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2014年総評案7 大賞:新世黙示録 ―Death March―

238 :総評案7 ◆6Hudehhe3c:2015/02/15(日) 23:33:32 HOST:FLH1Abo136.ehm.mesh.ad.jp
2013年のクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(通称KOTYe)は、華麗にして波乱の展開となった。
『リア充爆発しろ!(ずっぷ)』による先行逃げ切りで決着するかに見えたそのとき、まさかの年明け最終戦争から『明日もこの部室で会いましょう(部室)』が登場。
堅実な低品質と予想もつかないネタ性による追い込みをかけ、大賞をさらっていったのである。
ダークホースが逆転勝利する劇的な幕切れにスレが沸き立つその裏で、KOTYe2014が始まろうとしていた。

戦いの幕開けはいつも早い。
1月作品からは2タイトルが名乗りを上げた。

一番槍を務めたのは『きみと僕との騎士の日々 -楽園のシュバリエ-』である。
個別ルートを軒並み投げっぱなしエンドにした挙句、TRUEルートでは数々の重要設定が軒並み虚構だったと明かされる超展開。
病気の母を救うために決闘までしたのに、そう錯覚していただけで母などいないのである。
ヒロインたちが戦う動機まで嘘にされては、目が点になるのも無理はない。
門番を務め得るほどの実力ではなかったが、やがて今年のトレンドの一つとなる騎士ものの隆盛は本作より始まったのである。

もう1作の『艶乳 ~ツリ目で淫らでヤバい秘書~』は独特の文章表現を武器に参戦。
「全自動腰振りマシーン」の乱用や、「お○んこ見せたガール」のような馬鹿馬鹿しさに代表される語彙センスや、「テロリン~、テロリン~」、「グッチョ、プニュッポ」、「グチョップ、パコップ」などの擬音はプレイヤーの表情筋を弛緩させる。
しかもこうした表現は何度も繰り返され、特に射精音は「ウドピュ」を軸に「ウドピュっ!」、「ウドゥピュッ~」といった小癪な派生形のみ。
アクが強く引き出しの少ない言い回しが、抜きゲーとしての価値を下げてしまった。
余談だが本作は精子の行方が生死を分けることがあり、とあるHシーンで「中出し」を選ぶとバッドエンドになる罠が仕込まれている。

かくして2014年は比較的静かな滑り出しとなったが、スレ住人たちは目前に迫った大きく黒い影の気配を感じ取っていた。
年度末の到来である。
しかも今年は増税が重なっており、魔物発生の条件は揃いすぎていた。
そして発生したのは、後に「増税の悪夢」と呼ばれる春の大嵐。
年度末の瘴気に誘われ、3月28日発売の作品から実に6タイトルが参戦してきたのである。

そのうち2作品は強豪スワンアイからの刺客であった。
昨年は掴みかけた連覇の偉業を目前で逃しており、捲土重来を期する意気込みが感じられる。

まずは昨年『雨音スイッチ』で注目を集めた姉妹ブランド黒鳥から『心壊少女 ~僕は彼女が×××されるのを目撃した』を投入。
前作同様、ニッチ層に向けた陰鬱なストーリーは昼ドラも真っ青のドロドロに満ちている。
「不倫をネタに脅迫され、集団にレ○プされて妊娠し、刃傷沙汰からの心中で幕」のような展開も、想定しているターゲットを考慮すればあらすじとしては妥当と言えよう。
しかし描写が圧倒的に不足しており、至る所がト書き状態なのである。
上記の例も、実際はさらに目まぐるしい展開がありながら、レ○プ部分だけで全体の半分以上。
ほかの部分は駆け足どころか全量疾走で説明されており、簡潔すぎて味も素っ気もあったものではない。
主人公がヒロインに追い詰められ絶体絶命の状況から、数クリックで「彼女は窓から落ちて死んだ」となるスピード展開には、誰もが振り切られるであろう。
システムも壊れ気味で、多くは回想モードに集中している。
未見の首吊りCGや撲殺アニメをピンポイントで開放するフラグミスや、希少な普通の恋愛イベントであるデートなどが陰鬱なBGMで回想されるバグがリアル恐怖体験を演出。
Hシーンを一部回想不可能にしてまで日常シーンを回想に入れ、気絶姦の気絶するまでだけを収録するなどの謎チョイスも異彩を放つ。
前作と同じく独特の個性を持ちながら、丁寧さに欠けるために活かし切れない作品であった。

続いて本家スワンアイが『私たち・花のオシオキ部! ~やられたらヤり返す…エロ返しだ!~』で畳みかける。
スワンアイといえば突飛な設定やおざなりな導入からスタートするのが定番であったが、本作では意外にも改善された。
オシオキ部の復活から生徒会に陥れられて巻き返しを誓うまでが、プロローグとして実に巧く描かれているのである。
しかし、慣れないことをしたせいか本作はそこで力尽きてしまった。
以降はいつものダイジェストとなり、無味乾燥で無意味簡素なエピソードが繰り返されるのみ。
酷いものだと「下着泥棒が現れ、難なく捕まえた。」で完結する小話や、どさくさで始まり21クリックで終わるエロ展開まで存在する。
とりわけ象徴的なのが次の一文であった。
「そして、なんやかんやで手紙を出したのが佐藤太郎だと発覚し、なんやかんやで彼を見つけ、なんやかんんやで彼を中庭に呼び出した。」(原文ママ)
ほぼ全編を覆う投げやり感が見事に凝縮されていると言えよう。
ただし、方向性を一切変えることなく貫き通した点はある意味で長所である。
同種のつまらなさをひたすら繰り返し、最後には選評者をして「一周して面白い」とまで評せしめた本作は、あるいは『ずっぷ』の正統後継者なのかもしれない。

