機械仕掛けの運命―回る歯車― ◆wd6lXpjSKY










    例えどのような選択をしようと歯車は止まらない。









「遊園地……で、いいのよね?」


美樹さやかは入り口を目の前に声を漏らす。
それは確認、自分が今直面している現実を受け入れさせるように。
此処は古い土地、かつては大衆の娯楽だった跡地、今は狂気を覗かせる遊園地。
遊具の類は一切働いておらず所々に錆が目立っており、人の手が加えられていない事が解る。
しかし狂気を感じるには今一つ、問題は園内を徘徊する異形の存在。

「人形……か」

バーサーカーが言うように、あちらこちらと人形が歩き回っている。
カラクリ等一切不明ではあるが、接触を図ってきた存在も空を飛ぶ人形だった。
人形が導く先には同種が蔓延る彼らにとっての楽園。笑えない冗談だ。
別段人形に恨みなどないが、こうも当たり前のように徘徊している光景を見ると精神に来るものがある。
お伽の国に紛れ込む感覚とはコレなのか、そう解釈すれば笑みの一つや二つ零れるのだが。

「此処に居るのよね、あの女が」

「あの女って言うと身分証明書の? でしたらソイツは正解《ビンゴ》ですぜ」

美樹さやかの選択、それは人形が案内した少女との接触。
交戦したバーサーカーのマスターを仕留める。
現れたアーチャーとの接触。
彼女が直面する総ての現象を天秤に放り込み選ばれた道、それが暁美ほむらとの接触だ。

自動人形の言葉とグリーフシードだけでは魔法少女の特定は不可能だった。
ケニスと名乗る人形に問い詰めた所彼曰く「おっと写真を忘れていました」らしい。
取り出された物は美樹さやかもよく知る学園の身分証明書、其処に写るは暁美ほむらだった。

始まりの存在。
暁美ほむらが鹿目まどかと出会わなければ。

始まりの存在。
暁美ほむらが鹿目まどかの事を想わなければ。

始まりの存在。
暁美ほむらが鹿目まどかの事を諦められたならば

始まりの存在。
暁美ほむらが鹿目まどかの存在に因われなければ。

始まりの存在。
悪魔が女神を塗り替えなければ。

暁美ほむらの存在は美樹さやかにとって特別になってしまった。
言ってしまえば彼女が存在したからこそ美樹さやかはこの場に居る。
聖杯戦争に身を投げたのも原因と始まりは暁美ほむらに終着するのだ。

「もう一度聞くわ――此処に暁美ほむらが」

「居るって言っているじゃありませんか~」

ならば言葉は不要、鎧を纏い、マントを靡かせ、剣を握る。
暁美ほむらの伝言どおりならば救いたい存在が居るらしい。
彼女にとって救済すべき存在は鹿目まどか以外に有り得ない。

鹿目まどかは暁美ほむらの世界、謂わば運命の中心に存在している。
その彼女を救いたい、つまり危険が迫っていると予測する。

ならば、ならばだ。

神が愚民に救いを求めるとは何事か、この世界はお前が塗り替えたお前だけの楽園ではないのか。
鹿目まどかが作り上げた平和な世界をお前は塗り潰した、彼女を楽園から追放し地獄に閉じ込めた。
彼女は神に戻る事もなければ楽園に入国する事も出来ない、それ程までに鎖で絡めていたと言うのに。

「アンタが何であたしに協力しようとしてるか何て解らない」

お前は友だ、お前は仲間だ、お前は気に喰わない奴だ、お前は魔法少女だ、お前は悪魔だ。
それでも鹿目まどかを想う気持ちは本物だ。
しかしその鹿目まどかに危険が迫っている、ならばだ。

「話を聞いてやる、まどかに危険が迫っているなら一発ぶん殴る。そうじゃなくても一発ぶん殴る」

殴れば解決するような問題ではないがそれは本人の問題だ。
スッキリすればいい、そしてその後に考えればいい。
世界の神となった暁美ほむらに対向するためにインキュベーターの手を借りて参戦した聖杯戦争。
その聖杯戦争に暁美ほむらが参加している――彼女はこの期に及んで何を願うのか。

