2011年 総評

大賞『ゾンビの同級生はプリンセス -不死人ディテクティブ-』(8/26)《アーベルソフトウェア》
大賞『学園迷宮エロはぷにんぐ! ~イクぜ!性技のダンジョン攻略~』(11/25)《softhouse-seal》

688 名前:2011年総評 ◆M9if/ibBdA [sage]:2012/04/17(火) 00:56:16.76 ID:6kedzEhO0
2010年のクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(KOTYe)は「青天の霹靂」によって幕を閉じた。
『色に出でにけり わが恋は』の襲来……。
萌えゲーの安心ブランドとして親しまれていた「ういんどみる」が突如殺人ピエロと化し、
虚を突かれた信徒達の阿鼻叫喚がこだまする悲しい事件であった。
「アイ惨ショック」に蹂躙された暗黒大陸においては、文字通り「一寸先は闇」。
地雷の埋まったこの大地で、明日をも知れぬ一歩を力強く踏み抜いていく覚悟が新たに試されたのであった。

2011年、戦いの火蓋が切って落とされたのは1月28日のことだった。
muscadet(ミュスカデ)による『令嬢の秘蜜』の登場である。
前年エントリー作『熟処女』のBGMをこっそり流用していることからも推して知れるが、この2作は制作スタッフが共通している。
『熟処女』と言えば、他ゲーからのシナリオコピペや、「ひっかかか(中略)うふっ テイクツー」などのNGボイス混入が記憶に新しいが、
ロープライスでも許されなかった前作の惨状を、フルプライスの本作が軽く凌駕するとは誰が予想できただろうか。
本作は「セレブ系インモラルADV」を名乗っているが、実際はインモラル要素どころか「紅茶」と「媚薬」以外の要素がほとんど存在しない。
1日目は媚薬入りの紅茶を飲んでヒロインとH、2日目は媚薬入りの紅茶を飲んでヒロインの母親とH、
3日目はヒロインの姉と(以下略)……と、ドリフのオチよりもワンパターンな展開が果てしなく続いていく。
抜きゲーとしても失格であり、Hシーンの音声には「胸だけで満足なの(プツッ)それで(プツッ)よっ!」などのNGボイスが混入。
CGの差分は少ないどころか皆無であり、テキストでは挿入前の段階なのにCGでは全力で暴発する始末で、もはや早漏どころの話ではない。
ともあれ、リアルテイクツーに失敗してしまったスタッフ達の今後の去就に、好事家達の期待が集まることとなった。

二番手を務めたのは、2月25日に発売されたシルエットの『コイ☆カツ!』である。
DVD-ROMとはおよそ思えない686MBというコンパクトさを誇る本作であるが、それを可能にしたのは驚愕の「収納術」。
「CGでは白タイツ、文章では黒タイツ」、「CGでは半脱ぎ、文章では全裸」など、本作では一回のHシーンで二通りのシチュが楽しめるのである。
その収納精神はシナリオ全体にも遺憾なく発揮されており、表題にある「コイカツ(恋愛活動)」から曖昧な恋愛要素を徹底排除。
「恋愛に憧れるお嬢様サークル」のはずが、初対面からわずか数日でキス、手コキ、本番と流れ作業のごとく移行するSEX集団として描かれている。
全方面に隙のない低品質ぶりで見事「クソゲーの優等生」的地位を獲得した本作であったが、それを尻目にメーカーは失踪してしまった。

こうして幸先の良いスタートを切ったKOTYe 2011であったが、春の訪れに向けて様々な作品がスレを彩ることとなる。
「バトル+ADV」を名乗りながら実質的に3回しかバトルが無く、そのバトル自体も作業系運ゲーでしかない『ろーるぷれいんぐがーる!!』、
主人公が限度を超えてキモ鬱陶しく、「(バグの問題以前に)テキスト自体がバグ」と評された『とらぶる@すぱいらる』などが順当に名を連ね、
実妹ルートを否定した上で「そんなに実妹がよけりゃ、ヨスガにソラってろっ」と煽った『White ~blanche comme la lune~』も選評が届いた。
そして、3月の終わりには、年度末に合わせてやってきた特大級のクソゲーが門を叩くこととなる。

