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野試合SS・空母その2


「ふむ…成る程、海か…そしてここは所謂空母と言うやつなのだな」

迷宮時計により空母の艦橋へと転送された早百合は窓から周囲を見渡しながら一人呟いた。

グンマーには海がない、それどころか「日本で最も海から遠く離れた呪われた地点」すら存在する。
言わばグンマーは海から拒絶された魔境の大地なのである。
それ故にグンマーの人間である早百合について
「もしかしてこいつ【海】が何なのか知らないのでは?」等と思われる方もいるだろう。

確かに一般的なグンマーの市井の者はどこまでも広がる【海】という存在を知らない、或いは
耳にした事があってもそれを御伽噺か何かだと思い込み、実在する事を信じていない者が大半であり
実際に【海】を目の当たりにすれば驚愕し、立ち尽くし、精神の弱いものであれば発狂しかねないであろう。

しかし早百合の様な上毛衆の人間であれば様々な状況
(他県での活動、グンマーの他県への勢力拡大、海を広げる魔人能力者によるグンマーへの侵攻、等)
を想定して海に関する知識や海上及び船上での戦闘訓練等の対策は充分に習得済である為そういった心配は無用なのだ!

ちなみに全くの余談ではあるが「海は広いな大きいな」の歌いだしで知られる「海」という童謡は
作詞者、作曲者が共にグンマー出身である事から分かるように
元々はグンマーの民が初めて海を見たときに発狂しないための呪術なのだ。

話を戻そう。
早百合は周囲の確認を続ける。

「戦闘領域は空母から周囲100m以内…飛行機で戦闘領域から離脱せずに戦うのはたぶん難しいだろう、
飛行機の操縦はやったことが無いから、相手が操縦できて一方的に攻撃されるという事がないのは助かるのだ」

早百合は顎に手をあて、ふんふんとうなずき思考を続けながら視線を飛行甲板へと向ける。

「…そもそもこの状況で飛べる飛行機があるか怪しいのだがな」


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「ゲホッ!ゲェホッ!なんだかここ空気悪くねえか?」
「確かに淀んだ感じするね」

空母の船員室へと転送された希保志遊世はやや大げさに咳込みイオに話しかけながら窓を開こうとする。
が、窓の外が黒い煙で完全に覆われてるのを見て遊世は諦めため息をついた。

「このすぐ上に物凄い大きい…ダクト…?みたいなのがあってそこから煙が出てるみたいだねー」

イオは空母の外へと浮遊し、側面を眺めながらそう言った
彼女はこの世界の空気を必要としないためか、やや人事のようである

遊世は海の様子をイオに尋ねてみたが煙のせいで殆ど何も見えず
分かったのは外はもう日が暮れているという事だけだった。

「ぅおえっげほっゲホ!畜生、この船は船員を殺すために作られたのか!?
だいたいさっきから揺れも大きいし、この船員室も傾いてるような気―――」

遊世の愚痴は突然の轟音によってかき消され、同時に船室が大きく揺れ
世界がひっくり返ったような衝撃を遊世は感じた。

「おいおい、まさか敵はもう仕掛けてきたってのか!?イオ!そっちの様子を見てくれ!」
「オッケー!まかせて!」

遊世が船員室の外の扉を指すとイオは意気揚々と扉をすり抜け
船内の様子を探り1分も経たないうちに再び遊世の元へ戻ってきた。

「どうだ?」
「遊世!ところどころに倒れた――多分死んでる船員がいる!でもパッと見た感じでは
近くに生きてる状態の人は居ないみたい。それと一部の防火扉が塞がってる」
「げえ、火災発生してんのか。さっきの爆発みたいなのもそれか?空気が悪いのもそのせいか?」
「っていうか空母な訳だから普通に戦闘してるんじゃない?」
「その割にはちょっと静かじゃないか?」
「うーん、もうこの船は戦えないくらいコテンパンにやられて、船員はもう逃げた後とか?」
「そう!俺もそう思ったところだ!意見が合うな!」
「あーはいはい。あたし達はベストパートナーですからね」

