衣紗早包
ステータス(評価点数:Lv.300)
- キャラクター名:衣紗早包
- よみ:いさはや くるみ
- 性別:女性
- 体型:華奢
- 学年:高等部2年
- 部活:生物部・ファッション部
- 委員:飼育委員
- 武器:キグルミ
- 初期ステータス
- 攻撃力:1 防御力:15 体力:4 精神:3 FS(早着替え):7
- 移動力:2
- アビリティ
特殊能力『着る身ーベイベー』(発動率:100%)
効果:対象Aの能力を対象Bが使えるようにする
範囲+対象:同マス各1人
時間:1ターン
タイプ:付与型
消費制約:死体消費
非消費制約1:Aは死亡していなければならない
非消費制約2:接続時間中、Bは本来の特殊能力を使用できない
詳細な説明
同マスで死亡しているキャラAの能力をコピーし、Bが1ターンの間使えるようにする能力。
その間、Bは本来の自身の能力を使用できなくなる。
能力原理
動物の死体からキグルミを作り出す能力。
古代の人間が動物の毛皮や仮面を身につけることでその力を得ようとしていたという話にあやかっている。
キグルミを身に纏うとその能力を再現できるが、基本的には生物としての「生態」のレベルまでで、そこから外れた魔人能力を再現しようとすると死体に残っている魔人の中二力場とこの能力によって生じる中二力場が相互に干渉し合い極めて不安定な状態になるため、ごく短時間で崩壊してしまう。
キャラクター説明
ウミウシのキグルミに身を包んだ少女。
ファッションデザイナー兼格闘家の姉を持ち、そのコスチュームがキグルミだったのもあり自身もキグルミ好き。自宅やファッション部部室のクローゼットには魔人能力で作り出した数十のキグルミが収められている。
キグルミのデザインは任意に変更可能で、人間でやると怖いが動物なら本物同然のリアルなタイプからポップ、ファンシー路線まで色々選べる。半分だけ切り取ってトップorボトムスにすることも可能。素材感も変わる。
このあたりは姉の魔人能力に影響されているが、モチーフの動物がわかるようにせねばならず、姉ほど何にでも変えられるわけではない。
ウミウシのキグルミも基本的には可愛らしいデザインだがガチると海底をうねうねと這い回ったり体色を変えたり紫色の汁を出したりと人間を越えた動きも可能。
エピソード
朝、パジャマを濡らすおねしょの感覚に、ため息をつくことはほとんどなくなった。それがいいことなのかはわからないけれど、ここ二年でやらかす頻度がずいぶん減ったのは、精神的に楽になったおかげと思いたい。
だからこの日の失敗もそこまで気にせず粛々と後始末をすればいいのだけれど、ただちょっと嫌なのは、汚したお布団を部屋干ししないといけないことだ。乾きにくいし、おしっこの臭いがこもってしまう。
しかしそこで「ん?」と気づく。ここしばらく、目を覚ますたび聞こえていた雨音がしないのだ。ベッド脇の窓からは、カーテンを透かして朝の光が差し込んでいる。
カーテンを開けると、窓の向こうの空は目に痛いくらいに青一色だった。
「梅雨、明けたんだ」
梅雨の間は半袖じゃ肌寒いくらいだったのに、明けた途端に三十度超えの日が続いた。連日の雨に不満を漏らしていた人たちが一転お日様を恨みだすのも、この時期の風物詩と言えるかも知れない。
「うー、あっつー……もう5時なのに32℃とかありえないっしょ。ああ嫌。ねえ、金雨?」
友だちの似鳥葉都ちゃんもその一人だ。放課後、並んで下校する彼女は手でパタパタと扇ぎつつ、そう言って同意を求めてくる。
「んー、暑いのは大変だけど……私は雨ばっかりなよりは好きかな」
「『雨竜院』なのに?」
葉都ちゃんは目を丸くした。
たしかに私の実家は降雨魔人の家系で、雨に感謝し愛でるのが家風だ。お姉ちゃんなんかは梅雨生まれなせいか梅雨は普段にも増して活動的で、勤め先の幼稚園の子どもたちを雨の中散歩に連れ出して叱られたらしい。
