713-716,721 名前:『はるかかなた』選評 ◆YbQIs8/QUc92 [sage] 投稿日:2014/08/23(土) 23:26:28.27 ID:MjybN64v0 [1/10]
※本人による修正:786-787
「はるかかなた」は2014年5月30日にSORAHANEから発売されたエロゲーである。
SORAHANEとしては3作目。
このブランドは処女作「AQUA」で、シリアスなSFラブコメとしてなかなかの評価を得て、
更にはOPムービーが同年で最も優れているとの評価を某サイトで受けるなど、上々の滑り出しだった。
ところが、満を持して発売した2作目「さくら、咲きました」は世界観、グラフィックこそかなりの好評価であったが、
肝心のシナリオがお粗末だったことでかなりの批判を受けることに鳴ってしまった。
今作は名誉挽回とも言える作品だったのだが…
まずはゲームのグラフィックから検討する。
今作はグラフィック自体はエロゲーとしてはかなり評価は高いのだが、目の描き方の甘さなど、
処女作や2作目と比べると細かい部分での劣化が進んでいる。
次に音楽面。
音楽はエロゲーとしては標準的な出来。
ただし後述するシステム面の不具合で、音楽が再生されたりされなかったりという問題は残っている。
これら2項目についてはエロゲーとしては特に問題はないのだが、大きな問題はシステム面とシナリオ面にある。
システム面。
今作は外注(言語社)による新型システムを採用しているのだが、これが非常に不安定であった。
発売当初はあまりにもバグが頻出し、ろくにプレイすることが出来ない状況。
メーカー側が急遽対応したが、6月7日のver1.20においてもバグが頻出してしまった。
そのため一部では「きちんと作動するまでプレイは控えた方がいい」とまで言われる始末に。
結局ver2.00が発売から2ヶ月近く経った7月20日に配信され、セーブ画面での不安定さや音楽が再生されないなどの不具合は残ったものの、
致命的なバグが消滅したことで何とかプレイ可能な状態となった。
ただし、セーブ画面でトラブルが起こると、そのセーブデータのボイス再生が心音・雫だけバラバラになる不具合を確認。
また、何度かスキップしていると、テキストボックス右の各種ボタンが消失するバグも発生する。
なお、同日にSORAHANEおよび言語社から謝罪文が出ている。適宜確認をお願いしたい。
…エロゲーのデバッグ作業はユーザーの仕事、とはよく言ったものである。
そういえば既読スキップ判定はこのシステムにはない。なので、スキップにすると既読も未読も容赦なくスキップされる。
そして問題点のもう片方のシナリオ面。
まず示しておきたいのが、本作は過去2作品と異なり、SF要素はほぼ皆無であり、一般的なラブコメ的世界観である。
本作は「雫」「結衣」「心音」「はるか」の4ヒロインの√があり、はるか√は2つのエンドが用意されている。
最初に共通√であるが、共通√は本当に一般的なグダグダラブコメの様相。そのため特に語る材料はない。
共通は1~10話が相当する。
では個別√を。個別は11話~20話が相当する。
まずは雫√から。
雫は父親を幼いころに亡くし、血管炎という難病で余命いくばくの母親と同居しているという設定。
幼なじみから恋仲へと動いていく心の動きが鍵となっており、途中まではとてもよくある幼なじみヒロインのテンプレシナリオである。
雫と結ばれた後、雫の母親が急死してしまうシーン以降はちょっと質が落ちる印象。
その際に自我を失ってしまう雫(このゲームで唯一のレイプ目CGになる)だが、次の場面では元に戻ってしまい「あれ?」となる。
更に飼い猫のアテネが目の前で車に轢かれて死んでしまうが立ち直りはそれなりに早い。
このシナリオの軸は、近い存在の死の連鎖と心の動き。ライターの力不足は否めないが、
それでも最近の萌えエロゲーとしては及第点であり、この√に関してはクソ要素からは程遠い。
次に結衣√。
結衣は最初は主人公の腹違いの妹だと思っていたが、実はそうでないことが共通√で判明する。
実妹ではなく義妹で、両親のことは記憶から抜け落ちている。
シナリオ後半では実父が結衣を引き取りに現れるが、露骨な悪の象徴として描かれている。
紆余曲折あったが愛の力で実父を撃退するのだが、結局のところ普通の勧善懲悪シナリオだ。
なお、このシナリオ終盤では結衣が、実父に線路に落とされた主人公を助けようとして路面電車に轢かれて死んでしまう…
