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野試合SS・厨房その3


【ダンゲロスSS4外伝。ラビリンス・ナイトメア】

~善通寺 眞魚(ぜんつうじ まお)の事情~

「ふぁ、よおぉねたわぁ。」

ここは”四国”八十八ある封印の一角、とある霊山の頂き。
先の先まで高いびきをかいていた一人の青年は、むくりと起き上ると大きくうーん背を伸ばした。
見渡す限りの秋晴れ、今日もいい天気だ。
なんかオッサンのやたら艶ぽい声で「ないとぉめぇあ~」とか耳元でさされ起こされた気がするが気にしないことにする。

散切りの茶髪にヘッドホン、白衣をきた青年。彼の名は、もう大分皆様にお馴みになってきた
気のいい兄ちゃん、善通寺 眞魚その人である。先の対戦相手である蒿雀ナキを土蜘蛛の御頭に預けてから、
はや一週間、彼は希望崎学園より、自らが守る四国の地へと舞い戻っていた。

西方の地、“四国”。
88カ所に張り巡らされた結界で護られた、謎の多き土地。

曰く『黄金と暁の地』
曰く『“新潟県”以上の魔境』
曰く『白亜の宮殿が聳えており、その奥に封印された恐怖の凍結魔神が佇んでいた』
曰く『水道の蛇口から水ではなくポンジュースがでる』『そして我々は三日三晩踊る奇祭に参加した』
曰く『学生が帰り路、普通の民家の台所に入っていくと30円おき、さぬきうどんを「買い食い」と称し勝手にゆでて食べはじめた。』

様々な流言と憶測が飛び交う土地である。住むものとして本当かと問われれば、この男はだいたいあちょるかのと答えるであろう。
ただ、だからといって住んでる連中が、あやしいという訳ではない。その点は善通寺も強く念を押し否定しておきたいところだった。

「いや、ほんまもんの”アヤカシ”はいるけれどもよ。”怪しく”はないっち」
ポサボサの茶髪をポリポリとカくと彼は高所から自ら生まれ育った四国の地を見渡す。
この地は今日も平穏。あやかしと人々が平和に共存している。これも毎年の巡業がスムーズに行われている故であろうか。

だが、一時も油断はできない。善通寺自身はこうも評していた。この地は”仮縫い”の地だと、88か所をも縫い針をいまだ抜くことができぬ、吹けばさした針がとび、被せた布と理が容易く翻る禁断の地。
”しこく”は一度濁れば、”じごく”へと変わる。そういうオモたか業と理(ことわり)を背をッた場所…

そのことを一番知っているのもまた彼だった。
「秋の巡業、終わったばかりつーのにさわがしか」

彼は彼を叩き起こしたカラクリ時計を見やる。
時計より射でたカラクリ飛魚は彼の額にささっていた。もうちょっと優しい起こし方はできなかったのだろうか

「…次の相手、二人とも異人さんかい。こりゃ、今回もえらしんどなりそうやの」


ウィッキーさんによるプロフィール『善通寺 眞魚』

四国の八十八箇所あるという封印の管理人。所在地:不定(四国内を巡回)
『書道』の使い手。
魔人能力は不明。式神を用い移動する姿が目撃されているため、書道を絡めた陰陽系列の技と思われる。
1~2週間前、希望崎学園周辺で姿が目撃されており、その際、迷宮時計を入手した模様。




~色盲画家ストル・デューンの事情~


そこは彼の画廊。天空には白き月が輝き、どこまでも続くと知れぬ長き回廊が永遠と続く。
彼はそこを悠然と歩いていた。

「存在するものは毅然としてあり、空間の中に一点の肖像を生み出す……」
彼はそっと両眼を閉じた。
次の瞬間、全てが一瞬ワイヤーレス化した後、世界が暗転。彼だけが知る赫き世界が広がる。

ストル・デューンは時計を見やると一点の、否二点の運命を読みとる。
時計より生まれ出た対戦者を示す字(あざと)からは彼らの運命(いきざま)が滲みだしていた。
ストル・デューンは閉ざされた眼で運命を読み上げる。

