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「光の屋上 闇の屋上」(2015/12/31 (木) 21:57:30) の最新版変更点
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***光の屋上 闇の屋上 ◆wd6lXpjSKY
異空間に存在する学園だが授業の内容は彼らが知っている学校の類と差異は感じられない。
聖杯戦争のマスター資格である人吉善吉及び夜科アゲハはアッシュフォード学園1-Aにて授業を受けていた。
両者の席は隣でアゲハが教科書を忘れたため人吉が見せるために机ごと近くに動いている。
しかし彼らはまだ隣の人物がマスターであると気付いていない。
隣に居るのは同じクラスの同級生で用意されたNPC、この感覚でしか無い。
今授業している教師も、寝ている生徒、落書きしている生徒。全部が全部用意された人形。
ゲームのような一定の行動と言動を繰り返す機械ではなく本物の人間と同じように過ごす人間。
アゲハ達からすれば『誰がNPCで誰がマスターと見分けるのは表面的に辛い』のが現実である。
令呪の有無や魔力と呼ばれる概念の感知など調べる材料は幾らでもあるのが幸いだろうか。
「え~であるかしてぇ……」
青い髪をした教師が小さな声で世界史を教えている、しかしそんな事はどうでもいい。
(纏の奴……まだ戻ってはいないな)
夜科アゲハはノートを取るも適当に言葉を聞き流しながら今後の展開を想像していた。
展開、彼は天戯弥勒を知る唯一の参加者だ。他の参加者を把握していないため彼は知らないが本当に唯一の存在である。
天戯弥勒の狙いは彼の知る天戯弥勒と大差無いのならば彼を放って置くにはいかない。
だが聖杯戦争とは初めて聞く言葉でありこの単語の全容が全く持って解らないため天戯弥勒の真意も測れないのだ。
最後の一人になれば願いが叶う。ならば何人脱落させればいいのだろうか。
願いが叶う。天戯弥勒ならばその力を他人に与えない。
サーヴァント。疑いたくはないが自分のサーヴァントである纒流子が天戯弥勒と繋がっている可能性もある。
共に戦ってきた仲間の存在有無も解らなければ置かれている状況も言うほど把握はしていない。
やるべき事は天戯弥勒に辿り着き彼を止める――何を、世界を守るため。
「おい夜科、手ェ止まってるぞ?」
「あ、ああ……ちょっと眠たくてさ」
考え事をしていたら手が止まっていたらしく隣に居る人吉から指摘を受ける。
学園に普通に通っているこの状況も考えれば異常な選択かもしれない。
この地区に参加者が集まってる可能性もある、つまり危険な可能性だ。
しかしそんな事を言えば、安全地帯など存在しないため、どの道を進もうが茨に覆われているに代わりはない。
更に言葉を投げるならば今も背中を狙われている、例えや言葉遊びではない。
隣に居る人吉善吉はマスターだ、しかしアゲハは知らない。
この教室にはアサシンが姿を潜めている、これもアゲハは知らない。
そして人吉善吉とアサシンは夜科アゲハがマスターであると把握していない。
この状況さえも未知であり日常である。故に危険であり火薬庫と表しても問題ないだろう。
参加者がそれぞれ身の危険を感じている中でも世界の針は回り続ける。
チクタクチクタク、狂う事無く設定された針は気味が悪い程一定の感覚で時を動かすのだ。
早く時間が過ぎてもらいたい時も一定に。
永遠の刹那を噛みしめたい時でさえ世界の針は止まらない。
止めることが出来るとすれば、その力は因果に叛逆する力ぐらいだろう。
人吉からの言葉に適当な返事をするとアゲハは窓の方を見つめそれを介し空を見る。
蒼い、見慣れた透き通るブルー。此処が天戯弥勒の用意した世界なのだろうか。
ならば此処はサイレンゲームの会場、つまり未来の日本なのだろうか、解らない。
「寝不足か? まぁ気持ちは解らなくもないけどちゃんと寝ろよ?」
(気持ちが解るのか……?)
授業中の何気ないクラスメイトとの会話。
サイレンゲームに参加し、世界のために飛び回っていたアゲハは学校という感覚を忘れていた。
これが日常、しかし時は戦争であり非日常の中に存在する日常だ。
「……ん?」
視界に入る景色は変わらない青空だった。見慣れた青い空。
だがアゲハの瞳に映ったのは青とは異なる赤、それも炎と呼べる代物。
炎が何故視界に映ったかは不明だ、思えば訳の分からない事ばかりが周りで起きている。
かつてアゲハが対峙したドルキ、天戯弥勒の仲間であった男は爆発系の能力を持っていた。
天戯弥勒が健在ならば彼が生きている可能性も、その世界線の可能性も……まさか。
(ドルキか……? PSI使いかそれともマスター、サーヴァントって所か……)
炎の使い手が誰か、問題は違う、観点は其処ではない。
白昼堂々の狼煙は挑発だ。
私は、俺は、此処に居る。
黙って掛かって来い。
上から炎が映り込んできた事を考えれば屋上辺りから炎を展開したのだろう。
それを裏付けるように何となく、根拠はないが上から力のような物を感じる、気がしていた。
挑発を受けたアゲハが取る行動は決まっている。
元から他の参加者と接触して情報が欲しかった所だ、ならば出向くのが走る道。
屋上へ向かう決意をしたアゲハは視線を教室内に配り周りを確認する。
どうやらNPCは気付いていないらしく授業がそのまま行われている。
見たところ不自然な反応をしている生徒も居なく先生も変わらず黒板に書いているためこの教室は白、と判断。
ならば後は屋上へ向かうだけである、彼は席を立ち声を上げる。
「美木杉先生、お腹が痛いのでトイレに行ってきてもよろしいでしょうか!」
「おぉ~それは大変だねぇ~。いいよ、夜科くん……そうだそうだ」
先生の許可を貰い颯爽と教室を出て行こうとするアゲハ。
しかし先生は言葉を切らずに紡ぎ、彼の足を止める。
演技にしては普段通りで元気過ぎたか……アゲハは心の中で舌打ちを行っていた。
「人吉くん、君も付いてあげなさ……あれれぇ~もう行ってしまったかい」
先生の言葉が終わるよりも早くアゲハは廊下に出ていた。
お腹が痛くてトイレに行く、勿論嘘であり授業を抜ける口実に過ぎない。
もし誰かが付いてくれば強制的にトイレに行く事になり屋上の存在と接触が出来ない。
(保健室なら分かるけどトイレに付き添いは必要か……?)
