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プロローグ



「「「何があっても三・千・字!絶対詰めるぞ三・千・字!!」」」


『ショウ子、……その……何故、自分の名を連呼しているんだ』
「山禅寺じゃなくて三千字!私にもよくわからないけど、私の内の何かが、そう囁くんだ。絶対厳守・三千字!って」
『囁くというレベルではなかったぞ……。絶叫だ。リベラル系市民団体のデモ行進かと思った』
「ふっくん。んなどうでもいい事でちんたらしてる暇ないよ!さっさと仕事を始めないと!」

山禅寺は振り返る。
パフブラウスの胸元に結ばれた赤いネクタイが風になびく。右耳のイヤリングがチャリンと音をたて揺れた。
無数のパイプの曲線と、固い鉄壁の直線で構成された黒い要塞が彼女の眼前いっぱいに広がる。

『原始共産軍魔人指令基地残党の壊滅が今回の仕事だ。兵士が百人、警備ロボットが二百体、魔人が五人。速攻で解決するには、少し敵が多いかもしれないな』
「10分でいけるかな?」
山禅寺は腕時計を見やる。
10分。それが山禅寺に課せられたタイムリミットだ。
ふっくん(フクロウのイヤリング)は山禅寺の妄想と言ってはばからないが、この時間制限が破られた時、何が起きるのかは誰にもわからない。
『きっと、無理だ。あせらず慎重に行こう。いつも言っているが、10分という制限時間は、君の『妄想』だ』

「ブゥーーーーーゥゥゥン……」
 ルンバの動くような規則的な機械音が近づいてくる。
 山禅寺は反射的に物陰に隠れた。
 ロボット兵だ。

「ロボット!?まさか、私の囁きを聞いて来たっての!?」
『囁きではない。絶叫だ』
ロボット兵は卵型の頭部をキョロキョロと回転させ、侵入者を探しているようだった。
(量産型の安物だね。こっちに気づいてないみたい。カタチは結構可愛いかも)山禅寺が声に出さずにつぶやいた。
『よし。……やりすごせるかもしれない。このままじっとしているんだ』
(わかったっ!)
山禅寺は身を小さくした。

右手でイヤリングに触れる。
「0,0,30,0……」
彼女の魔人能力『賢者の贈り物』は、彼女のステータス。すなわち、体力、攻撃力、防御力、精神力に追加で30Pまで数値を振り分けることができる。
シンプルだが強力な能力だ。シンプルであればあるほど、物語の尺は短くなる。
今回は、もしもの時のために防御力に30Pを振り分けた。例え小型ミサイルがぶち当たろうとも、びくともしない防御力。
「……」
「ブゥーーーーーーーーーーーーーゥゥゥン……」
ロボットが近づく。
動きが遅い。
山禅寺は時計を見る。遅い。
スターウォーズのR2-D2を連想させる遅さで、山禅寺の側まで近づいてきた。
「……」
ロボットはこちらに気がついていない。
あと数秒我慢すれば、やりすごすことができる。
「ブゥーーーーーーーーゥゥン……」「…………」
「ブゥーーゥゥン……」「………………」
「ブゥーン…」

「遅いんじゃぁ――――――――――――――――ッ!ボケッ!」

山禅寺はロボット兵に向かって飛び出した。
「0,20,10,0!」
『ショウ子――――ッ!?」
ボンッという爆発音。
山禅寺の右拳が、腕時計ごと爆炎に包まれる。
誰しも経験があるだろう。平日の昼間に園児が公園の砂場の山につくるトンネルのように、彼女の右腕はロボット兵の頭部をいともたやすく貫通していた。
「遅い、遅い、遅い、遅いよ!何っちんたら遊んでんだよっ!」灼熱の拳を震わせ叫ぶ山禅寺。
『落ち着けショウ子。……まずいな、今ので敵に見つかった』
どこからかサイレンが鳴り響く。

山禅寺はかけ出した。
右頭部にふっくんの怒りの声が発される。
『全く、慎重に行けと言っただろう。……どうして君はいつもそんなに急いでいるんだ』
「ごめーんごめん、ごめん、ふっくん!どうしても待ちきれなくってさ!」
『そんなだから、転校生の資格を失ってしまうんだ。せっかちも程々にしないと。いつまで経っても転校生に戻れないぞ』
「うう……っ。わかったよ、私も気をつけるよ」

『全く……』
山禅寺のせっかちは元からだが。最近の彼女のそれは度を越している。
『ふっくん』は彼女が小学生の頃、魔人覚醒と同時に生み出された存在だ。
夏休み、読書感想文の宿題で、O・ヘンリ―の『賢者の贈り物』が課題となった。
せっかちで面倒くさがりの彼女は、それを読まずに適当な解釈で感想文をでっちあげた。
『こんな短い文で、こんな感動させるなんてすごいと思いました。私にも賢者の贈り物が欲しいと思いました』……と。
この感想文を書き上げた直後、山禅寺は魔人に覚醒。
以来、ふっくんは彼女の父親代わりのポジションでサポートを続けている。
『しかし……』
生まれてからずっと、『ふっくん』の頭の片隅にはある疑問があった。
山禅寺の「時間」に対する強迫観念はどこから来たものなのか。
『そういえば……』
三千字。彼女はそう言っていた。
O・ヘンリーの『賢者の贈り物』は三千字の条件を満たしていない。
翻訳された文で、総文字数は約三千四百文字。
『もしかして……まさか』
『賢者の贈り物』が三千字の条件を満たしていれば、彼女はちゃんとそれを読み、でたらめな読書感想文を書くこともなく、魔人に覚醒することも無かったのではないか。
彼女が実の父親を殺してしまうことも、無かったのではないか……。


「あと1分」


『へ……?』
「あと1分だよ、ふっくん!」
ふっくんが我に帰ると、周囲には破壊されたロボット兵。頭を叩き割られた兵士。
「0,0,30!0!」
山禅寺の姿はとある制御室にあり、今まさに、赤く四角いスイッチを押そうとしている所だった。
「うおおおぉぉ急げェェェッ!あと1分――――――ッ!」
「ショ……ショウ子―――――――――ッ!?」
二人の視界は白い光に包まれた。


黒く焦げた瓦礫の山から、黒焦げ全裸の女が立ち上がる。
「ゲホッゲホゲホーッ!ハハハッ!ハハハハハハッ!」
『どういうつもりだっ!ショウ子!もう急がないと約束しただろう!』
「ハァ~、ごめん、ごめん、ごめん、結構時間かかるね、瓦礫をどけるのって……」
時間に追い立てられた山禅寺のとった行動は、基地に設置された爆薬に向け、基地に設置されたミサイル全てを基地めがけて発射することだった。
そのために、能力で防御力を異常強化。
おかげで肉体的には大したダメージを受けることは無かったが、攻撃力の低いまま瓦礫の下敷きになったため、瓦礫から這い出すのに途方も無い時間を使ってしまった。
「まあでも、事件自体は10分以内に終わらせたから!やった!やったぜ!ハハハッ!ハハハハハハッ!」
『やっていない。生き急ぎすぎた……君は……』

山禅寺は左腕に巻かれた腕時計を見た。

……はて、そういえば自分は、いつの間にこの時計を身につけていたのだろう。

◆山禅寺ショウ子◆プロローグ◆終わり