これは書道家。だが、それよりも優先するモノがこの者の中には有る。彼の運命の糸は故郷に繋がっている。

これは英検使い。だが、それよりも優先するモノがこの者の中には有る。そして彼の運命の糸は…いずこかに向かいその途中で消え去っている。

糸の先は見えない。恐らくこの者は消え去る定めなのだろう。
だが彼はそのことに何の感慨も抱いていなかった。そも人に対する興味がないのだ。例えそれが自身のことだとしても。
何れにしろ書道家、英検使い、彼の前衛芸術には及ばない、そのことを感じとれればそれで良かった。

だが、戦場の指定場所に眼を向けた瞬間(正確に言えば彼は眼を閉じたままであり又眼も向けていなかった。その必要はない。何故なら赫き瞳は360度全ての事象を見渡すのだ)
ストルはその端正で中世的な顔を歪め、にやりと笑う。

『宴』の合図だった。

ああ『宴(あくむ)』が始まるのだ。全ての偽りが暴かれ世に新しい『理(ことわり)』が誕生する。
彼は軽快にワルツを踏んだ。

ではならば、私は、潔く、勇んで準備に取りかかろう。自分は自分の仕事を為すだけだ。

彼は直角に方向転換を行うと壁の中にずぶりとのめり込みそのまま消えていった。まるでそれまで歩いていた道筋がまるで意味のないものでもあったかのように。そう彼の画廊は全て虚構であり、実態を持たない。

「存在するものは毅然としてあり、全ての事象はただ1点の理を示す」

そしてそれよりの彼の足取りは洋として知れなかった。


ウィッキーさんによるプロフィール『ストル・デューン』

前衛芸術家。所在地:不定(希望崎学園周辺に出没)
魔人能力:不明。
 戦闘力:不明
参加動機:不明


~ウィッキーさんの事情~

そこは何処にかあるホテルの一室。
不詳の内弟子兼元助手のSOSを受け、『迷宮時計』の解明に挑むことになったウィッキー・リークスは依頼元の送られてきた時逆順に纏わる情報と自身が集めた『迷宮時計』に関する情報の統合を行っていた。

転校生側の情報提供(リーク)によれば
時逆順の魔人能力は『過去未来全ての並行世界を自由に行き来する能力』とのことだった。
また『この際、過去未来に干渉し可変することも可能』とある。

これは一見、万能に見えるが、巷に流布している『何でも願いがかなう』万能能力とはほど遠いものだった。
そして当たり前の話になるが、参加者するほとんどの者がこの事実に気付いていない。

(今回のキーは”レギュレーション”。共通事項として唯一明確に製作者の意図を反映してるのここだけですし)

おそらく迷宮時計は製作者の意図を反映して参加者の誰にもルール説明の際、時逆順の詳しい能力などは伝えていないだろう。
通常の参加者は転校生の”元の”能力など知り様もないし、確認しようもない。ほとんどのものが、
自然発生的に広がった噂話のほうに意識を引っ張られる形で、その万能性を「是」としているのだ。

そう事実を上手く省いている。あるいは希望的観測に傾くよう心理的な罠を仕掛け、認めたくない真実から眼をそむけさせているといえた。
肉親や恋人を取り戻したいといった『悲願』に駆り立てられている人間ほど、この蜘蛛の糸に縋り甘い餌こそマコトと信じ込む。
正義感や義侠心にからかれた者達もまた同じ。蜘蛛の巣に前ノメリに突っかかりいつのまにか絡み取られてしまう。まったく正反対の様にみえて、この蜘蛛の巣と糸の材質は同じなのだ。

(重要なのはこの世界の『認識』。時逆順の魔人能力をより強い『認識』で上書きしようとしている。
残留者や戦いの爪跡という形で他の並行世界にも種をまき、そこの認識も取りこんで何度も何度も、
このまままでは時逆順の能力は『何でも願いがかなう』とんでもないものになってしまいかねない…)

(ただ、集めたデータからだとそこから先が全然見えてこない。製作者の動機と目的が皆目不明。
なんでしょうね、この時折感じる”まるで相手にされていない感覚”は…、
恐らく私のほうで決定的な何かを見落としてますね、とてつもなく重大なけれど単純な事実を…)

ここまで考えを進め、彼は思考を中断する。

新たな対戦者との試合をイントロヂュースするため彼の携帯電話が、鳴ったのだ。

「今回の対戦相手は2名。三つ巴ですか。一人目は善通寺 眞魚、四国における巡業を取り仕切る封印の管理人ですね。
もう一方のストル・デューンさんは画家と、幾つか作品を発表している。かなり変わった作風ですね。
ジョン・ストループ効果?ただプロフィールには色盲とある。さてどちらをメインに当たるべきでしょうか?あと…」

