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裏第二回戦SS・図書館その2


■0:ワカバ ウツキ(戦闘開始24時間前)■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

くうぅと、夕飯時を知らせる腹の音が手狭な和室に響いた。
しかしその音色には心なしか元気がない。
時刻は18時。
はしたない音を立てた少女、“ワカバ ウツキ”はしょぼくれた様子でちゃぶ台に突っ伏している。

▼ワカバ ウツキ
▼愛した人の願いのために戦う、非・魔人の女の子。
▼迷宮時計とそれに纏(まつ)わる戦いの性質について熟知している。

「……うううううっ! とてもツラい」

現在の状態となる直前まで彼女は左の手首を額に当て、目を瞑った状態で真剣な表情をしていた。
左の手首には、年季の入った腕時計が巻かれている。

「うううううっ! なんで二人とも異世界人なんだよー! バカぁー!」

彼女は今しがた判明した迷宮時計に纏わる戦いの組み合わせについて不満があるようだった。

【迷宮時計の秘密 その38】
【迷宮時計には戦闘開始24時間前に対戦場所と対戦相手 を告知する機能がある】




■1: レギュレーション確認■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

【対戦カード】
「ツマランナー」 vs 「プラチナ・ゴードン」 vs 「本葉柔(ほんば やわら)」

【重要】
○試合会場:国立国会図書館【過去】
○戦闘領域:敷地内 (敷地内の上空・地下は戦闘領域に含む)
○初期位置:ランダム
○対戦相手に関する情報:氏名のみ
○怪我:勝者に限り、全ての負傷は現実世界帰還時に回復する。

【参考】
○開始時刻:18:00
○勝利条件:対戦相手の殺害、戦闘不能、降参、または戦闘領域離脱
○NPC:存在する




■2:本葉柔(ほんば やわら)(戦闘開始1時間20分前)■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

「しかし、見知らぬ世界の見知らぬ強敵かぁ。ちょっと羨ましいな。代わりたいぐらいだぜ」

――――迷宮時計の戦いへと向かう私にケンちゃんはそう言った。

ケンちゃんのバカ。
バカバカバカバカバカバカバカバカ。超バカ。
そりゃさ、私はきっと宇宙空間でも深海でも生きていくことはできるよ。
でもね、ケンちゃんのいない世界で、ただ生き延びたって、なんにも嬉しいことなんかないんだから。

▼ケンちゃん
▼刀剣召喚能力を持つ希望崎学園最強の男、時ヶ峰 堅一(ときがみね けんいち)のこと。
▼創世神・時々峰 健一(ときがみね けんいち)の異次元同位体

……ケンちゃん。
とっても強くて、いつも上ばっかり見ているケンちゃん。
私の気持ちになんか、ちっとも気付いてくれないケンちゃん。
でも、大好きなケンちゃん。

私は必ず勝って、ケンちゃんの世界に帰ってくる。
絶対絶対帰ってくる。
だから、放課後に別れる時の挨拶は、いつもと同じにした。

「バイバイ、ケンちゃん。また明日ね!」
笑顔でそう言って、くるりとケンちゃんに背を向けた瞬間に涙がどばっとあふれて頬を伝い、おっぱいの上にぽとぽとと落ちた。
泣く必要なんかないのに。
だって、私は絶対に帰ってくるんだから。
大好きなケンちゃん、また明日会おうね。

――――その時、カランと背後で乾いた物音がした。

泣いていることも忘れてつい振り返ってしまった。
この時ほど目元を隠してくれるバイザーの存在に感謝したことはない。

そこに落ちていたのは短剣の……柄(つか)?
陰陽巴の刻まれたそれからは、ただならぬ気配を感じる。

これはもしかして……! もしかして!

「また明日なー」

後ろ姿のケンちゃんが頭上でひらひらと手を振りながら去って行く。

……いま、「また明日」って言った。
明日って! ケンちゃんが! また明日って!!

気にしていないような態度をとるのに、ここぞという時はちゃんと気遣ってくれるケンちゃん。
ぶっきらぼうなようでいて、全然そんなことのないケンちゃん。

ケンちゃん。ケンちゃん。ケンちゃん。ケンちゃん。
大好きなケンちゃん!! だから大好き!!

私、勝つ!
必ず!絶対! 
絶対絶対絶対絶対勝ってみせるから!!

私はギュッと柄を握りしめたあと、「だいじな物入れ」であるおっぱいの谷間にそれをしまった。
それからほどなくして、ケンちゃんが直前までその柄を握っていただろうことに気づき、あわてて取り出した。

おっぱいも顔もあつい。
茹で上がったバナベイえびのようになっているに違いない。

ああ、今なら誰にも……天敵にだって負ける気がしない。
大宇宙オオサンショウウオでもコズミックデビルオクトパスでも、なんでもかかってこい!




■3: ツマランナー(戦闘開始8分15秒前)■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

ワイが遺書に目を通したのはスタジオで首を吊った二人を降ろしてからやった。

【ツマランナーへ】
突然死んでしまってごめんな。実は俺と凛は迷宮時計争奪戦というのに参加しとってん。
最初は俺も優勝してさっさと日常に戻ろうと思ってたんやけど、凛も参加者と知ったから
二人で相談してここで諦めてもええと思った訳よ。正直しんどかった。ほな、な。
PS:俺らの死体触ったら俺の言った事の意味分かるけど参戦の義務が発生するから注意しろよ!

――――死ねやボケ!

【ツマっちへ】
詳しい事は大体チンネンが書いてたから私からは特に何も。
PS:あの世ではもっと上手い人と組むから後追いするなよ!
後、有名なグループのマネして中途半端なパンチラしてるけど止めた方がいいと思う。

――――死ねや!

猛ダッシュで向かった梅田の旧避難ビルには見知らぬオバハンしか見当たらへんかった。
迷宮時計に纏わる戦いにおいて16年間連れ添ったあの天使は、
『「「ワイら時空冒険者」」 「ツマランナーと」 「四葉」』……そないな風にセッションしたあの天使は、
暴徒鎮圧のために手を取り合い肩を並べたあの天使は、
壮絶な過去をゲロを吐きながらもナントカ克服したあの天使は、
ドーナツが好きやったあの天使は、
最後の戦いにおいてさえワイを気遣った甘っちょろいあの天使は、
そこにおらへんかった。

――――ほんまに……!

ついでに、ガンのおっさんもおらへんかった。

――――死ねや!!

ジャーン! !

