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決勝戦SS・空港その2


『テイクオフ・フォア・デイ・アフター・トゥモロー』

◇ 温泉旅館の続きの話
◇ 偽りの幼馴染
◇ 超時空の作戦会議
◇ 三つ巴エアポート
◇ ひーくんの昔話
◇ 私と師匠のケヒャリズム
◇ 天使は神父を救済するか?
◇ 貫く
◇ 最後の章の一つ前


付録.分かりやすいまとめ

◆綾島聖
常に温和な笑みを絶やさない、物腰柔らかな糸目の神父。希望崎学園に併設された礼拝堂に起居。
特殊能力は己の筋肉を爆発的に肥大化させ、尋常ならざる力を得る『剛魔爆身』。
この能力には高める能力を特化させたいくつかの《形相》がある(たとえば力天使であればパワーに特化)。

いわゆるケヒャリスト(「ケヒャーッ」と笑いながら毒ナイフで襲いかかってきそうな、三流のマンガ的殺し屋のこと)。
常敗無勝、必敗必死の《糸目》と呼ばれる闘技を修めている。
が、《糸目》の最低の落ちこぼれで、劣等生である綾島聖はどれだけ負けるための努力をしても勝ってしまう。

・プロローグ
欠片の時計所持者になり混乱状態になっていた大宮という女生徒を”救い”『欠片の時計』の所有者となる。

・1回戦(VS羽白幾也 【現代】病院)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/170.html
ケヒャって勝った。

・2回戦(VS一切空 /蒿雀ナキ  【過去】坑道)

粉塵爆発して(ないけど)勝った。

・準決勝(VSミスター・チャンプ(Mr. Champ) 【現代】ショッピングモール)

有象無象の糸目どもがミスター・チャンプを応援したので、ミスター・チャンプが足を引っ張られて負けた。


◆潜衣花恋
希望崎学園の女生徒。男勝りでぶっきらぼうな性格だが、かなり常識人。
特殊能力は触れたものから「何か」を奪う『シャックスの囁き』。

特殊能力や性質など「形のないもの」も自分が「持てる」ものであれば奪える。
奪っていられるのは最大40分で、また同時には1つまで。

・プロローグ
自分の大好きな姉が結婚すると聞いて凹んでいたら、死んだ親の形見を見つけて『欠片の時計』の所有者となる。

・1回戦(VS菊池徹子 【現代】軍用列車)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/139.html
友人である菊池徹子と共闘し、戦闘空間の「世界の敵」を倒す。
二人で基準世界に帰る方法を模索しながら潜衣花恋は時空科学者に、菊池徹子はその世界の『ヒーロー』となる。
60年の月日が流れ、菊池徹子が病死することで潜衣花恋の『勝利』となる。

・2回戦(VS山口祥勝 / 時ヶ峰健一 【現代】最終処分場)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/256.html
迷宮時計により『巻き戻し』が起こった後の、消えゆく『世界』の最終処分場での戦い。
巻き戻しに取り残された少女を救うために、三者が協力し『創世』を行う。
場外判定で『偶然』潜衣の勝利となり、山口と時ヶ峰は新たな世界での生活を始める。

・準決勝(VS蛎崎裕輔 【過去】開拓地)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/361.html
潜衣は欠片の時計の性質そのものを奪うことで再生能力を得て、蛎崎が召喚した北海道(すごくヤバい)に立ち向かう。
戦闘空間特有の異常重力を利用してナントカ勝つ。


◆馴染おさな
明るく溌剌とした雰囲気の、まさに『幼馴染みっぽい』美少女――を演じている少女。
特殊能力は『俺君、久しぶり!へへへ、なんだか懐かしいね。元気にしてた?』。
対象の名前を呼ぶ事により、対象の記憶を改竄し、おさなの事を『久しぶりに出会った、かつてほのかな恋心を抱いていた幼馴染み』であると思い込ませる洗脳能力。

同一世界上に既に幼馴染みが存在する場合、別の者を幼馴染みにした場合、前の幼馴染みは効果を脱する。
また一度幼馴染みにした者が何らかの手段でその効果から脱した場合、再び幼馴染みにする事はできない。

・プロローグ
『幼馴染み』である種人 光(しゅじん こう)をけしかけ、おさなにとっての迷宮時計を巡る戦いの初の相手を事前に始末する。

・1回戦(VSメリー・ジョエル 【過去】戦場跡)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/169.html
自らの右手と右足を焼失させたメリーを『幼馴染み化』。
奇妙な心の交流を交わしたのち、メリーがおさなを救う医者を探すために戦闘領域外へ飛び立ち、おさなの勝利となる。
何も知らない無垢な幼子が如きメリーに罪悪感を覚える。

