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 自分はジウロン城砦の中まで来たはずだ。
 それなのに、どの通りをどの方角へ向かって入った結果ここに辿り着いたのだろう。今はもう、分からない。目の前に広がる光景に圧倒され、打ちのめされ、絶望すること以外に、今の自分にできることはない。
 並ぶ土壁の家々が作り出す景色は、火山の灰が降るあの忌まわしい国の宿場町そのものだ。家々を渡る赤い提灯や痩せこけた裸足で黒髪の子供たちでさえあの国の貧しく賤しい人々の暮らしを表わす記号だ。
 そんな暮らしから逃げて逃げて逃げて逃げてようやくここまで来たのに、自分はいつどこでどうして戻ってきてしまったのだろう。あの邪悪な女神の手の内からは死ぬまで逃れられぬということなのだろうか――

「おンやァ、あんたも逃げてきたのかい」

 振り向くと、赤いヤギホ傘を差した黒髪の女が立っていた。口元のほくろと大きく開いた胸元の着物がそそる美しい女だ。

「なァに、怖がるこたァないさ。よォく見てごらん」

 女が指す方を見る。
 家々の並び方に秩序がない。思いつくままに二階三階と重ねていったのだろう、一階は斜めにひしゃげているところもあった。また、家々の壁に部族紋もない。あの、足枷にしかならない、部族の紋章が、どこにも見られない。
 神官どもの定めた土地計画が実行に移されていない証だ。
 ここはあの国ではない。
 ここはあの邪神が支配するあの国ではない。
 ここには、あの邪神の定めた秩序など、ない。

 女が嗤った。

「安心したかい? ――よォこそ、あたいたちのネグラへ」



名称 ネグラ地区
場所 ジウロン城砦のどこかを入ってさらにどこか脇道を曲がったところ。騎士たちの支配する中央部からさほど遠くもない。どちらかと言えばジウロン城砦の中でもやや北寄りかもしれない。
建物 ヤギホ人が火山の泥土で建てる土壁の家によく似た建物が無秩序に立ち並んでいて迷路状態になっている。袋小路も多い。慣れない者は迷子必至。夜はヤギホノミヤマ王国でよく見られる赤い提灯が家々を明るく飾っている。
住民 3人に2人くらいはヤギホノミヤマ王国から逃げたきた者かその子や孫。さらにそのうち半分くらいは武士崩れの野郎。質が悪く刃こぼれでぼろぼろのヤギホ刀で斬りかかってくる浮浪者(いわゆる『野武士』)がたくさんいるため気をつけられたし。また、置き屋と呼ばれる女郎部屋に若くて美しいヤギホ娘の女郎が詰めているので、お兄さんたちにはぜひ遊んでいっていただきたい。
野武士注意 野武士はだいたい自分が身分の低い部族の出であったことにすごい劣等感を抱いているので出身部族や真名を聞くのはご法度。ここへ来る前にどこで何をしていたか迂闊に尋ねると斬り殺されるかもしれない。『情』とか『義』とかということばが好きな人も多いので、最初のとっかかりさえ乗り越えられれば頼りになるおっさんも多く、案外女子供には優しいところもあったりする。

 みんな好きに住んでね!