ツマランナーは苛立ちをぶつけるかのように、力任せにベースをかき鳴らした。
先日の勝利により小さな時計盤と化してしまったピックをつまむ二指の爪から生じる痛みは、おくびにも出さない。
彼は一端(いっぱし)のミュージシャンであった。

▼ツマランナー
▼ビジュアル系コミックバンドグループのベース兼メインボーカル。
▼強力な迷宮時計と一体化しており、全身に百以上の時計盤が存在している。

「聞いて下さい。『まもって梅田の守護月天!』」
「ワン、ツー、ワンツーさんし」
ジャカジャカジャカジャカ――――………

――――気に入らない全て(基準世界)を破壊し、気に入った全て(平行世界)を取り戻すためのロック・ポップな戦いがここからはじまる。




■4:ワカバ ウツキ(戦闘開始5時間30分前)■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

「ううううううっ! もーダメだー!」

ちゃぶ台上のノートPCを監視していたウツキは、そう叫んだ。
それからぎゅううとお気に入りのテディベアに抱き付く幼子のように、従者を後ろから抱きしめた。

「どうしよどうしよどうしよ! ねぇ! どうしようううううっ!!」

ゆっさゆっさと揺さぶられた従者、幼女型魔人ヒューマノイドのコウは短く言った。

「落ち着くべき」

▼コウ
▼魔人犯罪者に対抗すべく開発された対魔人ヒューマノイドの幼女型。AD2044年製。
▼セールスポイントは「ゾウが踏んでも壊れない」頑強さと両腕の特殊兵装「魔人殺し」。

「うううううっ……」

冷たい返答にため息をつき、ウツキは五体を畳に投げだした。
ごろんごろんと数度のたうちまわったあと、天井を見上げ、目を閉じた。
額に左手首を運び、時計を当てる。

【「ツマランナー」 vs 「プラチナ・ゴードン」 vs 「本葉柔(ほんば やわら)」】

何度確認しても対戦カードに変化はない。
あらためて体中の空気を吐き出すような深いため息をついた。

【迷宮時計の秘密 その38】
【迷宮時計には戦闘開始24時間前に対戦場所と対戦相手を告知する機能がある】

「うううっ、どうしてこうなった……」

ウツキは考える。

――――“お幸(こう)”がそうしていたように、対戦相手の迷宮時計に知らせる名前を「プラチナ・ゴードン」とし、ジャミングをかけたところまでは間違っていなかったと思う。

所有者の名前を開戦の24時間前に対戦相手に知らせるのは迷宮時計の持つ基本機能である。
そして所有者の名前は各迷宮時計の認識に寄る。
所有者を全力で勝たせようとする性質を持つ“この迷宮時計”にかかれば、名前をちょろまかすなど造作もないことだ。
戸籍を変更するまでもなく、所有者を数度偽装したい名前で呼ぶだけでそれは叶う。

……そう、ここまでは最適解だった。たぶん。
「プラチナ・ゴードン」とは迷宮時計が最も多く存在する基準世界のとある時代におけるアメリカ合衆国大統領の名前である。
この名前偽装により期待していた効果は3つ。
1、名前から身元を割り出され、戦闘前に奇襲されることを防ぐ
2、対戦相手にプラチナ・ゴードン氏を襲ってもらい、あわよくば返り討ちに遭ってもらう
3、対戦相手が暗殺に成功した場合、タイムパラドックスによって対戦相手の情報を得る

1に関してはどの程度意味があったのか分からない。
未来世界に陣取った時点で戦闘前に奇襲される可能性はほぼゼロだったことを考えると、無意味だったのかもしれない。

問題は2・3だ。
不運なことに今回の対戦相手の二人は異世界人だった。
当然その世界には「プラチナ・ゴードン」などという人間は存在しない。

勝負所でのひきの悪さ。
残った迷宮時計のうち、異世界に存在している時計はたかだか数個。
それをこの肝心な時に両方引き当ててしまったのだ。
こうしてオレは対戦前の貴重なアドバンテージをひとつ失ってしまった。――――

「はぁ、どうしよう……」

カチャリカチャリと、特製の果物ナイフを鞘に抜き差ししながら、少女は思考を加速させる。

――――数時間前から監視している「アメリカ合衆国大統領 プラチナ・ゴードン円満退任」のニュース記事に変化は見られない。
ゴードン氏が暗殺されれば、その記事はタイムパラドックスにより消滅・あるいは書き換わるだろう。

それが起こらないということは対戦相手に「名前だけで対戦相手を割り出し、次元を超えて抹殺する能力」は備わっていないということは分かる。
分かる……が。
けぇーっ! わかったからって、それがなんなのだ!
だって、そんな神さまみたいな能力は大抵の迷宮時計所持者が持っていない!
意味の無い情報だ。
仮に持っていたとしたら、もうこの戦いはそいつの勝ちでいい――――

「うううううっ、とてもツラい……」

――――迷宮時計の戦いは嫌だ。
対戦相手の魔人というのは自然現象に代表されるような原理・原則すらも平気で捻じ曲げる強力無比な異能力者だ。
どんなにハメきったと思っても、固有能力ひとつで戦況をひっくり返してくるインチキ存在だ。
奴らは窮せばゲーム盤を平気でブン投げてくる。
極力戦いたくない。
だから“お幸”を真似て戦わずして勝つための策を沢山講じたし、これまでの期間で可能な限りの準備をしてきた。
勝利の確率は少しでも上げておきたい。
……そんな努力をしてきたからこそ、運によって発生したディスアドバンテージにどうしようもなく打ちのめされてしまう。―――――

「ううっ、お幸……どうしたらいいの……」




■5:お幸■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

童話「ウサギとカメ」には趣の異なる2種類の物語がある。

1つは、「愚鈍な亀が弛(たゆ)まぬ努力によって慢心した兎の走行能力を凌駕する」という訓示めいた物語。
基準世界の日本人にとって馴染み深いのはこちらだろう。
もう1つはアメリカ黒人民話集の一遍、「愚鈍な亀が知略・姦計を張り巡らせ、兎の走行能力を凌駕する」という物語だ。

前者が「努力で勝て」というメッセージ性を孕んでいるのに対し、後者は「基礎能力で勝てない相手はハメ殺せ!!」というメッセージ性を持つ。

オレの師匠“お幸”は後者、「頭を使ってハメ殺すタイプ」のカメだった。

彼女は知的で穏やかな魔人だった。
転校生にも届き得る強力な魔人能力を有していたらしいが、その全能を発揮したところをオレは一度も見たことが無い。
今となってはそれも彼女お得意の口から出まかせだったのではないかとさえ思える。

それでも実績として彼女は羅刹悪鬼蠢く迷宮時計に纏わる戦いに勝ち続けた。
見目愛らしい幼女は、その実、何百年も生きている魔女だった。
世紀単位で蓄積された内に秘めし老獪さたるや、想像を絶する。
自ら手を下すことなく、事前準備で、あるいは舌先三寸で、あるいは“この迷宮時計”の力を使い、悠々と勝利を掴んでいった。

お幸は本来、仙人のように俗世に関わらず、密やかに生きる存在だったそうだ。
それがとある大切な人間を失ったことをきっかけに、死者蘇生を求め探究を行うようになったらしい。


名を明かす必要がある時、お幸は必ず「鈍亀」と名乗った。
その蔑称は自らに対する戒(いまし)めなのだそうだ。

「私がのんびりと構えていたせいで、“卯月”は死んでしまいました」

最後の晩に彼女はそう語った。

オレがお幸と過ごせた期間はたったの1ヶ月。
されどその1ヶ月がオレの全てだ。

その間に彼女から吸収できた知識や能力は当然ながら彼女の全能に遠く及ばない。
せいぜい5%といったところか。
“この迷宮時計”のダーティな利用法、自炊の方法、ダンゲジョーブ博士を登場させるための乱数調整法、読み書きソロバン、ホームセンターで買える品から毒を精製する方法、道徳、男を虜にする99のモテテクニック、ナイフ格闘術、エトセトラ。
……オレの全ては、彼女の一部をコピーしたものだ。

