2019年 総評

崩壊天使アストレイア』(1/25)《DigitalCute》

2018年、11年目を迎えたクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(KOTYe)には、どこか倦怠感が漂っていた。
といっても、話題に事欠いていたわけではない。
記念すべき新たな十年紀の始まり、『孕ら・ポコ!』によるKOTYe史上初の同系メーカー2度目の戴冠、ほかにも様々な出来事があった。
だが、戦場の空気を支配していたのは、「陰ることなき伝説」だったのである。
それは、始まりのブラックホール爆弾が開き、有機連動するクソのレギオンが掘り下げ、CGとして顕現した呪いが締めくくった、最初の十年紀。
もちろん過去は過去、今は今と理屈ではわかっている。
けれども、「奴らと比べれば……」という拭いきれない感情は、目の前のゲームがクソである確信、すなわちクソゲーを選評する力の源を揺るがし、崩し去ってしまう。
かくして、門番の概念はいつしか塗り替えられていた。
1年区切りの縛りを超え、心理的な門番となるのは、気ままに現在を通りすがる過去の魔王たち。
新たな局面を迎えた修羅の国に、まとわりつく茨のような業がますます蔓延っていく。
されど歩みを止めないハンターたちは、いったいどこへ向かうのであろうか。

2019年は、きな臭さが色濃く漂う立ち上がりとなった。
闇に蠢く者どもに関する報告が、3ヶ月続けて届いたのである。
1月に『崩壊天使アストレイア』、2月には『ギルドマスター』が、それぞれバグの多重結界に守られた状態で出現し、3月末には『白恋サクラ*グラム』が新たなシュレディンガー戦法を発動した。
しかし、いずれも変異の余地を残す未完成体であったため、選評の提出は保留され、ひとまず追跡対象とするに留められた。

しばしの時が流れ、迎えた新時代。
2019年初にして令和初のエントリーを果たしたのは、4月に本格施行されたばかりの働き方改革関連法をあざ笑う黒い影、『ブラック企業~性処理事業部~』であった。
昨年『懺悔島』を次点に食い込ませたTRYSET Breakが生み出した、オフィス陵辱ものの低価格抜きゲーである。
『懺悔島』でシナリオの整合性をとれなかった反省からか、本作では分岐が最後にひとつだけのほぼ一本道、フルスキップ2分ほどでコンプできる極薄化が断行され、一応コンセプトに沿った展開は実現されている。
しかし、肝心のHCGは旧時代の塗りへと逆行。
細部・構図・デッサンにも多くの狂いを抱えた姿は、塗りを怠り恥を上塗る醜態といえよう。
有料追加コンテンツである心理描写ボイスも、Hシーンの声はわずか1~2割で、残りは無味乾燥な状況説明文の読み上げにすぎない。
話の結末もぞんざいで、性奴隷にされたヒロインが「4ヶ月で経験人数100人弱、射精回数1万回以上」の、花粉症患者よりティッシュを要するペースで酷使されて締めとなる。
その際に竿役オヤジが放ったポジティブすぎる名言、
「4ヶ月前まで処女だったのか。ならばほとんど処女みたいなものだな。」
は、改変のしやすさと汎用性の高さもあって流行語として定着。
本作唯一の光として、極夜を朧月の如く照らしたのであった。

こうして、上半期は選評数わずか1本に終わる。
暗黒大陸の外にまで飛び火したエヅラハザードからの復興は、まだ道半ばを思わせた。
周辺には、眼球を通して脳髄を侵された者たちが、
「つよい
 まま 」
と呻くだけの生ける屍となって這いずり回っている。
しかし、そんな惨状においても、ハンターたちは水面下で調査活動を続けていた。
独りで抱え込むには危険な悲報は、皆で分かち合って笑い飛ばす。
その信念が、ここから実を結び始める。

7月下旬、告知詐欺をしでかしたロープライス作品3本が相次いで網にかかった。
先導を努めたLass Pixyの『カケオチ』には、駆け落ち感が欠け落ちている。
なんの障害もないなんちゃって逃避行は、悲壮どころか楽しげな雰囲気で、立派すぎる隠れ家も相まって、せいぜいお嬢様のお茶目なプチ家出でしかない。
呑気な小話と超圧縮エロダイジェストで30分の尺を埋めたら、あとはお寒いエピローグを残すのみ。
しれっと迎えに来た従者から忠告されたヒロインは、あっさり折れて主人公に別れを告げる。
が、その場でサプライズプロポーズされると即承諾。
180度ターン2連発をいともたやすく行う女心の旋回性能が披露された直後に、主人公が、
「俺たちは、全てを『賭け』て、恋に『落ち』たのだから。」
と渾身のドヤ台詞でタイトルを回収して閉幕となる。
どこにも「駆け落ち」とは書いてないと言わんばかりの配慮に欠けるオチを迎え、住人たちはタイトルの奥深さを苦く噛みしめるのであった。