新時代の問題作、KISSの『カスタムメイドオンライン』が本格始動したのもこの時であった。
通常は審議対象外の基本無料ゲームだが、有料特典の詰め合わせがパッケージ版として販売されたことを理由に参加資格を獲得し、即座にエントリーを果たす。
好みの外見と性格に設定したメイドと幅広いプレイ(=行為)が楽しめる人気シリーズの最新作にして、エロゲ業界初のクライアント型オンラインゲームとして注目を集めていた。
ところが、いざ始まってみると右も左も未実装で、体験版どころか開発初期のサンプル版並みの完成度だったのである。
開始前には、メイドを見せ合うサロンや衣装を売買する店などのオンライン要素をアピールしていながら、始まってみれば全くの未実装。
メイドの育成などのシステムも大半が機能していない。
スタートダッシュに失敗どころか、準備運動でアキレス腱を断裂したかのような惨状であった。
しかしアップデートによる変化の可能性もあり、それをどう評するかも含めてひとまず結論は先送りされることになった。

その隙を突いて、牛乳戦車の『くのいちが如く -脱がせ!爆乳ニンジャーズ!-』が奇っ怪な動きで馳せ参じた。
閃乱カ○ラ風のくのいちがマインク○フト風のステージでブロック状の敵と戦う、世界観からしてよくわからない3Dアクションである。
ゲーム性は大味で、雰囲気も含めてPS初期のゲーム並み。
ほぼ何もない冗長なステージをダバダバ走りで駆け抜け、ダッシュ暴発による落下に注意しながらわずかなアイテムを回収し、敵は壁にぶつけて連打で嵌め殺せば良い。
最大の問題点は「何をするにも金」という世知辛い仕様で、Hシーンも購入して開放しなければならない。
結果、前述のルーチンをひたすら反復してちまちまと購入資金を稼ぐ単純労働ゲーになってしまうのである。
エロの質こそ悪くないが、厄介な障壁で妨害されているというジャマー搭載型の作品であった。

さらに、修羅の国を騒がせる魔弾ばら撒き事件も発生した。
エフォルダムソフトの『銃騎士 Cutie☆Bullet』が着弾したのである。
シナリオに関しては前作『恋騎士』や体験版の惨状を受けて諦められており、フルプライスのCG集で構わないとされていたが、その下がりきったハードルをも悠々とくぐるほどの病的なスリム化が本作には施されていた。
まず容量が前作の約半分。
比例してCG枚数も標準の半分以下のわずか35枚しかなかったのである。
しかもほどんどがHCGで、あるヒロインは非HCGが1枚限り。
データ解析によると若いCG番号が軒並み欠番となっており、収録予定だったはずのCGが大幅に削られた痕跡が見て取れる。
一枚絵に限らず立ち絵や背景も少なく、演出が貧相どころか文章との食い違いが続発。
グランドルートに至っては完全に一枚絵ゼロ進行で、背景が常時黒一色だけのスタッフロールが別の意味で涙を誘う。
エロゲはときに紙芝居と揶揄されるが、ほぼ立ち絵と背景だけの本作はさしずめ「動かない平面人形劇」といったところか。
こうした状況から、日本語入力ソフトにブランド名を「絵フォルダ無」と揶揄されたり、「1jks=35CG」という単位として採用されたりと散々な扱いを受けたのであった。
シナリオも予想以下で、シリアスとギャグが相殺し合っている上にひねりもなくワンパターンである。
概要は、治安維持組織である「銃士隊」の一員としてヒロインたちと活動しつつ仲を深めていくという話で、基本はあくまでシリアス。
なのだが、ところ構わずギャグを混ぜ込んで滑り倒すため、良い話でも笑える話でもなくなっている。
主人公の父親が病床で子に銃士隊を託す場面は、「病死ではなく、ピーナッツクリームサンドイッチを食べたらアナフィラキシーショックで死にました。」という余計なオチ付き。
また、作中にはウポポ語並みの空耳言語が存在し、例えば「私」の意味を持つ言葉は「にーと」、「こんばんは」は「はなげかーにばる」、「あなたを愛しています」は「はらませてあげる」のように、おしなべて低俗でくだらない。
これを母国語として常用するヒロインのルートは、あらゆるシリアスシーンがぶち壊しになっている。
とにかく真面目と茶化しが常にセットになっており、感情移入は徹底的に阻害されるのである。
ストーリー展開は、どのルートもほぼパターンが同じで黒幕も同一人物。
いかにも疑わしい人物がそのまま黒幕で、裏の裏を狙ってただの表になったかのように平坦な印象を受ける。
しかも黒幕は別の銃騎士隊の隊長で、動機は「仕事を抜けて半額サービス中のジムに行くのを主人公の父親に咎められた恨み」である。
ストーリーの根っこが馬鹿げた私怨による組織内の揉め事では、全編に茶番臭が漂うのも無理からぬことであろう。
ごらんの有様にメーカーは炎上し、親会社による要領を得ない謝罪会見などを経てブランド解散に至る大惨事を招いたのであった。

