからどうするか、起きたら天戯弥勒の話をしないと)

一度情報を整理しよう。
踵を整えながらアーチャーは通達を思い出す。
天戯弥勒の姿は見えなかった、しかし声は確かに聞こえた。
反響するかのように脳内を駆け巡った音声、眠っている浅羽には聞こえたのだろうか。
その確認を踏まえ、目が覚めたら一度相談の意味合いも含め通達の話をする必要がある。


天戯弥勒の言葉を信じるなら再三繰り返すが脱落したのはアサシン、参加者は十四組。
そしてアーチャーが出会ったサーヴァントは二人の狂戦士である。一人は目撃に過ぎないが。

本来の聖杯戦争は七騎のサーヴァントを招ねき欲に汚れた人間の戦いである。
今回のサーヴァントは十四騎、正規よりも倍の数に膨れ上がっているのだ。
出会ったサーヴァントが既に狂戦士、それも二人。招かれているサーヴァントは各クラス二人ずつと考えられる。

暗殺者が減った事実は生身の人間、自分のマスターを含む魔術師とは関係ない存在にとって明るい話題だろう。
気配を消され後ろから生命を狙われる。常に恐怖と戦う心境は度が過ぎれば精神を壊してしまう。
夜が来れば尚更人間の恐怖心は煽られ、正常な判断が下せないかもしれない。
通達の内容が真実であればの話だが、此処で嘘をつくメリットもなく、この情報は前向きに捉えるべきだろう。


天戯弥勒の真理は解らない。答えと言えばマスターの病状も不明である。


この地特有の風土病などと説明されたが、天戯弥勒が用意した世界ならばこの病状は彼からの贈り物《嫌がらせ》かもしれない。
発熱を含むその症状は確かに風邪の位置付けは可能であるが不自然とも捉えれる。
第一に世界の場所が解らないこの架空世界で『特有』など信用出来る物ではない。罠か何かだろうか。
しかし点滴を行っていると浅羽の顔色は元に戻り始めているため本当に風邪なのかもしれない。

疑いを重ねればこの点滴そのものが一種のウイルス的な可能性もある。
小さな疑問が幾つも重なりやがては大きな壁となること。
情報が少ないこの状況で解を求めるのも無理な話だが一度、他参加者と会話が必要だろう。
人が変われば視点も意見も総てが異なり、己の意識に対して他者の介入は時として思いもよらぬ収穫があるかもしれない。

浅羽の状況にもよるが目を覚ましたら一度、外を出歩く提案を決意。
彼の精神的負担も考えて外の空気を吸う意味合いも重ねて一度打診してみるべきか。

他の参加者に出会い、会話或いは同盟が組めれば御の字。
例え戦闘に発展したとしても此処は聖杯戦争、一度の戦闘も行わずして勝ち上がれる程甘くはない。
この身でマスターを守り聖杯を捧げる。それが従者、サーヴァント。


(謎の症状と浅羽くんの力……天戯弥勒……聖杯戦争……PSYREN……。
 必ず共通点はあるはず。だけど、今は点同士が独立していて線にならない。
 夜に出歩いて他の参加者と接触すれば答えに近づくかもしれない。やってみる価値は――ある)



【A-4/エレン自宅(マンション)/一日目・夕方】


【エレン・イェーガー@進撃の巨人】
[状態]
[令呪]残り3画
[装備]立体機動装置
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り巨人をこの世から駆逐する。
0.夜になったら外出する
1.今後の方針を考える。
2.明日になったら登校する。
3.生きている人間を……殺す?
[備考]
※アッシュフォード学園中等部在籍予定です。
※天戯弥勒の通達を聞いていません。
※学園の事件を知りました。


【アサシン(ジャファル)@ファイアーエムブレム烈火の剣】
[状態]
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:獲物を殺す
1.夜になれば戦闘を開始する。
2.甘さは捨てろ……。
[備考]
※ランサー(レミリア)、ウォルター及びライダー(白ひげ)、虹村形兆の姿を確認しました(名前は知りません)
※奇妙な兵隊(バット・カンパニー)を視認しました。
※公衆電話の異変を感じ取りました。
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※学園の事件を知りました。


【B-3/一日目・夕方】


【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態]ダメージ(小、スキル:吸血鬼により現在進行形で回復中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ウォルターのためにも聖杯戦争を勝ち抜く
1.夜になるまでは拠点で休息
2.ウォルターと合流後、今後の方針を決める
3.アッシュフォード学園に使い魔を……?
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※夜科アゲハを確認しました。
※天戯弥勒がサイキッカー(超能力者)と知りました。


【C-5・市街地/一日目・夕方】


【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]健康、魔力消費(微小)
[令呪]残り3画
[装備]鋼線(ワイヤー)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:全盛期の力を取り戻すため、聖杯を手にする
1.館に向かう
2.アシュフォード学園内での情報集手段の模索
3.アシュフォード学園近隣で監視に使えそうなポイントの捜索
[備考]
※浅羽、アーチャー(弩)を確認しました。


[共通備考]
虹村刑兆&ライダー(エドワード・ニューゲート)と交戦、バッド・カンパニーのビジョンとおおよその効果、大薙刀と衝撃波(震動)を確認しました。
発言とレミリアの判断より海賊のライダーと推察しています。


【C-6/自室/一日目・夕方】


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]ソウルジェム
[道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ、財布内に通学定期
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.明日の正午までに暁美ほむらへ回答する。
2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことに加え、あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う
[備考]
※浅羽直之、アーチャー(穹撤仙)を確認、フェザーと名乗られました。
※暁美ほむらが昔(TV版)の存在である可能性を感じました。
※暁美ほむらが何かしらの理由で時間停止に制限が掛かっていることを知りました。


【不動明(アモン)@デビルマン】
[状態]ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.さやかに従い行動
2.あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う
3.マスターを守る
[備考]
※穢れの溜まったグリーフシードを『魂喰い』しました。今のところ影響はないですが今後何らかの影響があるかは不明です。
※キャスター(フェイスレス)に不快感を覚えています。


[共通備考]
※マップ外に出られないことを確認しました。出るには強力な精神耐性か精神操作能力、もしくは対界宝具や結界系宝具が必要と考えています
※マップ外に禁人種(タヴー)を確認しました。不動明と近似した成り立ちであるため人間に何かがとりついた者であることに気付いています。NPCは皆禁人種(タヴー)の材料として配置されたと考えています
※間桐雁夜(名前は知らない)、バーサーカー(一方通行)を確認しました。
※暁美ほむらとの交渉『鹿目まどかを守るための同盟』の回答期限は2日目正午までです。
※キャスター(フェイスレス)を確認しました。
※学園の事件を知りました。
※夜は眠る方針を取っています。


【D-4・間桐邸/一日目・夕方】


【間桐雁夜@Fate/zero】
[状態]肉体的消耗(中)、精神的消耗(小)、魔力消費(小)、PSIに覚醒
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。
1.間桐桜(NPCと想われる)を守り、救う。
2.夜は外を出歩き敵を探す。
3.蟲の使役に注意する。
[備考]
※ライダー(ルフィ)、鹿目まどかの姿を確認しました。
※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。
※セイバー(纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。
※バーサーカー(不動明)、美樹さやかを確認しました。
※PSI粒子の影響と一方通行の処置により魔力量が増大しました。
※お茶は戦闘を行ったD-4の公園に放置してきました。
※PSI粒子の影響により身体能力が一般レベルまで回復しています。
※生活に不便はありませんが、魔術と科学の共存により魔術を行使すると魔術回路に多大な被害が発生します。
※学園の事件を知りました。


【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:■■■■───
1.───(狂化により自我の消失)
2.マスターを休息させる
[備考]
※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。
※アポリオンを認識し、破壊しました。少なくとも現在一方通行の周囲にはいませんが、美樹さやかの周囲などに残っている可能性はあります。