「一人で盛り上がり過ぎだ、写真の女と関係があるのは解るが死に急ぐなよ」

「ありがとっ、でも約束は出来ない……かな。あはは」

暁美ほむらの存在は特別過ぎた。
美樹さやかにとって、総ての魔法少女にとって。
円環の理の使いとして美樹さやかの剣は悪魔を斬り裂く断罪の一振りとなるだろう。

「約束は出来ない……知り合いならば同盟を組む事も視野に入れるべきだ。
 だがその可能性は薄い、と」

「そうですぜ、マスターの誘いを断――へへ、口が出過ぎやした。
 反省しますんでその剣を引っ込めてくださいよ~」

「ちょっと脅かしただけ。此処まで案内してくれたのは感謝してる、ありがとうね。
 でも、あたし達の関係を。魔法少女の生き様? って言えばいいのかな。
 それを知らないお人形が出過ぎた口を叩かないで、ってこと」

一言では終わらない。
暁美ほむらと美樹さやかが出会えば穏やかに終わらない。
状況も関係も因縁も運命も知らないでヘラヘラと口を動かす自動人形が許せなかったのだ。
美樹さやかは無言で剣先をケニスの喉元へ突き立て発言を抑制する。
しかしそれは脅し以外の何にでもなく、少し表情を緩めながら剣を下げた。
暁美ほむら、もしくはそのサーヴァントによって命令された使い魔だが案内役を果たしくれたのは事実。
変な話、彼以外が案内役を任命されなかった場合、この状況は発生していない可能性もあるのだ。
……そこまでいけば妄想も大概か。美樹さやかは自分で自分を笑う。

「じゃあ案内役御苦労様、えっとケニス?
 此処から先はあたし達で行くから……場所? まぁ何とかなるって!」

この先の案内は不要。
敵の根城だ、敵に従えば進む先に玉座や宝箱が在るとは思えない。
行き着く先は地獄や大地獄。体験したことのないこの世の毒を掻き集めた吐溜貯蔵池か。
とにかく貴方は必要ない。更に言葉を付けたし人形に役目の終了を促した。

「へい……へい。
 まぁマスターのご友人とあればその命令に背くワケにもいかないですね。
 ならこのケニス、お役御免! ってところですかね~。
 創造主様に何を言われるかは解らないですがお客様の命で退任いたしやす」

何か考え事をするように無言になった後、一言では終わらない言葉を紡ぐ人形。
一人で納得し終えると彼は飛びだって行った。真意は不明である。
帰れと言ったのは美樹さやかであり、結果としては当然なのだが話が進み過ぎた。
強く発言した自覚は在る。敵の根城に赴く事から早めに魔法少女にも変身していた。
バーサーカーも霊体化させることなく、現界させ戦闘の体制は十分だった。
だが人形は立ち去った。苦労することなく事を終えたのが、どうにも腑に落ちない。

暁美ほむらのことを考えるとあの女が簡単に自分達を放置するとは思えない。
おちょくるように、脅すように、馬鹿にするように、喧嘩を売るように……何かしら先手を撃ってくるはず。
ならば彼女の下僕の案内に従ってはその行動自体が罠の可能性もあるのだ。



「運んでくれるって言ったくれたのに断ったのは申し訳ないかな?」

「アレに手を貸してもらう必要もない……結局バイクを回収したしな」

ケニスは空を飛べる人形であった。
接触を図ってきた時も空から来訪し、美樹さやかが向かう決意をした時も。
【なら運んであげるのも構わないですぜ】と言い放った。
流石に初対面の、しかも人形、それも暁美ほむらの元からやって来たのだ。
心を許すことは出来ず公園でバイクを回収し地上から彼を追い、此処まで来た。
結果、時間が掛ってしまい空は若干紅に染まり始め、夕方寸前にまて時計の針は進んでいた。