そんな事を思いつつ彼は階段を二つ飛ばしで駆け上がる。
サーヴァントであるセイバーに『とっとと戻ってこい』と念話を行い、指示を出す。
アゲハは強力なPSI使いである、しかしサーヴァント相手に通用するかどうかの話になると次元が違ってしまう。
ノヴァを発動すれば……それでも勝つことは到底不可能だ、何が言いたいかと言うと、人間はサーヴァントに劣る。
召されたサーヴァントは英霊だ、、過去に世界で名を馳せた伝説の存在である。
その英霊にまだ己の生も終えていない若造達では相手にとって分が悪過ぎていた。
セイバーの到着を待てばいい話だが、もし屋上の存在が世間で表わす『悪』ならば。
その魔の手に誰かが襲われたら……善は急げ、言葉で言わず行動で示していた。
屋上の扉を力を込めて蹴り開けると奥に人影が二つ。
一つは紅い髪をした女、もう一人は美しい顔立ちをした緑の青年。
アゲハの視線に気付いた彼女達の視線は優しい物ではない、けれど冷たくもない曖昧な物。
自分を見定めているのだろう、つまり。
「招待したのはお前達だな」
「……屋上に引き返して正解だった、そうだよあたし達が呼んだ」
「来てやったぜ、お前もあるんだろ?」
紅い髪の女性の言葉に返答するとアゲハは腕を捲り令呪を曝け出す。
令呪は聖杯戦争に参加するマスターの証、絶対命令権である。
「わざわざ自分から見せてくれるんだ……勿論あたしもマスターだよ」
アゲハの言葉に嘘を騙る事もせず女性もまた腕を捲り令呪を見せつける。
両者共にマスター、そして互いの令呪はそれぞれ三つ全て残っている事を確認。
「自分から見せるも何も誘ったのはそっちだろ? それで俺が来た」
「まぁその通りなんだけどね。で、最初に言っておくけどあたしは聖杯を手に入れる」
女性は言葉に重みを含ませアゲハに放つ。
その言葉は「欲しい」だとか「叶えたい」などではなく「手に入れる」だ。力が在る。
目の前の女性は覚悟が在る、そして叶えたい願いが、切実に、存在するのだろう。
「……じゃあ俺を倒すために誘ったのか」
「……情けはないよ」
先程とは変わり女性の言葉が少し弱くなる。
情緒不安定や二重人格ではなく、人を殺す事を戸惑うように声を掛けている。
アゲハも無闇に戦闘は行いたくない、彼もまた手探りであり仲間が手に入るならば嬉しい、と言った所だ。
「色々聞きたいことが山ほどあるし、お前もあんだろ……ってやる気、だなオイ」
出来る事ならば情報交換……世界や状況の把握を行いたいアゲハだったが駄目らしい。
女性は既に銃を構え口をアゲハに向けており、引き金に指を掛けていた。
「早くアンタのサーヴァントを出しな、でないと……死ぬよ?」
言葉を冷たく鋭く出来るだけ相手の恐怖心を煽るように静かに最後の単語にアクセントを。
だが生憎夜科アゲハ、この程度で怖気づく程玉が小さくなければ潜って来た修羅場も生半可な物ではない。
「悪いけど俺のサーヴァントは絶賛ドライブ中でな、困った奴だよ全く」
故に退くことも、取り乱すことも無く向けられた銃口を捉えていた。
そして嘘は騙らない、纒流子は文字通りドライブだ。
この言葉に女性は驚きの表情。それもその筈何故サーヴァントを傍に置いていないのか。
サーヴァントの戦闘能力が規格外なのは承知の上だ、そしてもう一つ。
「サーヴァント無しで乗り込んで来たの……アンタ馬鹿?」
この言葉に反応するように悪い笑みを浮かべた夜科アゲハはそのまま駆け出した。
◆
屋上の参加者――紅月カレンとセイバーが行った屋上での演奏。
聖なる業火を演出に奏でられた旋律を聞いたのはアゲハだけではない。
その音を彼の隣に居た人吉善吉もまた、その耳に聴いており魔力を感じていた。
白昼堂々の行動に一瞬驚くも他の参加者と接触する絶好の機会であり逃す手はない。
彼は聖杯を本気で手に入れるつもりだ、そのために他の参加者を倒す気でいるのだ。
倒すつもり。
殺しではない。
彼は聖杯戦争をゲームの一種と認識している節がある。
天戯弥勒の言葉を聞き流していた訳ではない。
だが現実味を帯びない日常の空気が彼にとって悪い様に作用しているだけの話。
ならば屋上へ向かう、行動を始めようとする人吉だが先手を打たれた。
それは隣に座っていた夜科アゲハだ、彼はお腹が痛くなりトイレに行く、そう宣言した。
人吉も同じタイミングで先生に授業を抜け出す提案を投げようとしていたため、間が流れる。
何とか早く行きたい所で先生が一緒に行くように提案するもアゲハは既に居ない。
教師の言葉を待たずに彼は飛び出していたのだ、やられた、と顔を顰める。
このタイミングでもう一度授業を抜け出す提案を行ったら怪しがられるだろう。
少なくとも自分が教師ならばサボりと疑いに掛かる、道を塞がれた。
アゲハと呼ばれるNPCに機会を奪われたのだ、悪いイベントを仕組まれていた。
無論彼はNPCではないが人吉がそれを知るのはまだ先、将又知ることがあるのだろうか。
移動を諦めかける人吉だがこの機会を逃せば次に他の参加者と出会えるタイミング、接触は何時になるのか。
少なくても学園に他のマスターが居る事が解ったのは収穫だが……。
『心配すんな、今は大人しくしていろ』
焦る人吉を宥めるのはサーヴァントであるアサシン、垣根帝督。
霊体化し教室に潜んでいた彼はマスターに声を念話として飛ばしていた。
心配するな、この言葉が何を示しているのか人吉に心当たりはない。
しかしアサシンの方が聖杯戦争の知識が在るため従っているのがベストな選択だろう。
『そうか……やっぱ屋上に居るのって他の参加者か?』
『ん、そんなところだな。黙っていりゃまた接触の機会はあるんだ。下手に動くよりはマシだ。黙って座っとけ』
下手に動けば潜んでいるマスターに怪しまれる、その言葉に人吉は黙って頷く。
ならばベストな選択は大人しく授業を受けること、焦らず日常に溶けこむことだ。
立ち上がることもしなければ声を上げることもせず人吉は黙ってノートに書き込みを始める。
(あの夜科アゲハって奴、あれじゃあ俺がマスターだって言ってるようなモンじゃねえかよ)
アサシンは教室の後ろに座を置き全体を監視していたが夜科アゲハは黒と断定。
認識などではなく断定だ、確定で決定、確証はないが十中八九マスターだろう。
皮肉……かどうかは置いておいてまさか自分のマスターの隣に座るクラスメイトが別のマスターとは。
天戯弥勒のイキナハカライなのだろうか、まぁいい、と息を吐く。
この聖杯戦争は始まったばかりだ、焦る必要はない。
まだ自分が身を乗り出すのは早い、潰し合ってくれるならば潰し合え。
舞台を温めていろ、俺が登るにはまだ早え、と。
アサシンは言葉には出さずとも確実に状況を把握していた。
【Cー2・アッシュフォード学園・2-A/一日目・午前】
【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]健康