続いて、アトリエさくらTeam.NTRの『淫らに堕ちる、最愛彼女』が、奇をてらった変化球を試みてボーク判定となった。
というのも、主人公とヒロインは家族感覚の幼馴染で、恋人同士ではないからである。
竿役の親友も、それを何度も主人公に確認してから正々堂々とヒロインを口説き落としているし、主人公がヒロインへの恋心を自覚するのはそのあと。
苦悩のあまり精神を病んだ主人公は、親友を逆恨みし、ヒロインには脳内で結ばれた話をして、
「そんな夢の話しされても……」
と素の正論で一蹴され、失意のまま2人と疎遠になって終了である。
これはNTRなのかという疑問が論議され、NTRではなく派生ジャンルのBSS(僕が先に好きだったのに)の亜種に該当すると結論付けられて決着。
物語として破綻していなくとも、期待に対して実態が横にズレていれば欲求不満は生じる例として名を残した。

NTR界隈への理解をひとつ深めた住人たちであったが、ここでさらなる惑乱へと誘われる。
仕掛けてきたのは、またしてもアトリエさくらTeam.NTR。
『寝取られ妻・絵理奈 ~愛する妻は他の男の上で腰を振る~』による、思わぬ追撃であった。
本作を一言で表現するなら、狂気の沙汰。
寝取りと寝取られがコペルニクス的転回を繰り返すアクロバティックな展開と、ヒロインの誰得な本性が組み合わさり、結局なにがしたいのかわからなくなっている。
まず主人公は、タイトルには妻とあるのに独身で、ヒロインとは事実婚みたいなものだと勝手に思っているだけ。
しかも婚約者がいるヒロインと駆け落ちしているため、主人公は寝取った側である。
かと思えば金に困って自らヒロインを婚約者に差し出し、かと思えば直後に反省して二度としないと誓い、かと思えば翌月には同じことを繰り返し、かと思えばハメ撮り映像を婚約者に送りつける。
ともすれば命を賭してチーズを買いに行きかねない主人公の迷走を受け、婚約者も竿役と寝取られ役との演じ分けを強いられる羽目に。
ヒロインはヒロインで、婚約者にノリノリで体を許し、なんの葛藤も抱かない。
それもそのはず、実はヒロインは精神異常者で、常識や貞操観念がすっかり抜け落ちている。
単なるビッチとも違い、好きと言われれば誰にでも自動的に心と股を開いてしまう、本物の狂人だったのである。
未開の地を目指しすぎて王道を完全に踏み外し、NTRはもちろん手軽な抜きゲーとしても成立し難い設定になっているため、初めから破綻は約束されていたともいえよう。
見かねた有志があらすじをロシア文学風に書き下ろし、文学作品としてなら成立し得ると立証せしめたのが、本作への手向けとなった。