・2回戦(VS山禅寺ショウ子 / 千葉時計草(伊藤日車) 【現代】高速道路)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/264.html
おさなは千葉時計草(伊藤日車)の誤りを含んだ推理光線を受けるが、山禅寺ショウ子を幼馴染み化して盾にすることで防ぐ。
その後、ショウ子を隙をつき殺害。
千葉時計草(伊藤日車)はショウ子の父親である梟奇と推理を紡ぎ直し、おさなが「久坂俺」という本当の幼馴染を、自身の能力により失ったという真実にたどり着く。
しかしその推理光線はおさなが「高速道路の世界」の自分自身を呼びつけることで二手に分かれ、おさなを仕留めるには至らなかった。
その後おさなは、自分の弱みに踏み込んだ伊藤日車を暴走族に嬲らせて殺した。

・準決勝(VS撫津美弥子 【過去】孤島)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/306.html
おさなは戦闘前に美弥子を幼馴染み化し、戦闘開始直後に美弥子の能力で元の世界に戻り敗北するよう促す。
しかし美弥子の友人の助けもあり、幼馴染み化を看破され失敗。戦闘がはじまる。
かつての美弥子の対戦相手も戦闘空間におり、おさなは美弥子が対戦相手にすら好意を持たれていることを知り、対戦相手を欺いてきたおさなは嫉妬する。
美弥子の戦闘意義である死んだ友人、眞雪の真実を語り、美弥子に殺人という罪を決意させてから殺害。





◇温泉旅館の続きの話
「――ただいま、花恋母さん」

(この章は時系列的に温泉旅館その2のすぐ後となります)
http://www60.atwiki.jp/dangerousss4/pages/357.html


「それにしても、なんで花恋母さんがここに?」
「簡易な歪時空計測器ができたんで試してみたら、早速大きな反応があったんでね。
 迷宮時計絡みかと見に来たんだよ。
 まさかイチがいるとは思わなかったけどな。
 その様子を見ると、お前も欠片の時計の保持者になって、そして負けちまったってとこかな?」
「‥‥うん、負けた。ごめん、俺、貫けなかったよ」
「ばっか、無事でよかったよ、本当に。
 私こそ、勝手に消えて、ごめんな」

花恋母さんに頭をポン、ポンとされる。
見た目が女子高生にこれをされるのはかなり恥ずかしいかったけれど、
母さんが少し泣きそうな顔になっていたので甘受することにした。

「‥‥と、ずっと感傷にも浸ってはられないな。
 私はまだ保持者として現役でね、色々と動かないとならないんだ。
 まずは状況共有だ。できればイチにも手伝ってほしい」
「もちろん。手伝うよ」
「とりあえず、今日は旅館に泊まろうか」
「え」

まさか結丹ちゃんの次は花恋母さんとお泊りとは。

「ん、嫌か?」
「い、嫌じゃないけど、えっと、金とかあるの?」
「おいおいおい、バカにするなよ。
 大丈夫、私には正義のヒーロー、ブラストシュートがついてる」


「そうか、ウラギールが裏切ったか。」
「ああ、ビックリしたよ‥‥。ってなんでそんな穏やかな顔なの」


「”掃き溜め”の連中は優秀だよ。メタリカとコンドルのおかげで歪時空計測器も作れたし」
「てか、さっきのブラストシュートがついてるって、ツケておくって意味かよ‥‥」


「イチには馴染おさなって子を見ていてほしい。
 生まれた世界すら違うお前なら彼女の能力にかかることはないはずだ。
 私が軍用列車の、――お前の生まれた世界で観測できた『保持者同士の戦い』で勝利した人間だ。
 『戦場跡』の戦いについてはあとで詳細を教える。
 曲者ではあるけど、あの戦いを見る限り、根っからの悪人って訳じゃなさそうだ。
 だからってほだされるなよ」
「だ、大丈夫だよ」


「シールド・マントをあげた‥‥?対戦者に‥‥?ほだされて‥‥?」
「ご、ごめん、まさかこんなことになるとは思わなくて」
「ふぅん、刻訪結ねぇ‥‥」
「めっちゃ怖い」


「今日はこのぐらいにして飲むか!」
「え、花恋母さん飲むの?その年で?」
「いいんだよ、実質80近くなんだから!」


「イチ、まだ起きてる?」
「うん」
「戦ってきたお前なら分かると思うけど、こっちに戻ってこれなくなるかもしれないし、もしかしたら死ぬかもしれない」
「‥‥やめてよ」
「その時は、愛花姉のことお願いね」
「‥‥そんなことにならないように、勝ってよ、花恋母さん」
「あっさり負けたバカ息子に言われてもなぁ」
「うぐ」