リークスの淀みなく動いてた手がここで止まる。
「…where?」
対戦場所は彼ですら見たことのない言語で書かれていたのだ。いやそもそも文字なのか黒墨でべったりとナニカが張り付いていた。
「解析、から始めますか」
その言語を特定するのに彼にして1時間を有した。



○10月24日24:00 試合場『厨房』

【厨房(ちゅうぼう)】
古くは厨(くりや)と称して、料理を行う場所を指した。
今日ではレストラン・ホテル・喫茶店などの外食産業、病院・工場・学校などの事業所の調理施設のことを指す。


実際にレギュレーションでも「店舗や施設などに存在する、調理のための大掛かりなキッチン」とある。
で、いきなり厨房ですよと言われても戸惑ってしまうことだろう。なので与太話でもひとつ。
いや、どちらにしろ今回の戦いの推移自体は速攻で決着がついてしまうのだ。


国によって様々な差異はあるが、厨房設備設計に関してはガス類などの火気類を取り扱うこともあり、
多くの国では専門資格を有することが義務付けられている。
日本においても同様で、厨房施工技能士は国家資格の一種として位置づけられ一定の修練と試験合格が必要となる。
 それらをパスをした人間が店舗や施設に合わせ厨房の間取りの図面を引くわけだが、あくまでも大事なのは客に提供するスペース”お店の表側部分”、そこに合わせ作成することになる。
故に奇抜でオカシナ厨房というものは実は世にあまり存在しない。そこは芸術性とセンスが再重視される
アトリエとは少し趣が異なる。機能性を最重視した場合、厨房は画一的なデザインになる傾向が高いのだ。
大きさに関してはその店の総面積に対して中規模以上は凡そ25%程度が理想とされている。
施設での客回転や効率を考えた場合、巨大すぎる規模の場合、一極集中より分割したほうが利点が高いため(学園のマンモス校などで食堂等の施設が第一第二など複数あるのはこのためだ)店舗面積は頭打ちになり超巨大な厨房などは発生しなくなる。
 店舗規模が小さくなるほど総面積に占める割合は増えていく、小さな店舗…例えばラーメン屋などは占有率50%を超える場合もある。小さすぎる厨房もまた発生しにくくなっている。
今回は敷地50坪程度の中型店舗と設定されたので戦いの部隊は厨房の推定面積はおおよそ12~13坪(6m×6m強規模の部屋)といった風に予想が成り立つ。

次に設計事務所が売りにするのは効率のよい動線配置(料理を運びやすかったり調理しやすかったり)やコストパフォーマンス。最近だとエコに関する環境整備も売りにするだろうか。

配置も動線管理も徹底されているため、無駄な配置はなく、設置された台を避けていくと移動できるルートも決まっている。冷蔵庫等の倒壊の恐れのあるモノは耐震基準を満たすため、壁にきっちり固定されているので倒れたりすることはない。包丁などの調理具は1か所に収納されている(中華鍋を除く)。
注意すべきはガスボンベくらいだろうか

そして最後に一番重要な点、厨房は仕事の現場として料理長など管理者が一目で周囲の状況を把握できるよう視線を遮るようなレイアウトを極力取らないというのが基本であるという点である。
柱などの建造物上の理由を除いて態々とったりしない。
つまり彼らの戦う場として「設定」された試合場『厨房』は、必然的に超密集空間であり、かつ即相手を発見できる位置に転移される、サーチ即デストロイ地形だということだ。

今回試合場として用意された厨房はフランスレストランをイメージして作られているようだった。

中央テーブルに客に提出される料理をおくテーブル。両脇に調理用のキッチンテーブルの台が3台、壁際には収納や冷蔵庫、特殊調理用の設備が備えられており、食材を管理する別室として低温管理室がある。
それに向かい合う形で客席のあるフロワーへ繋がる扉。

コース料理だろうか、中央のテーブルにはオードブルからメインディッシュまで料理が端列に並んでいた。

・帆立貝のミ・キュイ
・カジキ鮪スモーク バルサミコソース
・トマトとスープ
・旬魚のロティライム風味とアスパラのキッシュロレーヌ
・フィレステーキ
・仔牛ロース蓮根とほうれん草のパネ オレンジソース etcetc