一方、フルプライスなのに5時間程度ですぐ終わり、名前負けにも程がある『Endless Dungeon』もエントリー。
年度末の申し子6作が顔を揃え、増税直前の決算月というデッドラインの影響力をまざまざと見せつけた。

時はすぎて梅雨入り前。
春から続く激闘がまた完全に終わり切らないうちに、スレ住人たちはそれが第一波にすぎなかったことを知る。
曇天に呼応するかのように、5月作品が続々と姿を現し始めたのである。

先陣を切り、雲間からマッハ20で飛来した触手には見覚えがあった。
常連メーカーsofthouse-sealの『繁殖きょうしつ~女子校ハーレムなら何をヤっても許される!?~』は、要するに「暗○教室」に乗っかったADVである。
タイトルだけでなくシナリオもパロネタで埋め尽くされており、その影響はHシーンにまで及ぶ。
「ヤラせんせー、バスケがしたいです 」、「せっかくだから俺はこの生徒を選ぶぜ! 」、J○J○風の擬音付きで「そ、そこに痺れる憧れるぅ!」から射精など、思いつく限りのパロネタを毎分1回に近いペースで最後まで連発。
そんなやりたい放題の本作が本当に何をやっても許されるのかは、集○社にでも聞くしかあるまい。

銃騎士に負けじと決起した2人のゆかいな騎士の姿も確認された。

1人目は、老舗ルネからまさかのエントリーを果たした『恥辱の女騎士「オークの出来そこないである貴様なんかに、この私が……!!」』である。
概要は題名から察せられる通りなので、割愛して本題に入ろう。
本作の問題点はバグと誤字に集約されている。
女騎士が鎧を自ら脱ぎ始める直前に全裸の差分が挟まれている位は小手調べ。
シーン回想選択画面のサムネイルと内容が一致していないため、目当てのシーンを再生するには総当りで探すか暗記しておくしかない。
しかも一部シーンは選択画面をそのまま背景にして再生される。
誤字も多く、「ヒヤヒヤ」は「ヒヤヒウア」、「姐さん」は「根さん」となり、差分バグで口元が壊れている際に「メテォオ~!」と微妙に発音しにくいセリフを重ねた合わせ技まである始末。
中でも、妙に味のある「ヒヤヒウア」は既存のAAとコラボで幾つものネタを生み出し、スレの流行語となった。
CGやシナリオの質に問題はないものの、女騎士はオークではなく不具合に蹂躙されていたのである。

次いで縁-yukari-から『Knight&Princess』が出陣。
ダブル主人公のゲームブック風ADVという一風変ったシリーズの最新作である。
当然本作でも騎士と姫を操れるのかと思いきや、姫ルートは旅立ったその日のうちに誘拐されて終了する。
実質的には単独主人公への劣化と言えるだろう。
それでも管理しきれないほど膨大な選択肢とフラグが、山積する問題点の温床となっている。
選択肢の多くはバッドエンドに繋がるシャドウゲ○ト仕様で、「敵に捕まった。GAMEOVER」、「裸で放り出されてしまった。GAMEOVER」、「探してた姫が見つかりました。GAMEOVER」などの淡々とした幕引きを見るたびに体の力が抜けていく。
また、いかにも危険な選択肢の先にリョナとエロが混在しており、前者に耐性がない場合、ただでさえ困難なシーン回収が余計に辛くなる。
フラグにも綻びが多く、「主人公とヒロインが囚われた娘を助けに出発した次の瞬間、ヒロインと娘が一緒に陵辱されている」のような超時空展開も散見される。
フラグ管理の簡略化のためか、ヒロインたちはイベントでどれだけズタボロにされようと、バッドエンドでない限り場面が変われば即全快。
悪漢や魔物に陵辱されて「くそおっ、ちくしょおお!ぢっぐじょおおおお!」と叫んでいても、幕間でただ一行「予備の服に着替えた」と表示されてすっかり元通りになる。
ア○パンマン並みのお手軽体質である。
ほかにも、男の集団に散々嬲られている最中に「どうにか脅威を退ける事が出来たようだ」の一文で解決済みになったり、化け物の苗床にされたボテ腹ヒロインが腹を刺されても「なんとか一命を取り留めて」平然と生きていたりと、ヒロインたちの心身のタフネスぶりはとどまるところを知らない。
さらに本作は通称「ピアスバグ」を搭載。
ピアスの表示フラグがONになると、適用されたCGはピアスのみになってしまうのである。
闇に浮かぶピアスのシュールな絵面はスレを大いに沸かし、本作といえばピアスの図式を成立させた。