‥‥‥

‥‥



◇ 偽りの幼馴染ふたり

ミスターチャンプ死亡、その衝撃的な事実は当然ながら基準世界(ここ)にもミスターチャンプ自身の能力により伝えられている。
勿論あの試合は私、馴染おさなもチェックしている。
綾島聖、あいつは何なのだろうか。
まるで、彼の意志とは別のところで彼の勝利が決まっていたかのような試合だった。

『幼馴染み』の情報屋を使って分かった情報も少ない。
彼には魚宮美桜という同じ年齢の幼馴染みがいたが、行方不明になっていること。
その後《糸目》というふざけた闘技を修得し、胡散臭いエセ神父として収まっていること。
彼が勝利してしまう理由も分からない上に、本物の幼馴染みがいた(つまり、私の能力が利きにくい)となれば、全力で戦いを避けたい相手だ。

しかし2時間前、無情にも欠片の時計は対戦相手に綾島聖を指定した。
もう一人の潜衣花恋、こいつを利用する他ないだろうか。
新しい『幼馴染み』の情報屋に彼女の情報を探らせている。
彼女が綾島聖攻略の捨て石となれる人材なら良いのだけれど。

「馴染おさな」
不意に声をかけらえる。
しまった、先手を取られた。
「私は潜衣花恋だ。
 警戒しないでくれ、不意打ちするつもりならもっとうまくやる。
 綾島聖について相談したい」
「‥‥やだ、警戒するわけないじゃない!

 ――久しぶり、花恋。」


「驚いちゃったな、まさか花恋が対戦相手だなんて」
「ああ、私も驚いたよ、まさかおさなまでこんな戦いに巻き込まれてたなんて」

近くの喫茶店に入り、二人での相談会議を始める。
見事に私の幼馴染になってくれた潜衣花恋。
笑いそうになるのをおくびにも出さず、私はいつものように幼馴染みを演じる。

私が無邪気に尋ねると、潜衣花恋は色々なことを教えてくれた。
綾島聖が「勝ってしまう」理由の仮説。
これまでの戦いのこと。
「軍用列車の世界」での60年。
同一の世界線で行われた「戦場跡」での私とメリーの戦いを見ていたこと。。

「つまり、私の能力で綾島って人を誘導する必要があるわけね」
「ああ、そうなんだ。お願いできるか?」
「ねぇ、花恋、幼馴染みである貴方は知ってるはずだけど、私の能力は理解できてる?」
一瞬目が泳ぐ潜衣花恋。
「あ、ああ。名前を呼んだ対象を味方にする能力だろ?」

「はぁ」
思わずため息を吐く。
「あんたのあのエセ神父に対する考察はなるほどと思ったし、手を組むのは構わないわ
 このままじゃ私に勝ち目無さそうだしね」
私は幼馴染みの演技を止める。

「‥‥おさな?」
「だからこそちゃんと言っておくけど、私の能力そんなに万能じゃないの
 1度使った相手には2度と使えないし、『幼馴染み感』が足りなければ能力は解除されるわ。
 例えば、アンタみたいに精神年齢80才のババアで、さらに私の能力について知ってるだなんて状況で、幼馴染みのままでいられるわけないの」
「‥‥なるほど、神父に効かない可能性はあるってことか」
「そういうこと、過信して自爆しないでよね」
ふぅー、とため息をつきながら背もたれに体重を預ける潜衣花恋。

「お前の能力は対象に効果が出てるかは把握できるってことでいいのか?」
「できないわ」
少し甘すぎるロイヤルミルクティーを仰々しく飲み込む

「‥‥じゃぁなんで私に能力がきいてないってわかったんだよ」
「そんなこと敵に教える訳ないじゃない。
 まぁ、あなたは役者に向いてないとだけはコメントしておくわ」
「割と死にたくなってきた」
「死ぬのは神父が死んでからにして欲しいわ」

潜衣花恋は対戦相手の表示から私への接触が早すぎた。
それはつまり、私を事前に知っていることを意味しているし、おそらく最近まとわりついていたスパイは彼女の手のものなのだろう。

だから、私はそもそも彼女の名前を読んだだけで、能力を使用してなどいなかったのだ。



◇超時空の作戦会議

「まぁ、一応馴染おさなと協力関係は結べたんだな」
『ああ、すげぇ恥ずかしかったけど』『デンデラワロww』『時ヶ峰、また後光強くなってね?』

いつもの「最終処分場の世界」と基準世界をまたがった作戦会議の時間である。

『とりあえず祥勝君にはさっきお願いした通りに能力を使ってほしい』
「その祥勝君ってやめてくれる?」
『デンデラ、ちょっと調子乗りすぎよ』『A子嫉妬乙ww』『祥勝くぅんには拒否権無いのがつらいですなぁ』