かとおもいきや、エピローグで五体満足で普通に生きていた。安易な奇跡ほどつまらないものはない。
心音√。
心音は自分の母と兄を事故でなくしており、その時の記憶があやふやでそれが心の枷となっている。
このルートでは主人公と『思い出探し』ということで、記憶を明確にしようと努力する。
基本的に、思い出す→欝になる→主人公励ます、の無限ループ。
それだけならただつまらないだけなのだが、右手の麻痺の設定や、母の代わりに父親と模擬結婚したりと、
普通に考えたら結構重要な問題じゃね?って部分がサラッと流されてなかったことになった。
他、主人公は何度も心音のおっぱいを触ってるはずだが「記憶に無い」とわりかし真面目にしゃべったり…
その他はスレで指摘されている通りで、雫の扱いなど明らかに心音√の扱いがぞんざいで質の低下が著しい。
なお心音はまだ初潮前であるという設定。このメーカーのエロゲでは、どこかに必ずこの設定がある。
AQUAのようにセックス中に初潮を迎える点は素晴らしい。
最後にこのゲームのメインヒロインであるはるか√。これが正直一番酷い。
はるかは物語開始直後にキスをしてしまう相手で、主人公の双子の妹にあたる。
√の中盤までは、実の兄妹で愛し合っていいのか、という葛藤があり、シリアス系の近親シナリオとなっている。
だが葛藤の結果、主人公とはるかはお互い結ばれることを選択するのだが、
その際にあっけなく周囲の人間が迎え入れてくれる。これも近親√あるあるなので今更突っ込む気にはなれない。
ここまではよくも悪くも普通。だがここからがヤバイ。
2人が付き合っていることを告白し、しぶしぶながらも周囲に認められたその次の明け方…
はるかはいきなり「駆け落ちしよう」と言ってくる。
え?駆け落ち?いつそんな話になった?
バックログを振り返っても、そんなことを匂わす描写や展開は全くない。あまりにも唐突。
(この場面で、はるか√が2周めなら選択肢が出現する。)
何を思ったのか、主人公ははるかの言うとおり、すぐに駆け落ちすることを決め、急いで支度をし明け方に家を出て行く。
頭の理解がついていかない。なぜそんなに駆け落ちしたいの君たち?
1周めでは、道中ではるかが倒れ入院。過労や貧血の診断。でも疑わせる描写はひとつもない。
帰宅後にまた倒れて入院。そして驚愕の事実がいきなり明かされる。
「はるか、あと1ヶ月で死ぬってさ」
…はい?
ここでいきなりはるかの裏設定が明かされる。
はるかと主人公の死んだ母親は非常に稀な疾患で、娘のはるかも同じ病気だったという。
そのために研究目的で医療費はタダだったとか何とか。
結局はるかは入院生活となり、だんだんとやつれていく。だがこの場面ではCGはひとつもない。
登場人物がはるかの変わり方に驚くのだが、健康な時の立ち絵でだけ動かされても…。
はるかは一度死んだかのように昏睡状態に陥ってしまうが、主人公やヒロインたちの気持ちが通じたのか一度だけ目をさます。
その時に泣き叫ぶ主人公やヒロインたち。それを見てはるかはこう喋る、
「私のために泣いてくれてありがとう」
これがゲーム全体のテーマ。だがそれまでの経過がポルナレフなので感動出来ない。そしてエンディングへ。
なお、奇跡は起こらずはるかは死ぬ。安易に奇跡を起こさないで終わらせたのは個人的には良かったが。
2周めでははるかが倒れることなく駆け落ち(という名の小旅行)に行く。1周めと異なる点は主に
- はるかの残り寿命は半年~1年
- はるかは主人公の子供を妊娠する(周囲には大歓迎される。イミフ)
- 治療のために主人公の腎臓を移植する
の3点。ヒューマニズムを誇張しすぎる展開がグダグダと続くので、かなり萎える。
やはりというか、エンドでははるかの病気は治り、双子が2人の間に生まれてハッピーエンド。
…近親婚の子供が生まれてハッピーエンドって、ねーよなぁー。
以上。
前作ではメインヒロイン3人に加え、サブヒロイン5人を攻略可能という大盤振る舞いだったが、
今作は登場人物も少なくサブヒロインは0。せめて雫母や朝陽とのHがあれば…。
総合的には、絵は劣化、シナリオははるか√と心音√が酷い出来、攻略可ヒロインの大幅減など、
明らかな手抜きがいたるところに見られるエロゲーであった。
だが、それ以上にシステムのあまりの不安定具合がこのゲームのクソさを大いに盛り上げていると言える。
最後に
「(こんなゲームを掴まされた)私のために、誰か泣いてください」