【B-2/自室/一日目・夕方】


【虹村刑兆@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[装備]いつもの学ラン(ワイヤーで少し切れている)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:おやじを殺す手段を探す。第一候補は聖杯。治す手段なら……?
0.吸血鬼の次はサキュバスかよ…
1.休養後、夜の戦いへ備える。
2.登校するかどうかは気分次第。
3.そのうち海に行ってみるのもやぶさかではない。
4.公衆電話の破壊は保留。

[備考]
※バッド・カンパニーがウォルターに見え、ランサーに効かなかったのを確認、疑問視しています。
→アーチャーとの交戦を経てサーヴァントにはほぼ効かないものと考えています。
※サーヴァント保有時に紅いテレホンカードを使用しても繋がらない事を確認しました。
※サキュバスなどのエネルギー吸収能力ならばおやじを殺せるかもしれないと考えています。
※学園の事件を知りました。


【ライダー(エドワード・ニューゲート)@ONE PIECE】
[状態]ダメージ(中)、疲労(小)、魔力消費(小)
[装備]大薙刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:刑兆の行く末を見届ける
1.行動に移すべきと考えているが…
2.麦わらの男が気になる。
3.いずれ海に行きたい。
[備考]
※NPCの存在、生活基盤の存在及びテレカのルールは聖杯、もしくは天戯弥勒の目的に必要なものと考えています。


[共通備考]
※ウォルター&ランサー(レミリア・スカーレット)と交戦、宝具なしでの戦闘手段と吸血鬼であることを把握しました。
※アーチャー(モリガン)と交戦、宝具『闇より出し幻影の半身(アストラルヴィジョン) 』とサキュバスであることを把握しました。
※B-2近辺にこの世界における自宅があります。


【C-7・病院/一日目・夕方】


【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]気絶
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得を目指す
[備考]
※PSI粒子の影響を受け、PSIの力に目覚めかけています。身体の不調はそのためです。
→念話を問題なく扱えるようになりました。今後トランス系のPSIなどをさらに習得できるかは後続の方にお任せします。
※学園の事件を知りました。


【穹徹仙@天上天下】
[状態]健康
[装備]NATO製特殊ゴム
[道具]ダーツ×n本
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を目指す
1.目覚めを待つ
2.浅羽の体調が戻ったら今後のことを話しあう(夜の提案をする)
[備考]
※学園の事件を知りました。

[共通備考]
※美樹さやか、不動明、間桐雁夜、一方通行の戦闘を目撃しました。





   ◆  ◆  ◆





『やぁやぁやぁ、みなさん。こんにちはとでも言おうか』


『こんばんはでもおはようでもいい。業界用語でも何でも、ね』


『今回の幕間は僕が担当する。こんな所で僕を見れるなんて君たち最高に憑いてるぜ?』


『こう書けば凄い球磨川くんみたいだぜ……って前置き的なのはこの辺にしといて』


『昼の舞台は学園パートを主体とした所謂キャスターの企みが目立っていたね』


『心を操る下衆な能力……僕の数は自慢な能力の中にもあるけど。強いぜ? 個人的には使わないけど』


『学園都市の超能力者同士の対決はまさかの結末。本来なら有り得ないだろう物語が展開されるのが聖杯戦争さ』


『誰も結末を知らない。知っているなんて言ってる奴は妄想を吐き出しているだけの奴だから相手をするな……話が逸れたね』


『さっきまで短いスパンでスポットが当てられた役者の多くは夜に行動を開始する方針を取った』


『昼の主役が学園に通う学生なら、夜はその他……役者の演目が変わるってこと』


『だけどこの物語には筋書きが存在しないんだ。でも全部がアドリブって訳でもない』


『予定よりも遅く幕が上がった今回の物語、筋書きはありきたりかも知れないけど《役者》が素晴らしい』


『舞台に上がっている役者は誰もが一級品さ。眩しいぐらいに、ね』


『だからもしも君たちに時間があるなら最後までこの物語と役者達を見届けて欲しい。それで最後に最高の拍手喝采――なんてね♪』


『何もこんな事を言うために僕は出て来たんじゃない。此処は後書きじゃあないんだ。次から始まる学園の物語、人吉善吉くんの行く先が気になる』


『なんせこの舞台には主人公が存在しないからね。生き残るには《神様の気まぐれ》がとても重要になってくる』


『ただ――こんな所で終わる男とは思っていないけどね』





   ◆  ◆  ◆





少しだけ吹いている風が男の髪をそっと揺らしている。
この風、弱々しいがやがて嵐となり戦場を荒れ回すだろう。
そしてその時は今、校庭に立つ戦国武将と到着したセイバーが睨み合う。


「まった会ったな……仲の良い兄ちゃんはどうした?」

「アゲハか? アイツはどうしようもねえ野郎だった。だからマスターを変えた」

「……詳しくは聞かないけどよ、人吉だっけ。お前が新しいマスター?」

「リベンジマッチと行こうぜ戦国武将、屋上からぶん投げられた分のな」


以前ランサーとセイバーが戦った時、セイバーの隣に居たのは夜科アゲハだった。
人吉善吉ではなく夜科アゲハ、前者はサーヴァントを失っていた。ならば再契約と考えるのが妥当である。
しかし夜科アゲハとセイバーの仲は良好に見えた記憶がある。従者と主の関係ではなく対等的な関係だった。

喧嘩別れなら納得出来ような気がするが果たしてそれは良いことなのだろうか。

「投げたのは悪い。けど怪我しなかったろ?」

「結果論じゃねえか! 痛かったんだよ!」

「ちゃーんと計算して投げたんだ、許してくれ」

ランサーが人吉を屋上から投げたのは再度キャスターの魔の手に掴まされないため。
もう一度操られてしまえば心の傷は深くなり立ち上がれなくなるかもしれない。

「計算ってマジかよ……」

「おいおい、納得すんなって」

ランサーが想像よりも頭が回る男で戸惑う人吉とは対照的に平常心を保つセイバー。
その服は黒いセーラー服に変わっており学園ということも相まって女子高生に見える。
一歩踏み出し前に出ると敵に言葉を吐く。

「お前キャスターの味方なんだよな?
 人吉がどうなったか知ってるだろ、それでも味方のままでいんのか?」

他者の心を操るキャスター。
実際に見たことはないが人吉から話は聞いてある。
自分にサーヴァントを自害させる行い。外道と呼ぶ他に何があると言うのか。


「……一度結んだ同盟はそう簡単に切れないさ」

「戦国武将が言うと深く聞こえるな、でも……分かったよ――テメェはあたしの敵だ!」


言葉を言い切る前に一歩二歩と踏み出しそのまま加速するように走る。
右手に握るは彼女の代名詞である片太刀バサミ。それを斜めに斬る。

ランサーもまた武器である刀を振り回す。
身の丈以上あるその刀の扱いは振り回すと表現しても差し支えない。
両者に到達する前に武器は重なりランサーが言葉を回す。

「敵は元々之は聖杯戦争。相手になるのは問題ないってなァ!」

「否定しねえよ、あたしはただそのキャスターって奴がムカつくだけなんだよォ!」

一歩引くともう一度踏み込み再び武器が重なる。
均衡状態、両者退かず何度も何度も己の武力を振り回す。


均衡状態から流れるように左へ移動するセイバー。
前に身体を押しこみ脇腹を斬り裂くように鋏を振るうもランサーは防ぐ。
地面に刀を突き刺し己の身体の自由を確保した上で鞘でセイバーを吹き飛ばす。

