本編B-12

その日の放課後、七人は何となく体育館に集まってダンス部の練習を眺めていた。

「ストーップ。もう一回そこやってみようか。」
既に引退した3年の和田や福田が優しく後輩たちを指導している。
現役部員たちは先輩の話を一言も聞き漏らさぬように真剣に聞き耳を立てる。
部長の譜久村、エースの鞘師、石田、竹内、高木。教室にいる時とは違う彼女たちの表情がとても輝いて見えた。

そんな彼女たちを羨ましげに観察しながらも、頭では皆同じことを考えている。そう全員が感じていた。
しかし誰一人打開策を見つけることが出来ず黙り込んだままだった。

その姿が傍目からは異様にうつったのであろう。ダンス部コーチの中島が声をかけてきた。
「キュフフ。どうしたのそんなところで七人も揃って暗い顔しちゃって。何かあった?」
中島に言ってどうなるわけでもない、なんてことをちらりと考えたりもしたが、誰かに話したかった。
これまでの出来事を七人が同時に堰を切ったように話し始める。
「およよ。もはやいっぺんに話されてもわからないわよ。植村ちゃんが眠いのはわかったけど。落ち着いて話しましょ。ね、ね。」
一番冷静であろう飯窪が話をまとめた。
興味深げに話を聞いていた中島、ひとしきり話が終わったことを察すると暫く唸った後こんなことを言い出した。
「ハロプロヘッポコ部やりたいって言うあなた達の気持ちはわかったわ。私個人としてはやってほしいとも思う。
でも道重先生どころか校長先生にまで反対されたら厳しいわね。あと可能性があるとしたら、そうね…親、かしらね。」
「親?」
意味がよくわからずに生田が聞き返す。
「そう、親。PTAの力よ。校長先生だってPTAから言われたら簡単にノーとは言えないわ。何とかそこを説得できれば…ね。
そう言えば来週PTA総会があるわね。…なーんて。そんなことできたら苦労しないわよね。」
中島にしてみれば軽い気持ちで言ったのであろう。
しかし彼女たちにはそれが一筋の光明にうつった。
「ありがとうございます!中島先生!」
先程までの沈黙が嘘だったかように明るい表情へと一転させ、七人は体育館を飛び出していった。
「いや、ちょっと待ってあななたち!駄目だからね、そんなことしちゃ駄目だからねー!」
中島が叫ぶも時既に遅し。



同じ頃、音楽室では道重と清水が話し込んでいた。
「聞きましたよ道重さん、生田たちの話。校長室に乗り込むなんてやりますねえ。」
心から感心したような表情を清水がみせる。
「やりますねえじゃないわよ。私まで怒られちゃったわ。まぁ元はといえば私の責任だけど…。」
「話したんですか?ハロプロヘッポコ部の話。」
「うん、この前キャプテンとここで話してたじゃない?あれを聞かれてたみたいで。
どうしても教えろって言うからちょっとだけ話してあげたの。そうしたらもう…。」
ため息をつく道重。対照的にコロコロと笑う清水。
「でも今時のうちの生徒がそんなことをするなんて、素敵じゃないですか。」
「まあそうなんだけどね。でも校長先生からも釘を差されちゃって。」
「校長先生…中澤さんですか。中澤さんだって本心では私たちと同じでしょう?」
「ええ、そう言ってたわ。けど今は中澤さんじゃない。校長先生。昔とは立場が違うわ。」
「そうですよね。あーあー。どうにかしてあげられないですかねえ。」
天を仰ぐ清水をみながらふと嗣永の話を思い出す。
そうね、あなたのためにも。
心のなかで呟いた。



生田の部屋。
皆が囲むテーブルにはひとつのノート。表紙にはこう書いてある。
「PTA総会プレゼン大作戦」
先日の中島の一言により皆の心は決まったようだ。
PTA総会でハロプロヘッポコ部の素晴らしさをアピールする。そして親たちに部の設立を認めてもらう。
そうすれば学校側も認めざるをえないだろう。そういった算段らしい。
実際のところ総会内の時間を正式にもらってプレゼンテーションをするという訳にはいかない。
ゲリラ的に総会に侵入、マイクを奪い一定の時間話し続ける。
ここ数日様々な方法を話し合ったが、何度考えても不可能なミッションに思えた。
「いやー、無理っすよー。まずどうやって中に入るんですかー。総会をやってる間は鍵かけられてるんでしょ、中から。」
早くも弱音を吐く工藤。
事前に情報収集を行ってきた飯窪が答える。
「そうね、確かに情報によるとすべての扉には鍵がかけられるみたいね。不審者対策で。ただ一箇所を除いてね。」
「一箇所?」
生田が尋ねる。
「はい。校舎から続く入口だけは常時開かれているようです。ただそこには総会が終わるまで警備員さんと先生が二人立っているようです。」
「大人が三人…簡単には通してくれへんやろなあ…。」
ため息混じりに中西が呟く。
「強行突破!」
顔に似合わず勝田が大胆に言い放つ。
「そんなことしたらそこで騒ぎになって終わりですよね。」
冷静な宮崎。
「どうすんだよー、もー、入れなきゃそもそも何も出来ないじゃん!」
また工藤が騒ぎ出した。
いつもこの繰り返しで前に進まない。実はノートの中身も白紙のままだった。
時間も時間だし今日も終わろうか、と生田が言おうとしたその時、寝ていた植村が突然むっくりと起きだした。
「入れないんなら入っちゃえばええねん。」
「?」「?」「?」「?」「?」「?」
綺麗に?マークが6つ並んだ。
「だから入っちゃえばええねんて。」
「うん、あーりー、もう帰ろうか。」
宮崎が苦笑いを浮かべながら促す。
「寝ぼけてんちゃうで!入れないなら入っちゃえばええねんて!」
寝ぼけておかしなことを言ってるのかと皆が思ったが、何かに引っかかった様子の生田が聞き返す。
「どういうことやろ?ちゃんと説明してくれへん?」
「せやから!中に!入っちゃえばええねんて!最初から!」
「!」「!」「!」「!」「!」「!」
今度は!マークが綺麗に6つ並んだ。
どうしてそんな簡単な事に誰も気づかなかったんだろう。
その時入れなくとも事前に中にいればいいのだ。
「あーりー!エライ!」
みんなからもみくちゃにされてちょっと嬉しそうな植村。
まだまだこの作戦の課題は山積しているが、今日のところはどうやら一歩前に進んだようだ。




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最終更新:2014年07月17日 00:03