あきれるイオを尻目に遊世は自分の鞄を探り中からガスマスクを取り出し装着する。

「こんなチャチなマスクでどの程度防げるんだかわからないが
無いよりゃずっとマシだろ、持ってきて良かったぜ」
「それでどうしよっか?多分この船は今は戦闘してないから即座に沈む事は無さそうだけど
さっきの様子だと何時まで持つかも分からない感じっぽいよ?」
「ま、とりあえずは索敵しつつ船内探検しつつ船内経路の確認ってところかな
頼りにしてるぜ、イオ」


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そして20分程の時間が過ぎ特にこれといった収穫の無いまま
遊世と早百合は空母内の食堂で邂逅した


「名前を知ったときにそうじゃないかと思ったが
その格好そしてネギなんか持ってるところから察するにお前やっぱり上毛衆か!」
「ほほう、上毛衆を知っているのか、お前は何者なのだ?」
「はは、俺はただのしがないトレジャーハントゥあっはー!?」

得意げに話す遊世目掛け突如早百合はカード状の物体を投げつける!
食堂の空気を切り裂き高速直進飛来するそれは上毛カルタだ!
遊世は素早く屈み込みこれをかろうじで回避。

「おいおい!人が喋ってる最中に戦闘開始かよ!」
「ヌルい事言ってる場合じゃないでしょ!相手がやる気な以上こっちも本気を出すしかないよ遊世!」
「それもそうなんだがなっと!」

遊世は立ち上がると同時に右手で投げナイフを投擲!
早百合はサイドステップで回避、そこに遊世は更に先ほどとは逆の左手でナイフ投擲!
早百合は手に持った下仁田ネギでこれを防御する。

「なあなあ、折角だから聞かねえか?なんで俺が上毛衆について知ってるかって事をさ!」

遊世は腰につけていた鞭を構える

「ドンドン話してくれても別にアタシはかまわないのだぞ?
ただしアタシは攻撃の手を緩めるつもりは無いのだ!」

早百合は下仁田ネギをくるくると回したのち、遊世の方に突きつけてそう言った。

両者はお互いに近接武器を構えながらにらみ合いを続ける
二人の間には二つの長い机が存在し、直線的に接近する事は出来ない。

「…よし、それじゃあ話してやるよ!耳をかっぽじってよく聞きな!椅子!」
「あいよ!」

遊世は突如自分の目の前の机の上に飛び乗り、早百合を指差しながら叫ぶ。
それを聞いたイオが早百合の元へと素早く移動すると食堂中のパイプ椅子が
イオ達の元へと引き寄せられ始めた!

それに対して早百合は手に持ったネギを一度空中に軽く放り
カルタを遊世めがけて4枚同時投擲、対する遊世は
鞭によって早百合に追撃を行おうとしていたが
動作を中断しジャンプでカルタを回避。

遊世が追撃出来ない状態である事を確認した小百合は素早く宙を舞うネギを手に取り
自分の元へと飛来する椅子に次々と打撃を加え破壊する。
一撃でパイプ椅子を破壊するとはなんたるパワー!

「むむむ、こうもあっさり凌いでしまうとはな、流石は上毛衆といったところか」

机の上で仁王立ちしながら遊世は早百合に語りかける。
破壊されたパイプ椅子はただの残骸でありパイプ椅子とは認識できない、
それ故にイオの能力はパイプ椅子を指定している限り破壊されたパイプ椅子を吸引できない。

「そう、何故俺が上毛衆について知ってるかだがな。
昔探検に行ったことがあるんだよ、グンマーに」
「なんといったのだ?お前のような余所者がグンマーを探検だと?」
「そうそう、なんてったっけ?なんかの山に巨大なムカデの化け物が居てさ
そいつがなんでも別の山の化け物と争って手に入れた財宝を隠し持ってるって聞いてな、机!」

再び遊世の叫び声に合わせてイオが能力を使用する。
今度は食堂中の机がイオ目掛けて、早百合を巻き込むように飛来する!
遊世は机から飛び降りながら鞭を振う!
早百合はネギで鞭を防ぐが鞭はネギに絡み付いてしまう。

早百合はネギをしっかりと持ったまま蹴りで机を攻撃する
攻呪の「疾」使った速い蹴りだ!これにより椅子と同じく机を難なく破壊!
そしてネギを思い切り一気に引っ張るとネギはヌルリと鞭を抜けた

「まあ、お宝を手に入れたは良いけど全長40mはあろうかっていう巨大ムカデが現れてさ、残骸!」

イオの能力により今度は先ほど破壊されたパイプ椅子と机の残骸が飛来!
早百合はこれをネギをクルクルと回転連続殴打破壊!
しかし破壊された残骸は衝撃により一度は吹き飛ばされる物の、
勢いを失うと今度は再びイオの方に向かって飛来する!