座布団を貰った騎士たちとは裏腹に、全部持って行かれたのがSORAHANEの『はるかかなた』である。
本作は外注したシステムがバグの集合体で、まともにプレイできないまま発売されてしまった。
音ズレ・フリーズ・強制終了が頻発し、それらを前提としたオートセーブの実装や動作軽減のために既読判定機能を削除するなど対応も泥縄である。
パッチのリリースは2ヶ月間で4回を数え、バージョンごとのセーブデータにはことごとく互換性がない賽の河原の鬼仕様。
不安定なまま苦労してクリアするか、安定性向上と引き換えにセーブデータを失って最初からやり直すかの選択を迫られる。
不具合が概ね解消されるまでには最終的に半年余りを要し、内容以前にシステムの安定までがはるかかなたであった。
その内容も、クライマックスへと繋がる過程をきっちりと描けているとは言いがたく、一部ルートでは非常に粗が目立つ。
義妹ルートはわかりやすい勧善懲悪ものとして進行するのだが、最後の最後に「義妹が電車に轢かれ死ぬが、直後のエピローグで実は生きておりしかも全快したことが明かされる」という取って付けたようなオチで幕を引く。
実妹ルートは「病気で余命いくばくもない妹とお腹の子を救うため、自分の命を顧みず腎臓の提供を決意する兄」という概要で、これ自体は問題ない。
しかし、設定の後付けを連発し病弱同士の病室近親Hで妊娠させるというハリボテの突貫工事でお膳立てされており、移植を決意するきっかけが「出産すれば臍帯血を使って母体を治せる見込みがある」というトンデモ理論。
現実的な世界観で死生観を描くというテーマだったはずだが、これではスイーツファンタジーである。
あまりの出来に感動ではなく無念の涙を流すプレイヤーの心に、「私のために泣いてくれて――ありがとう。」というキャッチコピーがどう響いたかは想像に難くない。

5月勢のトリは、オーバードーズの『強引にされると嬉しくて初めてでもよく喘いじゃう令嬢な幼馴染 優衣 「やめて、脚に触らないで……でも本当は気持ちいいの」』が務めた。
メインヒロインとの登下校時には野外Hを狙い、学園ではヒロインたちかモブ子を引っ掛けてHするという流れを毎日繰り返して進行するADVである。
問題は、野外Hにこぎつける難度が非常に高いこと。
会話やキスなどのコマンドを駆使して巧くその気にしなければ襲えないのだが、ヒロインの気分は可視化されておらず反応から推し量るしかない。
加減を誤れば、襲う前に時間切れや絶頂に至って失敗。
しかも、成功するまでストーリーが進行せずループに陥るため、手探りのセーブ&ロード地獄が続く。
Hシーンは、同じCGに数種類のテキストを用意したりモブ子の頭部だけをすげ替えたりで何倍にも増殖されており、パターンに乏しく数だけがやたら多い。
理不尽な仕様と相まって、コンプまでの道のりはタイトルに負けず劣らず長いのであった。

3月・5月と続いた襲撃に手を焼いているうちに時は流れ、気がつけば7月。
バテ気味のスレ住人たちを嘲笑うかのように追撃部隊が来襲し、無常にも第3ラウンドのゴングが鳴り響いた。

ラウンドガールを務めたのは、softhouse-sealの今年2本目のエントリーとなった『ビッチ生徒会長のいけないお仕事』である。
一見して過剰なパロディも無駄なゲーム性もないADVだが、それでも問題点を仕込んでくるのが常連メーカーたる所以であった。
登場人物は「乱交目当てに聖地日本へ留学してきたエロゲ脳の姫とその従者」なのだが、それと同時に「未来の少子化問題を解決すべく現代にやってきて乱交するアンドロイド」でもあることが追って明らかとなる。
何を言っているかわからなくても、それが当然なので安心して頂きたい。
ほかにも、起きている状態で気絶から目覚め、放蕩な姫を諌めていたはずの従者が姫の性交を褒め称え、今の今まで自分が乱交していた体育館へ「人がいなさそう」だから着替えに向かい再び乱交、など数々の矛盾が噴出する。
挙句、周回要素もない完全な一本道シナリオにもかかわらず、クリア後の回想モードは穴だらけ。
検証によって判明した原因は、過去作『大乱交!!ザーメンシスターズ』からのテキスト流用であった。
状況からして、納期が迫ったために未完成部分をとりあえず埋め合わせ、発売後にパッチで上書き修正する苦肉の策と思われる。
まさしく「いけないお仕事」であり、その点に限ればタイトルに偽りなしと言えよう。

同時期にWHITESOFTが送り込んできた『ギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~』も、名前に恥じない無法者らしさを見せつけた。
本作は独特の世界観や哲学的な話で好評を得た『ギャングスタ・リパブリカ』の続編である。
2ヶ月延期した発売日の5日前にマスターアップ宣言という経緯は伊達ではなく、ファンディスク的位置付けを考慮してなお質・量ともに不足していた。
シナリオは短く、フルプライスにもかかわらず約5時間で読み終わる。
物語の本筋は個性的な筆致で丁寧に描写されている反面、日常風景は大胆にカット。
「プールに行った→時間はすぎて今は公園」や「一緒に水浴びしよう→そして翌朝」のように、サービスカットを省いて数行の説明だけで済ませる手法からは、おもてなしの心が感じられない。
Hシーンも13枠と控えめで、しかも激しく偏っている。
メイン扱いのヒロインが口と本番のわずか2枠で、前作のヒロイン4人のうち2人は1枠ずつしかない。
CGは前作からの流用が多く、新規に限れば1jks未満の29枚を記録した。
さらに質が前作と比べてあからさまに低下しており、密かに原画家を変更しているのではないかという疑惑が噴出。
案の定、後日になってメーカーは別人が描いていたことを認めて謝罪する事態となった。
理想郷とは名ばかりで、現実の荒波によって朽ちた廃墟の如き出来栄えである。

