照本音隠

ステータス(評価点数:Lv.300)

  • キャラクター名:照本音隠
  • よみ:てるもと ねおん
  • 性別:女性
  • 体型:筋肉質
  • 学年:高等部1年
  • 部活:茶道部と古武術部を兼部
  • 委員:無所属
  • 武器:“ビフレスト”叫襲用架線装置
  • 初期ステータス
    • 攻撃力:11 防御力:0 体力:3 精神:3 FS(呼吸法):8
    • 移動力:2
  • アビリティ
    • 『無視』

特殊能力『ヒートアップビートダウン』(発動率:100%)

効果1:無意味なバステ“コール”付与+強制移動(敵陣方向)1マス
範囲+対象1:自分
時間1:一瞬
非消費制約1:通常攻撃判定が必要(味方)

効果2:無意味なバステ“リコール”付与
範囲+対象2:隣接1マス敵一体
時間2:一瞬
非消費制約2:通常攻撃判定が必要(敵)

効果3:遠距離通常攻撃
範囲+対象3:隣接1マス敵一体
時間3:一瞬

消費制約:自分死亡

能力原理
糸電話の片割れを自分の胸に当て、もう片割れを自分の口に当てる。
特殊な呼吸法で、特定の発声を伝えることで、心臓のポンプ機能を暴走状態にさせ、短期的に強靭な身体速度を励起する。
そのまま一気に一閃・架線・奮戦する、決死の必死技。
一度乱した心臓は、限界を迎え張り裂ける。

キャラクター説明

長身ショートカットの少女。飾り気のない格好だが、片耳に銀色円筒状のイヤーカフをしている。
すらりと伸びた健脚と、程よく筋肉のついた長い腕、切れ長で精悍な顔立ちが、校内の女生徒を魅了してやまず、お嫁に行きたい先ランキングで常に上位をキープする。
本人は社交は苦手ぎみで、専ら茶道部での静謐に落ち着いた環境を好む。

戦いにおいては、戦闘用糸電話“ビフレスト”の使い手である。
基本的なムーヴメントは鎖鎌術のそれに準じるが、最大のメリットは、音を積極的に戦闘要素として取り入れられることである。
地面や相手の発する音を集音することによる索敵・分析や、大声の共振伝播による撹乱攻撃など、本来の鎖鎌にはない、柔軟で多彩な戦術の広がりを見せる。

エピソード

最近のあたし――照本音隠(てるもと ねおん)には、ひとつの悩みがあった。

「ねえ、照本さん!考えてくれた?返事!」

あたしの机、その前の席。振り向いて話しかけてくる、クラスメイト。

前野静那。
自分の所属する古武術部に、入って入ってとしつこく誘ってくる。
小さくて元気で、どこか抜けてそうな静那が、古武術部というのは少し意外だけど。

「……何度も言ってるでしょ。興味ないし、もう」

――もう茶道部に入ってるから。

いつもの断り文句を遮って、今日の静那はまくし立ててくる。

「うん、何度も聞いたよ。でも私、照本さんのこと諦めないよ!
照本さんが、どうしても必要なの!別に乗り換えてほしいとかじゃなくて、二番手でいいから!お願い!」

周りはヒソヒソと囁き出している。
ほら、目立ってるじゃん。

「……一回だけだよ」
あまりにしつこくて、思わず答えてしまう。

「あと、交換条件。静那もウチ、来てよ」
交換条件を出したのは、あたしの嫌がらせだ。
正座が大の苦手だって、前に言っているのを聞いたから。これで観念しなさい、静那。

「本当!!」静那が身を乗り出してくる。

あまりに乗り出しすぎて、椅子がずれて。静那はあたしの机に顔面を打ち付けていた。
「ぺぶっ」間抜けな声。

顔をすぐに起こす。「本当!?」

「嬉しい?!ありがとう照本さん、大好き!不束者ですけどよろしくね!
あー、照本さんのとこもすっごい楽しみだよ……」
「静那」
「あ、今日大丈夫?手ぶらで大丈夫だよ、私の替えあるから――」
「……静那。」

あたしは手遅れと分かっているけど、静那の後ろを指差した。
仁王立ちする、鬼島先生。そりゃそうだ。授業中だもん。

丸めた教科書で、頭を殴られた。ペコ、と弱そうな音だけど、音に似合わずめっちゃ痛い。
鬼島、魔人なんじゃないの!?