最後の晩、オレはこの腕時計と共にお幸の意志を託された。
こんな劣化コピー極まりないオレではあるが、託されたからにはやり遂げたいと考える。
この戦いに勝利して、全てを与えてくれた恩人の願いを叶える。




■6:本葉柔(ほんば やわら)(戦闘開始1分前)■『幾千の夢の欠片(1/4)』■

おっぱいを上げる。
おっぱいを寄せる。
両のおっぱいを左下へと伸ばす。
続いて、同じく両のおっぱいを右下へ。
前傾になり、おっぱいを強調した姿勢で上半身を円を描くように振る。
アメリカンクラッカーのように左のおっぱいと右のおっぱいがぶつかり、両のおっぱいが揺れる。

おっぱい、そしてまたおっぱい。
おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい……――――

おっぱいがゲシュタルト崩壊を起こした頃。
全28種のおっぱいストレッチ運動を組み合わせた、おっぱいのためのおっぱいによるおっぱいの体操がようやく終わった。

▼本葉柔(ほんば やわら)
▼時ヶ峰健一が造り出した世界の希望崎学園1年生。
▼戦闘スタイルは、柔術とおっぱいを組み合わせた「おっぱい柔術」。

「ケンちゃん……」

戦いに身を投じる前の最後のひと時。
彼女は最愛の人のことを想った。

それから、その彼から受け取った陰陽巴の刻まれた柄をおっぱいの谷間へと挿入していく。
それは第2の心臓のように彼女に活力を与えてくれることだろう。

試合開始まで残り30秒。

彼女は自らのバイザーに手をかけた。




■7:電撃ゼロインチ その1■『電撃ゼロインチ(2/4)』■

基準世界AD1948年。
国立国会図書館。

AD1947年、衆・参両議院議長は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に対し図書館専門家の派遣を要請し、これを受けて同年に米国図書館使節が来日した。
この使節の尽力の結果、翌年めでたく国立国会図書館は開館となった。

205万冊の蔵書を擁する日本を代表するその図書館は中央書庫式の建物であり、その大半が地下に存在している。
書庫棟は一辺45mの正方形となっており、17の層に分かれている。
また資料の出納を迅速に行うために、気送管や資料運搬用の垂直・水平のコンベアなどが設置されている。

この書庫棟を閲覧室・事務室のある事務棟が取り囲んでいる。
こちらも正方形で、一辺90mの6階建てだ。
各階には目録ホール、一般閲覧室の他、国会議員のための閲覧室・研究室などが設けられている。

この図書館の2階、一般向けに開放された空間、総合閲覧室にツマランナーは出現した。

その出で立ちは珍妙だった。
白い布で作られたワンピース、頭上の環形蛍光灯とそれを支える太い針金、背中の大仰な翼とそれを支える背負い紐。
右手にはミュージシャンの命であるベース。
それはコント番組から抜け出してきたかのようなコテコテの天使衣装だった。

転送されたツマランナーはすぐさま必勝の策を実行に移そうとした。
しかし、それは叶わなかった。

転送されたツマランナーが行動を開始するその前。
戦闘空間の様子を網膜に取り込み認識するその前に、敵の攻撃ははじまっていたのだ。

正面から2撃が加えられた。

ツマランナーが「攻撃を受けた」と認識する前に、更に背後から一撃。
それは正面からの2撃とほぼ同じタイミングで放たれていた。

背中に衝撃。
特製の果物ナイフが突き立てられた。

超速攻、電撃強襲。




■8:ワカバ ウツキ(戦闘開始10秒前)■『電撃ゼロインチ(2/4)』■

少女は額に腕時計を当て、目を瞑った。

「ううううううううううううううっ!!」

歯を食いしばり、唸り声を上げる。

「うううううっ!! だめだ、さいあくっ! プランAはヤメっ、プランB!」

転送開始7秒前、彼女は早口でそう言った。

【プランB】は迷宮時計の特性を利用した電撃強襲策である。

「カウント、ごー!」

事前のティーチング通り、ちゃぶ台を挟んで向かい合うワカバ ウツキとその従者コウ。
ウツキは特製の果物ナイフを鞘から抜き、振り下ろす体勢をとった。
濡れた音と共に、その粗削りな刀身が露わになった。
コウは両の腕を後ろに引き、前方に放つための余裕を持たせる。
保護具である皮の手袋が外されたその両腕は、特殊合金製の兵装、通称「魔人殺し」。
直接接触している間、接触対象の中二力を減退させる効果を持つ。
その兵装の左手は、よくよく観察すると一指が欠けていた。

「よんっ!」

【迷宮時計の秘密 その9】
【迷宮時計には何らかの形で時計所有者の残り人数を示す機能がある】

それは迷宮時計の持つ基礎機能。
対戦相手に限らず、全ての迷宮時計の存在する時空間座標を取得する能力。
本来は戦いの公平性を保つため所持者には「残り人数」しか明かされない。
しかし、“この迷宮時計”は所有者の勝利のために喜んで時空間座標情報を提供する。
この性質を利用し、ワカバ ウツキは事前に2人の対戦相手が異世界人であることを掴んでいた。

「さんっ!」

【迷宮時計の秘密 その42】
【戦闘開始と同時に、2名以上の所有者が、時計が指し示した同じ時と場所へと強制的に転移される】

これも迷宮時計の持つ基礎機能。
通常、転移先の座標は戦闘の公平性を保つため「ランダム」となっているが正確にはそうでない。
転送先の座標は転送を行う迷宮時計によって定められている。
今回で言えば、3つの迷宮時計の協議結果により、対戦者3名の出現位置が決定される。

「にぃ!」

その協議に明確な意思を持って“この迷宮時計”は介入を行った。
一般的な迷宮時計は意志が希薄である。
最もポピュラーな懐中時計型の迷宮時計や、本葉柔の持つキッチンタイマー型の迷宮時計は、特にその傾向が強い。
もちろんそのような型の迷宮時計にも公正・公平を保つための機能は備わっているのだが、“この迷宮時計”の前では無意味に等しい。
意志無き迷宮時計の意見を操作するなど、確固たる意志を持つ“この迷宮時計”にとっては朝飯前、ハッカーが一般家庭のPCをクラッキングする程度の難易度だ。

「いちっ!」

こうして、【その9】の効果でツマランナーの出現位置を特定し、【その42】の効果で自分たちの出現位置を操作した。
その距離、ゼロインチ。
手を伸ばせば届く至近距離への転送。

「ぜろっ!」

ウツキはちゃぶ台に向かいナイフを振り下ろし、コウは両の腕を前方へと伸ばした。




■9:電撃ゼロインチ その2■『電撃ゼロインチ(2/4)』■

ツマランナーの右腕を「魔人殺し」の左手が掴み、狙いが外れツマランナーの左腕と胴の間を抜けた「魔人殺し」の右腕が内に曲がり、ツマランナーの胴を抱き込んだ。
不完全ではあるが、拘束体勢だ。

「魔人殺し」の触れた部分の白いワンピースが霧散し、ゴスロリドレスが出現する。

と、同時に背中の翼に果物ナイフが突き立てられた。

(ビンゴォーッ! 致命傷!)