料理を台に乗せ扉が開く。三者三様の想いをのせたまま運命の歯車は回り、料理は試合上へと向かう。
彼らという料理をのせた皿は今、試合会場に転移される。

††

彼ら”二人”はその部屋、中央に位置する料理のおかれたテーブルと調理台2台をはさむ形で転移された。
両者の距離は直線距離にして5m。
ここからは1秒刻みの戦いとなる。では、両者の動きを追ってみよう

まず転移者ウィッキー・リークス。彼が転移と同時に行ったことは0.1秒の間に超高速で指をスナップさせ、舌を高速で動かし音を鳴らすことであった。
これにより発生した不可避の超音波が、彼にフロワーの状況を瞬時に理解させた。
彼はキッチンテーブルの影に隠れるため、素早く膝を落とした。

舌を鳴らす?超音波?
彼のとった選択はエコロケーション、閉所を前提とした『反響定位』という技術の活用であった。

反響定位とは、動物が自分が発した音が何かにぶつかって返ってきたものを受信し、それによってぶつかってきたものの位置を知る技能のことである。それぞれの方向からの反響を受信すれば、そこから周囲のものの位置関係、それに対する自分の距離を知ることができる。
使用する超音波と併せコウモリなどが有名だが、他に彼の大学在籍時の研究対象であるイルカも使用することが知られている。特にイルカの用いるその精度は凄まじく、単なる形状だけでなく対象の色彩から肉質まで認知情報として捉える事ができ、軍用の水中探知機すら凌駕する性能を所有している。

 彼はこの技能を駆使し、視力に頼ることなく360度にわたってフロワー内の状況を瞬時に把握することができた。
また人の可聴領域以上の音、超音波を主に用いているため、対象に気付かれ難い技術でもある。
使用元のウィッキーさんが人の可聴領域以上の音すら聞きわける性能があるからこそできる芸当ではあるが。
実際に先の地下駐車場や農場の戦いでもこの技能を使用し、勝利に結びつけている。
 もし彼を先に発見しても細心の注意が必要だろう。ひょっとしたら彼は眼でなく耳で見ており、既に貴方を捕捉しているかもしれないのだ。
だが彼は疑問に思う。この部屋にはもう一人が足りない。いなくてはいけない善通寺 眞魚の存在がエコロケーションでは感知できなかったのだ。彼の身に何かのトラブルがあったのだろうか。

ストル・デューンもまた、この戦場への転移の意味を理解していた。いうならばこれはババ抜きのようなものだ。
まずババをひいたものが負けるとそう理解していた。

彼にとっての一番のババは位置関係。
ストル以外の二人は明らかに近接戦闘に長けているため、ランダム配置の際、自分は二人の間合いにいきなり入ってしまったり、彼らに死角を付かれただけで、なにもできずKILLされ、終わりかねないのだ。

若干優位な点もある。色盲である彼は他の二人より転移の際の光の明暗差を受けにくいという点である。

一般に、周囲の位置関係を知ることは、動物が動きながら餌を求める、人が目標を見定めるために、最も重要な感覚である。
光は伝達速度が速く、到達距離が長く、波長が短いので、多量の情報を素早く遠くに伝えるには適している。
にもかかわらず、光が利用できない条件下がある。
例えば貴方が今まで暗所にいて急に日向に出た時、一瞬視界が全く聞かなくなった経験がないだろうか。瞳孔調整のため視野情報が極端に制限されるのだ。これは例え、魔人たとえばA級首の幻影旅団らといえど例外ではなかった。

だが、彼の場合、色盲という要素に加え第3の眼「赤化(ルベド)」があったのだ。故に彼は転移直前直後まで眼を閉じ
"運命の所在"を観ていれば光の明暗差の問題をクリア―できた。しかも彼の”赤化”は視界制限なく360度全域を瞬時に見渡せる。テキの見落としをする可能性はゼロに近かった。

彼は今回の采配を彼が奉じる神に感謝した。
英検使いとは適度な”丁度良い距離”しかも向うはこちらに背を向けており、相手からこちらが視認できない位置であったのだ。そして三人目、善通寺は”まだ”この部屋の中にはいなかった。

そして何より彼は3人の中で一番ベストな初期動作をとっていた。

ストル・デューンは―――――――最初から自身の得物である45口径大型拳銃を構えて待ちかまえていたのである。
あとは狙って撃つだけ。
彼は両眼を見開くと、銃口を英検使いに合わせ、無造作にその引き金を引いた。