直後にもう一度、ペコ。
音が鳴り、「ぴぐえっ」と変な呻き声が上がった。

「授業中に……盛るな!メス猿ども!」
首根っこを掴まれて、静那と仲良く廊下に放り出された。
馬鹿力か、あのゴリラ教師……。

「えへへ、仲良く怒られちゃったね」しりもちをついた静那が言う。

えへへじゃない。なんでへらへらしてるの、ばか。
あたしは今日の放課後が、すっごく不安になってきた。



照本音隠プロローグ『ハート・ビート・デザイア』



「本当にやるの?」あたしは念押しする。
道着姿は、思ったよりも動きやすい。これなら、思い切りやれそうだ。

「もちろんだよ。本気でやろう、照本さん!」

静那はあたしの前で、構えをとっている。
様になってはいるけど、道着はサイズが合ってないのか、全体的にぶかぶかだ。

……こうなっちゃ仕方ない。あたしはゴム製の模造剣を構えた。
適当に当てて、さっさと降参させてしまおう。

「始め!」

合図が響いたその時、静那の姿は消えていた。


一拍遅れて、お腹に激しい衝撃がかかる。

静那の小柄な身体が、あたしの懐に潜り込んでいて。
静那の小さな掌が、あたしのお腹に突きつけられてた。

そのまま立っていられなくて。あたしは仰向けに倒された。
静那もそのまま突っ込んできて、あたしの上に馬乗りに倒れこんでくる。
打たれたお腹に、静那の体重がかかる。死にそう……!
か。

「あ、ごめんね照本さん!止まれなくて……大丈夫?」

――大丈夫じゃないから、早く下りて……。
ちっちゃい体のくせして、静那は結構重い。肉付きはいいからかな。

見下ろすように、静那は顔を覗きこんでくる。やめて。辛い。
「ごめんね、つい本気で……大丈夫?」すっごく屈辱的。
静那なんかが相手になるわけがない、と調子に乗った結果がこのザマだ。

あたしはとってもかっこ悪い。でも、静那は。まっすぐに向かってきた静那は。

「……かっこいいな」思わず呟いていた。静那が変な顔をした。
――あ、しまった。声に出てた? いきなり失礼なこと言って、気分を悪くさせたかも。

静那はずっと、変ににやにやしている。そんなに怒ってるの?不気味だ。

「照本さん、どうだった、古武術部?ね、また来てくれる?ねえ?」
「分かった、分かったから……だから」

早くどいて……。静那、重いんだってば。




教室。
うちのクラスで一番賑やかなのは、前野静那だ。
だから今日みたいに、彼女が保健室に居っぱなしの日は、教室の中はちょっと静か。

「ねえ」
あたしは、静那とよくつるんでる友人グループに話しかける。
そういえば、静那はなんでたまに保健室行くんだろう。

「静那って、どうして保健室通いなの」

「あ、あ、はい! 照本さん……!」
上擦った声で応えてくる。
怖がられてるのか知らないけど、クラスメイトはいつもこんな対応だ。あたしをなんだと思っているのか。

「えっと、心臓に持病がある、みたいなことを――」「えー、前野って運動部でしょ?仮病じゃないの?」
「あー、かも。絶対性格悪いもんねー」「あの天然アピールとか?」
「そう、こないだ前野と買い物行った時さ、ナンパされたんだけど。あいつばっかチヤホヤされてさー、やっぱ男に媚びてるんだよあれ」
「それはあんたががっつき過ぎで引かれてるだけじゃねーの」

「あ、照本さんも気をつけてねー。最近前野、照本さんにウザ絡みしてさー。何様かって感じ」


――何それ、友達じゃないの?
居ないとこで静那、こんな言われ方するんだ。

「あ、そうだあいつさー。かばんに変なもん入れてたんだよねー」「何?金塊?」
「それはあんたでしょ」「糸電話入れてんの。小学生でも今日び入れねえーわそんなもん」
「何それ、ウケる」「今日びも今日び言わなくねー?古くね?」

「……ありがと。静那がどういう奴かも分かった」

――あと、あんたたちがどういう奴かも。



保健室。
くぐもった声が、カーテンの奥から聞こえてくる。
「もしもし、聞こえますか私」
「もしもし、聞こえますよ私。どうぞ」
「私、今日も迷惑かけちゃった。もっと、元気にならないと……
せめて、みんなの前。照本さんの前では」

「もしもし。頑張ろう、私。病は気からだよ。楽しくしてれば、きっと身体もよくなるからね」

カーテンの隙間から、チラリと覗き込む。
ベッドの上で身を起こした静那。彼女が持っているのは糸電話だ。
自分の耳にコップを当てて、もう片方を自分の耳元に当てて。静那は一人で問答してた。

「でも、そんなの無理だよ、私」静那はこぼしだす。
「そう思って頑張っても、悪くなるばかりだったじゃん。どんどん駄目になってって、死んじゃうんだよ」

――自分を励ますどころか、逆効果になってるじゃん。
静那を悪く言うあいつらと、それじゃ、同じようなものじゃない。

バッカじゃないのって思って、あたしはカーテンをおもいっきり開けた。
驚いたような顔の静那をすっかり無視して、あたしは糸電話をひったくった。
片方を口に当てて、もう片方は静那の耳に押し付けて握らせた。