「実は家に反発してるとか、そういうの?」
「ううん。ただ、雨だとお洗濯干せないし、夏はすぐ乾くからいいなあって。それだけ」
私は曖昧に笑ってごまかした。
まるきりウソというわけではない。おねしょしても布団を干せない日が続くというのは、私にとってけっこう大きな問題なのだ(実家にいた頃はおねしょする=雨が降る、だったのでこの学園にいるだけではるかにマシにはなる)。
ただ、「それだけ」はウソだ。本当はもっと大きな理由がある。いや、おねしょの後始末とちがって、こちらは私の気持ちの問題にすぎないのだけれど。
夏の雨を見ると、思い出してしまう子がいるのだ――。
「金雨さあ、水着どうする?」
「えっ?」
頭に浮かんだその子の顔は、葉都ちゃんの問いにかき消された。
「水着? ああ、臨海学校?」
「そうそう。あたし、まだなんだよね、寄ってかね?」
葉都ちゃんが「購買部」へ続く道を指した。特に用事もないので一緒について行く。
期末テストが終わり、例年なら後は夏休みを待つだけという時期だけれど、今年からは中高等部合同の新行事「臨海学校」が導入された。
別に珍しい行事じゃないんだろうけど、極端に閉鎖的なこの妃芽薗学園で泊まりがけの校外学習というのはある種の事件といってもよくて、それを来週に控えた今、学園生の間ではどこかうわついた空気が流れている。
向かった先、ちょっとしたショッピングモールほどの広さと品揃えを誇る購買部。その衣料品コーナーでは普段は見ないカジュアルタイプの水着が並んでいた。
「おー、いっぱいあんじゃん」
「本当だ……」
葉都ちゃんがビキニタイプの水着を手に取って眺める。
『臨海学校のしおり』には「水泳の授業ではないため、水着は学校指定のものに限らず自由とする」と書かれていて、だから可愛い水着を欲しがる子はたくさんいるし、購買部も需要に応えている、というわけらしい。
「金雨も見てきなよ。どうせまだでしょ?」
「えっと……まだっていうか、授業で着てるのじゃ、ダメかな?」
「はあ!?」
葉都ちゃんはさっきに続いて目を丸くするけど、さっきよりずっと大げさ、信じられないという表情だ。
「海にスク水着てくの? 高二で? 変態じゃん!?」
「へ、変態!?」
授業で着ているものなのに、変態……。自由服の学校で言えば標準服みたいなものだろうに、変態……。
人生で初めての「変態」呼ばわりに、黄色いお兄さんの笑い声が聞こえてくる気がして私は頭がくらくらした。
「まあ金雨の外見なら正直スク水もありかもしんないけどさ、せっかくの海なんだし、これくらい攻めてみたら?」
「私は……守りでいいかな……」
葉都ちゃんが見せてきたひどく布の小さな水着はなにかあればズレてしまいそうで、私にはどう考えても恥ずかしすぎた。
「えー、ちょっとくらいさー、オシャレはしてみようよ。ウチら女子校にこもりっきりじゃん? よそ行きっていうか、そういう機会でもなきゃ」
「ん……」
攻めるとか守るとかはわからないけど、可愛い水着を着てみるくらい、してみてもいいかもしれない。私も女の子だし。
ただちょっと、私の小学生みたいな体だと……イマイチ不似合いなんじゃないかな。
「――なんて思ってないかしら? 金雨ちゃん?」
「えっ!?」
突然名前を呼ばれ振り向くと、そこには一人の女の子がいた。
青と黄色の派手な衣装に身を包んで腕を組み、自信ありげな表情を浮かべている。
「包ちゃん」
「誰?」
「衣紗早包ちゃん。従姉妹の子」
包ちゃんはお姉さんの影響でファッションへのこだわりが強く、ファッション部員として自身がデザインした服を多数発表しているのだ。
「へー、どんなの? 水着?」
「水着と言えば水着だけれど……これよ!!」