†††

「サッ!寒カッチャ半島!(四国の言葉で「とても寒いです」という意味の方言)」

では、そのころ我らがヒーロー、ザ・サード、気のいいあんちゃんである善通寺はどこにいたのか。
彼は冷たい石の中に――転移していると――スゴク色々面白くて美味しかったのだが、流石にそんなことはなく、二人とは離れた別の一室、低温管理室にと転移していた。(もっとも離れていたという表現は正しくない、何故なら彼らは測ったように正三角形の頂角であり等距離の位置に転移していたからだ)
管理室は摂氏一桁で野菜や肉などを管理する貯蔵庫のこと。ここもまた厨房の一部とみなされたようだ。
即敵と対峙することのないこのポジションは3人の初期配置の中でいえば間違いなく一番の当たりといえた。
メインフロワーとは扉一つで区切られているだけだったが、ウィッキーのエコロケーションによる探知を防ぐには充分であったし、45口径の的になることもない。
しかも、ご丁寧に覗き窓までついていたので外の様子もわりかし安全に伺える。

彼は他の二人と違い、この試合が即たたき合いになるという現状をあまり認識していなかった。
自らの強運を自覚することなく彼は何気なく窓をのぞきこんだ。そして

「勝てん、うちらの負けや。あれって英語も書道も勝ちめあらへんとちゃう。」
と敗北のあげた。声は語尾になるほどか細く情けないものになっていく。
英検士や書道家では到底、芸術家ストラディーンに勝てない。及ばない。その事実に打ちのめされた。

果たして彼は何を見たのか。

だが、彼はまた真の勇気と優しさを持つ士でもあった。一呼吸ののち、現れた更なる凄惨な光景を前に
彼は我知らず部屋を飛びだしていた。そうリークス・ウィッキーを助けるために。


その間、僅か5秒。5秒で心が折れ、5秒で立て直す男、それが善通寺 眞魚という男の強さと若さの特権。






!!!BAN!!!

1秒後の未来は残念ながら45口径にてストル・が絵描いた「キタねえぇ、花火(ぜんえいげいじゅつ)だ。」という未来絵図には直結しなかった。
彼の放った弾丸はしゃがみ込んだ相手の肩をかすめるように壁にのめり込み、一点の染みを残しただけで終わった。

外した理由は単純明快。
ストル・デューンが単純に射撃の素人だったからだ。
もしも彼に山口祥勝級のスナイプの腕があるか、MPS社の散弾銃「オート・アサルト-12」あたりでも持ちこんで
いればウィッキーの頭部を撃ち抜くことに成功し、あっさり勝っていたかもしれない。


 ウィッキー・リークスの不幸中の幸いは、ストル側からみて彼が背を向けていたところにある。だからこそ
ストルは慎重を期して確実にし止めようと頭部に標準をあわせたのだ。
 結果、彼は最初の転移から相手に向きなおり姿勢を整えるまで0.8秒、頭部に狙いを定める迄に0.5秒、引き金を引くのに0.2秒、累計で発射までに1.5秒ほどのロスをかけてしまっていた。

だからこそ、ここはショットガンだったのだ。特にAA12はジャムも反動も少ないぃぃぃ取扱いも難しくない名器それを連射すれば勝率は90%を超えていただろう。まさに乱射界隈の寵児なのである…。

「はいはい通販で買えたら、今度からそっちつかうよ。」
ストルはそう捨て台詞を放つと対戦相手と同様、身をかがめキッチンの影に身を隠した。
今度は自身がババ抜きのジョーカーを押しつけられた形だ。右か左か正面か、さて、どう迫ってくる
眼は閉じなかった、今の彼に”赤化”の能力は使えない。使う訳にはいかなかったのである。


しゃがみ込んだウィッキー・リークスはその耳で既にフロワーの全体像を掌握していた。
最短でストルに至る動線も見えているが、右ルートも左ルートも同じようなラインを辿らなければいけなく決め手のない状態だった。キッチンを飛び越えて一直線に躍りかかるという手もあるが、これは銃のいい的なので論外だった。
眼には眼を。ウィッキーは戸惑うことなく目の前のキッチンテーブルに足払いを駆け、たてに転がすと足の上にのせ、蹴鞠の様に上に蹴りあげた。数百キロあるだろうキッチンテーブルが容易くホイップする。
弾丸には弾丸で応酬という結論に達した彼は、ストル・デューンに向かってお手製の「弾丸」を蹴りとばして手早くゴールを決めることにしたのだ。