戦闘開始から約1秒。
自身の握る果物ナイフに確かな手応えを感じたウツキが心中で勝利の雄たけびをあげた頃、ツマランナーの反撃が開始された。

ツマランナーの“赤き魔眼”が燃え上がり、煌めく。

『アーーーーーーーーー!』




■10:歌えば多分なんとかなる■『電撃ゼロインチ(2/4)』■

ツマランナーの持つ魔人能力は、“歌えば多分なんとかなる”という。

その能力は、ベースを鳴らしながら一曲歌い切る事でその曲のテーマに合わせた効果を自分に及ぼすというものである。
回復や強化やアイテム召喚が可能だが、ツマランナーはミュージシャンであるため、視界にギャラリーがいないと発動は出来ず、歌詞の前には自分に及ぼす効果が分かるようなタイトルを入れる必要がある。

また、各効果は一般魔人の行えるそれを上限とし、EFB級・転校生級の事は決して行えず、
歌唱時間が短いと効果はさらに下がる。

効果時間は、次の歌が発動するか30秒が経過するまで。

この能力をツマランナーは開戦に向け事前発動していた。
歌のタイトルは「まもって梅田の守護月天!」。

それはかつての迷宮時計に纏わる戦いの中で苦楽を共にした最強の相棒の力を借りるための歌である。
相棒の名を、純粋天使・須藤四葉(じゅんすいてんし/すとう よつば)といった。

▼純粋天使・須藤四葉
▼よつばちゃんマジ天使。
▼天使の奇跡パワーと、魔人能力「赤×モア」で戦う。

▼魔人能力「赤×モア」
▼赤魔眼によって「運命」を色として視認できる。
▼また、「モア」と唱えることにより、その「運命」を少しだけ操作する。

戦闘前の8分15秒にも及ぶ熱唱の結果、ツマランナーは純粋天使・須藤四葉の能力をその身に宿した。
十分な時間の歌唱であり、それはツマランナーの能力の最大発揮であった。

しかし、それほどの歌唱時間をもってしても最盛期の四葉の能力を宿すには至らない。
最盛期の四葉は触れたモノを即座に塩とし、視界に捉えたモノに対し「モア」と1回唱えるだけで絶命に追い込む、魔人の域を大きくはみ出した性能を有していた。
ツマランナーの能力の最大値は一般魔人の行えるそれを上限としている。
故にツマランナーの体現できた純粋天使・須藤四葉の能力は彼女がアークエンジェルとなる前、ラッパ持ちの幼体だった頃の能力だ。

せいぜい数秒触った相手を塩にできる程度。
せいぜい相手を視界に捉え、十数度「モア」と唱えることで絶命に追い込む程度。

その能力の運用法は転送前に決めていた。
まずは転送直後、磨き上げられたベースに自身の姿を映す。
そこに移った自身の運命の色を操作し、「運」「生還力」のパラメーターを上限値まで上昇させる。
それから、戦闘会場である図書館の建物の「寿命」を運命操作し、崩落させる。

これで先手をとった後、瓦礫の山から這い出して来る者がいれば追撃を行う。

……そんな手筈だった。




■11:電撃ゼロインチ その3■『電撃ゼロインチ(2/4)』■

戦闘開始1秒後。

バサリと、見るからに作り物の翼が力強くはばたき、背後の敵を吹き飛ばし本棚へと叩き付ける。
それは天使としての力。
つづいて咆哮。

『アーーーーーーーーー!』

一般的な聴覚の持ち主には、ツマランナーの声はそのように聞こえただろう。
しかしその実は違う。
1秒間に9.回「レイプ」と唱えることのできる舌による高速詠唱。
魔人能力「モア」の秒間13.5回詠唱。
能力対象は自身の腰に巻き付いている幼女。

――――ツマランナーの赤き魔眼にはその特異な運命の色が見えていた。
――――人間や魔人の運命の色は象徴である顔を中心に浮かぶ。
――――しかし、目の前の幼女はお腹のあたりにその色が浮かんでいた。
――――これは、人工物である証。
――――それならば、遠慮はいらない。

ケホッと咳のように口から黒煙を吐き、対魔人ヒューマノイド「コウ」の瞼が落ちた。
パワー&タフネスに特化した機体とはいえ、内部を狂わされてはたまったものではない。
動作機構が停止し、自己修復モードに入る。

対戦開始4秒。

本棚に叩き付けた右後方の敵に「モア」による追撃を加えるため振り向こうとしたツマランナーであったが、体が思うように動かない。
ヒューマノイドの両椀による拘束は自己修復モードに入ってなお健在であった。
それどころか自己修復モードに入ったが故に、その機械関節は凝り固まり微動だにしない。
200kgの重量と腕の特性がツマランナーを拘束する。

『アーーーーーーーーー!』

ツマランナーは自身を掴んでいる腕に対し塩化能力を発動すると同時に、もう1度咆哮を行った。
しかしそれは失着だった。
ツマランナーの知らぬところではあるが、その腕は魔人能力の影響を受けつけない。
それどころか、その腕は触れた魔人の能力を著しく低下させる。
ツマランナーは塩化能力を用いるため、フリーであった左手で「魔人殺し」に直接接触してしまった。

戦闘開始6秒。

「魔人殺し」は平常時、皮の手袋が保護具として用いられている。
そのことからも分かるように、「魔人殺し」は直接接触さえしなければその全能が発揮されることはない。
ゴスロリドレス程度の衣服であっても、その理は適用される。

大人しくゴスロリドレス越しに拘束されたままでいたならば、ツマランナーの能力は本来の持続時間である30秒の7割程度は持続できていただろう。
しかし、素肌で「魔人殺し」に触れてしまってはそうもいかない。
瞬く間にツマランナーの赤き魔眼が通常の色へと戻り、白いワンピースがゴスロリドレスへと変じていく。

その変化と全身から力が抜けていく感覚を認め、慌てて「魔人殺し」から手を放すが時すでに遅し。
魔人能力は解除され、魔人としての膂力も取り除かれてしまった。

だからと言って、まだ負けたわけではない。
拘束された右手から、自由の効く左手にベースを持ち替える。

自身が現在能力封印状態にあることを、ツマランナーは自覚していた。
故の持ち替え。
魔人能力と魔人の膂力が封じられたからといって、ミュージシャンとしての特性が失われるわけではない。
左手一本でエレキ北辰一刀流の流れを汲むベーシスト防御の構え、「平正眼」をとる。
ミュージシャンの耳は良い。
背後からの物音があれば、すかさずベース居合を叩き込む腹積もりだ。