「いっひひー、今度は壊しても無駄だよ~?」

早百合の耳元でイオが囁く
ああ、このままでは少女の身体に無数のパイプ片や木片が突き刺さり
人間針刺しになってしまう!?なんとかならないのか!?

「くっこのままでは埒が明かないのだ、仕方あるまいなのだ!」

そう言うと小百合は突如抵抗をやめ直立不動となった。
ああ、観念してしまったのかやはり少女の身体に幾つもの穴が穿たれてしまうのか!!

だがしかし!机と椅子の破片は彼女の身体をすり抜けるではないか!
そうだ!これこそが早百合の使うグンマー呪術の真骨頂!!
外呪の「虚」玖の段の力なのだ!!

(何!?破片がめり込んでも平然としてる!?いや、すり抜けたあ!?)

そして更に外呪の「虚」玖の段は透過状態解除時に重なった物体を消失させる!
これにより一瞬で多数の残骸が消滅!
更に早百合は身体の一部、主に右手に対して「虚」を小出しで使い
払い除けるように飛来する物体を消滅させていく

(すり抜けるだけじゃなくて物体消去もできるのか、危険だな)
「イオ!一度戻れ!」

遊世の声に反応してイオは能力の使用を止め遊世の元へと移動する。

「まさかあれまで凌いでしまうとはな…」
「ところでお前、さっきの財宝の話について詳しく話してくれないか」

早百合はネギを構え警戒しながらも
今度は相手の話をちゃんと聞こうとしている様子であった。
その様子を確認し遊世は先ほどの話を再開する。

「ん?ああ、やっと話を聞いてくれる気になった?
いやさ、財宝を取ったら巨大なムカデが襲い掛かってきてさ」
「まあ、多分守り神的な存在だったんだろうねー」
「俺は勇敢に立ち向かおうとしたんだけど、なんせ相手はでかくて強くってたまんなかったな」
「私達は殆ど防戦一方って感じだったよね」
「そこで暫くしたらなんとお前と同じ上毛衆のヤツが現れて
こりゃいよいよやべえなって思ったんだけど
なんかその上毛衆のヤツがムカデに襲われだしたんだよな」
「上毛衆でも襲われるもんなんだね、なんか糸を使って戦ってたけど」
「でまあ、これはチャンスって思って財宝持ってそそくさと逃げたって訳さ」

「……成る程…実はアタシと数人の上毛衆は半年ほど前に
赤城山の神が暴れだしたからそれを鎮めてくれと頼まれたのだ…」

「半年前!そういえば俺達がグンマーへ行ったのもそんくらいだっけかな……
えーと、……き、奇遇な事もあるもんだねー…」

「アタシ達は赤城山の神と、時には戦い、時には新しい供物を捧げ3日3晩寝ずに
儀式を執り行ったりしながらなんとか神の怒りを鎮める事に成功したのだ…が」

早百合のネギを持つ右手に力が込められる

「全部貴様のせいだったのか!!」

鬼のような形相で早百合は遊世を睨みつける

「ひい、勘弁してくれ」

「ふん、奇妙な運命のめぐり合わせなのだな、あの時に貴様らが暴いた山の名は
『赤城山』そしてこの空母の名前はどうやらその赤城山からとったらしく『赤城』というのだ
丁度良い、貴様の死体を赤城山の神への贄として捧げてくれようなのだ!」

早百合は遊世に向かって突進!
遊世は横に飛び込み前転し回避ししゃがんだ状態で
素早く振り向き二連続ナイフ投擲!

「そんな攻撃通用しないのだ!」

早百合はあっさり2本の投げナイフをネギで弾く
遊世は欧米式の手招き(手のひらを上にしてやるやつ)をする。
それを確認したイオが素早く早百合の元へと直進し食堂に残された
3本の投げナイフが早百合と重なったイオに向かって三方向から飛来!