8月に入ってすぐのこと。
どこか見覚えのあるオノマトペがメッセージウィンドウを埋め尽くした。
ぬっぷ! ぬっぷ! ぐぷんっ! ぐぷんっ!
ぬぷんっ! ぬぷんっ! ぬぷんっ! グプンッ! グプンッ!
世紀末覇者の風格を纏って参戦したのは、ずっぷ宗家の血脈に連なるもの。
その名も『カスタムcute ~俺と彼女の育成バトル!~』であった。
新規ブランドももいろPocketの処女作を称しているが、見ての通り、覇王たるスワン系列の落とし子である。
コンセプトは「理想の押し付け合いエロバトル」で、主人公が勝てばヒロインを自分の好みに染め、負ければ逆にヒロインの好みに染められてしまう。
それ自体は悪くないが、しかし実現できておらず、例によってクオリティが全面的に低い。
シナリオは矛盾まみれで、とりわけヒロインの行動原理は支離滅裂である。
主人公を毛嫌いしているのに、射精障害でチ○コが完全に逝く前にヤらせてくれと泣きつかれるとバトルをお膳立てし、勝っても負けても行為に及ぶ。
ほかにも、オタク嫌いにもかかわらず「オタクにモテる」と説得されればコスプレを受け入れたり、主人公を負かして理想化した上でほかの男の下に走ったりと枚挙に暇がない。
そして話の発端であった射精障害にはサイレントご都合主義が発動し、いつの間にかなかったことにされている。
バカ抜きゲーに練り込まれたシナリオなど求めないし、いつも通りといえばそれまでだが、いいかげん辻褄くらいは合わせて然るべきではなかろうか。
ゲームシステムは、古式ゆかしきノーヒント制マップ移動方式を採用。
どこでなにを準備して臨めばバトルに勝てるのかわからないため、ヒロイン4人×5番勝負の合計20戦において、その都度総当たりを余儀なくされる。
しかも、マップ画面の片隅に描かれたシステムウィンドウは触っても反応しないダミーであり、移動先選択の際にセーブ&ロードすら行えない。
また、画質の粗さはタイトル画面の時点で目につくほどで、以降も全編を通してジャギり倒している。
体験版の設定データを上書きすると鮮明になるため、単純ミスと思われるが、とうとう修正パッチは出ずじまいであった。
そのほか、もはや標準搭載のアナクロUI、意味もなく明滅する立ち絵や背景、事あるごとに生じる5~10秒の暗転読み込み、突然現れる「text_num」の文字列、oggで生のまま入っているボイスデータ、散見される中国語フォントなどなど、挙動から制作者の素性に至るまで、多角的な胡散臭さをも備えている。
そしてHシーンは前述の低解像度とずっぷ擬音に汚染されており、ここまでのマイナスを帳消しにするまでの力は備わっていない。
いつものスワン系以下の隙なき劣悪を備えた堂々たる昇天は、相手に理想を押し付けるのではなく、自ら理想へと向かう姿勢の大切さを反面教師的に示してみせた。

戦場の鼓動に共鳴するかのように、BaseSonの『真・恋姫†夢想-革命- 劉旗の大望』も馳せ参じた。
第1弾の魏編がリメイク詐欺で顰蹙を買った革命シリーズ、そのトリを汚す蜀編である。
もともと旧作で最も評価の低いルートであったが、欠陥は改善されていないどころかむしろ悪化。
主人公は空気ならぬ窒素、ヒロイン劉備は現実が見えない脳内お花畑、そんな2人を家臣民衆一同は全力でアゲ奉る。
また、旧作からの再利用部分と新規追加部分のすり合わせができておらず、新旧設定が混在し時系列が狂う不整合が大量に発生。
「怒気ッ☆矛盾だらけのカルト宗教」なダメシナリオに仕上がった。
ただし、キャラ萌えハーレムゲーと完全に割り切れば活路も開けることは付記しておく。

季節は巡って秋。
修羅の国では増税の衝撃波が涼風程度の拍子抜けに終わり、今が好機と見たハンターたちは温存していた力を解放。
日本開催のラグビーワールドカップと時を同じくして、「ONE TEAM」の精神で反転攻勢に打って出た。
その結果、10月には新旧合わせて一挙6本もの選評が届く。

開幕戦では、新規ブランドSATOR所属の『モウソウスピーカー ~Hな妄想が聴こえてくるよ~』と相対した。
本作は、ヒロインのエロ妄想が主人公に筒抜けとなって生じる戸惑いや恥ずかしさを描いていない。
妄想が聴こえるのはプレイヤーだけで主人公には聴こえず、ストーリー展開には何の影響も及ぼさないのである。
そのくせ、やたらと日常会話に挟み込まれたり、主人公とプレイヤーの観点を分離させ感情移入を妨げたりと、しっかり邪魔にはなっている。
内容もおざなりに淫語を並べただけで、ヒロインたちはエロいというより下品。
輪をかけてひどいのが主人公で、Hシーンに入ると変態覚醒し、
『マ○コの匂いだけでメシを食えるぞっ!!』、
『れろっ、れろぉっ!うおお、なんて美味いお尻なんだ!こんなお尻、俺はいまだかつて味わったことがなーい!!』
といった勢いだけの肉穴食レポで芳醇なキモさを解き放つ。
この質でフルプライス、容量は1GB未満でコンプまで数時間である。
妄想を可聴化してみても、プレイヤーが望むものを現実化するには至らなかった。