身体に鞘の一撃を受けたセイバーは大地を数回転がるが立ち上がり血を吐く。
傷は深くもなければダメージの蓄積もありゃしねえ――片腕を構えると彼女は吠えた。

「テメェを倒さなきゃキャスターの所へ行けねえ邪魔すんな!
 それでも戦うってんなら早く終わらせる、人吉がケリ着けられないから――人衣一体!」

赤手甲の栓を抜くと彼女の身体は神衣である鮮血と同化する。
サーヴァントであり宝具であり人間であり服でもあるのが彼女達。
血《繊維》はセイバーの身体を巡り回って彼女はそれを纏う。
身体の露出は増えようと恥ずかしさはない。ありのままの姿を恥じる必要など無いのだから。

「神衣鮮血!」

之がセイバーの宝具であり彼女の戦闘スタイルであり纒流子である。
鋏を肩に乘せ人吉に一度視線を移した後、ランサーの方に向き直す。

「戦国武将だか何だか知らないけど歴史に眠ってろおおおおおおおおおおお!」

「サーヴァント何だからお前も一緒だってのッ!」

鋏を上げず大地を削りながらランサーの元へ走るセイバー。
対するランサーは刀を構え迎撃の体勢に移行する。
その姿に隙は存在せず、正面から一撃を加えるには厳しいだろう。

「ッラァ!!」

隙がないなら創ればいいだけのことだ。言葉にするぐらいなら実行しろ。
鋏を勢い良く振り上げると同時に自分は高く飛翔。
空中では身動きが取れなくなる。ランサーはその隙を狙い刀を振ろうとするが思わぬ攻撃を受けた。

「す、砂」

大地から振り上げられた鋏は砂塵を纏いランサーに襲い掛かった。
ダメージは与えられないものの戦場において視界を奪われるのは行動に多大な影響を及ぼす。
前が見えないランサーだがセイバーが上空に上がったのは覚えている。
そして影も見えているのだ、刀を鋏が来るであろう場所に構えた。

「防ぐとはやるじゃねえか、卑怯とは言わせねえからな?」

「そうかい、そうかい。面白い奴だなァ!」

セイバーの一撃を防いだランサーはその体勢のまま刀を押し出し均衡状態を崩す。
その後踏み込み斬り裂かんと刀を振るうがセイバーも同じ考えを持っていた。
再び鍔迫り合う二人の英雄。両者一歩も退かずこの状況に対して笑みを零していた。

「これがサーヴァント同士の戦い……」

人吉善吉は思う。彼らは本当に人間の枠を超えている存在だと。
彼の周りにも飛び抜けている異常者達は存在していたがどうも解り難い存在だった。
能力的に考えて《凄い事実は解るが実際どの程度凄いのかよく解らない》人達が多かったのだ。
戦闘を行っているサーヴァントの強さは説明不要の能力でありとても解りやすい。

「此処から離れる訳にはいかねえ、けどキャスターの奴も探さないと」



  ◆  ◆  ◆



食堂にて羽を休ませる犬飼伊介とそのサーヴァントであるキャスターこと食蜂操祈。
宝具の使用は魔力の消費を伴う。
それは宝具以外でも適用されサーヴァントはマスターの力無くして力を発揮出来ない。
補うスキルや能力を持っていれば話は別だが生憎キャスターは持ち併せていない。

「ニュースになってるけど警察やマスコミが中に入って来てないのは?」

「聞かなくても……解るよね☆」

キャスターの宝具は他者の心を操る力。
彼女は外の人間に対して学園に干渉しないように手を回していた。
勿論総ての人間ではなく命令権利等を所有している一部の管理職や現場指揮官のみだ。
全員に使っていては魔力の消費と実績が噛み合わず最後には馬鹿を見てしまう。

マスターである犬飼伊介は思う。
この女はあろうことかマスターである自分を見捨てて一度逃走しているのだ。
アサシンが知り合いだったらしいがそれを理由にするのもどうかと思う。
カップを揺らしながら中を見つめる。黒い、キャスターの心も黒いのだろうか。
根まで黒い人間には見えないが一度裏切られた事実は重く心に残っている。
サーヴァントは人間の事を軽く見ているのか、そんな疑問まで生まれてくる。

「あ、ランサーがセイバーと交戦……っ」

携帯の画面を見て呟くキャスター。
洗脳した生徒から携帯を貰い受け情報収集をさせている他の生徒から連絡が入った。
中身は校庭にてランサーとセイバーが交戦を開始した旨、書かれている。

報道の影響から他の参加者が来る事を予測したキャスターはランサーを校庭に配置した。
理由は単純であり目立つから。中を散策するよりかは目立つだろう。
案の定セイバーが釣られ戦闘が開始したのだ、頃合いを見て伺ってみようか。

そう思っていたが状況は思ったよりも奇妙になっていた。

「どうしたの♥」

「セイバー……纒流子のマスターは夜科アゲハから人吉善吉に変更されたって」

天戯弥勒の通達から明かされた十四の参加者。
正規の数は七。その倍である今回の聖杯戦争は各クラス二名と考えるのが自然である。

セイバーは緑の剣士と学生のような女の二名、顔は割れている。
前者は既に学園から出ているとの情報がある。そこから先は掴めていないが。
後者であるセイバーは一度ランサーと交戦経験があった。
血気盛んと呼べばいいのだろうか、再戦にしては早過ぎる。


「人吉善吉……アサシンのマスター?」

「あいつ……生かしといたのは失敗だったかな?」


夜科アゲハが何処かへ消えたかは不明だが人吉善吉は纒流子の新たなマスターになったようだ。
サーヴァントが失われてから六時間は生命の保証がある。
その猶予の中で新しい契約を結ぶことは可能だ、寧ろ願いを求めるのだ、そのぐらいの意地を見せろ。

「まぁいいや☆ ちょっと行ってくるねー」

席から立ち上がったキャスターは演技のような笑顔をマスターに向け手を振った。
そのまま扉へ向かい、言葉から察するに校庭に行くようだ。

「ちょ、ちょっと――」

「何かの外部因子で記憶が戻って私の事を話されたら面倒でしょ?
 だから先手を打って戦闘中にもう一度心を操って自害させるの――邪魔しないで?」

「――っ」

それだけを言い残し扉から出て行くキャスター。
その言葉には軽い意思は籠もっておらず真剣其の物――記憶の有無はサーヴァントにとって脅威だ。
真命から対策を練られては太刀打ちの仕様がないのだ、キャスターならば尚更である。
正面からの戦闘に向かない魔術師は決して己の素性を明かしてはならない。

勝ちたいのだろう?
生き残りたいのだろう?
醒めない夢を見ていたいのだろう?
願いを叶えたいのだろう?

ならば最後まで手を抜かず戦い抜けろ。

「……そんな目が出来るなら裏切りみたいなことしないでよ」







   ◆  ◆  ◆








学園の近くまで来ていたのはタダノと鹿目まどか。
両者の共通点と言えば同じ聖杯戦争の参加者であり同盟も組んでいる。
故に一緒に歩いていることに問題は存在しない。

「もう一度聞くけどいいんだね、まどかちゃん」

「はい。私はいつも誰かの後ろに隠れていました」

喫茶店にて会話を行った時、タダノは事件があった学園に向かうと言った。
警察という与えられた役職柄、向かう必要性が生まれたが何も理由はそれではない。
犯人は犯行現場に戻る――でもないが、確実に誰かは学園に来るだろう。
或いはそのまま潜んでいる可能性もある。つまり敵が居るのだ。
黙っていては何も始まらない。行動を起すべきだ。

その点では鹿目まどかにとって辛い出来事になるだろう。
聞けば彼女は聖杯戦争に巻き込まれた参加者だという。
殺し合いの強要をさせられているようなものであり、中学生には辛い環境を強いられている。

だが彼女は内容こそ明白にしないものの、言葉や表情から何か《裏》を感じさせる。
まるで似たような体験をしてきたかのように、現実は甘くないことを知っているようだった。