[装備]箱庭学園生徒会制服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:日常を過ごしながら聖杯戦争を勝ち抜く。
1.今は授業を受け、その後アサシンと相談。
2.放課後は生徒会に顔を出す。
3.学園に他のマスターがいないかどうか調べる。
[備考]
※夜科アゲハがマスターであると知りません。
※アッシュフォード学園生徒会での役職は庶務です。
※相手を殺さなくても聖杯戦争を勝ち抜けると思っています。
※屋上の挑発に気づきました。
※学園内に他のマスターが居ると認識しています。
【垣根帝督@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、霊体
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:他の奴らを潰し聖杯戦争を勝ち抜く。
1.今は様子見の時。
2.今後の方針を固めるのも手段の一つ。
[備考]
※鬼龍院皐月がマスターでは無いと分かっています。
※屋上の異変に気付きました。
※夜科アゲハがマスターであると断定しています。
己の身体能力をPSIの一つであるライズで強化し距離を詰めるアゲハ。
最初のやりとりで確信していた、目の前の女は銃を撃つつもりがないことを。
聖杯を勝ち取ると宣言している割には何処か言葉や表情に優しが残っているように感じていた。
無論彼女の言葉や覚悟は疑い事無き本物であると解っていると判断した上での突撃だ。
女性は引き金を引かずに横に飛び回避に移ろうとするも身体能力はアゲハの方が上だ。
このままアゲハは女性を無力化し何とか会話に持ち込みたいがそうはいかないだろう。
「やっぱ速えんだな……サーヴァントってよォッ!!」
マスターを護るべく割って入るのは緑のサーヴァント。
手にした盾でマスターの前に飛び出しアゲハの正面に飛ぶ形で登場。
アゲハは最初からサーヴァントが割って入ると予想した上での行動、そのまま盾を蹴り上げるべく上方へ右脚を。
盾に蹴りが命中し鈍い音を鳴らすもサーヴァントが後退することはない。
そのまま行き場を無くした衝撃を逃すためにアゲハは盾の表面を滑らせるように右脚を最後までに蹴り抜く。
大きく右脚が振り上がった状態になり無防備になるアゲハを逃す緑のサーヴァントではない。
大きく距離を取った後に盾で突進し彼の体勢を崩さんとするが黙ってやられるアゲハでもない。
盾が近づいて来るとそのまま振り上がった右脚を踵落しの要領で落とす。
加速された右脚はそのまま盾の内側に踵を密着させる形になりアゲハは右脚に全体重を捧げる。
「ダラァッ!!」
右脚を更に盾ごと大地に振り下げるとその勢いのままフェンスの上に飛び乗る。
緑のサーヴァントは体勢を崩し前傾のまま数歩よろけるも体勢を即座に立て直しアゲハに視線を。
だがその視界に入ってきたのはアゲハ、確かにアゲハだがもう一つ得体のしれない物が。
「気を付けてセイバー!」
女性の叫びに耳を傾ける緑のサーヴァントだが既に知っている、危険が迫っている事を。
自分の目の前には黒い一筋の光が鋭利な形状となり此方に向かっていたのだ。
盾で防御の体制に入り両手で支え黒い流星を防ぐ。
ズシリ、と重みが走るが損傷は感じられない、流石はセイバーのサーヴァントだろうか。
「チッ……やっぱサーヴァント相手に効きはしないのかよ」
黒い流星の正体はアゲハのPSIである暴王の流星―メルゼスランスだ。
強力な能力ではあるがサーヴァント相手には効き目が薄いようである。
つまり現時点では圧倒的に不利でありむしろ絶望に近い、だが収穫もある。
「そのサーヴァントはセイバー、か。良いことを聞いちまったな?」
「……嫌な奴ねアンタ」
「いきなり銃口向けた女が何言ってんだよ、ついでに俺は夜科アゲハ。
聞き覚えが無いなら聞き流してくれ、ま、初対面で間違いないけど……ん?」
相手を煽るアゲハだったが異変を感じる。
そもそも魔力とPSIに満ちているこの屋上そのものが異質な空間なのだが。
音が聞こえる。
遠くから近づくように。
近くなる。
音は段々と聞き取りやすくなっていく。
更に近くなる。
音の正体は声のようだ。
肉眼で確認出来る程近くに来る。
……何故彼女が居るかは不明だが。
「来てやったぜ、アゲハッ!!」
気付けば此方に向かい彼のサーヴァントである纒流子が跳んで来ていた。
言っておくが彼女に飛行能力は付加されていない。
宝具を発動すれば授かることは可能だが今の彼女は宝具を展開していない。
なら何故飛んでいるのか――近くの建物から跳んだのだ、故に羽ばたきではなく跳躍。
徐々に屋上に近づく纒流子だがアゲハは驚いている。
呼んだのは彼だ、サーヴァントが駆けつけてくれた事は素直に有難いし嬉しくも在る。
だが、何故わざわざそんな登場なのか。嫌いでは無いのだが何故、何故その選択を選んだのか。
対峙する女性もまた驚き、よりも呆れているに近い態度。
馬鹿にしている訳ではないが素直に表現すると「訳が分からない」と言ったところだ。
アゲハに視線を移し「大変そうね」と若干の憐れみを示す。
纒流子はそのまま片手に武器を握りしめたまま着地に移ろうとしていた。
だが近づけば近づく程屋上に違和感を感じていた。
戦闘が始まっているのだから既に日常から逸脱はしているが別のベクトルで何かを感じる。
しかし気にしている時間もないためそのまま着に移るが――。
「……何だこれ?」
アゲハが素直に言葉を漏らす。
纒流子は着地に失敗した。それは足を挫いただとか転んだ、などの話ではない。
空で止まっているのだ、彼女は空中で止まっている。
パントマイムのように身体を貼り付けている。
目に見えない壁に張り付くように彼女はその場で固まり不満の表情を浮かべていた。
「他の人に気付かれたら騒ぎになるからね、結界を張っておいたって訳。
アンタさっき名乗ったよね、アゲハって。あたしは――紅月カレン。
名前を明かすのは正直得策じゃないけど、一度きりの礼儀って奴でね」
敵に名前を知らせる気は無いが名乗られたら名乗り返すのが摂理だろう。
戦闘の中でも一定の、彼女にも倫理と言うか常識と言うか……当然の行動として扱う。
そのまま結界に張り付いているアゲハのサーヴァントを見つめる。
手にしている獲物から察するにこの女もセイバーのサーヴァントなのだろうか。
気にはなるが今は結界の外であり脅威は無い、そう思っていた矢先。
彼女を護るように緑のサーヴァント、リンクは前に出る。
纒流子はアゲハの様に結界を力の限り蹴り込み、その衝撃で宙に跳んだ。
マスターがマスターならばサーヴァントも似るのだろうか、似たような足技である。
空中に身を任せた纒流子は鋏を両手持ちに変え屋上を見下ろす。
「片太刀バサミィッ!!武滾流猛ォォオオオオオオオ怒ッッ!!」