そして、ここでついに試練の時が訪れた。
終末を告げる天使のラッパをBGMに、『チーズ』(正式名称『新世黙示録 ―Death March―』)が満を持して降臨したのである。
長期の延期を経て世に出た本作は、制作が永遠神剣シリーズのXuse【本醸造】、企画シナリオは女神転生シリーズに関わったクリエイターによるRPG+ADV。
突然ゾンビが徘徊する非日常に放り出された登場人物たちが、生き残るために百の剣の力を借りて戦うというコンセプトで、両シリーズの魅力を併せ持つ合体結果が待ち望まれていた。
しかし事故によりクソ要素のレギオンが誕生。
不意打ちからの即死技連発によって、警戒を怠っていたプレイヤーたちは次々と呪殺されてしまった。
その原因をRPGパートから順に紹介する。
戦闘周りは単純で、戦略性が著しく低い。
属性の3すくみ要素はただの後出しジャンケンで、火力で不利を覆すこともできるため何も考えず殴るだけ。
剣は合刃こと剣合体で手間をかけて作るものより次のエリアで簡単に拾えるものの方が強く、猪突猛進しながら拾った剣に随時乗り換えていくだけで十分。
ただし合刃事故を利用すれば序盤から労せず準最強剣も作成可能で、両極端すぎてバランスが悪い。
ラスボス戦に至っては主人公専用のイベント剣しか通用せず、メンバーも完全固定という自由度の低さである。
さらに戦闘のテンポが非常に悪く、細かい戦略を駆使しようとすれば楽しさより煩わしさが先に立つ。
このように、仕様が戦略を全否定しているのでは単調作業化は必然と言えよう。
序盤を乗り切れば戦闘の過程を一部スキップできるようになるため、誰もがそれに頼り、いつしか戦略ならぬ「戦闘省略」RPGと呼ばれるようになるのであった。
グラフィックは、モンスターとダンジョン共に使い回しの極北。
モンスターは色替えで増量されており、名前も「改・ネイキッド・ゴッド」のようにランクと名称と属性を機械的に並べただけで、「返り血ナースホーリー」や「濡れたYシャツゴッド」などの珍名も目白押し。
ダンジョンはどれも全フロアがコピペで、酷い場合は更に色替えで10倍以上に増殖。
それを何度も再訪させられ、ラストダンジョンすら中盤のダンジョンの使い回しである。
最後に操作性の悪さとエンカウント率の高さでストレス要素が加算され、芸術的な嫌がらせ仕様の完成と相成った。

続いてはADVパートだが、こちらは更に闇が深い。
まずは通称の由来となったチーズのくだりを例示しよう。
夜、夕食の準備に必要なチーズを買いに外出すると、血まみれのおじさんに遭遇し、自転車のタイヤは切り裂かれ、林から異臭が漂い、不審者を発見し、警察に通報すると「今すぐ家に帰れ」と言わるのだが、全てを振り切ってお使いを強行する。
その道中で主人公は、脳内不審者の背後を取ろうとして守ると誓ったばかりの妹を見失い、もう気分では動かないと自分を戒めた直後に異臭漂う林へと一人で突入する。
登場人物たちの言動は一事が万事非合理的で一貫性がなく、それはシナリオがその場しのぎの展開の連続でしかないことに由来する。
この惨状は、各人の人格や信念に基づく言動ではなく、シナリオ上の都合に合わせて場面ごとに使い捨ての役割を演じさせられているだけと喝破された。
必然的に無駄な設定や矛盾が増えてくると、作中の神にも理由不詳の奇跡で「違う過去」へと時間が巻き戻るご都合主義で世界ごとリセット。
でたらめに広げられた風呂敷は、畳まれずにポイ捨てされるのである。
さらにシリアス展開の合間にエロとギャグが力ずくでねじ込まれ、「過去から現在に戻るために主人公の精液が必要なので、古の神と後光指すアマテラセックス」や、「致命傷を負い最期の力で最強剣を合刃した後、ギャグ漫画的な不死身を発揮して死に損なうゆるキャラもどき」などの萎え要素が生じている。
こうした傾向は執拗なまでに徹底されており、その影響を一身に受けた主人公「鳥海知空」は「知恵が空っぽ」で、本名そのままで名が体を表す蔑称と揶揄されるほどの武勇伝を積み上げた。
もう迷わないと決めて、3クリック後に迷う。
生きるか死ぬかの状況で、妹とパンチララブコメ展開に突入して殺されかける。
妹が拳銃を突きつけられているのに、隣の部屋でお姉さんと本番開始。
周囲には仲間を信じろと言いながら、自分は仲間の声に耳を貸さない。
自分を助けるために幼馴染が死んだ責任を、無関係な敵に転嫁して虐殺からの死体斬り。
仲間たちが体を張って導いてくれた最終決戦の直前、ラスボスに「妹を助けてやる」と言われた途端に寝返ろうとする。
これらが氷山の一角にすぎないほど、言動・感情・思考が二転三転どころか五里霧中で七転八倒しており、ストーリーテラーでありながらプレイヤーの追従を許さない迷走のファンタジスタと化している。
それでも信頼や好感を寄せる仲間たちの姿は哀れを誘い、死ぬまで命を削って尽くしたり「彼は悪には染まらない」と言い切ったりするヒロインたちの見る目の無さにはため息を禁じ得ない。
こうして意味ではなく都合によって綴られたシナリオは、全編を通して縦横無尽に支離滅裂な異形の姿に成り果てた。
一枚絵の質も決して良いとはいえず、Hシーンも微妙。
仕上げとして、貧相な上に項目の一部が暗転していて触れないコンフィグと、フィールド画面での突然の顔アップや地形に嵌って動けなくなる小粋なバグがタンポポのように彩りを添える。
あらゆる要素に妥協を許さぬ低品質が相互に絡み合い、隅々まで目を通そうとするほどその牙を向く。
使命感なしにはプレイを続けられないことから「ゲー務」の称号を得た本作は、プレイヤーたちの精神に作用する百剣の力でスレに君臨したのであった。