「でも自分から動かないときっと後悔するって……ライダーさんを見て思ったんです」

「分かったよ、ただ気を付けてね」

中学生で今を未来の為に動く、後悔しないための選択を視野に入れる子は中々いない。
鹿目まどかは違う、彼女は魔法少女の運命に巻き込まれているから。

「……あんな風にならないためにも、ね」

バイクをノーヘルメットで乗っていた男女二人を見ながらタダノは笑う。
これから向かう先は闇が巣食う魔の学園だが行く前から気負う必要はない。
場を和ませるのも大人の仕事……犯罪者だが今の男女には助けられた。

「学園はどうやら明日は普通にあるらしい。信じられないね」

署からの連絡では学園の復旧作業は今夜の内に終了するらしい。
正直に言って有り得ない。着工までの間が短すぎる。常識の欠片もない。
この世界の治安管理はどうなっているのか。天戯弥勒が創りだした世界なら彼が管理しているのか。
だとすれば納得が出来なくもないが、NPCの存在性を疑う。

「爆発が起きた学園には行きたくないですよね……」

困ったように笑う鹿目まどか。
登校禁止が当たり前だが学園側の判断に理解を示すことが出来ない。
たしか生徒会長はミレイと鬼龍院皐月と呼ばれる二人の女性が担当していたはず。
前者は外国に行っているらしいが後者は規律を守る人間であると聞いている。
そんな彼女なら明日は休校日にすると思う。ここまで考えて鹿目まどかは気付く。


(生徒会長さんがそんな権利持つ訳ないよね)


当然である。
だが彼女達のオリジナルは方向性は違うが決定権に近いナニカを握っていた。
両者が揃ってイエスと言えば大抵の事はどうにかなるだろう。

などと会話をしている間に学園前まで到着した。
感じられる魔力からサーヴァントが居るのは確実だろう。
それも聞こえてくる音は戦闘のモノであり複数いると予想出来る。

「じゃあ行ってくる!」

「え、ええ!?」

戦闘に刺激でも受けたのか霊体化していたライダーは許可も得ずに走っていた。
校門を抜け戦闘が起きているであろう校庭へ一直線だ。

「タダノさん。す、すいません……」

「頭が痛くなる話だけどまどかちゃんは悪く無いからね」

正直に言えば馬鹿な男だとは思うが口にはしない、出来ない。
直感的に動くライダーは生前も世界を駆け巡っていたのだろうか。
猪突猛進勇猛果敢。流石は英霊、怖いもの知らずといったところか。

「あら魅力的な男性ね」

「ふぇ!?」

「心配しないで。僕のサーヴァント、アーチャーさ」

新たに現れたサーヴァントはアーチャー。
鹿目まどかは突然の襲来に驚くもタダノサーヴァントと知って安心する。
タダノからは別行動を取っていると聞いていたが合流したようだ。

「僕はこれから学園の中に入る。アーチャーは此処でまどかちゃんと一緒に待っていてくれ」

「私はダメかしら。宴に混じりたいんだけど?」

「危険になったら呼ぶからその時は来てくれ」

「わ、私も一緒に行きます」

「いや、危険だからちょっと見てくるだけさ。だから此処で待っていてくれ」

「男の人のちょっとはあまり信用にならないけど……いってらっしゃい」

流石に鹿目まどかを一緒に連れて学園に入るのは気が引ける。
そもそも彼女はタダノに出会わなければ恐らく学園に向かう選択をしなかっただろう。
責任を感じているわけでもないが、危険を調べてからでも遅くはない。

「それと一つ言いたいことがあるの」

背を向け歩き出していたタダノをアーチャーは止めた。
何だ、そう思い振り返る。
返ってきた言葉は予想出来ていなかった。



「さっきすれ違ったバイクの男女、聖杯戦争の参加者よ」



「……もっと頭が痛くなったよ」




◆  ◆  ◆





「何だか疲れたね」


バイクを止め休憩する紅月カレンとセイバー。
今の学園に居座るのは危険過ぎる。
精神を乗っ取られては安心して過ごすことが出来ないから。

加えて天戯弥勒の通達もある。
一度何処かで情報を整理しなくてはパンクするだろう。
パンクしてしまったらもう一度走りだすには時間が掛かる。

この夜で一度深く聖杯戦争について考えなくては――。


【B-3/アッシュフォード学園外/一日目・夕方】


【紅月カレン@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]疲労(中)、魔力消費(中) 、脇腹に切り傷(止血済み)
[令呪]残り3画
[装備]鞄(中に勉強道具、拳銃、仕込みナイフが入っております。(その他日用品も))
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:願いのために聖杯を勝ち取る。
1.ひとまず学園から離れる。
2.食蜂操祈に強い敵意。
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※学校内での自分の立ち位置を理解しました。
※生徒会の会計として所属しているようです。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。
※犬飼伊介、キャスター(食蜂操祈)を確認しました。
※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。
※垣根帝督から食蜂操祈の能力を聞きました。
※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。



【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]なし
[道具]バイク(盗品)
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる
1.マスターに委ねる
2.ひとまず学園から離れる
3.消耗を補うためにマスターを休息させるが、最悪魂喰いも…?
[備考]
※マスター同様。
※どこへ向かっているのかは後続の方にお任せします。










「もらったああああああああああああああああああああああ!」

「そうはさせねえェ!」

鞭のように鋏を自由自在に振り回すセイバーの一撃を防ぐランサー。
セイバーは足を振り上げ一歩踏み込むと鋏を左から右へ斬り裂く。
この攻撃を後退することで避けたランサーは突きの要領でセイバーの左肩を貫いた。

「ぐッ!」

「もらったのはこっちだぜッ!」

「でも捕まえた、ぜ?」

左肩から刀を抜くランサー。その瞬間をセイバーは見逃さない。
彼の右肩を斬り裂こうと鋏を振るうが之も回避されてしまう。だがランサーの体勢を崩すことには成功した。
彼女はそのまま前進すると頭突きをかまし、よろけた体勢に追い打ちを掛けるようにタックルをかます。

ランサーに尻もちを付かせると彼女は跳躍からの斬り下ろしを仕掛ける。
だがそう上手く連撃になる訳もなくランサーは之を回避すると足払いで彼女の体勢を崩す。

そのまま走り刀を回収すると構え直し彼女の出方を伺う。

「大丈夫か流子?」

「心配すんな鮮血。あたしの頑丈さは知ってんだろ?」

「そうだったな……来るぞ!」

鮮血と軽口を叩いていたがランサーの方から仕掛けてくるようだ。

思えば纒流子は無傷で勝利したことがない……ある。
だが彼女は多くの戦いで血を流し限界を超えて戦ってきた。
今更この程度の傷では止まらない。故に心配などいらない。

「前から気になっていたけど誰と話してんだ?」

流れる斬撃を鋏で防ぐ。

「気にすんな。それよりもテメェの心配をしろ!」








「心配するのは貴方☆」







声に反応し後ろを振り返ると一人の女子高生が居た。
だが感じる魔力から――キャスターだ。


「テメェの噂は聞いてるぜ、クソ野郎の魔女野郎だな?」

鋏を向け敵意を全開にする纒流子。

「よぉ、リベンジマッチと行こうぜキャスター……ッ!」

己の不甲斐なさを思い出し怒る人吉。
今の彼にはアサシンの仇を取る使命がある。簡単には負けられない。

「……俺に任せるって話じゃなかった?」

「来ちゃった……だって人吉くんがいるんだもん☆」

キャスターの目当ては人吉善吉である。
彼の心を再び折るため彼女はわざわざ校庭まで足を運んだのだ。

「俺はお前を倒す……だからセイバーと契約を交わした」

「嘘つき」

「アゲハには悪いことをしちまったけど……しょうがない。
 願いを叶えたいのは俺も一緒なんだ、アイツの分も俺は――は?」


「嘘でしょ。貴方はセイバーと契約何て交わしてない」


キャスターの発言により心が固まる人吉善吉。
彼の思考は《やらかしたことがバレてしまい焦っている》時に似たような感覚に陥っていた。
何故キャスターはセイバーが偽りのサーヴァントだと見抜いたのか。



「おいおい、急にハッタリかますのk「残念だけど操るだけじゃなくて覗ける力もあるの。舌噛みきって死んで☆」」



キャスターの宝具によって心を操られた人吉善吉。
その内容は舌を噛みきって死ね。

己の意思は欠片も残らず涙を浮かべそうになりながら口を開ける。
駄目だった。アサシンの時と同じで。何一つ成果を得ることが出来なかった。
このまま死ぬ。デビルカッコ悪い……今となっては総てが夢のようだった。
無かったことにしたい。そしてもう一度めだかちゃんと……?