「じゃあこういう攻撃はどうだ!」

早百合は左右から飛来する先ほど弾いたナイフのうち左側をネギで弾くが
右側のナイフは右腕に刺さる!左後方から飛来したもう一本のナイフも命中するが
ぶつかったのは刃ではなく柄の部分であるためダメージは少ない。

「この程度の攻撃でいい気になるななのだ!」

早百合は3本のナイフを素早く「虚」を使い消去!

「ウヒョー、怖ええ!イオ一回下がろう!あ、カルタ上な」

遊世は廊下へと駆け出す

「そう簡単に逃がすか!なのだ!」

早百合はカルタを遊世の背中目掛け連続投擲
しかしその途中で天井付近を浮遊するイオの能力により軌道を上方へと逸らされ命中せず!

廊下に出た遊世たちはそのまま走り続ける

「おい、あいつスゲー不自然だったよな」
「左腕のこと?全然使わなかったよね」
「そう、それ!なんか常に庇うように戦ってたし絶対何か隠してるって」
「左腕……もしかして呪術的な意味があるのかも…
左は忌むもの。邪道に通じるもの。そういう概念はこっちの世界にも
あっちの世界にも存在する。そもそも呪術の類を『左道』って言ったりするからね
左腕をなんらかの呪術に使う”奥の手”があるのかもね」

おお、なんと分かりすい分析と解説!
まるで初めて聞くのではないかのようだ!!

「じゃあ次はその左腕を突いてみるとするか、だがまずは体勢を立て直して…」
「遊世!そんな悠長な事言ってる場合じゃないみたいだよ!もう追いついてきてる!」
「マジか!」

早百合は攻呪の「疾」捌の段を使いながら遊世を追っていた
「疾」は主に直線的な動きのスピードを強化する呪術であり、飛行する物体や
車輪等のついた物体ならともかく、人間の走行スピードを強化するのには
あまり向いていないし、狭い艦内ではその効果をフルに発揮するのも難しい。
しかしそれでも普通に走るよりはずっとずっと速く走る事ができる。

「仕方ない、ここでやるかっとね!」

遊世は早百合の足音から距離を予想し、タイミングを合わせて
振り向き様にナイフを投擲し間髪入れずに前転接近を行う。

早百合はナイフを弾いて僅かだが隙が出来ている。
読み通り鞭を一発当てるくらいには丁度いい距離だ!

鞭が撓い空気を切る!
狙いは早百合の左腕だ!!

鞭は狙い通りに早百合の左腕に絡みつく、そして遊世は鞭を引き
早百合の左腕を強引に引き寄せようとする。
だがしかし、そこで全く誰も予想できなかったであろう、まっこと奇怪な事態が発生した!!

な、なんと!早百合の腕は鞭が絡みついた部分から突如分断されたのだ!

多くの者にはたった今何が起こったのか理解するのは難しいと思われる為にここで解説を挟もう。
遊世が鞭で絡め取ったはずの早百合の左腕は造呪の「成」弐の段で生成された偽者であり
鞭に絡みとられるた瞬間にあっさりと破壊されてしまったのだ!
恐るべし、グンマー呪術!!解説、おわり。

「うえぉっ!?っとっと!」

遊世は思わず後ろへと僅かにバランスを崩す。
無論早百合はそのスキを見逃さない!

(本当はもっと惹きつけてからやりたかったが仕方ないのだ)

早百合は駆け出し右手を遊世めがけて伸ばす
狙いは胸部だ!これがグンマーの力だ!!

(あ、これやべえヤツじゃ…)

遊世は近づく右手に死を感じた。

感覚が鋭化し、早百合の死の手がゆっくりと近づいてくるのが見える
しかし遊世の身体の動きはそれより遥かに鈍い、万事休すか!?

(こんなにはっきり見えるってのに…何か、何か策はないんぐぉっ!?)

考えを巡らせる遊世の首に何らかの物体が衝突する強い衝撃が走る!
さらにその物体は遊世を後ろへと押し続け、それによって遊世の上半身は
後ろへと大きく傾き、早百合の右手をすんでの所で届かない!

(くっ逃がしてたまるかなのだ!)

