プロローグ

肉皮ゲーリングという怠け者の男がいた。
三十歳になるまでニートしており、働きたくないという思いから
働かなくてもいい社会作りを公約として選挙に出馬するが最低票数で落選。

その後、日雇いの仕事と工場勤務を掛け持ちして選挙資金を稼ぎ、
住民票を移しながら全国どこかの県会議員選挙にほぼ毎年出馬しては落選し続けた。

40歳の時両親が死亡。同時に全国に染みついたダメ候補な自分のイメージを
消し去る為に生まれ変わる事を決意する。末期がんのホームレス飯田から戸籍を買い取り、
肉体労働で選挙資金を稼ぐと同時に変装用ゴムスーツの開発に取り掛かる。

46歳の時に試作スーツが完成するが実際に着てみるとどう見てもメタボなマネキンだったので
一から作り直す。この間、選挙に三回落選。

女装が得意な親族魔人数人からヒントを得て50歳の時に変装用ゴムスーツが完成。
今度は着ると完全に女性の見た目になれるが殆ど動けない。
自然に動ける様になるのに更なる年月を要した。

女の格好で過ごすのが普通になった頃、衆議院選挙が近づいていたので年齢的にラストチャンスと思い、
ホームレスの戸籍をいじってホームレスの娘飯田カオルとして出馬。
この選挙中に魅了系の魔人能力に目覚め、演説中に脱いで見せる事でゲーリングとして出馬した時の
総得票数の300倍の票を得て当選した。

結局世の中顔なのかと虚しくなったが、何はともあれこれからは
飯田カオルとしてニートに優しい世界を作って行こう。
そうすればニートな自分が肩身の狭い思いをせずに済む。そう思った矢先の事だった。

「朝稽古でごわす!股割りとすり足から始めるでごわす!」

『腹時計』と名乗る力士がやって来て事務所に居座ってしまった。
こいつが言うには自分は時を司る力を賭けたバトルロイヤル的なものに巻き込まれたらしい。

「おやつでごわす、おかみさんのドーナツはうまいでごわす!」

正直面倒だ。
せっかくぅぅぅ苦労してようやく議員になったのにぃぅぅううわぁぁあぁあんと泣きたい気分だ。

「取り組みが決まったでごわす!どすこい!」

だが、時を自由に出来る力というのが本物なら、自分の理想である働かなくてもいい世界が簡単に実現できるかもしれない。
肉皮ゲーリング改め飯田カオルはそんな事を考えながら戦場に転送されていった。


最終更新:2014年10月05日 20:29