それが、TEATIMEによる『修羅恋 -See You Lover-』(通称「修羅恋」)だ。
「自分を奪い合う女の子達がマジ喧嘩する様子を見ながら、ハラハラドキドキ!?」という、地雷臭漂うコンセプトの本作であるが、
蓋を開けてみると『らぶデス』シリーズで訓練されたTEATIME本スレ住人をも木っ端微塵に吹き飛ばすクレイモア地雷であった。
その口喧嘩たるや「不潔女」、「メスゴリラ」などの小学生並の語彙が飛び交い、それすら数種類で枯渇する無限ループ仕様。
取っ組み合いでは踵落としやサマーソルトなどの大技も見られるが、発泡スチロールで出来たマネキンのような重量感のない動作だ。
その間、主人公の出来ることはといえばどちらかの女の子を「応援」するか「両方をなだめる」のみで、長々と茶番に付き合わされる。
シナリオは金箔を超える「薄さ」の限界に挑戦しており、会話の内容はBotさながらに数個の持ちネタを繰り返されるのみ。
ヒロインは出会った直後から胸を揉もうがキスしようが怒ることはなく、連続で話しかければ30秒足らずで好感度がカンストする尻軽仕様である。
肝心のエロに関しても、本番の体位が3種類しかなく、エレキバンにしか見えない残念乳首が哀愁を誘う。
紫色の精液、絶頂時に鳴り響く水洗トイレの効果音などのサイケなセンスと相まって、TEATIMEファンも会社内情を案じる事態となった。

続いて、『勇者と彼女(キミ)に花束を』(通称「勇者と彼女」)が、桜の花びら舞う4月8日に発売された。
開発元のKLEINは何度やらかしても学習しない「駄目な子」として知られており、今回も生暖かい目で見守られていた。
いざ発売されると、前世紀のエロゲ並に不親切なシステムに、貧困な語彙、誤字の嵐、とお粗末さが否応なしに目につくものであり、
それに加えて唐突なエラー落ち、BGM消失現象にボイス音量が極小、と大方の予想通りの惨状であった。
他にも、選択肢の無限ループに、特定ルート進行不能、とパッチ無しではまともにプレイできない核地雷級のバグを持っていたが、
パッチを適用すると約1名のヒロインの立ち絵が「グレイ(宇宙人)」風味になるため、
「クリアを取るか、萌えを取るか」という究極の二者択一を強要される。
また、それらのバグを乗り越えた末に味わうことができるシナリオも、「無味乾燥」そのものである。
伏線を張った直後に「それから数日後…」で即回収するダイジェスト仕立ての展開もさることながら、
公式サイトのキャラ設定とスクリーンショットが盛大なネタバレになっているという親切設計もポイントが高い。
やや地味ながらもノベルゲーのクソ要素をこれでもかと詰め込んだ本作であったが、ダメ押しとばかりに、
「体験版に修正パッチを当てると最後までプレイ可能」という特大ホームランを飛ばし、一流クソゲーの社交界入りを果たした。
なお、スタッフロールに名前が挙がっているチェック担当は約1名だが、彼を責める前に人員配分に根本的な問題があると言えよう。

4月末に出たPurplesoftware delightの『PrimaryStep』もまた、「やっぱり駄目な子だなぁ」と思わせる作品であった。
前回、処女作『Orange Memories』がエントリーするという不名誉を獲得した同ブランドであるが、
今回は「全5キャラ中1キャラしか攻略できない」という前代未聞のバグを入れたまま発売してしまったのである。
ネットがない状況では「8800円で1キャラ、CG15枚のみ」の純然たるぼったくりであるが、公式サイトではただ一言触れるのみ。
パッチ適用後にCGらしきファイルが増えていたという報告もあり、「未完成を隠すためにわざとルートを塞いだのでは?」との邪推もあった。
そのCGの枚数もフルプライスを感じさせない少なさで、騎乗位のHシーンで主人公が2m級の巨人化を遂げるなど、品質の面でも若干怪しい。
内容について言及すると、四時間経過を「短針が四周」と表現する斬新な筆致によって紡がれるシナリオは「駄文」の一言に尽き、
体調を崩すくらいに面白くない展開が延々と続く中、笑いどころと言えばHシーン中にある「俺の膣内から」という誤字しかない。
その破壊力はライター・tiro氏のペンネームにあやかって「tiroフィナーレ」のフレーズで親しまれた。