「しかしこんだけ時空をまたがった能力使用したことないからな、うまくいくといいんだが」
『チャンプも出来てたんだし行けるっしょ』『時ヶ峰様もついてるし』『私としてはその能力持ってて並列空間座標について何も知らなかったのビビる』『あ、デンデラばばあの説教が始まった』『老害乙』

「しかし、荒唐無稽な作戦だな‥‥、うまくいくのか」
『まぁ似たようなこと成功させたことあるし、創世よりは楽だろ』
「それ言ったら大体全部楽じゃねぇか。まぁいいさ、俺がやるべきことはやってやるよ」
『うん、よろしく。メタリカとコンドルは装備いろいろありがとな』『安心しろ、祥勝にツケてる』『美しく勝ってくださいね』『時ヶ峰が眩しすぎて祥勝君が見えない』『画面が真っ白すぎて私の能力も意味ない』

戦闘開始まであと少し。


◇三つ巴エアポート

――戦闘開始。
まずはおさなと合流しなければならない。
大量の持ち込みも仕掛けたり隠したりしながら身軽になっていた方がいいだろう。
そう思ったところで違和感に気付く。

「おいおいおいおい、マジかよ‥‥」
私はしばし、そこで立ち尽くしてしまった。


《糸目》が空港ですべきことは何だろうか。
100人の《糸目》に聴いたら100人がこう答えるだろう、危険物の持ち込み、そしてハイジャック!

坑道で粉塵爆発に固執したように、綾島聖は今ハイジャックのことしか考えていない!
「さァ~~、私と一緒にお空の旅に出かけましょう。天国直通ですけどねェ~」
アイスピックを無駄に投擲しながら空港を駆ける綾島。

しかし、おかしい。いくら綾島でもその異変には気づいた。
空港にも関わらず、飛行機が一機もないではないか!それどころか人っ子一人いない!
「こ、これは一体どういうことですかァ~~?」

綾島には知る由はないが、これは潜衣花恋の作戦であり山口祥勝の仕業であった。
その能力『ハイライトサテライト』によって、この「空港の世界」に事前に脅威を伝えていたのだ。
その世界の住人が潜衣花恋に協力してくれるように仕向けることも考えたが、
潜衣を信用させる材料がないことや、打倒綾島には数の暴力が無意味であることから、
単純に時空にまつわる能力によって空港が戦場になることを伝えている。
これで開拓地のように現地人の犠牲は出ないはずだ。

ハイジャックへの道は絶たれている。
さぁ、どうする綾島聖!


おさなとの合流はスムーズに成功した。
私の迷宮時計の性質のおかげで、あらかじめ空港の構造が分かっていたので待ち合わせ場所を決められたし、
綾島聖が分かりやすく暴れていたので道中の会敵の心配がなかったのだ。
そして、彼は今も暴れている。

「私の可愛い飛行機さァ~~ん、隠れたって無駄ですよォ~~、すぐに見つけてあげますからねェ~~~!」
綾島は空港のいたるところを破壊しては飛行機を探している。なんて純粋なのだろうか。
「ここかなァ?それともここですかァ~~?」
ごみ箱を破壊!そこに飛行機があるわけないだろ!

「私、アレを幼馴染みにするの?」
「う、うん、頼むよ。大丈夫、幼馴染み化が失敗したときのプランもある」
「ふぅん。ところで、空港に全然人がいないのはアンタの仕業?」
「‥‥ああ、そうだ。無駄な犠牲者を出したくなかったんでね」
「あっそ、まぁいいわ。とっととやっちゃいましょう」

作戦は至ってシンプル。
おさなが綾島を幼馴染み化をして、私が「おさなの友達」として近づき、そして触れる。

十分距離を取って、二人で綾島に姿を見せる。

「おやおやおやぁ、お二人も飛行機探しを手伝ってくださるのですかァ~~?」
「聖君、久しぶり!へへへ、こんな所で会うなんてびっくりだね。元気にしてた?」
「ギ、ギヒャッ、ぐ、ぐああ」

綾島が苦悶の表情を見せる。このパターンは予想外だ。
「おさな、何が起こっている」
「わ、わかんない。私だってこんなの初めてよ」
頭を抱え、青筋を立て、あの綾島聖がうずくまる。

「でもこれってチャンスじゃない?」
「‥‥そうだな。この剣、預かっていてくれ。
 ――『スカッドストレイトバレット』!!」
あらかじめ、息子に借りていた能力を発動し一気に接近!
私は綾島聖に手を伸ばす。