満足にふり向くことさえできない拘束下でありながら、彼の闘志は衰えていなかった。

「あのー、降参です! 迷宮時計の所有権を放棄します!」

ワカバ ウツキが降参の申し入れをしたのは、その時だった。




■12:降参■『電撃ゼロインチ(2/4)』■

降参宣言を敵のブラフと断じ、一切の警戒を解かなかったツマランナーに対し、あまりにも無警戒な様子でその少女はツマランナーの前方へと移動し、姿を晒した。
棚に衝突した際に痛めたのであろうか、足を引きずっている。
「刺しちゃってごめんなさい」などと謝りながら果物ナイフを鞘へと納め、スカートのポケットに仕舞う。

(ごめんなさいで済むかボケ!)
少女をねめつけながら、ツマランナーは心中で毒を吐く。

そうして、ヒューマノイドを挟んでツマランナーの正面、ベース居合の間合いの外にウツキは座った。
最低限ベース投擲は警戒しているようではあるが、その座り方は痛めた足を庇うような横座りであり、そこから強襲に転じるような姿勢ではない。

――――ツマランナーがその降参の申し入れを聞いてまず連想したのは「時間稼ぎ」だった。
相手がどんな能力を持っているのかは分からないが、開幕強襲を仕掛けてくるほど殺意に満ちた対戦相手だ。
その相手からの降参申し入れを何らかの罠と考えるのは当然だろう。

密かに捕まれている右腕と腰に力を込めてみる。
魔人の攻撃力20を想定して設計された特殊合金製の腕は軋みもしない。
捕まれている右の二の腕は表面の肉を犠牲にすればあるいは抜けられるかもしれない。
しかし、腰に回された腕からはどうにも脱出できそうにない。

そのようなツマランナーの内心を知ってか知らずか、少女は明るく笑った。

「あはっ、急に『降参』だなんて信じられるわけありませんよね」

ツマランナーは応えない。
その反応にますます少女の表情が明るくなる。
ここまでの呼びかけに対して懐疑的な態度をとるのは、正常な思考を有することの証明だ。

「貴女が交渉に応じてくれそうなヒトで本当に良かった!
……そうですね、交渉の卓についていただくにはまずは『降参』を保障するところからでしょうか」

かつての師匠を習って、ワカバウツキは朗々と語る。

「迷宮時計とこの迷宮時計に纏わる戦いには明確なルールが存在します。
その中で『降参』は以下のように定義されています」

【迷宮時計の秘密 その11】
【戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である】

【迷宮時計の秘密 その20】
【一度宣言した降参は撤回できない】

「どうです? これで安心できますか?
念のため、もう一度宣言しておきますね。
『迷宮時計の所有権を放棄し、降参します。』」

ツマランナーの表情が険しくなる。
「安心できるかボケ!」

きょとんとした様子のウツキにツマランナーは続ける。

「その『迷宮時計の秘密』……言うたか?
お前が勝手に言うとるだけとちゃうんか」

「いいえ、違います!」

即答だった。

【迷宮時計の秘密 その63】
【迷宮時計にはルールを迷宮時計所有者に伝える機能が存在する】

「百聞は一見にしかずです。
一見というのは少し違うかもしれませんが、貴女自身の迷宮時計に『降参』に纏わるルールを確認してみてはいかがでしょう。
迷宮時計を体にくっつけた状態で語り掛けると応えてくれますよ!
例えばこんな風に」

そう言って、少女は自身の左手首を額に当てた。
その手首には年季の入った腕時計が巻かれている。

ツマランナーの迷宮時計は彼の体と一体化している。
故にそれは念じるだけで叶った。

ツマランナーの脳内に単調ではあるが、どこか懐かしい女性の声が響いた。

(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(一度宣言した降参は撤回できない)

それは、目の前の少女が口にした内容と一言一句違わない。

(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)

再び、アナウンスが繰り返される。

(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)

三度。

(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
(戦闘空間内において迷宮時計所有者は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)


ツマランナーの脳の処理要領を埋め尽くす勢いでその1節が繰り返される。

「~~~~ッッ!! 何回言うねんボゲェッ!!」

突然発せられたツマランナー(男性)の怒声に、ウツキは小さな悲鳴を漏らした。
同時にその怒号をもって迷宮時計による再三のルール提示は止んだ。

「……あ、あのう」

大丈夫ですかと遠慮がちに言ったウツキに、バツの悪そうな表情を浮かべるツマランナー。

「……ほんまに降参するんやな?」

ツマランナーは未だ懐疑的だ。
それでも、一歩だけ歩み寄った。
その言葉を聞き、ウツキは妖艶に笑んだ。
ウツキにとってその一歩は値千金であった。

「はい、間違いなく降参です! 迷宮時計の所有権を放棄します!
うううううっ! 信じてくれてありがとうございます!」

早口で彼女は言う。

「では、ここからは急がせていただきます。
ここまで交渉を成立させるために悠長にやってきましたが、実は時間がありません。
オレの索敵魔人能力≪アリスの白うさぎ≫によりますと、あと1分少々で『ヤベェ奴』が来ます。」

すううと息を吸って更に続ける。

「そいつは残念なことに迷宮時計所有者です。
まず間違いなくオレ達を殺しに来ることでしょう……。
『オレはこんなところで死にたくない!』……だから降参しました。
その子を連れて今すぐこの戦闘領域から離脱したいと考えています」

ツマランナーの腰に巻き付く幼女を指してそう言った。

「こちらから提供できるのは『その迷宮時計所持者の位置情報』
ツマランナーさんに提供していただきたいのは『オレ達を安全に逃がす補助』
オレ達が去ったあと、戦うかどうかはお任せします。
……逃げた方が賢明だと思いますが、どうせ貴方にも何か譲れない理由があるんでしょう?」

――――それからちょうど1分後のことだ。
――――図書館の地表に露出していた建物の大部分が怪光線によって爆発・炎上した。




■13:本葉柔(戦闘開始5秒前)■『侵略(モーレツ)!おっぱい侵略者(エイリアン)!(3/4)』■

「ボンバァァァア!!」

バイザーを外した本葉柔の体が変容する。
大きく膨れ上がり、体色が赤く変化していく。

変身を終えた本葉柔の姿は、胸甲周4mの巨大な蟹へと変わっていた。

▼巨大蟹ボンバーν
▼蟹型の宇宙人
▼必殺技はM44エナジーを収束した殺人レーザー光線

これが彼女の真の姿。
そのフォームとなることで思考力の低下を代償に圧倒的な火力を得ることができる。

生きて帰るための最善手。
対戦相手と現地の人には申し訳ないが、ケンちゃんとの幸せな生活に戻るためには必要な犠牲だ。
転送直後、問答無用で対戦空間を怪光線によって焼き尽くす。
それで終いと、本葉柔は考えていた。