包ちゃんがジャン!! と指した先、水着売り場の隣にずらりと並んでいるのは……キグルミだった。クマに虎、ゴールデンレトリバー、牛、ブタと数々の動物をモチーフにしたキグルミたち。
彼女はキグルミフェチなのだ。幼稚園の頃、お姉さんと一緒に見に行ったヒーローショーで女性戦士を演じていたスーツアクターのおじさんがキグルミを脱いでいるところをたまたま目撃してしまい、普通ならショックを受けそうなものだけど、包ちゃんはフェチに目覚めたらしい。身に纏うことで自分でないものへと変身できるその魅力に。
「そういうわけで、今もファッション部特権でこうして海用モデルを販売させてもらってるのよ」
「いやいやいやいや暑すぎでしょ! 海でキグルミって」
「ところがどっこい、着てみればわかるけど熱がこもったりはしないし、毛皮でフカフカのデザインに似合わず超撥水。体にフィットして動きも妨げない。ウェットスーツにキグルミの可愛さをプラスしたものだと思えばいいわ」
「へー。あ、衣紗早ちゃんが着てんのも?」
「そうよ! 神聖なる海底の王者! 雨竜院家の守り神、ウミウシのキグルミ!」
包ちゃんがスーツのフードをかぶると触角がぴょこんと伸びていて、たしかにかわいらしい。包ちゃんのキグルミがデザインも機能性も優れているのは、私も知っている。ただ……。
バスに揺られること1時間余り。私たちがやって来たのは、隣県のリゾート地。
昼食を済ませ、宿で荷物を下ろしたら先生に各自自由時間を言い渡される。
宿で休むも、周辺を散策するもよし。過ごし方は人それぞれだけれど、やっぱり大半が繰り出した先は――。
「海だぁーっ!!」
海水浴場。目の前に広がる青い海と空、白い砂浜に黄色い歓声があがる。こういう声って誰があげているんだろう。
一目散に海へ駆け出す人もいれば、砂浜にビニールシートを広げて自分や友だちのスペースを確保する人もいる。
私は後者で、シートを敷いたら持ってきたパラソルを立てる。魔人といっても非力な私には大変な作業で、女の子になってもこんなものを振り回している暈哉ちゃんは凄いなあと思った。
中学1年~高校3年までの女の子数百人が大挙してやって来たわけだけど、それで物凄く混雑するかと言えば……そうでもない。
なぜなら、今日このビーチは貸し切りだからだ。
「ファッキンビッチ!!」
ローライズビキニで決めてきた(本人談)葉都ちゃんが、かけていたやたら大きなサングラスを地面にたたきつけた。
「じゃあ、私たちも泳ぎに行こっか、サメちゃん」
「オォー!!」
パラソルを立て、シートの四隅をしっかり留めると、鮫肌の女の子・雨竜院雨に声をかける。彼女は二年前の夏、とある一件をきっかけに妃芽薗に編入することになった。あの時はつらいこともたくさんあったけれど、彼女に出会えたのは僥倖だと思う。
着ていたパーカーを脱いで、水着姿になる。
「あ、可愛いじゃん、金雨」
「よくわかんないけど、うん、あたしもいいと思う」
「あ、ありがとう……」
結局、選んだ水着は上下に分かれていてフリルの飾りがついたタイプだった。シンデレラバストといって、胸がないのが目立たないデザインらしい。別に気にしているとかではないけれど。
「ていうか、クソあざとくね? 実は金雨も来るまで男狙いだったとか?」
「ち、違うよっ!!」
「ところで、サメちゃんはどんな水――アバーッ!!」
着ていたTシャツを脱ぎ捨てたサメちゃんは、堂々の全裸! と思いきや直後、サメの姿に変身!! 私はしめやかに失禁した。二年前なら大惨事になるところだった。
砂浜をビタンビタンと海まで跳ねようとしたサメちゃんを制止し、人間の姿に戻ってもらう。そういえば、サメちゃんはサメが本来の姿なのだった。海へ来たから、自由に泳ぎたかったんだね。
「でもダメだよ、大騒ぎになっちゃうよ……」