ドカンと、漫画のように綾島聖が爆発した、ように見えた。
危険物持ち込み。綾島は空港において三下の基本のそれを忠実にこなしていた。
彼の体にはおびただしい量のダイナマイトが巻かれていたのだ。


潜衣が綾島を殺した瞬間に、私が潜衣を銃で撃ちぬく。
その作戦は見事に失敗した。
綾島の爆発は、十分に距離を取っていたつもりの私にまで届いたのだ。

爆心地の綾島は爆発を経てなおうずくまっている。
肉体に損傷は見られない。いくらなんでも丈夫すぎる。

潜衣は死んだのだろうかと思ったが、気づくと彼女も無傷で立ち上がっていた。
アイツ、再生能力でもあったのか。

再び綾島に近づく潜衣。
しかし今度は不自然なタイミングで地割れが起こり潜衣を阻む。
‥‥やっぱり危惧していた通り、あの神父は運命とでも呼ぶべきものに勝利を決定づけられているのだろうか。
発動すれば絶対的な勝利をもたらす潜衣の能力を前に、その運命は自らの存在を隠すことなく猛威を振るっていた。


◇ひーくんの昔話

《1周目》

「ねぇ、ひーくん」
俺を呼ぶ甘ったれた幼馴染みの声。
しかし、彼女自体の姿は見えない。
彼女のテレパシー能力「コーリング・ユー」によるものだからだ。
この能力は性質の悪いことに、着信拒否することも、こちらから切ることもできない。
かけるタイミングも、切るタイミングも彼女次第だ。

「筋トレ中だ。邪魔をするな。あとひーくんって呼び方はいい加減にやめろ」
「筋トレなんてしなくてもひーくん十分強いじゃん」
言ってるそばからひーくん呼びだ。

「俺より強い奴なんていくらでもいる。俺は誰にだって勝てるようになりたいんだ」
「男の子だねぇ。でも叶えたいことがあるのはうらやましいな。私にはないもん、そういうの」
「ないなら見つければいいだろ」
「うん、そうだね、私もはやく見つけないと、叶えたいこと」
「そんなに急ぐ必要なんかないだろ」
「‥‥うん、そうだね」


「ねぇ、ひーくん」
俺を呼ぶ甘ったれた幼馴染みの声。
だが、その声はかすかに震えていた。

「おい、どうした?何かあったか」
「あはは、ズルいなぁ。いつも邪険なくせに、こういう時は優しいんだ」
「おい、きちんと言え、お前今どこにいるんだ」
「どこ、なんだろうねここ。すごく、遠いところに来ちゃった」
この能力は、本当に性質が悪い。

「美桜!きちんと言え!すぐに助けに行く!」
「ごめんね、もう無理なんだ。
 私、もう負けちゃったんだ。
 ああ、いつもウザい電話してごめんね、これが最後だから」
「バカ、何言ってるんだ」
かけるタイミングも、切るタイミングも彼女次第だ。

「せっかく、叶えたいこと、見つかったんだけどな」
「美桜!」
「バイバイ、ひーくん」
その電話はあっさりと切れて、2度とかかってこなかった。


美桜は「行方不明」になった。
彼女の日記に、欠片の時計のことが書かれていた。
俺は、自分がすべきことを理解した。


俺は勝ち続けた。
知り合いに勝ち幼い少女に勝ち有名人に勝ち美桜を殺した奴をぶったおした。

『綾島聖を、統一者として認める』
一つとなった迷宮時計が、俺に語りかける。
やめろ、俺の頭に直接語りかけていいのは美桜だけだ。

「叶えろ、俺の願いを
 美桜が死ぬ前に時を戻せ。そして美桜の最後の願いを叶えろ」
『いいだろう』

俺は、理解していなかった。
迷宮時計の性質の悪さに。


「コーリング・ユー」を解除する。
ごめんねひーくん、最後までめんどくさい幼馴染みで。

もしも勝てたら、こう願おうと思ってたのになぁ。
ひーくんが誰にも何度でも負けないようになれますようにって。
それにしても自分ながらウザい電話しちゃったな。
私のことは、忘れてほしい。これも願いごとに足してしまおう。

失われていく意識の中で
『その願い、聞き入れた』
という声が聞こえた気がした。

††

《2周目》
気が付くと、俺は欠片の時計の保持者になっていた。
殺して殺して殺して殺して優勝した。

『綾島聖を、統一者として認める』
大事な何かを忘れている。
「お前の仕業か迷宮時計」
『私は、お前の願いを叶えただけだ』
「巻き戻せ、俺が大事なものを思い出すまで、何度でもだ」
『いいだろう』