「あははー……色々とごめんね。でも、あいつは特別になっちゃったから」

「それは解った。
 当事者ではない俺が口を出すのも無粋だが……一方通行な思考で判断してほしくない」

「ありがとう。あいつはあたしの仲間で、友達で。
 あたしも知らない間にたくさん迷惑を掛けてたみたいなんだ――でも」

もう何度目になるかも解らない。
暁美ほむらは特別なんだ、だってあいつは。


「悪魔になっちゃったんだ」


   ◆  ◆  ◆


『遂に暁美ほむらとフェイスレスは他者の接触を行います』


『舞台に上がる役者が増え物語は加速を見せることになるでしょう』


『魔法少女の出会いは演目に何をもたらすのか……それは誰にも解りません』


『この物語に決められた筋書きは無く、脚本を彩るのは独りではない故に』


『役者、ドラマを演出する役者達の輝きを御覧ください』


『舞台は役者だけでは成り立ちません――なにせ観客が必要ですから』


   ◆  ◆  ◆


歩く、ひたすらに。
園内の遊具は何一つ動いていない――ワケではなかった。
人形が徘徊し彼らが動かしている遊具がチラホラと散見される。
客は誰一人としていなく、己の心を満たしているのだろうか。
そもそも人形に心など存在するのか……人形にだって心はあるだろう。
そう思いながら美樹さやかは己の周囲に展開する狂気に抗っていた。
園内で一際目立った遊具はメリーゴーランドである。
いやメリーゴーランドではない。
メリーゴーランドの人形なのだ。身体が下にあり上にメリーゴーランドがある。
文字にすると伝わり難いかも知れないが美樹さやかの目の前には狂気のメリーゴーランドが存在していた。


「人間だ」

「人間がいるぞ」

「しろがねじゃあねえよなぁ?」

「だったら仕返しだ、ギィの野郎に爆破された恨みは忘れねぇ」

「ただの人間でも、あの悪魔の代りに殺してやろうぜ」

「待て待て、あれは創造主様とそのマスターのお客さんと聞いたぜ」

「それはやめよう」

「俺達が殺されちまう~」


その周りを彷徨く人形がこちらを見ながら好き勝手に言葉を飛ばしている。
その内容は穏やかではなく、敵の根城らしく物騒な物言いであった。

「……俺も戦闘態勢になった方がいいか?」

「いや、バーサーカーはまだいいよ。さっきの戦いのダメージだってあるし」

バーサーカー同士の激突は戦闘が終わり大分時が経過したが完全回復に至っていない。
自動人形達はサーヴァントには到底及ばないが少なからず魔力を感じる。
個体差があるようで例えばそこら辺にうじゃうじゃ居る人形よりも後ろに在るメリーゴーランドの方が魔力は高い。
数が数であるため、此処で戦闘を行っては無駄な魔力消費となり暁美ほむらのサーヴァントと対峙する時に悪影響を及ぼすだろう。
無論暁美ほむらと交戦することになれば、問答無用でこの自動人形を総て破壊しなければならないのだが。

「無視してこ? 後回し後回し」

人形達も交戦の意識は無く、ならば相手にする必要もない。
優先すべきは暁美ほむら。
人形と遊んでいる時間はない。


   ◆  ◆  ◆


「へぇ……参加者は十四組なんだね。マスターは嬉しい?」

「その問に答える必要性が感じられないのだけど。
 ……街の広さから考えると思ったよりも少ないと言ったところかしら」

「じゃあ嬉しいんだね。なら笑顔、スマイルしようよ!
 笑えないなら人形に芸をやらせてあげようかい?
 実は芸に向いている滑稽な旧式が四体程いるしプレゼントしようかい?」


美樹さやかが遊園地内に踏み入る少し前の会話。
天戯弥勒が行った突然のコンタクトを受けた直後である。
暁美ほむらが言うように参加者が予想よりも少ないのは嬉しい事実だ。
しかしこの主従、仲が悪く普通の会話もままならず険悪な雰囲気になってしまっている。
キャスターの言葉に反応せず無言でモニターを見つめる暁美ほむら。
美樹さやかがサーヴァントと共に園内へ踏み込む姿を確認していた。

(……?)