「もしもし、聞こえますか、静那」

あ、これ、返事を待つには、あたしの側が耳に当てて待たなきゃダメなのか。
まだるっこしいなと思ったから、そのまま続けた。

「静那、あんたがあんたを思ってやらなきゃ、誰もあんたを思ってくれないよ。
あんたの元気、全部ウソなの?違うでしょ。静那から出てきたものでしょ。」

――だって、そうじゃなかったら。

「そうじゃなかったら、あんたの元気に当てられたあたし、バカみたいじゃん」

一方的に言い過ぎたかな。
ちょっと後悔していると、糸をトントンと引かれる。静那はコップを口元に当てていた。
選手交代しろってこと?耳に持っていく。

「照本さん。ありがとう」静那の声が響く。

「私を心配してくれて。私が私を思えなくても、分かったよ。
照本さんに、思えてもらえたってこと。
あ、違う!違うよ!これからも私が私を思わないって意味じゃないよ!そうじゃないの!えっと……」

「……静那」あたしは糸電話を外して、コップに大声でまくし立てている静那の姿を見た。

「糸電話の意味、全然ないよ。全部直接、聞こえてるっての」

糸電話を投げ返した。静那もこっちに投げて寄越してきて。
コップ同士が、空中ですぽっと、上手いこと重なって、床に転がって。

なんだかおかしくなっちゃって、あたしは笑った。
静那も笑ってた。あたしよりも笑ってた。

あたしたちはしばらく、そうやって笑いあった。




茶道部。

あたしは、ここの雰囲気が好きだ。静かで、厳かで。
かすかに布の擦れる音と、外のししおどしが、定期的に立てる音だけが、空間を引き締める感覚があって。

着物を着ると、外国人のコスプレみたいって言われるのだけは釈然としないけど。
それ以外は好きだ。気分がとても落ち着く。

息を静かに、ゆっくり。吸って。止めて。吐く。
これが、禅って言うのかな。あまり詳しくないけれど。

静謐な空間で、あたしはそうやって繰り返し、呼吸をする。

「う、うう~~~。ぎぎぎ……無理、無理……!」

――訂正。今日はすこしばかりやかましい。
着物姿の静那が、正座している――あ、正座してない。限界で倒れこんでいる。

周りの部員は、眉をひそめて怒りを抑えているみたいだけど、
あたしはなんだかそれもおかしくて笑っちゃう。

周りは驚いた顔で、あたしのことを見てくる。

失礼しちゃう。あたしを無表情の、茶道マシーンとでも思ってたの?
ま、でも考えてみると、部員たちの前で笑ったことはないのかも。

「あ、照本さん、笑い方かわいい!」静那がいきなり、変なことを言ってくる。
なんかすっごい恥ずかしい。今、多分めちゃくちゃかっこ悪い。挙動不審かも。

「あ、待って!待って下さい!もう一回だけチャンス……
痛い痛たたた!足痺れてるから優しく、先生……!」

結局静那は、つまみ出されてしまってた。当然といえば当然だけど、あの子らしい。




あたしが部活を終えても、あの子は外で待っていた。
「待ってくれなくても良かったのに」
「ううん」静那は首を振る。「正座の練習したら、また立てなくて」

この子、バカなのかな。

「それだけのために?」
「ううん、照本さんを待ってたのもあるし……
あ、ごめん。一日保たなくて、全然ダメで……。紹介してくれた照本さんに、恥かかせちゃった」
「気にしなくていいよ」
「でも、私がちゃんと茶道できないと、照本さん、古武術部に来てくれないし……」

あたしは首を横に振る。
「関係ないよ。古武術部は楽しかったから、また行きたいし。あ。勿論、迷惑じゃなければだけど……」

「大丈夫だよ!みんな照本さんに、入ってほしがってたよ!
部長だって、いい脚だから、個人的に濃密レッスンしたいって言ってたし!」

――それは危険そうなので、御免被りたい。


その時、不意に静那は顔を上げた。
「……そうだ。言っておかなきゃね。私の体のこと」

静那は胸にコップを当て、もう片方を私の耳に被せてきた。

トクン。トクン。トクン。

心臓の音が、響いてくる。

それはとても克明で、静那の中の生々しいところに触れているみたいで。
なんだかちょっと、変に恥ずかしくなる。

「聞こえるでしょ。私の心」コップをぎゅっと握って、静那は言う。

「大体、分かるようになってきたんだ。いつ“来る”のか」静那は続ける。
何のこと、と訊こうとしたあたしを遮って、

「5、4、」心臓のリズムに合わせて、「3、2、」静那はカウントダウンする「1、」

0。静那の声と同時に、ドン、と一際、大きな動きが聞こえた。
直後、安定していた静那の心音が、バクバクと乱れて、不協和音を奏で始める。

「静那!」苦しそうにうずくまる静那。あたしは糸電話を外して、静那の肩を掴んで支えた。

「……心臓が、急に言うこと聞かないの。どんどん間隔も短く、は、けほ、ごふっ」

「静那」あたしは静那を担いで背負った。意外と重い。
そんなことはどうでもいい。早く保健室へ――

廊下。全力で駆け抜ける。
階段。律儀に降りてられない!