《3周目》
勝って勝って勝って勝って優勝した。

《10周目》
勝って勝って勝って勝って優勝した。
何で戦ってるんだっけ。

《20周目》
勝って勝って勝って勝って優勝した。
もうやめたいと言っても、迷宮時計は『その願いは現在叶えている願いに矛盾する』と取り合わなかった。

《30周目》
常敗無勝の闘技を学び始める。
勝って勝って勝って勝って優勝した。
それでも、負けたいのに負けられない。

《40周目》
《糸目》が板についてきたよォ。
それでも勝って勝って勝って勝って優勝してしまいましたがねェ。

《50周目》
殺して殺して殺して殺して優勝ォ~~!!
死ヒャハハハハハハァッ!!!

‥‥‥

‥‥



◇私と師匠のケヒャリズム

綾島への接触を繰り返し繰り返し図るが、それでも私の手は届かない。
この可能性は考えていたけれど、実際に目にするとゲンナリする。
仕方がない、分の悪い賭けだけれど、プランBだ。
私は祥勝に端末を通じて連絡を入れた。

「悪いな、馴染おさな。作戦は失敗だ。大丈夫か、その怪我」
「大丈夫に見える?とっととプランBとやらに移って欲しいんだけど」
「そうだな」
ふぅ、と深呼吸をする。
何しろ実践は久しぶりだ。

「教えてくれなかったけど、プランBってなんなのよ」
「知りたいですかァ」
「当たり前じゃない。って潜衣?」
「教えてあげますよォ~~。
 プランBはなァ~~、お前をひき肉にしてぶち殺すっていう素敵な計画だぜヒャハハハハハ!!」
私は、自身の目を糸のように細めた。


―「軍用列車の世界」にて

「ウラギール、私に《糸目》を教えてくれ」
「おやおやぁ、潜衣さん、組織の参謀であるあなたが何故《糸目》にご興味をお持ちなのですかァ?」
「《糸目》は運命を操作する闘技だと聞いた。
 やれることは、できるだけやっておきたいんだよ」
「クックック、いいでしょう、あなたには大きなご恩がありますからねェ~~。
 私でよければ教えて差し上げましょう」


「アエイウエオアオォ~。カケキクケコカコォ~」
「潜衣さぁん、まだまだが語尾のビブラートが美しくないですねェ~~~
 その調子ではこの私に負けようなど100万光年早いですよォ~~~~」


「ウラギール師匠ォ~~、あなたは何故《糸目》を修得されたのですかァ~~?」
「いいでしょう、冥途の土産に教えて差し上げましょォ~~~。
 私はソノナノ通り(ストリート)出身なのです」
「な、何ィッ!
 無数の名もなき子供たちが捨てられ、『名付けおじさん』によって与えられた名前の通りの運命を辿ってしまうというあのソノナノ通り(ストリート)出身だったとでもいうのですかァ~~!?」
「キョヒャッ!良い解説的セリフと三下的リアクションですねェッ!
 私は物心がついたときには既に『ウラギール・オン・シラーズ』という名前を授かっていましたァ~~
 そう、私は恩人を裏切ることを運命づけられていたというわけですよォ~~
 ‥‥私は、その運命に少しでも逆らいたかったのですよォ~~」
「なるほど、《糸目》を修得していれば恩人を裏切っても安全に負けられる、という訳か。
 ウラギール、お前いい奴じゃん‥‥」
「急に素に戻るの止めてもらえます?」


「キャハハハハハ!何も心配することはありませんよォ、あなたの死体は私が科学の発展に役立ててあげますからねェ~~~!!
 さァッ、この硫酸をあなたの綺麗な顔にドバドバして近代芸術にして差し上げますよォ~~。

 ギャボァッ!」
「素晴らしいですねェ~~~、勝手に喚いて勝手に薬品を爆発させて勝手に倒れるとはッ!
 もっとも、おネンネしているあなたには聞こえていないでしょうがねェ~~ッ!!」

‥‥‥

‥‥



――再び、「空港」にて。

「ちょっと、一体何の冗談‥‥!」
「私は冗談が嫌いでしてねェ~~、この貴方に死んでほしいという気持ちは100%、いや200%純粋な感情なのですよォ~~」

突然ケヒャりだした潜衣を、私は潜衣に預けられていた剣で捌く。
身体強化百姉妹に強化されている私の方が純粋な力では上だ。
しかし潜衣に傷を与えても瞬く間に再生してしまう。