季節は巡って秋。
度重なる激闘で焦土と化しつつあったスレに、懲りない連中ばかりが集まってきた。

最初に発進してきたのは、またしてもsofthouse-sealからの使者、『セックス あ~ん♪ パンツァー』である。
2人の戦車娘を操作して進む横スクロールアクションで、某戦車道とはあまり関係ない。
総じて簡単で先読みや技量は要求されないものの、飛び越せない穴や突出して強いラスボスのようにごく一部だけは理不尽。
ただし、そういった難所には非常に斬新な攻略法が用意されている。
それは、とにかくオ○ニーをすること。
これでゲージを貯めればパワーアップが可能となる。
オ○ニーをしてから颯爽と巨大な穴を飛び越え、ラスボスの砲撃に耐えながらの連続オ○ニーからゴリ押しで逆転勝ちする戦車娘たち。
その姿はスレを笑いで包み、住人たちは激戦の疲れをしばし忘れたのであった。

この機に前年王者も立ち上がった。
『部室』と同系ブランド・同一ライターによって『ヤリ友ペット欲情生活』が生み出されたのである。
ストーリーは、主人公が裏動画配信サイトの誘いに乗って身近な女性の監禁陵辱に動き出すところから始まる。
しかし、話が進んでも主人公による陵辱は皆無。
ひたすら和姦に励んだ末、当初の目的を「当分はいいか」と放り投げてエンディングに直行する。
代わりの陵辱要素は、不意打ちの寝取られという嫌な形で収録。
しかもストーリーは無きに等しく、ルートに入ると唐突に陵辱現場が連続展開されるばかりで、その後どうなったかもわからないままエンディングである。
寝取り男たちは異様にアクが強く、「闇堕ち担当教師・前野」や「悪校長・仁藤」が、「出る出るねるね~~!!!てーれってれー!」、「ぷぷーっ……!? そのカス教師に種付けされている件についてwww どうよー? まさに、【全俺が】ド淫乱メスガキ1人目【射精】状態」などと喋りまくるHシーンは、いくらなんでもはしゃぎすぎとしか言い様がない。
「大しゅきなぁおチ○ポが、前後でぇぇえんんっ……前後ォ前後ぉぉ……」という馴染み深いフレーズが紛れていたこともあって、養殖臭がする計画的クソゲー扱いを受けることになってしまった。

懲りない連中最後の一角は、かつて「クロスゲイズ」で名を馳せたOverflowの『ストリップバトルデイズ』である。
過去作におまけ収録されていた野球拳ゲームに追加要素を加えたロープライス作品で、内容は相応に薄い。
ジャンケンの勝率はプレイヤー側が7割を超えており、脱がせた後も胸をクリックし続けるだけで9割方本番に持ち込めるという親切設計。
面白みはないがゲーム性が負担になるよりは良く、エロに関しては可もなく不可もなくであり、単なる駄ゲー程度の評価にとどまると思われた。
しかし本作には胸が震えるバグがあったのである。
症状は、特定条件下でのアンインストール時に無関係なファイルも消去するという極めて重大なもの。
例えばエロゲー専用フォルダにインストールしていた場合、全エロゲーのデータを失う可能性もある。
活動休止に近いメーカーが放ったイタチの最後っ屁は、思い出が消えるほどの威力を有していたのであった。