彼女が叫ぶと手に握られていた鋏の刀身が伸び獲物の真の姿を披露する。
発言と感じる魔力から恐らく宝具の一種であろう。
そのまま力任せに振るい結界に鋏を叩きつける纒流子。
「なっ、結界を破ろうとしているの!?」
「当ったり前よぉ、じゃあ何しているように見えんだ、アァ!?」
カレンの疑問に煽るように返答する纒流子。
この結界はリンクがオカリナで発動した結界だ、つまり此方も宝具である。
何方もセイバーのサーヴァントでありその能力は本物だ。
だが魔力の観点から見ればリンクの方が優れているのは事実。
生前魔法に関わった彼の力、対する纒流子は己の身体と力で戦ってきたのだ。
しかしマスターで考えるとアゲハの方がカレンより何倍も素質は優れているのだが。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
魔力や素質、願いに近況。
そんなのは関係無い、と言わんばかりに叫ぶ纒流子。
鋏は結界と衝突し大きな音を響かせるも壊れる気配ない――筈だった。
次第に結界に亀裂が入り始める。
これが鋏に隠された能力『断ち切る力』魔力を消費し全ての運命を断ち切る力。
「そ、そんな!?」
「やるじゃねぇか纏……ッ」
「うおおおおおおおおおおお……しゃああああああああああああああ!!」
力任せに結界を断ち切った纒流子は屋上に着地すると鋏をカレン達に向ける。
「斬ってやったぜ?」
その表情は勝ち誇っており相手にとって不快であったのは事実であろう。
「それじゃ第二ラウンドと行こうぜ、緑のサーヴァントさんよぉ?」
鋏を肩に担ぎ首を数回動かすと纒流子はリンクに戦闘の開始を促す。
第二ラウンドと呼べるほど第一ラウンドを行った訳でもないが遅れてきた彼女にとっては第二ラウンドなのだろう。
踵を地面に数回叩き体勢を整えると隣にいるマスター、夜科アゲハにアイコンタクトを起こし駆け出そうとするも――。
「――っていねぇ!? 何で!?」
「お前が結界をぶっ壊したから音が外に丸聞こえになっちまったみたいだな……。
階段から登ってくる音が聞こえやがる……俺達も退いたほうがよさそうだな」
聖杯戦争で名を売ることは自分を危険に晒すことに直結する。
身元が晒されては時間を問わず襲われる可能性が大き過ぎる、安息を得られない。
戦火に身を包むなら遅かれ早かれ安息など無くなるが最初から晒す必要はない。
情報の漏洩を危険視したカレン達は纒流子が結界を破ると迷いもぜずに屋上を飛び降りた。
セイバーが彼女を抱きかかえながら飛び降りたため、安全だろう。
アゲハはフェンスに近寄り落下するカレン達を見つめる。
この距離ならばまだ声は届くだろう、そう判断し声を上げる。
「紅月カレン、お前に『その気』があるなら昼に体育館裏に来いッ!」
そう言い放つ、勿論カレンからのリアクションは無い。
屋上からの目視なので詳細は分からないが無事に着地出来たようだ。
「体育館裏って告白でもすんのか?」
自分のサーヴァントの言葉を無視しながら跳ぶ体勢に入るアゲハ。
後ろで纒流子が文句を垂れ流しているのが聞こえるが無視で充分だ。
『その気』とは恋模様ではない、協定、謂わば仲間になる気はあるか、のニュアンスである。
アゲハは情報を欲している。
それは聖杯戦争であり天戯弥勒の事でも在る。どんな些細な事でも今は欲しているのだ。
カレンの初コンタクトの印象は最悪に近い。だが会話が出来ない、と言う訳でもないようだ。
これから世界の針がどう動くは誰も予想は出来ない。
ならば今出来る事をすればいい、単純明快である。
「俺達も此処から逃げるぞ」
「折角来てやったのに……しゃあねぇ、か。
遅れたあたしも悪いしな……んじゃ、いくぜッ!」
そして二人も屋上を飛び降りる。
戦闘の結果は特に損傷もなく終了。
互いに互いが名前を知ることが出来たのは収穫だった。
もしも、もしこのまま協定を結ぶことが出来るなら。
彼らの剣は魔を断つ剣と成り得るだろう。
しかし物語はご都合主義だけでは構成されない。
敵対するならば。
血で血を洗う血戦なるだろう。
【C-2/アッシュフォード学園・校庭/1日目 午前】
※屋上にてセイバーがオカリナを使用した。
学校にいるサーヴァント、マスターなら気づくかもしれません。
※生徒指導部教員兼警備員長のNPCとして【インパ@ゼルダの伝説 時のオカリナ】が存在しています。
【紅月カレン@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]健康、魔力消費(中)
[令呪]残り3画
[装備]鞄(中に勉強道具、拳銃、仕込みナイフが入っております。(その他日用品も))
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:願いのために聖杯を勝ち取る。
1.上手く逃げ過ごした後教室に戻る。
2.アゲハの言葉通り、昼に体育館裏に……?。
3.学園終了後、街を探索。
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※学校内での自分の立ち位置を理解しました。
※生徒会の会見として所属しているようです。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。
※昼に体育館裏に行くかどうかはきまっておりません。
【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる
1.マスターに委ねる
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
【夜科アゲハ@PSYREN -サイレン-】
[状態]魔力(PSI)消費(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.昼になったら体育館裏に行く。
2.夜になったら積極的に出回り情報を探す。
[備考]
※人吉善吉がマスターであると知りません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]魔力消費(中)若干苛立ち
[装備]方太刀バサミ
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.逃げる。
2.昼になったら体育館裏に向かう
[備考]
※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※乗ってきたバイクは学園近くの茂みに隠してあります。
----
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|030:[[Gradus prohibitus]]|[[投下順>本編SS目次・投下順]]|032:[[これって魔法みたいだね]]|
