ホカゲ族の娘たち

 独立戦争時、ホカゲ族当主ナナツマホヒコの家系である本家筋の氏族には、全部で10人の子供たちがいた。
 父親はいずれもナナツだが、ナナツには全員で4人の妻がおり、10人の子供たちの母親はその4人のうちのいずれかであると云われている。
 娘は全部で9人、息子はたった1人。

  • 長女:ヒトエ
 1人目の妻の娘。次女のフタエとは一卵性双生児。
 普段は物静かで寡黙だったが、全体を見通す冷静さがあり、母が不在の時には母に代わってホカゲの娘たちを指導することもあった。『ホカゲの娘』としても優秀で、どこに行っても歓待されていた。
 16歳の時ミチベ族に嫁ぎ2人の子供を産んでいたが、独立後ヤエの命令に従ってカガリ族に嫁ぎ直している。

  • 次女:フタエ
 1人目の妻の娘。長女のヒトエとは一卵性双生児。
 普段は比較的はっきりとものを言う方だったが、姉のヒトエ同様全体を見通す冷静さがあり、母が不在の時には母に代わってホカゲの娘たちを指導することもあった。『ホカゲの娘』としても優秀で、どこに行っても歓待されていた。
 16歳の時イワタル族に嫁ぎ2人の子供を産んでいたが、独立後ヤエの命令に従ってテルハゼ族に嫁ぎ直している。

  • 三女:ミエ
 2人目の妻の娘。
 『ホカゲの娘』として特に優秀で、類まれな美貌と聡明さ、特に話術の巧みさから、『頭の強い女』として名を馳せていた。ステラクス語も流暢に話すことができ、ステラクス語の読み書きにもまったく不自由しなかったため、ステラクス人との折衝の場には彼女がいることも多々あった模様。戦闘は比較的不得手だったが、あくまで「比較的」であり、槍の名手ではあった。
 独立戦争時に戦死。クラタチ族男性との間に娘が1人おり、この娘は最終的にトモシビ族に嫁いでいる。ステラクス人男性の間にも子供が2人いて、1人は殺害され、1人はステラクスに引き取られた、と伝えられているが、実際のところはさだかではない。

  • 四女:ヨツエ
 3人目の妻の娘。
 『戦士として生まれた戦士』の典型例。人間離れした身体能力を持ち、岩をも砕く腕力や一刻で十里を駆ける脚力があったと云われている。あらゆる武器に精通しており、扱えない武器はなかった。豪放磊落、非常に快活でよく笑い、妹たちを守って戦う頼もしさがあった。戦士としての教育しか受けなかったため、『ホカゲの娘』として扱われたことはまったくなく、女性に数えられていなかった。
 独立戦争後、『戦士として生まれた戦士』の扱いに困ったヤエが地下牢につないでいたところ、辱めを受け、自殺するに至る。

 2人目の妻の娘。
 温厚で聡明な娘であり、他部族や他民族への関心も高かった。ステラクス人との交流も盛んに行なっており、ステラクス語に堪能で、読み書きに不自由はしなかった。チンコン語にも関心があり、独学で学んでいたことから、語学が得意だった模様。
 戦闘能力に関しても高い能力をもっていたこと、姉妹で一番体格が良かったことから、槍の名手としても名を馳せていた。槍をもつと人格が変わると言われていたこともあったらしい。
 『ホカゲの娘』としての教育も受けていたが、15歳の時マオキ族の族長の息子に見初められ、正式な祝言こそ挙げていなかったものの、周囲からは相思相愛と冷やかされ、常に二人でひとつの状態だった。しかし、その許嫁が戦死したため、ステラクスとの戦争を止めるためにアスタリカへの援助を求めてヤギホから離脱する。
 独立戦争後、ヤエと思想的に対立。アスタリカへの永住を選ぶ。