12月には、長らく棚上げになっていた『カスタムメイドオンライン』の現状について検証が行われた。
「クソすぎて誰も遊んでいないので内容がわからない」という噂の時点で荒廃の気配が漂っていたが、その真相と対峙する時が来たのである。
起動する前に必要なアップデートは容量約10GB、ファイル数にして万を超えており、数時間は待たねばならない。
それを乗り越え目にしたのは、既視感に溢れる姿だった。
数々の未実装部分が放置されたままだったのである。
春に販売されたパッケージに記載されている内容すら実現されていない事実から、事態の深刻さが伺える。
プレイヤー同士の交流要素は今なお皆無。
その上アップデートによる継続的な進歩もないのでは、もはや「オンライン」の部分は息絶えている。
では従来通りの「カスタムメイド」の部分はどうか。
主人公こそ常に丸出しフル勃起の変質者仕様ではあるものの、アニメ調3Dメイドの造形は概ね好評を得た。
しかし、ほかに褒めるべき点は見当たらない。
そもそも内容があまりに乏しく、すぐに飽きてしまうのである。
本作は基本無料ゲーであり、当然ながら開始時点の衣装やプレイは非常に少ない。
いわゆる無課金で増やそうとすれば、ゲーム内通貨を稼ぐために単調な「お仕事」や意に沿わぬ着替えをひたすら続けることになる。
そこで料金を払えば、すぐに購入できる上に以降の稼ぎも楽になるという寸法である。
このように有料で解消することを前提にわざと不便にする手法自体は珍しいものではなく、単純に非難はできない。
しかし、有料でも解消する方法がない部分については話が違う。
夜伽すなわちメイドとのHは、料金を払っても充実させることができないのである。
夜伽は、手持ちのプレイを駆使してメイドの精神値が尽きない範囲で興奮度を上げ、射精までやり切るというシステム。
プレイの種類と精神が多いほど、様々な夜伽を自由に組み立てやすくなる。
しかし、プレイには同じモーションの使う道具や穴を変えた水増しが多々あり、数は多くてもバリエーションが少ない。
そして精神に至っては、メイドの育成要素が未実装であるため上限を増やすこと自体が不可能。
射精だけで1/4を消費してしまう初期値のままでやりくりするしかないのである。
適当にプレイを選べは精神枯渇で夜伽は強制終了。
それを避けようと、プレイごとの数値変動を調べて緻密な計算をし始めるともはや夜伽どころではない。
エロが少ない上に厳しい制限が解除できないのでは、エロゲーとしても瀕死の状態である。
とにかく未実装が多く、わずかに遊べる部分も制限だらけでほとんど何もできない本作は、既存の料金体系でも修羅の国ではこうなりますよという不名誉な先例となった。

そして年末。
『チーズ』は外伝をサプライズ発売するも動作に必要なファイルを入れ忘れ、『カスタムメイドオンライン』は動作が重くなるアップデートを施して年内のサポートを終了。
強者たちが恥の上塗りに精を出す一方、年末の魔物はついに姿を見せなかった。
年度末への移行やクソゲーの渋滞が発生していたことなど、いくつか理由は考えられるが推測の域を出ない。
いずれにせよ、拍子抜けと不気味さを同時に感じさせる沈黙となった。

明けて1月の予備期間。
恵まれた現代人にそのありがたみを自覚させるべく、古の邪龍が眠りより目覚めた。
6月に発売されていた、ソフトハウスSORAの『俺がヤマタノオロチなら』である。
本作は伝奇ミステリー+恋愛ADVであるが、いずれの要素もまともに機能していない。
まずミステリーとして何より致命的なのは、タイトルがネタバレになっていること。
作中において、主人公の正体は物語の前提ではなく、終盤まで明かされない謎として扱われているのである。
ネタバレ不可避のミステリーが面白いはずもない。
しかもヒロインたちは主人公の正体を知っており、それを露骨に臭わせる発言をこれでもかと反復する。
確実なネタバレに続いて手順前後の下手な伏線を張り倒されては、萎えるなという方が無理であろう。
しかも登場人物が少なすぎて、真の黒幕が誰なのかまでバレバレ。
その黒幕は、主人公そっちのけでヒロインがウル○ラマンより早く処理してしまう。
内容も「復讐の機会を数千年待ち続けていたが、一言二言の説得に応じて改心する」など、拍子抜けどころの騒ぎではない。
終始単調で平坦、たまに180度の心変わりという展開は、恋愛ものとして見た場合も共通の問題である。
例えば、前世の因縁から主人公を不倶戴天の敵とみなしていたヒロインは、ちゃんと話し合おうと言われるとすぐさま心と股を開き、そのままハッピーエンド。
と思いきや、突如アマテラスの人格に体を乗っ取られ、主人公と即座に相思相愛アマテラセックスになだれ込み真のエンディングを迎えるのである。
心変わりにキレがありすぎてついていけない。
物語を彩るはずのグラフィックやサウンド、そしてシステムも、10年遅れの技術力がもたらす古臭さによって侵食されている。
一枚絵の塗りとデッサンの狂いはどことなく「たのしいぬりえ」を想起させ、風景写真にフィルターを掛けたような背景に残る「鎌倉駅」の表記はプレイヤーを現実世界に引き戻す。
おまけに立ち絵は同時に二人以上表示できず、常に画面中心に一人だけという体たらく。
システム効果音はなぜか人の声で、ボタンにマウスオーバーするたびに「カチッ」、決定すると「チャララーン」と発音されて癪に障る。
システムは一昔前のもので、バックログの一括表示やクリック後のボイス継続設定などは当然のように不可。
バグも、「背景:神社境内」と内部指示的な文がメッセージウィンドウに表示されたり、セーブ画面で2ページ目以降のサムネイルが参照できなかったりと、アクセント程度には備えている。
このように、時間ではなく技術が足りずに全体の質が上がらなかった本作は、手数と状態異常で勝負する片手剣のような性質を備えている。
その姿は古き日のエロゲーと重なり、当時を知る世代には懐かしい記憶を呼び起こさせ、知らぬ世代にはエロゲーの進化を逆説的に伝えたのであった。

以上で2014年の主なエントリー作品の紹介を終え、結果発表に移ろう。
次点は、
『銃騎士 Cutie☆Bullet』
『カスタムメイドオンライン』
『俺がヤマタノオロチなら』
そして大賞は、
『新世黙示録 ―Death March―』
とする。