|030:[[Gradus prohibitus]]|[[時系列順>本編SS目次・時系列順]]|032:[[これって魔法みたいだね]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|016:[[LIKE A HARD RAIN]]|[[夜科アゲハ]]|035:[[錯綜するダイヤグラム]]|
|022[[気絶するほど悩ましい]]|セイバー([[纒流子]])|~|
|026:[[火種 の オカリナ]]|[[紅月カレン]]&セイバー([[リンク]])|~|
|016:[[LIKE A HARD RAIN]]|[[人吉善吉]]&アサシン([[垣根帝督]])|~|
***光の屋上 闇の屋上 ◆wd6lXpjSKY
異空間に存在する学園だが授業の内容は彼らが知っている学校の類と差異は感じられない。
聖杯戦争のマスター資格である人吉善吉及び夜科アゲハはアッシュフォード学園1-Aにて授業を受けていた。
両者の席は隣でアゲハが教科書を忘れたため人吉が見せるために机ごと近くに動いている。
しかし彼らはまだ隣の人物がマスターであると気付いていない。
隣に居るのは同じクラスの同級生で用意されたNPC、この感覚でしか無い。
今授業している教師も、寝ている生徒、落書きしている生徒。全部が全部用意された人形。
ゲームのような一定の行動と言動を繰り返す機械ではなく本物の人間と同じように過ごす人間。
アゲハ達からすれば『誰がNPCで誰がマスターと見分けるのは表面的に辛い』のが現実である。
令呪の有無や魔力と呼ばれる概念の感知など調べる材料は幾らでもあるのが幸いだろうか。
「え~であるかしてぇ……」
青い髪をした教師が小さな声で世界史を教えている、しかしそんな事はどうでもいい。
(纏の奴……まだ戻ってはいないな)
夜科アゲハはノートを取るも適当に言葉を聞き流しながら今後の展開を想像していた。
展開、彼は天戯弥勒を知る唯一の参加者だ。他の参加者を把握していないため彼は知らないが本当に唯一の存在である。
天戯弥勒の狙いは彼の知る天戯弥勒と大差無いのならば彼を放って置くにはいかない。
だが聖杯戦争とは初めて聞く言葉でありこの単語の全容が全く持って解らないため天戯弥勒の真意も測れないのだ。
最後の一人になれば願いが叶う。ならば何人脱落させればいいのだろうか。
願いが叶う。天戯弥勒ならばその力を他人に与えない。
サーヴァント。疑いたくはないが自分のサーヴァントである纒流子が天戯弥勒と繋がっている可能性もある。
共に戦ってきた仲間の存在有無も解らなければ置かれている状況も言うほど把握はしていない。
やるべき事は天戯弥勒に辿り着き彼を止める――何を、世界を守るため。
「おい夜科、手ェ止まってるぞ?」
「あ、ああ……ちょっと眠たくてさ」
考え事をしていたら手が止まっていたらしく隣に居る人吉から指摘を受ける。
学園に普通に通っているこの状況も考えれば異常な選択かもしれない。
この地区に参加者が集まってる可能性もある、つまり危険な可能性だ。
しかしそんな事を言えば、安全地帯など存在しないため、どの道を進もうが茨に覆われているに代わりはない。
更に言葉を投げるならば今も背中を狙われている、例えや言葉遊びではない。
隣に居る人吉善吉はマスターだ、しかしアゲハは知らない。
この教室にはアサシンが姿を潜めている、これもアゲハは知らない。
そして人吉善吉とアサシンは夜科アゲハがマスターであると把握していない。
この状況さえも未知であり日常である。故に危険であり火薬庫と表しても問題ないだろう。
参加者がそれぞれ身の危険を感じている中でも世界の針は回り続ける。
チクタクチクタク、狂う事無く設定された針は気味が悪い程一定の感覚で時を動かすのだ。
早く時間が過ぎてもらいたい時も一定に。
永遠の刹那を噛みしめたい時でさえ世界の針は止まらない。
止めることが出来るとすれば、その力は因果に叛逆する力ぐらいだろう。
人吉からの言葉に適当な返事をするとアゲハは窓の方を見つめそれを介し空を見る。
蒼い、見慣れた透き通るブルー。此処が天戯弥勒の用意した世界なのだろうか。
ならば此処はサイレンゲームの会場、つまり未来の日本なのだろうか、解らない。
「寝不足か? まぁ気持ちは解らなくもないけどちゃんと寝ろよ?」
(気持ちが解るのか……?)
授業中の何気ないクラスメイトとの会話。
サイレンゲームに参加し、世界のために飛び回っていたアゲハは学校という感覚を忘れていた。
これが日常、しかし時は戦争であり非日常の中に存在する日常だ。
「……ん?」
視界に入る景色は変わらない青空だった。見慣れた青い空。
だがアゲハの瞳に映ったのは青とは異なる赤、それも炎と呼べる代物。
炎が何故視界に映ったかは不明だ、思えば訳の分からない事ばかりが周りで起きている。
かつてアゲハが対峙したドルキ、天戯弥勒の仲間であった男は爆発系の能力を持っていた。
天戯弥勒が健在ならば彼が生きている可能性も、その世界線の可能性も……まさか。
(ドルキか……? PSI使いかそれともマスター、サーヴァントって所か……)
炎の使い手が誰か、問題は違う、観点は其処ではない。
白昼堂々の狼煙は挑発だ。
私は、俺は、此処に居る。
黙って掛かって来い。
上から炎が映り込んできた事を考えれば屋上辺りから炎を展開したのだろう。
それを裏付けるように何となく、根拠はないが上から力のような物を感じる、気がしていた。
挑発を受けたアゲハが取る行動は決まっている。
元から他の参加者と接触して情報が欲しかった所だ、ならば出向くのが走る道。
屋上へ向かう決意をしたアゲハは視線を教室内に配り周りを確認する。
どうやらNPCは気付いていないらしく授業がそのまま行われている。
見たところ不自然な反応をしている生徒も居なく先生も変わらず黒板に書いているためこの教室は白、と判断。
ならば後は屋上へ向かうだけである、彼は席を立ち声を上げる。
「美木杉先生、お腹が痛いのでトイレに行ってきてもよろしいでしょうか!」
「おぉ~それは大変だねぇ~。いいよ、夜科くん……そうだそうだ」
先生の許可を貰い颯爽と教室を出て行こうとするアゲハ。
しかし先生は言葉を切らずに紡ぎ、彼の足を止める。
演技にしては普段通りで元気過ぎたか……アゲハは心の中で舌打ちを行っていた。
「人吉くん、君も付いてあげなさ……あれれぇ~もう行ってしまったかい」
先生の言葉が終わるよりも早くアゲハは廊下に出ていた。
お腹が痛くてトイレに行く、勿論嘘であり授業を抜ける口実に過ぎない。
もし誰かが付いてくれば強制的にトイレに行く事になり屋上の存在と接触が出来ない。
(保健室なら分かるけどトイレに付き添いは必要か……?)