キッチンタイマー型の迷宮時計が陽気な電子音声で宣言する。
「ピピピピッ! 3分間クッキング、はじまりー!」

――――転送

掟破りの開幕光線を放つぞと、意気込んでいた彼女の目に飛び込んできたのは広大に広がる宇宙空間であった。

【戦闘空間:国立国会図書館】
【初期位置:戦闘領域上空4320km】

月の公転軌道の内側に彼女は出現した。
それが迷宮時計の力(ルール)を利用して戦う対戦相手の仕業であると彼女に知る術はない。

通常の魔人相手であればこれで決着であっただろう。
突然宇宙空間放り出されて即座に対応できる魔人など、この世に何人存在するか。
さらに言えば、地球は自転する。
マクロな視点から見れば半径1km四方の戦闘領域など点のようなものだ。
その高速移動する上空領域に留まることのできる魔人など――――

――――「ボンバァアアアアアアーーーッッ!!」

――――この、巨大蟹ボンバーνをおいて他にいないだろう。

掟破りの開幕拡散怪光線!
地球上の戦闘領域に向けて怪光線の反動で加速度を得る。

その速度は加速開始直後、時速80000kmに達した。

(ケンちゃん)

乙女の一念宇宙を貫く。
体内のM44エナジーを全開放出!
更なる加速度を得る。

(ケンちゃんケンちゃん)

宇宙ゴミが体に突き刺さるも、恋する乙女を止めるには至らない。
「ボンッッ!! バァアアアアアアーーーッッ!!」

(ケンちゃんケンちゃんケンちゃん)


「じゅ、准教授!!」

冥王星を観測していた研究室奴隷がノックもなしに慌ただしく扉を開け放った。
通常時であれば真理探究鞭打十発(死罪相当)に値する無礼。
だが、そうであるが故に、その行動は事の重大さを示していた。

「……はじまったか」

呼ばれた女、30半ばという若年をして准教授の座に就くほどの才女が、猫の描かれたマグカップから口を離し、立ち上がった。

――――2006年8月に開かれた国際天文学連合総会で、惑星から準惑星に降格された冥王星を観測していた研究室奴隷は見た!
突如宇宙空間に出現した巨大な流星を!

――――準惑星降格後、小惑星の一覧に記載され、小惑星番号134340番をあてがわれた冥王星を観測していた研究室奴隷は見た!
その流星の尾が放つ異常な輝きを!


「ボンバァアアアアアアーーーッッ!!」

満身創痍なれど、乙女は止まらず。

(ケンちゃんケンちゃんケンちゃんケンちゃん)

宇宙ゴミの突き刺さった体表からは熱が逃げ、傷口の青い体液は凍り付いている。
チャームポイントのハサミと複眼は1つずつがもげてしまっている。
体内に残存する宇宙パワーも残り少ない。

それでも、乙女は止まらず!
恋の一念、宇宙を制す!
恋する乙女は無敵なのだ!

(ケンちゃんケンちゃんケンちゃんケンちゃんケンちゃん)

「ピピピピピピピピピピピピ。お料理、できあがりだよー!!」

キッチンタイマー型の迷宮時計がそのように変身限界を知らせる直前、彼女は残った宇宙パワーを絞り出し、地球に向かって拡散怪光線を放った。
それは宇宙速度からの減速と攻撃を兼ねた妙手であったが、逼迫(ひっぱく)した状況下でそこまでの戦略的意図を持ってこの行動を選んだのかは定かではない。

ともかくこうして、戦闘領域「図書館」の大半は炎に包まれた。
全力全開の拡散怪光線であれば全地表の30%が消し飛び、再び地球が氷河期を迎えていたであろうことを思えば、いたって軽微な被害である。

その後、大気圏に生身で突入した本葉柔は、無敵の強度を誇るおっぱいをクッションとして用い、地上の戦闘領域への到達を果たす。




■14:そして叶う乙女の願い■『侵略(モーレツ)!おっぱい侵略者(エイリアン)!(3/4)』■

「無茶苦茶や……!」

瓦礫から這い出した天使の格好をしたツマランナーは周囲の地獄めいた光景を目にして言った。
見渡す限りが炎に包まれている。

「ぷはぁ!」

続いて逃げ遅れたウツキ&コウが瓦礫の山から顔を出す。

彼女達はツマランナーの、天使四葉の能力加護を受け、増強されし「幸運」の結果、範囲攻撃を無傷で切り抜けた。
ツマランナーの能力効果持続時間終了。
天使の衣装がゴスロリドレスへと変じる。

「ケン……ちゃん……」

地上を地獄に変えし侵略者が炎の中より現れる。

目から、耳から、体中から夥しい量の血が流れ出している。
それは宇宙空間を超高速で駆け抜けた代償であり、大気圏からの落下による反動である。
おっぱいは無敵。
されどおっぱい以外の部分は大気圏突入後の空気摩擦により焼かれ、裂かれ、ズタズタとなった。

「……ちゃ……ケ……」

もう彼女に理性はおろか意識と呼べるものは残っていない。
それでも倒れないのは恋する乙女の妄執故。

『他の迷宮時計所有者を滅ぼし、愛する人の元へ帰る』
その一念が彼女を現実世界に留めている。

――――そこからの攻防は一瞬だった。

フラフラとした足取りの柔に視線を向けたツマランナーの視界が翳(かげ)る。
巨大なおっぱいが急速接近!
瞬間移動と区別のつかないほどの高速移動。

――――日頃、柔が相手取っている想い人、「時ヶ峰 堅一」は創世神の異次元同位体だ。
――――そのような存在に体術で肉薄できる彼女にとって、一般的な戦闘魔人など羽虫も同然。

巨大なおっぱい槌(つい)が振り下ろされ、ツマランナーが圧死絶命する瞬間、辛うじてカットが入る。
セーフモードで起動した対魔人ヒューマノイド「コウ」による側面からの亜音速体当たりだ。

――――幼女型魔人ヒューマノイド「コウ」は同系他型番と比べ鈍足である。
――――同系他型番が反応20の魔人を基準とした格闘スピード、すなわち音速に到達できるのに対し、
――――「コウ」では亜音速が限界稼働速度であった。

その横槍を柔はおっぱい柔術において磨き上げた敏感なおっぱい感度により感知、ただちに迎撃。
鍛え上げられたおっぱい感度は、高脅威敵、すなわち「魔人殺し」を一瞬で判別したのだ。

ジャーン!
同時に我に返ったツマランナーの高速歌唱がはじまる。
「聞いて下さい『対バンの鬼』」

柔の迎撃はただ、ツマランナーを圧殺しようとしていたおっぱいを「コウ」に向けて振り、そこから更におっぱいを振り上げ振り下ろすという単純な3アクションであった。
「大宇宙おっぱい十文字斬り」とでも形容すべきこの技は、単純ではあるがそれ故に発生が早い。

一太刀目でコウの頭部は胴体から離れた。
腕部ほどではないにせよ、それなりの強度を備えていたはずの合金製の首が粘土のようであった。

――――おっぱいの脅威はその質量圧殺と、無敵性だけではない。
――――柔の魔人能力は“おっぱいレーザー”といい、SS中に含まれる「おっぱい」の数をnとした場合、
――――射程10n億km、威力1000nメガトンの即死光線を放つことができるのだ。
――――そのような規格外の破壊力を持つ光線の発射核となるおっぱい先端の突起硬度は
――――当然そのレーザーの反動に耐えられる仕様となっている。

――――つまるところ、勃起したその先端突起は地球産の硬物質程度であれば軽々切り裂く最強の刃となるのだ!