魔法少女に変身した美樹さやかに一つの違和感を感じる。
とても些細な事だが髪飾りが普段と違う――別段気にすることでもないが。
暁美ほむらが聖杯戦争に参加した時の時間軸で、美樹さやかは死んでいる。
此処に居る美樹さやかはどの時間軸から参戦しているかは彼女にとって不明。
見慣れない髪飾りのことを考えるともしや経験したことのない時間軸から来ているのかもしれない。

天戯弥勒は時間軸を超えて魔法少女を集めたのか、ならば彼も魔法に近い何かの力を持っているのか。
考えても答えは出ないがやはりと言うべきか。この聖杯戦争には不確定要素が多過ぎるようだ。

「私が彼女を此処へ連れてくるわ。だからキャスターは此処で待機……命令よ」

美樹さやかはこちらの居場所を知らないため辿り着くにはそれなりに時間が掛かるだろう。
ケニスの案内を受ければよかったものの……相変わらず手が掛かる存在だ。

それに暁美ほむらにはキャスターよりも先に美樹さやかに接触する必要が在るのだ。
《美樹さやかがどんな存在か解らない以上、確かめなければならないことが在る》

「いいよーん。でもあの女の子のところには一人派遣したけど?」

「貴方の下僕は信用ならないの」

一言言い残し暁美ほむらは扉から外へと足を運ぶ。
一人残されたキャスターはモニターを見つめながら考え事をしているようだ。

(そんなに僕に知られたくないことがあるのかね。
 このピンクの女の子を見た時の反応もそうだけど隠し事大好きみたいだね、マスターは。
 まぁ僕も長い間隠し事をしてたから文句は言えないかもしれないけど。
 さぁ~て、マスターはあの女の子をどうするつもりなのか)


   ◆  ◆  ◆


「で、アンタは誰? 人形さんだとは思うけど」


足を進めていた美樹さやか組の前に現れた人形は一言で言うなら他の人形とは別格だった。
少々言葉が悪くなるがそこら辺の雑魚共とは桁違いの魔力を感じるのだ。
サーヴァント……と思いたいが。

『サーヴァントに近いが……何かが違う。実力は在るようだが』

『何だろうね。サーヴァントみたいなんだけど……強い人形? ならアイツのサーヴァントはかなり強いのかな』

目の前に現れた人形は男、中世の騎士を連想させる人形だ。
何か此方へ視線を向け、一呼吸を置くと天高らかに声を張り上げた。

「創造主様、第一の――カピタン・グラツィアーノ見参!」



「私は嘗ての聖杯戦争でこの剣を用い数々の英雄を討ち取った!
 前回の聖杯戦争ではあの征服王イスカンダルの軍勢を正面から一人で制圧したのだ!
 王と云えど創造主様に創られた私の前では所詮一介の戦士に過ぎんのだよ!!
 我が剣技はアルトリア王とも並びその一撃は約束された勝利の剣をも超える!
 我が名はカピタン・グラツィアーノ! 創造主様、第一の騎士――カピタン・グラツィアーノ!!」



「これまた……」

「強烈な奴が出て来たな」

カピタン・グラツィアーノと名乗る人形はまるで聖杯戦争を経験したがあると謂わんばかりの主張。
実際の真偽は不明だが一つだけ、一つだけ確信したことが在る。

「今、この人形も言ったよね?」

「ああ、創造主様――この人形もサーヴァントではないらしいな」

カピタン・グラツィアーノは創造主様が創り上げた人形らしい。
ならば魔力で創られた、或いは感じる魔力量から宝具の一種かもしれない。
《第一の騎士》、ならば彼クラスの人形が複数存在することも考えられる。
マスターは暁美ほむらだ。魔法少女の中でもその経験と世界の数から強力な部類だろう。
円環の理の一つと化した美樹さやかを以っても世界の変異を止められなかったのだ。