そんな事を思いつつ彼は階段を二つ飛ばしで駆け上がる。
サーヴァントであるセイバーに『とっとと戻ってこい』と念話を行い、指示を出す。
アゲハは強力なPSI使いである、しかしサーヴァント相手に通用するかどうかの話になると次元が違ってしまう。
ノヴァを発動すれば……それでも勝つことは到底不可能だ、何が言いたいかと言うと、人間はサーヴァントに劣る。
召されたサーヴァントは英霊だ、、過去に世界で名を馳せた伝説の存在である。
その英霊にまだ己の生も終えていない若造達では相手にとって分が悪過ぎていた。
セイバーの到着を待てばいい話だが、もし屋上の存在が世間で表わす『悪』ならば。
その魔の手に誰かが襲われたら……善は急げ、言葉で言わず行動で示していた。
屋上の扉を力を込めて蹴り開けると奥に人影が二つ。
一つは紅い髪をした女、もう一人は美しい顔立ちをした緑の青年。
アゲハの視線に気付いた彼女達の視線は優しい物ではない、けれど冷たくもない曖昧な物。
自分を見定めているのだろう、つまり。
「招待したのはお前達だな」
「……屋上に引き返して正解だった、そうだよあたし達が呼んだ」
「来てやったぜ、お前もあるんだろ?」
紅い髪の女性の言葉に返答するとアゲハは腕を捲り令呪を曝け出す。
令呪は聖杯戦争に参加するマスターの証、絶対命令権である。
「わざわざ自分から見せてくれるんだ……勿論あたしもマスターだよ」
アゲハの言葉に嘘を騙る事もせず女性もまた腕を捲り令呪を見せつける。
両者共にマスター、そして互いの令呪はそれぞれ三つ全て残っている事を確認。
「自分から見せるも何も誘ったのはそっちだろ? それで俺が来た」
「まぁその通りなんだけどね。で、最初に言っておくけどあたしは聖杯を手に入れる」
女性は言葉に重みを含ませアゲハに放つ。
その言葉は「欲しい」だとか「叶えたい」などではなく「手に入れる」だ。力が在る。
目の前の女性は覚悟が在る、そして叶えたい願いが、切実に、存在するのだろう。
「……じゃあ俺を倒すために誘ったのか」
「……情けはないよ」
先程とは変わり女性の言葉が少し弱くなる。
情緒不安定や二重人格ではなく、人を殺す事を戸惑うように声を掛けている。
アゲハも無闇に戦闘は行いたくない、彼もまた手探りであり仲間が手に入るならば嬉しい、と言った所だ。
「色々聞きたいことが山ほどあるし、お前もあんだろ……ってやる気、だなオイ」
出来る事ならば情報交換……世界や状況の把握を行いたいアゲハだったが駄目らしい。
女性は既に銃を構え口をアゲハに向けており、引き金に指を掛けていた。
「早くアンタのサーヴァントを出しな、でないと……死ぬよ?」
言葉を冷たく鋭く出来るだけ相手の恐怖心を煽るように静かに最後の単語にアクセントを。
だが生憎夜科アゲハ、この程度で怖気づく程玉が小さくなければ潜って来た修羅場も生半可な物ではない。
「悪いけど俺のサーヴァントは絶賛ドライブ中でな、困った奴だよ全く」
故に退くことも、取り乱すことも無く向けられた銃口を捉えていた。
そして嘘は騙らない、纒流子は文字通りドライブだ。
この言葉に女性は驚きの表情。それもその筈何故サーヴァントを傍に置いていないのか。
サーヴァントの戦闘能力が規格外なのは承知の上だ、そしてもう一つ。
「サーヴァント無しで乗り込んで来たの……アンタ馬鹿?」
この言葉に反応するように悪い笑みを浮かべた夜科アゲハはそのまま駆け出した。
◆
屋上の参加者――紅月カレンとセイバーが行った屋上での演奏。
聖なる業火を演出に奏でられた旋律を聞いたのはアゲハだけではない。
その音を彼の隣に居た人吉善吉もまた、その耳に聴いており魔力を感じていた。
白昼堂々の行動に一瞬驚くも他の参加者と接触する絶好の機会であり逃す手はない。
彼は聖杯を本気で手に入れるつもりだ、そのために他の参加者を倒す気でいるのだ。
倒すつもり。
殺しではない。
彼は聖杯戦争をゲームの一種と認識している節がある。
天戯弥勒の言葉を聞き流していた訳ではない。
だが現実味を帯びない日常の空気が彼にとって悪い様に作用しているだけの話。
ならば屋上へ向かう、行動を始めようとする人吉だが先手を打たれた。
それは隣に座っていた夜科アゲハだ、彼はお腹が痛くなりトイレに行く、そう宣言した。
人吉も同じタイミングで先生に授業を抜け出す提案を投げようとしていたため、間が流れる。
何とか早く行きたい所で先生が一緒に行くように提案するもアゲハは既に居ない。
教師の言葉を待たずに彼は飛び出していたのだ、やられた、と顔を顰める。
このタイミングでもう一度授業を抜け出す提案を行ったら怪しがられるだろう。
少なくとも自分が教師ならばサボりと疑いに掛かる、道を塞がれた。
アゲハと呼ばれるNPCに機会を奪われたのだ、悪いイベントを仕組まれていた。
無論彼はNPCではないが人吉がそれを知るのはまだ先、将又知ることがあるのだろうか。
移動を諦めかける人吉だがこの機会を逃せば次に他の参加者と出会えるタイミング、接触は何時になるのか。
少なくても学園に他のマスターが居る事が解ったのは収穫だが……。
『心配すんな、今は大人しくしていろ』
焦る人吉を宥めるのはサーヴァントであるアサシン、垣根帝督。
霊体化し教室に潜んでいた彼はマスターに声を念話として飛ばしていた。
心配するな、この言葉が何を示しているのか人吉に心当たりはない。
しかしアサシンの方が聖杯戦争の知識が在るため従っているのがベストな選択だろう。
『そうか……やっぱ屋上に居るのって他の参加者か?』
『ん、そんなところだな。黙っていりゃまた接触の機会はあるんだ。下手に動くよりはマシだ。黙って座っとけ』
下手に動けば潜んでいるマスターに怪しまれる、その言葉に人吉は黙って頷く。
ならばベストな選択は大人しく授業を受けること、焦らず日常に溶けこむことだ。
立ち上がることもしなければ声を上げることもせず人吉は黙ってノートに書き込みを始める。
(あの夜科アゲハって奴、あれじゃあ俺がマスターだって言ってるようなモンじゃねえかよ)
アサシンは教室の後ろに座を置き全体を監視していたが夜科アゲハは黒と断定。
認識などではなく断定だ、確定で決定、確証はないが十中八九マスターだろう。
皮肉……かどうかは置いておいてまさか自分のマスターの隣に座るクラスメイトが別のマスターとは。
天戯弥勒のイキナハカライなのだろうか、まぁいい、と息を吐く。
この聖杯戦争は始まったばかりだ、焦る必要はない。
まだ自分が身を乗り出すのは早い、潰し合ってくれるならば潰し合え。
舞台を温めていろ、俺が登るにはまだ早え、と。
アサシンは言葉には出さずとも確実に状況を把握していた。
【Cー2・アッシュフォード学園・2-A/一日目・午前】
【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]健康