「怪我が治っていくのが不思議なようですねェ~~~。
 私は今、自分自身が欠片の時計となることで再生し放題なのですよォ~~~~!
 故にッ、あなたが私にぶち殺される確率は400%以上ッ~~!」
無駄な解説、無駄な語尾、無駄な動き、全てが無駄に修飾されているにもかかわらず、事実私は追いつめられている。
というか不死って何よ!チートじゃない!
状況を打開しようにも、打つ手がない。

「さァッ、とどめですよォ~~、死ねェッ!!」
無駄に高い跳躍。

「死ヒャァーアアアーーーッ!!信じていた幼馴染に裏切られるお気分はいかがですかァ~~!?」
うるさい、お前全然幼馴染みじゃないから。
ああ、ここまでか。こんな三下にやられるなんて、まったく、ひどい年貢の納め方もあったものだ。
負けたくないなぁ。
会いたかったよ、俺君。
私はいっぱい嘘をついてきたけれど、この気持ちだけは本当に本当だった。
目をつむり、誰に対しても謝らず、私は死を覚悟した。

――ゴォッ

想定外の轟音に目を開く。
三下がどこかへと吹っ飛ぶ。

「助けに来たよ、おさな」

なんで。なんでお前がここに来るんだよ。
私はお前を裏切ったんだよ。そのぐらい理解しているだろう。


◇天使は神父を救済するか?

―時はさかのぼり、超時空の作戦会議にて
「で、プランBって何なんだよ」
『メリー・ジョエルを召喚する』『超展開www』『誰?』『風天は黙ってて』

『まぁちょっと聞いてくれよ。私の仮説だと綾島が勝ってしまうのはおそらくあいつが「優勝者」で迷宮時計の影響なんじゃないかってことは話したよな。
 だから同等の力で干渉しようぜって話。
 「軍用列車の世界」で観察した中でもメリー・ジョエルは特異の存在だった。
 なんたって彼女は欠片の時計じゃなくて、迷宮時計そのものを保持していたんだから。
 おそらく彼女が持っていたのは、この基準世界ではない世界線の迷宮時計なんだろう。
 だからこそ、馴染おさなに負けても彼女はその時計を失わず、「戦場跡」の時空を歪ませて眠っているんだ。

 彼女はおさなに会いたがっているはずだ。
 彼女自身の時空間跳躍の力に、私の《糸目》の運命操作のサポートがあれば、きっと召喚できるはず。多分。
 キュアヴィクトリーの前例もあるしいけるいける』
『《糸目》をしつつ馴染おさなをボコボコに追い込むことで、馴染おさなを勝たせる要素であるメリーを召喚するのか』『長文乙』


「――来てくれたか、メリー」
潜衣花恋の細まった目が開かれる。

「‥‥なに、メリーがここに来たのもアンタの差し金なわけ?」
「細かい話はあとだ。メリー、祥勝君から話は聞いているかな。お願いできるか」
「‥‥おさなをいじめたあなたの言うことを聞くのはシャクだけど、分かってる。
 任せて、私は迷宮時計の運命を捻じ曲げるための存在。
 すでに綾島聖に対する迷宮時計の運命操作は弱まっている」


「ええ、感謝しますよォ~~、この私を勝利の因果から解き放ってくださってねェ~~~!
 お礼に天国に導いて差し上げましょォ~~!!」
「く、復活していたのか」
「来ないのであれば、こちらから逝かせていただきますよォ~~!!クギャハーッ!!」
無駄な大跳躍を経て潜衣に襲いかかる綾島!
潜衣花恋は彼に手を伸ばし、
そしてその手は容易く彼の体に触れた。

「『シャックスの囁き』
 お前の心臓を奪った。」
潜衣花恋の手には心臓が握られている
「――心臓を奪われてもまだ、生きてるなんてな、我ながら呆れるぜ」
綾島聖の目は、今は糸のように細められてはいない。
「思い出したんだ。大切な幼馴染みがいたことを。
 それが、誰だかは思い出せないのだけれど。
 だから、ありがとう」

彼に馴染おさなの能力は正常に効かなかった。
偽りの幼馴染ではなく、本当の幼馴染の記憶が少し蘇っただけだ。

「どっちが勝つのか知らねーけど、優勝しても気をつけろよ。
 迷宮時計は性質が悪いからな」

そう言うと、彼は自らの頭を掴み、そして握りつぶした。


◇貫く。

「じゃぁ、決着をつけようか、馴染おさな」

「おさな、私も戦う」
「‥‥メリー、私はあなたに謝らない。」
私は、私が間違ってきたことを知っている。
それでも、私は誰に対しても決して謝ったりなんかしない。

「あなたが思ってるような奴じゃない。
 それでも、私に力を貸してくれるの?」
「うん、もちろん」
「私が勝ったら私はまたいなくなるのよ」
「それでも、助けるよ。
 ねぇおさな。
 私は戦場跡での選択、後悔なんてしたことないよ」