次いで、「ネコとの心中超絶神回避ADV」を標榜しておいて、実態は「寄生生物殺人計画ADV」であった『ネコ神さまと、ななつぼし -妹の姉-』も調伏。

肩慣らしを終えたハンターたちは、いよいよ泳がせていた調査対象のうち2体と対峙した。
先に激突したのは、納期との戦いに敗れ魔物へと堕ちた年度末よりのシ者。
NanaWindの『白恋サクラ*グラム』である。
合計3回、半年に及ぶ延期を経て年度末に排出されたエリートコース。
本作は、その恐るべき経歴に違わぬ実力を備えている。
フルプライスのファンディスクでありながら、中身はスカスカ。
パッケージや予告動画で水着をことさら強調しておいて、水着Hは一切なし。
新ヒロインの個別シナリオ「永遠の白」は、起承転結の起どころか土で終わり、事前公開済みのCGすら一部未収録でHシーンも絶無である。
代わりに、本編に該当する『春音アリス*グラム』から共通ルートを丸ごとコピペ収録し、容量とCG枠を大幅に水増し。
さらに、新規部分でも複数のイベントCGを差分流用している。
CG流用はHシーンにまで及んでおり、もはや禁忌を侵す行為と断じても過言ではない。
挙句、発売日の翌日には、発売記念と称して「無料追加アペンド」の順次配布を告知。
そこには、前述した水着Hや新ヒロインの未収録CG及び追加シナリオが含まれていた。
どう考えても、最初から入っているべきコンテンツの後付けである。
しかも配布は1~2ヶ月に1回のスローペースで少しずつ。
発売から7ヶ月を経た選評到着時点でも、「永遠の白」の追加はわずか2回。
いずれもバッドエンドになってループしただけで進展は少なく、「永遠の白紙」と皮肉られた。
こうなると、ほかのところまで疑わしく思えてくる。
ファンディスクにもかかわらずルートロック式な上、ほぼコンプしなければ回想モードが開放されないのは、全容の露呈と不評の拡散をできるだけ遅らせ、発売直後に売り抜ける時間を稼ぐため。
アペンドが期間限定なのは、未完成部分の後付けではないと装うため。
そう判断されても仕方あるまい。
パケ絵がピーク、バグを装わずに未完成を誤魔化そうとする豊富な手法、そのためにプレイヤーに不便を強いる胆力、発売後の長期に渡る継ぎ足し。
本体のみならず事前事後の動きまで含め、幾多の要素が噛み合い、完成度の高い未完成商法として結実している。
まさにネオシュレディンガーを号するにふさわしい、白恋ならぬ黒故意な手口であった。

後を追う形で、アストロノーツ・シリウスの『ギルドマスター』が戦場を昏き帳で覆う。
自社エンジンの初採用、土壇場で3ヶ月の発売延期、告知に反して発売日を過ぎても出ない体験版、パッケージ内には修正パッチDLを促す注意書き。
懸念のボルテージが高まり続ける中、いざ蓋を開けてみると、判明したのはありえない完成度であった。
初期形態は、フリーズや進行不能を満載したバグゲーである。
確定ではないものの、右クリック・エンカウント・画面切り替え時の暗転など、頻繁に繰り返される挙動がトリガーとなっているため、常に独りロシアンルーレット状態。
有料デバッガーたちは、操作系や画面表示の異常といった軽いバグから致命バグの兆候を読み、起こりやすい場所も把握した上で、こまめなセーブを駆使して進行を試みた。
対してメーカーは、度重なるパッチのたびにバグの発生ポイントをずらしてこれを翻弄。
公式サイトのパッチ更新履歴は伸びに伸び続け、正常に動作するまでに数ヶ月を要している。
そうして死の帳が上がったあとに現れたのは、虚無で満たされたハリボテであった。
「冒険者ギルド運営×ダンジョン探索RPG」を掲げているが、どちらも極めて浅く、その上システムは不親切である。
まずギルド運営は、冒険者の雇用や各種アイテムの購入など、RPGの基本的なシステムをそう称しているだけで、自らギルドを切り盛りする感覚とは程遠い。
RPGとしては、手間のかかる作業が続くだけで自由度の低い長編ゲー無である。
戦闘は、対象指定がクリックのみでオートもなくテンポが悪い。
バランス調整も大雑把で、バフとデバフを入れて殴ればすべてが片付き、逆にどちらも持たないキャラには存在意義がない。
また、キャラを解雇するとヒロインであっても二度と登場しない罠があり、個別イベントを見るためには、少ない雇用枠をネームドキャラで埋めざるを得ない。
装備は、店売り品を順次乗り換えていくのが見え透いた最適解で、ダンジョンでは劣化品しか手に入らない。
以上のように、キャラおよび装備の使い分けやアイテム収集の楽しみがないのである。
UIは押しなべて配慮が足りておらず、異常に小さいセーブ&ロード用のアイコンは画面の極東に配置され、各種データは必要なときに参照しにくいなど、かゆいところが多すぎて手が足りない。
そしてシナリオは、悪い意味で変則的である。
ヒロイン9人のうち実に8人が任意加入キャラで、個別のサイドストーリーにしか登場せず、加入状況によるメインストーリーの派生は完全に切り捨てられている。
その結果、ヒロイン同士の掛け合いがほぼなし、ハーレムなどの複数人Hもなし、挙句の果てにメインストーリーにも絡まない。
残る1人はギルドの受付嬢なので留守番となり、探索中のイベントは主人公の独り言か端役との会話を軸に進行する。
その主人公も、ダンボー顔のミニぬりかべに憑依して探索を行うため、熱い場面もシュールギャグにしかならない。
頼みの綱のエロに関しても、ダンジョンRPGのお約束ともいえる陵辱が各ヒロイン1回ずつと過去作と比べ減少しており、物足りなさは払拭し切れない。
空疎なRPG要素がシナリオに重い制限を課し、ないない尽くしとなった本作は、深い闇でシリウスの光を損ねたのであった。