[装備]箱庭学園生徒会制服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:日常を過ごしながら聖杯戦争を勝ち抜く。
1.今は授業を受け、その後アサシンと相談。
2.放課後は生徒会に顔を出す。
3.学園に他のマスターがいないかどうか調べる。
[備考]
※夜科アゲハがマスターであると知りません。
※アッシュフォード学園生徒会での役職は庶務です。
※相手を殺さなくても聖杯戦争を勝ち抜けると思っています。
※屋上の挑発に気づきました。
※学園内に他のマスターが居ると認識しています。
【垣根帝督@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、霊体
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:他の奴らを潰し聖杯戦争を勝ち抜く。
1.今は様子見の時。
2.今後の方針を固めるのも手段の一つ。
[備考]
※鬼龍院皐月がマスターでは無いと分かっています。
※屋上の異変に気付きました。
※夜科アゲハがマスターであると断定しています。
己の身体能力をPSIの一つであるライズで強化し距離を詰めるアゲハ。
最初のやりとりで確信していた、目の前の女は銃を撃つつもりがないことを。
聖杯を勝ち取ると宣言している割には何処か言葉や表情に優しが残っているように感じていた。
無論彼女の言葉や覚悟は疑い事無き本物であると解っていると判断した上での突撃だ。
女性は引き金を引かずに横に飛び回避に移ろうとするも身体能力はアゲハの方が上だ。
このままアゲハは女性を無力化し何とか会話に持ち込みたいがそうはいかないだろう。
「やっぱ速えんだな……サーヴァントってよォッ!!」
マスターを護るべく割って入るのは緑のサーヴァント。
手にした盾でマスターの前に飛び出しアゲハの正面に飛ぶ形で登場。
アゲハは最初からサーヴァントが割って入ると予想した上での行動、そのまま盾を蹴り上げるべく上方へ右脚を。
盾に蹴りが命中し鈍い音を鳴らすもサーヴァントが後退することはない。
そのまま行き場を無くした衝撃を逃すためにアゲハは盾の表面を滑らせるように右脚を最後までに蹴り抜く。
大きく右脚が振り上がった状態になり無防備になるアゲハを逃す緑のサーヴァントではない。
大きく距離を取った後に盾で突進し彼の体勢を崩さんとするが黙ってやられるアゲハでもない。
盾が近づいて来るとそのまま振り上がった右脚を踵落しの要領で落とす。
加速された右脚はそのまま盾の内側に踵を密着させる形になりアゲハは右脚に全体重を捧げる。
「ダラァッ!!」
右脚を更に盾ごと大地に振り下げるとその勢いのままフェンスの上に飛び乗る。
緑のサーヴァントは体勢を崩し前傾のまま数歩よろけるも体勢を即座に立て直しアゲハに視線を。
だがその視界に入ってきたのはアゲハ、確かにアゲハだがもう一つ得体のしれない物が。
「気を付けてセイバー!」
女性の叫びに耳を傾ける緑のサーヴァントだが既に知っている、危険が迫っている事を。
自分の目の前には黒い一筋の光が鋭利な形状となり此方に向かっていたのだ。
盾で防御の体制に入り両手で支え黒い流星を防ぐ。
ズシリ、と重みが走るが損傷は感じられない、流石はセイバーのサーヴァントだろうか。
「チッ……やっぱサーヴァント相手に効きはしないのかよ」
黒い流星の正体はアゲハのPSIである暴王の流星―メルゼスランスだ。
強力な能力ではあるがサーヴァント相手には効き目が薄いようである。
つまり現時点では圧倒的に不利でありむしろ絶望に近い、だが収穫もある。
「そのサーヴァントはセイバー、か。良いことを聞いちまったな?」
「……嫌な奴ねアンタ」
「いきなり銃口向けた女が何言ってんだよ、ついでに俺は夜科アゲハ。
聞き覚えが無いなら聞き流してくれ、ま、初対面で間違いないけど……ん?」
相手を煽るアゲハだったが異変を感じる。
そもそも魔力とPSIに満ちているこの屋上そのものが異質な空間なのだが。
音が聞こえる。
遠くから近づくように。
近くなる。
音は段々と聞き取りやすくなっていく。
更に近くなる。
音の正体は声のようだ。
肉眼で確認出来る程近くに来る。
……何故彼女が居るかは不明だが。
「来てやったぜ、アゲハッ!!」
気付けば此方に向かい彼のサーヴァントである纒流子が跳んで来ていた。
言っておくが彼女に飛行能力は付加されていない。
宝具を発動すれば授かることは可能だが今の彼女は宝具を展開していない。
なら何故飛んでいるのか――近くの建物から跳んだのだ、故に羽ばたきではなく跳躍。
徐々に屋上に近づく纒流子だがアゲハは驚いている。
呼んだのは彼だ、サーヴァントが駆けつけてくれた事は素直に有難いし嬉しくも在る。
だが、何故わざわざそんな登場なのか。嫌いでは無いのだが何故、何故その選択を選んだのか。
対峙する女性もまた驚き、よりも呆れているに近い態度。
馬鹿にしている訳ではないが素直に表現すると「訳が分からない」と言ったところだ。
アゲハに視線を移し「大変そうね」と若干の憐れみを示す。
纒流子はそのまま片手に武器を握りしめたまま着地に移ろうとしていた。
だが近づけば近づく程屋上に違和感を感じていた。
戦闘が始まっているのだから既に日常から逸脱はしているが別のベクトルで何かを感じる。
しかし気にしている時間もないためそのまま着に移るが――。
「……何だこれ?」
アゲハが素直に言葉を漏らす。
纒流子は着地に失敗した。それは足を挫いただとか転んだ、などの話ではない。
空で止まっているのだ、彼女は空中で止まっている。
パントマイムのように身体を貼り付けている。
目に見えない壁に張り付くように彼女はその場で固まり不満の表情を浮かべていた。
「他の人に気付かれたら騒ぎになるからね、結界を張っておいたって訳。
アンタさっき名乗ったよね、アゲハって。あたしは――紅月カレン。
名前を明かすのは正直得策じゃないけど、一度きりの礼儀って奴でね」
敵に名前を知らせる気は無いが名乗られたら名乗り返すのが摂理だろう。
戦闘の中でも一定の、彼女にも倫理と言うか常識と言うか……当然の行動として扱う。
そのまま結界に張り付いているアゲハのサーヴァントを見つめる。
手にしている獲物から察するにこの女もセイバーのサーヴァントなのだろうか。
気にはなるが今は結界の外であり脅威は無い、そう思っていた矢先。
彼女を護るように緑のサーヴァント、リンクは前に出る。
纒流子はアゲハの様に結界を力の限り蹴り込み、その衝撃で宙に跳んだ。
マスターがマスターならばサーヴァントも似るのだろうか、似たような足技である。
空中に身を任せた纒流子は鋏を両手持ちに変え屋上を見下ろす。