早百合は一度足を踏み込み体勢を立て直してもう一度右手を伸ばそうとする。

しかし遊世は後ろへの勢いを生かし後方へと転進し距離を離し受身を取る。

「オウェっ!ぐぇっほ!おい、イオ!首に当てたせいで苦しいじゃねえか!うぇっけふ」

遊世は鞭を振い早百合の接近を防ぎながら嘔吐き、イオに大声で話す。

「ごっめん、ごめん!いやあガスマスクに当るくらいを
狙ったつもりだったんだけどまあ、咄嗟だったからね」

遊世の首に激突した物体、それは遊世が首からぶら下げた迷宮時計であった
イオはその時計を遊世の背後から思いっきり吸引して無理矢理遊世を後ろへと引っ張ったのだ

「だがまあ…その、助かったよありがとう」
「お礼はこれを何とかした後にしよう!」

先ほどの右手の「虚」での攻撃を失敗してから
早百合は鞭の射程のギリギリ外から様子を伺っている
そして意を決した彼女は右腕を前に突き出した、そしてその右腕を
遊世の鞭が打ちつけ鋭い音が鳴り響く!しかし、早百合は鞭で打たれると同時に
鞭を右手でガッシリと掴んだのだ!そしてそのまま「虚」を一瞬使い
鞭を半分程の長さにしてしまった!

「ああ、俺の鞭が!だがまあ新しい打開策は思いついた!こいつでケリをつけよう!」

そう叫ぶと遊世はクロックワークブランダーバスを素早く抜き、構える

(銃か、流石に銃弾を避けるのは厄介なのだ)

早百合は身構える、狭い廊下で迂闊な動きをすればあっさり撃たれるだろう
かといってじっとしててもいい的だ、どうする?

そんな事を早百合が考えてると遊世は早百合にとって意外な行動に出た。

銃口を自分の真横に向けて、外の窓目掛けて銃弾を放ったのだ
その銃弾によって窓は破壊されもうもうと煙突から流れる煙が艦内へと入り込んでくる
そしてクロックワークブランダーバスは『主よ人の望みの喜びよ』の演奏を始める。

「煙幕頼む!」

遊世が叫ぶと窓からの煙はより一層早く艦内へと充満していく
イオの能力によって煙を引き寄せているのだ。

そして遊世は投げナイフを早百合に投擲、そしてブランダーバスを
ホルスターに素早く仕舞うと更に2連続ナイフ投擲!
そしてナイフ投擲の勢いのまま素早くターンし廊下を走り出す!

早百合はナイフを右手にもったネギで全て軽々と弾いた
遊世の攻撃フォームに順応し、反応が早くなっているのだ
更に地面に落ちたナイフを念入りに足に「虚」を使い消滅させる。

「クソっもう時間稼ぎにも殆どなんねえな!とりあえず俺のすぐ後ろに煙幕張ってくれ!」
「オッケー、ところで遊世、何か策はあるの?」
「まあ幾つか無くはない…けど時間稼ぎがな…」


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早百合は煙突の煙で出来た煙幕の中を慎重かつ大急ぎで進んでいた
このまま相手を逃がしてしまえばまた何らかの小細工を仕掛け来るに違いない。
そして先ほどからどうも空気が悪いせいか少々気分が悪い
相手はガスマスクを装備してるため、空気の悪さは自分が
一方的に不利になってしまうと思われる。
だがその程度でへこたれる上毛衆ではない。

早百合はオルゴールの音色が近づいているのを感じる

(追いつけたか?いやもしかしたら罠かも知れないのだ)

早百合は警戒心を一層強めつつオルゴールの音色に近づく
すると不意に視界に飛び込んでくる物があった

「やあやあやあ!元気?」

遊世の相棒である重力妖精のイオである。
早百合はイオの能力を警戒しながらも、無視してオルゴールの音色を追う

「ちょっとちょっと!無視するの?無視は酷いんじゃない?」

イオは早百合の目前をチラチラと飛び回る

「鬱陶しい、やめるのだ」

早百合は手で払う動作をするが透過するので意味はない
相手のペースに飲まれないように警戒しつつ前進を続けると
次第に煙が晴れてきた。

(そういえばこの妖精の周りに煙がないという事は今は能力を使ってないという事なのか?)