「口開けろやああああああああああああああああああ」

気付けば纒流子は人吉善吉の口へ両腕を突っ込み、歯が到達するのを防いでいた。

「どうやったら元に戻せるか知らねえ! けど諦めてんじゃねええええええええええ!」

ランサーとの戦闘を放棄しマスターの救援に向かった纒流子。
人吉善吉は彼女のマスターではない。だが見捨てる理由にもならない。
ダチだ。コイツはアゲハのダチなんだ。なら悪い奴じゃない。死ぬな。諦めるな。

対処法や解除方法は一切知らない。
出来る事と言えば舌を噛み切らないように力で防ぐだけ。

だがこの方法では永遠に解決は生まれない。時間が過ぎれば何とかなる保証もない。
それにこの場には彼がいる。故に背中を晒し続ける事は死を意味する。

「ちょっと待ってろ戦国武将! こちとら取り込んでんだ!」

「戦場で言い訳すんのか、纏?」

刀を構え一歩、確実に一歩ずつ近づくランサー。
セイバーの言いたいことは解る。
人吉善吉の状況も理解している。
キャスターが気に喰わない奴なのも当然知っている。

それでも戦場で敵に背中を晒す相手に情けなど必要もなく彼は無言で彼女達を見つめる。

「怖い怖い☆」

リモコンを持ちながら笑うキャスター。
此処まで総てが自分の思う通りに進んでいるのだ、笑みも零れる。
アサシンが垣根帝督だった時、彼女は死を感じた。
圧倒的戦力差。貧弱な彼女が一時的とはいえあの一方通行を超えた男に勝てる理由など存在しない。

それは学園都市の話であり聖杯戦争にはマスターの足枷が存在する。
彼女の力は対魔力を持っているサーヴァントには無意味だがマスターは例外だ。
それこそ学園都市の高位能力者でもなければ不可能である。
結果として彼女が知る限りでは自分が下手を撃たなければ基本は勝てるのだ。

「見損なったぜ戦国武将! 教科書から消えろ!」

「……」

「見りゃわかんだろ!? テメェの相手してる時間はねぇ!」

「……」

「人吉を死ねせたくねえんだよ! コイツは仇撃てなくてもそのまま帰してやりてえんだ! 邪魔すんな!」

「ひへろらろい!」(逃げろ纏)

纒流子の言葉は戦国武将であるランサー前田慶次には届かない。
最も彼は彼女の敵であり従う道理はない。寧ろ敵を殺すチャンスである。
この好機を逃す程彼は馬鹿ではない。

「やっちゃえー☆」

他人ごとのように傍観者を気取るキャスター。
口からは野次が溢れ我関せず。総ての発端は彼女に在るというのに。
之ぐらいの事を流せないとお嬢様の頂点には登れないのだろうか。


「これで一組消えることになるのね……残るは十三く――みッ!?」


「か、雷か!?」


キャスターはこの後の展開を考えていた。人吉善吉が死ぬ前提で。
しかし訪れたのは彼の死ではなく白い雷が流星のように彼女の腕を貫いた。
傷などの影響は発生していないがリモコンを落としてしまい人吉善吉の心が開放された。
何処から狙撃された、犯人は誰だ、この状況は何だ。

夜科アゲハが流星のような能力を持っていることは既にしっていた。
だが彼の力は黒であり白ではない。そもそもこの場には見当たらない。
ならば一体誰がキャスターを攻撃したのか。答えは登場と共に明かされる。



「これ以上貴様は放置しておけん。恥を知れ魔女め」



彼女の存在を纒流子は知らない。
故に何が起きているか理解していない。

彼女とは一度だけ会ったことが在る。
しかしそれがどうした。人吉善吉は状況を理解していない。

前から好きになれないタイプだとは思っていた。
理解は出来るが受け入れたくない現実がキャスターを襲う。

来ると信じていた。
「変に話せばキャスターにバレるからなぁ。よく動いてくれた」
ランサーは彼女が動くことを待っていた。


「伝える方法は他にもあっただろう。このたわけが」


名を朽木ルキア。
今宵の聖杯戦争では前田慶次のマスターとして聖杯に招かれた。


キャスターの腕を貫いた白い雷はその現象通り白雷と呼ばれている。
死神の力は無い。しかし戦える力が無いとは一言も言っていない。

「助かった……ありがとうな」

「礼はいらん。私もキャスターには腹が立っていた所だからな」

人吉善吉の礼を受けるも彼女は顔色一つ変えずにキャスターを見つめている。

「おかげで俺も動けるぜ――行けるか纏?」

「当然よ。一撃で終わらせてやらぁ」

ランサーもキャスターが行っている悪行を快くは思っていなかった。
他者の心を操る能力。存在自体は納得可能な範囲であるが悪用に回すのは別の話。
しかし彼女は操るだけではなく心を覗く力も持ち合わせていた。
下手にマスターと会話すると情報が漏れてしまい取り返しの付かない状況を招いてしまう危険がある。
警戒しといて正解だった、ランサーは己を心の中で少し褒めていた。

「ランサーよ。お前の考えは解ったが……まぁいい。まずはキャスターが先だ」

「おうよ! 説教なら後で幾らでも聞くからさ。
 そんじゃキャスター、ちっとばかし痛い目見るとするか!」


(勝手に仲が直った、みたいな空気だしても知らないのこっちは!
 この状況はヤバイ……打開策が見当たらない)


キャスターの想定では人吉善吉殺害後にランサーがセイバーを倒せば総てが終了するはずだった。
蓋を開ければ人吉善吉は生存、ランサーとの同盟は破棄されたと見て問題ない。
正面からの戦闘では三騎士に勝てる奇跡も存在しない。

「一つ聞きたいことが在る。どうして報道関係者が学園内にいないのだ」

朽木ルキアはこれから消えるであろうキャスターに問を投げる。
一般的な社会ならば学園の爆発事件を取り上げない、なんてことは起きないであろう。
之も宝具の影響なのか。朽木ルキアは尋ねた。


「ええ。変に人が増えたら大変でしょ? 私も貴方もみーんなも☆」

「此処に来てまで猫を被ると言うのか……」


キャスターの態度に頭が痛くなるが本質は違う。
報道関係者の数は多い。その総ての心を操っているとしたらその範囲は強大だ。
能力、範囲。彼女の力は周りの人々を不幸にしてしまう。


「人が増えたら大変? あたしはテメェが居る方が大変だっつーの」


纒流子は当初の目的であるキャスター討伐のために鋏を掲げていた。
目の前の魔女を斬り裂けば人吉善吉は安心して元の世界に帰れる。
彼女からしてみれば此処でキャスターがどれだけ命乞いしようと関係のない話。


「聖杯戦争で巻き込まれた人達の分……NPCやアサシン達の事を俺は忘れねえ。
 でも俺が出来るのは此処までだ。後は任せたぜ纏……って俺は何一つ出来てなかったけどな!」