二太刀目、上からのおっぱい振り下ろしでコウの両肩が切り下され、2つの対魔人腕が宙を舞った。

「うううううううううっ!!」

一拍おいて、果物ナイフをくちゃりと鞘から抜いたワカバウツキが相棒の仇に向かい走り寄る。

(まだコウは死んでない! 死んでなんかないっ!)

そう自分に言い聞かせながら突進する彼女の速度はその場に存在する誰よりも遅かった。
神と渡り合う柔より、亜音速戦闘を行うコウより、魔人であるツマランナーより。
彼女の肉体は少女のそれだった。

「うあああああああっ!」

果物ナイフが煌めく!

――――そのナイフ術は師匠直伝の技。
――――どうしようもなく追いつめられた時のための切り札。

振るわれるおっぱい。
無敵の硬度を誇るはずのそのおっぱいに、ナイフが突き立つ!

>その兵装の左手は、よくよく観察すると一指が欠けていた。

――――その特性のナイフは切り取った幼女型ヒューマノイドの中指を他の指によって共削りして作成されたものである。
――――刃渡りは僅か数センチ。
――――しかしながら、その刃は魔人能力・魔人貫通の特性を帯びている。

ナイフがおっぱいに小さな裂傷を刻む。

「ボンバァーーーーーーッ!!」

痛みに怯まず、柔はおっぱいを振りぬいた。
ナイフごと、ウツキにブチ当てる。

膝をつくウツキ。
その体に、腰から上は存在していない。

【ワカバウツキ……おっぱいを正面から受け死亡】

その数瞬の間に、ツマランナーの高速歌唱は完了していた。

ツマランナーに向き直りおっぱいを震わせ威嚇する柔。
大蛇のように蠢く二つのおっぱい。

「ボンッッ!! バァアアアアアアアアアアッ!!」

対するツマランナーはベースを上段に構える。
その構えは自殺した友から教わった、エレキ北辰一刀流の流れを汲む構え。

両者の間合いはわずか1m。

瀕死の柔に待ち戦術など存在しない。
追いつめられたおっぱいは前進あるのみ。

瞬間移動めいた高速踏み込みから最速最短で横薙ぎにおっぱいを振るう。
対するツマランナーはそれに合わせてベースを振り下ろした。

―――― 彼はミュージシャンであった。
―――― 一度体に刻んだリズムは忘れない。
―――― 彼は初撃で殺されかけた際、柔の速度をその身に刻んでいた。

ベースがおっぱい侵略者(エイリアン)の脳天をとらえる。
同時に、横薙ぎに振るわれたおっぱいがツマランナーをとらえる。

盛大な、骨の砕ける音。
地面と水平に吹き飛ぶツマランナー。

一方、柔。
先ほどの高速歌唱によってツマランナーが体現せし、32ビートの衝撃がベースを通して柔の脳を激しく揺らす。

「…………ケ……ケッ……!」

脳天を打ち揺らされた柔は立ち上がることができない。

32ビートの直撃だけならば、彼女の人外タフネスをもってすればもう一度立ち上がることができたに違いない。
しかし彼女は立ち上がることができない。
“痺れる手足”を懸命に動かすも、それは空しく空を切る。
何故か。

>ホームセンターで買える品から毒を精製する方法
>濡れた音と共に、その粗削りな刀身が露わになった。
>果物ナイフをくちゃりと鞘から抜いたワカバウツキが相棒の仇に向かい走り寄る。

毒ナイフ。
柔の胸の傷跡はよく見れば紫色に変色している。

おっぱいを揺らす格闘術と、毒の相性は最悪だった。
やがて心臓まで毒が届けば、全身が痙攣して死に至るだろう。

対して、ツマランナーは瓦礫の中から立ち上がった。
血濡れた右手で髪をかき上げる。

左腕、左肩、そして数本のアバラが折れている。
数えきれない裂傷。
満身創痍と言って差し支えない状態だ。

それでも彼は立ち上がる。
彼はミュージシャンであった。
彼の目指すのは理想の音楽だ。

彼の理想の音楽は、仲間と共に既に完成していた。
ビジュアル系コミックバンドグループ『オモロナイトファイブ』のベース兼メインボーカル、ツマランナー。

彼はその理想の音楽を、最高の仲間を取り戻すために戦う。
故にどんな苦境からでも立ち上がる。

使い物にならなくなったベースを労わりを込めて地面に置き、瓦礫の山から鉄骨を引き抜いた。

(ケンちゃん…………)

もう柔の手足は動かない。
声さえも出せなくなった。
色濃い死の気配が近づいてくる。

(――――…………「また明日」って言ったのに……)

ツマランナーが鉄骨を振り上げる。

(――――ごめんね)

おっぱい柔術による硬質化が解かれた柔の胸の谷間から、陰陽巴の柄が瓦礫の上に滑り落ちた。

その時だった。

『これは、干将(かんしょう)』

ツマランナーの、否、その時点において地球上に存在している生物全ての脳内に声が響いた。

『番(つがい)の莫耶(ばくや)と引き合い、互いの位置を指し示す性質を持つ』

風景がガラスのように粉々に砕ける。

「そしてこれが、時空間の壁を超える―――――俺の筋力だ」

刀剣召喚能力を持つ希望崎学園最強の男。
創世神・時々峰 健一(ときがみね けんいち)の異次元同位体。

時ヶ峰 堅一(ときがみね けんいち)が戦場に降臨した。




■15:次元の間■『侵略(モーレツ)!おっぱい侵略者(エイリアン)!(3/4)』■

「あれ……私……」

「おう、起きたか。でももうちょっと寝とけ」

「ここは……」

「帰り道。
家まで送ってやるよ」

「ケンちゃん……」

「だから寝とけって。
エクスカリバーの鞘の回復力にも限界はあるんだ」

「ありがとう」

「いいってことよ」

気にしていないような態度をとるのに、ここぞという時はちゃんと気遣ってくれるケンちゃん。
ぶっきらぼうなようでいて、全然そんなことのないケンちゃん。

ケンちゃん。
ケンちゃん。
ケンちゃん。
ケンちゃん。
大好きなケンちゃん。

――――だから大好き。


【本葉柔……時ヶ峰 堅一の背中に揺られながら場外、リタイア】




■16:決着■『いざ、尋常に――――(4/4)』■

ツマランナーは安堵していた。
目の前に突如出現した男に争う意思がなくて本当に良かったと。
もう1戦構えるだけの気力は……あるにはあるが、自慢のベースは壊れてしまい、体は傷だらけ。
高速歌唱連打により喉もイガイガする。
もう正直しんどかった。