「片太刀バサミィッ!!武滾流猛ォォオオオオオオオ怒ッッ!!」
彼女が叫ぶと手に握られていた鋏の刀身が伸び獲物の真の姿を披露する。
発言と感じる魔力から恐らく宝具の一種であろう。
そのまま力任せに振るい結界に鋏を叩きつける纒流子。
「なっ、結界を破ろうとしているの!?」
「当ったり前よぉ、じゃあ何しているように見えんだ、アァ!?」
カレンの疑問に煽るように返答する纒流子。
この結界はリンクがオカリナで発動した結界だ、つまり此方も宝具である。
何方もセイバーのサーヴァントでありその能力は本物だ。
だが魔力の観点から見ればリンクの方が優れているのは事実。
生前魔法に関わった彼の力、対する纒流子は己の身体と力で戦ってきたのだ。
しかしマスターで考えるとアゲハの方がカレンより何倍も素質は優れているのだが。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
魔力や素質、願いに近況。
そんなのは関係無い、と言わんばかりに叫ぶ纒流子。
鋏は結界と衝突し大きな音を響かせるも壊れる気配ない――筈だった。
次第に結界に亀裂が入り始める。
これが鋏に隠された能力『断ち切る力』魔力を消費し全ての運命を断ち切る力。
「そ、そんな!?」
「やるじゃねぇか纏……ッ」
「うおおおおおおおおおおお……しゃああああああああああああああ!!」
力任せに結界を断ち切った纒流子は屋上に着地すると鋏をカレン達に向ける。
「斬ってやったぜ?」
その表情は勝ち誇っており相手にとって不快であったのは事実であろう。
「それじゃ第二ラウンドと行こうぜ、緑のサーヴァントさんよぉ?」
鋏を肩に担ぎ首を数回動かすと纒流子はリンクに戦闘の開始を促す。
第二ラウンドと呼べるほど第一ラウンドを行った訳でもないが遅れてきた彼女にとっては第二ラウンドなのだろう。
踵を地面に数回叩き体勢を整えると隣にいるマスター、夜科アゲハにアイコンタクトを起こし駆け出そうとするも――。
「――っていねぇ!? 何で!?」
「お前が結界をぶっ壊したから音が外に丸聞こえになっちまったみたいだな……。
階段から登ってくる音が聞こえやがる……俺達も退いたほうがよさそうだな」
聖杯戦争で名を売ることは自分を危険に晒すことに直結する。
身元が晒されては時間を問わず襲われる可能性が大き過ぎる、安息を得られない。
戦火に身を包むなら遅かれ早かれ安息など無くなるが最初から晒す必要はない。
情報の漏洩を危険視したカレン達は纒流子が結界を破ると迷いもぜずに屋上を飛び降りた。
セイバーが彼女を抱きかかえながら飛び降りたため、安全だろう。
アゲハはフェンスに近寄り落下するカレン達を見つめる。
この距離ならばまだ声は届くだろう、そう判断し声を上げる。
「紅月カレン、お前に『その気』があるなら昼に体育館裏に来いッ!」
そう言い放つ、勿論カレンからのリアクションは無い。
屋上からの目視なので詳細は分からないが無事に着地出来たようだ。
「体育館裏って告白でもすんのか?」
自分のサーヴァントの言葉を無視しながら跳ぶ体勢に入るアゲハ。
後ろで纒流子が文句を垂れ流しているのが聞こえるが無視で充分だ。
『その気』とは恋模様ではない、協定、謂わば仲間になる気はあるか、のニュアンスである。
アゲハは情報を欲している。
それは聖杯戦争であり天戯弥勒の事でも在る。どんな些細な事でも今は欲しているのだ。
カレンの初コンタクトの印象は最悪に近い。だが会話が出来ない、と言う訳でもないようだ。
これから世界の針がどう動くは誰も予想は出来ない。
ならば今出来る事をすればいい、単純明快である。
「俺達も此処から逃げるぞ」
「折角来てやったのに……しゃあねぇ、か。
遅れたあたしも悪いしな……んじゃ、いくぜッ!」
そして二人も屋上を飛び降りる。
戦闘の結果は特に損傷もなく終了。
互いに互いが名前を知ることが出来たのは収穫だった。
もしも、もしこのまま協定を結ぶことが出来るなら。
彼らの剣は魔を断つ剣と成り得るだろう。
しかし物語はご都合主義だけでは構成されない。
敵対するならば。
血で血を洗う血戦なるだろう。
【C-2/アッシュフォード学園・校庭/1日目 午前】
※屋上にてセイバーがオカリナを使用した。
学校にいるサーヴァント、マスターなら気づくかもしれません。
※生徒指導部教員兼警備員長のNPCとして【インパ@ゼルダの伝説 時のオカリナ】が存在しています。
【紅月カレン@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]健康、魔力消費(中)
[令呪]残り3画
[装備]鞄(中に勉強道具、拳銃、仕込みナイフが入っております。(その他日用品も))
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:願いのために聖杯を勝ち取る。
1.上手く逃げ過ごした後教室に戻る。
2.アゲハの言葉通り、昼に体育館裏に……?。
3.学園終了後、街を探索。
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※学校内での自分の立ち位置を理解しました。
※生徒会の会見として所属しているようです。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。
※昼に体育館裏に行くかどうかはきまっておりません。
【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる
1.マスターに委ねる
[備考]
※アーチャー(モリガン)を確認しました。
※セイバー(纒流子)を確認しました。
【夜科アゲハ@PSYREN -サイレン-】
[状態]魔力(PSI)消費(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.昼になったら体育館裏に行く。
2.夜になったら積極的に出回り情報を探す。
[備考]
※人吉善吉がマスターであると知りません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]魔力消費(中)若干苛立ち
[装備]方太刀バサミ
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.逃げる。
2.昼になったら体育館裏に向かう
[備考]
※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。
※セイバー(リンク)を確認しました。
※乗ってきたバイクは学園近くの茂みに隠してあります。
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