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プロローグ

私は自分の花恋という名前が苦手だ。

花や恋という字も、かれんという響きも、私のようなぶっきらぼうには似合わない。
早くに亡くなった両親がくれたものだから、もっと大切にしなければとは思うのだけれど
私のことを花恋と呼んでいいのは愛花姉だけということにしている。

「花恋」

非常に不本意なことではあるのだが、数少ない友人たちに私は極度のシスコンであると認識されてしまっているらしい。
いや、確かに愛花姉のことは大好きだし大事だけれど、シスコンとかそういうのではないはずだ。
両親が死んで、二人別々に親戚に引き取られそうになったところを「花恋は私が育てます。二人で生きていきます」と宣言し、有言実行してくれた愛花姉に感謝しない訳がないじゃないか。
まあ確かに小さいころに「私お姉ちゃんと結婚するー!」とか言ってた記憶はあるけれど、今でも本気で結婚できるとか思っているわけではない。
友人との会話に愛花姉をすぐ登場させてしまうのもただ単に私のもつ話題が少ないというだけの話なのだ。

「こんな話、すごく急にすることになってしまって本当にごめんね」

だから、

「私、  さんと結婚するわ」

私はこの宣告に対して心から祝福しなければならないし、今私が抱いている感情は失恋だとかそういう類ものでは断じてないはずだ。

++

「その、うん。本当におめでとう、愛花姉」
「ありがとう。今度  さんにも来てもらって改めて挨拶してもらうね」
「お、おう」

  さんが愛花姉によくしてくれているのは知ってたし、まぁ正直うすうす付き合ってるんだろうなとは思っていたが、まさかすでにそんな状態になっているとは思っていなかった。

夕飯の食材の買いだしに向かった愛花姉を見送った後、四畳半のアパートの中心で大の字に寝転がる。
愛花姉が結婚したらこの狭い部屋での二人の生活は終わってしまうのだろう。
三人で住む……というのはさすがに申し訳ないし、この部屋で一人暮らしをすることになる可能性は高そうな気がする。

むくりと起き上がり部屋の隅にある両親の遺骨を納めた仏壇に手を合わせる。
罰当たりな私は普段線香をあげることもほとんどないのだが、なんとなく今は写真でしか顔を知らぬ両親に何かを求めたい気分だった。
もちろん急に声が聞こえるとかそういう超常的なことは起こらない。
手持無沙汰になって仏壇の引き出しを開け閉めしてみる。
ろうそくや線香が入っている棚の下に、少し異質な棚があった。

古い型の携帯2つ、香水の瓶、そして止まった時計。
あぁ、そうか。きっとこれは両親の形見の品たちだ。
こういう時計ってクロノグラフとかいうんだっけ?

そうやって、私は欠片の時計(それ)に手を伸ばした。