時空の穴とでも呼ぶべき場所に、化物二人は入っていった。
化物同志せいぜい仲睦まじくやってくれ。
これで辛かった戦いも終わりだ。

そう彼が考えた時だった。

「遅くなりましたが、『ツマランナー』さんの『降参』を認めます!」

おっぱいによってグチャドロのミンチにされたはずのワカバウツキが、元気いっぱいにそう宣言した。

対して、ツマランナーの全身の迷宮時計が騒めきたち、異議を唱えるべく活性化する。

迷宮時計vs迷宮時計の最後の戦いが始まる。

【迷宮時計の秘密 その4】
【迷宮時計は破壊されても元に戻る】




■17:壊れた迷宮時計■『いざ、尋常に――――(4/4)』■

ワカバウツキは迷宮時計の持つ基本性質により復活を遂げた。

>少女は拳を幼女の額に軽くぶつけた。
>人工皮膚の内のダンゲニウム合金が鈍い音を奏でる。
>次の瞬間、無音だった室内に綺麗な発音の英語が響いた。
>“Error. Do not correspond to this information input.”
>(エラーが発生しました。この情報入力には対応しておりません。)
>(ワカバウツキプロローグSSより)

【迷宮時計の秘密 その2】
【所有者の存在しない時計は、最初に触れた者が次の時計所有者となる。】

【迷宮時計の秘密 その3】
【新たに迷宮時計の所有者となった者は戦いのルールを瞬間的かつ超感覚的に理解する。】

――――生物を受け手として設定されたその情報奔流を、科学技術の子は受け取ることができなかった。
――――【鈍亀の継嗣】
――――【迷宮時計所有者・対魔人ヒューマノイド「コウ」 (現・「プラチナ・ゴードン」)】


>○迷宮時計としての性質
>壊れてはいるが一般的な迷宮時計の機能は備えている。
>また、「確かな自我を持ち所有者を全力でサポートする」というこの迷宮時計特有の個性を持つ。
>(ワカバウツキ キャラクター説明より)

――――それは“壊れた迷宮時計”。
――――受肉した迷宮時計。

シリアルナンバー13。
平和を願う愚鈍な亀の意志を受け継ぎ、システムの一部でありながらシステムの破壊を目論む叛逆の迷宮時計。
鈍亀の意志を継ぐ者。
鈍亀の継嗣(けいし)。

それの名は――――「ワカバ ウツキ」

「いくよっ! 迷宮時計の秘密・その666!
いざッ! 決戦のバトルフィールドへ!!」

叛逆の迷宮時計が猛った。




■18:レギュレーション確認■『いざ、尋常に――――(4/4)』■

【対戦カード】
迷宮時計ナンバー13“ワカバウツキ” vs 迷宮時計ナンバー4“no name”

【重要】
○試合会場:決戦のバトルフィールド
○勝利条件:相対する迷宮時計を倒す

【フィールド説明】
○意志と迷宮時計の力のみが作用するフィールド
○このフィールドでの戦闘中、時間は経過しない




■19:決戦のバトルフィールド■『いざ、尋常に――――(4/4)』■

悪夢のような空間で両者は対峙する。
そこはどこでもあってどこでもない空間。

東京湾が空に浮かび、朽ちた希望崎学園校舎が砂から顔を出し、永久凍土が模様のように風景に寒色を添える。
宙に舞うのは、包帯、折れた剣、毒々しい色の植物。

「……ふぅー、アナタには本当に困らされました」

ウツキが虚空に向かって口を開いた。

「転送時に対戦相手を二人とも冥王星の軌道まで押し上げて、戦わずして勝つつもりだったのに……」

ウツキの左側に、若い男が出現する。
男は拳を構え、体内でビートを刻む。

「あっ!それにアナタ! オレがツマランナーさんから『降参』を引き出そうと必死こいてる時に、邪魔しようとしましたね!」

>(戦闘空間内において「迷宮時計所有者」は、現実世界と異なり、時計の所有権放棄=降参が可能である)
ツマランナーの迷宮時計“no name”は、ウツキが迷宮時計所有者でないことを伝えようとしていた。

ウツキの右側に、若い女性が出現する。
女はエレキギターを高く掲げる。
エレキ北辰一刀流の流れを汲む構え。

「もー! だめじゃないですかー!
公平な立場であるべき迷宮時計が特定の誰かに肩入れするだなんてー!」

口をとがらせるウツキ。

ウツキの正面に、梅田のアークエンジェルが出現する。

天使は「モア」と唱えた。ウツキの体がくの字に曲がり、口から大量の血と臓物が噴出する。
女はギターを振り下ろした。ギターは正中線を綺麗に通り、ウツキを縦に両断する。
男は、秒間32発の拳を放った。辛うじて形を保っていたウツキがひき肉になる。

――――「ギャハッ」

存在しない口でワカバウツキは笑った。

「無駄」

男が消える。

「無駄!」

女が消える。

「無駄ッ!!」

天使が消える。

「ギャハハハハハハ!」

何事もなかったかのように元の姿をとり戻したウツキの手にはキッチンタイマーが握られていた。
それは本葉柔の迷宮時計。
それをワカバウツキは胸に押し付けた。

二つの迷宮時計が統合される。

瞬間、彼女の背後に巨大な時計盤が浮かんだ。

「“この迷宮時計(オレ)”はね、“この迷宮時計(ワカバウツキ)”の意志で、“この迷宮時計(オレ自身)”のために戦ってるんだ」

その地球をモチーフにデザインされた巨大な時計盤にはウサギとカメの意匠が施された長針と短針。
3時20分を刻んだまま、二つの針は静止している。

「だから、残留思念――部外者の力なんかでは決して倒されない」

白いモヤのような人型が出現する。
それは名も無き迷宮時計の希薄な“意識”とでも呼ぶべき存在。

――――ああ、そうだ。それが見たかった。

ワカバウツキの左手首が額へと添えられ、彼女は目を閉じた。
その腕には愛しき人の形見が巻かれている。

白きモヤはその内で32ビートの熱き鼓動を刻みはじめた。
虚空より出現したエレキギターを掴み、頭上に構える。
メキメキと純白の翼が背から生える。

ガチリと、ウツキの背後の時計盤の「短針」が時刻を刻んだ。

それが戦闘開始の合図。

いざ、尋常に――――




■20:____■『いざ、尋常に――――(4/4)』■

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AD2044 成金氏豪邸 はなれの和室


「うううううっ! つかれたー!!」

そう言って、少女は畳に体を預けた。
傍には完全な状態の幼女型対魔人ヒューマノイド。

【迷宮時計の秘密 その14】
【戦闘空間における時間経過や負傷は、現実世界には持ち込まれない】

ワカバウツキはこの戦いを反省する。

『……ほんまに降参するんやな?』というツマランナーの発言の中の「降参」というワードだけを拾い上げ、文脈を無視して無理やり「降参負け」を適用することで、辛くも掴んだ勝利だ。
ゴリ押しにもほどがある。
こんなやり方が通用するのは格下の迷宮時計に対してのみである。

――――お幸なら、もっと上手くやったに違いない。
――――次はもっとスマートに勝とう。

ウツキはそう固く誓った。

ぐううと18時1分を知らせる腹の音が鳴った。

「うううっ! おなかすいたー!
……コ~ウ~、リンゴ食べよっ?」

【迷宮時計所有者:魔人ヒューマノイド コウ】
【所有時計:ワカバウツキ(タイプ・腹時計)】

【初戦勝利:迷宮時計9個を吸収】