「探し物はこいつか?」

ぼんやり考え事をしていた早百合の前に遊世が自分から姿を現した
手にはクロックワークブランダーバス持って早百合に見せるようにつまんでひらひらと動かしている
そして遊世と早百合の再開と丁度同じくしてオルゴールは演奏を終了させた

「どうした?ピーピーと逃げ回るのはやめたのか?」
(絶対何かがあるはず…)

「ちょっと!遊世は逃げる時にそこまで情けない泣き声を上げないわよ」

早百合の耳元では先ほどからイオが何やらぶつくさ言っている

「まあ、そうだな覚悟を決めた。って所かなこっから正々堂々とした勝負をしようかと思ってね」

「うそ臭いのだ!絶対に嘘なのだ!」

「相手が逃げるのやめて正面から来たのに、それを信じないなんて人間不信なんですねー」

(この妖精はなんだか急にやたらと悪口を言うようになってきのだ
何故なのだ?まさかこうやって挑発するだけが策だとでも言うのか?それなら楽なのだが…?)

「まあいいのだ、お前達が何かの策を持ってようと持ってまいとこれで決着をつけようなのだ!」

早百合はそう言いながらカルタを一度に5枚投擲!
片手で5枚の殺傷力のあるカルタを同時投擲するのは上毛衆でも
かなりの技術が必要だ、いわばこれが彼女の本気!

遊世はそのうち一つを軍用ナイフで防御し、残り4枚を回避!
しかしそのうち2枚が身体を掠め微小な切り傷を与える。

(真正面からといえどこの攻撃を完全に回避するのはちょっとキツイか
しかし、連発が出来る技でもない、片腕である以上今まで通りの隙が生まれるはず)

遊世は右手に軍用ナイフ、左手に投げナイフを構える
投げナイフはこれが最後の一本だ

お互い武器を構えたままのにらみ合いが続くが、早百合は徐々に距離を縮めようとしている。

「でぃりゃああああっ!!」

そして再び早百合のカルタ5枚投擲!

今度は左下から右上にナナメに分散させたかわし難い攻撃だ!

(そんな芸当も!?だがかわせなくもな…)

遊世はしゃがみながらの回避行動中に信じられないものを目の当たりにし驚愕した
カルタが遊世の横を通り過ぎる丁度そのとき
早百合は存在しなかったはずの左腕で次のカルタを投擲していたのだ

いや、早百合の左腕はこの試合の最中もずっと存在していたのだ
ただ、『誰にも見えない場所』に保管されていただけであった
その場所とは彼女自身の胴体の中である。

彼女はこの相手の虚を突く一撃の為に左腕に一度「虚」を使い
体内に透過した左腕を埋め込み重要器官傷つけぬよう「虚」を解除したのだ
無論まったくの無傷と言う輪にはいかず、肋骨などの骨や一部の筋肉
そして不快感と激痛を犠牲にした作戦である。


(よ、よけられない…!?)

とっさに遊世は首と頭部を腕でガードする
5枚のカルタのうち2枚はガードした右腕に命中、残る2枚は胸部と腹部、そして左足に命中
深く突き刺さったカルタから血が滲み出す。
遊世の両膝が地面についた
上毛早百合が、死が自分に近づいてくる
ゆっくりゆっくりと

イオが必死に両手を広げ
早百合の目の前をうろちょろ飛んでいるのが見える
通せんぼのつもりだろうか
次第に瞼が重くなってくる

(俺を守ってくれるつもりなのか)

(ああ、すまない)

(さいごにつたえたかったな…)







「伝えたい事があんならさっさと目を覚まして言いなさいよ!!」

イオの大声が遊世の頭の中に響く
遊世は目をあけるとそこにはあきれた顔のイオがいた
状況を確かめる、動こうとすれば体中に激痛が走る。
自分が重症である事には変わりない。
しかし目の前にいる早百合は遊世に止めをさしていない
いや、とてもそんな状態ではない、上毛早百合は気を失っているのだ

「これは一体…?」
「あんたが考えた作戦でしょ?ちょっと頭とか打ったんじゃない?大丈夫?」
「ああ…そうか」

遊世の作戦とは
イオにこの空母内の一酸化炭素を引き寄せ
高濃度の一酸化炭素の吹き溜まりを作りそれを早百合に吸引させ
急性一酸化炭素中毒にさせるという物だった
なんとか時間を稼ぎそれを成功させたわけだが

ちょっと待ってくれもっと説明したい事が―――――