こうして怒涛の上半期を終えようとしていたKOTYeスレであったが、それまで以上の大異変が5月27日に訪れることとなる。
なんと、その日発売の作品が5作連続でエントリーを果たしたのである。

その先陣を切ったのが、softhouse-sealの『変態勇者の中出し英雄記』(通称「変態勇者」)だ。
2000円ほどの低価格ゲー路線を取りながらも、毎度確かな原画家チョイス、安定した塗りのクォリティで知られる同ブランドであるが、
今回は、紙芝居ADVでいいのに無駄にRPGパートをつけるサービス精神が大当たりし、消化不良のクソを排出してしまった。
AVGとして見ると、キーボード操作以外不可、バックログ未搭載・ウインドウ消去不可など、DOSゲー時代を思わせる不親切仕様だ。
RPG部分は苛烈なバランスで、序盤のスライムで生命の危機に瀕するほどのシビアさであり、中盤以降も毒沼の上を数歩行くだけで瀕死。
プレイ時間の水増しのためか、勇者達がフィールド上で『星をみるひと』も顔負けの牛歩戦術を取ることにも触れておこう。
既存のRPGの文法にことごとく反抗する仕様に「小中学生がRPGツクールで作ったゲームかよ」と毒づきたいところだが、
実際はフリーソフトの「WOLF RPGエディター」で作っており、さらに言えば大部分の素材がデフォルトという衝撃が待っていた。

次に選評が届いたのは、またもTEATIMEの手による『恋愛+H』である。
「恋人になる過程を経てから、H主体の熱愛モード」という本作の着眼点は、当初、18禁版『ラ○プラス』として内外から期待を集めていた。
だが、蓋を開けてみると、なぜかセーブ機能が存在しない。
攻略はノーヒントで、毎回面倒な性格設定をやらされるのにも関わらず、セーブができない。
この時代にセーブなしという、『仮面ライダー倶楽部』も真っ青の鬼仕様にはさしものKOTYeスレ住人も度肝を抜かれたのであった。
その他もろもろの仕様も「開発の都合上できなくなりました。ごめんね。」の一言で済ませ、怒号が飛び交う中で火に油を注ぐこととなる。
さて、本作で恋人同士のイチャつきが体験できるかというと、そんな要素は微塵も無い。
シナリオは時系列を無視して安いエピソードを列挙するだけの代物で、
恋人とふれあうミニゲームも、フリーズと隣り合わせの「ジャンケン」など稚拙なラインナップだ。
「またね」と書いてあるセリフを「このケーキはすごくおいしいわね!」と喋るなど、音声周りのバグも完備である。
肝心のヒロインたちも、Hシーンで体位を変えるごとに性格がランダムで設定される狂気の「多重人格者」仕様だ。
初体験でいきなり足コキされたり、デート時の清純ぶりから一転、「そんなチンポで!」とドS口調で罵倒された彼氏たちからの悲鳴が上がった。
Hの内容に関しても片手落ちであり、前作からのガッカリ乳首に加えて、今作では石膏像のごとくまるで揺れないおっぱいに噴飯するハメになる。
わざわざ自室やラブホテル等が用意されているのに、なぜか本番行為は屋外でしかできないというマニア向け仕様も特筆すべきであろう。
効果音も相変わらず意味不明で、調整不足の大音量で「ぐっちゃぐっちゃ…」と鳴り響いた後、絶頂時には「ばりっっ!」という謎の破壊音。
体位はさすがに前作の3つから増えたが、座位を空気椅子で行うなどシュールさを一層引き立てる結果となっている。
かくして、『修羅恋』の傷もまだ癒えぬTEATIMEファンは『恋愛+H』という名の誘蛾灯に引き寄せられ、焼き尽くされることとなった。

FIANCEE(フィアンセ)の『美衣菜△です! -Loveイチャ同居生活のススメ-』(通称「美衣菜△」)も忘れてはならない。
主人公は表題の「美衣菜」さんと同棲中の設定であるが、肉欲に負けてあっさり他の女の子と浮気し、当然のごとく痴情のもつれに発展。
三角関係が不可避なこと自体はゲームデザインとして受け入れるとしても、浮気相手との関係をレイプでご破産させようとする主人公の行動原理や、
「罪滅ぼしの仲直りセックスは気まずいから我慢しよう。俺は大人の男だから(要約)」などの電波なモノローグがプレイヤーを苦しめる。
CGモードの一覧では差分を逐一並べることで約5倍の水増しを敢行し、歴戦のスレ住人をも唸らせたが、
一番の衝撃は、新規ブランドのデビュー作を名乗りながらその正体がアーベルの別ブランドであったということであった。