敵の戦力は質、量共に一筋縄ではいかないようだ。

「さぁ我らが創造主様のマスター、そのご友人よ。私の名はカピタン・グラツィアーノ。
 私の後に着いて来て貰いたい。ご案内差し上げましょう」

片手を広げ誘導するカピタン・グラツィアーノ。
この人形に着いて行けば確実に暁美ほむらの元へ辿り着くことが出来るだろう。

「お前の罠――その可能性もあるんじゃないか?」

「ほう」

バーサーカーは簡単に従わない。
狂戦士のクラスと云えどその影響は悪魔限定であり現在の彼は一端の英霊だ。
其処には知性も在れば理性も存在する。
ケニスの時と同様に自動人形の罠の可能性を勘ぐる。

「創造主様がそのような手を使うと思っているのか」

「生憎、その創造主様とやらを知らないんだ」

当然だ。
敵の根城だ。会ったこともない存在を信用する方が難しい。
カピタン・グラツィアーノは剣を取り出す。
その視線は機械仕掛けながら強く敵意を持った物だった。

「何か勘違いをしているな貴様。
 創造主様のマスターの友人だろうが別に手を加えてはならん命令は受けていない。
 その気になればこの場で貴様を倒した後で創造主様の元へ引き摺ることも可能だ」

「……やる気か」

「ちょ、此処は着いて行けばいいでしょ!? ねぇってば!」

カピタン・グラツィアーノ、不動明。
共に退かず激突寸前であり、美樹さやかは不要な交戦を望んでいない。
声を掛けるも両者は既に戦闘態勢に入っており――この戦を止めたのは意外な人物だった。


「命令よ、カピタン・グラツィアーノ。戦闘は許さないわ」


意外も何もこの園内に美樹さやかの他に人間は一人しかいない。
名を暁美ほむら。
カピタン・グラツィアーノの後方に魔法少女姿で現れたのだ。
まるで時が止まったようだ。
聞こえてくる声は暁美ほむらの声で間違いない。
その姿も見慣れた魔法少女の姿、暁美ほむらで間違いない。

見慣れた。

姿。

見慣れた姿なのだ。

思いだせ、美樹さやか。
お前は何故聖杯戦争に参加しているんだ。
円環の理、世界の塗り潰し、愛、悪魔、暁美ほむら。
その総ての原因であり因縁の存在が目の前に居るのだ。
言ってやれ、お前が思っている事を。
叫んでやれ、全世界、全宇宙の魔法少女の代表として。

だが。

何故だ。

見慣れた。

姿。

見慣れた姿では可怪しいのだ。


「まさかアンタ――過去のアンタだって言うの!? また時間をと――」


目の前に居るのは世界の理を塗り潰した悪魔ではない。
その姿は転校生として見滝原にやって来た運命と因果の象徴である孤独な魔法少女だった。

「貴方が何を言っているかは解らないわ――でも」




「お願いがあるの。私の時間を止める魔法は人形の前では黙っていてほしい」

「は、それってどういう意味よ――」




「これはマスター……マスターの命令ならば仕方が無い。
 カピタン・グラツィアーノ、剣を引きこの場を後にしましょう……次はないぞ、サーヴァントよ」

暁美ほむらの命令を受けたカピタン・グラツィアーノは粒子のように姿を消した。
創造主様――キャスターが宝具の維持を辞めたためであるが、美樹さやか達は知らない事実。
姿を消す技を持っているかのように錯覚している。

「久し振りね、美樹さやか」

邪魔者は消えたと謂わんばかりのタイミングで暁美ほむらは言葉を紡ぐ。
消えたと言ってもこの世界はキャスターの監視下に置かれているため邪魔者がいないワケではない。
しかし、少なくとも時間停止がバレる可能性は薄いだろう。

現に美樹さやかとコンタクトを取る瞬間、彼女は時を止めた。
時間停止がキャスターや自動人形に知られてしまうと彼女の切り札が消えてしまう。
厳重に警戒し美樹さやかに忠告、時を動き出させる時には元の場所へ戻っている。