「shu-(廻」

・リンクス流ゴッドスナイプ(狙撃)
本来はモヒカンAなど悪党を蹴りあげた後、弾丸代わりに蹴りとばし、他のモヒカンB以下にくらわせ一網打尽にする技。
中距離技が少ない英検にとって、それを補ってくれる有りがたい業だ。
弾が簡単に補充しやすいのも魅力のひとつ、今回はいつも使ってるアレらがいないためキッチンテーブルで代用品することにした模様だ。上位英検使いの無体さがよくでている

「shu-(蹴」
「torain(どうぞツマラナイものですが、おとりくださいという意味の英語)

いつもの彼ならそのまま向かって『弾丸』という名の圧殺的巨大質量を蹴り出していただろう、だがインパクトの瞬間、状況は一変する。本来ならばゴールに突きささるべきキッチンは力なく墜ち、転々と2回3回、グランドを転がっただけで終わったのだ。

ストル側から見て向う岸、姿を露わした英検士は蹴りの姿勢のまま硬直していた。
先ほど転がったキッチンテーブルから一本の鎖が延び、ウィッキーの黄金の足に捲きついていた。
彼の『反響定位』には反応していない、この鎖に実体はないはずだ。

ストルの『黒化(ニグレド)』による幻影―のはずだ。
だが彼のVゴールをブロックしたのもその鎖であることは間違いなかった。

彼の顔は冷静そのもので動揺は見られない。だが蹴りあげた足を地におろすウィッキーその動きは明らかに緩慢でスローモーションのごとく鈍かった。

ストルは、ぼそぼそと呟く。
「bind &stop&Silent etcetc」

現れたその鎖は一本だけではなかった。気づけば転がるキッチンの影から黒い鎖が次々と飛び出し、瞬く間に英検使いの胴に、腕に、喉にと次々捲きつき、身体を拘束していっていた。

彼の『反響定位』には反応していない、実体はないはずだ。
だが、それは確実に無敵の英検使いから、動く力を奪っていた。やがて超音波を発音していた彼の舌が止まった。舌が回らない、発音を司る声帯、喉すら彼の自由にはならなくなっていた。

ストルの横でも左右でも大きな影がおきあがり、それらは忽ち大きな蛇の集合体となる。
その黒き長き蛇は、ウィッキーさんを縛る影と繋がり、長き胴を露わにする。

ウィッキーは、身体を捻り、正拳突きの構えをとる、だが、その動きは、素人目にも、ひどく分恰好で、ぎこちない。まるでとんでもない重圧に逆らいながら動いているかのように。

ストルは肩を竦めると銃を構え直す。そして構えたまま、別れの言葉を口にする

「Have are nice- 」
「shafool(首振。首を横に振るという意味の英語)」

そしてその言葉を終えることなく首をネジ切られ、生命活動を停止した。試合開始より僅か9秒後の出来事であった。

††

彼の横を突風の様に超高速で黒い死神が過り、彼の首が180度回転する。
次の瞬間、ストルは驚愕の眼で彼の死神となったウィッキーの背中を見ていた。

―おお英検使いよ何故動ける。お前は『理』に反している。―


英検使いが英語(ことわり)に反するとはどういうことなのか。
この言葉を理解するためにはまず、ストル・デューンがしかけた『黒化(ニグレド)』の鎖の蛇の正体から理解しなければならない。
彼の作成したニグレドを拡大図5倍で視てみよう。判らないだろうか?ならば10倍――――ではいっそどーんと50倍でいってみよう。

(ニグレド拡大図50倍)
bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind d bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind bind b

―お分かり頂けただろうか、実は彼の鎖は黒一色にみえて実は全て微小の英単語で構成されていたのである
他にもstop 喉元にかかった鎖はSilentなど何れも制止のかかる英単語で構成されていた。

英検の使い手は英語の発音により己の身体に命令を出す。これは手足一挙一動などの生易しいものでなく全細胞一つ一つに至るまでのレベルで号令を駆ける総力戦的発破で有る。
それにより全細胞が一致団結し、魔人潜在能力をフル稼働、常時発揮できる能力の数倍の力を可能とするのである(『誰にでもできる英舞~初級編~』より)

だが、そんな鍛えられた体に上書きするよう制止をかける英単語を捲き付かされ『直触り』されたらどうなるか?

