小料理屋「石川」。女将の梨華がいつもの如く適当な客あしらいをするなか、道重と嗣永がカウンターでここ数日間のことを話していた。「へ~、そんな生徒達がいるんですか~。なんだかいいっすね。もうあれだ、つくったほうがいっすよハロプロヘッポコ部。」まるで小料理屋に似つかわしくない桃色のピーチサワーを両手に包みながら嗣永が言う。「そう言うけどね、そんな簡単じゃないの世の中。」可愛さを競うかのように、いちごミルクをコロコロ回しながら道重が答える。「知ってますよ〜ももだってそれくらい〜。でもやりたいっていう生徒がいて、やらせたいって先生がいる。しかもキャプテンだって大喜び。やらない理由なんてこれっぽっちもないじゃないですか。」「それはそうなんだけどね。校長先生にも釘刺されちゃったし。他の先生方だってPTAだって煩いのよ、今は進学校だしね。」「あ〜なるほど。めんどくさいやつですね。いしかわさ〜ん、ピーチサワーおかわりくださ〜い!」今まで隣の客にこれでもかと暴言をはいていた石川がくるりとこちらに向き直した。涙目の客はようやく開放されて胸をなでおろしている。「何なのよあななたち!いつもいつもメニューにないものばっかり頼んで!自分で買って来なさいよ、もう!」「え〜、だって石川さん優しいし〜。それにほら、もも大概の人には可愛さで負けないですけど、石川さんには負けちゃうから〜。そんな可愛い人にピーチサワー作ってもらえるなんて幸せなんですぅ。」「あらそう?そうよね。ちょっと待ってなさい今作るから。」どうやら嗣永のほうが一枚上手のようだ。「それよりあなたたち、何?ハロプロヘッポコ部またやるの?」「そうなればいいんですけどね。なかなか難しいって話です。」一連のやりとりに苦笑いを浮かべながら道重がかえす。「何が難しいの?何なら私も協力するから言ってご覧なさい。」「いや、石川さんが絡むとあれなんで。いいっすいいっす。」「何よあれって!ももこちゃん、あなたいつからそんなキャラになったの!昔はあんなに素直で可愛かったのに…。」「キャラじゃないですから!生まれ持った良さですから!」「もう、そんなことばっかり言ってるとピーチサワー作ってあげないんだから!」「石川さん、今日も可愛いっすね。やっぱり石川さんが世界一です。いや、ホント。」「あら?やっぱりそう思う?」嗣永と漫才を繰り広げるこの人、石川梨華。彼女もまたハロプロヘッポコ部OGにして数々の伝説を持つ人物なのだが、長くなるので割愛。「しかしあれっすよね〜。そんな生徒達なら、まだなんかやらかしそうですよね。」楽しげに含み笑いをする嗣永。「やめてよ。…でも私もそんな気がしてるの。彼女たち何か考えてそうで。」「いいじゃないっすか。いや〜楽しくなりそうですねぇ、みっしげさん!」「楽しくないわよ、もう!怒られるのはこっちなんだから!」「何が楽しいのー?」「あ、石川さんなんでもないです。何も楽しいことなんてないです。」「うそ!今言ってたじゃない!」「空耳じゃないですか〜?もも、そんなこと言ってませ〜ん。」「…!」「…!」喧騒とともに夜が更けてゆく。
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