魔法少女同士の念話が行えればいいのが生憎あれはインキュベーターの仲介が必要だ。

「久し振り――アンタは何処の時間軸から来たの?」

「貴方がソレを知っているとは驚いたわ……でも」



「私は今、ワケあってこの能力を隠さないといけないの」

「でも私がアンタに従う必要はあるの?」

「お願いよ――どうやらハズレを引いたらしい」

「ふーん……で、結局アンタは?」

「――ワルプルギスの夜に負けた後よ。何故貴方が私の魔法を知っているかはこの際後回しよ。
 その世界線があったと解釈するわ。そしてまどかのために力を貸して欲しい」

「アンタが協力をねぇ……でも、まどかのためって――」



「この場に来てくれたってことは前向きに話を進めていいのかしら」

(こいつ……本当に昔の転校生……?)
暁美ほむらは時間停止を間に挟めながら美樹さやかと会話を行う。

暁美ほむらから見ればこの美樹さやかは時間停止の魔法を知っているイレギュラー。
平行世界の話も知っていて、彼女が知る限り一番知性の高い美樹さやかだろう。
彼女の記憶が正しければ美樹さやかに時間停止の話をしたことはないはず。
ならば未来から――何にせよ時間停止の件を知っているなら鹿目まどかと彼女の関係も知っているだろう。
まどかの事はなるべく伏せて――キャスターに知られないように。
時間を止めながら会話を成立させるように騙すしかない。

美樹さやかから見ればこの暁美ほむらは悪魔ではないイレギュラー。
円環の理を塗り潰した悪魔ではなく懐かしさを感じさせる魔法少女の姿だ。
何故この姿かは不明だ。騙されている可能性もある。
だがこの空間に彼女の使い魔らしき存在は感じられず、魔力も昔の物だ。
ならば過去から――何にせよこの暁美ほむらは美樹さやかが止めるべき存在とは違うらしい。
その彼女はどうやらサーヴァントと馬があっていないらしい。何とも暁美ほむららしいと言えばそれまでだが。
鹿目まどかのことを聞き出したいが先程から肝心な部分は時間停止で会話を進めてくるのだ。
そこまでして自分のサーヴァントに知られたくないことでもあるのか。



「また時を止めて……」

「鹿目まどかは聖杯戦争に参加しているわ」

「……あたしとアンタが居るなら可能性はゼロじゃないわね。杏子やマミさんは?」

「確認出来てないわ。それで同盟の話なんだけど」

「まどかを守る話はアリよ。むしろ協力するべきだと思う、だって契約していないんでしょ?」

「ええ、この場にインキュベーターが居るかどうかも解らないけど。
 それで……貴方は何なの? どうも私の知っている美樹さやかとは違う」

「……本気で言ってる? 円環の理の使い、って言えば伝わるの?」

「え、円環の理……巴マミが好きそうな言葉ね」

「……マジか」

「? 貴方が何を考えているかは不明だけど私はまどかを守る戦力が欲しいだけ」

「……」

「力を貸して。貴方もまどかが死ぬ所何て見たくない……そうでしょ」




「ケニスから伝言を聞いていると思うけど……力を貸して欲しい」


再び動いた時の中で暁美ほむらは停止の世界の言葉を紡ぐ。
話が客観的に見ても通じるように。
今は役者になりきれ、キャスターを騙せ、鹿目まどかを守るために、生き残るために、願いを叶えるために。
美樹さやかが一緒に演じてくれるか不安だったがどうやら何とかなりそうだ。
暁美ほむらは知る由もないがこの美樹さやかは暁美ほむらとインキュベーターを最後まで騙し通した実績が在る。

「どうするつもりだ」

「あたしは……《彼女を助ける》ってのが本当なら……いい……かもしれない」

「歯切れが悪いわね」

「アンタのことを完全に信用出来ないの、心当たり、あるでしょ?」

「……謝罪なら幾らでもする」

暁美ほむらはコミュニケーション能力に欠ける。
それは彼女の身体や病気、色々な原因が存在する。
魔法少女になった後も口数の少なさや口下手なため不要な衝突や犠牲、誤解を産んで来た。
そのツケが今、まどかを守るための同盟を妨害しているのだ。