こうして居並ぶ群雄の中でも、ひときわ大きく騒動を巻き起こしたのがコンプリーツによる『まままーじゃん』だ。
2年以上の延期の末に結晶した約140MBのDVD-ROMが織り成すは、主婦3人と卓を囲む「脱衣麻雀」である。
麻雀エロゲーといえば『いただきじゃんがりあん』、『おまたせ!雀バラや♪』などの魔境が思い起こされるが、
本作はそれらとは毛色が違い、一言で言えば「地獄の耐久麻雀」だ。
セーブ中断なし、「半チャン1回で精算、ビリだった人が服を一枚脱ぐ」というのが基本的なルールであるが、
本作において一人分の本番を見るのには、全員を全裸にするまでの12回と、お目当ての相手をビリにする2回の計14回分の半チャンが必要。
半チャン1回を約15分程度として、最低でも3.5時間はぶっ続けでプレイするほかない。
しかしながら麻雀で「狙った相手をビリにする」方法などほとんど無く、この理論値通りに相手を脱がせることは至難の業なのである。
結果として、パンツを下ろした状態で5時間以上やっても一枚もエロCGを見られないプレイヤーの怒号が響き渡ることとなった。
麻雀パートの出来そのものも壊滅的であり、清一色は数え役満扱いで計算され、嶺上開花は出した瞬間エラー終了。
素人のごとく早漏リーチを連発する一方で、チョンボに対しては玄人ばりの厳しい対応を見せる奥様方にもイラつかされる。
果てには下家の捨て牌が亜空間に消える「ネオ亜空カン」までもが発見される始末であり、
最盛期には「超えてはならない一線<ジャンライン>を無造作に踏みつけていく」とまで評された。
結局、パッチが出されることでセーブは可能になり、多大な不満を抱えつつも大賞本命の危機は脱したが、
奇しくも同じ日に同じチョンボをやらかした『恋愛+H』制作陣と共に強烈な印象を与えることとなった。

その後、「純度300%の聖少女ゲー」のふれこみのうち110%くらいが脱糞シーンだった『STARLESS』も、
「クソゲーではないが『糞』ゲー」として選評が届き、これら同日発売のエントリー5作品は「五惨家」と並び称されることとなった。
そして、その興奮冷めやらぬ夏の終わりには、ついに大賞級の問題作が届くこととなる。