ジャンプして飛び降りる。着地。ちょっと失敗。足を捻ったかも。

たかが痛いだけだから、まだ走れる。

背中にのしかかる膨らみが伝える音のほうが、あたしよりよほど苦しそう。

再び廊下を駆け抜ける。

手を繋いで歩くカップル。その間をスライディングして追い抜く。

脚に引っかかる糸電話。今はただただ邪魔だ。
静那のものじゃなかったら、蹴っ飛ばしてるところだ。

廊下を走る。
教室から、人が不意に出てくる気がして、思い切り高くジャンプした。
その直後、ドアが開いて人が出てくる。その頭上を超えながら、あたしは今の予感を噛み締めた。
人の足音に、敏感になったのかもしれない。そう思いながら、保健室のドアを蹴破った。

保健室の中に駆け込んで、静那をベッドに転がせ寝かす。
先生の姿はない。この肝心なときに、と苛立ってみせても、何も状況は良くならないのだけど。

静那は相変わらず、苦しそうだ。

ひねった脚が疼く。思わず脚を押さえて、巻きついたままの糸電話に気づいた。
それをほどいて拾う。

自分では何も出来なくて、でも何もしないのがイヤで。思わず口元にコップを持っていった。
伸びた線の先は、静那の下。ベッドの静那の、心臓の上。

今思えば、静那を応援したいなら、静那の耳元に持っていくべきだったと思うけど、
この時はすっかり気が動転していたんだと思う。
静那を励まさなきゃ、という気持ちだけが先走って、

「静那、静那、静那、」ただ、名前を呼び続けていた。

「静那、静那、静那、」ひたすら、名前を呼び続けた。

ドクン、ドクン、ドクン。あたしの呼びかけに合わせて、静那の胸が上下していた。

「静那。 静那。 静那。」思い立って、少しペースをゆるめて呼びかける。

トクン。 トクン。 トクン。

やっぱりだ。私の呼びかけに合わせて、静那の鼓動は脈打ちだした。

「静那。 静那。 静那。」
あたしは何度も呼びかけた。

「静那。 静那。 静那。」
コップを握りしめる。

「静那。 静那。 静那。」




目を開けた時、私の目の前には白い光があった。
眩しくて目を細める。

電灯の光だ。
そしてあたしは、自分が天井を見ていることに気づいた。

身を起こそうとした瞬間、光が影に遮られた。
静那の顔が急に出てきて、あたしは思いっきり、おでこをぶつけた。

「うぺあ」変な声が上がる。神に誓ってあたしの声じゃない。

ジンジン痛むおでこを押さえながら、あたしはうめき声の主を見た。
「……静那」両手でおでこを押さえてしゃがむ、前野静那の姿があった。


「心臓。大丈夫?」
そう聞くと、静那はおでこから手を離して笑顔を見せてきた。

「うん、照本さんのおかげ!」
「良かった」元気そうだ。うまくいってよかった。

「照本さん!すごいよ!私の心音を読んで、整えるリズムを送れるなんて!」
静那は目を輝かせている。
「私、練習しても出来たことない技だよ!照本さん、才能だよ~!すごいよ!」
そんなに反応されても困る。

「そうかな。まあ、これで治ったならいいけど」
「うん、大丈夫だよ。今のところは」静那はそう告げた。今のところ?

「分かるの。今は大丈夫だけど、しばらく経ったらまた、この子は暴れだす。多分、一生かな」
「いいよ。その時はあたしが、何度だって助けてあげる」

「……ありがとう、照本さん」静那はにこにこと笑っている。

「でも、静那って何度も呼ぶのはやめて欲しいかな」

静那はイヤだったか。
でも、名前を呼ばれるだけで嫌がるのは、ちょっと可愛いなと思った。
でも、嫌われてるかも、とちょっと思って。「どうして?」理由を聞いてみた。

「なんだか、恥ずかしくて。心音、乱れちゃうから……」

――前言撤回。全然可愛くない。
二度と助けてやるもんか。
今、心音を整調しなきゃならないのは、このあたし、照本音隠の心臓だ。

落ち着け、落ち着け、落ち着け。落ち着けってば。

静那。 静那。 静那……。


……全然、効果なんてないじゃんか。ばか。



最終更新:2015年08月03日 16:57