「そっか……」
お姉ちゃんなら海ではおしっこしてもいいんじゃない? と言いそうだし黄色いお兄さんは大喜びしそうだけど、貸し切りとはいえそれは許されない。
しかしサメちゃんは何を着ればいいんだろう。ホテルの売店で水着を買うべきか、と考えていたところで。
「海で着るものがない、とお困りのあなた!!」
振り返れば奴がいる。包ちゃんだ。
肩から下げていたエナメルバッグより、一着のキグルミを取り出した。
「ギリギリ親戚のよしみで、貸してあげるわ。ちょうどあなたにぴったりのモデルを」
「おお、それは!!」
だいぶ可愛らしく丸っこいデザインにデフォルメしてあるけれど、紛うことなきサメのキグルミだった。
「これを着た状態で尾ビレを振ればちゃんと泳げるようになってるから安心。元々本物のサメのなら余裕でしょう?」
「あ、ありがとう~!!」
サメちゃんは飛びついてそのキグルミに脚(ヒレ?)を通し、海へと尾ビレで駆け出していく。可愛らしいデザインのキグルミに、女の子たちはキャッキャとおかしそうに笑っている。
背ビレにファッション部のロゴがあるそのキグルミで、サメちゃんは懐かしいサメの泳ぎを満喫しているようだった。
本物の尊厳的にいいのだろうか、というのはまあ、サメじゃない私が気にすることじゃないだろうけど……。
「あれも……サメの死体なんだよね」
「うん」
包ちゃんの魔人能力「着る身ーベイベー」は、死体をキグルミに変える能力なのだ。それを着てるのは……どうなんだろう。知らぬが仏というやつだろうか。
私たちも海に入って泳いだり、砂のお城を作ったりビーチバレーの真似事をしたり、包ちゃんはリアルウミウシ形態で海底を這いずり回り水生生物の死体を漁ったりと、楽しい日はあっという間に過ぎていった。
お日様は半分水平線の向こうに沈んで、海をオレンジ色に染め上げている。
そろそろ夕食の時間も近いし、泳ぐのにも疲れたし、とビーチの女の子たちはホテルへ、海中の子たちはビーチへ引き上げようとする。
少し岸から離れたあたりを浮き輪でプカプカしていた私も戻ろうとしたけれど、包ちゃんが海面まで浮上して、こちらへ泳いでくるのが見えた。
並んで泳いで帰ろう……そう思ったところだった。
「え!? なんでいないの?」
「○○!? どこいったの返事して?」
「ちょっと、ウソでしょ!?」
周囲から悲鳴じみた声があがる。
いなくなった? 急に?
海にいて、突然姿を消したとなればとても恐ろしい想像が浮かぶけれど、私は水難事故でなく、もっと非現実的な、けれどこの妃芽薗では身近な悲劇を頭に描いていた。
私は連れて行かれる側だった。傍から見れば、私も「こう」だったのかも知れない。
(まさか……旧校舎の? 校外なのに!?)
「まどか様」の手はここまで伸びているということだろうか。
「包ちゃん!! 早く――」
こちらへ泳いでくる彼女を見やった時、そのすぐ上に、白いフードの女の子の姿が浮かんでいた。
「ダメ!! 包ちゃ――」
彼女の方へ泳ごうと、水を蹴った私の足を、誰かの手が後ろから掴んだ。
「ひっ!!」
上ずった声と尿が漏れる。
振り向いた先、そこにいたのは、まどか様ではない女の子。
海で着ているには明らかにおかしい大陸風の民族衣装に身を包んだその子の体は透けていて、これも明らかにこの世の存在ではなかったけれど、でも、私には知っている顔だった。
(矢達さ……メアちゃん?)
私の足を掴んだメアちゃんは、ふっと悲しげに笑って首を振る。
『ごめんね。でも助けられない。金雨ちゃんまで連れてかれちゃう』
そう聞こえた気がした。
直後彼女の姿は消え、そして私がまた包ちゃんを見やった時、そこにあの大きなキグルミをまとった姿は、影も形もなくなっていた。
最終更新:2015年08月04日 20:17