無論、彼らの伝達手段は音声であり発音、文字は、副次的な情報でしか過ぎない。
だが、振り切ることができない。英検使いが英単語と言葉の意味を認識している限り、それは『切れない鎖』だ
『動きを封じる鎖』であるという認識が彼らの頭の中で響いてくるのである。

実際に黒龍を描いた先の戦闘空間『無人街(現代)』の戦いを振り返ってみれば彼の手品は明白だった。
彼の作品、躍動する黒煙を燻らせた龍の絵にはこうある


天黒龍浮 流風歌炎
波打振動 日遮月陰
白眼睨汝 白牙闇深
山高空広 不若震撼

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

これは地の文じゃなくて字の文として空に本当に書いてある内容である。
文字という視覚情報が情報統合した際に聴覚情報に影響を与え、さも轟音を立てているようにアスリートに感じさせたのである。


この行為とカラクリを書道家は一目で看破していた。
実際に彼も英検使いを同じような手で封じようと考えていたからだ。故に心折られた。

ストルがこの『黒化(ヒュドラ)』に使った文字数は30万文字以上、、山禅寺しょう子基準で1000回以上全宇宙を消滅させる量である。それを僅か1秒で構成し、テーブルの影を伝い、敵陣のキッチンにトラップとして忍ばせたのだ。

(封とか黙とかうちのやろうとしとったことは、所詮「四国の中の蛙」「へのへのもへじのらくがき」じゃー)

その作業工程とダイナミックさに善通寺 眞魚は書道家としての自負を粉々に粉砕されるほどの衝撃を受けたのだった。
まるで19世紀、浮世絵という存在に衝撃を受けたヨーロッパの印象派のように。それがあの敗北宣言となったのだ。


ウィッキー・リークスは、この行為とカラクリを事前に彼の発表された作品傾向からおおよそ予想していた。
故に彼は術に嵌ったと自覚した段階で魔人能力『tai-kansoku』を自らに発動させ、ストルのかけた魔法(ペテン)を解き解すよう動き、これに成功した。
ディススペルの名は『読字障害』Dyslexia。総じて『学習障害』と呼ばれる障害の再現だった。


読字障害(ディスレクシア)は、書かれた文字を上手く読むことができない、読めても意味が分からないなどの症状として現われる。何故か英語圏内で発生率が高く、米国では2割の人間がなんらかの言語に関するトラブルを抱えているという報告すらある。
意外と思えるかもしれないが、人類は読み書きに関して対応する脳の機能がない。文字が発明されて5000年程度という短いスパンでは脳の進化が追いついてないのだ。しかたなく脳の複数の箇所を代用として使うことで対応している。
ウィッキー・リークスはこの脳の代用箇所を切り替えることで自ら英語を読めなくさせたのだ。
具体的には修練を担当する脳の左前上側頭回(大脳皮質の側頭葉に存在するしわの隆起した部分)の使用を取りやめ反応を司る大脳半球の基底核にその複雑な作業の全てを依存した。

その瞬間彼にとって彼を縛る「魔法(スペル)の鎖」は単なるアルファベットの羅列にしか過ぎなくなった。
行動の自由を取り戻した彼は幻想の黒き鎖を抜けると目の前の魔法使いの首を刈り取った。



††
戦闘開始から10秒後、決着から1秒後。

ウィッキー・リークスはちらりと後ろに眼を走らせた後、背広についた埃を払った。
―見た目ほど楽な相手ではなかった。高い知性と戦うことを知っている相手だった。

背後で180度回転したストルの顔がにたりと笑った。
それは悪意しか感じない笑いだった。
ストルデューンの体がウィッキーの後ろで音もなく奇怪な形でねじれていく。


ひとつだけ、ウィッキー・リークスはストル・デューンに纏わるある重要な情報を見落としていた。


”ストル・デューンは『蛇』に呪われている。”