大物狩りの間隙を突いて現れた戯画の『アイキス』は、別ルートにもダブルでしゃしゃる双子ヒロインズが雰囲気クラッシャーとして躍動。
また、旧作との世界観共有を売りにしながら腐らせており、置きにいって微妙というやるせない戦績に終わる。

食玩のラムネこと『甘やかせカノジョのいる生活 ~一途な銀髪美少女は好きですか?~』もここで参戦した。
ソフトDL版単体は1300円で販売されているが、ストーリーとエロの安さはお値段以下。
タイトルの回収すらまともに行えないほど日常描写が希薄で、風情のないチンケなエロアソートは突発ボテ腹からのブラックアウトで終わり、後日談どころかスタッフロールすら存在しない。
CG全10枚、容量367MB、時間にして30分足らずの茶番である。
これでヒロインに愛着が湧くはずもなく、抱き枕カバーセット版を12000円で売るための手段としては下策といえよう。
絵と声さえ良ければ、ほかはどれだけ杜撰でも構わないと判断したのなら、さすがに甘ったれた算段と評するしかない。

11月上旬には、主人公の言動がブレブレなのを公式設定にして正当化を図った『仲良し姉妹(かぞく)ならキスも中出しもとーぜんだよねっ!』がエントリーし、秋の大狩猟祭は赫々たる戦果を上げてお開きとなった。

冬に差し掛かるころ、「休眠メーカーが活動を再開してシリーズ関連作を出す」という危険視号を無視した者の爆死報告が届いた。
元凶は、catwalkの『勇者と踊れ!~ぼっちの俺が異世界召喚されて美少女たちと学園最強パーティを組みました~』である。
「俺最強異世界召喚RPG」を謳う本作だが、そもそもRPGと呼べるか疑わしい。
お金も経験値も装備も存在せず、成長は章クリア時の一律レベルアップと簡素すぎるステータス割り振りしかない。
戦闘は報酬のない純然たる障害で、被ダメ時のアーマーブレイクから通常攻撃に至るまで、あらゆる行動にもっさりしたカットインが入るため鈍重そのもの。
しかもボスはやたら硬く、攻撃する部位の指定を逐一要求されるため非常に煩わしい。
「レンチン」や「お金チャリーン」と揶揄されたチープな効果音や、一部の敵キャラが○△□でしかない手抜きグラも地味にイライラを増幅する。
ダンジョンはパズル風で、ゴールまでルートが繋がるようにマップの枠内を順次通路パネルで埋めていく形式である。
しかし、探索との相性がすこぶる悪い。
ルートを作りながら進む性質上、道を間違えるとリターンではなくリセットになり、途中の戦闘もそのたびにやり直しとなる。
さらに、マップをすべて埋めずにクリアすると成長ボーナスが減るため、完全踏破は半強制。
敵や罠の存在を確認したマスであろうと、ひとつ残らず踏んでいくしかないのである。
2周目からはまるごとスキップ可能になるのが、せめてもの救いか。
一方、ストーリーも良質とは言い難い。
異世界召喚ものでありながら、地球育ちならではの知識や経験を活かす場面は皆無。
主人公は基本受け身で、命令に従ってダンジョンを探索し、降りかかる火の粉を払っていると、結果的に世界を救っている。
ルートが変わっても展開は見事に同じで、2周目以降はヒロインがすげ変わっただけのストーリー差分回収作業でしかない。
総じて、ゲーム性もシナリオも自ら決めることが少なすぎて、やらされ感に満ちている。
タイトルの意図が「プレイヤーよ、勇者とともに我々製作者の手のひらの上で踊れ!」なのだとすれば、見事に実現できていると認めざるを得ない。

