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ホーリーランドクラブ・SS4合同SS「ハローデイズ」

雌雄に分かれたヒトが同性を愛するようになる。そこには当然、様々な背景事情がある。ハッキリと答えられる者もいれば、特に自覚無く、気づいたらという者もいる。では雨竜院暈哉はどうなのか? 彼が男を愛するように、というより女に興味が無くなった背景には、ある一つの、大きな事件があった。

暈哉、小学三年生の夏。「お姉ちゃん、暈哉とお風呂入ってきて」「うん」母と姉のやり取りを聞くと、暈哉もゲームをやめて立ち上がり、姉と共に風呂場へ向かった。姉の名前は暈々(かさかさ)、小学六年生。雨竜院家にとっては貰い子で暈哉とも血の繋がりは無いが、実の姉弟以上に仲が良かった。

脱衣場で、姉弟揃って服を脱ぐ。二人は一緒に入浴するのが当たり前だった。思春期を迎えている姉も弟の目線を気にしなかったし、暈哉も姉の裸を意識しない。友達に「ねえちゃんとふろはいってる?」と聞かれても「うん!」と元気よく即答するくらいだ。

「姉ちゃん、今日怖い映画やるって知ってる?」「ええ、もちろん。録画までしてあるわ」仲睦まじく「流しっこ」(放尿ではない)などしながら姉弟は楽しげに話している。
暈々はホラーの類が好きだった。お漏らしは幼稚園で卒業し、ホラー映画を見ても畢や金雨と違い失禁やおねしょとは無縁だ。

「姉ちゃん、あれやろ」身体を流し終えると、暈哉が甘えるように言う。「ええ、じゃあ入りましょうか」暈々も笑って応じ、二人は揃って湯船に浸かる。ただ一緒に入浴するだけでは無い。この先、この姉弟には二人だけの特別な習慣があった。それは何か。SEXでは無い。

「『シフト&ウェット』」暈々が唱えると、奇妙なことが起こった。座った彼女の体、その表皮が浴槽内の湯と溶け合い、境界を失ってゆく。かと言ってその下の骨や筋肉、内臓が露出するわけでない。彼女の身体そのものが湯と同化し、膨張しているのだ。これが暈々の能力「シフト&ウェット」。

数瞬で、湯の全てが暈々の身体と化した。今、湯船を満たすのは温かな不定形生物と化した暈々。そして暈哉はその身に抱かれている、というかゼリーに埋まっているような状態だ。「気持ちいい? 暈哉」水面に浮かび上がった暈々の顔(怖い)が尋ねる。ホラーな光景だ。「気持ちいいよ」「よかった」

この不気味なスキンシップが、姉弟の日常風景だった。暈々は大いなる存在と化した感覚に、暈哉は文字通り全身を姉のぬくもりに包まれ揺蕩う快感に恍惚とする。無論これは性行為では無いし、暈哉のポークビッツもおっきしてはいない。

「そろそろあがろっか」「うん」数分そのような状態が続き、満足した暈々が声をかけると暈哉も了承する。暈々は同化していた湯を排出し、元の身体に戻って立ち上がろうとする。「うっ……」「姉ちゃん?」唐突に暈々が呻き声を発した。「何で、急に……?」暈々は突然の体調不良に陥っていた。

上手く湯を分離できない。同化の解けた部分とそのままの部分が混在している。体内の湯の流動を制御出来ず、身体の形状が意志に反して崩れていく。『シフト&ウェット』の精度は体調や精神状態に大きく左右され、故に不調だと身体のバランスを失い、今のような状態になりかねない。

(でも、なんで……)暈々は自分の能力のデメリットをわかっていたし、だから体調の悪い日は水に浸かることを出来るだけ避けてきた。だが今日は、今の今まで何の不調も感じていなかったはずだ。暈々も、姉の異常に怯える暈哉も、気づく余裕は無かった。湯に暈々の初潮の血が混じっていることに。

「姉ちゃん、お母さん呼んでくるよ!!」「だ、大丈夫、大丈夫だから……」体調不良の原因は変わらないが、こういった事態は以前にも経験がある。苦しいが、崩れた身体も時間をかければ再構築できる。ただその見た目は、ちょっとグロくて恥ずかしい。「暈哉、向こう向いてたほうがいい……あっ」

思っていた以上にコントロールの精度が低い。初めて味わう不快感だ。体の崩れを抑えきれない。「あっ……あっ……」「ね、姉ちゃ……」暈哉の目の前で、第二次性徴の兆しを迎えつつある姉の肢体は、B級映画のグロテスクな怪物のようにドロドロになった。表皮が垂れ下がり、骨や内臓が露出する。

「うわあああっ!!」その悍ましい変貌に、暈哉はさっきまで姉だった湯の中で放尿していた。その後、暈々はどうにか元の姿を取り戻して事なきを得、その日の夕飯では急遽赤飯が炊かれた。しかし崩れゆく女体は暈哉の脳裏に焼きつき、思春期を迎えても彼が女体への劣情を覚えることはなかった。

「そんなことがあったんだ」「そうそう。暈哉、気絶しちゃって」半左空、そして暈々がクスクスと笑うと、暈哉は恥ずかしそうに顔を背けた。昔のアルバムを引っ張りだして眺めていたところだった。「……でも、そのおかげで僕ら恋人になれたのかな」「そうね、感謝してもいいわよ」「……」

暈哉は思う。姉は図々しいが、一方で彼女のおかげという面があるのも事実だと。因果というものはよくわからない。幸が不幸に、不幸が幸に。それでも、愛する人がいる今は、不幸に繋がることがあってはならないと。

これは可能性の物語である。2014年秋、迷宮時計に選ばれた暈々が、2018年初春、鬼雄戯大会7ターン目を迎えようとする暈哉達がこの未来へ至る道を歩めるのか。それは誰にもわからない。