プロローグ

『菊池徹子プロローグ:ツラヌキガール』

「ば、番長ーッ!カチコミだーッ!」
三死田高校の番長、著井役ヒトシの元に手下が駆け込む。
著井役はその大きな身体を気だるげに動かし、報告者に向き直る。
「フン、どこの誰だか知らんが身の程知らずなやつよ。で、敵は何人だ?」
「そ、それが……」



「ケケェーッ!どこの誰だか知らんがこの"ジャックナイフのヤス"のナイフ捌きで死ヒャァーッ!」

「……邪魔だよッ!」



「フハハハ!たった一人でこの三死田高校に攻め込んでくるとは!」
「ククク……各階に散らばる四天王すべてを突破せねばこの教室までは登ってこれませぬ」
「ヒャヒャヒャ……そしてこの教室にたどり着いても我等《三原則》が待ち受けている」
「デヘヘ……哀れ哀れ……」
三死田高校、3-B教室……薄暗い教室で4人の影が笑っていたが……?



「ヌッフッフ……"ジャックナイフ"を倒したくらいでいい気にならないことです……
 貴方の相手はこの"殺戮計算機のヨシキ"です……」

「アタシの道を……」



「フフフ、そろそろ侵入者の首は用意できそうか?」
「そ、それが……!四天王の内二人までもが……」
「あ、あいつただもんじゃねえですぜ!」
にわかに騒然とする3-B教室。



「ギョギョギョーッ!ここまで来れたことを褒めてやろう!」
「ウオーッ!お前はこの"双魚の理のヤン&マー"の前に倒れるのだーッ!」

「塞ぐんじゃあないッ!」



「ば、バカなーッ!四天王が全滅だとーッ!」
「ククク……ご安心ください番長」
「ヒャヒャヒャ……我々《三原則》が」
「デヘヘ……奴を血祭りに」

「どきなっ!」

「「「ギャーーーーーーッ!!!!!」」」

薄暗い3-Bの教室に一人の影が乱入する。
あっという間に《三原則》をふっ飛ばし、著井役の前に立つ。

光が差し込む。

侵入者の腰まで伸びたボサボサの金髪と、白く美しい肌を照らす。
制服の上に青いスカジャンを羽織った、切れ長の目をした女子高生。

――そう。女子高生だ。

「女ァ……?」怪訝な顔をする著井役。
「やっと、見つけたよ……」侵入者は著井役をまっすぐ見つめる。

「ヒャア!てめえ番長に何の用だァ~~~!?」
「グフーッ!愛の告白でもしに来たかァ~~~~!?」

「アンタさァ」雑魚の言葉を無視して侵入者が口を開く。
「こないだ、駅前でウチの同級生にぶつかったっしょ」

「……?あァ?覚えてねえな。確かに数日前は駅前でスイーツを食べていたが」

「あやまれよ」「ア?」「あやまれって」

侵入者は歩みを進める。まっすぐに。

「なぜこのオレが謝らねばならんのだ?おかしな因縁をつけおって」
「あやまんないなら、無理矢理にでも連れてくから」

至近距離!侵入者が動く!

「馬鹿めがーッ!」著井役の身体が鋼色に輝く!「この俺の『メタル・鞠男』の前にはどんな攻撃も……」
「関係ないね」

――ガキィン!と、鈍い音が響く。

「……」著井役がにやりと笑う。

「……ゲボッ」その腹部に、女の右腕が深く突き刺さっていた。

「関係ないって言ったろ」「じゃ、ちょっと連れてくよ。アンタら手伝いな」
「ヒャア!」「グフフーッ!」



その後、同級生の前で著井役を土下座させた(むしろ同級生のほうが困っていたが)。
不思議に思った同級生は、意を決して女に聞いた。

「ねえ、何で私なんかのためにあんな危険な事を?」
「え?アタシは筋を通さない奴が嫌いなだけさ」
「それだけのために?そんなことで特に仲良くもない私のために?」
「アタシさァ、バカだから。思いついたら貫き通さないと気が済まないの」

そういってにやっと笑う彼女の腕には、大きなデジタル時計。

「アタシはいつでもどんな時でも、まっすぐ自分の道を貫き通すだけさ」

彼女の名前は菊池徹子。
不器用に真っ直ぐ、『貫き徹す』女の子。

最終更新:2014年10月06日 02:45