2014年も多数のクソゲーによる大混戦となったが、昨年とは趣が異なっていた。
クソゲーの正の側面「ネタ性」が影を潜め、負の側面「つまらなさ」が台頭したのである。
シナリオは雑なストーリーや寒いギャグに彩られ、CGは質や量が不十分で、ゲーム性は単調で煩わしい。
基本的な部分からして問題があり、局所的な輝きがあっても杜撰なお膳立てのせいで曇っている。
程度の差はあれ、こうした傾向のクソゲーが大挙して押し寄せスレは泥沼化してしまった。
その中で際立った存在感を示したのが次点以上の作品である。
納期が迫れば完成度が二の次にされる厳しい現実の申し子『銃騎士 Cutie☆Bullet』の、無残なCG枚数とうすら寒いシナリオ。
新しいことに挑戦するも頓挫した『カスタムメイドオンライン』の、できることが少ない単調さと不親切なシステムの煩わしさ。
一昔前に立ち返ったかのように古臭い『俺がヤマタノオロチなら』の、全方位的なチープさと不便さ。
方向性は違えど、いずれも粗製乱造されたクソゲー群からは一歩抜けていた。
それらをさらに超えたのが、単独でこうした欠点の多くを兼ね備えた『チーズ』である。
RPGパートは単調さと煩わしさを、ADVパートはつまらないを超越した意味不明さを、コンフィグや操作性その他の要素は不親切さと全面低品質をそれぞれに発揮。
それでいて固有の長所は絶無に近く、短所だけが高純度・高密度・大容量の徹頭徹尾ストレスフル長編仕様。
理不尽な仕様や重篤なバグはないにもかかわらず、クソ要素の総量と相乗効果だけでまともにプレイできない領域へと踏み込んだ。
その姿は最強のストロングスタイルと呼ぶにふさわしい。

加えて、常識外れの意味不明さには意外な正の側面もあった。
細切れのエピソードですら想像を絶する大物の気配をひしひしと伝え、見聞きした者たちの興味を引いたのである。
怖いもの見たさなのか、理解できないからこそ解き明かしたくなるのか、あるいはもっと別ものなのかは人それぞれであろう。
それでも、できることなら全容を知りたいという前向きな欲求は確かに存在していた。
そこで有志たちは、クソゲーと向き合い全てを受け止める覚悟を固めて選評執筆に挑んだのである。
しかし、最初に名乗りを上げた者はそのまま消息を絶った。
幾多の犠牲を経て、辛くも最初の選評が届いたのはおよそ1ヶ月後。
相手が悪すぎて完全なものではなかったが、心からの賞賛をもって迎えられた。
執筆を断念した者たちも次々と自らの体験談を挙げて補足し、それを聞くことでまた興味が湧き、次の選評の呼び水となる。
そうして『チーズ』は発売直後から話題の中心であり続けた。
この「聞きたい、語りたい、突っ込みたいと思わせる力」という意味での「ネタ性」についても『チーズ』は群を抜いていたと言えよう。
だからこそ、苦労を承知で挑戦する者たちが現れ、支離滅裂でまとめようがないと言われながらも選評は期限いっぱいまで届き続けた。
それらはやり込みを通してのみ書き得る説得力に満ちており、指摘された問題点のどれをとっても意見が割れることはなかった。
誰もが強敵の威容を畏れ、選評者たちの戦いを偲び、そして共感を覚えるに至ったのである。

KOTYeとは「選評を軸にクソゲーを語るネタスレ」である。
しかし今年は薄っぺらくつまらないクソゲーが溢れ、その中身はすぐに語り尽くされてしまっていた。
そこに現れた、なんとも形容しがたい巨大な影。
スレの総力を持って解き明かされたその正体は、向き合うのにも苦労する文句なしのクソゲーであると同時に、酷すぎて逆に興味を惹きつけ、語れるネタをも備えた負のカリスマであった。
独自の姿で今年最もスレの主旨に沿ったその「異形」に畏敬の念を表し、『チーズ』こと『新世黙示録 ―Death March―』を2014年KOTYeの大賞に叙する。

エントリー数が過去最高を記録し、その多くを中身の薄いクソゲーが占めた2014年。
増税の悪夢を皮切りに三度に渡る大攻勢が始まり、その最後に登場した怪物は勢力図を大きく塗り変え、年末の魔物の座は空位となった。
一寸先は闇の暗黒大陸を、この先どう渡り歩いて行けばいいのか。
ヒントはクソゲーの中にあった。
流れを読まずに書きたいことを書き、要らぬものを付け加えて本来の意味がぼやけたクソゲーの数々。
それらを反面教師にすることである。
感情論にとらわれず、筋の通った信念を掲げる。
そしてクソゲーを遊び尽くし、論じ尽くした果てにあるものを追い求めたい。
その姿勢を曲げずに貫き通す限り、どんな暗闇もエンタメの光が照らすと信じて。

最後に、『新世黙示録 ―Death March―』に挑み制覇した選評者たちの心の勝鬨を2014年KOTYeの結句としよう。
「選評(ペン)は、百剣(けん)よりも強し。」
最終更新:2015年02月16日 00:08