本編B-7

その晩、道重は考えていた。
嗣永の話、清水の事、そしてハロプロヘッポコ部の事。

「何かにすがりたいんでしょうね、今、キャプテン。
かなりのプレッシャーでしょうからねえ。初めての学校で、しかも母校であんな期待されちゃって。」
「それはそうかもしれないわね。」
「でね、ももたちにもよく言ってるんですよ。ハロプロヘッポコ部のお陰で勝てたって。もう何回聞いたかわかりません。」
「そんなこと…。あれは彼女たちの努力の結果でしょ。」
「そりゃそうですよ、当然です。見てきましたから。キャプテンの努力は。
でもねみっしげさん、確かにももたちも見てて思いましたもん。相乗効果っていうんですかね。
みっしげさん達が頑張った。ダンス部と喧嘩みたいなことしながらね。それにつられてダンス部も頑張った。
正直言うと羨ましかったですもん。なんて言うんですかね、良いライバル関係みたいな感じ。嫉妬しちゃいました。」
「確かに。」
「ほんとみやはそういうのには反応するねえ。」
「うるさい。続けて。」
「はいはい。まあ、そんな関係が今の子たちにも必要だと思ってるんでしょうねえ、きっと。
いや、今の子達にっていうかキャプテン自身がか、求めてるのは。うん、うまく言えないけど多分そんな感じです。」


ダンス部顧問、清水佐紀。
彼女はダンス部再興のために大学卒業後すぐに葉廊高校に呼び寄せられた。
過去、全国制覇を幾度も重ねた葉廊高校ダンス部であったが、ここ最近は低迷を続けている。
彼女自身が優勝を成し遂げた際のキャプテンであった事。
さらにその後大学時代も、名だたる大会で優秀な成績を収め続けたことが清水が呼ばれた理由である。
だが、指導経験のない清水に白羽の矢がたてられたのには、もうひとつ理由がある。
以前は圧倒的な力で他校を寄せ付けずに栄誉を勝ち取ってきた。
しかし清水の代になると事情は変わった。
幾つかの私立高が宣伝効果を期待して、ダンス部に力を入れ始めたのである。
伝統校とはいえ葉廊高校は一介の公立高。
日本全国から優秀な人材を集めだした私立高に勝てるわけがない。
大方の関係者がそう予想した。
現に清水の代は新人戦で決勝に進むことなく敗退している。
だがそれから数か月後のコンテストで彼女達は予想を覆して優勝をなし遂げた。
その時のキャプテンとしての手腕を現葉廊高校の首脳陣が見込んだのだ。

それから今年で3年目となる。
なかなか結果を出せない清水が落ち込むのもわからなくはない。
嗣永曰く
「キャプテンは責任感が人一倍強いから、全部自分で抱えちゃうんですよ。
あの時とはまわりの事情だってさらに大きく変わってるから、キャプテンのせいだけじゃないのにね。
でも許せないんでしょうね。出来ない自分が。」

当時道重は清水の姿を近くでみていた。
ダンス部は2年のコンテスト後に引退する。つまり清水達が優勝した時、道重は3年生。
そして自身はハロプロヘッポコ部に在籍していた。

ハロプロヘッポコ部、正式名称「葉廊高校落ちこぼれ救済プロジェクト」
これを道重が知り得たのは高校を卒業してしばらくしてからである。
正式名称を生徒に知られるのはあまり芳しくないと考えた当時の寺田校長によって愛称が決められた。
それがハロプロヘッポコ部。
あまりセンスが良いとは思えないが、何となく可愛らしいと高校時代は疑問を持つことなく受け入れていた。
組織された目的はただ一つ。
落ちこぼれ生徒に何かしらの目的を与え、高校生活を、そして今後の人生をより良きものにしてほしい。
そういった教師たちの願いからこの部は発足された。
活動内容・時間などは自由。ただし報告は怠らないこと。面倒くさい制約などはほとんど存在しない。
だが他の部活と大きく違うことが一点、教師より指名されたものは絶対に入部しなくてはいけない。
そしてやめることは許されない。「もし部活をやめるなら同時に退学」と、大きなペナルティがかせられていた。
後々意味を知ってからはなるほどと思ったが、当時このルールだけはよくわからなかった。

道重は一年生の後半に先生から指名を受け入部した。入部当初は何をしていいのかさっぱりわからなかったが、
何の目的もなく過ごしてきた中学時代とは違って、先輩たちにくっついて活動するのが段々楽しくなってきた。
そして3年生が引退すると道重は部長となった。
先輩たちはそれぞれ様々なことに挑戦した。
成功も、もちろん失敗もあったが、自分たちに努力する事、ひたむきに何かに向かうことの素晴らしさを教えてくれた。
今度は自分たちがそれを見せる番だ。
何をしようか。何に挑戦しようか。
同じ学年の部員たちと大いに話し合った。
出した結論は「アイドルになる。」
そこからはハロプロヘッポコ部、ダンス部、そして学校中、街中を巻き込んだ物語が繰り広げられたのだが…。


「みっしげさん、キャプテンのために、もちろんダンス部の子供達のためにも、もういちどハロプロヘッポコ部作れませんか?」
嗣永は別れ際にこんなことを言ってきた。いつものおちゃらけた雰囲気ではなく、親友を想う真剣な眼差しで。


「でもね…。」


そもそも今の葉廊高校にハロプロヘッポコ部は必要ない。
なぜなら現校長の中澤によって葉廊高校は進学校へと変貌を遂げていた。
つまり今、葉廊高校に落ちこぼれはいない。
必然的にハロプロヘッポコ部は存在価値を失った。
廃部になったのはそんな経緯からだ。


「無理なのよ…。」




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最終更新:2014年07月12日 02:06