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はじめに


 かつて群島で広く信じられていた竜信仰によれば、この世はすべて、巨大な竜の骸から生まれたものであるという。

 竜の一族は、遥か彼方の地より長い旅を続けてきた。しかし行けども行けども暗く深い海があるばかりで、ついに一族で最も若く幼き竜が力尽きた。奈落のような海に落ちていかんとする若い竜を、一族の長である最も年長の竜は捨て置けなかった。自らの胸を爪で穿ち、その命と引き換えにその身を大地に変えた。これがエアスター大陸の起源である。死の寸前に竜の胸からこぼれた血のしずくは、大陸の東側で十二の島となった。これが群島の起源である。

 ある竜が大地をひと撫ですると、地は瞬く間に緑に満ちた。ある竜が樹の枝に頬を寄せると、枝の先から花が咲いた。竜の一族は長の骸であり血である大地を、思い思いのかたちにつくりあげていった。
 長に命を救われた最も若く幼き竜が、土くれを掬い上げ口づけたとき人の子が生まれた。
 こうして地は木々と草花と獣と人の子で満ちたのである。


竜とは


 神話によれば、竜族は以下の特徴を持つ。
 引用部分は『四竜綺譚』(詳細は後述)より。

  • 長命である。
 明確な寿命の表記はないが、「人の子では思いを馳せるも叶わぬ永き(4章2-1)」にわたって生きると記されている。

  • 角、牙、翼を持ち、硬い鱗に覆われた巨大な爬虫類の姿である。
 群島全土に棲息する亜竜に近い容姿を持つが、「すべてが調和したえもいわれぬ美しさ(2章8-3)」を備えているとされる。体躯は亜竜より小さく、牛程度。肉体はきわめて強靭である。

  • 人の姿を模すことができる。
 雄の竜は人間の男に、雌の竜は人間の女に、その身を変化させることができる。人の姿で人間の異性と交われば子をなすこともできる。人間に変化した竜族の男女は、例外なく美男美女である。
 なお、人間との間に生まれた子は、最初は人間の姿で生まれるが、生後1ヶ月以内に本来の竜の姿をとれるようになる。「リュシータは黒き竜となりて(9章5-3)」

  • 白竜、黒竜、赤竜、青竜に分かれる。
 人間でいうところの民族に近い区分と思われる。『四竜綺譚』には異種の竜同士で争う場面もみられる。「白き竜キラルは青き竜ピルケを睨みて(6章1-8)」

  • 高度な知能を有する。
 『四竜綺譚』に直接の記述はないが一般に、あらゆる知的活動において人間が勝る余地はないと解されている。一般書によくみられる表現で、「人間が10年かけて習得する内容を1年足らずで習得する程度」というものがあるが、明確な典拠のあるものではない。



衰退した竜信仰と『四竜綺譚』


 前268年(連盟暦)の《調和の音色条約》により、群島は完全なる政教分離政策を取ることとなった。
 特に休戦を挟みつつも200年近く続く宗教紛争を引き起こした竜信仰に対しては、特に終戦後数百年間、強硬姿勢が維持された。
 更に前262年、《緋色の鐘の乱》を受けて起こった神殿破壊運動により、竜信仰の神殿や教典は破壊し尽くされ、ごく僅かな遺構や写本の断片が残るに過ぎない。

 しかし32年、神学博士デルフィ・ターラが『四竜綺譚』を発表した。
 古い伝統を口伝で守り続けるヒルディカの旧家や、竜信仰がまだ息づいていた時代に群島を訪れた精霊や魔女を対象に詳細な聞き取り調査を実施し、更に残存する写本の断片や石碑、工芸品や絵画等と照合し編纂したもの。
 現代において竜信仰の教義に触れることのできる唯一の文献である。ヒルディカ領内ではどこの島の図書館にも置かれ、よほど小さな店でない限りは書店でも手に入る。他国語にも訳されている。



現代に残る竜信仰


 現代ヒルディカ人の多くは近隣諸国や、商売上関わることの多い国の宗教を信仰しており、信仰する神を尋ねられた場合に竜と答える者はほぼ皆無。

 しかし亜竜を尊び保護する、幸運を呼ぶお守りとして亜竜の鱗を自宅に飾るなど、竜信仰由来の習慣も多々残っている。
 亜竜に対する保護は手厚く、加害や殺害は重罪。
 ただそこはさすがにヒルディカ人、都合よく切り分けて考えているようで、道の真ん中で居眠りしている亜竜を住民が蹴飛ばして起こす程度なら見逃しているらしい。鱗に傷がつかなければいいという認識。




~以上、神話上の竜族について~




























































































~以下、現実の竜族について~


 ※以下を把握しているのは竜族、あるいは竜族の口から真相を明かされた者のみ。

竜族の歴史


 竜族とは、遥か古代、最低でも前3000年頃から前268年に《調和の音色》条約で宗教紛争が終結するまでの間、各群島の政治を取り仕切り人々を治めていた存在。
 各島の領主は彼ら竜の対外的な代理人に過ぎず、あらゆる決定権は彼ら竜族にあった。
 いわゆる神権政治の形態を取っていたが、諸外国には彼ら竜族の存在は秘められており、群島の民のみが彼らの存在を知り崇めているという状態だった。
 この事実は群島の宗主国であったタスターニャおよびステラクス、ならびに支援国であったチンコンにさえ伏せられていた。

 中世ヒルディカで巻き起こった宗教紛争は、単なる教義を巡る争いではなく、竜族が種族間で相争ったことで引き起こされた紛争である。現在発見されている文献史料の大半は、歴史を隠蔽するため記された偽書である。また、古代の文献史料が不自然なまでに見つからないのも、隠蔽目的で徹底的に破壊・焼却されたことによる。

 年々荒れ果てていく領土にいつしか島民は辟易し、ある時ついに決意した。
 すべての竜族を殺害し、新たな時代、人間の人間による人間のための時代へと踏み出すことを決めたのである。

 強靭な竜族にも弱点があった。長年彼らと共存してきた群島の民はそこを突き、竜族を1頭残らず虐殺した。
 ……かに思われた。

 しかし1頭だけ生き残り、他国に逃げのびた竜族がいたのである。



《最後の竜族》とその後


 竜族の虐殺時にわずか5歳だった最後の竜は、西に飛び精霊の国ラステロイに庇護を求め、成竜となるまでの45年間をかの地で過ごした。
 そして時の精霊王に礼を尽くし、ラステロイを発つ。その後の詳細は不明だが、恐らくは各地を放浪していたものと思われる。

 前30年頃にクレスティン西部の辺境に定住し、人間の女を伴侶とした。8名の子が生まれ、人の血を半分引く彼らのうち6人は竜族であり残り2人は人間だった。
 20年頃に妻を亡くし、クレスティンを発って再び放浪生活に入る。この間に、彼の子供たちと人間の間にさらに孫が生まれている。生まれた孫4名のうち竜族として生を受けたのは1名のみだった。
 なお、この頃彼が妻や子と過ごしたクレスティン西部は、奇しくも後にヒルディカ領となる。

 彼も含めて竜族は現在8名。
 かつてヒルディカの神であった一族は今、世界の各地で思い思いに生きている。