鹿目まどかを救うために生きてきた彼女に対する酷い皮肉だ。
美樹さやかは本当にこの暁美ほむらが昔の暁美ほむらならば同盟を組むのに文句はない。
時間停止のカラクリは知っている、ならば完全まではいかなくても対処法は存在する。

しかしこの暁美ほむらがあの悪魔ならば。
騙されて同盟を組み、背中を襲われては意味が無い、だが、それでも。

「まどかを守るなら……うん、それはいいんだ」

決断には時間が必要だ、直感では答えられない。
この回答は聖杯戦争の最後まで影響する運命分岐点だ、感じるのだ、事の重要さを。

「時間をくれないか、マスターの友達……暁美ほむら」

「私には余り、時間がないの。今もこうしている間彼女は危険な目に遭っているかもしれない」

「急に呼びつけて協力しろ……出来過ぎてないか?」

「……」

美樹さやかの代わりに会話を行うのはバーサーカー。
彼の言い分は正論であり、端から見れば暁美ほむらは急いでいる印象しか受けない。
言葉が足りないくせに結論だけを求めているのだ。
時間停止中の会話を知らないため仕方が無い話だが。

「うん、ごめんほむら。やっぱ時間がほしい。
 まどかを守るなら文句なんてない、これは本心だよ、でも。
 あたしとアンタ、色々と腹の探り合いをしなきゃなんないのは解っているよね?」

「まさか貴方にそんなことを言われるとはね。解っているわ、でも私は――」





「いいじゃん、いいじゃん。じゃあ明日のお昼までに返事ちょーだいよ、美樹さやかちゃん」




停滞していた会話に新風を起こしたのは老人。
感じる魔力は本物、つまり暁美ほむらのサーヴァントと見て間違いないだろう。
ならば彼が自動人形の創造主様なる存在。

「おっと、僕はやる気ないから拳を抑えてねー」

(気に喰わない奴だ)

敵の登場に戦闘態勢に入ろうとしたバーサーカーだがキャスターに止められる。
キャスターから敵意は感じられないがどうも言葉の端々から感じられる何とも言えない感情が癇に障る。
初対面、初会話ながら印象は巫山戯ている輩、と言って所か。

「それでいいでしょ、マスターぁ?」

「勝手に話を進めないで! 私は美樹さやかと会話をしているの」

「……解った、明日出直すよ」

「な、貴方は何を」

同盟は決裂、とまでは行かないが明日へと延長になるらしい。
この場で同盟を組めれば良し、駄目ならばサーヴァントの奪取を考えていたが中途半端になる。
キャスターを殺し、時間を止めて美樹さやかのサーヴァントを奪い、彼女を元の世界へ還させる。

(どうする、ここでやるべきなの!? でも早い、まだ早い……。
 でもまどかは今も聖杯戦争の危険に晒されて……チッ)

「……解ったわ、良い返事を期待しているわ」


   ◆  ◆  ◆
遊園地の入り口に戻った美樹さやか達は安堵の息を漏らす。
暁美ほむらの交渉は明日へと持ち越すことにした。
判断材料が少ない――増えることもないと思うが決断を下すには時間が欲しい。

本来ならば鹿目まどかを守るために即答するところだが暁美ほむらが提案したのだ。
彼女は世界を己の色に塗り潰した存在だ。信用する方が難しい。

だが、彼女は悪魔ではなく昔の彼女だった。少なくとも外見は。
過去の彼女ならば――此処で未来を、世界の理を再び戻せるかもしれない。

美樹さやかは世界のために、総ての魔法少女のために戦っている。
この生命は彼女だけの生命ではない。

「ありがとう、バーサーカー。おかげで助かったわ」

「気にするな……それよりも此処を離れよう、話はそれからだ」

タイムリミットは明日の正午まで。
内容は鹿目まどかを守るための同盟、断る理由はない。

躊躇う理由は――。


   ◆  ◆  ◆


「今度勝手な真似をしたら令呪を使うわ」

「おいおい、マスターは人の心を知らないのかい? この僕でさえ相手には何週間か期間を与えるんだよ」

再び監視モニターを見つめながら暁美ほむらとキャスターは会話を紡ぐ。
暁美ほむらの計画は半分失敗だ、成果を何一つ得られていない。
明日、総てが決まるが、事前に美樹さやかには人形やキャスターを見られてしまった。
彼女は鹿目まどかを守るため同盟を結ぶとは思うが、念には念を入れねばならない。