それこそが、二年連続で次点を輩出するアーベルが満を持して送り込んだ刺客、
『ゾンビの同級生はプリンセス -不死人ディテクティブ-』(通称「ゾンビ」)である。
本作の目玉は「探偵ハイパーリンクシステム」であり、テキスト本文中に「TIPs」や「視点変更」などのリンクが埋め込まれている。
だがこれがとんでもない曲者であり、「テキストがクソ」以前に「テキストをまともに読めない」という前代未聞のクソ要素となっているのだ。
第一に、仕様面から見ていこう。
前提として、このゲームでは視点変更のリンクを全て踏まなければ話が進まず、どこかで画面が暗転してゲームオーバーになる。
要するに一度のミスで「詰み」もしくは「即死」になるのだが、それらのリンクはバックログからは一切クリックできず、
ひとたび見逃したりクリックミスをするとタイトル画面に戻るかロードするしかない。
加えてスキップ機能では普通に飛ばされるため、目を皿にしながら既読文章を一回一回慎重にクリックしなければならないのである。
一応、リンク部分は薄桃色で表示されるが、嫌がらせとばかりに画面構成がピンクや紫色主体であり、
カメレオンのごとく巧妙に擬態していることにも触れねばなるまい。
第二に、そういった仕様がどんな結果をもたらすのか?
とにかく慎重なクリックで読み進める以外のプレイ方法はないが、
それでもなお、気付いた瞬間すでにクリックが暴発してしまっているという事故が多発。
リンクの存在自体に気付かなかった場合には、もう一度全編を血眼でドブさらいする作業が待っている。
セーブ&ロードで対処しようにも、第二話では数分ごとの中継地点と共に即死ポイントが数十個並ぶ発狂仕様だ。
内容は4時間程度の超極薄だが、即死ポイントの数はおよそ70個に及び、その間ずっと気の休まらない濃密な苦行の時間が続く。
すなわち、テキストADVなのにも関わらず即死ゲーのような感覚で慎重なクリックを迫られる「全編苦行仕様」なのである。
そして最後に、内容に触れよう。
設定からして「これは『こ○ゾン』ですか? はい、『怪○王女』です」と言いたくなる本作であるが、
シナリオは約4時間・計2話を終えたところで「COMING SOON」と表示されていきなり終了。
見ての通りまごう事無き「有料体験版」であるが、一ヶ月以上後に追加で配布された3話も「打ち切り」エンドである。
なお、あくまでもこれは「アドオン」と公称されており、メーカー的には製品版の2話で完成品扱いであることにも注意されたい。
短くても内容が濃ければ評価のしようもあるが、
総当たりどころか正解以外選べない推理パートや、たった14クリックで終わる戦闘シーンの前には立つ瀬がないと言えよう。
エロCGの枚数は差分を逐一表示して7倍増ししているが、差分抜きで数えると9枚と、フルプライスとしては犯罪レベルになっている。
『デュアルエム』を超える短さ、『MQ』ばりの投げっぱなし、『恋刀乱麻』を凌ぐ苦行システム、『美衣菜△』の差分詐欺……。
本作はまさに、これまでKOTYeを賑わせてきたアーベルクソゲーの集大成であると言えよう。

これ以後もクソゲーのエントリー攻勢はまだまだ続き、9月22日には、メインヒロイン以外のまともなEDが無く、
代わりに「茶筒」やウル○ラマン娘との誰得Hを実装してニッチ層を激怒させた『プリンセスX ~僕の許嫁はモンスターっ娘!?~』が到来。
そして、11月末には待望の……もとい、恐れていた事態がスレに訪れることとなる。
KOTY関連スレにあまねく知られる年の瀬の風物詩、「年末の魔物」が到来したのである。

その魔物の名は、softhouse-sealの『学園迷宮エロはぷにんぐ! ~イクぜ!性技のダンジョン攻略~』(パッケージ版、通称「学園迷宮」)。
今度の作品はダンジョンRPGなのだが、プロローグの終了→ダンジョン突入の流れで100%バグでゲームが止まる、と掴みは上々。
だが、恐ろしいことにこの製品失格レベルのバグもまた、「掴み」に過ぎない。
まず第一に素材。
公式HPでは魅力的なスクリーンショットが公開されているが、製品版をプレイしながら再度見るとツッコミどころしか無い。
開発版の戦闘画面は「白熱のタイムバトル」を謳い、背景には校内の風景、右スペースには各キャラの行動順を示す大きなバーがあるが、
製品版では背景が真っ暗で、右スペースは空白の枠。あまつさえ、そこにはウインドウからはみ出した文字が突き刺さり、世紀末を感じさせる。
探索画面の場所名やちびキャラも消失しており、 納期が足りなければ他の全てが削られていくという厳しい現実を雄弁に物語っていると言えよう。
第二にシステム。
本作のそれを一言で言えば、何から何まで「かゆいところに手が届かない」。
手始めに、キーボード操作以外不可だった前作『変態勇者』の反省を生かし、今回は移動もコマンドの選択も全て「マウス操作以外不可」に変更。
戦闘では初期状態から習得スキル一覧が表示されておりネタバレ全開、そのスキル表示も肝心の効果や消費EP(技ポイント)がわからない、
探索では階段が表示されずオートマップ機能やワープゾーンもない、メニューでは回復時や装備変更時に数字の変動が見られない、
店では装備品の効果が見られないのにワンクリックで買ってしまう等々、最初から最後まで地味にプレイヤーをイラつかせる。
パラメータ関連も、100円以上の所持金表示はもれなくバグり、戦闘中は正確なHPを参照不可と、製作陣のどんぶり勘定精神が窺い知れる。
第三にバランス。
本作は装備への依存度と素早さの重要性が極端に高く、スキルは無属性固定ダメージのため序盤しか役に立たない。
コンビニ感覚で点在する店では最初から最強武器がお手頃価格で購入でき、中でも妹キャラの最強武器は素早さも異常増加するため、
戦闘開始と同時に3,4回連続攻撃で初期装備の数十倍のダメージを与えるというリアル無双状態となる。
なお、終盤は全体大ダメージ+麻痺攻撃が乱れ飛ぶ理不尽ゲーなのでこれ以外の戦略は無く、鈍足の先輩キャラはほぼ何も行動できない地蔵と化す。
攻略者達の間にはどこぞのKOTY大賞よろしく「お金を貯めて装備で殴ればいい」の共通見解が生まれることとなった。
そして最後にバグ。
最初の強制終了もさることながら、本作では「表示と実際の結果が一致しない」という状況がとにかく多い。
装備品の効果からして詐欺で、HPバーと実際の数値が連動しない、メニュー画面で蘇生アイテムを使うと回復せずに数だけ減る、
状態異常回復アイテムを使うと蘇生アイテムが減るなど、文字通り枚挙に暇がない。モンスター名の取り違えも日常茶飯事であり、
「デカマラゴブリン」との戦いの最中に飛んでくる「オレオーガのメガエロフレイム!」はスレ住人に笑撃を与えた。
また初回パッチ時には、「戦闘中にゲームを終了すると、その時の敵がボスであろうがロード直後に出現する」という危険極まるバグがあり、
極めつきに、「野生で瀕死のラスボスが現れ」、「逃げたら勝利扱いになり」、「そのままエンディングに突入した」という前代未聞の怪現象も発生。
このように本作はありとあらゆる要素でネタと問題点が湧いて出るという圧倒的な引き出しの多さを誇り、
メーカースレではバグ報告のたびにどこか楽しげな悲鳴が上がり、「開発度1%のロマサガをやってる気分」との声もあった。

