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大発表への反応~撫津 美弥子の場合~


 ……眩暈の後の睡眠から目覚めた朝。
 最悪な気分を抱えたまま日曜を迎えた少女……撫津 美弥子は、パジャマを着たままぼんやりとパソコンの画面を眺めていた。
 その内容は、ワクワク動画の生放送コンテンツ「【生放送】国会議員、飯田カオルの重大発表」であった。
 当然、小学生である美弥子が国会議員の発言になど興味があるはずもない。
 美弥子が普段見るのは何かしらのアニメや音楽の動画、もしくは漫画コンテンツ等だ。
 ……しかし、何かに導かれるように美弥子はその動画を見なければならないような感覚を覚え、気付けばその動画の一視聴者となっていた。

 生放送であったため、初めの方を見逃してしまったようだがどうやら本題はこれからのようだ。
 説明に入り"迷宮時計"という言葉が飯田カオルから発せられた瞬間、美弥子は全てを理解した。
 それを巡る事件に自分が巻き込まれてしまったという事を、時計の数字の意味を、戦いのルールを……彼女の親友、森久保 眞雪が"迷宮時計"を持っていたという事実を。

 そして、その"迷宮時計"争奪戦におけるマニフェストが飯田カオルから発表される。
 それは美弥子にとっては、非常にありがたい提案であった。
 運よく彼女と遭遇し、自分に戦いの意志がないと宣言しさえすれば、自分はこの戦いの中心人物ではなくなり運が良ければ並行世界からの帰還も可能となる。
 ……全てが丸く収まる。

「……でも」

 でも、眞雪はもう、戻ってこない。
 例え戦いが終わろうと、この世界に戻ってきても。
 ……もう、絶対に眞雪は帰ってはこない。
 放送を終わりまで見ないままパソコンの電源を落とした美弥子は再び自分の部屋へ戻り、布団にうずくまった。

「もう……どうでもいいよ……」

 そうぽつりとつぶやき布団の中で丸くなった美弥子の頬にこつりと、腕から外し忘れた時計が当たる。
 眞雪が、そんな危険な戦いに巻き込まれていたなんて、ちっとも知らなかった。
 今まで無事だったということは、彼女は今まで無事に勝ち進んでいたのだろうか。
 それとも、まだ一度も戦った事がなかっただけだったのか。
 ……今となってはそれを聞く方法すらない。
 どちらにしても彼女は戦いとは関係のない場面であっさりといなくなり……その時計を自分が受け継いでしまった。

「なんでもいいよ……好きにしてよ……」

 そうつぶやくと、今頃になって涙がぽろぽろと流れてくる。
 自分にはどうすることも出来ない。
 もちろん他人にだってどうすることも出来やしない。
 もう、眞雪と話す方法はどこにもない。
 戦いでもなんでも好きにすればいい。

 ……そこまで考えて、美弥子はふと思い立つ。
 "迷宮時計"を完成させた者は、時空を操る力を手に入れる事が出来る。
 時空を操る?……時を、遡る?
 もし、もしそれが可能なら、あの時に戻って眞雪をトラックに轢かれる前に止める事が出来れば。

 美弥子は布団から飛び起きた。
 次に自分の赤いランドセルを引っ掴み中身を全て引っ張り出す。
 そして再び、ランドセルの中に様々な物を詰めていく。
 ノートを一冊、分厚い雑誌も一冊、そして筆記用具、電子辞書、リコーダー、防犯ブザー、台所から水筒も引っ張り出してきた。
 相手も魔人のはずだ。何が役に立つかわからない。
 ランドセルを何度も背負い直し、重くなりすぎないように調整する。
 準備が出来た後、両親にはしばらく学校に行きたくないと伝えた。
 眞雪の事がショックだったのだろうと、両親はすぐに承諾してくれた。

「……」

 もし、もしも。
 もしももう一度、眞雪と会えるなら。
 もう一度、眞雪と話す事が出来るなら。
 私は、この戦いから逃げるわけにはいかない。
 ……戦わなくちゃ、いけない。

 美弥子の能力は「ツッコミによって異常な現象をなかったことに出来る」能力。
 相手の能力を封じることは出来るかもしれない。だが、逆に言えばそれしか出来ない。
 大人が能力を使わずに殴りかかってきたら、自分には成す術はない。

 それでも。
 それでも負けるわけにはいかない。
 戦って自分が勝たなくちゃ、眞雪とはもう会えない。
 どんな些細な異常にでもツッコんで、ハッタリと、負けん気と、あとは運で、とにかく勝つしかない。

「……眞雪、もう一度、せめてもう一度だけでも……会いたい!」

 こうして、"迷宮時計"を手に入れた一人の少女に、戦わないという選択肢は消えた。
 それが正しかったのか、彼女は再び眞雪と会えるのか。
 それはまだ、誰にもわからない。