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プロローグ

【古代】花園
戦闘領域:1km四方

今では存在しない花々が咲き乱れる大平原。
辺りにはむせるような花の香りに誘われた虫達が飛び回り這い回っている。
身を隠せるような物は無いので開始直後から気が抜けないか。

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見渡す限りの砂漠に佇む20代半ばの女、浅尾龍導(あさおたつみ)は逆手に持った長大な剣を足元に突き立てる。
120センチの剣身の半ばほどまで埋まったそれは、手を離すと自身の重みで徐々に傾きやがて倒れる。

「何でも切り裂く剣も砂が相手じゃ形無しだな」
やれやれと頭をふって場違いなバニースーツに包まれた体を折り屈めて剣を拾い、
右手で軽く振り回して砂を払うと左手で剣身を根元から先に向かってなぞる。
するともう浅尾が手にしているのは長大な剣ではなく皮をかむったペニスだった。
これこそが浅尾の魔人能力なのだ。
浅尾は胸の谷間にペニスをしまうと、その代わりのようにバナナを取り出して食べ始める。

「砂々成増(さっさなります)か。これだけの広さを砂漠化するとはやっぱりとんでもない能力だな……」
そうここは本来は花園のはず。
それが砂漠化したのは今回の対戦相手である砂々成増の能力『デザートウォーカー』のせいだ。
中学時代の凄絶ないじめによって傷つき涸れ果てた砂々の心象風景を反映し、
砂々の歩む周囲100mでは植物は枯れ、水は涸れ、建物は風化して朽ちる。
足の裏に触れれば動物でさえ砂と化す。
本来EFB指定されていてもおかしくないが、
その能力の源である心がかつて生家があった場所に引き篭もりとして縛り付けているため、
現在では事実上無害としてEFB指定を免れている。
16歳になった砂々はせめて形だけでも高校生にという両親のたっての希望と多額の寄付により、
希望崎学園に籍だけは存在している。
「俺も家庭訪問(監視)にいったことがあって知らない相手じゃないんだよなぁ」
やりにくいなと思いながら遠くに見える砂々に向かって歩き出す。
砂々はどうやら居るべき場所、生家のあった場所を探して彷徨っているようで、
ぐるぐるとおおよそ円を描き花園を砂漠へ変えながら徐々に戦闘領域外へ向かっている。
もぐもぐぽいっとバナナの皮を捨てた浅尾は頭を掻いて独り言のように語りかける。
「そろそろ場外か。半日近くかかったとはいえ楽な戦いだったな。
まあ俺が最後まで勝ち残ったら多分出してやれるさ。じゃあな、あばよ」



「「ってらっしゃいそしておかえり。あいかわらず早いね」」
一瞬の浮遊感に包まれ、広大な希望崎学園の敷地の一角に建てられた同窓会館の一室に戻ってきた浅尾に、
奇妙にダブった女の声が呼びかける。
「あ?あっちの時間経過がこっちに反映されないのはいつものことだろ。
それにあっちでも早くないよ……なんと3日もかかったんだぜ」
浅尾は目の前に立つ同年輩の女、『無縁双生児(ツインズ)』の片割れ如月讃良(きさらぎささら)に、
うんざりした口調で答える。
『無縁双生児』
如月讃良と簓樹木更(ささらぎきさら)という、記録の残る八代を遡っても血の繋がらない双子である。
天文学的とはいえ有限にすぎない遺伝子配列の必然的な偶然の一致により同時期に別々の家に生まれた双子。
その能力は完全なる共感覚(シンパシー)それによって彼女達は全く同じように振舞うことを好む。
今もここに居ない片割れが胸元のスピーカーを通して同時に話しかけてきているのだ。
「「えええなんで!?手間取るような相手じゃないでしょ」」
「それがかくかくしかじかで、さあ場外だってところであいつ急に真ん中に引き返して動かなくなってさ。
3日待ったけど腹が減るわ喉が渇くわで我慢できなくなって場外にぶん投げてきたってわけ」
『無縁双生児』はぶんぶんと大げさに頭を振り呆れたような口調で、
「「そんなに待たずにズバッとやっちゃえばよかったのに。生かして終わらせてもいずれ野垂れ死ぬだけでしょ。
知らない相手じゃないだけに直接手にかけにくかった?優しいのやら不甲斐ないのやら」」
もっともな意見である。浅尾は一瞬言葉に詰まるがぶんぶんと大げさに頭を振り呆れたような口調で、
「それも茶番だ。ぜ~んぶ茶番だ」
分かってるんだろ?と目で語る。
「「ああン、ハイハイいつものあれね。ハイハイ茶番茶番。ハイハイ」」
茶化すような態度に、無かったことになった絶食のストレスがぶり返し少し意地悪したくなる。
「一仕事終えてきた相手にその態度は無いだろう、キ・サ・ラ」
途端、少しばかり年甲斐も無いふくれっ面で食って掛かるのは、
「私はササラ!私たちは別々の存在。だからこそ同じであることが特別なの!
それを取り違えるなんて……しかも絶対わざだしゆるせない!!」
一通り叫んだところで満足したか、自分達も悪かったと思ったのか少し落ち着いた様子になった『無縁双生児』は、
「「なにはともあれ今回も生還おめでとう。さっさとそのふざけたの着替えてきたら?
いくら友達でも中身が男だと思うと見苦しいんだけどさ……」」
そう、浅尾龍導は魔人能力で女性化したとはいえ中身は男だ。それがバニーガールなど不快に思う者もいるだろう。
とはいえ長い付き合いで分かりきったことをいまさらことさら仕返しめいて悪戯っぽく、
挑むような目で言ってくる『無縁双生児』の意図を察した浅尾は面倒に思いながらも、
友人達が本心で生還を喜んでくれたのは伝わったので、
感謝を込めて勝ったからこそ価値ある口癖を二人と共に声にする。

「「「これも茶番だ。ぜ~んぶ茶番だ」」」