「‥‥本当に、バカみたい」
潜衣から預かっていた剣を、本人に突き付けて私は宣告する
「いい?潜衣は不死身能力を持ってる!
 場外まで連れ去って!」
「了解」

「悪いけど、決着は一瞬だ」
潜衣が声を吐く
「そして、その決着をつけるのは私じゃぁない」
痛い、ではなく、熱い、と感じた。
潜衣に突き付けたはずの剣が、私自身を貫いている。

「何‥これ‥」
立っていられずに、床へと倒れ伏せる。
「オドロキモモノキでありましたか?おさなお姉ちゃん」
剣が喋る。
ふざけた口調とは裏腹に、その声は鋭利に澄んでいた。
「ふ、ふふ‥‥シェルロッタ、あんたか」

「おさな!おさなっ!大丈夫!?」
メリーが駆け寄り、シェルロッタを私から抜いて投げ飛ばす。
ああ、大きい傷の時は抜かない方がいいんだけどな。
でも関係ないか、この致命傷だ。どっちにしろ死ぬ。

「おさな、死んじゃいやだよ」
バカな子だ。
結局この子は私に振り回されてばかりいる。
こんな時、どんな言葉を吐けばよいのだろう。

「メリー‥‥」
それでも、私は謝らない。
だから。

「ありがとう」

ああダメだ。
一番私に似あわない言葉だったと、最期に少し後悔した。


◇最後の章の一つ前
帰ってきた。
また帰ってきた、基準(この)世界に。

「‥‥勝手にもぐりこんで、ゴメンナサイでしたな」
「びっくりはしたけど、まぁいいよそんなことは」
おそらくシェルロッタ混入はイチが手伝ったんだろう。

「シェルロッタは、ただしい選択をできたですか?」
‥‥分からなかった。
イチを通して聴いていた撫津美弥子への仕打ちからすれば、馴染おさなは死んで当然の人間だったように思う。
シェルロッタが仇討するのだって理解できる。
理解できるけれど、それが正しいのかは私にはわからない。
実質ババアだというのに、情けない話だ。

「‥‥お前は頑張ったよ。
 すごく頑張った。」
シェルロッタの表情は、冷たく硬い。

「だから、もう、泣いてもいいだよ」
一瞬きょとんとして、そしてその表情が崩れる。
「う、うぇええええええええん!
 みやタン、まゆタン‥‥!
 うわあああああああん」

腕の中で震える少女につられ、私もわんわんと泣き出してしまう。
「結構さ、花恋って泣き虫だよな」
徹子の声が聞こえた気がして、心の中でうるさいなと答えておいた。


◇テイクオフ・フォア・デイ・アフター・トゥモロー

目を覚ます。
いや、死んだはずだから、目を覚ますという表現はおかしい気がする。
焦点が世界にあわない。

「おさな、おさな‥‥!」
あり得ない声が聞こえて、慌てて意識を世界に接続する。
まさかこの子、あの世にまでついてきたんじゃあるまいか。

「‥‥てあれ、ここ空港?私、死んでない?」
「うん、うん!
 あのシェルロッタって子が、潜衣におさなを助けるように言ってくれたの」
「‥‥なんで。なんでよ。
 なんでよりによってあの子が私を助けるのよ」
「『ミヤたんは、ショーワルにマドわされねば、ホントはこうする子ですな』って言ってたの」

バカだ。
仇を助けてしまうシェルロッタも、
それをホイホイ聞いてしまう潜衣も。

――そして、裏切られても慕ってくるこいつも。
「あんたも、何で私のこと助けてるのよ
 もしかして私が裏切ったって理解できてない訳?」
「決まってる。おさなは、私の、幼馴染みだから」
本当に、バカばっかり。

「‥‥おさな、気づかなくてごめん、私たち囲まれているみたいなの」
「ここの世界の人間か、面倒ね。とりあえず逃げないと」
「うん、いこう」

そういいながら私をお姫様抱っこの形で抱き上げるメリー。
「いや、何やってるの」
「計算上この形が一番安定。テイクオフ5秒前」

何を言っても無駄そうなのでやめておこう。
言っておくけど、私はそう簡単に改心なんかしない。

絶対に俺君の幼馴染に戻ってやる。
その過程で、潜衣やシェルロッタに私を助けたことを後悔させてやるんだから。

「3、2、1、テイクオフ!」
この離陸が、どこへと向かうのかは分からないけれど、なんだかあさっての方向に進んでいるようでげんなりする。

夕日でオレンジに染まるメリーの銀髪を眺めながら、
泣きそうになってしまって、何とかこらえた。