この後もsealは連投を続け、系列ブランドのDevil-sealから、『淫刻の虜姫 ~囚われた没落の姫姉妹、淫教の果てに~』を投入。
『学園迷宮』とは真逆に、ダンジョンを「前に進む」だけの完全な一本道作業にし、最下層にクリア不能の無限ループバグを仕込んだ怪作である。
seal名義では、異様な難度で『大奥記』ごっこをやらされる『世にも気持ちいい学園の快談 ~オバケになってあの娘に仕返し!~』をリリース。
年末にかけて、電撃戦さながらの快進撃で、一躍KOTYeスレを風靡することと相成ったのであった。
それに負けじとTEATIMEは別ブランドから『肉体契約書』を出し、驚愕の薄さとネオジオCDも真っ青のロード地獄で再び注目を集める。
アーベルもまた、系列ブランドのディサベルから『魔法少女と恋+』を発売。『熟処女』同様のNGボイス混入や他ゲーからのテキスト流用、
『美衣菜△』同様の他ゲーからの原画流用、さらには『アイ惨』顔負けの真っ暗背景など、クソ要素の悪魔合体でスレを沸かせることとなった。
この通り、2011年のKOTYeは初めから終わりまで大豊作に恵まれた回であったと言えよう。

遅きに失してしまったが主要なエントリー作品を全て紹介したところで、今回の結果発表に移ろう。
次点は、
『令嬢の秘蜜』、『修羅恋 -See You Lover-』、『勇者と彼女に花束を』、『恋愛+H』、
大賞は
『ゾンビの同級生はプリンセス -不死人ディテクティブ-』
および
『学園迷宮エロはぷにんぐ! ~イクぜ!性技のダンジョン攻略~』
の同時受賞とする。