年は明けて1月。
心の残便感を解消すべく、いまや恒例行事となった残敵掃討作戦が実行され、クセの強すぎる面々があぶり出された。

新年早々、『Little Sick Girls』シリーズの第1弾と第2弾が連続で登壇。
『カケオチ』で駆け落ちを描かなかったlass pixyが、さらなる告知詐欺で畳み掛けてきた。
「1人の異性を唐突に愛しすぎてしまう病気」が共通設定だが、公然見せつけセッ○スを正当化する免罪符としても多用されており、属性のない者には不意打ちとなる。
一方でHシーンの野次馬がほぼ無反応なため属性持ちには物足りず、どっちつかずで両方に刺さらない。
また、第1弾『幼馴染の恋人』はヒロインが幼馴染ではなく、タイトルの付け間違いをも疑われ、第2弾『鏡の中のアイドル』では、ライブ中のヒロインをファンの前でリズムに乗って喘がせるなどはっちゃけすぎであり、なぜそこまで逸脱したがるのかも理解できない。
それでも、授業中に犯されつつ教科書を音読させられたヒロインの台詞、
「ヘレニズムは……あ、ああ、ローマ文化の発展の中に、ぐぅ、中に……ああ、このまま中に……っ!!」
は戦場に笑いの爪痕を残した。

締め切り直前には、DESSRT Softの処女作『彼女は友達ですか?恋人ですか?それともトメフレですか?』が滑り込みを果たす。
会話文に文字通り草を生やすアクの強い筆致は人を選ぶものの、一本道で描かれるハーレムの形成過程は魅力的と評して差し支えない。
問題は幕の下ろし方であり、終わり悪けりゃすべて悪しを体現している。
ハーレム完成後は、回想枠ノルマを最速で達成するかの如きHシーンラッシュが開幕。
タイトルの問いかけに対する答えは「いいえ、性奴隷BOTです」であり、ヒロインたちは豊かだった個性をきれいさっぱり喪失する。
ついにはヒロイン全員が孕み、主人公の後悔を臭わせて、救いのないまま物語は終了してしまう。
事前に感情移入させて苦い結末の破壊力を増す、巧妙な落とし方であった。