「何言ってんだ。お前がいなけりゃ俺と纏が戦っていない。つまりこの状況が生まれていないんだよ」


己の無力さを嘆く人吉。
それを即座に励ますランサー。
人吉善吉の行動が無ければ、彼の諦めない気持ちが無ければこの状況は生まれていない。
そうでなければ遅かれ早かれ朽木ルキアもキャスターの毒牙に――。


「そう言って貰えると有難い……んじゃ任せた」


纒流子と前田慶次は既にキャスターの目の前まで移動していた。
セイバーとランサー。クラスの名に恥じない英雄が目の前に存在しているのだ。
キャスターの心は絶望に近い黒い色で塗り潰されている。


「そ、そんな……」


口から漏れる言葉は弱々しい。人間一度崩れればそんなものか。
勝算は無い。元々単純なステータスで言えばキャスターは飾りのソレに近い。


振り上げられる鋏と刀。
之が振り下ろされればキャスターは絶命するだろう。


「あ、ああ……ああ!」


死ぬ。
英霊故に一度死んでいる。だがその記憶は薄い。
例え一度死を経験したからといって慣れたことにはならないのだ。

怯えている。
キャスターは聖杯戦争を通して初めて怯えていた。


「最後に言い残すことはあるか?」

「助けて……助けて」

「……その力を悪用したお前が悪かった。
 今度会えた時には一緒に酒でも飲むとしようぜ――じゃあな」









「お前ら二人揃って女の子をイジメているのかーッ!!!!」








「は? お前一体誰――っておい!?」


キャスターがこの世を去ろうとしていた時。狙っでいたかのように一人の男が割り込んだ。
その男は麦わら帽子が特徴的であり、ランサーを殴り飛ばした。

大地を転がるランサーは即座に受け身を取り立ち上がる。傷は深くない。
目の前の男は不明だがサーヴァントと見て間違いない。
朽木ルキアから飛ばされた念話によるとクラスはライダーと判明した。


「泣きそうになっている奴に刀を向けてるのかッ!!」


乱入してきたライダーからして見ればこの状況は最悪である。
弱っているサーヴァントを二人で殺そうとしているのだ。セイバーとランサーが悪に見える。
彼の言っていることは事実である。
キャスターの悪事を彼はきっと知らないのだろう。故に事態はややこしい。


「無事か慶次?」

「ああ……でも、面倒な状況になっちまった」


あと一太刀。
たった一度の攻撃があればキャスターはこの世から消え去る。
その瞬間を狙われた。偶然にしては出来過ぎているが偶然なのだろう。
此処まで仕組んでいたとしたらキャスターは大した役者だ――そのキャスターは。



「令呪を以って命じる――ランサーよ、これからはキャスターの命令を聞け」



再び毒素を人間に浴びさせ自分の玩具《人形》を創り上げる。
纒流子、人吉善吉、前田慶次、モンキー・D・ルフィ。
彼らの時間は一斉に止まる。まるでこの世があと二日で終わる事実を知ったように。


「キャスターの言う事を聞け……なぁ刀男。お前のマスター大丈夫か?」

「そう思うならアンタは少し黙っていてくれ……ッ!」


ランサーの問は御尤もであるがお前が言うな。誰もが思っている。
キャスターに早くトドメをささなかった彼らが悪い。しかし乱入者の存在など考慮していない。

状況は最悪だ。
乱入してきたライダーは別にしてランサーの行動圏を握られてしまった。
この場で起きる悪夢――セイバーとランサーの潰し合いだろう。


(俺に出来る事ってなんだ……このままだと纏と戦国武将の殺し合いが起きちまう)

「誰もそんなことさせないぞ☆」

「俺の心を読んでいるのか……ッ」


人吉善吉の心を覗き彼の問に答えるキャスター。
彼女は此処でランサーを戦わせないと言う。ならば彼女は何を企んでいるのか。
我慢出来ない。そう思った纏が斬り掛かろうとした時再び乱入者がこの場に介入する。



「世話が焼けるんだから……乗って!」

「信じてた☆ 流石はマスターね☆」



爆速で校庭に突っ込んできたリムジン。
速度を緩めること無く後部席のドアが開けられると其処には先客が二名。
キャスターである犬飼伊介が洗脳していたNPCに連絡を取り退路の確保をしていた。

その奇跡な流れはキャスターに吹いており女神は彼女に微笑んでいる。


「心配なら貴方も来てね……麦わら帽子のライダーハート」

「ま、まどか!?!?!?」


犬飼伊介が悪い笑みを浮かべたその奥に。
気絶している鹿目まどかの姿が見えた。


「まどかを返せーッ!!」

「なら鬼さんこちら☆ 追ってきなさい」


ライダーを挑発するとリムジンは再び加速を始め校庭空抜け出していく。
このまま行ってしまっては手掛かりが掴めなくなる。
纒流子、人吉善吉、前田慶次、朽木ルキア。
誰もがこの状況に適応出来ていない中ライダーは既に行動を開始していた。


「ギア――2」


大地に拳を降ろしたライダーは一言。たった一言だけ呟いた。
誰もが聞き漏らした静かなる闘志は蒸気となって彼の身体から吹き上がる。
この発熱は彼の怒り、マスターは俺が守る、だから動け、動け、動け。


「何か俺、邪魔しちまったみたいだな。その代わりに――俺がアイツをぶっ飛ばす!」


怒りを起爆剤に変えて。
その速度は加速し彼の早さは普段とは比べ物にならない。
その呟き通り彼のギアは切り替えられ一度回り始めた歯車は止まらない。

リムジンを追いかけるライダー。
距離は離れているが見失うことはないだろう。
その少し先に。車を拝借したタダノとアーチャーが追尾を開始していた。


【C-2/アッシュフォード学園門前/一日目・夕方】


【タダノ ヒトナリ@真・女神転生 STRANGE JOURNEY】
[状態]魔力消費(小)
[装備]乗用車
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1.キャスターを追跡し鹿目まどかを救出する。
[備考]
※警察官の役割が割り振られています。階級は巡査長です。
※セイバー(リンク)、カレン、ライダー(ニューゲート)、刑兆について報告を受けました。(名前は知らない)
ライダー(ニューゲート)のことはランサーと推察しています。
※ルフィの真名をルーシーだと思っています。
※ノーヘル犯罪者(カレン、リンク)が聖杯戦争参加者と知りました。


【アーチャー(モリガン・アーンスランド)@ヴァンパイアシリーズ】
[状態]魔力消費(小)
[装備]タンクトップ、ホットパンツ
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を堪能しマスターを含む男を虜にする
1.キャスターの追跡。
[備考]
※セイバー(リンク)、カレンを確認しました。(名前を知りません)
※リンクを相当な戦闘能力のあるサーヴァントと認識しています。
※拠点は現段階では不明です。
※NPCを数人喰らっています。
※現在の外見はポイズン@ファイナルファイトシリーズ(ストリートファイターシリーズ)に近いです。
※ライダー(ニューゲート)、刑兆と交戦しました。(名前を知りません)
※現在C-4の北東部を飛行しています。
※C-4の北東部から使い魔の蝙蝠を放ち、バーサーカー(一方通行)を探させています。
タダノから指示を受けたため、他の用途に使うつもりは今のところありません。
[共通備考]
※まどか&ライダー(ルフィ)と同盟を結ぶました。
 自分たちの能力の一部、連絡先、学生マスターと交戦したことなどの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。
※人吉、セイバー(纒流子)、ルキア、ランサー(慶次)、キャスター(操祈)を確認しました。
※車は学園から拝借(無許可)しています。