総ては鹿目まどかを守るため。

美樹さやかよ、その力と生命――寄越しなさい。


【B-6・遊園地/一日目・夕方】


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]ソウルジェム
[道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ、財布内に通学定期
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.明日の正午までに暁美ほむらへ回答する。
2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことに加え、あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う
[備考]
※浅羽直之、アーチャー(穹撤仙)を確認、フェザーと名乗られました。
※暁美ほむらが昔(TV版)の存在である可能性を感じました。
※暁美ほむらが何かしらの理由で時間停止に制限が掛かっていることを知りました。



【不動明(アモン)@デビルマン】
[状態]ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる
1.さやかに従い行動
2.あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う
3.マスターを守る
[備考]
※穢れの溜まったグリーフシードを『魂喰い』しました。今のところ影響はないですが今後何らかの影響があるかは不明です。
※キャスター(フェイスレス)に不快感を覚えています。



[共通備考]
※マップ外に出られないことを確認しました。出るには強力な精神耐性か精神操作能力、もしくは対界宝具や結界系宝具が必要と考えています
※マップ外に禁人種(タヴー)を確認しました。不動明と近似した成り立ちであるため人間に何かがとりついた者であることに気付いています。NPCは皆禁人種(タヴー)の材料として配置されたと考えています
※間桐雁夜(名前は知らない)、バーサーカー(一方通行)を確認しました。
※暁美ほむらとの交渉『鹿目まどかを守るための同盟』の回答期限は2日目正午までです。
※キャスター(フェイスレス)を確認しました。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(中)、苛立ち
[令呪]残り3画
[装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]
基本:聖杯の力を以てまどかを救う。
 1.美樹さやかの回答を待つ。
 2.交渉に失敗した場合、美樹さやかのサーヴァントを奪う。
 3.キャスターに対する強い不快感。
※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。
※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。
※アポリオン越しにさやか、まどか、タダノの姿を確認しました。
※明、ルフィのステータスと姿を確認しました。
※グリーフシードを一つ持った自動人形を美樹さやかの下へ向かわせました。伝言は『『彼女を助けるのに協力してほしい。遊園地で待つ』と言っている魔法少女がいる』
※美樹さやかとの交渉期限は2日目正午までです。
※美樹さやかの存在に疑問が生じています(見たことのない(劇場版)美樹さやかに対して)



【キャスター(フェイスレス)@からくりサーカス】
[状態]魔力消費(小)
[装備]特筆事項無し
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れる。
 1.美樹さやかの回答を待つ。
 2.あの馬鹿(まどか、タダノ)は引き続き重点的に監視。
 3.ほむらの動きを一応警戒。
[備考]
※B-6に位置する遊園地を陣地としました。
※冬木市の各地にアポリオンが飛んでいます。
 現在、さやか、まどか、タダノを捉えています 。
※映像越しにサーヴァントのステータスを確認するのは通常の映像ではできないと考えています。
※ほむらから伝聞で明とルフィのステータスを聞いています。明についてはある程度正確に、ルフィについては嘘のものを認識しています。
※バーサーカー(不動明)を己の目で確認しました。
※暁美ほむらは何か隠し事をしていると疑っています。
※美樹さやかと暁美ほむらの関係を知りたがっています。



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040:CALL.1:通達 時系列順 042:魔科学共存理論


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030:Gradus prohibitus 暁美ほむら&キャスター(フェイスレス(白金) 043:裏切りの夕焼け
036:誰がために命を燃やす 美樹さやか&バーサーカー(不動明

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最終更新:2015年04月05日 21:25