残るは、本年最初の話題作にして最後の追跡対象。
Digital Cuteがひり出したリアルタイムカードバトル+マップ探索型ADV、『崩壊天使アストレイア』が、発生からおよそ1年を経てようやく戦場に降臨した。
最大の特徴は、パッチによる変形を繰り返して攻略の的を絞らせない防御戦術である。
初期状態では、強制停止や会話無限ループが頻発してクリアできない。
有料デバッガーたちの活躍もあってバグの壁は1週間足らずで打ち崩されるも、次は調整不足と戦う有料βテストが待っていた。
あまりに難解なフラグ、同じカードが重ならずに大行列をなすデッキ構築UI、単調なのに時間がかかるカードバトル……。
噴出する多数のストレス源を前に、有料テスターたちは一致協力。
劣悪なバランスを逆手に取り、初手で必勝コンボが確定する天和デッキを次々生み出すなどして抗戦を試みる。
メーカーはこれにレスポンスして賽の河原システムを発動。
すべての個別セーブデータを追放、天和デッキは撲滅、ついでに回想モードも一時使用不能にし、引き換えに本筋フラグのヒント追加などを得て、ようやく本作は安定版へと到達する。
だが、それは良ゲーへの昇華を意味しなかった。
内包するクソの根本原理は多少の調整では揺るがず、バグにも頼らないストロングスタイルへと進化したのである。
基本システムはごく標準的で、マップ上のアイコンを選び、イベントや戦闘を起こしてストーリーを進めていくのだが、そこにストレスの素が惜しみなく加えられている。
ひとつめはリアルタイムカードバトルそのもの。
リアルタイム制以外はよくあるTCGの類型だが、とにかく浅い。
敵が弱小無個性すぎて、初期デッキを少々軽量化するだけで無双状態になる。
例外は、特定カードで倒すとフラグが立つ戦闘とラスボス程度しか存在しない。
それも前者は縛りが厳しい運ゲー、後者は相手の初期行動力=戦力展開速度がこちらの倍以上ある超ハンデ戦であり、手応えよりも理不尽さが先に立つ。
ふたつめは「イベントドロー」で、端的に言えば「イベント発生の成否判定」である。
アイコン選択時から幕間まで、強制を除くあらゆる会話イベントの前に毎回毎回毎回シャッフルゲームが入り、外すとそのイベントは発生せず先送り、もしくは時間切れ消滅になってしまう。
重要フラグイベントも例外ではなく、見逃しを避けるには分刻みで動体視力テストに挑み続けねばならない。
さらに高速化や当たりの減少が重なると、実質1/6や1/8の抽選となり、当たるまでセーブ&ロードの繰り返しを強いられる不毛なシステムである。
最後はフラグ収集。
フラグは引き継ぎ可能なカードとして手に入り、章単位で可能な周回を駆使して集めるのだが、ド○クエ7の石版集めの如き煩わしさである。
イベントアイコンは、同じ場所での連続発生に制限があったり、後回しにすると突然消えたり、特殊な条件を満たさないと出現しなかったりで取りこぼしやすい。
特に各ヒロインのフラグイベント発生条件は複雑で、「簡単な敵殲滅ミッションを成功と失敗の間で維持し続け、ボスを早く倒せと急かすシステム警告も無視してさらに時間を経過させる」や「昼の幕間のイベントドローだけを連続で外し続ける」に至っては悪意すら感じる。
初期に進行不能バグが多発していただけに、フラグが見つからないのもバグではないかと疑われたのも無理はない。
しょせん飛び道具と軽くいなしたバグには、不信感という遅効性の毒が塗られていたのである。
毒に蝕まれながらフラグを求め彷徨う一歩一歩に、戦闘とイベントドローがことごとくついて回る。
プレイヤーたちは徒労の無限地獄に囚われ、次々と息絶えていった。
事ここに至り、メーカーは戦闘スキップ+イベントドローフルオープン機能を実装。
最大のセールスポイントとして注力したはずのカード要素、その大半を障害とみなして放逐する哀しい決断を下したのである。
それでもフラグ隠蔽体質は解消されておらず、残った部分にも難点が多い。
事前情報で前面に押し出していた触手陵辱はHシーン全体のわずか3割、ヒロインによってはゼロと非常に少ない。
残りの大半は野外露出などのアブノーマル系で、狙うところがズレている。
メインストーリーとCGの質は一定の評価を得たものの、ボリューム不足。
ヒロイン4人のうち個別ルートがあるのは2人だけで、残る2人は幕間Hとエピローグしかない。
CG総数は値段相応をはるかに下回る45枚。
BGMに至ってはフリー素材である。
力の配分を盛大に間違えて作品自体が崩壊し、絡みつく触手の如き苦行と化してプレイヤーを陵辱したのであった。

以上で全エントリー作品18本の紹介を終え、次点及び大賞の発表に移る。

次点は、
『ギルドマスター』
『白恋サクラ*グラム』
『カスタムcute ~俺と彼女の育成バトル!~』
『勇者と踊れ!~ぼっちの俺が異世界召喚されて美少女たちと学園最強パーティを組みました~』