残されたセイバーとランサー。
彼らは言葉を交わさず睨み合っていた。

ランサーの主導権は彼でもなければマスターでもなくキャスターが握っている。
この場で戦闘が起きても不思議ではなく一触即発の事態だ。
動けない。
動きたくても動いてしまえばキャスターにどんな指令を下されるのか。


「もう動いてもいいだろ、っと」


その均衡を崩すように人吉善吉は肩に担いだ朽木ルキアを優しく大地に降ろす。
その光景に目を丸くするセイバーとランサー。

「あの状況の中で俺は……悪いけどお前のマスター気絶させた、すまん!」

リムジンが走り去りライダーが追跡を開始した時。
人吉善吉はキャスターが此方側を把握出来ない瞬間を狙って朽木ルキアを気絶させていた。
説明途中にランサーと目が合う。頭を下げ無礼を詫びる、そもそも女性に手を出すとは何事か。心で己を責める。

「いや、助かった……それで今後はどうする? 俺はマスターを連れてリムジンを追ってみる」

「おい、それじゃ危険だろ」

「それでいいんだよ人吉。此処に残っていてもコイツは命令されんだろ?
 なら近くまで行って一発ぶん殴ったほうが速い……それよりお前もどうすんだ?」

ランサーはこの状況に対しキャスターの追尾を選択していた。
黙っていても何も始まらない。
己の生命が握られているなら潰される前に潰す。

問題は人吉善吉である。
彼の存命時間は日付が変わる前に終わってしまう。
空を見上げれば夕暮れ時、多く見積もって彼の生命はあと二時間だろう。

「俺も行く……「も」っていうか俺「は」だな。
 世話になったな纏……アゲハにも伝えてくれよな」

彼もまた諦めていない。
このまま帰ってしまったら一生後悔するだろう。
そんな気持ちを背負い続けるなら、まだ可能性があるなら。
最後まで抗ってみせる、それが彼の決意。

その行いにセイバーは必要ない。
元々セイバーとアゲハには無理を頼んでいるのだ。
それに加えてもう一度協力してくれ、口が裂けても言えない。

「なーに言ってんだ。アゲハもリムジン見つけて追っかけているからよ、行くぞ」

セイバーの返答もまたキャスターの追跡である。
このまま逃しては負けたことになる。それが気に喰わない。
他人の心を操る女だ。生かしておいても碌な事にならないだろう。


「いいのか……また俺に」

「いいって言ってんだろ、だから――行くぞ」

「そんじゃ追うとしますか。俺も人吉も時間は少ないみたいだからな」


こうして学園で発生したキャスター討伐指令は意外な形を以って次へ持ち越す。
その舞台は不明だが他者を巻き込んだ戦闘に代りはないだろ。
戦力――と表現するのは適切かどうかは不明である。

ランサーの実質的な行動権はキャスターが握っている。
セイバーのマスター鞘替えも見抜かれてしまった。
麦わら帽子のサーヴァントが味方かどうかも解らない。

状況は悪くなっているだろう。

だが弱音を吐いている時間はない。
黙っていては人吉善吉が消えてしまう。

それを差し引いてもキャスターを放置する事は危険であり戦争を引き起こす。

彼らは校庭を駆けるとキャスターの追跡を開始する――総ては未来の為に。


【C-2/アッシュフォード学園校庭/一日目・夕方】


【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]箱庭学園生徒会制服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:キャスターを討伐し、アサシンの仇を取る
1.キャスターを追跡し討伐、その後帰還する。
[備考]
※アッシュフォード学園生徒会での役職は庶務です。
※相手を殺さなくても聖杯戦争を勝ち抜けると思っています。
※屋上の挑発に気づきました。
※学園内に他のマスターが居ると認識しています。
※紅月カレンを確認しました。
※キャスター(食蜂操祈)を確認しました。
→加えて食蜂操祈の宝具により『食蜂操祈』および『垣根帝督』を認識、記憶できません。効果としては上条当麻が食蜂操祈のことを認識できないのに近いです。これ以上の措置は施されていません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。
※ライダー(ルフィ)を確認しました。

※サーヴァント消失を確認(一日目午前)これより六時間以内に帰還しない場合灰となります。
※残り二時間で彼の身体は灰になります。


【夜科アゲハ@PSYREN-サイレン-】
[状態]魔力(PSI)消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.リムジンの追跡。
2.何かあれば流子と念話で連絡
[備考]
※セイバー(リンク)を確認しました。
※ランサー(前田慶次)を確認しました。
※ランサー(レミリア)を確認しました。


【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]魔力消費(中)疲労(中)背中に打撲 、左肩に刺傷(修復済み)
[装備]片太刀バサミ、鮮血(通常状態)
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.キャスターを追いかけ潰す。
2.何かあればアゲハと念話で連絡
[備考]
※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※ランサー(前田慶次)を確認しました。
※乗ってきたバイクは学園近くの茂みに隠してありましたが紅月カレン&セイバー(リンク)にとられました。
※キャスター(操祈)ライダー(ルフィ)を確認しました。



【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]気絶中
[令呪]残り二画
[装備]アッシュフォード学園の制服
[道具]学園指定鞄(学習用具や日用品、悟魂手甲や伝令神機などの装備も入れている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を通じて霊力を取り戻す。場合によっては聖杯なしでも構わない
1.気絶中
[備考]
※外部からの精神操作による肉体干渉を受け付けなかったようです。ただしリモコンなし、イタズラ半分の軽いものだったので本気でやれば掌握できる可能性が高いです。
 これが義骸と霊体の連結が甘かったせいか、死神という人間と異なる存在だからか、別の理由かは不明、少なくとも読心は可能でした。
※夜科アゲハ、セイバー(纏流子)を確認しました。
※通達を一部しか聞けていません。具体的にどの程度把握しているかは後続の方にお任せします。
※キャスターから『命令に従うよう操られています』


【ランサー(前田慶次)@戦国BASARA】
[状態]疲労(小)魔力消費(小)
[装備]超刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:この祭りを楽しむ
1.キャスターを追跡し倒す。
2.マスターが用済みとなって消される前に勝負を決める。
[備考]
※キャスターを装備と服装から近現代の英霊と推察しています。
※読心の危険があるため、キャスター対策で重要なことはルキアにも基本的には伏せるつもりです。
※中等部の出欠簿を確認し暁美ほむらの欠席、そのクラスにエレン・イェーガーが転入してくることを知りました。
 エレンについては出欠簿に貼ってあった付箋を取ってきたので更新された名簿などを確認しないかぎり他者が知ることは難しいでしょう。 
※令呪の発動『キャスターの命令を聞くこと』


[共通備考]
※犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈)と同盟を結びました。マスターの名前およびサーヴァントのクラス、能力の一部を把握しています。
 基本的にはキャスターが索敵、ランサーが撃破の形をとるでしょうが、今後の具体的な動きは後続の方にお任せします。
※紅月カレン&セイバー(リンク)と交戦しました。
※人吉善吉を確認しました。
※ライダー(ルフィ)を確認しました。
※キャスターとの同盟を破棄する強い決意を持っています。










リムジンの中でキャスターは安堵の表情を浮かべている。
乗り込んだ瞬間、開放感と安心感に襲われ身体から汗が浮き上がっていた。

「あーつーい☆ でも助かった……ついでに人質なんてやるぅー」

「保険よ……それよりも行き先は?」

彼女が助かったのもマスターである犬飼伊介が移動手段を用意していたから。
この可能性が無かったらキャスターはランサーに時間を稼がせようとしていた。
それでも勝算は薄く、現に乱入者のライダーにまで敵対されたら確実に絶命していたであろう。

犬飼伊介の問に考えるキャスター。
少し悩むが答えは簡単に、それも早く出て来た。


「病院……人も多いし迂闊に手出し出来ないから身を潜めるには最適ね☆」


(――そう)