今回は過去に類を見ないほどの大豊作であったが、そんな中でもこの二作の存在感は群を抜いていたと言えよう。
古豪アーベルの集大成たる『ゾンビ』と、新鋭sealの突然変異たる『学園迷宮』……。
両作を支持する陣営は真っ二つに分かれ、一ヶ月にも渡る激論が繰り広げられた。
だが、不眠不休の泥仕合を経てもなお、誰一人として決定的な差を見出すことができなかった。
それどころか、クソのベクトルが全く違う両作は、激突する度にお互いの特色を引き立て、磨き上げ、その黒い輝きをさらに増していくのである。
全く違うバックグラウンドを持つ両作であるが、
「レシピ通りに作ったら負け」とばかりに余計なシステムを足して大惨事になったという共通点以外は、あらゆる面で好対照であった。
片や『ゾンビ』は、個々のクソ要素がガッチリと噛み合い、「糞システム」という一撃必殺の右ストレートに結実しており、
片や『学園迷宮』は、バリエーション豊かなクソ要素が乱舞し、デンプシーロールのようなフックの弾幕がプレイヤーに襲いかかる。
前者は、手抜き・未完成・糞システムの三段構えが織り成す「怒り」と「苦しみ」によって、クソゲーにおける「負」の面を体現しており、
後者は、圧倒的なインパクトとネタ性に裏付けられた「笑い」によってクソゲーにおける「正」の面を体現している。
どちらも文句無しの大賞格でありながら、全く違った形でその実力を証明した両作は、
それぞれ「最凶のクソゲー」と「最高のクソゲー」であったと言えよう。

「究極のクソゲーとは何か?」

最も楽しさを見出せるものなのか、最も苦しみを与えるものなのか。
KOTYeの根源たる問いにまで立ち返って議論されたものの、その答えは得られず、ついぞ決着を見ることはなかった。
この対決は、『アイ惨』によってKOTYeが開闢した時に匹敵する異常事態であると言えるだろう。
ゆえに、最後まで健闘を見せた両作に最大限の敬意を表し、特例中の特例として同時受賞を決定することとする。

2011年は、数多の強豪が覇権を争い、KOTYe史上に残る激戦の年となった。
上半期末には「五惨家」が登場し、そこから名を上げたsealは月毎にKOTYeスレを賑わせる新たなヒットメーカーの地位を確立した。
中でも『学園迷宮』は近年稀に見る「笑えるクソゲー」として、末永く愛されることとなるだろう。
『ゾンビ』もまた、アーベルと共に歩んできたKOTYeのこの3年の足跡を余すところなく物語る逸品であると言えよう。
その一方で、2010年KOTYeの覇者ういんどみるは6月末に『Hyper→Highspeed→Genius』で名誉を挽回しており、
かつて次点を輩出したLeafとフロントウイングも、それぞれ『WHITE ALBUM2 -closing chapter-』、『グリザイアの果実』で激賞されている。
Purple Softwareの『未来ノスタルジア』や、きゃんでぃそふとの『つよきす3学期』は、下馬評を覆してまさかの良作評価であり、
げーせん18の『戦極姫3 〜天下を切り裂く光と影〜』にいたっては、
ごく一部の意見ながらも「大帝国より面白い」とまで言わしめる快挙を果たすこととなった。
このように来る者も去る者も大きく動き、色々な意味で新と旧、生と死が交錯したこの激動の一年は、
KOTYeにとって一つの節目であったと言えるだろう。

そして、この場を借りて、ある人物について語ることをお許し願いたい。
去る12月19日、アーベルソフトウェアの創立者であり、看板シナリオライターであった菅野ひろゆき氏が43歳の若さでこの世を去った。
アーベル系列ブランドは、近年のKOTYeを見ても分かる通り、商品未満のクソゲーを立て続けに出しており、氏とて決して無関係ではない。
だが、たとえ晩年の作品が振るわなかったからと言って、氏がかつて手がけた作品の評価には一切関係しないことを忘れてはならない。
ともすれば「紙芝居」と揶揄されるエロゲーにあって、システム面にこだわった彼の試みは今日の作品に根付いており、
中でも『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』は今でもエロゲー史上最高傑作の一つとして語られるものである。
栄枯盛衰そのものの人生の中で、死の床までゲームを作り続けた故人は、
ある意味で、玉石混淆きわまるこのエロゲー業界を象徴するひとであった。
故人が遺した「心入れ替えて面白い作品を作ろうかと思ってます」という言葉は、
「製作者やメーカーではなく、作品の出来が全て」というKOTYの理念を思い起こさせるものとして胸に留めておきたい。

最後に、往年の名作『EVE burst error』の主人公、天城小次郎の名台詞を拝借することでKOTYe 2011の結びとする。

「クソゲーというのはな、作り手の苦渋と遊び手の苦痛と、それを水に流す笑いに裏付けされたものなんだ」

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最終更新:2014年08月02日 22:33