そして大賞は、
『崩壊天使アストレイア』
とする。

2019年の傾向は、告知詐欺・粗末・未完成・ゲーム性障害の4種類に大別される。
エントリー数を前年比で約3割伸ばす原動力となった最大勢力は、告知詐欺すなわち事前情報と中身の不一致であった。
例えば、タピオカティーを称するドリンクを飲んだらカレー味だったとしよう。
この場合、問題の本質はタピりたい欲求の不満であり、カレーとして美味いかどうかではない。
同じく、特に抜き目的でエロゲーを求めるとき、予定調和は大前提。
娯楽としての欲はストライクゾーンが極めて狭く、そこを外す意外性は害悪でしかないのである。
第二勢力は、様々な意味で質が低い粗末さ。
エロにせよシナリオにせよ、作品の核そのものが稚拙、または腐った添え物が足を引っ張っているタイプで、代表的なクソ要素のひとつである。
エロさえ良ければすべて良しで通すにしても、最低限のお膳立ては欠かせない。
腹を満たせれば生肉まるかじりでも構わないのは獣であって、調理や盛り付けなくして紳士の心は満たせまい。
ただ、こうした主流の難点は、ある程度は身につけていて当然の嗜みともいえる。
ならば、凡百のクソとは一線を画す低みに至るための鍵とは何か。
答えの一端を身を持って示したものにしか、大賞という深淵へのラストダイブは成し得ない。
今回、有象無象のガヤから脱却する手段となったのは、クソ要素の掘り下げと掛け合わせによる確かな地力と個性の創出であった。
『ギルドマスター』は、多種多様な欠落の積み重ねにバグをトッピングし、空疎でありながらボリューム感を獲得して。
『白恋サクラ*グラム』は、事前に開示した要素が収録されていない告知詐欺にして未完成品であるだけでなく、それを誤魔化す新たな手法を搭載して。
『カスタムcute』は、隙のないお粗末さと、古臭く障害でしかないゲーム性を兼ね備えて。
『勇者と踊れ!』は、異世界召喚RPGを銘打った上で醍醐味をかなぐり捨て、代わりに相性最悪のパズル要素を加えて。
それぞれ深淵の怪異へと成り果てた。
しかし、それらをさらに凌駕してのけたのが、本年のトレンドをあまねく身に宿した『崩壊天使アストレイア』であった。
事前情報に反して陵辱メインではなく、バグまみれでクリアできない状態で出荷し、カードゲームは単調かつ冗長で、フラグ回収は無駄に難解。
しかも相乗効果が高い、死の四重奏である。
単発なら小さな徒労を大量に並べた上で、フラグ探しの周回に巻き込んでループさせ、バグがもたらす不信感も絡め、絶え間なきストレス尽くしと成す。
それを耐え抜いたところで、得られる報酬はコレジャナイ感に満ちている。
人間の精神を効率良く削るその挙動は、皮肉にも練り上げられたコンボデッキの理想的な勝ちパターンと重なるのである。
悲劇ではあるが、しかし手を抜かず良作を生み出そうとした結果にも違いない。
そして、その姿勢をこそ我々は期待し歓迎する。
粗製乱造から生じる無価値性を追求した先にあるのは衰微、そして消滅なのだから。
『崩壊天使アストレイア』は、トレンドを網羅した象徴性、それらのシナジーが織りなすハラスメントコンボの芸術性をともに備え、在り様はKOTYeの目指す方向性にも沿っていた。
その異形なる偉業を讃え、2019年の大賞に叙する。

かくして、KOTYe開闢以来12番目の王者は選定された。
しかし「一番のクソゲー」の定義には、今なお曖昧な部分が残されたままである。
それも当然で、良し悪しも幸不幸も、自分の心が定めるもの。
万人に共通する価値観など存在しないと承知の上で、客観を意識しつつ述べた主観のうち、より多くの共感を集めたものが残ったに過ぎない。
選評が届いたからといって、対象がクソゲーとの太鼓判を押されるわけでもないのである。
我々はクソゲー認定員ではないし、KOTYeはクソゲー審査機関ではない。
エロゲーにまつわる負の感情を共有して薄め、前向きに笑い飛ばしてカタルシスを得んとする同志の集いである。
この世に生まれたことがクソゲーの罪と誰かが言うなら、最後まで遊び抜き、ありのままの生を全うする贖罪をともに背負おう。
そして、書き残そう。
己が存在のすべてを振り絞り、命を叫び尽くす瞬間に見る走馬灯を。
爆炎に焼かれながら掴み取った真理の切れ端を。
終わりゆく世界の存在証明を。
すなわち、選評を。
クソゲーを愛するとは、そういうことだ。
愛とは求めるでも与えるでもなく、ともに地獄へ落ちることさえ厭わぬ覚悟を指すのだから。

結びに、世界一有名な犬キャラクターの名言からカードゲームにちなんだものを拝借し、日々の戦いを支えてくれる安いプライドを託して筆を擱く。

「配られたカードで勝負するしかないのさ……それがどんなクソゲーであっても」
最終更新:2021年06月28日 01:26