病院。
キャスターが決めた行き先、其処で発生するであろう英霊同士の戦い。

再び舞い上がる戦火は関係のない人々を多く巻き込むだろう。


【C-2/アッシュフォード学園外/一日目・夕方】


【犬飼伊介@悪魔のリドル】
[状態]疲労(小)魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]ナイフ
[道具]バッグ(学習用具はほぼなし、日用品や化粧品など)
[思考・状況]
基本行動方針:さっさと聖杯戦争に勝利し、パパとママと幸せに暮らす
0.食蜂操祈に心を許さない。
1.病院に向かう
2.このままでは――。
[備考]
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』によってキャスターに令呪を使った命令が出来ません。
※一度キャスターに裏切られた(垣根帝督を前にしての逃亡)ことによりサーヴァント替えを視野に入れました。


【キャスター(食蜂操祈)@とある科学の超電磁砲】
[状態]健康、魔力消費(中) 、焦り
[装備]アッシュフォード学園の制服
[道具]ハンドバック(内部にリモコン多数)、購買で買い占めた大量の食品、生徒名簿
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。聖杯に託す願いはヒミツ☆
0.このまま上手く立ち回る。
1.洗脳した生徒を使い情報収集を行う。
2.病院へ逃げ込みこれからの対処を考える。
3.ランサー一行及び犬飼伊介には警戒する。
[備考]
※高等部一年B組の生徒の多くを支配下に置きました。一部他の教室の生徒も支配下に置いてあります。
※ルキアに対して肉体操作が効かなかったことを確認、疑問視及び警戒しています。
※垣根帝督が現界していたことに恐怖を抱きました。彼を消したことにより満足感を得ています。
※人吉善吉に命令を行いました。後始末として『食蜂操祈』および『垣根帝督』のことを認識できなくしました。現在は操っておりません。
※ランサー(慶次)とセイバー(流子)の戦闘を目撃した生徒を洗脳し、その記憶を見ました。
 それにより、慶次の真名とアゲハの能力の一部を把握しました。流子の名を聞いたかについては後続の方にお任せします。
※天戯弥勒、および聖杯戦争について考察する必要があると感じ始めました。
 今の仮説は1、ガイアの怪物以上のなにかを御そうとしている 2、参加者と主催者のために14騎いる 3、参戦しているサーヴァントは一流の英霊ではない 4、アッシュフォードに二人のレベル5がいたのには意味がある


[共通備考]
※車で登校してきましたが、彼女らの性格的に拠点が遠くとは限りません。後続の方にお任せします。
※朽木ルキア&ランサー(前田慶次)と同盟を結びました。マスターの名前とサーヴァントのクラスを把握しています。
 基本的にはキャスターが索敵を行い、ランサーに協力、或いは命令する形になります。
※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。
※紅月カレン、セイバー(リンク)を確認しました。
※夜科アゲハ、セイバー(纒流子)の存在を知りました。
※洗脳した生徒により生徒名簿を確保、欠席者などについて調べさせています。紅月カレン、人吉善吉、夜科アゲハの名簿確保済み。
※ライダー(ルフィ)を確認しました。
※ランサー(慶次)への絶対命令権を所有しています(宝具による)




「話ってのは今見た映像ってこと」


遊園地で暁美ほむらとキャスターは学園の総てを目撃していた。
セイバーとランサーの戦いからキャスターの逃亡の瞬間まで。
多くの情報を抱えているフェイスレスは底知れぬ笑顔をマスターに向けていた。


(まどかが攫われた……ッ!!)


その心境、焦り。
彼女の中に置いて一番大切な存在が誘拐されているのだ。
宇宙の真理とも呼べる大切な存在、決して汚されることのない聖域への侵入。
許されることではない。許されることではない許されることではない。


「それでマスターに今後の方針を聞きたいんだけど」


「あのリムジンを追うわ。他人の心を操るなんて許せない」


それは嘘だ。
鹿目まどかが攫われた。それが総てである。
しかし口には出さない、この男には知られたくない。
こんな男の耳に入れば何かしら嫌なことが起きる、絶対に、確信している。
故に建前は魔女であるキャスターの討伐を掲げて追跡を発言した。

その言葉にフェイスレスはまたも笑みを浮かべる。
暁美ほむらはその表情に怒りを覚えるが此処で爆発しても解決には繋がらない。
今は耐えるべきだ。出来るなら美樹さやかと連絡を取りたいと思う。


(フェイスレスに気付かれないように美樹さやかと連絡は――無理ね)


時間停止を多用すれば可能であるが本調子ではないため危険である。
普段通り時間を止めれれば簡単に事は終わるが、制限されている状況では危険だ。
フェイスレスに気付かれるリスクを考えた場合――鹿目まどかの生命と天秤に掛けている時点で悔しさが込み上げる。


「解った、じゃあ行こうよ。僕も他人を見下した態度が気に喰わないよーん」

「……耳の調子が悪いみたい」

「マスターも人が悪いなー。僕だって英霊なんだよ? ほむらの名前みたいに燃え上がっているワケ?」

「次言ったら殺すと記憶しているけど……その時間も惜しいわ」

「そんなに思い詰めた顔しないでよ。今の僕はマスターの味方だからさ!」


どの口からそんな言葉が出てくるのだろうか。
彼には終始呆れ怒りを覚えている暁美ほむら。
それでもサーヴァント同士の戦いになれば彼に頼らなければならないのが辛いところである。

鹿目まどか救出作戦。
恐らく映像で監視していたセイバーとランサーも現れるだろう。
加え鹿目まどかと一緒に行動していた男とサーヴァントも来る、これは確定だ。
多くのサーヴァントが入り乱れるこの事態、自分のサーヴァントを信頼出来ないのはどう響くのか。

不安しか生まれない。
だがそんな弱音を吐くことは出来ない。

鹿目まどか。

彼女を救うために暁美ほむらは生きてきた――今までも、これからも。


【D-4・遊園地/一日目・夕方】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(中)、苛立ち
[令呪]残り3画
[装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]
基本:聖杯の力を以てまどかを救う。
1.鹿目まどかの救出へ向かう。
2.正午までの交渉に失敗した場合、美樹さやかのサーヴァントを奪う。
3.キャスターに対する強い不快感。
※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。
※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。
※アポリオン越しにさやか、まどか、タダノ、モリガン、アゲハ、流子、ルキア、慶次、善吉、操祈の姿を確認しました。
※明、ルフィのステータスと姿を確認しました。
※グリーフシードを一つ持った自動人形を美樹さやかの下へ向かわせました。伝言は『『彼女を助けるのに協力してほしい。遊園地で待つ』と言っている魔法少女がいる』
※美樹さやかとの交渉期限は2日目正午までです。
※美樹さやかの存在に疑問が生じています(見たことのない(劇場版)美樹さやかに対して)


【キャスター(フェイスレス)@からくりサーカス】
[状態]魔力消費(小)
[装備]特筆事項無し
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れる。
1.病院に向かってピンク色の少女を救うと思う。
2.さやかちゃんの回答を待ってるよーん。
3.ほむらの動きを一応警戒。
[備考]
※B-6に位置する遊園地を陣地としました。
※冬木市の各地にアポリオンが飛んでいます。
 現在、さやか、まどか、タダノを捉えています 。
※映像越しにサーヴァントのステータスを確認するのは通常の映像ではできないと考えています。
※ほむらから伝聞で明とルフィのステータスを聞いています。明についてはある程度正確に、ルフィについては嘘のものを認識しています。
※バーサーカー(不動明)を己の目で確認しました。
※暁美ほむらは何か隠し事をしていると疑っています。
※美樹さやかと暁美ほむらの関係を知りたがっています。
※ピンク髪の少女と暁美ほむらには繋がりがあると確信しています。



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最終更新:2016年01月01日 00:02