『蛇』。

にたりと笑う口からチロチロと長い舌を出してげひた笑い声を挙げる。

『蛇』とはなんであるのか

その堅く閉じられた眼はまるで糸目のようであった。

「You shall 死ヒャーーーーーーーーーーーーー!!!」

キラン。一筆一閃。


英検士に襲いかかろうしたストルの中にいたモノは飛び込んできた善通寺に斬り伏せられていた。

「おや、全く気配がつかめないんですが、これどういうことなんでしょう」
「異界の輩や。今のまんまじゃアンタのような英検使いでもたちうちできん。ちょいとばかし厄介なのが潜り込んでたみたいだな」

空中に筆で 『封』 の字を描き、斬った”ストルの遺体”にぶーんと飛ばす。
接触の直前にばっと何かが飛び散り大地に吸い込まれるように消える。
「ありゃ、逃げられた。」
「やれやれ、放って眺めてれば貴方、勝てたのに」
「仕方なかぁ。見て見ぬふりはできん」
お人好しにも程がある、リークスはため息をつくと彼と背中合わせにして、拳を構えることにした
「じゃあ、どちらか勝ち残るか、このヒト達全部片付けたら『話し合い』で決めるとしましょう。それでいいですか」
この申し出に善通寺は破顔した
「話し合いなら幾らでも大歓迎じゃ。じゃ、とりあえず」

ぼこ
ぼこ
地より湧き出る異形達を二人の見やる。

「「立つ鳥跡を濁さず、大掃除といきますか」」



『厨房』最終勝者:善通寺 眞魚。




○帰還と跳躍

善通寺 眞魚は、現世に戻るとまず少年週刊跳躍を取り出し、ページを開いた。

そこには奇妙なポーズをとったウィッキーさんが、佇んでいた


ドドド ドドドド

 ドドド

徐々に奇妙なポーズをとったウィッキーさんはその姿を大きくしていき
やがて描かれた姿勢のまま跳躍。3Dのごどく雑誌よりとびだしてきた。やれやれと息をつくウィッキーさん(?)

「まさかこんな方法で帰還できるとは…まったく盲点でした。無茶が通れば道理が引っ込むという感じが多分にしないでもないですが」
「いや、うちも前回、駄目元でやったからの。成功した時はびっくりしたわ」

そういい善通寺は本の中から現れた異人さんを見て、けらけらと笑った。
ウィッキーさんの背には大きな字で『月・島』と描かれている。これはナギを巻物に込め、持ち帰った際と同じ理屈だった。
善通寺は自身の魔人能力として漫画の登場人物としてウィッキーさんを指定し、それを漫画内のコマに差し込んだのだ。
どこの漫画とはいわないが白い部分は沢山あったため、スペースは十分に確保することができた。

「ma,これもかれも全て…」
「『月・島』さんのおかげっかのう」

二人は蛇集団を仕留めた後、互いのもっている情報を公開しあい、前言した通り徹底した話し合いを行った。
結果、二人の目的は多くの点で利害が一致するものだったので、善通寺を勝ちあがらせ、敗者であるウィッキーは本の中に取り込みことで話が付いたのだ。
今後は善通寺を本参加者とし、ウィッキーさんが彼のバックアップを行う手筈となっている。
無論、場合によってはウィッキーさんも迷宮時計の中に入ってくる。しかも参加者でない彼は戦闘区域に関係なく自由に動くことができるため、そこから感受できるメリットは計り知れない。

善通寺は奇妙な顔で目の前に浮かぶ不可思議な景色を指示した。彼の傍らには彼の式のヤタガラスもいる
「で、さっそく聞きたいと思うんじゃが、これなんじゃと思う。本来なら四国に戻らなあかんのに気づいたらここにきとった」


「一般的な回答ならミステリーサークルですが。この模様式は秘密結社ニャントラ召喚術”TabinoTraver”だと思います。
ふむ、なるほど”戻ってきたところを捕まえてこの場所に召喚する”仕掛けを誰かが作ったと迷宮時計、元の世界に戻るだけで場所は必ずしも一致しなくてもいいわけですね。ということは
「皆ここに戻ってくるちゅう算段ができるな」

ウィッキーは頷いた。
「しかしこれ全部、黒だよな」
「黒いですな」

誰がやったかは明白だった。だが目的はなんだったのだろうか、善通寺は韜晦する。

「あんひと、今回負けを悟ったんや。なかろうか。だから最後の転移の、異界の連中の知識を活用し
「はは、実に甘い考えですね。でも私、そういう解釈嫌いではないですよ」

朝日の中
二人はその輝く黒い芸術品を何時までも見詰めていた。