  • 六女:ムツエ
 3人目の妻の娘。
 『ホカゲの娘』として非常に優秀であったが、情に流されやすく、失敗してしまうこともしばしば(それはそれで「ご愛嬌」と言われ愛されていた様子)。ネアブリ族の母の影響で乱暴な物言いをすることも多かったものの、『ホカゲの娘』としての教養も高かったため、ホカゲ族の中で浮いていたということもない。ただし、ネアブリ族の気質もそれなりに受け継ぎ、薙刀の名手としても知られている。
 イツエがアスタリカへ発った後、イツエの代わりにマオキ族の族長の息子(イツエの許嫁の弟)へ嫁いでいる。マオキ族ではムツエを非常に大切にし、末永く平穏に暮らしたと伝えられている。その死後もマオキ族の子孫が代々ムツエを女神として祀り続けているため、結果としてヤエ以外の娘の中ではもっとも現代まで残る逸話の多い娘となった。

  • 七女:ナナエ
 2人目の妻の娘。
 『ホカゲの娘』として非常に優秀であり、同母の姉ミエ同様その美貌で知られていたが、2人目の妻の娘たちの中では一番若かったことや興味関心があちこちに飛び過ぎてしまう傾向があったことから、何かを極めていたというわけでもない。ただし、当然のようにステラクス語は堪能であったし、戦闘についても同母の姉たち同様槍を得意としていた。どちらかと言えば戦場でヤエの片腕として活躍していたことの方が多かったと見られる。
 独立戦争末期、ヤエを庇って負傷。傷口が化膿してそのまま亡くなっている。

 『女神』ヒムカの娘。
 『ホカゲの娘』として最高の存在と謳われ、ホカゲ族のみならず全ヤギホ人から「喉から手が出るほど欲しい」と言われていた、絶世の美少女。容姿も言動も母によく似ていたものと思われる。
 何事に対しても前向きで、折れるということがなかった。彼女の陽気さに惹かれて武器を取った娘たちも多く、女神としてもヤギホの女戦士としても慕われていた。
 しかしその実、母親からの歪んだ愛情を一身に受け続けていたため、人格に少しずつひずみが生じていたものとみられる。最終的には千年後に女王ホヅカサヅチオオキミに『鬼女』の烙印を捺されたが、実際のところ彼女が何を考えていたのか知る者はない。
 3人目の妻の甥と恋仲だったと噂されており、実際そのネアブリ族男性の子供も1人産んだようだが、その後のちに『七部族』と呼ばれるようになったマオキ・ノシ・カガリ・テルハゼ・トモシビの族長・次期族長の男性たちとも関係をもち、子供を次々と産んでは『下賜』している。自分の手で育てた次期女王の父親が誰なのかは不明。

 『女神』ヒムカの娘。
 『戦士として生まれた戦士』の典型例。人間離れした身体能力を持ち、助走なしの一足飛びで垂直に五尺ほども跳んだり水平に十尺以上跳んだりできたと云われている。あらゆる武器に精通していたが、小柄だったため、直接敵との間合いを詰める必要のない弓矢をもっとも得意としていた。戦士としての教育しか受けなかったので、『ホカゲの娘』として扱われたことはまったくなく、女性に数えられていなかった。
 『戦士として生まれた戦士』であり、知的活動はあまり得意ではなかったため、母親からは非常に疎まれ、他の妻たちや姉たちが育てた状態だった。そのためか感情の暴走が著しく、鬱憤を晴らすように敵を惨殺することも多かった。とは言え、普段は他の姉たちを信頼しており、特にヤエには盲目的に懐いていて、末っ子として可愛がられていた時もなかったわけではない。早々にヤギホを離脱したイツエに対してだけは見捨てられたという思いを抱いていたようである。
 独立戦争後、ステラクスとの和平の証として新生ステラクス双王国の初代双子王ティグリムとリュンクスのもとに嫁いだ。しかし、『戦士として生まれた戦士』だったため、ステラクス語やステラクス文化になかなか馴染めず、問題行動を取ることも多かった。

 『女神』ヒムカの息子で、ナナツの息子の中では唯一生き残り。
 ヒムカの思惑に気づいたナナツと他の妻たちが協力し合って半ば逃がすようにステラクス人に預けた。2歳から12歳までの10年間、ステラクス人の神官の親族である上流階級の夫婦に養われ、丁寧な教育を受けながら育てられている。そのため、当人はヤギホ人としての自己同一性が薄く、ステラクスからヤギホに連れ戻された時には逆に姉たちの足を引っ張ることになってしまい、問題児として扱われることとなってしまった。
 5年間人格を否定され続けたことにより精神を病んだトオヤは、ヤエが与えた魔剣『神薙』で母親を惨殺し、そのまま自殺した――と云われているが、その最期を確認した者はなく、魔剣『神薙』本体以外に何の史料も残されていない。一応、享年17歳。



4人の妻たち

  • 1人目の妻
 ホカゲ族の前当主の娘。ナナツの従姉で幼い頃からの許嫁。
 『ホカゲの娘』として非常に優秀だったが、ヤギホから出たことがなく、対外的なことには疎かったため、対他部族・対他民族への策は夫に委ねつつ、2人目の妻と3人目の妻に支援するよう促していた。
 全ホカゲ族を束ねる族長の妻として、強い意志や責任感をもっており、他の妻たちや他の妻たちの子供たちの教育にも熱心だった。2人目の妻や3人目の妻からの信頼も厚く、ホカゲ族の中でも彼女を頼みとする者は多かった。
 その聡明さや気丈さからヒムカに邪魔者とみなされ、最初に殺害される。
産んだ子供たち:ヒトエ&フタエ、息子3人

  • 2人目の妻
 ホカゲ族の分家出身。
 『ホカゲの娘』としても優秀だったが、積極的に他部族・他民族との交流を試みていたため、先進的な考え方をするヤギホ人女性としてナナツに高く評価され、妻として迎え入れられる。
 ステラクス語が非常に堪能であり、ステラクス人とも頻繁にやり取りをしていたことから、1人目の妻にも頼りにされていた。彼女の子供たちや生まれた氏族の近親者には現ステラクス領内に滞在したり他部族に嫁いだりした者が多い。3人目の妻とは親友同士。
 ヒムカが彼女の目の前で息子を惨殺したことにより発狂し、ほぼ自殺に近い衰弱死を遂げている。
産んだ子供たち:ミエ、イツエ、ナナエ、息子1人

  • 3人目の妻
 ネアブリ族の分家出身。
 好戦的かつ感情的で、典型的な『ネアブリ族の女』と言われていた。しかし、自身の戦闘能力が非常に高いことや、ネアブリ族独自の戦法にも長けていたことから、ナナツに高く評価され、妻として迎え入れられる。
 戦闘に特化しており、政治的・宗教的な面を重視するホカゲ族の風潮になかなか慣れられず、1人目の妻を実の姉のように慕い、3人目の妻のことも親友と呼びつつ深く尊敬していた。激昂しやすいところはあったが、ホカゲ族族長の妻の看板に恥じぬようそれなりの振る舞いを心掛けていた節がある。
 ヒムカの策略によって戦場に一人置き去りにされ、戦死させられる。
産んだ子供たち:ヨツエ、ムツエ、息子1人

 どこからともなく現れた絶世の美女。炎の術を操ることから、火山の化身として崇められる。
 熱心な信者が非常に多かったことやこの世のものとも思えぬ美貌だったことから、ナナツにぜひ妻にと乞われホカゲ族にやってきた。
 自分の産んだ息子を次の族長にするため、先住の3人の妻たちの息子たちを次々と殺害する。また、先住の3人の妻たちも次々と追い詰め最終的には死に至らしめる。
産んだ子供たち:ヤエ、ココノエ、トオヤ



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最終更新:2015年09月18日 22:08